説明

作業車の操向制御装置

【課題】トランスミッションの応答性能に拠らず、さらに、機体位置検出手段が検出不能域に存在する場合であっても、機体を、所定の進行方向から外れることなく圃場の作物に沿って自動操向させることのできる作業車の操向制御装置を提供すること。
【解決手段】機体位置検出手段16の検出値に基づいて、修正出力を出して機体が圃場の作物Mに沿うように操向操作手段22a,22bを制御する操向制御手段23aと、操向制御手段23aが修正出力の出力を開始すると、右及び左の回転数検出手段26a,26bの検出値の差を演算する演算手段23bとを備え、演算手段23bの演算値が設定値以上になると、操向制御手段23aが修正出力の出力を停止するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体が圃場の作物に沿って走行するように自動操向する作業車の操向制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバイン等の作業車に設けられる従来の操向制御装置としては、圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出する機体位置検出手段(例えば、操向センサ等)の検出値に基づいて、トランスミッションの操向操作手段(例えば、サイドクラッチ等)を制御して、機体を圃場の作物に沿うように自動操向させる操向制御手段を備えるものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、圃場の作物に対する機体の左右方向での位置が目標位置から外れると、操向制御手段が修正出力を操向操作手段に一定の出力時間だけ出力し、一定の出力時間が経過すると、操向制御手段が修正出力を停止するように構成されたものがある。これにより、操向制御手段が修正出力を停止した後、機体位置検出手段により圃場の作物に対する機体の左右方向での位置が検出され、この位置が目標位置からまだ外れていると、操向制御手段が修正出力を再び操向操作手段に一定の出力時間だけ出力するのであり、以上の状態が繰り返される。
【0004】
前述の構成では、操向制御手段が修正出力を一定時間だけ出力すると、操向操作手段の作動により機体がどれだけ右又は左に向きを変えるのかが、事前に把握されていると考えられ、操向制御手段の修正出力の出力時間と、操向操作手段の作動により機体の左右方向の変位量とが所定の関係にあるものとしていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−178404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、操向制御手段の修正出力の出力時間に対する操向操作手段の作動時間は、操向操作手段を備えるトランスミッションの固体毎にばらつくことがある(即ち、操向制御手段の修正出力の出力時間と、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量との間の所定の関係が少し崩れることがある)。これにより、例えば、操向制御手段の修正出力の出力時間に対して、操向操作手段の作動時間が所定の関係よりも長いものになれば(即ち、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量が大きなものになれば)、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れてしまう場合がある。
【0007】
本発明の目的は、操向制御手段の修正出力の出力時間に対する操向操作手段の作動時間にばらつきが生じる場合においても、機体を所定の進行方向から外れることなく圃場の作物に沿って自動操向させることのできる作業車の操向制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔第1発明の構成〕
上記の目的を達成するため、本発明のうちの第1特徴構成に係る発明では、
圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出する機体位置検出手段と、右及び左の走行装置に回転速度差を生じさせる操向操作手段と、前記右及び左の走行装置のそれぞれの回転数を検出する右及び左の回転数検出手段とを備え、
前記機体位置検出手段の検出値に基づいて、修正出力を出して機体が圃場の作物に沿うように前記操向操作手段を制御する操向制御手段と、
前記操向制御手段が前記修正出力の出力を開始すると、前記右及び左の回転数検出手段の検出値の差を演算する演算手段とを備え、
前記演算手段の演算値が設定値以上になると、前記操向制御手段が前記修正出力の出力を停止するように構成してあることを特徴とする。
【0009】
〔作用及び効果〕
本発明によると、操向制御手段が修正出力の出力を開始すると、右及び左の走行装置の回転数が回転数検出手段により検出され、演算手段により右及び左の回転数検出手段の検出値の差が演算されるのであり、演算値が設定値以上になると、操向制御手段の修正出力が停止された結果、右及び左の走行装置に回転速度差を生じさせようとする操向操作手段の作動が停止する。
【0010】
上記動作は、右及び左の走行装置の回転数を検出することにより、操向操作手段の実際の作動を直接に検出して、操向制御手段を停止させるものである。これについて言い換えると、操向制御手段の修正出力の出力時間に対する操向操作手段の作動時間を、右及び左の走行装置の回転数の差に置き換えて検出して、操向操作手段を停止させている。
【0011】
本発明によると、操向制御手段の修正出力の出力時間に対する操向操作手段の作動時間にばらつきが生じていても、右及び左の走行装置の回転数の差により、操向操作手段を停止させることによって、操向制御手段の修正出力の出力時間に対する操向操作手段の作動時間を合致させることができる。
従って、操向制御手段の修正出力の出力時間に対して、操向操作手段の作動時間が長いものになり、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れてしまうような状態を防止することができる。
【0012】
〔第2発明の構成〕
本発明のうちの第2特徴構成に係る発明では、
圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出する機体位置検出手段と、右及び左の走行装置に回転速度差を生じさせる操向操作手段と、前記右及び左の走行装置のそれぞれの回転数を検出する右及び左の回転数検出手段とを備え、
前記機体位置検出手段の検出値に基づいて、修正出力を出して機体が圃場の作物に沿うように前記操向操作手段を制御する操向制御手段と、
