説明

作用物質の放出を制御する材料および方法

【課題】作用物質の放出を外部刺激により制御する材料および方法の提供。
【解決手段】この作用物質の放出制御材料は、開口部と作用物質を充填可能な空間とを有する、酸化チタン、チタン水酸化物、およびチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の中空体と、開口部を封鎖するように中空体に結合される金含有微粒子とを含んでなる。中空体内には作用物質が充填される。そして、外部刺激が与えられることにより、金含有微粒子が中空体から脱離され、作用物質が放出される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、作用物質の放出を制御する材料および方法に関するものであり、具体的には、その内部に作用物質を充填させて、その作用物質を光照射やpH変化等の外部刺激により放出させる材料および方法に関する。このような材料および方法は、医薬品、化粧品、食品添加物、香料、および農薬等、特にドラッグデリバリー材料あるいは化粧品、の用途に好ましく利用することができる。
【0002】
背景技術
医薬品、化粧品、食品添加物、香料、および農薬等の分野において、薬剤、化粧品の美顔成分、あるいは食品の栄養成分等の作用物質を徐々にあるいは制御して放出することができる徐放性材料が知られている。例えば、薬剤の場合にあっては、作用物質を徐々に放出させることにより、薬効効果を長時間維持して、少ない薬の投与でも効果的な治療を行うことが可能となる。また、体内や血中で薬効成分の濃度が過度に上昇することが無くなるため、副作用を低減させることもできる。さらに、病原部にピンポイントで薬効成分を働かせるドラッグデリバリーシステムと呼ばれる技術も提案されている。一方、化粧品の場合にあっては、作用物質を徐々に放出することにより、美白効果等を長時間維持させることが可能となる。このような技術としては、以下のものが知られている。
【0003】
高分子ミセルを利用した徐放性材料により薬剤を徐放する技術が知られている(例えば、非特許文献1(A. Harada, K. Kataoka, Science, 283, 65 (1999))参照)。この徐放性材料は、分子の会合によってできたミセルの中心部となる親水部に薬剤を担持したものである。
【0004】
メソポーラスシリカを用いた徐放性材料により薬剤を徐放する技術が知られている(例えば、特許文献1(特開2002−173319号公報)参照)。メソポーラスシリカは特定の細孔径を持つ複数の穴が存在しており、その穴に入りうる分子を運ぶことができる。また、メソポーラスシリカの穴内に薬剤を充填し、その穴をCdS粒子で封鎖しておき、CdS粒子の離脱により薬剤の放出を制御する方法も提案されている(例えば、非特許文献2(Y. Lai et al. J. Am. Chem. Soc.125, 4451 (2003))参照)。
【0005】
アスコルビン酸を取り込んだ層状複水酸化物を利用した化粧料が知られている(例えば、特許文献2(特開2004−91421号公報)参照)。この化粧料にあっては、複水酸化物の層間にアスコルビン酸が内包されるため、アスコルビン酸を安定に存在させることができる。
【0006】
一方、生体適合性が高い物質としてチタン系の酸化物が知られている。従来、チタン系の酸化物で特定の細孔径を持つ物質の合成は、出発原料が不安定のため困難とされてきたが、近年、水熱合成法による酸化チタンないしチタン酸の中空状ファイバの合成が報告されている(例えば、特許文献3(特開平10−152323号公報)および非特許文献3(L. M. Peng et al., Adv. Mater. 14, 1208 (2002))参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−173319号公報
【特許文献2】特開2004−91421号公報
【特許文献3】特開平10−152323号公報
【非特許文献1】A. Harada, K. Kataoka, Science, 283, 65 (1999)
【非特許文献2】Y. Lai et al. J. Am. Chem. Soc.125, 4451 (2003)
【非特許文献3】L. M. Peng et al., Adv. Mater. 14, 1208 (2002)
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、酸化チタン、チタン水酸化物、およびチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の中空体の開口部を封鎖するように金含有微粒子を中空体に結合させておくと、光照射やpH変化等の外部刺激を与えることにより該金含有微粒子を脱離させることができるとの知見を得た。そして、中空体内にある種の作用物質を充填させておくと、外部刺激の付与により金含有微粒子を離脱させて、開口部を介して作用物質を中空体外へ放出させる、すなわち作用物質の放出を外部刺激により制御することが可能であるとの知見も得た。
【0009】
したがって、本発明は、作用物質の放出を外部刺激により制御することをその目的としている。
【0010】
そして、本発明による作用物質の放出制御材料は、
開口部と作用物質を充填可能な空間とを有する、酸化チタン、チタン水酸化物、およびチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の中空体と、
前記開口部を封鎖するように前記中空体に結合される金含有微粒子と
を含んでなり、外部刺激が与えられることにより、前記金含有微粒子が前記中空体から脱離可能であるものである。
【0011】
また、本発明による作用物質の放出制御方法は、中空体内に作用物質が充填されてなる上記材料に外部刺激を与えて、前記金含有微粒子を前記中空体から脱離させ、それにより前記作用物質を前記中空体外へ放出させることを含んでなるものである。
【発明の具体的説明】
【0012】
作用物質の放出を制御する材料および方法
