説明

作業車の伝動装置

【課題】ブレーキペダルとPTOクラッチとの入り切りを連係させるにあたって、確実に機体の走行停止後にPTOクラッチの切り操作が行われ、PTOクラッチの入り操作後に走行停止の解除が行われるようにする。
【解決手段】ブレーキペダル41に対して停止操作機構23とPTOクラッチ24とを連係させてあり、ブレーキペダル41の踏み込み側への操作では、走行の停止が検出された後にPTOクラッチ24が切り操作され、ブレーキペダル41の踏み込み解除側への操作では、走行が開始される前にPTOクラッチ24の入り操作が行われるように操作タイミングを設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系の伝動装置と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系の伝動装置とを備えるとともに、機体の走行を停止操作するための制動操作具を備えた作業車の伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業車の伝動装置としては、下記の構造のものが従来より知られている。
[1] 制動操作具であるブレーキペダルを踏み込み操作して、走行用の変速装置を停止状態にするとともに、作業装置駆動系のPTOクラッチを切り側へ操作してPTO軸の駆動も停止するようにしている。そして、再び耕耘作業を開始するときには、ブレーキが利いている状態のままでブレーキペダルを少し戻すとPTOクラッチが自動的に入れられてロータリ耕耘装置がゆっくりと回転を開始することになり、回転するロータリ耕耘装置を下降させて圃場に突入させ、所望の耕深まで下降したら、ブレーキペダルをさらに戻して制動を完全に解除し、所望の耕深状態で前進走行に移行することができるようにしたもの。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2008−137436号公報(段落番号0028、0029、0035、0037、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記[1]に示す従来構造のものでは、例えば、トラクタ本機の後部にロータリ耕耘装置を連結してPTO軸で駆動する耕耘作業において、耕耘作業中に走行停止を行う場合、ブレーキペダルを踏み込み操作して走行停止操作を行なった後に自動的にPTOクラッチが切られるので、回転駆動されるロータリ耕耘装置によってトラクタ本機が押されて停止距離が長くなることを回避することができる点で有用なものである。
そして、作業を再開する際には、ブレーキペダルを少し戻して走行が停止している状態を維持するように操作しながらPTOクラッチが自動的に入れられ、所望の耕深まで下降させてから前進走行に移行することができるようにしたものであるから、圃場の端部から作業を開始する際にも、別途変速操作などを必要とせず、ブレーキペダルの操作を行うだけで、最初から所望の耕深で耕耘作業を行うことができ、残耕部分を少なくできる便利さもある。
【0005】
上記従来構造のものでは、ブレーキぺダルとPTOクラッチとを連係させて、ブレーキペダルの操作に伴って自動的にPTOクラッチが切られるように構成してあるが、圃場に傾斜があるとか、機体の走行速度の影響などにより、機体停止のタイミングとPTOクラッチの切りタイミングとが、必ずしも、機体停止後にクラッチが切られるという関係にならない場合がある。
このようにロータリ耕耘装置を備えた機体が停止する前にPTOクラッチが切り操作されてしまったり、PTOクラッチの入り操作前に機体が走行を始めてしまうと、圃場に残耕部分が多く残って後処理作業が面倒になる不具合があり、この点で改善の余地がある。
特に、ブレーキペダルを急速に踏み込み、あるいは一気に踏み込み解除操作すれば、機体停止のタイミングとPTOクラッチの切りタイミングとの時間差が短くなるので、上記の機体停止後のPTOクラッチ切り、あるいはPTOクラッチ入り後の機体発進のタイミングが逆転する可能性が高まる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、機体の走行停止を行うためのブレーキペダルの操作で自動的にPTOクラッチの入り切りを行うにあたって、確実に機体の走行停止後にPTOクラッチの切り操作が行われ、PTOクラッチの入り操作後に走行停止の解除が行われるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備えるとともに、制動操作用のブレーキペダルを備えた作業車の伝動装置であって、
前記走行駆動系に走行装置への動力伝達を断続することが可能な停止操作機構を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備え、
前記ブレーキペダルに対して前記停止操作機構とPTOクラッチとは、前記ブレーキペダルの踏み込み操作に伴って、前記停止操作機構を動力伝達停止位置に操作するとともにPTOクラッチを切り操作し、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に伴って、前記PTOクラッチの入り操作が行われるように連係させてあり、かつ、前記ブレーキペダルの踏み込み側への操作では、走行の停止が検出された後にPTOクラッチが切り操作され、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作では、走行が開始される前に前記PTOクラッチの入り操作が行われるように操作タイミングを設定してあることを特徴とする。
【0008】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明の作業車の伝動装置では、ブレーキペダルの踏み込み側への操作に際しては、走行の停止が検出された後にPTOクラッチを切り操作し、ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に際しては、走行が開始されていないことを検出して、PTOクラッチの入り操作を行われるように、前記停止操作機構とPTOクラッチとの操作タイミングを設定している。
