説明

作業用車輌

【課題】旋回操作時に、操作手段の操作量に対応した回転半径が得られるようにした作業用車輌を提供する。
【解決手段】左右のサイドクラッチ47L、47Rの接続により直進回転を伝達し、前記左右のサイドクラッチ47L、47Rの一方を接続しかつ他方を解放すると共に前記旋回クラッチ装置50を接続することにより前記旋回用伝動経路を介して前記解放される側の前記左又は右の走行装置2L、2Rに旋回回転を伝達する。前記直進回転を検出する回転センサ43と、前記旋回伝動経路の旋回回転を検出する回転センサ56とを設け、前記各回転センサ43、56により検出した回転数に基づき旋回比を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等クローラ式の走行装置を備えた作業用車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
一対のクローラ式の走行装置を備え、該走行装置を駆動して直進走行、旋回操作を行う作業用車輌においては、マルチステアリングレバー等の操作手段を一定量操作した時の作業用車輌の旋回半径が異なることがある。操作手段の操作量と作業用車輌の旋回半径のバラツキを無くし安定した操作が行えるようにするものとして、左右の操向クラッチに回転数検出手段を配置し、該回転数検出手段の出力を制御装置にフィードバックして操作手段の操作時における作業用車輌の旋回半径のバラツキを修正するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−196098号公報(第5頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記作業用車輌においては、走行装置の車軸近傍に配置され、比較的回転数が低くなる走行クラッチ軸に回転数検出手段が配置されているので、回転数検出手段の応答性が低下し、十分な制御を行うことができないことがあった。
【0005】
前記の事情にかんがみ、本発明は、旋回操作時に、操作手段の操作量に対応した回転半径が得られるようにした作業用車輌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、請求項1に係る本発明は、エンジン(6)の回転をトランスミッション(35)を介して左右の走行装置に伝達してなる作業用車輌において、
前記トランスミッション(35)は、
変速装置(40)と、
該変速装置(40)の伝動下流側に配置される左右のサイドクラッチ(47L、47R)と、
前記変速装置(40)の伝動下流側でかつ前記左右のサイドクラッチ(47L、47R)の伝動上流側の回転から分岐され、かつ旋回クラッチ(50)を介在して1個の合流回転要素(61c)に出力される旋回用伝動経路と、
前記左走行装置(2L)に連結する第1の回転要素(61a)、前記右走行装置(2R)に連結する第2の回転要素(61b)及び前記合流回転要素(61c)に連結する第3の回転要素(61d)を有し、前記第3の回転要素(61d)と、第1の回転要素(61a)又は第2の回転要素(61b)の何れか一方の回転を合成して、第1の回転要素(61a)又は第2の回転要素(61b)の何れか他方に伝達する遊星歯車装置(60)と、を備え、
前記左右のサイドクラッチ(47L、47R)の接続により直進回転を伝達し、前記左右のサイドクラッチ(47L、47R)の一方を接続しかつ他方を解放すると共に前記旋回クラッチ(50)を接続することにより前記旋回用伝動経路を介して前記解放される側の前記左又は右の走行装置(2L、2R)に旋回回転を伝達してなり、
前記変速装置(40)の伝動下流側でかつ前記左右のサイドクラッチ(47L、47R)の伝動上流側の回転数を検出するように配置された第1の回転数検出手段(43)と、
前記旋回クラッチ(50)の伝動下流側でかつ前記遊星歯車装置(60)の伝動上流側の回転数を検出するように配置された第2の回転数検出手段(56)と、を備え、
前記第1及び第2の回転数検出手段(43)(56)により検出された回転数に基づき、前記左右の走行装置(2L)(2R)の回転数の比である旋回比を検出する、
ことを特徴とする作業用車輌にある。
【0007】
請求項2に係る本発明は、左右方向の操作により前記左又は右サイドクラッチ(47L、47R)を切り操作し、かつその操作量により前記旋回クラッチ(50)の伝動トルク容量を操作する操作手段(26)を備え、