本発明による作用物質の放出制御材料は、その内部に充填される作用物質の放出を外部刺激により制御することができる材料である。図1に本発明による作用物質の放出制御材料の一例を示す。図1に示されるように、本発明による放出制御材料1は、中空体2と、金含有微粒子3とを含んでなる。この中空体2は、開口部2aと作用物質を充填可能な空間2bとを有し、酸化チタン、チタン水酸化物、およびチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種で構成されてなる。そして、この中空体2には開口部2aを封鎖するように金含有微粒子3が結合される。金含有微粒子の結合は、光照射やpH変化等の外部刺激が与えられることにより金含有微粒子が中空体から脱離可能な形態で結合されていればその結合形態は限定されず、クーロン力、共有結合、分子間力等により結合されることができる。そして、放出制御材料に外部刺激が与えられることにより金含有微粒子が中空体から脱離される。したがって、中空体の開口部を介して、放出を制御(コントロールドリリース)するためのある種の作用物質を中空体内に予め充填させておけば、外部刺激が与えられない間は作用物質の放出を防止ないし抑制させておき、外部刺激を与えることにより金含有微粒子の脱離を介して作用物質を放出させる、すなわち、作用物質の放出を制御することが可能となる。なお、作用物質を中空ファイバ内に保持させることで、中空体によるマスキング効果により作用物質の熱的化学的な変質をある程度防止することも期待される。
【0013】
そして、作用物質が充填され、なおかつ金含有微粒子が所定位置に結合された中空体に光照射やpH変化等の外部刺激を与えることにより、金含有微粒子を脱離させて、作用物質を中空体外へ放出させる。すなわち、それまで行われていなかった作用物質の中空体外への放出が開始されるか、またはそれまでは徐々に緩やかに行われていた作用物質の放出がより迅速に行われるようになる。したがって、作用物質の機能を最も発揮させたいタイミングで外部刺激を与えて作用物質の放出を促進させることにより、その作用物質の機能を最適なタイミングで最大限利用することができる。このため、本発明の材料および方法は、特定のタイミングで作用物質の機能を発揮させることが望まれる用途、例えば、ドラッグデリバリーシステム、化粧品、および食品添加物等の用途への利用価値が高いと言える。
【0014】
中空体
本発明に用いる中空体は、酸化チタン、チタン水酸化物、およびチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種からなり、開口部と作用物質を充填可能な空間とを有する中空体ものであれば限定されないが、中空ファイバを用いるのが好ましい。この中空ファイバとしては、例えば特開平10-152323号およびL. M. Peng et al., Adv. Mater. 14, 1208 (2002)に開示されるものを利用することができ、これらの文献の開示内容は本明細書の開示の一部とされる。本発明に用いる中空体の構成材料は、光照射やpH変化等の外部刺激に対して応答性を有するものであるため、外部刺激に従い開口部を封鎖していた金含有微粒子を脱離させることが可能である。また、これらの材料は、分散性が高く、無毒で生体適合性の高い材料として知られているため、ドラッグデリバリーシステム、化粧品、および食品添加物等の用途に適している。
【0015】
本発明の中空体に使用可能な酸化チタンとしては、結晶質および非晶質のいずれであってもよいが、結晶質酸化チタンが好ましい。結晶質酸化チタンの好ましい例としては、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、およびTiO2(B)が挙げられ、より好ましくは光触媒活性が最も高いアナターゼ型酸化チタンである。また、酸化チタンはTi2O3やTi3O5などの還元体あるいはこの還元体が規則的に配列したマグネリ相を含むものであってもよい。チタン酸塩の好ましい例としては、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸や、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸バリウム等の多価チタン酸塩が挙げられる。
【0016】
本発明における中空ファイバの形状は、長軸方向の両端に作用物質の充填および放出が可能な開口部を有する形状であれば限定されないが、巻物状の層状形状であるのが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、中空ファイバとして、巻物状の層状のチタン酸塩を用いるのが、低コストで大量合成することができ、しかも、均一な細孔径、大きな比表面積、無毒性、および高い生体適合性を有することから好ましい。また、巻物状の層状のチタン酸塩は、結晶性を高めて熱的化学的安定性を向上させるため、熱処理を施したものであってよく、その際の好ましい熱処理温度は50℃〜600℃である。
【0017】
本発明に用いる中空ファイバの好ましい内径は、1nm〜50nmであり、より好ましくは3nm〜8nmである。この範囲内であると、材料はナノ構造を有するため溶媒への分散性に優れ、その結果、外部刺激を与えた際の作用物質の放出をより効率良く行なうことができる。中空ファイバの内径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた直接観察、あるいはBET法による細孔径分布の測定により知ることができる。本発明のより好ましい態様によれば、中空ファイバのサイズは、3〜8nmの内径、8〜30nmの外径、および100nm〜1μmの長さの範囲内であるのが好ましい。このような中空ファイバの製造方法は限定されないが、酸化チタン粒子を水酸化ナトリウム水溶液中において水熱処理することにより好ましく作製することができる。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、中空体はその化学構造内に酸素以外のアニオンを含むものであることができ、例えば、中空体の酸素位置を酸素以外のアニオンで置換する、格子間に酸素以外のアニオンが割り込ませる、あるいは中空体の粒界部に酸素以外のアニオンが配置されるものであってよい。これにより、中空体の光触媒活性を可視光により発現させたり、表面の固体酸性度を上げて修飾分子との結合力を高めたりすることができる。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、中空体にPt、Pd、Ag、Cu, Au, Ni等の金属を担持させることができる。これにより、光照射時に光励起された電子正孔対を効率的に分離させて、親水化活性や酸化分解活性を増大させることができる。また、中空体にAgやCuを担持した場合には、上記効果に加えて、抗菌性も発揮させることができる。
【0020】