前記操向制御手段が前記修正出力の出力を開始すると、前記右及び左の回転数検出手段の検出値に基づいて機体の左右方向の変位量を演算する演算手段とを備えて、
前記演算手段により演算された機体の左右方向の変位量が、前記機体位置検出手段の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の変位量以上になると、前記操向制御手段が前記修正出力の出力を停止するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
〔作用及び効果〕
本発明によると、操向制御手段が修正出力の出力を開始すると、右及び左の走行装置の回転数が回転数検出手段により検出され、演算手段により右及び左の回転数検出手段の検出値の差に基づいて機体の左右方向の変位量が演算される。そして、演算手段により演算された機体の左右方向の変位量が、機体位置検出手段の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の変位量以上になると、操向制御手段の修正出力が停止された結果、右及び左の走行装置に回転速度差を生じさせようとする操向操作手段の作動が停止する。
【0014】
上記動作は、右及び左の走行装置の回転数を検出することにより、操向操作手段の実際の作動を直接に検出して、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量を演算するものである。これについて言い換えると、操向制御手段の修正出力の出力時間に対する操向操作手段の作動時間を、右及び左の走行装置の回転数の差に置き換えて検出して、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量を演算している。
【0015】
本発明によると、操向制御手段の修正出力の出力時間と、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量との間の所定の関係が少し崩れていても、右及び左の走行装置の回転数の差により、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量を演算することによって、機体が圃場の作物に対する所定位置に戻ったときに(機体位置検出手段の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の変位量以上になったときに)、操向操作手段を停止させることができる。
【0016】
本発明によると、操向制御手段が修正出力の出力を開始した際、右及び左の走行装置の回転数を検出することにより、操向操作手段の実際の作動を直接に検出して、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量を演算しているので、操向制御手段の修正出力に対するフィードバックを行っていることになる。
【0017】
この場合、機体位置検出手段をフィードバック手段として機能させることも可能であるが、以下のような不都合の生じることがある。
圃場の作物は、機体の進行方向に沿って所定の間隔を置いて植え付けられているので、例えば機体位置検出手段が圃場の一つの作物を検出して機体の左右方向での位置を検出した場合、圃場の一つの作物を通過すると、圃場の次の作物に到達するまでは、機体位置検出手段は圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出できないことになる。
これについて言い換えると、機体位置検出手段によるフィードバック信号は、圃場の作物に到達する毎に間欠的に出力されるような状態となるので、圃場の一つの作物と次の作物との間において、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れても、この状態をフィードバックできないことになる。
【0018】
これに対して、本発明の第2特徴によると、右及び左の走行装置の回転数を検出することにより、操向操作手段の作動による機体の左右方向の変位量を演算しているので、圃場の作物の状態に関係なく常にフィードバックが行われることになる。従って、圃場の一つの作物と次の作物との間において、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れかけても、この状態をフィードバックして操向制御手段を適切に作動させ、機体を圃場の作物に対する所定位置に維持することができる。
【0019】
〔第3発明の構成〕
本発明のうちの第3特徴構成に係る発明では、
前記右及び左の回転数検出手段の検出値の平均値から機体の走行距離を演算すると共に、前記右及び左の回転数検出手段の検出値の差から、前記操向制御手段が前記修正出力の出力を開始した時点の機体の走行方向に対する機体の曲がり角度を演算して、前記機体の走行距離及び曲がり角度から前記機体の左右方向の変位量を演算するように、前記演算手段を構成してあることを特徴とする。
【0020】
〔作用及び効果〕
本発明によれば、右及び左の回転数検出手段の検出値に基づく機体の左右方向の変位量がより正確に算出される。これにより、制御動作の誤差が一層小さくなるため、作業車の操向精度が向上する。
【0021】
〔第4発明の構成〕
本発明のうちの第4特徴構成に係る発明では、
前記右の走行装置に動力を伝達及び遮断自在な右のサイドクラッチと、前記左の走行装置に動力を伝達及び遮断自在な左のサイドクラッチとを備えて、前記操向操作手段を構成し、
前記右の走行装置と右のサイドクラッチとの間の伝動系の回転数を検出するように、前記右の回転数検出手段を構成し、
前記左の走行装置と左のサイドクラッチとの間の伝動系の回転数を検出するように、前記左の回転数検出手段を構成してあることを特徴とする。
【0022】
〔作用及び効果〕
右及び左のサイドクラッチを備えて操向操作手段を構成した場合、右及び左のサイドクラッチの入り状態(動力伝達状態)において、例えば、右のサイドクラッチを切り状態(動力遮断状態)に操作すると、左の走行装置に動力が伝達されているが、右の走行装置に動力が伝達されなくなって、圃場から右の走行装置に掛かる抵抗により機体は右に向きを変える。この場合、圃場から右の走行装置に掛かる抵抗により、右の走行装置は圃場に従って左の走行装置よりも低速で回転する。
【0023】
本発明によると、右の回転数検出手段は、右の走行装置と右のサイドクラッチとの間の伝動系の回転数を検出するように構成されており、左の回転数検出手段は、左の走行装置と左のサイドクラッチとの間の伝動系の回転数を検出するように構成されている。
【0024】