前記操作手段(26)の操作方向を検出することに基づき、前記旋回比が左右何れの方向の旋回比であるかを判断してなる、
請求項1記載の作業用車輌にある。
【0008】
なお、前記した括弧内の符号等は、図面を参照するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る本発明によると、作業用車輌は、直進回転を検出する第1の回転数検出手段と、旋回伝動経路の旋回回転を検出する第2の回転数検出手段とを備え、前記第1及び第2の回転数検出手段により検出した回転数に基づき旋回比を検出するようにしたので、車速等の検出のため必要である第1の回転数検出手段の外に、第2の回転数検出手段を新たに加えるだけで、旋回比を検出することが可能となり、簡単な構成でもって、操作手段の操作に対する応答性を向上させ、操作手段の操作量に対応した回転半径が得られるようにした作業車輌を提供することができる。
【0010】
更に、前記第1の回転数検出手段を、変速装置の伝動下流側でかつ左右のサイドクラッチの伝動上流側の回転数を検出するように配置し、前記第2の回転数検出手段は、旋回クラッチの伝動下流側でかつ遊星歯車装置の伝動上流側の回転数を検出するように配置したので、走行装置の回転を比較的回転数の高い位置で検出することができ、制御の応答性を高くすることができる。また、回転数検出手段を高い位置に配置することができ、泥等の付着を防止することができる。
【0011】
請求項2に係る本発明によると、左右方向の操作により左又は右サイドクラッチを切り操作し、かつその操作量により旋回クラッチの伝動トルク容量を操作する操作手段を備え、前記操作手段の操作方向を検出することに基づき、前記第1及び第2の回転数検出手段による回転比が左右何れの方向の旋回比であるかを判断するようにしたので、従来から備わっている操作手段による左右旋回方向の検出手段を利用して、特別な検出手段を付加することなく、左右方向の旋回比を検出でき、簡単な構成でもって左右方向の旋回比をそれぞれ検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1乃至図8は、本発明の実施の形態を示すもので、図1は、コンバインの側面図、図2は、運転席を示す平面図、図3は、動力の伝動系統図、図4は、トランスミッションの斜視図、図5は、トランスミッションの右側面図、図6は、トランスミッションの左側面図、図7は、制御系統を示すブロック線図、図8は、旋回操作時における制御チャート図である。
【0014】
図1に示すように、作業用車輌であるコンバイン1は、左右一対の走行装置(クローラ走行装置)2R(2L)に支持された機体3を有している。前記機体3の上部には、走行方向右側前部にエンジン室5が配置され、該エンジン室5の内部にエンジン6(図3参照)が配置されている。前記エンジン室5の後部には、穀稈から脱穀された穀粒を一時的に貯留するためのグレンタンク7が配置され、該グレンタンク7の後部には、グレンタンク7に貯留された穀粒を運搬車輌等へ搬出するためのオーガ8が連結されている。
【0015】
前記機体3の前記グレンタンク7の左側には、穀稈から穀粒を脱穀するための脱穀装置(図示せず)が搭載され、該脱穀装置は、扱ぎ室、選別装置及び搬送装置等を備え、前記扱ぎ室内に配置された扱胴で脱穀された穀粒及び切れ藁等の中から選別された穀粒を前記搬送装置により前記グレンタンク7に搬入する。また、前記機体3の後部には、前記脱穀装置で穀粒が脱穀された排藁を裁断又は結束する排藁処理装置10が配置されている。
【0016】
前記機体3の前部には、前処理部11が昇降自在に支持されている。前記前処理部11は、その先端部に配置され穀稈の分草を行うデバイダ12と、該デバイダ12で分草された穀稈を引起す引起し装置(図示せず)を覆う引起しカバー13と、該引起し装置で引起された穀稈の株元側を切断する刈刃装置と、穀稈を掻き込む掻き込み装置15と、刈取られた穀稈を前記脱穀装置へ搬入するためのフィードチェーン(図示せず)に向けて搬送する間に、該脱穀装置に搬入される穀稈の穂先位置を調整するこぎ深さ搬送装置17等を備えている。前記グレンタンク7と前記前処理部11の間に位置するように前記コンバイン1を操作する運転席21が配置されている。
【0017】