したがって、ブレーキペダルの踏み込み側への操作に際しては、走行停止状態であることが検出された状態でPTOクラッチの切り操作が行われ、ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に際しては、走行停止状態であることが検出された状態でPTOクラッチの入り操作が行なわれるので、機体走行とPTOクラッチとの作動関係を常に適切なタイミングに設定できる利点がある。また、ブレーキペダルを急速に踏み込み、あるいは一気に踏み込み解除操作しても、上記の適切なタイミングを維持できる利点がある。
これにより、例えば、外部動力取り出し軸によって駆動される作業装置がロータリ耕耘装置であれば残耕の少ない作業を行うことができ、作業装置がモーアであれば、草の引きちぎりや未刈部分の生じる虞の少ない作業を行える利点がある。
【0009】
〔解決手段2〕
本発明の作業車の伝動装置における第2の解決手段は、請求項2の記載のように、エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備えるとともに、制動操作用のブレーキペダルを備えた作業車の伝動装置であって、
前記走行駆動系に走行装置への動力伝達を断続することが可能な停止操作機構を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備え、
前記ブレーキペダルに対して前記停止操作機構とPTOクラッチとは、前記ブレーキペダルの踏み込み操作に伴って、前記停止操作機構を動力伝達停止位置に操作するとともにPTOクラッチを切り操作し、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に伴って、前記PTOクラッチの入り操作が行われるように連係させてあり、かつ、前記ブレーキペダルの踏み込み側への操作では、前記停止操作機構が動力伝達停止位置に操作されてから所定時間が経過した後にPTOクラッチが切り操作され、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作では、前記PTOクラッチの入り操作が開始されてから所定時間が経過した後に停止操作機構による動力伝達停止状態が解除されるように、操作タイミングを設定してあることを特徴とする。
【0010】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段2にかかる本発明の作業車の伝動装置では、ブレーキペダルの踏み込み側への操作に際しては、停止操作機構が動力伝達停止位置に操作されてから所定時間が経過した後にPTOクラッチを切り操作し、ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に際しては、PTOクラッチの入り操作が開始されてから所定時間が経過した後に停止操作機構による動力伝達停止状態が解除されるように停止操作機構とPTOクラッチとの操作タイミングを設定している。
したがって、ブレーキペダルの踏み込み側への操作に際しては、停止操作機構が動力伝達停止位置に操作されてから所定時間が経過して、走行停止状態である可能性が十分に高い状態でPTOクラッチの切り操作が行われ、ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に際しては、PTOクラッチの入り操作が開始されてから所定時間が経過してから停止操作機構による動力伝達停止状態を解除するので、機体走行とPTOクラッチとの作動関係を常に適切なタイミングに設定できる利点がある。また、ブレーキペダルを急速に踏み込み、あるいは一気に踏み込み解除操作しても、上記の適切なタイミングを維持できる利点がある。
これにより、例えば、外部動力取り出し軸によって駆動される作業装置がロータリ耕耘装置であれば残耕の少ない作業を行うことができ、作業装置がモーアであれば、草の引きちぎりや未刈部分の生じる虞の少ない作業を行える利点がある。
【0011】
〔解決手段3〕
本発明の作業車の伝動装置における第3の解決手段は、請求項3の記載のように、ブレーキペダルとPTOクラッチとの連係を断続可能な切換スイッチを備えたことを特徴とする。
【0012】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段3にかかる本発明の作業車の伝動装置では、ブレーキペダルとPTOクラッチとの連係を断続可能な切換スイッチを備えているので、この連係が必要でない場合、つまり、外部動力取り出し軸に作業装置を連結しない場合や、外部動力取り出し軸に作業装置を連結していても、作業装置を常時連続駆動して駆動の断続操作が必要でないような場合には、PTOクラッチの制御を行わない状態で用いることができる。
したがって、外部動力取り出し軸に連結される作業装置に適した駆動状態を選択して用いることができる利点がある。また、無駄な制御が行われることによる作業能率の低下を回避できる利点がある。
【0013】
〔解決手段4〕
本発明の作業車の伝動装置における第4の解決手段は、請求項4の記載のように、外部動力取り出し軸の回転を検出するPTO軸センサーを設け、外部動力取り出し軸が回転しているときにのみ、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにしたことを特徴とする。
【0014】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段4にかかる本発明の作業車の伝動装置では、外部動力取り出し軸が実際に回転しているか否かを検出した上で、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにしたものであるから、ブレーキペダルに対する停止操作機構とPTOクラッチとの連係作動が必要なときにだけ、その連係作動を行わせることができ、無駄な制御動作を省くことができる。
