説明

使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法

【課題】使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する。
【解決手段】使用済みセルを粉砕する第1工程11と、第1工程11の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%のスラリーを作製する第2工程12と、第2工程12で作製したスラリーに酸を加えてpH2〜4に調整する第3工程13と、第3工程13でpH調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/lの捕収剤を添加する第4工程14と、第4工程14のスラリーを起泡させて第1金属微粒子を泡に付着させ、残りの第2金属微粒子を沈殿させる第5工程15と、第5工程15で得られた第2金属微粒子の沈殿物をろ過し、沈殿物を得る第6工程16aと、第6工程16aで得られた沈殿物を洗浄、乾燥してLa、Sr、Ga、Mg、Coを主成分とする固形物を得る第7工程16bと、第7工程16bで得られた固形物を微粉末に粉砕する第8工程17とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の廃棄材料に含まれる金属を回収する方法に関する。更に詳しくは、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を効率よく回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属は、あらゆる技術分野において、製品を製造するための材料として不可欠な存在となっており、その使用量は増加の一途を辿っており、それに伴って莫大な量の廃棄物の処理が問題となっている。近年、循環型経済社会を形成する取り組みが広く行われており、リサイクル技術開発や事業化が活発化している。廃棄材料から再利用可能な金属を回収してリサイクルする方法は、各種の分野に及んでおり、例えば、化合物半導体の破損ウェーハや切断屑などの各種スクラップからガリウムを回収する方法や、貴金属メッキの廃液から貴金属を回収する方法、燃料電池の電解質から金属を回収する方法など多岐に及んでいる。
【0003】
燃料電池の分野においては、燃料電池の電極を構成する触媒層から触媒である貴金属を回収する方法であって、触媒層を構成する貴金属および貴金属を担持する炭素粉の混合体を極性溶媒および塩基性化合物で構成される電着液の中に入れて炭素粉をイオン化し、電気泳動により炭素粉を電極上に析出させて分離し、炭素粉が分離した電着液から貴金属を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−207003号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池は、一般的に、電解質の種類により、固体酸化物形、溶融炭酸塩形、リン酸形、高分子電解質形、及びアルカリ水溶液形の5種類に大きく分類され、上記特許文献1に記載される貴金属の回収方法は、高分子電解質形の燃料電池におけるものであり、固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法についてはこれまで開示されていない。
【0005】
本発明の目的は、固体酸化物形燃料電池の発電セルから固体電解質層を構成する金属を回収できる金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、Sm、Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni、Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La、Sr、Ga、Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法であって、使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程と、第1工程の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、第2工程で作製したスラリーに酸を加えて前記スラリーをpH2〜4に調整する第3工程と、第3工程でpH調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/lの捕収剤を添加する第4工程と、第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて第1金属微粒子を泡に付着させ、残りの第2金属微粒子を沈殿させる第5工程と、第5工程で沈殿させた第2金属微粒子をろ過し、沈殿物を得る第6工程と、第6工程で得られた沈殿物を洗浄、乾燥してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第7工程と、第7工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第8工程とを含むことを特徴とする金属の回収方法である。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、酸が酒石酸、クエン酸、硝酸又は硫酸である金属の回収方法である。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、捕収剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムである金属の回収方法である。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第5工程に続いて、第5工程で泡に付着した第1金属微粒子を硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第9工程と、第9工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る第10工程と、第10工程で得られた浸出残渣を塩酸で処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる第11工程と、第11工程の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る第12工程と、第12工程で得られたろ液にアルカリを加え、次いで炭酸塩を加えて沈殿を析出させる第13工程と、第13工程で生成した沈殿を固液分離した後、洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物と、Srの炭酸塩とを得る第14工程と、第14工程で得られた酸化物と炭酸塩を焼成した後、微粉末に粉砕する第15工程とを更に含む金属の回収方法である。