説明

作業車両

【課題】ローダ作業の際にエンジンの回転数を上昇させる制御を、オペレータの任意のタイミングで行うことができる作業車両を提供する。
【解決手段】油圧無段変速機30は、エンジン16の出力を変速することにより、車速を無段階に変更可能である。通信制御ユニット73は、エンジン16の回転数及び油圧無段変速機30の変速比を制御する。前記油圧ポンプは、エンジン16の出力によって動作する。また、このトラクタ10には、前記油圧ポンプからの圧油によってバケットを昇降駆動するフロントローダ14を連結可能である。そして、通信制御ユニット73は、フロントローダ14のジョイスティック26に設けられたエンジン回転数アップスイッチ70が操作された際には、前記車速を一定に保ったままでエンジン16の回転数を変更するように、エンジン16の回転数及び油圧無段変速機30の変速比の制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、作業車両において作業機を用いた作業を行う際のエンジン回転数制御に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用トラクタなどの作業車両において、その車体にフロントローダを連結して、当該フロントローダによって土作業等を行うことができる構成が知られている。このようなトラクタ及びフロントローダは、例えば特許文献1に開示されている。この種のフロントローダは、油圧シリンダによって駆動されるように構成される。当該油圧シリンダは、作業車両のエンジンによって駆動される油圧ポンプから圧油の供給を受けて駆動される。
【0003】
フロントローダにおいて、例えばバケットで土砂をすくいあげてアームを上昇させるような作業を行う場合は、エンジンの低回転領域では油圧ポンプの吐出量が少ないため動作が遅くなりがちである。このため、エンジンの低回転領域ではフロントローダによる作業がスムーズに行えないという課題があった。
【0004】
特許文献1は、フロントローダの操作具(ジョイスティック)の操作角度に応じてエンジンの回転数を増大させ、油圧ポンプを自動的に増速駆動させる構成を開示している。特許文献1は、これにより、エンジンの自動増速によってリフトアームを速やかに上昇させることができ、バケットを上昇させるなどの高負荷持ち上げ作業を敏速に行うことができるので、取扱い操作性の向上を容易に図ることができる、としている。
【0005】
また特許文献2は、フロントローダの操作具(操作レバー)にエンジンの回転数を調整する操作部材を設けたトラクタを開示している。特許文献2は、これにより、操作レバーから手を離すことなくエンジンの回転数と調整することができるので、所望の作業を安全かつ的確に行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3930642号公報
【特許文献2】特開平8−21266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1が開示するトラクタは、リバーサレバーの中立(ニュートラル)、又はクラッチの切断を検出したことを条件として、ジョイスティックの操作角度に応じたエンジンの自動増速を行うように構成されている。これは、エンジンの回転数を自動的に増速する制御を行う際に、オペレータの意図しないタイミングで車速が変化してしまうことを防止するためである。即ち、リバーサニュートラルの場合又はクラッチ切の場合であれば、車体は完全に停止状態であるから、オペレータの意図に反したタイミングで車速が勝手に変更されてしまうことがない。
【0008】
ところが上記特許文献1の構成では、リバーサが非ニュートラル、かつクラッチ入の状態の場合にはエンジン回転数の自動増速を行うことができない構成なので、当然ながら、トラクタの走行中は前記自動増速制御を行うことができない。このため、トラクタを走行させながらのローダ作業をスムーズに行うことができないという課題があった。また、特許文献1の構成では、エンジンの自動増速制御が必要になるたびに、リバーサレバーのニュートラル操作、又はクラッチの切断操作を行わなければならないので、操作性が悪いという問題もある。
【0009】