したがって、外部動力取り出し軸に作業装置を連結した状態のままでも、作業装置を使用する必要がないときには外部動力取り出し軸の駆動を止めて、同時に前記連係動作も行わない状態に切り換えることができ、無駄な制御が行われることによる作業能率の低下を回避できる利点がある。
【0015】
〔解決手段5〕
本発明の作業車の伝動装置における第5の解決手段は、請求項5の記載のように、PTOクラッチの接続状態を検出するPTOクラッチセンサーを設け、前記PTOクラッチが入り状態であるときにのみ、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにしたことを特徴とする。
【0016】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段4にかかる本発明の作業車の伝動装置では、PTOクラッチが入り状態であるか否かを検出して、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにしたものであるから、ブレーキペダルに対する停止操作機構とPTOクラッチとの連係作動が必要なときにだけ、その連係作動を行わせることができ、無駄な制御動作を省くことができる。
したがって、外部動力取り出し軸に作業装置を連結した状態のままでも、作業装置を使用する必要がないときにはPTOクラッチを切って作業装置の駆動を止めることにより、同時に前記連係動作も行わない状態に切り換えることができ、無駄な制御が行われることによる作業能率の低下を回避できる利点がある。
【0017】
〔解決手段6〕
本発明の作業車の伝動装置における第6の解決手段は、請求項6の記載のように、前進走行状態を検出する前進検出センサーを設け、前進走行状態であるときにのみ、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにしたことを特徴とする。
【0018】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段6にかかる本発明の作業車の伝動装置では、作業車が前進走行状態であるか否かを検出して、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにしたものであるから、ブレーキペダルに対する停止操作機構とPTOクラッチとの連係作動が必要なときにだけ、その連係作動を行わせることができ、無駄な制御動作を省くことができる。
したがって、作業車が頻繁に前後進を繰り返して作業を行う作業形態で使用される場合に、実際に作業を行う前進走行時にのみ、ブレーキペダルに対する停止操作機構とPTOクラッチとの連係作動が行われ、作業を行わない後進走行時には前記連係作動を行わないようにして、無駄な制御が行われることによる作業能率の低下を回避できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】耕耘機仕様に構成されたトラクタを示す全体側面図である。
【図2】伝動系を示す線図である。
【図3】制御系を示すブロック図である。
【図4】サイドブレーキペダルの動作説明図である。
【図5】サイドブレーキの操作量とPTO圧力との関係を示す図表である。
【図6】サイドブレーキペダルの配置状態を示す平面図である。
【図7】静油圧式の無段変速装置の油圧回路図である。
【図8】別実施形態の制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔作業車の全体構成〕
図1に、本発明における伝動装置を備える作業車の一例であるところの、ロータリ耕耘機仕様に構成されたトラクタが示されている。
このトラクタは、前輪2および後輪3を備えた四輪駆動型のトラクタ本機1の後部にロータリ耕耘装置4を昇降自在に連結して構成されている。トラクタ本機1の車体は、エンジン5、主クラッチハウジング6、主変速ケース7、ミッドケース8、および、ミッションケース9を直列に直結したモノボディ型に構成されている。エンジン5に連結された前フレーム10に前車軸ケース11がローリング可能に支持され、この前車軸ケース11の左右に前輪2が操向操作可能に支持されるとともに、ミッションケース9の左右に後輪3が軸支されている。ミッションケース9の後部に、リフトアーム12によって駆動昇降されるリンク機構13が装備され、このリンク機構13にロータリ耕耘装置4が連結されている。
【0021】
〔伝動系の構成〕
図2に、トラクタ本機1における伝動系が示されている。エンジン5の出力は、主クラッチ15を経て主変速ケース7に備えられた入力軸16に伝達され、主変速ケース7に備えられた出力軸17から取り出された変速動力が、ギヤ式の副変速装置18で3段に変速された後、後部デフ装置19およびサイドブレーキ22を介して左右の後輪3に伝達される。副変速装置18で変速された走行系動力の一部がミッションケース9の下部から取り出されて、伝動軸20を介して前車軸ケース11に伝達され、前部デフ装置21を介して左右の前輪2に伝達される。
前記副変速装置18で変速された走行系の伝動軸の速度を検出する車速センサー60が、前記後部デフ装置19と前輪2側へ動力を伝える伝動軸20との分岐箇所近くに設けられている。
【0022】
主変速ケース7には静油圧式の無段変速装置(HST)23が内装されている。無段変速装置23は、アキシャルプランジャ式に構成された可変容量型の油圧ポンプ23Pと油圧モータ23Mとからなり、前記入力軸16によって定速で回転駆動される油圧ポンプ23Pにおける斜板角度を変更して、吐出される圧油の吐出方向および吐出量を変更することで、その圧油を受ける油圧モータ23Mの前記出力軸17を、正転あるいは逆転で無段階に回転作動させるよう構成されている。
【0023】
前記入力軸16は油圧ポンプ23Pを貫通して後方に延出され、この入力軸16に伝達された定速回転動力の一部が、ミッドケース8に内装されたPTOクラッチ24を経て更に後方に伝達され、ミッションケース9の後部に突設したPTO軸25(外部動力取り出し軸)から取り出されて、走行変速に関係なく定速のPTO動力でロータリ耕耘装置4が駆動される。このミッションケース9内には、前記PTO軸25が回転しているか否かを検出するPTO軸センサー49も内装されている。