これにより、右のサイドクラッチが切り状態に操作されても、右の走行装置の回転が右の走行装置と右のサイドクラッチとの間の伝動系に伝達されるので、トランスミッションの固体差の影響を受け難い位置で右の回転数検出手段が右の走行装置の回転数を検出することができる。同様に左のサイドクラッチが切り状態に操作されても、左の走行装置の回転が左の走行装置と左のサイドクラッチとの間の伝動系に伝達されるので、トランスミッションの固体差の影響を受け難い位置で左の回転数検出手段が左の走行装置の回転数を検出することができる。従って、操向操作手段が作動した状態(右又は左のサイドクラッチの切り状態)において、右及び左の走行装置の回転数を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の操向制御装置を備えるコンバインの全体側面図である。
【図2】本発明の操向制御装置を備えるコンバインの全体平面図である。
【図3】本発明の操向制御装置に係る制御ブロック図である。
【図4】未刈穀稈と分草具との位置関係を模式的に示した平面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る制御の流れを示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る制御の流れを示す図である。
【図7】分草具の左右方向の変位を模式的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
(本発明の操向制御装置を備えるコンバインの構成)
図1及び図2のそれぞれには、本発明の操向制御装置を備えるコンバインの全体側面図及び全体平面図が示されている。
図1及び図2に示されるように、コンバインは、クローラ式の右及び左の走行装置1に支持されたフレーム4に、刈取部a、脱穀部b、穀粒収容部c、運転部2、エンジン(図示せず)を備えて構成される。
【0027】
刈取部aは、引起し装置5、刈取装置6、縦搬送装置7、分草具15、操向センサ16を備えて成り、機体に対して昇降可能に構成されている。
操向センサ16は、圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出する機体位置検出手段である。操向センサ16は、公知の構成を有するものであり、図4に示すように、機体前方側に復帰付勢されたセンサバー16aと、そのセンサバー16aの機体後方への回動角を検出するポテンションメータ16bとを一対備える。
【0028】
センサバー16aは、機体の前後方向に回動可能に構成されており、その回動範囲として、機体前方への回動限界位置(以下、前方限界位置と称する)と、機体後方への回動限界位置(以下、後方限界位置と称する)とが設定されている。尚、図4に示す姿勢が、センサバー16aの前方限界位置を示す。
【0029】
センサバー16aは、機体進行に伴って分草具15の間に導入される作物の茎稈の株元部分Mに接触すると、図4に示す前方限界位置から後方に回動し、センサバー16aがより大きく回動するほど、即ち、機体進行方向に並ぶ茎稈Mに対する分草具15からの横方向間隔が小さいほど、ポテンションメータ16bから大きな信号が出力されるように構成されている。
【0030】
ポテンションメータ16bは、センサバー16aの回動角度を電圧値に変換して信号とする装置であり、センサバー16aが図4に示す前方限界位置にあるときに最低電圧値(>0V)を示し、センサバー16aが後方限界位置にあるときに最高電圧値を示す。従って、刈取走行中にポテンションメータ16bから出力される電圧値を時間毎にプロットした場合(縦軸に電圧値を横軸に経過時間を設定する)、センサバー16aが、茎稈Mに接触していない状態では最低電圧値を示し、茎稈Mと接触する場合においては、茎稈Mに対する分草具15からの横方向間隔の距離に応じた電圧値(最大値は、センサバー16aが後方限界位置にあるときに最高電圧値)が示されることとなるため、そのグラフの形状は波状となる。
【0031】
脱穀部bは、フィードチェン8、扱胴9を備えた扱室10、揺動選別装置11、排藁カッター12を備えており、機体左側に搭載されている。穀粒収容部cは、グレンタンク13、アンローダ14を備えて構成されている。
【0032】
運転部2のオペレータは、刈取部aと脱穀部bを駆動させて、走行装置1の駆動によりコンバインを圃場内で走行させる。これにより、圃場内の作物(穀稈)が、刈取部aにより引き起されて刈り取られ、刈り取られた穀稈は脱穀部bに搬送されて脱穀される。脱穀された穀粒は、脱穀部bからグレンタンク13に送られて貯留される。グレンタンク13に貯留された穀粒は、刈取終了後、アンローダ14により機外に排出される。
【0033】
図3に示されるように、エンジン3からの駆動力は、伝動ベルト17と、静油圧式無段変速装置18の図示しない出力軸と、ミッションケース19内に設けられている副変速機構20を介して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bのそれぞれに入力される。
【0034】
右のサイドクラッチ22aは、センタギア27の右噛み合い部27aと、右噛み合い部27aと噛合う右スライドギア28aとを備えて構成されており、左のサイドクラッチ22bは、センタギア27の左噛み合い部27bと、左噛み合い部27bと噛合う左スライドギア28bとを備えて構成されている。
【0035】
右のスライドギア28aは、右の駆動軸25aの伝動ギア30aと常時噛合した状態で左右方向にスライド移動することによりセンタギア27の右噛み合い部27aと噛合又は噛合解除されるように構成されており、左のスライドギア28bも同様に、左の駆動軸25bの伝動ギア30bと常時噛合した状態で左右方向にスライド移動することによりセンタギア27の左噛み合い部27bと噛合又は噛合解除されるように構成されている。
【0036】
ミッションケース19に入力された駆動力は、副変速機構20を介してセンタギア27に伝達される。センタギア27に伝達された駆動力は、右のスライドギア28aを介して右の駆動軸25aに伝達されると共に、左のスライドギア28bを介して左の駆動軸25bに伝達され、その結果、右の走行装置1aと左の走行装置1bが回転駆動する。
【0037】
右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bは、右の走行装置1aと左の走行装置1bに回転速度差を生じさせる操向操作手段22を構成する。
【0038】
右のサイドクラッチ22aは、制御部23の操向制御手段23aの制御によって、右のスライドギア28aがセンタギア27の右噛み合い部27aと噛合って駆動力が右の駆動軸25aへ伝達される状態(入り状態)と、それらの噛合が解除されて駆動力の伝達が遮断される状態(切り状態)とが切換え自在に実施されるように構成されている。
【0039】