金含有微粒子
本発明に用いる金含有微粒子は、金を含んでなる微粒子であって、中空体の開口部を封鎖できる形態を有し、外部刺激の付与により金含有微粒子が中空体から脱離可能なものであれば限定されない。この金含有微粒子は、金および金合金のいずれで構成されてもよいが、金で構成される金微粒子であるのが好ましい。このような金含有微粒子は、粒径分布を小さくしやすい上に、毒性が無く、表面プラズモン吸収により着色するため金含有微粒子が中空体から脱離したか否かを着色の有無により判断できるとの利点がある。好ましい金含有微粒子の粒径は、3〜100nmであり、より好ましくは3〜50nmであり、さらに好ましくは3〜10nmである。この金含有微粒子は、中空体の開口部において分子扉のような開閉機構として機能することができるので、作用物質の徐放速度を精密に制御することができる。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、金含有微粒子の表面が界面活性剤で修飾されてなるのが好ましい。すなわち、界面活性剤の有する電荷または極性により中空体への結合力を強化させて、金含有微粒子の中空体への結合を確実かつ効率的に行うことができる。本発明に使用可能な界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性、および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよいが、好ましくは陽イオン性界面活性剤であり、より好ましくはチオール末端および陽イオン性末端とを有する陽イオン性界面活性剤、例えばアミノアルキルチオールである。チオール基は金と強く共有結合することが可能である。図3に、チオール末端および陽イオン性末端とを有する陽イオン性界面活性剤で修飾された金含有微粒子の模式図を示す。本発明の好ましい態様によれば、図3に示されるように、チオール末端が内側に配置されて金含有微粒子に結合されており、陽イオン性末端が中空体に結合できるように金含有微粒子の外側に配置される。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、金含有微粒子を中空体の開口部を封鎖するように中空体の開口部に選択的に結合させるために、中空体の外表面をシランカップリング剤で表面処理することが好ましい。中空体の壁面をシランカップリング剤で表面処理した状態を図4に、その後中空体の開口部に金含有微粒子を結合させた状態を図5に示す。図4に示されるように、中空体2の外壁表面では長鎖のシランカップリング剤5の分布が密になっているが、これは長鎖部分の疎水間相互作用によるものである。一方、同図に示されるように、中空体の開口部2a近傍では、中空体の外壁表面と比べて、長鎖のシランカップリング剤5の分布が疎となる。したがって、金含有微粒子3はシランカップリングによって阻害されにくい開口部2aに容易に接触して、選択的に結合されることができる。本発明に使用可能なシランカップリング剤としては金含有微粒子の中空体の外壁表面への結合を阻害することができる化学構造を有するものであれば限定されないが、アルキルシラン類が好適に使用でき、より好ましくは、オクタデシルトリエトキシシランを使用することができる。本発明の好ましい態様によれば、シランカップリング剤での中空体表面の修飾は、シランカップリング剤をエタノール等の溶媒で希釈し、この希釈液に中空体を、10〜200℃、好ましくは60℃〜100℃で、1〜6時間浸漬させるにより行うことができる。
【0023】
作用物質
本発明において、中空体内には作用物質を充填させる。作用物質を中空体に充填できる限りその方法は限定されないが、作用物質を含む溶液に中空体を浸漬することにより簡便に行うことができる。この作用物質の中空体内への充填は、金含有微粒子の結合の前に行われる。
【0024】
本発明に用いる作用物質は、中空体内に充填させることができ、かつ、光やpH変化等の外部刺激に伴う金含有微粒子の脱離によって中空体外に放出可能な物質であれば限定されず、薬剤、化粧料(美顔成分)、栄養剤、香料、農薬、および肥料等の各種の物質が使用可能である。したがって、作用物質の大きさは、中空体の内径よりも小さいことが望まれる。
【0025】
薬剤の好ましい例としては、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メソトレキセート、シクロホスファミド、塩酸ダウノルビシン、アドリアマイシン、塩酸イダルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、アクチノマイシン、ビンクリスチン、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ネダプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、塩酸イリノテカン等の抗がん剤;ペニシリン系、マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系等の抗菌剤;ラミブジン、ネルフィナビル、インジナビ、サキナビル、インターフェロン、アマンタジン、アシクロビル等のウイルス治療薬;ニュープロレリン、ブセレリン、ゴセレリン、トリプトレリン、ナファレリン等のホルモン疾患治療薬;イブプロフェン等の鎮痛薬等が挙げられる。化粧料(美顔成分)の好ましい例としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK等のビタミン類;アントシアニン;コラーゲン;ヒアルロン酸;カルコン誘導体等が挙げられる。好ましい経口用の栄養剤の例としては、ドコサエキサエン酸、エイサコペンタエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、月見草油、ボラージ油、レシチン、オクタコサノール、ローズマリー、セージ、γ-オリザノール、β-カロチン、パームカロチン、シソ油、キチン、キトサン、ローヤルゼリー、プロポリス、ギムヘマ、ヘム鉄等が挙げられる。香料の好ましい例としては、オレンジ、ライム、レモン、グレープフルーツなどの柑橘類精油や花精類;ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油などの植物精油;コーラナッツ、コーヒー、ワニラ、ココア、紅茶、緑茶、香辛料、各種動植物由来のフレーバー等が挙げられる。農薬の好ましい例としては、各種の殺虫剤、昆忌避剤、殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、植物成長調整剤等が挙げられる。肥料の好ましい例としては、硫安、硝案、硝酸ソーダ、硝酸石灰、硫酸カリ、塩化カリ、硫酸カリ苦土、可溶性等が挙げられる。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、作用物質として、中空体の内壁に脱水縮合により結合可能な物質を用いるのが好ましい。これにより、作用物質が中空体の内壁に脱水縮合で結合されることができ、かつ、光照射に応じて発現する中空体の光触媒活性により上記結合が分解されて作用物質を外部に放出させることができる。