【0024】
前記無段変速装置23(HST)は、油圧サーボ手段によって変速制御されており、その構成が図3及び図7に示されている。
無段変速装置23における油圧ポンプ23Pの斜板角度は、復動式のサーボシリンダ30によって正逆に変更操作可能に構成されるとともに、斜板角度がポテンショメータを利用した斜板角センサ31で検出されて制御装置32に入力される。サーボシリンダ30は、斜板角度を零にする中立位置に一対の復帰バネ33によって復帰付勢されるとともに、制御装置32に接続された前進用の比例制御弁34と後進用の比例制御弁35を介した油圧制御によってサーボシリンダ30が伸縮作動するようになっている。
【0025】
前記比例制御弁34,35は、通電制御されない状態においてサーボシリンダ30をタンクに連通する復帰位置に付勢されており、両比例制御弁34,35が共に復帰位置にある時、サーボシリンダ30が自由状態となって、無段変速装置23が中立に復帰するようになっている。ポンプ36から比例制御弁34,35への圧油供給径路にはリリーフ弁37が備えられ、油圧サーボ手段におけるシステム圧の最高圧が制限されている。
【0026】
〔変速操作系の構成〕
トラクタ本機1には変速操作具として変速ペダル38と変速レバー39が装備されている。変速ペダル38は運転座席14の足元右側に配備され、変速レバー39は運転座席14の左横側に配備されている。
変速ペダル38は、前後に踏み分け可能に構成され、かつ、図示されていないカム機構によって機械的に中立位置に復帰付勢されている。
この変速ペダル38の踏み込み位置がポテンショメータ40で検出されて制御装置32に入力されており、ポテンショメータ40で検出された変速ペダル38の踏み込み位置情報と、前記斜板角センサ31からのフィードバック情報、及び後述する停止操作ペダル60の作動を検出する停止操作検出スイッチ61の検出情報に基づいて、制御装置32に備えられたサーボ制御手段100により、比例制御弁34,35が作動制御される。
つまり、前記サーボ制御手段100では、ポテンショメータ40で検出された変速ペダル38の踏み込み方向および踏み込み量に応じてサーボシリンダ30を伸縮作動させるように比例制御弁34,35の作動を制御し、変速ペダル38の踏み込みに対応した斜板角度とすることにより、無段階の前進変速および後進変速を行なう。
そして、ポテンショメータ40が変速ペダル38の踏み込み解除を検出すると、比例制御弁34,35の作動を制御して変速ペダル38を中立位置に自動復帰させ、走行推進力の出力を断ち、走行を停止するように制御する。
【0027】
前記変速レバー39は変速ペダル38を前進変速方向にのみ片当たり操作可能に機械連係されるとともに、任意の操作位置に摩擦保持可能に支持されており、その変速レバー39の操作位置は、前記変速ペダル38の操作位置を検出するポテンショメータ40で検出される。変速レバー39を連係解除位置nに保持した状態では、変速レバー39と変速ペダル38との連係が解除され、変速ペダル38は前進域から後進域までの全域において踏み込み操作可能となる。
変速レバー39を図3に示す連係解除位置nから前方に操作するに連れて変速ペダル38が前方踏み込み方向(前進増速方向)に接当操作され、変速レバー39を前進変速域の任意の操作位置に摩擦保持することで、変速ペダル38の中立復帰が阻止されて任意の前進変速域に保持され、変速レバー39の操作位置に対応した任意の速度による定速前進走行が行われる。なお、変速レバー39によって変速ペダル38が前進変速域の中間位置に保持されている状態では、変速ペダル38をそれ以上の前進増速方向へ踏み込み操作することが許容され、踏み込みを解除すれば変速レバー39で設定した速度まで復帰するようになっている。
【0028】
〔走行制動とPTOクラッチとの連係構成〕
図6に示すように、変速ペダル38の近傍には、左右のサイドブレーキ22に各別にリンク連動された一対の制動操作具としてのブレーキペダル41が左右に並列して配備されるとともに、左右のブレーキペダル41はリンク機構42を介して作動アーム43に連動連結されている。
このリンク機構42は、片方のブレーキペダル41を走行停止方向である踏み込み方向に操作しただけでは作動アーム43が回動されることはなく、両ブレーキペダル41を同時に踏み込み操作した時だけ、その踏み込み量に応じた角度で作動アーム43が回動されるよう構成されており、この作動アーム43の回動角度がポテンショメータ44によって検出されて前記制御装置32に入力される。
【0029】
前記PTOクラッチ24は、油圧が印加されるとクラッチ入り作動し、油圧の印加が解除されるとバネ付勢力で切り操作される多板式の摩擦クラッチで構成されており、印加される油圧が前記制御装置32に接続された電磁式の比例制御弁45を介して制御されるようになっている。
運転座席14の右横側にはPTOクラッチレバー46が配備されており、このPTOクラッチレバー46の操作位置がPTO入切スイッチ47で検知されて、その検知情報が制御装置32に入力されている。また、制御装置32に対しては、PTOクラッチ24と左右のサイドブレーキ22とが連係作動する状態と、その連係作動を解除して、PTOクラッチ24と左右のサイドブレーキ22とが各々独立して作動する状態とに切換操作するための連係状態切換スイッチ48も接続されている。
制御装置32には、前記作動アーム43の回動角度を検出するポテンショメータ44と、PTO入切スイッチ47と、連係状態切換スイッチ48との検出情報に基づいて、電磁式の比例制御弁45に制御信号を出力するPTO圧制御手段101が備えられている。
【0030】
したがって、PTOクラッチレバー46が「切」位置に操作されると、油圧の印加が解除されるように比例制御弁45が制御されて、PTOクラッチ24がクラッチ切り状態となり、PTOクラッチレバー46が「入」位置に操作されると、所定の高い油圧が印加されるように、制御装置32から比例制御弁45へ制御信号が出力されて、PTOクラッチ24がクラッチ入り状態となる。