同様に、左のサイドクラッチ22bは、制御部23の操向制御手段23aの制御によって、左のスライドギア28bがセンタギア27の左噛み合い部27bと噛合って駆動力が左の駆動軸25bへ伝達される状態(入り状態)と、それらの噛合が解除されて駆動力の伝達が遮断される状態(切り状態)とが切換え自在に実施されるように構成されている。
【0040】
右の回転数センサ26a(右の回転数検出手段)は、右の走行装置1aと右のサイドクラッチ22aのスライドギア28aとを連結する駆動軸25a(伝動系)の回転数を検出し、左の回転数センサ26b(左の回転数検出手段)は、左の走行装置1bと左のサイドクラッチ22bのスライドギア28bとを連結する駆動軸25b(伝動系)の回転数を検出する。右の回転数センサ26aからの出力と、左の回転数センサ26bからの出力は共に、制御部23に入力される。尚、この実施形態では、左右の回転数センサ26a,26bにより、駆動軸25aの回転数を回転パルスで検出するように構成されている。
【0041】
これにより、右のサイドクラッチ22aが切り状態に操作されても、右の走行装置1aの回転が駆動軸25aに伝達されるので、ミッションケース19の固体差の影響を受け難い位置で右の回転数センサ26aが右の走行装置1aの回転数を検出することができる。同様に左のサイドクラッチ22bが切り状態に操作されても、左の走行装置1bの回転が駆動軸25bに伝達されるので、ミッションケース19の固体差の影響を受け難い位置で左の回転数センサ26bが左の走行装置1bの回転数を検出することができる。従って、操向操作手段22が作動して、右の走行装置1aと左の走行装置1bに回転速度差が生じる状態(右のサイドクラッチ22a又は左のサイドクラッチ22bの切り状態)において、右の走行装置1a及び左の走行装置1bの回転数を適切に検出することができる。
【0042】
本発明に係る操向制御装置は、操向センサ16、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22b、右の回転数センサ26a及び左の回転数センサ26b、右のサイドクラッチ22aと左のサイドクラッチ22bを制御する操向制御手段23a、並びに右の回転数センサ26aの検出値と左の回転数センサ26bの検出値との差を演算する演算手段23bを備えて構成されている。
【0043】
(操向制御装置の動作内容)
上記操向制御装置を備えるコンバインを、圃場の作物に沿って自動操向させる際の操向制御装置の動作内容を以下に説明する。
【0044】
図3及び図4に示すように、コンバインが圃場を走行すると、操向センサ16のセンサバー16aが、作物の茎稈Mに接触して後方回動することにより、センサバー16aの回動角度に応じて、ポテンションメータ16bから種々の強さの信号(検出値)が制御部23の操向制御手段23aへと出力される。
【0045】
図5のステップ#1において、図3の制御部23の操向制御手段23aは、所定時間内に入力されたポテンションメータ16bの信号について移動平均A(ここでいう移動平均Aとは、所定時間内にポテンションメータ16bから出力された全ての電圧値の平均である)を演算し、さらにこの移動平均Aに基づいて、分草具15の右側に並ぶ作物の条S1と分草具15の先端部Dとの間の距離L(図4参照)を演算する。
【0046】
次いで、図5に示すように、操向制御手段23aは、ステップ#2において距離Lと、分草具15の右側の条S1から直線K1までの距離L1(図4参照)、及び条S1から直線K2までの距離L2(図4参照)とを比較する(距離L2>距離L1)。
【0047】
尚、図4に示すように、直線K1及び直線K2のそれぞれは、分草具15の右側の条S1から所定の距離L1及び距離L2だけ距離をおいて、右側の条S1と左側の条S2との間にこれらの条に沿って設定されている。これらの直線K1、直線K2、距離L1、距離L2は、制御部23における図示しないメモリ装置に予め記憶されており、これらの直線K1と直線K2との間に不感帯Kが構成されている。
【0048】
不感帯Kは、分草具15の右側の条S1と左側の条S2との間の横方向中間部付近に設定される。分草具15の先端部Dがこの不感帯Kに存在する間は、制御部23の操向制御手段23aによる右のサイドクラッチ22aと左のサイドクラッチ22bの切り制御が行われないように構成されている。
【0049】
(1)L2≧L≧L1と判定された場合
図5に示すように、ステップ#2において、仮にL2≧L≧L1と判定された場合、即ち、分草具15の先端部Dが不感帯Kに位置する場合、操向制御手段23aは、電磁弁24a及び電磁弁24bに対して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bを切る修正出力を出力しない。そのため、右のサイドクラッチ22aと左のサイドクラッチ22bは共に入り状態のままであり、右の走行装置1aと左の走行装置1bが共に回転駆動されるため機体は直進する。
【0050】
(2)L1>Lと判定された場合
ステップ#2においてL1>Lと判定された場合、即ち、分草具15の先端部Dが不感帯Kを外れて条S1側に位置する場合、ステップ#3に移行し、操向制御手段23aは、左のサイドクラッチ22bを切るように電磁弁24bに対して修正出力を出す。
【0051】
この修正出力を受けた電磁弁24bは操作シリンダ29bを介して左のサイドクラッチ22bを切り状態とし、これにより左の走行装置1bの回転駆動が停止するため、圃場から左の走行装置1bに掛かる抵抗により機体は左に向きを変える。この場合、圃場から左の走行装置1bに掛かる抵抗により、左の走行装置1bは圃場に従って右の走行装置1aよりも低速で回転する。
【0052】
ステップ#3に移行して操向制御手段23aから電磁弁24bに修正出力が出されるのと同時(又は略同時(所定の短時間経過後))に、制御部23の演算手段23bにおける右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)と、左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)を共に0にリセットする。なお、回転数の積算値N1,N2をリセットするタイミングは異なるタイミングであってもよい。具体的には、例えば、図5のステップ#8における電磁弁24a,24bに対して出していた修正出力を自動的に停止した時点や、その自動的に停止した時点より後で修正出力が出される前に、回転数の積算値N1,N2を事前にリセットしておくように構成してもよい。
【0053】
