説明

作物の高温障害防止シート

【課題】可視光線の透過率が高く、作物の成長を阻害することなく、熱線を遮断して作物の高温障害を防止することの可能な作物の高温障害防止シートの提供
【解決手段】熱可塑性樹脂の一軸延伸糸が縦横に交差されて形成され、下記式(1)で表される空隙率が5〜80%である布状体からなり、一軸延伸糸が、波長400〜780nmの可視光線の遮蔽力が小さく、波長780〜2000nmの近赤外線の遮蔽力の大きい無機粉体を含有する作物の高温障害防止シート。
【数4】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の高温障害防止シート、さらに詳しくは、可視光線の透過率が高く、作物の成長を阻害することがなく、熱線を遮断して栽培作物の高温障害を防止するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野における作物の栽培においては、夏季の日中には太陽光の照射が強いため、作物に高温障害が生じ、収穫量の低下、あるいは、品質の低下が生じる問題がある。このため、夏場においては、日覆シートを掛けて日光を遮断することが行われている。
【0003】
しかし、日覆を掛けた場合、赤外線、近赤外線からなる熱線が遮断されると同時に、作物に必要な可視光線も遮断されるため、作物の成長を阻害する問題がある。
【0004】
このため、特許文献1では、光線吸収材として6ホウ化ランタン、又は、アンチモン含有酸化錫を添加した熱可塑性樹脂からなる日覆を掛けることが提案されている。6ホウ化ランタン、又は、アンチモン含有酸化錫は可視光線の透過率が高く、赤外線、近赤外線の遮断効果が大きいため、作物の生育を阻害することなく高温障害を防止できるとされている。
【0005】
しかし、同文献では、赤外線、近赤外線を吸収する粉体を添加した熱可塑性樹脂は、フィルム状又はボード状に成形して日覆として使用されている。しかし、フィルムあるいはシート状にして作物を覆う場合、日覆の内部は換気され難くなり、このため、熱線の透過量は少なくなっても、日覆内部に高温の空気が滞留し、作物の雰囲気温度が過度に高くなるため、やはり作物に高温障害が生じる問題がある。
【0006】
このため、可視光線の透過率がよく、作物の生育を阻害せず、また、効率よく高温障害を避けることのできる農業用シートの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2004−141051
【特許文献2】特開2004−65004
【特許文献3】特開2003−38041
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、可視光線の透過率が高く、作物の成長を阻害することなく、熱線を遮断して作物の高温障害を防止することの可能な作物の高温障害防止シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果なされたもので、具体的には、熱可塑性樹脂の一軸延伸糸が縦横に交差されて形成され、下記式(1)で表される空隙率が5〜80%である布状体からなり、一軸延伸糸が、波長400〜780nmの可視光線の遮蔽力が小さく、波長780〜2000nmの近赤外線の遮蔽力の大きい無機粉体を含有することを特徴とする作物の高温障害防止シートを提供するものである。
【数2】

【0009】
また、本発明は、布状体が波長400〜780nmの可視光線の累積透過率に対し、波長780〜1200nmの近赤外線の累積透過率が10%以上低い上記の作物の高温障害防止シート、布状体が波長400〜780nmの可視光線の累積透過率に対し、波長1200〜2000nmの近赤外線の累積透過率が10%以上低い上記の作物の高温障害防止シート、無機粉体が6ホウ化ランタン、インジウム酸化錫、又は、アンチモン酸化錫の単体もしくは二種以上の混合物である上記の作物の高温障害防止シート、布状体が基層の少なくとも片面に基層より融点の低い熱可塑性樹脂からなる接合層が積層されたテープ状の一軸延伸糸が縦横に交差し、その交点が熱融着されてなる上記の作物の高温障害防止シート、及び、一軸延伸糸が、高密度ポリエチレンまたはポリプロピレンからなる基層と、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体から選ばれた一種または二種以上からなる接合層とが積層されてなる上記の作物の高温障害防止シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の作物の高温障害防止シートは、強度が強く耐久性に優れ、また、可視光線の透過率が高く作物の生育が優れ、かつ、熱線を遮断して栽培作物の高温障害を防止することができる。また、夜間の冷え込みを緩和する作用を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の作物の高温障害防止シート1は、図1に示すように、熱線の透過を抑制する効果を付与した熱可塑性樹脂を一軸延伸した一軸延伸糸2を用いて形成した布状体3によって構成される。