そして、前記連係状態切換スイッチ48が「切」状態であると、制御装置32は、上記のPTOクラッチレバー46の操作位置に応じて、左右のブレーキペダル41の操作とは関係なく、PTOクラッチ24を「切」、又は「入り」の状態に維持する。
前記連係状態切換スイッチ48が「入」に操作されていて、かつ、上記PTOクラッチレバー46の操作位置が「入」であることをPTO入切スイッチ47が検出したときに限って、左右のブレーキペダル41の操作に連係させてPTOクラッチ24を次のように制御する。
【0031】
左右の前記ブレーキペダル41が同時踏み状態で操作された場合、そのブレーキペダル41の踏み込み量が大きくなるに連れて各サイドブレーキ22の制動力が増大するとともに、ブレーキペダル41の操作方向と操作量によりPTOクラッチ24のクラッチ圧が制動状態と関連して制御される。
まず、図4及び図5に示すブレーキペダル41の走行停止方向である踏み込み方向での各操作位置について説明する。
【0032】
変速レバー39を任意の前進位置に保持して前進速度を設定するとともに、PTOクラッチレバー46を「入」位置に操作している状態で、図4に実線で示すように、左右のブレーキペダル41を踏み込み解除して復帰位置(a)に戻すと、両サイドブレーキ22が制動解除状態にあるとともに、前進用の比例制御弁34が通電制御されてサーボシリンダ30が所定位置まで作動され、無段変速装置23は変速レバー39の操作位置に対応した前進変速状態に保持される。かつ、PTOクラッチ24には、PTO圧制御手段101が比例制御弁45に制御信号を出力し、PTOクラッチ24に高い油圧が供給されてクラッチ入り状態がもたらされるように制御する。
【0033】
この状態から両ブレーキペダル41を同時に踏み込み操作すると、その踏み込み量の増加に伴って左右のサイドブレーキ22が制動作用を発揮するとともに、前記作動アーム43の回動角度に基づいてサーボシリンダ30が減速方向に作動制御され、走行速度が変速レバー39で設定された前進速度から次第に低下してゆく。
【0034】
両ブレーキペダル41を、予め設定された第1踏込み位置(b)まで同時に踏み込み操作すると、変速レバー39が前進変速域に保持されているにもかかわらず、サーボ制御手段100により両比例制御弁34,35への通電が遮断された状態がもたらされ、サーボシリンダ30が中立位置に復帰されて無段変速装置23は中立状態となり、走行が停止される。このとき、PTOクラッチ24は、そのクラッチ圧が図5に示すように前記復帰位置(a)に位置していた状態からほとんど変化していず、一定の高い圧に保たれてクラッチ入り状態にある。
【0035】
両ブレーキペダル41を前記第1踏込み位置(b)を越えて更に踏み込み操作するに連れて、両ブレーキペダル41の踏み込み操作量は増え、制動力も次第に増大するが、PTOクラッチ24のクラッチ圧は、図5に示すように、前記復帰位置(a)に位置していた状態からほとんど変化しないままで一定の圧に保たれて入り状態に維持されている。しかし、両ブレーキペダル41が、各サイドブレーキ22の最大制動力を得られる程度の操作位置として予め設定された第2踏込み位置(c)まで踏み込まれ、そのことをポテンショメータ44からの検出信号に伴って検出すると、前記車速センサー60による機体の走行停止が検出された後、前記PTO圧制御手段101が比例制御弁45を油路開放側へ作動させるように制御信号を出力し、前記PTOクラッチ24のクラッチ圧を急速に低下させる。これによって、PTOクラッチ24は摩擦力が消滅して完全にクラッチ切り状態となる。
つまり、この両ブレーキペダル41の踏み込み方向での操作では、各サイドブレーキ22の制動力は両ブレーキペダル41の操作量に応じて増大するが、PTOクラッチ24のクラッチ圧は、第2踏込み位置(c)の直前までほとんど変化せず、半クラッチ状態を伴わずにクラッチ入り状態が保たれている。そして、走行が停止される前記第1踏込み位置(b)を越えて第2踏込み位置(c)まで踏み込まれ、車速センサー60で走行停止が検出されると、前記PTOクラッチ24のクラッチ圧が急速に低減され、クラッチ切り状態となる。
【0036】
なお、前輪2を操向しながら旋回内側となる一方のブレーキペダル41だけを踏み込んで小回り旋回する際には、作動アーム43が回動しないので、上記した減速制御やPTOクラッチ24の切り制御が行われることはない。
【0037】
両ブレーキペダル41を前記第2踏込み位置(c)を越えた踏み込み限界位置にある第3踏込み位置(d)まで踏み込むと、作動アーム43の回動に基づいて油圧サーボ手段の前記リリーフ弁37が機械的に強制開放され、油圧サーボ手段のシステム圧が零まで低下され、走行変速用の比例制御弁34,35がどのような制御作動状態にあっても、サーボシリンダ30への圧油供給が解除され、無段変速装置23が中立復帰される。
【0038】
このように、両ブレーキペダル41を第3踏込み位置(d)まで大きく踏み込むと、サーボシリンダ30への圧油供給を強制解除して無段変速装置23を中立復帰させるので、万一、走行中に電気系の故障によって比例制御弁34,35が復帰位置に戻らないような事態が発生しても、両ブレーキペダル41を踏み込み限界まで踏み込みさえすれば、無段変速装置23を中立復帰させて走行停止することができる。
【0039】
次に、図4及び図5に示すブレーキペダル41の走行停止解除方向である踏み込み解除方向での各操作位置について説明する。
ブレーキペダル41の踏み込み解除方向での操作に伴うPTOクラッチ24のクラッチ圧は、前記復帰位置(a)と第2踏込み位置(c)との間で、前記踏み込み方向での操作に伴うPTOクラッチ24のクラッチ圧とは異なるように変化する。
【0040】