そして、制御部23の演算手段23bにおいて、操向制御手段23aから電磁弁24bに修正出力が出されてから(又は修正出力が出されて所定の短時間経過後から)の右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算(回転パルス数のカウント)を開始し、かつ、操向制御手段23aから電磁弁24bに修正出力が出されてから(又は修正出力が出されて所定の短時間経過後から)の左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算(回転パルス数のカウント)を開始する。
【0054】
次いで、図5のステップ#5に移行し、制御部23の演算手段23bにおいて、右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)と、左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)とを求める。
【0055】
次いで、ステップ#6において、制御部23の演算手段23bは、積算値N1と積算値N2との差(絶対値N3)を演算する。そして、ステップ#7において、制御部23は、演算された絶対値N3が予め設定された設定値N4以上か、あるいは設定値N4未満かを判定する。ここで、絶対値N3が設定値N4未満と判定された場合にはステップ#5に戻り、上記の処理を繰り返す(ステップ#7:NO)。
【0056】
絶対値N3が設定値N4以上と判定された場合には(ステップ#7:YES)、ステップ#8に移行して、操向制御手段23aは電磁弁24bに対して出していた修正出力を自動的に停止する。その結果、左のサイドクラッチ22bの切り状態が解除されて入り状態となり、左の走行装置1bが再び回転駆動するため、機体は直進する。
【0057】
(3)L>L2と判定された場合
ステップ#2においてL>L2と判定された場合、即ち、分草具15の先端部Dが不感帯Kを外れて条S2側に位置する場合、ステップ#4に移行し、操向制御手段23aは、右のサイドクラッチ22aを切るように電磁弁24aに対して修正出力を出す。
【0058】
この修正出力を受けた電磁弁24aは操作シリンダ29aを介して右のサイドクラッチ22aを切り状態とし、これにより右の走行装置1aの回転駆動が停止するため、圃場から右の走行装置1aに掛かる抵抗により機体は右に向きを変える。この場合、圃場から右の走行装置1aに掛かる抵抗により、右の走行装置1aは圃場に従って左の走行装置1bよりも低速で回転する。
【0059】
ステップ#4に移行して操向制御手段23aから電磁弁24aに修正出力が出されると同時(又は略同時(所定の短時間経過後))に、制御部23の演算手段23bにおける右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)と、左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)とを共に0にリセットする。なお、上述の(2)L1>Lと判定された場合と同様に、回転数の積算値N1,N2をリセットするタイミングは、異なるタイミングであってもよい。
【0060】
後は上述の(2)L1>Lと判定された場合と同様にステップ#5〜#7が実施される。そして、ステップ#7において、絶対値N3が設定値N4未満と判定された場合にはステップ#5に戻り、上記の処理を繰り返し(ステップ#7:NO)、絶対値N3が設定値N4以上と判定された場合には(ステップ#7:YES)、ステップ#8に移行して、操向制御手段23aは電磁弁24aに対して出していた修正出力を自動的に停止する。その結果、右のサイドクラッチ22aの切り状態が解除されて入り状態となり、右の走行装置1aが再び回転駆動するため、機体は直進する。
【0061】
以上より本実施形態に係る操向制御装置によれば、操向制御手段23aが修正出力の出力を開始すると、右の回転数センサ26aが、右の駆動軸25aの回転数(回転パルス)を検出して制御部23へ出力すると共に、左の回転数センサ26bが、左の駆動軸25bの回転数(回転パルス)を検出して制御部23へ出力する。そして、制御部23の演算手段23bは、駆動軸25a及び駆動軸25bのそれぞれの回転数(回転パルス数)の積算(カウント)を開始する。
【0062】
次いで、演算手段23bが、右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)及び左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)のそれぞれを求めて、積算値N1と積算値N2との差(絶対値N3)を演算し、絶対値N3が設定値N4以上になると、操向制御手段23aの修正出力が自動的に停止され、その結果、右の走行装置1aと左の走行装置1bに回転速度差を生じさせようとする操向操作手段22(右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22b)の作動が停止する。
【0063】
上記動作は、いわば右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数とをそれぞれ別個独立に検出することにより、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの実際の作動を直接に検出して停止させるものである。これについて言い換えると、操向制御手段23aの修正出力の出力時間に対する右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動時間を、右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数との差に置き換えて検出して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bを停止させている。
【0064】
即ち、たとえ操向制御手段23aの修正出力の出力時間に対する右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動時間にばらつきが生じていても、右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数の差により、操向操作手段22を停止させることによって、操向制御手段23aの修正出力の出力時間に対する操向操作手段22の作動時間を合致させることができる。
【0065】
従って、操向制御手段23aの修正出力の出力時間に対して、操向操作手段22の作動時間が長いものになり、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れてしまうような状態を防止することができる。