【0012】
本発明において高温障害防止シート1を形成する一軸延伸糸2とは、シート状体を形成し得る線条体を広く意味し、テープ状体、紐状体、モノフィラメント、マルチフィラメント等の線条体を含むものであり、これらは必要に応じて撚りがかけられる。
【0013】
一軸延伸糸2の構造はいかなるものであってもよく、例えば、図3(A)に示すように、熱可塑性樹脂フィルムを所定の幅にスリットして一軸延伸することによってテープ状としたフラットヤーンとして用いることができ、また、図3(B)に示すように、テープ状体に多数の切れ目5、5を入れたスプリットヤーンを用いることもできる。さらに、図3(C)に示すように、テープ状体に極細の縦方向リブ6、6を設けることもでき、リブ6を設けることによって太陽の反射光が散乱され、環境への影響を低減することができる。
【0014】
また、その他、断面が、丸型、長球状、方形、多角形、その他異型体の一軸延伸糸2とすることができ、さらに、異種樹脂の混合物を線条に押出し成形し、その樹脂間を分裂せしめてフィブリル化したダンラインを用いることによってしなやかさを上げることもできる。また、一本を単独で織糸として使用することも可能であり、また、数本を束ねて用いることも可能である。
【0015】
一軸延伸糸2は、図4(A)に示すように、単層であってもよく、また、図4(B)、図4(C)に示すように、基層7の片面又は両面に、基層より融点の低い熱可塑性樹脂からなる接合層8を形成した積層一軸延伸糸2とすることができる。更に、接合層8は、図4(D)に示すようにシースコア構造、図4(E)に示すようにサイドバイサイド構造とすることも可能である。
【0016】
一軸延伸糸2の単層体、あるいは積層体の基層7を構成する熱可塑性樹脂としては、延伸効果の大きい樹脂、一般には結晶性樹脂が使用され、具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、アクリルニトリル、ビニロン等を用いることができる。中でも加工性と経済性から高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系重合体が望ましい。
【0017】
接合層8は、一軸延伸糸2が織成された後、一軸延伸糸2間を接合するもので、基層7を構成する熱可塑性樹脂より融点が低く熱融着性の優れた熱可塑性樹脂が用いられる。
【0018】
具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66のポリアミド等を用いることができ、基層の熱可塑性樹脂との関係で基層より低融点、好ましくは20℃以上融点の低い熱可塑性樹脂が選択される。特に、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系重合体が望ましく、特に、メタロセン触媒を用いて重合した線状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0019】
さらに、一軸延伸糸2を形成する熱可塑性樹脂には、熱線を遮蔽する熱線透過防止材となる無機粉体が添加される。
【0020】
熱線透過防止材となる無機粉体としては、波長400〜780nmの可視光線の遮蔽力が小さく、波長780〜2000nmの範囲の近赤外線の遮蔽力の大きい粉体が使用される。無機粉体には、波長780〜1200nmの範囲に大きな吸収を示すものと、1200〜2000nmの範囲に大きな吸収を示すものがあるがいずれでも使用することができる。
【0021】
具体的には、ソーダガラス、棚珪酸ガラス、鉛ガラス等のガラス粉末、シリカ、ハイドロタルサイト、6ホウ化ランタン、インジウム酸化錫、又は、アンチモン酸化錫を使用することができ、中でも6ホウ化ランタン、インジウム酸化錫、又は、アンチモン酸化錫が好ましい。無機充填材は1μ以下、好ましくは0.5μ以下の粉末とされる。粒径が1μ以下になると一軸延伸糸2のHAZEの上昇が抑えられ透明性を維持することができる。配合量は、通常、0.05〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%とされる。
【0022】