すなわち、図5に示すように、両ブレーキペダル41が第2踏込み位置(c)から第1踏込み位置(b)に戻される途中では、制御装置32のPTO圧制御手段101が比例制御弁45による油路開放状態を維持するように制御信号を出力しており、PTOクラッチ24のクラッチ切り状態を維持したまま、両ブレーキペダル41を戻し操作する。このとき、両比例制御弁34,35も通電が遮断され、サーボシリンダ30が中立位置に復帰された状態であり、走行は停止された状態にある。
【0041】
そして、図5に示すように、両ブレーキペダル41が第1踏込み位置(b)から、前記復帰位置(a)よりも少し手前の復帰手前位置(a’)に戻される途中では、前記車速センサー60による機体の走行停止が検出されている状態で、前記両ブレーキペダル41の操作位置を検出したポテンショメータ44からの検出信号に伴って、制御装置32のPTO圧制御手段101が比例制御弁45の油路開放度合いを調節するように制御信号の出力を開始する。
これによって、前記PTOクラッチ24のクラッチ圧を両ブレーキペダル41の操作位置に応じて、両ブレーキペダル41が戻し側に操作されるほど次第にクラッチ圧が増大するように変化させる。
前記両ブレーキペダル41が復帰手前位置(a’)に達したことが検出されると、前記PTO圧制御手段101が比例制御弁45の油路を閉塞するように制御信号を出力し、前記PTOクラッチ24に所定の高い油圧が印加されるように制御弁45を操作する。
つまり、ブレーキペダル41が第1踏込み位置(b)から復帰手前位置(a’)に戻される間では、PTOクラッチ24は半クラッチ状態で次第にクラッチ圧を増大するように変化しているものであり、復帰手前位置(a’)に達すると完全にクラッチ入り状態になる。
【0042】
そして、ブレーキペダル41が復帰手前位置(a’)から復帰位置(a)に戻る領域では、PTOクラッチ24は入り状態に維持され、両ブレーキペダル41の戻し操作に伴って制動力が次第に減少して、復帰位置(a)では完全に制動力も消滅する。
【0043】
前記中立位置へ復帰操作された油圧ポンプ23Pの斜板が、両ブレーキペダル41の戻し操作に伴って前進側へ操作される斜板操作量は、前記変速ペダル38及び変速レバー39の操作位置を検出するポテンショメータ40の検出信号に基づいて設定される。
つまり、前記サーボ制御手段100が、前記ポテンショメータ40の検出信号に基づいて検出された変速レバー39の操作位置に対応する静油圧式の無段変速装置23の斜板角度を、静油圧式の無段変速装置23の目標速度に対応する斜板角度として設定し、この目標速度に達するように前記油圧ポンプ23Pの斜板角度を変更する。このとき、サーボシリンダ30が油圧ポンプ23Pの斜板角度を変更する速度は、両ブレーキペダル41の戻し操作の速度に連動している。
このように、変速レバー39が静油圧式の無段変速装置23の目標速度を設定する目標速度設定手段として働き、前記サーボ制御手段100、及び比例制御弁34,35、ならびに前記サーボシリンダ30が斜板角度制御手段を構成している。
【0044】
そして、サーボシリンダ30の制御を行うサーボ制御手段100による前記比例制御弁34,35の制御は、前記PTO軸センサー49の所定以上の回転数での回転が検出されてから、制御可能であるように復帰する。したがって、機体の走行開始は、PTOクラッチ24が入り操作されてPTO軸25が回転し始めた後で行われることになる。
【0045】
上記のPTO圧制御手段101を備える制御装置32によって、前記制動操作具としてのブレーキペダル41の操作量に対するPTOクラッチ24のクラッチ圧の変化が、クラッチ切り側よりもクラッチ入り側で緩やかとなるように制御する制御手段を構成している。
【0046】
〔連係条件の判別〕
前記制御装置32には、前記PTO圧制御手段101による、ブレーキペダル41と静油圧式無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動の制御を、行うか否かについて判断し、行うべきでないと判断したときに、前記PTO圧制御手段101に、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動を断つように、指令する指令信号を出力するための連係条件判別手段102が備えられている。
【0047】
この連係条件判別手段102では、PTOクラッチレバー46によって操作されるPTO入切スイッチ47、人為操作される連係状態切換スイッチ48、PTO軸25の回転駆動の有無を検出するように、PTO軸駆動系の適所に設けたPTO軸センサー49、変速ペダル38の操作状態を検出するポテンショメータ40、のそれぞれからの検出情報に基づいて、前記連係作動を行うか否かを判断するように構成されている。
つまり、PTO入切スイッチ47の入り切り状態、連係状態切換スイッチ48の入り切り状態、PTO軸センサー49の回転駆動の有無、ポテンショメータ40による操作が前進走行側に操作されているか否かの検出結果から次の[1]〜[4]のように判断している。
【0048】
[1] PTO入切スイッチ47が切り操作された状態であれば、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動は不要と判断し、前記PTO圧制御手段101に、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動を断つように指令信号を出力する。PTO入切スイッチ47が入り操作された状態であれば、逆に前記連係作動を維持するように、前記連係作動を断つ指令信号は出力しない。
【0049】
[2] 連係状態切換スイッチ48が切り操作された状態であれば、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動は不要と判断し、前記PTO圧制御手段101に、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動を断つように指令信号を出力する。連係状態切換スイッチ48が入り操作された状態であれば、逆に前記連係作動を維持するように、前記連係作動を断つ指令信号は出力しない。
【0050】