一方、特許文献2には、エンジンの回転数を変更する際に、リバーサのニュートラルやクラッチの切断を条件とする旨の記載はない。しかしながら、特許文献2は傾斜地での作業を前提としており、車体にブレーキをかけた状態(車体を停止させた状態)で作業を行うこととしている。特許文献2の構成であっても、車体を走行させている状態でエンジンの回転数を上昇させれば、オペレータの意図に反して車速が上昇してしまうと考えられる。従って、特許文献2に記載のトラクタにおいて、フロントローダの操作レバーによるエンジン回転数の操作は、車体走行中に行うには問題がある。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、ローダ作業の際にエンジンの回転数を上昇させる制御を、オペレータの任意のタイミングで行うことができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の観点によれば、以下の構成の作業車両が提供される。即ち、この作業車両は、エンジンと、変速機と、制御部と、油圧ポンプと、を備える。前記変速機は、前記エンジンの出力を変速することにより、車速を変更する。前記制御部は、前記エンジンの回転数及び前記変速機の変速比を制御する。前記油圧ポンプは、前記エンジンの出力によって動作する。また、この作業車両には、前記油圧ポンプからの圧油によってバケットを昇降駆動するフロントローダを連結可能である。そして、前記制御部は、前記フロントローダの操作具に設けられたエンジン回転数変更手段が操作された際には、前記車速を一定に保ったままでエンジンの回転数を変更するように、前記エンジンの回転数及び前記変速機の変速比の制御を行う。
【0013】
この構成によれば、オペレータがエンジン回転数変更手段を操作することで、任意のタイミングでエンジン回転数を変更することができる。しかも、このときに車速を一定に保つように制御を行うことにより、オペレータの意図に反して車速が変更されてしまうことを防止できる。
【0014】
上記の作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この作業車両は、前記エンジンの回転数の上限を設定する回転数上限設定手段を備えている。そして、前記制御部は、前記回転数上限設定手段で設定された回転数を上限として、前記エンジン回転を変更する。
【0015】
このように、エンジンの回転数の上限を予め任意の回転数に設定しておくことで、エンジンの回転数を所望の回転数まで上昇させることが容易になる。また、上限を設定しておくことによりエンジンの回転数が不必要に上昇してしまうことを防ぐことができる。
【0016】
上記の作業車両において、前記制御部は、前記車速を一定に保ちつつ、前記操作具の操作量に応じて前記エンジンの回転数を変更するように制御を行うことが好ましい。
【0017】
従来、フロントローダの操作具の操作量に応じたエンジン回転数の自動変更は、オペレータが想定しない車速変化を防ぐため、クラッチの切断又は変速機のニュートラルを条件として使用可能であった。この点、本発明の作業車両によれば、車速を一定に保つ制御を行うことにより、クラッチの切断や変速機のニュートラルなどを条件としなくても、オペレータが想定しない車速変化を防止することができる。従って、例えば車体走行中であっても、エンジンの回転数を自動変更する制御を行うことができる。
【0018】
上記の作業車両において、前記制御部は、前記操作具の操作に応じて前記エンジンの回転数を変更する制御を、前記車速を一定に保つ制御を行わずに行うモードへ切り替え可能であることが好ましい。
【0019】
例えばフロントローダによって土砂の山を切り崩すような作業を行う場合、車体に勢いをつけた状態でバケットを土砂の山に突入させたいことがある。このような場合に、上記のモードで制御を行えば、エンジン回転数を上昇させた際に車速も自動的に上昇するので便利である。
【0020】
上記の作業車両において、前記操作具は、車速を変更するための車速変更手段を備えることが好ましい。
【0021】
このように、フロントローダの操作具によって車速を変更できるように構成することで、ローダ作業中であっても容易に車速を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの側面図。
【図2】駆動伝達機構を示すスケルトン図。
【図3】運転座席近傍の様子を示す側面図。
【図4】フロントローダのジョイスティックの斜視図。
【図5】CANによるネットワークの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1に示すように、本実施形態に係る作業車両としての農業用トラクタ10は、オペレータが搭乗するためのキャビン11と、左右一対の前輪12及び後輪13と、を備えた車体を有している。このトラクタ10の前後には、フロントローダ14を連結することが可能に構成されている。
【0024】
また図2に示すように、トラクタ10は、駆動源としてのエンジン16と、当該エンジン16の回転駆動力を変速して前輪12及び後輪13に伝える油圧無段変速機(変速機)30を備える。また、トラクタ10は、エンジン16によって駆動される油圧ポンプ29を備えている。この油圧ポンプ29からの圧油は、トラクタ10の各部と、車体前方に連結されたフロントローダ14に供給することができるようになっている。