【0027】
本発明のより好ましい態様によれば、中空体の内壁に脱水縮合で結合可能な作用物質として、水酸基を有する分子を使用するのが好ましい。これにより、中空体の光触媒活性による作用物質自体の分解を防止することができる。すなわち、水酸基が中空体の水酸基と脱水縮合して形成される結合は比較的弱く光触媒活性により容易に分断されるため、作用物質の水酸基が再生可能な形で放出される。
【0028】
本発明のさらに好ましい態様によれば、中空体の内壁に脱水重縮合で結合している作用物質として、ジオール基を有する分子を使用するのが好ましい。この分子は水に溶かした場合は無色透明であるが、ジオール基に含まれる2個の水酸基の双方が中空ファイバと脱水重縮合すると、界面準位により着色する。したがって、結合していると着色し、脱離すると無色化するため、着色の度合いを作用物質が放出したかどうかを確認するためのインジケーターとして利用できる。また、化粧用ファンデーションの用途にあっては、ジオール基を有する作用物質を結合させることで人肌に近い色合いを出すことができる。ジオール基を有する分子の好ましい例としては、カテコール、メチルカテコール、ターシャリーブチルカテコール等のカテコール類;ジハイドロキシシクロブテンジエン;アスコルビン酸;ドーパミン;アリザリン;およびビナフタレンジオールが挙げられ、より好ましくはアスコルビン酸である。特に、L-アスコルビン酸はビタミンCとも呼ばれ、薬理作用や免疫増強作用を有するとともに、美白作用やしわ防止などにも大きな効果があることが知られている。したがって、中空ファイバ内に作用物質としてL-アスコルビン酸を充填させておくことで紫外線の照射に応じてL-アスコルビン酸を放出させることができ、その結果、紫外線により生じ得る皮膚のダメージを、放出されるL-アスコルビン酸によって効率的に抑制することができる。
【0029】
本発明の別の好ましい態様によれば、作用物質として、分子または粒子を用いることもできる。好ましくは前記分子や粒子の表面には電荷が存在する。中空体の表面は多くの酸化物や水酸化物と同様、酸性ではカチオン性、アルカリ性ではアニオン性となることから、pHを変化させることで表面の電荷状態を変化させることができる。そして、作用物質が電荷を帯びていると中空体の表面との間にクーロン力による引力または斥力が働くため、中空体と作用物質との間に斥力が働くようにpHを変化させることにより、内部に充填してある作用物質を外部に放出させることが可能となる。
【0030】
外部刺激
本発明にあっては、放出制御材料に何らかの外部刺激を与えることにより、金含有微粒子が中空体から脱離させることができる。したがって、中空体の開口部を介して、放出を制御(コントロールドリリース)するためのある種の作用物質を中空体内に予め充填させておけば、外部刺激が与えられない間は作用物質の放出を防止ないし抑制させておき、外部刺激を与えることにより金含有微粒子の脱離を介して作用物質を放出させる、すなわち、作用物質の放出を制御することが可能となる。本発明に用いることができる外部刺激としては、作用物質の中空体外への放出に寄与し得るものであれば限定されないが、好ましくは光照射またはpH変化が挙げられる。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、外部刺激として、中空体の光励起を伴う光照射を使用することができる。本発明に用いる中空体は光触媒活性を有することができるため、紫外線の照射により、表面で酸化還元反応が生じる。この反応によって中空体と金含有微粒子との間の結合、あるいは中空体と金含有微粒子に結合された界面活性剤との間の結合が分断され、金含有微粒子、および中空体に充填される作用物質が外部に放出される。光照射を行うための好ましい光源としては、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀-キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、および赤)、レーザー光、および太陽光等が挙げられる。また、ドラッグデリバリー等の生体内において作用物質を放出させる用途にあっては、生体内への光照射は、体外に当てて光を体内に透過させること、導光ファイバを用いて経口から内臓に向けて照射すること、または導光ファイバを直接生体組織に挿入して照射することのいずれであってもよい。
【0032】
本発明の別の好ましい態様によれば、外部刺激として、pHの変化を用いることができる。本発明に用いる中空体の表面は、酸性下でカチオン性、アルカリ性下でアニオン性となることから、pHを変化させることで表面の電荷状態を変化させることができる。例えば、中空体として巻物状の層状のチタン酸塩を用いる場合、等電点におけるpHが5.5となるので、この値よりも低いpH領域ではカチオン性、高い領域ではアニオン性となる。そして、金含有微粒子、あるいは金含有微粒子に結合された界面活性剤が電荷を帯びていると中空体の表面との間にクーロン力による引力または斥力が働くため、中空体と金含有微粒子、あるいは中空体と界面活性剤との間に斥力が働くようにpHを変化させることにより、金含有微粒子、および中空体に充填される作用物質を外部に放出させることが可能となる。例えば、金含有微粒子に結合された界面活性剤の外側末端がカチオン性であれば、中空体の表面をカチオン性にすることで作用物質を放出させることが可能となる。一方、金含有微粒子に結合された界面活性剤の外側末端がアニオン性であれば、中空体の表面をアニオン性にすることで作用物質を放出させることができる。
【0033】