[3] PTO軸センサー49によってPTO軸の回転駆動が停止されていることが検出されると、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動は不要と判断し、前記PTO圧制御手段101に、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動を断つように指令信号を出力する。連係状態切換スイッチ48が入り操作された状態であれば、逆に前記連係作動を維持するように、前記連係作動を断つ指令信号は出力しない。
【0051】
[4] ポテンショメータ40によって検出される変速ペダル38の操作状態が、機体の前進走行側に操作されている操作状態であることが検出されると、もしくは、車速センサー60の回転方向に基づいて、機体が前進走行している状態であることが検出されると、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動が必要と判断し、前記PTO圧制御手段101に、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動を維持するように、前記連係作動を断つ指令信号は出力しない。逆に、前記ポテンショメータ40によって検出される変速ペダル38の操作状態が、前記前進走行側に操作されている状態でないことが検出されると、もしくは、車速センサー60の回転方向に基づいて機体が後進走行している状態であることが検出されると、前記連係作動を断つ指令信号を出力する。
【0052】
前記連係条件判別手段102では、上記[1]〜[4]において、そのいずれか一つでも、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動は不要と判断されると、前記PTO圧制御手段101に、ブレーキペダル41と静油圧式の無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動を断つ指令信号を出力するように構成されている。
【0053】
〔別実施形態の1〕
上記実施形態では、図3に示したように、車速センサー60を備えて、その車速センサー60による走行停止状態の検出信号を、PTOクラッチ24の入り切り制御タイミングの設定要素として備えたものであるが、これに限らず、例えば図8に示すように、タイマー61を設けて、このタイマー61による設定信号が制御装置32に入力されるように構成して、このタイマー61で設定された設定時間を、走行停止状態と関連したPTOクラッチ24の入り切り制御タイミングとの設定要素として備えたものであってもよい。
【0054】
この場合、前記PTO圧制御手段101に対しては、両ブレーキペダル41の踏み込み方向及び踏み込み量を検出するポテンショメータ44の検出信号と、前記タイマー61で設定された設定時間の情報とが入力される。
そして、前記ブレーキペダル41の踏み込み側への操作では、無段変速装置23が動力伝達停止位置である中立位置に操作されてから、前記タイマー61で設定された踏み込み側の所定時間t1が経過した後にPTOクラッチ24が切り操作されるように、前記PTO圧制御手段101が比例制御弁45を前記所定時間t1後に油路開放側に操作して、PTOクラッチ24を切り状態に制御する。
【0055】
前記ブレーキペダル41の踏み込み解除側への操作では、前記PTO軸センサー49がPTO軸25の回転を検出してから、前記タイマー61で設定された踏み込み解除側の所定時間t2が経過した後に、前記サーボシリンダ30の制御を行うサーボ制御手段100による前記比例制御弁34,35の制御が可能となるように、前記PTO圧制御手段101がサーボ制御手段100と関連して制御する。
【0056】
上記タイマー61で設定される踏み込み側の所定時間t1は、通常の作業速度で走行する作業車が、両ブレーキペダル41の踏み込みに伴って無段変速装置23が中立位置に操作されてから、実際に機体が停止するまでに要する時間として予測される時間である。
また、上記タイマー61で設定される踏み込み解除側の所定時間t2は、PTO軸センサー49がPTO軸25の回転を検出し始めてから、徐々にPTOクラッチ24のクラッチ圧を上昇させてPTO軸25の回転数が所定回転数に達するまでに要する時間として予測される時間である。
上記の所定時間t1,t2は、人為操作で各別に設定変更できるように構成してもよい。
【0057】
〔別実施形態の2〕
上記実施形態では、図5に示したように、制動操作具としての両ブレーキペダル41の踏み込み方向での操作では、PTOクラッチ24のクラッチ圧を、第2踏込み位置(c)の直前までほとんど変化せず、半クラッチ状態を伴わずにクラッチ入り状態を保ち、走行が停止される前記第1踏込み位置(b)を越えて第2踏込み位置(c)まで踏み込まれると、前記PTOクラッチ24のクラッチ圧が急速に低減され、クラッチ切り状態となるように制御している。そして、両ブレーキペダル41の踏み込み解除方向の操作では、ブレーキペダル41が第1踏込み位置(b)から復帰手前位置(a’)に戻される間では、PTOクラッチ24を半クラッチ状態で次第にクラッチ圧が増大するように変化させたものである。
しかしながら、必ずしも、このようなクラッチ圧変化となるように制御するものに限らず、例えば、両ブレーキペダル41の踏み込み方向での操作で、PTOクラッチ24のクラッチ圧を、第2踏込み位置(c)よりも少し手前から緩やかに変化させて、第2踏込み位置(c)に達した時点で完全にクラッチ切り状態となるように制御するなど、適宜に変更することは可能である。
また、このように、ブレーキペダル41の踏み込み方向と踏み込み解除方向との間における制御特性にヒステリシスが生じるさせることなく、ブレーキペダル41の踏み込み操作に連係してPTOクラッチ24のクラッチ圧を制御するようにしたものであってもよい。
【0058】
〔別実施形態の3〕
ブレーキペダル41は、機体の旋回操作に用いる左右一対のサイドブレーキペダル41に限らず、専用の制動用ブレーキペダルであってもよい。
【0059】