【0066】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を説明する。尚、第2実施形態に係る操向制御装置は、上記第1実施形態に記載のコンバインに適用することが可能である。従って重複説明を避けるため、上記第1実施形態とは異なる操向制御装置の動作内容についてのみ図3、図4、図6及び図7に基づいて説明する。
【0067】
図3及び図4に示すように、コンバインが圃場を走行すると、操向センサ16のセンサバー16aが、作物の茎稈Mに接触して後方回動することにより、センサバー16aの回動角度に応じて、ポテンションメータ16bから種々の強さの信号(検出値)が制御部23の操向制御手段23aへと出力される。
【0068】
図6のステップ#1において、図3の制御部23の操向制御手段23aは、所定時間内に入力されたポテンションメータ16bの信号について移動平均A(ここでいう移動平均Aとは、所定時間内にポテンションメータ16bから出力された全ての電圧値の平均である)を演算し、さらにこの移動平均Aに基づいて、分草具15の右側に並ぶ作物の条S1と分草具15の先端部Dとの間の距離L(図4参照)を演算する。
【0069】
次いで、図6に示すように、操向制御手段23aは、ステップ#2において距離Lと、分草具15の右側の条S1から直線K1までの距離L1(図4参照)、及び条S1から直線K2までの距離L2(図4参照)とを比較する(距離L2>距離L1)。
【0070】
(1)L2≧L≧L1と判定された場合
図6に示すように、ステップ#2において、仮にL2≧L≧L1と判定された場合、即ち、分草具15の先端部Dが不感帯Kに位置する場合、操向制御手段23aは、電磁弁24a及び電磁弁24bに対して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bを切る修正出力を出力しない。そのため、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bは共に入り状態のままであり、右の走行装置1aと左の走行装置1bが共に回転駆動されるため機体は直進する。
【0071】
(2)L1>Lと判定された場合
ステップ#2においてL1>Lと判定された場合、即ち、分草具15の先端部Dが不感帯Kを外れて条S1側に位置する場合、ステップ#3に移行して、操向制御手段23aがL1とLとの差L3(機体位置検出手段の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の変位量)を演算した後、ステップ#4に移行して左のサイドクラッチ22bを切るように電磁弁24bに対して修正出力を出す。
【0072】
この修正出力を受けた電磁弁24bは操作シリンダ29bを介して左のサイドクラッチ22bを切り状態とし、これにより左の走行装置1bの回転駆動が停止するため、圃場から左の走行装置1bに掛かる抵抗により機体は左に向きを変える。この場合、圃場から左の走行装置1bに掛かる抵抗により、左の走行装置1bは圃場に従って右の走行装置1aよりも低速で回転する。
【0073】
ステップ#4に移行して操向制御手段23aから電磁弁24bに修正出力が出されると同時(又は略同時(所定の短時間経過後))に、制御部23の演算手段23bにおける右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)と、左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)とを共に0にリセットする。なお、回転数の積算値N1,N2をリセットするタイミングは異なるタイミングであってもよい。具体的には、例えば、図6のステップ#10における電磁弁24a,24bに対して出していた修正出力を自動的に停止した時点や、その自動的に停止した時点より後で修正出力が出される前に、回転数の積算値N1,N2を事前にリセットしておくように構成してもよい。
【0074】
そして、制御部23の演算手段23bにおいて、操向制御手段23aから電磁弁24bに修正出力が出されてから(又は修正出力が出されて所定の短時間経過後から)の右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算(回転パルス数のカウント)を開始し、操向制御手段23aから電磁弁24bに修正出力が出されてから(又は修正出力が出されて所定の短時間経過後から)の左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算(回転パルス数のカウント)を開始する。
【0075】
次いで、図6のステップ#7に移行し、制御部23の演算手段23bにおいて、右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)と、左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)とを求める。
【0076】
次いで、ステップ#8において、制御部23の演算手段23bは、積算値N1及び積算値N2に基づいて機体の左右方向の変位量L5(図7参照)を演算する。
【0077】
尚、図7に示すように、第2実施形態に係る制御部23の演算手段23bは、積算値N1及び積算値N2の平均値(=(N1+N2)/2)から機体の走行距離Eを演算すると共に、積算値N1と積算値N2との差から、右のサイドクラッチ22a又は左のサイドクラッチ22bの作動開始時点の機体の走行方向Fに対する機体の曲がり角度θを演算して、機体の走行距離E及び曲がり角度θから機体の左右方向の変位量L5(L5=E*Sinθ)を演算するように構成されている。本構成によれば、右の回転数センサ26aの検出値と左の回転数センサ26bの検出値に基づく機体の左右方向の変位量がより正確に算出される。これにより、制御動作の誤差が一層小さくなるため、コンバイン等の作業車の操向精度が向上する。
【0078】
次いで、ステップ#9において、制御部23は、演算された変位量L5が、予め設定された設定変位量L3以上か、あるいは設定変位量L3未満かを判定する。ここで、変位量L5が設定変位量L3未満と判定された場合にはステップ#7に戻り、上記の処理を繰り返す(ステップ#9:NO)。
【0079】
変位量L5が設定変位量L3以上と判定された場合には(ステップ#9:YES)、ステップ#10に移行して、操向制御手段23aは電磁弁24bに対して出していた修正出力を自動的に停止する。その結果、左のサイドクラッチ22bの切り状態が解除されて入り状態となり、左の走行装置1bが再び回転駆動するため、機体は直進する。
【0080】
(3)L>L2と判定された場合
ステップ#2においてL>L2と判定された場合、即ち、分草具15の先端部Dが不感帯Kを外れて条S2側に位置する場合、ステップ#5に移行して、操向制御手段23aがL2とLとの差L4(機体位置検出手段の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の変位量)を演算した後、ステップ#6に移行して右のサイドクラッチ22aを切るように電磁弁24aに対して修正出力を出す。