図1、図2に示すように、前記運転席21には、前記エンジン室5の上方の前部に座席22が固定され、該座席22の前方には前面操作盤23が配置され、該座席22の左側には、側面操作盤25が配置されている。
【0018】
前記前面操作盤23には、複数の電装品と共に、前記コンバイン1の走行方向を操作するマルチステアリングレバー26が配置されている。また、前記側面操作盤25には、前記コンバイン1の前記各作業部を操作する各種レバーや複数の電装品と共に、該側面操作盤25に形成されたガイド溝27に沿って操作可能に支持された主変速レバー28と、前記側面操作盤25に形成されたガイド溝30に沿って操作可能に支持された副変速レバー31が配置されている。
【0019】
図3に示すように、前記エンジン6の出力を前記走行装置2L、2Rに伝達するトランスミッション35は、前記機体3の下部に、前記走行装置2L、2Rの間に位置するように配置されている。前記トランスミッション35は、主変速装置を構成する走行HST(油圧式無段変速装置)36と、副変速装置40、サイドクラッチ装置45、旋回クラッチ装置50と、遊星歯車装置60とを備えている。
【0020】
前記走行HST36の入力軸36aに固定されたプーリ36bと前記エンジン6の出力軸6aに固定されたプーリ6bとは、ベルト37で連結され、前記エンジン6の動力が走行HST36に伝達される。前記HST36の出力軸36cは、前記副変速装置40の入力軸を兼ねており、その一端には、歯車36dが固定されている。中間軸38には、前記歯車36dと噛合う歯車38aが固定されている。
【0021】
前記副変速装置40の第1変速軸41には、前記歯車38aと噛合う入力歯車41aが固定されている。また、前記第1変速軸41には、歯数の異なる2個の変速歯車41b、41cが所定の間隔で回転自在に支持されている。前記変速歯車41bと変速歯車41cの間には、前記副変速レバー31の操作により前記変速歯車41b、41cの何れかを選択して、前記第1変速軸41に結合させる結合クラッチ41dが摺動自在に配置されている。
【0022】
前記変速装置40の第2変速軸42には、前記変速歯車41b、41cと常時噛合する歯車42a、42bが固定されている。前記変速歯車42bは、入力された動力を下流側へ伝達する第1の出力歯車を兼ねている。また、前記第2変速軸42には、入力された動力を下流側へ伝達する第2の出力歯車42cが固定されている。さらに、前記第2変速軸42の一端には、直進回転を検出する回転センサ(第1の回転数検出手段)43が結合されている。
【0023】
前記サイドクラッチ装置45は、サイドクラッチ軸46を有し、該サイドクラッチ軸46には、その中央部に前記出力歯車42cと常時噛合うセンタ歯車46aが固定され、両端部には、歯車46b、46cを回転及び摺動自在に支持している。前記センタ歯車46aと前記歯車46bとの対向面には、左サイドクラッチ47Lが配置され、前記センタ歯車46aと前記歯車46cとの対向面には、右サイドクラッチ47Rが配置されている。
【0024】
左右一対の駆動軸48L、48Rには、それぞれ前記歯車46b又は歯車46cと噛合う駆動軸歯車48a、48bが固定されている。前記駆動軸48L、48Rは前記左右の走行装置2L、2Rに連結されている。従って、前記左右一対のサイドクラッチ47L、47Rを接合状態にすると、前記駆動軸48L、48Rは同方向に同速度で回転し、前記走行装置2L、2Rを駆動するので、前記コンバイン1は直進走行することになる。
【0025】
即ち、前記副変速装置40の前記第2変速軸42、歯車42c、前記クラッチ装置45のセンタ歯車46a、左右のサイドクラッチ47L、47R、歯車46b、46cは、前記駆動軸歯車48a、48b及び前記駆動軸48L、48Rを介して前記左走行装置2L、右走行装置2Rに動力を伝達する直進用伝動経路を形成している。
【0026】
前記旋回クラッチ装置50は、クラッチ軸51を有している。前記クラッチ軸51の中央部には、前記歯車42bと噛合う歯車51aが固定されている。また、前記クラッチ軸51の一端には、緩旋回用クラッチ52が配置されている。前記緩旋回用クラッチ52のクラッチケース52aは、前記クラッチ軸51に回転自在に遊嵌し、前記クラッチ軸51に回転自在に遊嵌するクラッチ歯車52bと一体に結合されている。また、前記クラッチ軸51の他端には、急旋回用(スピン旋回用)クラッチ53が配置されている。前記急旋回用クラッチ53のクラッチケース53aは、前記クラッチ軸51に回転自在に遊嵌し、前記クラッチ軸51に回転自在に遊嵌するクラッチ歯車53bと一体に固定されている。なお、前記クラッチ軸51の一端には、駐車ブレーキ操作アーム58が配置されている。