〔別実施形態の4〕
停止操作機構は、静油圧式の無段変速装置23に限らず、ギヤ式変速装置や、走行クラッチであってもよい。
【0060】
〔別実施形態の5〕
前後進検出センサーは、変速ペダル38の操作状態を検出するものに限らず、例えば、静油圧式の無段変速装置23を備えていない作業車、あるいは静油圧式の無段変速装置23を備えていても、それとは別個に前後進変速装置を備えている場合、その前後進変速装置の操作状態を検出するようにしてもよい。また、車輪駆動軸の回転方向を検出するようにしてもよい。
【0061】
〔別実施形態の6〕
所定時間t1,t2を設定するタイマー61は、設定変更可能なタイマーを用いるものに限らず、制御装置32の内部クロックをカウントするプログラムによって構成してもよい。
【0062】
〔別実施形態の7〕
PTO圧制御手段101による、ブレーキペダル41と無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動の制御を、行うか否かについて判断条件として、副変速が作業速度に設定されているときにだけ連係作動を行うように条件設定してもよい。
【0063】
〔別実施形態の8〕
PTO圧制御手段101による、ブレーキペダル41と無段変速装置23及びPTOクラッチ24との連係作動の制御を、行うか否かについて判断条件として、作業装置のローリング制御や、自動昇降制御などが、実行されているときにだけ連係作動を行うように条件設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明が適用される作業車の伝動装置としては、田植機やコンバインの伝動装置、あるいは草刈機や除雪車の伝動装置などであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
2,3 走行装置
23 停止操作機構
24 PTOクラッチ
25 外部動力取り出し軸
32 制御手段
40 前進検出センサー
41 ブレーキペダル
47 PTOクラッチセンサー
48 切換スイッチ
49 PTO軸センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備えるとともに、制動操作用のブレーキペダルを備えた作業車の伝動装置であって、
前記走行駆動系に走行装置への動力伝達を断続することが可能な停止操作機構を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備え、
前記ブレーキペダルに対して前記停止操作機構とPTOクラッチとは、前記ブレーキペダルの踏み込み操作に伴って、前記停止操作機構を動力伝達停止位置に操作するとともにPTOクラッチを切り操作し、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に伴って、前記PTOクラッチの入り操作が行われるように連係させてあり、かつ、前記ブレーキペダルの踏み込み側への操作では、走行の停止が検出された後にPTOクラッチが切り操作され、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作では、走行が開始される前に前記PTOクラッチの入り操作が行われるように操作タイミングを設定してあることを特徴とする作業車の伝動装置。
【請求項2】
エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備えるとともに、制動操作用のブレーキペダルを備えた作業車の伝動装置であって、
前記走行駆動系に走行装置への動力伝達を断続することが可能な停止操作機構を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備え、
前記ブレーキペダルに対して前記停止操作機構とPTOクラッチとは、前記ブレーキペダルの踏み込み操作に伴って、停止操作機構を動力伝達停止位置に操作するとともにPTOクラッチを切り操作し、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作に伴って、前記PTOクラッチの入り操作が行われるように連係させてあり、かつ、前記ブレーキペダルの踏み込み側への操作では、停止操作機構が動力伝達停止位置に操作されてから所定時間が経過した後にPTOクラッチが切り操作され、前記ブレーキペダルの踏み込み解除側への操作では、前記PTOクラッチの入り操作が開始されてから所定時間が経過した後に停止操作機構による動力伝達停止状態が解除されるように、操作タイミングを設定してあることを特徴とする作業車の伝動装置。
【請求項3】
ブレーキペダルとPTOクラッチとの連係を断続可能な切換スイッチを備えた請求項1又は2記載の作業車の伝動装置。
【請求項4】
外部動力取り出し軸の回転を検出するPTO軸センサーを設け、前記外部動力取り出し軸が回転しているときにのみ、前記ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにした請求項1又は2記載の作業車の伝動装置。
【請求項5】
PTOクラッチの接続状態を検出するPTOクラッチセンサーを設け、前記PTOクラッチが入り状態であるときにのみ、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにした請求項1又は2記載の作業車の伝動装置。
【請求項6】
前進走行状態を検出する前進検出センサーを設け、前進走行状態であるときにのみ、ブレーキペダルに対して停止操作機構とPTOクラッチとの作動を連係させるようにした請求項1又は2記載の作業車の伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−234862(P2010−234862A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82756(P2009−82756)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】