【0081】
この修正出力を受けた電磁弁24aは操作シリンダ29aを介して右のサイドクラッチ22aを切り状態とし、これにより右の走行装置1aの回転駆動が停止するため、圃場から右の走行装置1aに掛かる抵抗により機体は右に向きを変える。この場合、圃場から右の走行装置1aに掛かる抵抗により、右の走行装置1aは圃場に従って左の走行装置1bよりも低速で回転する。
【0082】
ステップ#6に移行して操向制御手段23aから電磁弁24aに修正出力が出されると同時(又は略同時(所定の短時間経過後))に、制御部23の演算手段23bにおける右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)と、左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)とを共に0にリセットする。なお、上述の(2)L1>Lと判定された場合と同様に、回転数の積算値N1,N2をリセットするタイミングは異なるタイミングであってもよい。
【0083】
後は上述の(2)L1>Lと判定された場合と同様にステップ#7〜#8が実施される。そして、ステップ#9において、制御部23は、演算された変位量L5が、予め設定された設定変位量L4以上か、あるいは設定変位量L4未満かを判定する。
【0084】
変位量L5が設定変位量L4未満と判定された場合にはステップ#7に戻り、上記の処理を繰り返し(ステップ#9:NO)、変位量L5が設定変位量L4以上と判定された場合には(ステップ#9:YES)、ステップ#10に移行して、操向制御手段23aは電磁弁24aに対して出していた修正出力を自動的に停止する。その結果、右のサイドクラッチ22aの切り状態が解除されて入り状態となり、右の走行装置1aが再び回転駆動するため、機体は直進する。
【0085】
以上より本実施形態に係る操向制御装置によれば、操向制御手段23aが修正出力の出力を開始すると、右の回転数センサ26aが、右の駆動軸25aの回転数(回転パルス)を検出して制御部23へ出力すると共に、左の回転数センサ26bが、左の駆動軸25bの回転数(回転パルス)を検出して制御部23へ出力する。そして、制御部23の演算手段23bは、駆動軸25a及び駆動軸25bのそれぞれの回転数(回転パルス数)の積算(カウント)を開始する。
【0086】
次いで、演算手段23bが、右の回転数センサ26aの検出に基づく回転数の積算値N1(回転パルス数のカウント値)及び左の回転数センサ26bの検出に基づく回転数の積算値N2(回転パルス数のカウント値)のそれぞれを求めて、積算値N1と積算値N2との差に基づいて機体の左右方向の変位量L5を演算する。そして、演算手段23bにより演算された機体の左右方向の変位量L5が、操向センサ16の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の設定変位量(L3又はL4)以上になると、操向制御手段23aの修正出力が自動的に停止され、その結果、右の走行装置1aと左の走行装置1bに回転速度差を生じさせようとする操向操作手段22(右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22b)の作動が停止する。
【0087】
上記動作は、いわば右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数とをそれぞれ別個独立に検出することにより、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの実際の作動を直接に検出して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動による機体の左右方向の変位量L5を演算するものである。これについて言い換えると、操向制御手段23aの修正出力の出力時間に対する右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動時間を、右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数との差に置き換えて検出して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動による機体の左右方向の変位量L5を演算している。
【0088】
即ち、操向制御手段23aの修正出力の出力時間と、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動による機体の左右方向の変位量との間の所定の関係が少し崩れていても、右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数との差により、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動による機体の左右方向の変位量L5を演算することによって、機体が圃場の作物に対する所定位置に戻ったときに(即ち、操向センサ16の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の設定変位量(L3又はL4)以上になったときに)、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bを停止させている。
【0089】
従って、操向制御手段23aが修正出力の出力を開始した際、右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数とを検出することにより、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの実際の作動を直接に検出して、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動による機体の左右方向の変位量L5を演算しているので、操向制御手段23aの修正出力に対するフィードバックを行っていることになる。
【0090】
この場合、操向センサ16をフィードバック手段として機能させることも可能であるが、以下のような不都合の生じることがある。
圃場の作物の作物は、機体の進行方向に沿って所定の間隔を置いて植え付けられているので、例えば操向センサ16が圃場の一つの作物を検出して検出の左右方向での位置を検出した場合、圃場の一つの作物を通過すると、圃場の次の作物に到達するまでは、操向センサ16は圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出できないことになる。