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第6工程と第7工程の間に、第第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第16工程と、第16工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、及びCoを含む浸出残渣を得る第17工程とを更に含む金属の回収方法である。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明であって、酸が酒石酸、クエン酸、硝酸又は硫酸である金属の回収方法である。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項5又は6に係る発明であって、捕収剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムである金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回収方法によれば、使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程と、第1工程の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、第2工程で作製したスラリーに酸を添加してスラリーをpH2〜4に調整する第3工程と、第3工程でpH調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/lの捕収剤を添加する第4工程と、第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて第1金属微粒子を泡に付着させ、残りの第2金属微粒子を沈殿させる第5工程と、第5工程で沈殿させた第2金属微粒子をろ過し、沈殿物を得る第6工程と、第6工程で得られた沈殿物を洗浄、乾燥してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第7工程と、第7工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第8工程とを経ることにより、使用済み固体酸化物形燃料電池セルから固体電解質層を構成する金属を回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を実施するための最良の形態を図1に基づいて説明する。
【0015】
固体酸化物形燃料電池の構造は、一般に、空気極層と燃料極層の間に固体電解質層が配された積層構造を有する発電セルと、この発電セルの空気極層の外側に積層させた空気極集電体及び発電セルの燃料極の外側に積層させた燃料極集電体と、空気極集電体の外側に積層された空気極集電体側セパレータ及び燃料極集電体の外側に積層された燃料極側セパレータにより構成される基本構造を有している。
【0016】
発電セルの固体電解質層で使用される材料は、酸化物イオン伝導体であり、例えば、一般式:La1-XSrXGa1-Y-ZMgYZ3(式中、A=Co、Fe、Ni、Cuの1種又は2種以上、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表されるランタンガレート系酸化物イオン伝導体などが使用されている。また発電セルの燃料極層は、例えば、一般式:Ce1-mm2(式中、BはSm、La、Gd、Y、Caの1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるB(ただし、BはSm、La、Gd、Y、Caの1種または2種以上を示す。以下、同じ)ドープされたセリア粒とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体からなることが知られている。更に空気極は、(Sm、Sr)CoO3、(La、Sr)MnO3などのセラミックスで構成されている。
【0017】
本発明は、Sm、Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni、Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La、Sr、Ga、Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法である。具体的には、例えば、空気極層が(Sm0.5Sr0.5)CoO3のセラミックス、燃料極層がCe0.8Sm0.22とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体、固体電解質層がLa0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.053のランタンガレート系酸化物イオン伝導体で構成された発電セルなどから金属を回収する方法である。
【0018】
本発明の第1の実施の形態では、図1に示す、以下の第1〜8の工程を経ることにより、上記固体電解質層に含まれる金属を回収することができる。
【0019】
第1工程11では、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルを微粉末に粉砕する。粉砕には衝撃作用による粉砕能力に優れ、摩砕作用により単体分離性が向上するなどの理由から、振動ミルにて粉砕することが好適であり、平均粒径10〜200μmの微粉末に粉砕することが好ましい。微粉末の平均粒径が下限値未満では浮選速度が遅くなり効率が低下するため好ましくなく、上限値を越えると粒子が重くなり過ぎ、浮揚困難になるため好ましくない。
【0020】
第2工程12では、第1工程11で粉砕した微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する。パルプ濃度を上記範囲内としたのは、下限値未満では回収率が低下し、上限値を越えると電解質品位が低下するからである。このうち、パルプ濃度は、好ましくは12.5質量%である。
【0021】
第3工程13では、第2の工程12で作製したスラリーに酸を添加して、スラリーをpH2〜4の範囲に調整する。スラリーのpHを上記範囲内としたのは、スラリーのpHが上記範囲から外れると、電解質品位が低下するからである。このうち、スラリーのpHは好ましくは3である。またpH調整に使用する酸は、緩衝作用によりpH調整が容易であるという理由から、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸、又は粒子表面を清浄に保つという理由により、硝酸や硫酸などを使用することが好ましい。