【0025】
フロントローダ14は、トラクタ10の車体に取り付けられるローダフレーム17と、ローダフレーム17に軸を介して連結されたリフトアーム18と、リフトアーム18の先端に軸を介して取り付けられたバケット19と、を有する。更に、フロントローダ14は、リフトアーム18を上下昇降するアームシリンダ20と、バケット19をダンプ又はスクイ動作させるためのダンプシリンダ21とを備えている。アームシリンダ20及びダンプシリンダ21は油圧シリンダとして構成されており、トラクタ10が備える前述の油圧ポンプ29から供給される圧油によって駆動される。
【0026】
本実施形態のトラクタ10の駆動伝達機構について、図2を参照して説明する。
【0027】
エンジン16の回転駆動力は、油圧無段変速機30の変速入力軸31に入力される。この油圧無段変速機30は、HST(静油圧式変速装置)として構成されており、変速入力軸31に入力されたエンジン16の回転駆動力を、無段階に変速して、変速出力軸32から出力することが可能に構成されている。
【0028】
具体的には、油圧無段変速機30は、可変容量ポンプ部53と、固定容量モータ部59と、から構成されている。可変容量ポンプ部53は、可変斜板式の可変容量アキシャルピストンポンプとして構成され、変速入力軸31に入力された駆動力によって駆動されることにより、圧油を吐出する。固定容量モータ部59は、固定斜板式の固定容量アキシャルピストンモータとして構成され、可変容量ポンプ部53からの圧油によって変速出力軸32を回転駆動するように構成されている。以上の構成で、可変容量ポンプ部53の可動斜板の角度を無段階に変更することにより、固定容量モータ部59が変速出力軸32を回転する速度を無段階で変速することができる。即ち、変速入力軸31に入力されたエンジン16の回転駆動力を、無段階に変速して、変速出力軸32から出力することができるようになっている。
【0029】
なお、本実施形態の油圧無段変速機30は、変速入力軸31と変速出力軸32とが同軸に配置された、いわゆるインライン式のHSTとして構成されている。インライン式のHSTは、例えば特開2010−260467号公報に開示されているので、詳しい説明は省略する。
【0030】
変速出力軸32の回転駆動力は、クラッチ機構34等を介してクラッチ出力軸35に伝達される。クラッチ出力軸35の回転は後輪差動装置36を介して左右の後車軸37に分配され、後輪13を回転駆動する。なお本実施形態のトラクタ10は、四輪駆動方式で車体を走行させることも可能に構成されている。具体的には、前輪クラッチ機構38を接続状態とすることにより、クラッチ出力軸35の回転が前輪駆動出力軸39に入力される。前輪駆動出力軸39の回転は前輪差動装置40を介して左右の前車軸41に分配され、前輪12を駆動する。
【0031】
以上のように、油圧無段変速機30の出力によって、後輪13(及び前輪12)を駆動し、車体を走行させるように構成されている。そして、油圧無段変速機30の出力は無段階で変速可能であるから、車体の走行速度も無段階で変更可能となっている。
【0032】
一方、エンジン16からの回転駆動力が入力される変速入力軸31には、入力ギア42が設けられ、ここから駆動力が取り出されてポンプ駆動軸43を駆動するように構成されている。ポンプ駆動軸43には、前述の油圧ポンプ29が接続されている。この構成で、エンジン16の回転駆動力により、油圧ポンプ29が駆動されるようになっている。
【0033】
なお、入力ギア42によって変速入力軸から取り出されたエンジン16の駆動力は、PTO変速部45で変速されたのち、PTO軸(駆動取出軸)46から取り出すことができるようになっている。
【0034】
次に、本実施形態のトラクタ10の運転座席まわりの構成について、図3を参照して説明する。
【0035】
トラクタ10のキャビン11内には、図3に示すように、オペレータが搭乗するための運転座席22が設けられている。運転座席22の前方には操向ハンドル23が、運転座席22の側方近傍には、油圧無段変速機30の変速比を設定する変速レバー24が、それぞれ配置されている。オペレータは、変速レバー24を傾動操作することにより、トラクタ10の車速を無段階に変更することができる。また、運転座席22の前方には、現在の車速など、トラクタ10の各種状態を表示する表示パネル25が配置されている。
【0036】