これについて言い換えると、操向センサ16によるフィードバック信号は、圃場の作物に到達する毎に間欠的に出力されるような状態となるので、圃場の一つの作物と次の作物との間において、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れても、この状態をフィードバックできないことになる。
【0091】
これに対して、本実施形態に係る操向制御装置によれば、右の走行装置1aの回転数と左の走行装置1bの回転数とを検出することにより、右のサイドクラッチ22a及び左のサイドクラッチ22bの作動による機体の左右方向の変位量L5を演算しているので、圃場の作物の状態に関係なく常にフィードバックが行われることになる。従って、圃場の一つの作物と次の作物との間において、機体が必要以上に向きを変更して圃場の作物に対する所定位置から外れかけても、この状態をフィードバックして操向制御手段23aを適切に作動させ、機体を圃場の作物に対する所定位置に維持することができる。
【0092】
〔別実施形態〕
(1)前述の実施形態における回転数センサ26a,26bの検出対象となる伝動系としては、センタギア27の噛み合い部27a,27bよりも下手側(走行装置1a,1b側)に設けられるものであれば良く、前述の駆動軸25a,25bの他にも、例えば、スライドギア28a,28b、伝動ギア30a,30b、及び走行装置1a,1bにおける図示しない駆動スプロケット等が挙げられる。
(2)前述の実施形態においては、回転数センサ26a,26bにより回転パルスを検出し、回転パルス数のカウント値の差N3を演算して操向制御手段23aの修正出力を自動的に停止するように構成した例を示したが、回転数センサ26a,26bにより検出した回転パルスのパルス幅の積算値の差や、回転数センサ26a,26bにより検出した回転パルスを時間の経過に伴って積分した積分値の差を演算し、この積算値や積分値の差が予め設定された設定値以上になると操向制御手段23aの修正出力を自動的に停止するように構成してもよい。
また、回転数センサ26a,26bとしては、走行装置1a,1bの車速(速度)を検出できる構成であればよく、回転パルスを検出するものに限定されない。
(3)前述の実施形態においては、操向制御手段23aが、右又は左のサイドクラッチ22a,22bを切るように電磁弁24a,24bに修正出力を出し、絶対値N3が設定値N4以上と判定された場合には、操向制御手段23aが電磁弁24a,24bに対して出していた修正出力を自動的に停止するように構成した例を示したが、操向制御手段23aが、右又は左のサイドクラッチ22a,22bを切るように電磁弁24a,24bに修正出力を出し、この修正出力を出してから予め設定された所定時間に達すると、その修正出力の出力が自動的に停止するように構成し、さらに、絶対値N3が設定値N4以上と判定された場合には、操向制御手段23aが電磁弁24a,24bに対して出していた修正出力を、前記所定時間経過前であっても自動的にかつ強制的に停止するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したように、本発明は、稲用のコンバインばかりでなく、圃場の野菜(人参やキャベツ等)を収穫する野菜収穫機にも適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 走行装置
16 操向センサ(機体位置検出手段)
22a,b 右及び左のサイドクラッチ(操向操作手段)
23a 操向制御手段
23b 演算手段
25a,b 駆動軸(伝動系)
26a,b 回転数センサ(回転数検出手段)
M 作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出する機体位置検出手段と、右及び左の走行装置に回転速度差を生じさせる操向操作手段と、前記右及び左の走行装置のそれぞれの回転数を検出する右及び左の回転数検出手段とを備え、
前記機体位置検出手段の検出値に基づいて、修正出力を出して機体が圃場の作物に沿うように前記操向操作手段を制御する操向制御手段と、
前記操向制御手段が前記修正出力の出力を開始すると、前記右及び左の回転数検出手段の検出値の差を演算する演算手段とを備え、
前記演算手段の演算値が設定値以上になると、前記操向制御手段が前記修正出力の出力を停止するように構成してある作業車の操向制御装置。
【請求項2】
圃場の作物に対する機体の左右方向での位置を検出する機体位置検出手段と、右及び左の走行装置に回転速度差を生じさせる操向操作手段と、前記右及び左の走行装置のそれぞれの回転数を検出する右及び左の回転数検出手段とを備え、
前記機体位置検出手段の検出値に基づいて、修正出力を出して機体が圃場の作物に沿うように前記操向操作手段を制御する操向制御手段と、
前記操向制御手段が前記修正出力の出力を開始すると、前記右及び左の回転数検出手段の検出値に基づいて機体の左右方向の変位量を演算する演算手段とを備えて、
前記演算手段により演算された機体の左右方向の変位量が、前記機体位置検出手段の検出値に基づいて演算された機体の左右方向の変位量以上になると、前記操向制御手段が前記修正出力の出力を停止するように構成してある作業車の操向制御装置。
【請求項3】
前記右及び左の回転数検出手段の検出値の平均値から機体の走行距離を演算すると共に、前記右及び左の回転数検出手段の検出値の差から、前記操向制御手段が前記修正出力の出力を開始した時点の機体の走行方向に対する機体の曲がり角度を演算して、前記機体の走行距離及び曲がり角度から前記機体の左右方向の変位量を演算するように、前記演算手段を構成してある請求項2に記載の作業車の操向制御装置。
【請求項4】
前記右の走行装置に動力を伝達及び遮断自在な右のサイドクラッチと、前記左の走行装置に動力を伝達及び遮断自在な左のサイドクラッチとを備えて、前記操向操作手段を構成し、
前記右の走行装置と右のサイドクラッチとの間の伝動系の回転数を検出するように、前記右の回転数検出手段を構成し、
前記左の走行装置と左のサイドクラッチとの間の伝動系の回転数を検出するように、前記左の回転数検出手段を構成してある請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車の操向制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−263798(P2010−263798A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115668(P2009−115668)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】