一軸延伸糸2を形成する熱可塑性合成樹脂には、必要に応じて各種の添加材を配合することができ、例えば、フェノール系、有機ホスファイト系、ホスナイトなどの有機リン系、チオエーテル系等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系等の光安定剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤;帯電防止剤;ビスアミド系、ワックス系、有機金属塩系等の分散剤;アルカリ土類金属塩のカルボン酸塩系等の塩素補足剤;アミド系、ワックス系、有機金属塩系、エステル系等の滑剤;ヒドラジン系、アミンアシド系等の金属不活性剤;含臭素有機系、リン酸系等の難燃剤;有機顔料;無機顔料;金属イオン系などの無機、有機抗菌剤等を添加することができる。
【0023】
これら添加剤は、適宜組み合わせて、基層7や接合層8の材料組成物を製造するいずれかの工程で配合される。添加剤の配合は、従来の公知の二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の混練装置を用いて所定割合に混合して、これを溶融混練して調製してもよいし、高濃度のいわゆるマスターバッチを調製し、これを希釈して使用するようにしてもよい。
【0024】
積層一軸延伸糸2を使用する場合、積層フラットヤーン、又は、積層スプリットヤーンの成形材料となる積層フィルムを成形する手段としては、予め基層7となるフィルムと接合層8となるフィルムを形成してドライラミネート法や熱ラミネート法を用いて複層化する手段や、基層7となるフィルムの表面に接合層8となる熱可塑性樹脂をコーティングする方法、予め形成した基層7となるフィルムに接合層8を押出ラミネートする方法、あるいは、多層共押出法によって積層フィルムとして押出成形するなどの公知の手段を適宜選択して用いればよいが、成形の容易さやコスト面、ならびに、製品の各層間の接着性の点では、多層共押出法によって基層7と接合層8の積層体を一段で得る方法が望ましい。シースコア構造、あるいは、サイドバイサイド構造については共押出法によるのが一般的である。
【0025】
また、延伸して一軸延伸糸2とする手段としては、基層7となるフィルムを一軸方向に延伸した後、接合層8となる熱可塑性樹脂を積層し、これをテープ状にスリットしてもよく、あるいは、基層7と接合層8が積層された積層フィルムをスリットする前、又は、スリットした後、一軸方向に延伸することによって得ることもできる。延伸倍率は、通常3〜10倍程度とされる。
【0026】
一軸延伸糸2の太さはなんらの制限はなく目的に応じて任意に設定することができるが、一般的には、50〜10000デシテックス、好ましくは100〜5000デシテックスとされ、一軸延伸糸2がテープ状の場合、糸幅が0.3〜200mm、好ましくは0.5〜100mm、糸厚が5〜500μmの範囲とされる。
【0027】
延伸線条体2の層構造は、三層構造とする場合、一般的には、肉厚構成比を接合層:基層:接合層=1:98:1から25:50:25とされる。
【0028】
こうして得られた延伸線条体2は、図1(A)、(B)に示すように、平織に織成して布状体3とすることができる。また、綾織、斜文織、畦織、二重織、模紗織等に織製することによって布状体3とすることができ、さらに、タテ編み、ヨコ編み、ラッセル編み、トリコット編み等に編込むことによって布状体とすることも可能である。織成するための織機としては、サーキュラー織機、スルーザー型織機、ウォータージェット型織機など公知の織機を用いることができる。また、図2に示すように、複数の延伸線条体2bを並列し、その上に該延伸線条体2bと交差する方向に他の延伸線条体2aを並列してその交点を熱接合した交差結合布(ソフ)からなる布状体3とすることができる。
【0029】
布状体3は、下記式(1)で示される空隙率が、5〜80%、好ましくは10〜60%とされる。5%未満では、覆われたシート内部の温度上昇を避けることが困難となり、また、80%を超えると熱線の遮断効果が低下して高温障害を防止する効果が低下する。
【数3】

【0030】
本発明においては、布状に形成して高温障害防止シート1としたとき、波長400〜780nmの可視光線の累積透過率に対し、波長780〜1200nmもしくは1200〜2000nmのいずれかの近赤外線の累積透過率が10%以上低い、好ましくは20%以上低くなるように形成することが望ましい。
【0031】
光線の透過率を制御する方法としては、一軸延伸糸2を構成する基層7又は接合層8に添加される無機粉体の量、一軸延伸糸2の繊度、経緯糸の打込み本数等によって調節することができる。
【実施例】
【0032】
実施例1
1.フラットヤーン