【0027】
中間軸55には、前記クラッチ歯車52bと噛合う歯車55aと、前記クラッチ歯車53bと噛合う歯車55b及び歯車55cが固定されている。また、前記中間軸55の一端には、前記中間軸の回転を検出する回転センサ(第2の回転数検出手段)56が結合されている。
【0028】
前記遊星歯車装置60は、それぞれ傘歯車からなる左右のサイドギヤ及びセンタギヤを有する差動歯車装置からなり、遊星歯車軸61と、該遊星歯車軸61に回転自在に支持され、前記駆動軸48Lの駆動歯車48aと噛合い前記左走行装置2Lに連結される歯車(第1の回転要素)61aと、前記遊星歯車軸61に回転自在に支持され、前記駆動軸48Rの駆動歯車48bと噛合い前記右走行装置2Rに連結される歯車(第2の回転要素)61bと、前記歯車61aと前記歯車61bの連結するように配置されたプラネタリピニオンギヤ(センタギヤ;合流回転要素)61cに、前記中間軸55の歯車55cと噛合うように固定された歯車(第3の回転要素)61dを備えている。
【0029】
従って、前記サイドクラッチ装置45の左サイドクラッチ47L(もしくは右サイドクラッチ47Rの何れか一方)を接合し、他方を切離した状態で、前記旋回クラッチ装置50の緩旋回用クラッチ52(もしくは急旋回用クラッチ53の何れか一方)を接合すると、前記副変速装置40の第2変速軸42の歯車42bと噛合う歯車51aによって回転しているクラッチ軸51と歯車52b(もしくは歯車53b)が一体となって回転し、前記歯車55a(もしくは歯車55b)、前記中間軸55、歯車55c及び歯車61dを介して前記遊星歯車装置60のプラネタリピニオンギヤ61cを回転駆動させる。
【0030】
前記遊星歯車装置60では、前記左サイドクラッチ47L(もしくは右サイドクラッチ47R)から前記歯車46b(もしくは歯車46c)及び前記駆動歯車48a(もしくは駆動歯車48b)を介して前記歯車61a(もしくは歯車61b)に伝達された回転と、前記クラッチ装置50のクラッチ歯車52b(もしくはクラッチ歯車53b)から前記歯車55a(もしくは歯車55b)、中間軸55、歯車55c及び歯車61dを介して前記プラネタリピニオンギヤ61cに伝達された回転を合成して、前記歯車61b(もしくは歯車61a)を回転させる。
【0031】
前記歯車61b(もしくは歯車61a)を回転は、前記駆動歯車48b(もしくは48a)を介して駆動軸48R(もしくは駆動軸48R)に伝達され、前記右走行装置2R(もしくは左走行装置2L)を、前記左走行装置2L(もしくは右走行装置2R)と異なる速度で同方向(もしくは異なる方向)へ駆動して、前記コンバイン1の旋回を行う。
【0032】
即ち、前記副変速装置40の前記第2変速軸42、歯車42b、歯車42c、前記クラッチ装置45、前記旋回クラッチ装置50、前記中間軸55、歯車55a、歯車55b、歯車55c及び前記遊星歯車装置60は、旋回用伝動経路を形成している。
【0033】
図4、図5及び図6に示すように、前記トランスミッション35の上部には、前記走行HST36が固定され、その入力軸36aの一端に固定されたプーリ36bを介して前記エンジン6の動力が入力される。また、前記トランスミッション35には、前記出力軸36cと、前記中間軸38と、前記第1変速軸41及び第2変速軸42が配置され、該第2変速軸42に前記回転センサ43が連結されている。
【0034】
また、前記トランスミッション35には、前記サイドクラッチ軸46と、前記クラッチ軸51と、前記中間軸55と、前記遊星歯車軸61と、前記左右の駆動軸48L、48Rが配置され、前記中間軸55に前記回転センサ56が連結されている。
【0035】
図7に示すように、制御装置65は、マイコン(マイクロコンピュータ)で構成される制御部66を備え、その入力側には、前記マルチステアリングレバー26に付設され、その操作方向と操作量を検出するポテンショメータ67と、前記コンバイン1の急旋回を行うための急旋回スイッチ68と、前記回転センサ43及び前記回転センサ56が接続されている。なお、上記急旋回スイッチ68は、副変速レバー31の操作ノブに設けられた押ボタンスイッチである。