表示パネル25の近傍には、アクセルレバー74と、回転数上限設定ダイヤル(回転数上限設定手段)75と、が配置されている。オペレータは、アクセルレバー74を傾動操作することにより、エンジン16の回転数を設定することができる。回転数上限設定ダイヤル75は、エンジン16の最大回転数をオペレータが設定するためのものである。このように最大回転数を予め設定しておくことで、アクセルレバー74を最大まで操作したときに、エンジン16の回転数の上昇が、設定された回転数で自動的に止まる。これにより、所望のエンジン回転数を簡単に得ることができる。
【0037】
また、運転座席22の近傍には、ローダコントロールボックス27と、ジョイスティック26と、が配置されている。オペレータは、ローダコントロールボックス27を操作することにより、フロントローダ14に関する各種の設定を行うことができる。ジョイスティック26はフロントローダ14の操作具であり、図4に示すように、前後左右に傾動操作することでフロントローダ14の上下昇降及びダンプ/スクイ動作が可能に構成されている。より具体的には、ジョイスティック26を前後に傾動操作することにより、アームシリンダ20を伸縮させて、リフトアーム18を上下に昇降させることができる。また、ジョイスティック26を左右に傾動操作することにより、ダンプシリンダ21を伸縮させて、バケット19の姿勢をダンプ姿勢(バケット19の先端が下を向いた姿勢)とスクイ姿勢(バケット19の先端が上を向いた姿勢)との間で変更することができるように構成されている。なお、ジョイスティック26には、エンジン回転数アップスイッチ(エンジン回転数変更手段)70、最高車速アップスイッチ(車速変更手段)71、最高車速ダウンスイッチ(車速変更手段)72が設けられている。
【0038】
また、運転座席22の近傍には、トラクタ側コントロールボックス28が配置されている。オペレータは、トラクタ側コントロールボックス28を操作することにより、トラクタ10に連結された作業機に関する各種設定を行うことができる。
【0039】
次に、本実施形態のトラクタ10のCAN(Controller Area Network)の構成について説明する。なお、CANとは、自動車等において機器間の相互通信に用いられる公知の規格であり、耐ノイズ性に優れ信頼性が高いなどの特徴がある。図5に示すように、本実施形態のトラクタ10には、CANによるネットワークが構成されている。このトラクタ10のネットワークには、エンジン16、油圧無段変速機30、トラクタ側コントロールボックス28、表示パネル25、変速レバー24、アクセルレバー74、回転数上限設定ダイヤル75等、トラクタ10が有する各構成が接続されている。また、トラクタ10のCANには、ネットワークの通信の制御を行う通信制御ユニット(制御部)73が接続されている。
【0040】
通信制御ユニット73は、トラクタ10の各構成(エンジン16や油圧無段変速機30など)と通信を行うことにより、エンジン16の回転数や、油圧無段変速機30の変速比などを制御することができるように構成されている。例えば、通信制御ユニット73は、アクセルレバー74の操作量を取得するとともに、エンジン16と通信を行うことにより、当該エンジン16の回転数を、前記アクセルレバー74の操作量に応じた回転数に変更する。これにより、オペレータは、アクセルレバー74を操作することで所望のエンジン回転数を得ることができる。このとき、通信制御ユニット73は、回転数上限設定ダイヤル75で設定された回転数を超えないように、エンジン16の回転数を変更する。
【0041】
また、通信制御ユニット73は、変速レバー24の操作量を取得するとともに、油圧無段変速機30と通信を行い、変速レバー24の操作量に応じて、油圧無段変速機30の可動斜板の傾斜角を変更する。これにより、オペレータは、変速レバー24を操作することで、変速出力軸32の回転数を無段階に変更し、結果として、車速を無段階で変更することができる。
【0042】
また図3に示すように、トラクタ10のCANには、フロントローダ14が接続されている。具体的には、フロントローダ14のジョイスティック26及びローダコントロールボックス27が、CANによってトラクタ10の各構成に接続されている。これにより、通信制御ユニット73は、ジョイスティック26によって行われたローダ操作に関する情報や、ローダコントロールボックス27で設定された内容に関する情報を取得することができる。なお、通信制御ユニット73には、フロントローダ14の他にも、作業機A、作業機B、……と他の種類の作業機を接続することもできる。
【0043】
一方、通信制御ユニット73は、現在の車速、エンジン16の回転数など、トラクタ10に関する情報を、フロントローダ14及び他の作業機に対して送信することができる。
【0044】
以上のように、フロントローダ14と、トラクタ10と、の間で相互に通信を行うことができるので、通信制御ユニット73は、フロントローダ14の動作に連動させて、エンジン16の回転数や油圧無段変速機30の変速比などを自動的に変更するように制御することができる。