外部刺激としてpHの変化を用いる上記態様は化粧料の用途に適しており、例えば、発汗や雑菌の増殖によって変化する肌のpHに応じて薬理効果のある作用物質を放出させることにより、肌のコンディションに応じて適切に化粧効果を発揮させることが可能となる。また、この態様は医薬の用途にも適しており、例えば、胃酸との接触によるpH変化に応じて胃薬を放出させることにより、効果的な胃の治療が可能となる。このとき、電荷を帯びた作用物質は、中空体の内径よりも小さい大きさの粒子状物質に薬剤を担持させたものであってもよい。
【0034】
修飾分子
本発明の好ましい態様によれば、使用環境や作用物質の種類に応じ、中空体の内壁および外壁の少なくともいずれか一方の表面に固定化された修飾分子をさらに備えてなることができる。内壁および外壁に修飾する物質は、同一物質および異なる物質のいずれであってもよい。この修飾分子はリンカー部および主鎖部を有しており、リンカー部が中空体の表面に結合される。修飾分子を中空体の外壁に結合することによって、使用環境における分散性を高めたり、がん細胞などの悪性組織に対する能動的ターゲッティング等として機能させたりすることができる。一方、作用物質と親和性の高い修飾分子を内壁に結合することで、作用物質を高密度に充填することが可能となる。また、中空体の内壁に修飾分子を結合することで、作用物質と中空体間の相互作用が変化するため、作用物質の放出速度を速めたりあるいは遅くしたりすることが可能となる。
【0035】
本発明のより好ましい態様によれば、修飾分子のリンカー部と中空体の表面とは、共有結合、水素結合、イオン結合、および配位結合からなる群から選択される少なくとも一つの結合で固定化されるのが熱的化学的な安定性が高いため好ましい。修飾分子の結合は中空体の表面の一部を覆うように形成されてもよいし、その全てを覆うように形成されてもよい。
【0036】
修飾分子のリンカー部の好ましい例としては、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類、シロキサン類、およびこれらの組合せが挙げられる。これらの官能基は中空体との間の結合力が高い。
【0037】
本発明の材料を水中に分散させて使用する場合、修飾分子の主鎖部の好ましい例としては、ポリカチオンおよびポリアニオン等のポリマーが挙げられ、より好ましくは、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリアリルアミン、ポリアリルアルキルアンモニウム、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール等、およびこれらの共重合体が挙げられる。
【0038】
本発明の材料を有機溶媒中に分散あるいは水中に浮揚させて使用する場合、中空体の外壁を疎水性とするため、主鎖部が疎水性構造を有する修飾分子を使用することが好ましい。主鎖部が疎水性構造を有する修飾分子の好ましい例としては、アルキル鎖、フッ素樹脂、および芳香族系分子を含む物質が挙げられ、より好ましくは、長鎖状のシランカップリング剤やアルキルアミンが挙げられる。これらの修飾分子は中空体の表面に容易かつ強固に結合することができる。特に、シランカップリング剤を用いた場合、シランに修飾された親水部の官能基と中空ファイバとの間で脱水中縮合が起き、共有結合で強く結合される。また、シランカップリング剤は中空体の光触媒活性によっても分解されにくく、安定である。
【0039】
本発明の材料を生体内細胞または医療用途に使用する場合、修飾分子の主鎖部を分解対象物質の能動的ターゲッティングとして機能させることができる。例えば、生体内のガン等の悪性組織を分解するため、細胞との親和性の高い主鎖部を選択することにより、細胞内への中空体の取り込みが容易となる。細胞との親和性の高い主鎖部の例としては、ポリエチレングリコール、キチン、キトサン等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、修飾分子の主鎖部または主鎖部に結合させる物質として、生体内の悪性物質と特異的に結合可能なタンパク質を用いることにより、分解対象物質の能動的ターゲッティングを効果的に機能させることができる。このようなタンパク質の例としては、抗体、リガンド、レセプター、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびアミノ酸が挙げられる。また、本発明の別の好ましい態様によれば、修飾分子の主鎖部または主鎖部に結合させる物質として核酸を使用することにより、核酸の塩基配列に応じて生体内の病原遺伝子や病原物質への高い選択吸着能を発揮させることができる。
【0040】
本発明の材料を化粧品として使用する場合、水落ちや汗落ちを防ぐために、修飾分子の主鎖部として両親媒性の分子を用いるのが好ましい。このような両親媒性の分子は水とも油とも親和性が高いため、肌への付着性も良く、汗落ちしにくい。好ましい両親媒性の分子は、親水基と疎水基の双方を含んでなる分子である。両親媒性の分子の親水基の好ましい例としては、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、およびポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類が挙げられる。両親媒性の分子の疎水基の好ましい例としては、アルキル、フッ素樹脂、および芳香族系分子が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、難分解性の主鎖部を持つ修飾分子を中空体の外壁に修飾させることにより、皮膚と接触する外壁部の光触媒活性を抑制することができ、光触媒反応によって生成した活性酸素による肌へのダメージを抑制することができる。難分解性の主鎖部を持つ修飾分子の好ましい例としては、シランカップリング剤やアルキルアミン等が挙げられる。
【0041】
本発明の材料において、修飾分子の中空体への結合はいかなる方法によって行ってもよく限定されないが、修飾分子を含む溶媒に中空体を浸漬することにより簡便に行うことができる。このとき、結合を促進するため、加熱処理、あるいは酸やアルカリ等を用いた化学処理を行ってもよい。これにより、修飾分子の分子長に依存して、中空体の内壁および外壁の双方、または外壁のみに修飾分子を結合させることができる。
【0042】