平均粒径0.1μmの6ホウ化ランタン微粒子を0.2重量%配合した高密度ポリエチレン(密度0.956g/cm、融点132℃)を中間層とし、低密度ポリエチレン(密度0.922g/cm、融点113℃)を接合層としたインフレーションフィルムを成形し、所定幅にスリットし、これを熱板で100℃において7.2倍に延伸後、熱風オーブンで110℃において6%の弛緩処理をして400dt、1mm幅のフラットヤーンを形成した。
2.織成
上記フラットヤーンをタテおよびヨコ糸に使用し、スルーザー織機にてタテ、ヨコの打ち込み密度をそれぞれ8本/25mmに織成したのち、120℃の熱ロールで糸の交点を熱融着させ、空隙率47%の織布を得た。
【0033】
実施例2
実施例1において無機粉体を6ホウ化ランタン微粒子の代わりにアンチモン酸化錫を5重量%分散させる以外は同様にして織布を得た。
【0034】
比較例1
実施例1において中間層に無機粉体を分散させない以外は同様にして織布を得た。
【0035】
上記の方法によって得られた織布について、波長400〜780nm、780〜1200nm、1200〜2000nmのそれぞれの光線の累積透過率を測定し、また得られた織布で屋外の地面をトンネル状に被覆し、地温の変化を測定し、1日のうちで無被覆状態に対する最大の温度差を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
上記の方法によって得られた一軸延伸糸の延伸前後のHAZE(JIS−K7105 曇価)を測定し、その結果を表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明作物の高温障害防止シートは、作物栽培における日覆として、トンネル型覆い、ハウス型日覆、ハウス内カーテンとして利用でき、また、本発明シートは耐久性に優れているから、作物の生育を阻害することのない防砂、防塵、防風用ネットなどとしても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明作物の高温障害防止シートの一例を示す(A)は平面図、(B)は縦断面図
【図2】本発明作物の高温障害防止シートの他の例を示す縦断面図
【図3】(A)〜(C)は一軸延伸糸の例を示す斜視図
【図4】一軸延伸糸の例を示す縦断面図
【符号の説明】
【0041】
1.作物の高温障害防止シート
2.一軸延伸糸
3.布状体
5.切れ目
6.リブ
7.基層
8.接合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の一軸延伸糸が縦横に交差されて形成され、下記式(1)で表される空隙率が5〜80%である布状体からなり、一軸延伸糸が、波長400〜780nmの可視光線の遮蔽力が小さく、波長780〜2000nmの近赤外線の遮蔽力が大きい無機粉体を含有することを特徴とする作物の高温障害防止シート。
【数1】

【請求項2】
布状体が、波長400〜780nmの可視光線の累積透過率に対し、波長780〜1200nmの近赤外線の累積透過率が10%以上低い請求項1記載の作物の高温障害防止シート。
【請求項3】
布状体が、波長400〜780nmの可視光線の累積透過率に対し、波長1200〜2000nmの近赤外線の累積透過率が10%以上低い請求項1記載の作物の高温障害防止シート。
【請求項4】
無機粉体が、6ホウ化ランタン、インジウム酸化錫、又は、アンチモン酸化錫の単体もしくは二種以上の混合物である請求項1〜3のいずれかに記載の作物の高温障害防止シート。
【請求項5】
布状体が、基層の少なくとも片面に基層より融点の低い熱可塑性樹脂からなる接合層が積層されたテープ状の一軸延伸糸が縦横に交差し、その交点が熱融着されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の作物の高温障害防止シート。
【請求項6】
一軸延伸糸が、高密度ポリエチレンまたはポリプロピレンからなる基層と、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体から選ばれた一種または二種以上からなる接合層とが積層されてなる請求項5に記載の作物の高温障害防止シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−55002(P2006−55002A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236925(P2004−236925)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(390019264)ダイヤテックス株式会社 (53)
【Fターム(参考)】