【0045】
以下、通信制御ユニット73による制御について具体的に説明する。
【0046】
本実施形態のトラクタ10において、通信制御ユニット73は、リフトアーム18の上昇動作、又はスクイ動作のときなど、フロントローダ14の負荷が高くなるときにエンジン16の回転数を自動的に上昇させるように構成されている。これによれば、フロントローダ14の負荷が高くなったときに、油圧ポンプ29からの圧油の供給を自動的に増大させることができるので、フロントローダ14による作業をスムーズに行うことができる。
【0047】
この機能を実現するため、フロントローダ14のジョイスティック26は、オペレータによる操作が行われると、その操作量の情報を通信制御ユニット73に送信する。通信制御ユニット73は、ジョイスティック26の操作量の情報を取得し、上昇操作又はスクイ操作が行われていることを検出した場合には、エンジン16と通信を行い、当該エンジン16の回転数を上昇させる。
【0048】
また、通信制御ユニット73は、フロントローダ14のジョイスティック26が中立位置に戻されたことを検出すると、エンジン16と通信を行い、回転数を自動的に上昇させる制御を行う直前の回転数まで、エンジン16の回転数を戻す。これによれば、フロントローダ14による作業が終了した後は、エンジン16の回転数が自動的に元の回転数まで戻るので、エンジン16が高回転状態のままになってしまうことを防ぐことができる。
【0049】
なお、フロントローダの動作に応じてエンジンの回転数を上昇させる制御は、従来のトラクタでも行われていた(例えば特許文献1)。しかしながら、既に説明したように、従来のトラクタでは、エンジンの回転数を上昇させる制御は、変速レバーのニュートラル又はクラッチの切断を検出した場合にのみ有効とされていたので、車体走行中などに上記の制御を利用することができず、不便であった。
【0050】
そこで本実施形態のトラクタ10において、エンジン16の回転数を自動的に上昇させる際には、通信制御ユニット73は、油圧無段変速機30と通信を行い、当該油圧無段変速機30の変速比を自動的に変更する(可動斜板の傾斜角を自動的に変更する)ことで、変速出力軸32の回転数を一定に保つように制御を行うように構成されている。
【0051】
このように、通信制御ユニット73が、変速出力軸32の回転数を一定に保つように油圧無段変速機30の変速比を自動的に変更する制御を行うことで、エンジン16の回転数を自動的に上昇させたときにも、オペレータの意図に反した車速変化が発生することがない。従って、オペレータの意図しない車速変化を防ぐことを目的として変速レバーをニュートラルにしたり、クラッチを切断したりする必要がなくなる。
【0052】
そこで、本実施形態のトラクタ10では、ジョイスティック26によって上昇又はスクイ操作が行われたときには、変速レバーのニュートラルやクラッチの切断などの条件を必要とせずに、エンジン16の回転数を上昇させるように構成されている。
【0053】
これにより、仮に車体走行中であっても、ジョイスティック26で上昇操作又はスクイ操作が行われたときには、エンジン16の回転数を自動的に上昇させて油圧ポンプ29からの圧油の供給量を増大させることができる。しかも、回転数を自動的に上昇させる機能を利用するためにわざわざ変速レバーのニュートラルやクラッチの切断などの操作を行う必要がないので、オペレータはフロントローダ14による操作に集中することができる。従って、フロントローダ14による作業をスムーズに行うことができる。
【0054】
なお、本実施形態のトラクタ10は、変速比を無段階で制御可能な油圧無段変速機30を備えているので、エンジン16の回転数がどのような回転数に変更された場合であっても、車速を一定に保つ制御を行うことができる。即ち、本実施形態のトラクタ10の構成によれば、車速を保ったままで、エンジン16の回転数を任意の回転数まで上昇させることができる。従って、本実施形態のトラクタ10によれば、エンジン16の回転数を常に最適な回転数とすることができる。
【0055】
ところで、上記のようにジョイスティック26の操作に応じてエンジン16の回転数を変更する制御では、オペレータの任意のタイミングでエンジン16の回転数を変更することはできない。例えば、ジョイスティック26が中立位置のときには、通信制御ユニット73がエンジン16の回転数を自動的に上昇させることはないので、フロントローダ14による作業に備えて予めエンジン16の回転数を上昇させるということができない。
【0056】