中空ファイバの内壁および外壁の双方に長鎖の修飾分子を結合させる場合、修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を中空ファイバの内径よりも小さく設計するのが好ましい。一般的に、修飾分子は極性を有するため、多くの界面活性剤と同様、中空ファイバの中でミセルを形成し得る。中空ファイバの内部において、修飾分子の親水部が中空ファイバ側へ固定化され、疎水部が中空ファイバの中心に向かって配向する構造をとり、いわゆる「ロッドライクミセル」を形成する。このロッドライクミセルの径は修飾分子の長さ(R)の2倍(2R)に相当するため、内壁にミセルを形成させるためには、2Rの値が中空ファイバの内径よりも小さいことが望ましい。このように内径を設定することで、修飾分子を中空ファイバの内部まで結合させることが可能となる。例えば、中空ファイバの内径が3.5nmである場合、修飾分子の2Rは3.5nmよりも小さく設計する。
【0043】
一方、修飾分子を中空ファイバの外壁のみに結合させる場合、修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を前記中空ファイバの内径よりも大きく設計する。例えば、中空ファイバの内径が3.5nmである場合、修飾分子の2Rは3.5nmよりも大きく設計する。ミセル形成時の分子の大きさに相当する修飾分子の長さの2倍(2R)が中空ファイバの内径よりも大きいと、内壁にミセルを形成しにくくなり、外壁のみに修飾分子が結合する。
【0044】
中空ファイバの内壁のみに修飾分子を結合させる方法としては、上述の方法により修飾分子を内壁および外壁の双方に結合させた後に、酸またはアルカリ処理等の化学的処理や、アルゴンスパッタリング等のプラズマエッチングによって、外壁に結合した修飾分子のみを除去することにより行うことができる。
【0045】
修飾分子を中空体に結合するための上記以外の別の方法としては、CVD、PVD、真空蒸着、レーザーアブレーション、イオンプレーティング、およびスパッタ等の乾式コーティング法が挙げられる。
【0046】
中空体と修飾分子との化学結合の有無は、FT-IRやNMR等の機器分析により確認することができる。例えば、修飾分子がアルキルアミンの場合、フリーのアミンイオンと中空ファイバに吸着させたアミンイオンとのNH伸縮振動をFT-IRで測定することにより、化学結合の有無を判定することができる。すなわち、フリーのアミンイオンにて3300cm-1付近に観察されるNH伸縮振動が、中空ファイバに化学結合すると低波数側にシフトする。また、化学結合の有無を中空ファイバのOH基の伸縮振動を測定することにより確認することもできる。すなわち、中空ファイバのOH基に修飾分子が化学結合すると中空ファイバにもともと存在していた化学吸着したOH基からの信号が消失することから、この信号の消失の有無を確認することにより中空ファイバと修飾分子との化学結合の有無を確認できる。
【0047】
使用形態
本発明による作用物質が充填された中空体は、そのままの形態でも使用可能であるが、用途に応じて、水、有機溶媒、および油脂等の分散媒に分散させるか、または基材に担持させることにより好ましく使用することができる。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、分散媒としてアミン水溶液を用い、かつ中空体を構成するチタン含有化合物の内部ないし表面にプロトンが付加されてなるのが好ましい。これにより、中空体の電気的中性が保たれて凝集の駆動力となる静電エネルギーを低くなり、本発明の材料を高い分散性で分散媒に分散させることができる。したがって、外部刺激により作用物質の中空体外への放出をさらに促進することができる。
【0049】
この分散液は、中空体を酸水溶液に接触させた後、アミン水溶液に分散もしくは添加させることにより容易に得ることができる。すなわち、中空体は酸水溶液との接触によってその内部および表面にプロトンが付加されて安定化し、アミン水溶液によって高度に分散される。
【0050】
プロトンが付加された中空体は、従来の酸化チタンよりも強いアニオン性を示し、好ましくは等電点におけるpHが3〜6であり、より好ましくはpH5〜6である。このようなプロトンが付加された中空体は、等電点でのpHが6〜7である従来の酸化チタンコロイドと比較して、中性領域の分散性に優れる。中空体にプロトンを付加する方法として、中空体を酸水溶液と接触させることにより行うのが好ましく、使用可能な酸の例としては、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、フッ酸、臭素酸、沃素酸、亜硝酸、酢酸、および蓚酸が挙げられる。中空体と酸水溶液と接触させる際の温度は、0〜100℃であるのが好ましく、より好ましくは10〜50℃である。中空体に対するプロトン付加量は、赤外分光法(IR)、昇温脱離法(TDS)、あるいはCHNコーダで分析することができる。例えば、CHNコーダで分析により得られた中空体中の水素濃度が3%以上であった場合、従来のアナターゼ型酸化チタンに含まれる水素の量である約1%よりも高いことから、水素の濃度1.5%以上でプロトンが付加されたものと見なすことができる。
【0051】
本発明において分散媒に用いることができるアミン化合物の好ましい例としては、(i)下記式で表される第4級アミン化合物:
【化1】

【0052】
[式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、または炭素数1〜18のアリール基である];(ii)下記式で表わされる第3級アミン化合物:
【化2】

【0053】
[式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、または炭素数1〜18のアリール基である];(iii)分子中に複数のアミン部位が存在するポリアミン化合物、例えば、下記式で表されるジアミン化合物:
【化3】

【0054】
[式中、nは1〜10の整数である];および(iv)アミン部位が分子中に多数存在しうる高分子アミン、例えば、ポリジアリルジメチルアミン(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)、およびポリアリルアミン(PAA)が挙げられる。
【0055】
本発明における中空体分散液のpHは限定されず、広いpH領域にわたって安定な分散性を確保することができる。アルカリ性の分散液を用いる場合、溶液中のアミン化合物の濃度は0.001〜10Mとするのが好ましく、より好ましくは0.01〜2Mである。また、中性の分散液を用いることもできる。すなわち、等電点が通常はpH7付近に存在する従来の光触媒材料(例えば酸化チタン)とは異なり、プロトンが付加された中空体の好ましい等電点はpH3〜6の弱酸性領域に存在するため、この中空体は中性領域においても分散が可能となる。さらに、酸性の分散液も使用可能である。これは、中空体のより好ましい等電点がpH5〜6であることから、溶液のpHを1〜5とすれば、中空体同士の静電反発が生じて好適に分散可能となるためである。