【0036】
前記制御部66の出力側には、前記急旋回スイッチ68の操作により前記コンバイン1が急旋回モードになったことを表示する急旋回ランプ70と、前記サイドクラッチ装置45の左右のサイドクラッチ47L、47Rの接続、切離しを行うサイドクラッチ電磁弁(図示せず)を駆動するソレノイド71L、71Rと、前記緩旋回用クラッチ52を作動させるための電磁比例弁72と前記急旋回用クラッチ53を作動させるための電磁比例弁76の何れかを選択するリレー73と、前記各電磁比例弁72、76に印加する電流を制御するドライバ75が接続されている。
【0037】
前記の構成において、前記コンバイン1の走行時に操作される前記マルチステアリングレバー26の操作角度が図8に示す0からAまでの間では、前記サイドクラッチ電磁弁の前記ソレノイド71L、71RはOFFの状態で、前記左右のサイドクラッチ47L、47Rが共に接続された状態で、前記左右の走行装置2L、2Rが等速で駆動され、前記コンバイン1の直進走行状態が維持される。
【0038】
前記マルチステアリングレバー26の操作角度が図8に示すAを越えると、前記サイドクラッチ電磁弁の前記ソレノイド71L(もしくはソレノイド71R)がOFFからONになり、前記コンバイン1の旋回内側の前記左サイドクラッチ47L(もしくは右サイドクラッチ47R)が切離され、旋回内側となる前記左走行装置2L(もしくは右走行装置2R)は空転する。このとき、前記コンバイン1はその慣性により直進方向に走行する。
【0039】
前記マルチステアリングレバー26の操作量が図8に示すBを越えると、前記電磁比例弁72が作動して前記緩旋回用クラッチ52が接続する。この際、旋回用クラッチ52は、図8のB〜C間では、電磁比例弁72の出力に基づき、そのトルク容量が徐々に増加し、該緩旋回用クラッチ52の歯車52bを徐々に変速する。前記歯車52bの回転は、前記歯車55a、中間軸55、歯車55c及び前記歯車61dを介して前記遊星歯車装置60のプラネタリピニオンギヤ61cに伝達される。
【0040】
この時、前記制御部66は、前記回転センサ43から印加される回転数と、前記回転センサ56から印加される回転数に基づいて、左右の走行装置2L,2Rの回転数の比である旋回比を検出し、前記ドライバ75に出力する。前記ドライバ75は、前記回転センサ43の出力と前記制御部66で検出した旋回比から前記旋回比が前記マルチステアリングレバー26の操作位置に対応するように前記電磁比例弁72を駆動する。
【0041】
前記遊星歯車装置60は、前記クラッチ装置45の右サイドクラッチ47R(もしくは左サイドクラッチ47L)から歯車61b(もしくは歯車61a)に伝達される動力で回転しており、該回転と前記歯車61dから前記プラネタリピニオンギヤ61cに伝達された回転を合成した回転を前記歯車61a(もしくは歯車61b)から前記駆動歯車48L(もしくは48R)を介して前記左駆動軸48L(もしくは右駆動軸48R)へ出力し、前記左走行装置2L(もしくは右走行装置2R)を駆動する。
【0042】
図8のC(マルチステアリングレバー26のデテント位置)の手前で前記緩旋回用クラッチ52が完全に接続されると、旋回内側の前記左走行装置2L(もしくは右走行装置2R)はさらに減速されるが、前記左走行装置2L、(もしくは右走行装置2R)が停止することはない。
【0043】
前記急旋回スイッチ68が操作されると、前記マルチステアリングレバー26の操作により前記急旋回用クラッチ53と前記電磁比例弁76が作動する。この時、前記緩旋回用クラッチ52と前記電磁比例弁72は、非作動状態で維持されている。即ち、前記急旋回用クラッチ53と前記緩旋回用クラッチ52は、別個に切換え接続される。
【0044】
そして、前記マルチステアリングレバー26の操作位置が図8のCの直前の位置を越えると前記左走行装置2L(もしくは右走行装置2R)が逆転して、前記コンバイン1を急旋回させることができる。
【0045】
前記のように、直進回転と旋回回転を比較的回転数の高い位置で検出することにより、前記回転センサ43及び回転センサ56により検出した回転数に基づき旋回比を検出するようにしたので、前記マルチステアリングレバー26の操作量に対応した回転半径を得ることができる。
【0046】