もちろん、アクセルレバー74を操作すれば任意のタイミングでエンジン16の回転数を変更することができるが、例えば片手で操向ハンドル23を操作している状態でアクセルレバー74を操作しようとすると、ジョイスティック26から手を離さなければならない。また、アクセルレバー74を操作してエンジン16の回転数を変更すると、車速も変化してしまう。
【0057】
そこで本実施形態のトラクタ10において、通信制御ユニット73は、ジョイスティック26が備えるエンジン回転数アップスイッチ70が操作された場合に、車速を維持したままエンジン16の回転数を最高回転数まで上昇させるように構成されている。この機能を実現するため、ジョイスティック26は、エンジン回転数アップスイッチ70が操作されると、その旨を通信制御ユニット73に送信する。通信制御ユニット73は、エンジン回転数アップスイッチ70が操作されたことを検出すると、エンジン16及び油圧無段変速機30と通信を行い、変速出力軸32の回転数を一定に保つように(車速を一定に保つように)油圧無段変速機30の変速比を変更する制御を行いつつ、エンジン16の回転数を最高回転数まで上昇させる。
【0058】
これによれば、オペレータの任意のタイミングで、車速を保ったままエンジン16の回転数を上昇させることができる。もちろん、エンジン回転数アップスイッチ70の操作によってエンジン16の回転数を上昇させる際にも、変速レバーのニュートラルやクラッチの切断などが条件とされることはない。従って、エンジン回転数アップスイッチ70を操作することにより、車体走行中を含めた任意のタイミングでエンジン16の回転数を上昇させることができる。
【0059】
なおこのとき、通信制御ユニット73は、エンジン16の回転数を、回転数上限設定ダイヤル75で設定された回転数まで上昇させる。これによれば、エンジン回転数アップスイッチ70を操作するという簡単な操作だけで、オペレータの所望の回転数までエンジン16の回転数を上昇させることができるため便利である。しかも、このようにエンジン16の回転数の上限を設けておけば、エンジン16が不必要に高回転になってしまうことを防止することができる。
【0060】
また本実施形態のトラクタ10において、ジョイスティック26には、最高車速を設定するための最高車速アップスイッチ71及び最高車速ダウンスイッチ72が設けられている。これにより、ジョイスティック26の操作によって、最高車速を変更することができる。この機能を実現するため、ジョイスティック26は、最高車速アップスイッチ71又は最高車速ダウンスイッチ72が操作されると、その旨を通信制御ユニット73に送信する。通信制御ユニット73は、最高車速アップスイッチ71が操作されたことを検出した場合には、最高車速の設定値を所定値だけ高く設定し直し、最高車速ダウンスイッチ72が操作されたことを検出した場合には、最高車速の設定値を所定値だけ低く設定し直す。
【0061】
ここで、「最高車速」というのは、変速レバー24が最大まで操作されたときの車速を設定するものである。最高車速を設定する操作は、もともと、変速レバー24による変速操作を、様々な状況で行い易いように調整するためのものである。
【0062】
例えば、最高車速を低く設定することで、変速レバー24の操作量に対する車速変化が緩やかになるので、トラクタ10を低速で走行させつつ、変速レバー24によって車速を細かく調整したい場合に有効である。一方、最高車速を高く設定すると、変速レバー24の操作量に対する車速変化が急激になるので、路上走行時など、トラクタ10を高速で走行させたい場合に有効である。
【0063】
ところで、最高車速の設定を変更すると、変速レバー24の操作量と車速との対応関係が変化する結果、現在の変速レバー24の操作量に対応する車速が変化する。従って、最高車速の設定を変更すると、変速レバー24を操作しなくても現在の車速が変化する。このように、最高車速の設定変更は、変速レバー24を操作せずに現在の車速を変更するために利用することもできる。
【0064】
一方、フロントローダ14による作業中、オペレータはジョイスティック26を操作しているので、車速を変更するために変速レバー24を操作することは必ずしも容易ではない。そこで、ジョイスティック26に最高車速アップスイッチ71及び最高車速ダウンスイッチ72を設け、ジョイスティック26を握ったままの状態で最高車速を変更することができるようにしたものである。これによれば、ジョイスティック26を握ったまま(変速レバー24を操作しなくても)車速を簡単に変更できるので、オペレータはフロントローダ14の操作に集中することができる。
【0065】