【0056】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の分散液がバインダー成分を更に含んでなることにより、基材に塗布するためのコーティング剤とされてもよい。バインダーとしては、シロキサン結合を有する物質またはフッ素樹脂エマルジョンを好ましく使用することができる。
【0057】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の分散液またはコーティング剤中における固形分濃度は10%以下とするのが好ましい。この範囲内であれば、分散性が高く、沈殿を生じることなく、室温で長期間安定である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
例1:中空ファイバの作製
酸化チタン粉末(商品名F6、昭和電工(株))0.64gを10M水酸化ナトリウム水溶液80mlに投入し、ガラス棒にて1分間攪拌して、白色懸濁液を得た。この白色懸濁液を100mlフッ素樹脂製容器に入れ、このフッ素樹脂製の容器をさらにステンレス製容器に入れた。乾燥器の中にこのステンレス容器を入れて、110℃で20時間保持した。反応終了後、室温までステンレス容器を自然放冷させ、白色沈殿物を含む溶液を回収した。
【0060】
この白色沈殿物を含む溶液に以下の洗浄工程を行った。まず、スポイトを用いて上記溶液から上澄み液を除去した。残った白色沈殿物に0.1M塩酸水溶液100mlを少量ずつ添加した。塩酸水溶液を全量添加した後、室温(20℃)で3時間静置して上澄み液を除去した。この洗浄工程を合計3回行い、上澄み液がpH7以下であることを確認した。これらの中和操作の後、残った白色沈殿物を蒸留水で2回洗浄することにより白色粉末を得た。この得られた粉末を#1試料とする。
【0061】
この白色粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S-5200)を用いて15万倍の倍率で観察した。その結果、得られた白色粉末が中空ファイバの集合体であり、各ファイバは外径8〜15nm、内径3〜5nmの中空構造になっていることを確認した。
【0062】
また、XRD(マック・サイエンス製、MXP−18)を用いて白色粉末の結晶構造を解析した。その結果、白色粉末の結晶構造は、チタン酸構造であることが判明した。
【0063】
さらに、比表面積/細孔分布測定装置(アサップ2000,マイクロメリティックス社製)を用いて白色粉末を解析した。その結果、細孔径分布については中空ファイバの内径3.5nmに相当する急峻なピークが観察され、比表面積は78m/gであった。
【0064】
次いで、得られた中空ファイバ粉末の壁面へシランカップリング剤の修飾を行った。シランカップリング剤の修飾は、シランカップリング剤としてオクタデシルトリエトキシシランを用い、これをエタノール中に濃度2wt%となるように希釈し、60℃の温度で上記中空ファイバを24時間浸漬させることにより行った。
【0065】
例2:金微粒子の作製
1.42mMの塩化金酸水溶液20mlを100mlのナス型フラスコに入れ、スターラーで撹拌させながら200mMの6−アミノヘキサンチオールヒドロクロリド水溶液を200μl添加した。溶液がほぼ透明になったところで、26.4mMのNaBH4水溶液を添加して還元を行い、カチオン性の金微粒子を得た。
【0066】
例3:金微粒子の中空ファイバへの結合
例1で得られたシランカップリング剤で表面処理する前の中空ファイバを、例2で得られた金コロイド溶液に25℃で24時間浸漬させた。こうして得られた各粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察した。その結果、図6に示される画像が得られ、金微粒子が中空ファイバ吸着している様子が確認できた。
一方、例1で得られたシランカップリング剤で表面処理した中空ファイバについても上記同様にして、金微粒子の結合を行い、走査型透過電子顕微鏡で観察した。その結果、図7に示される画像が得られ、シランカップリング剤で表面処理していない図6と比べて、中空ファイバの端部に優先的に金微粒子が吸着されたことが確認できた。
【0067】
例4:中空ファイバが担持された薄膜の作製
例1で得られた#1試料の粉末を2M硝酸水溶液64ml中に添加し、室温で15時間マグネティックスターラーによって攪拌して、半透明溶液を得た。この半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株)、M200-IVD)により5000rpmにおいて30分間遠心分離を施し、プロトンを付加した白色ゲルを得た。この白色ゲルを0.1Mの水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に加え、室温で24時間、マグネティックスターラーを用いて攪拌して、半透明な溶液を得た。この溶液に100mmolの塩酸をさらに加えてpHが9.5になるように調整して、中空ファイバが分散した水溶液を得た。
【0068】
一方、ポリエチレンイミン(和光純薬工業、平均分子量:10000)0.25gを水97.5gに溶解して、濃度0.25%のポリエチレンイミン水溶液を作製した。
【0069】
また、カチオン性のポリマー溶液として、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:Aldrich社製、平均分子量:100000〜200000、濃度:10wt%)の10%水溶液を純水で20倍に希釈し、濃度2%のPDDA水溶液を作製した。得られたPDDA水溶液に0.1Mの水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液を加え、pHが9.5となるように調整した。
【0070】
一方、基材として石英ガラス(東芝ガラス、T-4040)を用意した。この基材を熱濃硫酸中に浸し、基材表面に付着した有機物を除去した後、純水で洗浄した。この基材をポリエチレンイミン(和光純薬工業、平均分子量:10000)の0.25wt%の水溶液に10分間浸漬した後、純水で洗浄した。