また、前記回転センサ43を、前記副変速装置40の伝動下流側でかつ前記左右のサイドクラッチ47L、47Rの伝動上流側の回転数を検出するように配置し、前記回転センサ56を、前記旋回クラッチ装置50の伝動下流側でかつ前記遊星歯車装置60の伝動上流側の回転数を検出するように配置したので、前記左右の走行装置2L、2Rの回転を比較的回転数の高い位置で検出することができ、制御の応答性を高くすることができる。また、前記各回転センサ43、56を高い位置に配置することができ、泥等の付着を防止することができる。
【0047】
また、左右方向の操作により前記左又は右サイドクラッチ47L、47Rを切り操作し、かつその操作量により前記旋回クラッチ装置50の伝動トルク容量を操作する前記マルチステアリングレバー26を備え、前記マルチステアリングレバー26の操作方向を検出することに基づき、前記各回転センサ43、56による回転比が左右何れの方向の旋回比であるかを判断するようにしたので、旋回方向に拘らず、確実に回転数の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】運転席を示す平面図である。
【図3】動力の伝動系統図である。
【図4】トランスミッションの斜視図である。
【図5】トランスミッションの右側面図である。
【図6】トランスミッションの左側面図である。
【図7】制御系統を示すブロック線図である。
【図8】旋回操作時における制御チャート図である。
【符号の説明】
【0049】
1 作業用車輌(コンバイン)
2L 左走行装置
2R 右走行装置
6 エンジン
26 操作手段(マルチステアリングレバー)
35 トランスミッション
43 第1の回転数検出手段(回転センサ)
40 変速装置(副変速装置)
47L 左サイドクラッチ
47R 右サイドクラッチ
50 旋回クラッチ(旋回クラッチ装置)
56 第2の回転数検出手段(回転センサ)
60 遊星歯車装置
61a 第1の回転要素(歯車)
61b 第2の回転要素(歯車)
61c 合流回転要素(プラネタリピニオンギヤ)
61d 第3の回転要素(歯車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転をトランスミッションを介して左右の走行装置に伝達してなる作業用車輌において、
前記トランスミッションは、
変速装置と、
該変速装置の伝動下流側に配置される左右のサイドクラッチと、
前記変速装置の伝動下流側でかつ前記左右のサイドクラッチの伝動上流側の回転から分岐され、かつ旋回クラッチを介在して1個の合流回転要素に出力される旋回用伝動経路と、
前記左走行装置に連結する第1の回転要素、前記右走行装置に連結する第2の回転要素及び前記合流回転要素に連結する第3の回転要素を有し、前記第3の回転要素と、第1の回転要素又は第2の回転要素の何れか一方の回転を合成して、第1の回転要素又は第2の回転要素の何れか他方に伝達する遊星歯車装置と、を備え、
前記左右のサイドクラッチの接続により直進回転を伝達し、前記左右のサイドクラッチの一方を接続しかつ他方を解放すると共に前記旋回クラッチを接続することにより前記旋回用伝動経路を介して前記解放される側の前記左又は右の走行装置に旋回回転を伝達してなり、
前記変速装置の伝動下流側でかつ前記左右のサイドクラッチの伝動上流側の回転数を検出するように配置された第1の回転数検出手段と、
前記旋回クラッチの伝動下流側でかつ前記遊星歯車装置の伝動上流側の回転数を検出するように配置された第2の回転数検出手段と、を備え、
前記第1及び第2の回転数検出手段により検出された回転数に基づき、前記左右の走行装置の回転数の比である旋回比を検出する、
ことを特徴とする作業用車輌。
【請求項2】
左右方向の操作により前記左又は右サイドクラッチを切り操作し、かつその操作量により前記旋回クラッチの伝動トルク容量を操作する操作手段を備え、
前記操作手段の操作方向を検出することに基づき、前記旋回比が左右何れの方向の旋回比であるかを判断してなる、
請求項1記載の作業用車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−174199(P2008−174199A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12025(P2007−12025)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】