以上で説明したように、本実施形態のトラクタ10は、エンジン16と、油圧無段変速機30と、通信制御ユニット73と、油圧ポンプ29と、を備える。油圧無段変速機30は、エンジン16の出力を変速することにより、車速を無段階に変更可能である。通信制御ユニット73は、エンジン16の回転数及び油圧無段変速機30の変速比を制御する。油圧ポンプ29は、エンジン16の出力によって動作する。また、このトラクタ10には、油圧ポンプ29からの圧油によってバケット19を昇降駆動するフロントローダ14を連結可能である。そして、通信制御ユニット73は、フロントローダ14のジョイスティック26に設けられたエンジン回転数アップスイッチ70が操作された際には、前記車速を一定に保ったままでエンジン16の回転数を変更するように、エンジン16の回転数及び油圧無段変速機30の変速比の制御を行う。
【0066】
この構成によれば、オペレータがエンジン回転数アップスイッチ70を操作することで、任意のタイミングでエンジン16の回転数を変更することができる。しかも、このときに車速を一定に保つように制御を行うことにより、オペレータの意図に反して車速が変更されてしまうことを防止できる。
【0067】
また本実施形態のトラクタ10は、エンジン16の回転数の上限を設定する回転数上限設定ダイヤル75を備えている。そして、通信制御ユニット73は、前記回転数上限設定ダイヤル75で設定された回転数を上限として、エンジン16の回転数を変更する。
【0068】
このように、エンジン16の回転数の上限を予め任意の回転数に設定しておくことで、エンジン16の回転数を所望の回転数まで上昇させることが容易になる。また、上限を設定しておくことによりエンジン16の回転数が不必要に上昇してしまうことを防ぐことができる。
【0069】
また本実施形態のトラクタ10において、通信制御ユニット73は、前記車速を一定に保ちつつ、ジョイスティック26の操作量に応じてエンジン16の回転数を変更するように制御を行っている。
【0070】
従来、フロントローダ14の操作具の操作量に応じたエンジン回転数の自動変更は、オペレータが想定しない車速変化を防ぐため、クラッチの切断又は変速機のニュートラルを条件として使用可能であった。この点、本実施形態のトラクタは、車速を一定に保つ制御を行うことにより、クラッチの切断や変速機のニュートラルなどを条件としなくても、オペレータが想定しない車速変化を防止することができる。従って、例えば車体走行中であっても、エンジン16の回転数を自動変更する制御を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態のトラクタ10において、ジョイスティック26は、車速を変更するための最高車速アップスイッチ71及び最高車速ダウンスイッチ72を備えている。
【0072】
このように、フロントローダ14のジョイスティック26によって車速を変更できるように構成することで、ローダ作業中であっても容易に車速を変更することができる。
【0073】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0074】
上記実施形態では、ジョイスティック26による上昇/スクイ操作、又はエンジン回転数アップスイッチ70の操作が行われた場合では、車速を保つように(変速出力軸32の回転数を保つように)油圧無段変速機30の変速比を変更する制御を行いつつ、エンジン16の回転数を上昇させるとして説明した。
【0075】
ところが、例えば土作業を行っているとき、フロントローダ14の駆動を行いながら車速を上昇させ、勢いを付けて土砂の山にバケット19を突入させたい場合などもある。このような場合、ジョイスティック26の傾動操作や、エンジン回転数アップスイッチ70の操作によって、エンジン16の回転数と同時に車速も上昇させると便利だと考えられる。
【0076】
そこで、通信制御ユニット73は、車速を保つために油圧無段変速機の変速比を変更する制御をあえて行わないことにより、エンジン16の回転数を上昇させると同時に車速を上昇させるモードを備えていても良い。車速を保つ制御を行うモードと、行わないモードとの切り替えは、ローダコントロールボックス27によって行うように構成すれば好適である。
【0077】
以上で説明したように、この変形例に係るトラクタにおいて、通信制御ユニット73は、ジョイスティック26の操作に応じてエンジン16の回転数を変更する制御を、車速を一定に保つ制御を行わずに行うモードへ切り替え可能である。
【0078】
例えばフロントローダ14によって土砂の山を切り崩すような作業を行う場合、車体に勢いをつけた状態でバケット19を土砂の山に突入させたいことがある。このような場合に、上記のモードで制御を行えば、エンジン回転数を上昇させた際に車速も自動的に上昇するので便利である。
【0079】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0080】