【0071】
こうして洗浄された基材を、中空ファイバを含む溶液中に10分間浸漬して、純水で洗浄した。この基材をさらにポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:Aldrich社製、平均分子量:100000〜200000)の2wt%水溶液に10分間浸漬して、純水で洗浄した。以後、中空ファイバを含む溶液とPDDA水溶液への浸漬および洗浄を繰り返して、10層の中空ファイバの層を有してなる薄膜を作製した。
【0072】
得られた薄膜に紫外線を照射して、層間のカチオン性ポリマーを分解して除去した。この紫外線の照射は、200Wの水銀-キセノンランプ(林時計工業製、LA-210UV)を用いて24時間行った。結晶性を高めるため、得られた薄膜に対し、大気中、400℃で1時間の熱処理を行った。
【0073】
例5:中空体に結合された金微粒子の紫外線照射による脱離
例4で得られた薄膜を、pHを9.0に調整した金微粒子のゾルに27℃で2時間浸漬した。得られた薄膜を、硝酸を用いてpH3.0に調整した水溶液中に浸漬した後、紫外線照射を行った。紫外線照射は200Wの水銀−キセノンランプ(林時計工業製、LA-210UV)を用いて、3時間行った。
【0074】
金微粒子を結合させる前後の薄膜の吸光度を分光光度計(島津製作所製、UV-3150)を用いて測定したところ、図8に示される通りの結果が得られた。図8に示されるように、金微粒子を結合させた薄膜にあっては、波長560nmにピークが存在する金微粒子の表面プラズモン吸収が観測され、金微粒子の存在が確認された。次いで、この金微粒子を結合させた薄膜について、紫外線を照射する前と、紫外線を照射した際とにおける、波長560nmの吸光度を測定したところ、図9に示される通りの結果が得られた。図9に示されるように、紫外線の照射によって波長560nmにおける吸光度が減少したことから、紫外線の照射によって薄膜中の中空体に結合させた金微粒子が脱離したことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の作用物質の放出制御材料の一例を示す図である。
【図2】図1に示される放出制御材料に外部刺激を与えた際の様子を示す図である。
【図3】チオール末端および陽イオン性末端とを有する陽イオン性界面活性剤で修飾された金微粒子を示す図である。
【図4】中空体の外壁の表面をシランカップリング剤で表面処理した状態を示す図である。
【図5】図4に示される中空体の開口部に金微粒子を結合させた状態を示す図である。
【図6】例3で得られた、シランカップリング剤で表面処理していない中空ファイバに金微粒子を結合させた様子を撮影した、走査型透過電子顕微鏡画像である。
【図7】例3で得られた、シランカップリング剤で表面処理された中空ファイバに金微粒子を結合させた様子を撮影した、走査型透過電子顕微鏡画像である。なお、図7の左上欄には、図7における点線で囲まれた部分の拡大図を示す。
【図8】金微粒子を結合させる前後の薄膜の吸光度を示す図である。
【図9】金微粒子を結合させた薄膜に紫外線を照射する前と、紫外線を照射した際とにおける、波長560nmの吸光度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部と作用物質を充填可能な空間とを有する、酸化チタン、チタン水酸化物、およびチタン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の中空体と、
前記開口部を封鎖するように前記中空体に結合される金含有微粒子と
を含んでなり、外部刺激が与えられることにより、前記金含有微粒子が前記中空体から脱離可能である、作用物質の放出制御材料。
【請求項2】
前記中空体内に充填された作用物質をさらに含んでなる、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記中空体が中空ファイバであり、前記開口部が前記中空ファイバの端部に位置する、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
前記中空ファイバが、3〜8nmの内径、8〜30nmの外径、および100nm〜1μmの長さを有する、請求項3に記載の材料。
【請求項5】
前記中空ファイバが、巻物状の層状のチタン酸塩からなる、請求項3または4に記載の材料。
【請求項6】
前記中空体の外壁の表面が、シランカップリング剤で表面処理されてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
前記金含有微粒子の粒径が3〜100nmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
前記金含有微粒子の表面が、界面活性剤で修飾されてなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
前記界面活性剤が、チオール末端および陽イオン性末端を有する、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記作用物質が、薬剤、化粧料、農薬、殺虫剤、食品、および栄養剤からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
前記外部刺激が、中空体の光励起を伴う光照射により行われる、請求項10に記載の材料。
【請求項12】
前記外部刺激が、pHの変化により行われる、請求項10に記載の材料。
【請求項13】
請求項2〜12のいずれか一項に記載の材料に外部刺激を与えて、前記金含有微粒子を前記中空体から脱離させ、それにより前記作用物質を前記中空体外へ放出させることを含んでなる、作用物質の放出制御方法。
【請求項14】
前記外部刺激が、中空体の光励起を伴う光照射により行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記外部刺激が、pHの変化により行われる、請求項13に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−145982(P2007−145982A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342035(P2005−342035)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】