フロントローダの操作具はジョイスティックとしたが、これに限らず、適宜の構成とすることができる。また、エンジン回転数変更手段はスイッチとしたが、例えばダイヤル状の部材によりエンジン回転数を変更させるように構成しても良い。その他、回転数上限設定手段、車速変更手段なども、上記実施形態の構成に限らず、適宜の構成とすることができる。
【0081】
上記実施形態では、エンジン回転数を上昇させるエンジン回転数アップスイッチのみを備えた構成を示したが、エンジンの回転数を減少させる手段(例えばエンジン回転数ダウンスイッチ)を備えても良い。また、ジョイスティック26の操作量に応じてエンジンの回転数を自動的に減少させる制御を行っても良い。エンジンの回転数を減少させる制御を行う場合であっても、車速を保つように油圧無段変速機30の変速比を変更する制御を行うことにより、オペレータの意図しない車速変化を防止することができる。
【0082】
上記実施形態では、車速変更手段は、最高車速を変更することにより車速を変更するものとしたが、車速そのものを変更するように制御しても良いのは勿論である。
【0083】
変速装置は、油圧無段変速装置に限らず、例えばCVTなどでも上記の制御を実現することができる。
【0084】
また、変速装置は無段変速装置に限らず、有段のギア式変速装置であっても良い。この場合、通信制御ユニットは、変速装置のギアを低速に切り換えるのと同時に、又はこれと前後して、車速が変化しないようにエンジンの回転数を上昇させる。これにより、車速を保ったままでエンジンの回転数を上昇させることができる。ただし、変速装置が有段の場合は、実現できるエンジン回転数に制限があることになる。従って、エンジンの回転数を任意の回転数まで上昇させることができるという点では、変速装置として無段変速装置を利用することが好適である。
【0085】
本発明の構成は、トラクタに限らず、フロントローダを備える、あるいはフロントローダを取り付け可能な作業車両に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 トラクタ(作業車両)
14 フロントローダ
16 エンジン
26 ジョイスティック(操作具)
29 油圧ポンプ
30 油圧無段変速機(変速機)
70 エンジン回転数アップスイッチ(エンジン回転数変更手段)
71 最高車速アップスイッチ(車速変更手段)
72 最高車速ダウンスイッチ(車速変更手段)
73 通信制御ユニット(制御部)
75 回転数上限設定ダイヤル(回転数上限設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの出力を変速することにより、車速を変更する変速機と、
前記エンジンの回転数及び前記変速機の変速比を制御する制御部と、
前記エンジンの出力によって動作する油圧ポンプと、
を備える作業車両であって、
当該作業車両には、前記油圧ポンプからの圧油によってバケットを昇降駆動するフロントローダを連結可能であり、
前記制御部は、前記フロントローダの操作具に設けられたエンジン回転数変更手段が操作された際には、前記車速を一定に保ったままでエンジンの回転数を変更するように、前記エンジンの回転数及び前記変速機の変速比の制御を行うことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両であって、
前記エンジンの回転数の上限を設定する回転数上限設定手段を備え、
前記制御部は、前記回転数上限設定手段で設定された回転数を上限として、前記エンジンの回転数を変更することを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業車両であって、
前記制御部は、前記車速を一定に保ちつつ、前記操作具の操作量に応じて前記エンジンの回転数を変更するように制御を行うことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の作業車両であって、
前記制御部は、前記操作具の操作に応じて前記エンジンの回転数を変更する制御を、車速を一定に保つ制御を行わずに行うモードへ切り替え可能であることを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の作業車両であって、
前記操作具は、車速を変更するための車速変更手段を備えることを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−188861(P2012−188861A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53198(P2011−53198)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】