【0022】
第4工程14では、第3工程13でpH調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/lの捕収剤を添加する。捕収剤の濃度を上記範囲内としたのは、下限値未満では電解質品位が低下し、上限値を越えると回収率が低下するからである。捕収剤には、空気極層と燃料極層に対する捕収効果が認められるという理由により、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムなどが好ましい。
【0023】
第5工程15では、第4工程14で捕収剤を添加したスラリーに、必要に応じて、更に起泡剤として少量のメチルイソブチルカービノールやパイン油を添加し、浮遊選鉱法により第1金属微粒子と第2金属微粒子に分離する。浮遊選鉱は、その選別原理により多油浮選法、水面浮選法、及び泡沫浮選法の3者に分類されるが、本発明では、このうち、泡沫浮遊選鉱法により選鉱を行う。泡沫浮遊選鉱法とは、微粉末原鉱と水の混合物に、少量の起泡剤、捕収剤などを加えて、機械的に気泡を導入し、その気泡に特定の鉱物微粒子を付着させ、空気の浮力で表面に鉱物微粒子を浮揚させて選鉱する方法である。本発明の第5の工程15では、この泡沫浮遊選鉱法により、気泡に付着した第1金属微粒子と、気泡に付着せずに沈殿した第2金属微粒子とに分離する。気泡に付着した第1金属微粒子は、主に空気極層に含まれるSm、Sr及びCoを含む金属微粒子と、燃料極層に含まれるNi、Ce及びCoを含む金属微粒子である。一方、気泡に付着せずに沈殿した第2金属微粒子は、主に固体電解質層に含まれるLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属微粒子である。このように、主に固体電解質層の金属微粒子が第2金属微粒子として沈殿する技術的理由は空気極層、燃料極層に比べて捕収剤による疎水性被膜形成の作用が小さいためであると推察される。
【0024】
第6工程16aでは、第5工程15で得られた第2金属微粒子をろ過し、第2金属微粒子の沈殿物を得る。
【0025】
第7工程16bでは、第6工程16aで得られた第2金属微粒子の沈殿物を洗浄した後、乾燥させ、La、Sr、Ga、Mg及びCoを主成分とする固形物を得る。洗浄及び乾燥は、特に限定されるものではないが、水、エタノール、又はイソプロパノールで洗浄することが好ましく、乾燥は熱風乾燥にて、120〜150℃の温度で乾燥することが好ましい。
【0026】
第8工程17では、第7工程16bで得られた固形物を、平均粒径が好ましくは0.5〜10μm、更に好ましくは1.3μmの微粉末に粉砕する。平均粒径が上記範囲の微粉末は、固体電解質の緻密体を作製する点において好適だからである。
【0027】
以上、本発明の第1の実施の形態における第1〜8の工程を経ることにより、固体電解質層の原料となる金属を回収することができる。
【0028】
次に、本発明の第2の実施の形態を図1を用いて説明する。
【0029】
本発明の第2の実施の形態では、第5工程に続いて、図1に示す、以下の第9〜15の工程を経ることにより、第5工程15の浮遊選鉱により沈殿しきれなかった固体電解質層に含まれる金属をも回収できるため、更に高い回収率が得られる。
【0030】
第9工程18では、上記第5工程15で浮遊選鉱法により泡に付着した第1金属微粒子を、好ましくは濃度0.8〜4mol/lの硝酸で処理して、Sm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる。この泡に付着した第1金属微粒子は、主に燃料極層及び空気極層の原料である金属が含まれるが、第5工程15で沈殿しきれなかった固体電解質層の原料である金属も多く含まれるため、本発明の第2の実施の形態では、固体電解質層の原料である金属の回収率を、更に向上させることができる。硝酸の濃度を上記範囲内にしたのは、下限値未満では空気極層、燃料極層の一部が浸出し難く、上限値を越えると、燃料極層に含まれるNiが酸化被膜を形成するため浸出し難くなるからである。また、硝酸で処理する際の温度は、好ましくは10〜40℃、更に好ましくは15〜25℃である。硝酸で処理する際の温度が10〜40℃であれば、空気極層、燃料極層を選択的に浸出させる点において好適であり、下限値未満では浸出速度が低下し、上限値を越えると固体電解質層が浸出するため好ましくない。
【0031】
第10工程19では、第9工程18の処理液を、例えば、ろ過のような方法で固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る。
【0032】
第11工程20では、第10工程19で得られた浸出残渣を好ましくは濃度5〜12mol/lの塩酸で浸出処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる。塩酸の濃度を5〜12mol/lとしたのは、下限値未満ではGaの浸出率が低下する傾向があり、12mol/lは塩酸としてほぼ限界の高濃度であるからである。また、塩酸で処理する際の温度は、好ましくは60〜80℃である。塩酸で処理する際の温度が60〜80℃であれば、安定して効率よく浸出が可能であるため好適であり、下限値未満ではLa、Sr、Gaの浸出率が低下するため好ましくなく、上限値を越えると塩化水素が揮発するため好ましくない。
【0033】
第12工程21では、第11工程20の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る。
【0034】
第13工程22では、第12工程21で得られたろ液をアルカリを加えた後、炭酸塩を加えて沈殿を析出させる。アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが挙げられる。アルカリを加えた後のpHとしては8〜12が好ましい。
【0035】
第14工程23では、第13工程22で生成した沈殿を、例えば、ろ過のような固液分離を行った後、洗浄してLa、Sr、Ga及びMgの酸化物と、Srの炭酸塩を得る。
【0036】
第15工程24では、第14工程23で得られた酸化物と炭酸塩を焼成し、ランタンガレート系酸化物とした後、平均粒径が好ましくは0.5〜10μm、更に好ましくは1.3μmの微粉末に粉砕する。平均粒径が上記範囲の微粉末は、固体電解質の緻密体を作製する点において好適だからである。
【0037】
以上、本発明の第2の実施の形態における第9〜15の工程を経ることにより、固体電解質層の原料となる金属を更に高い回収率で回収することができる。
【0038】
最後に、本発明の第3の実施の形態を図1を用いて説明する。
【0039】
本発明の第3の実施の形態では、上記第1の実施の形態における第6工程16aと第7工程16bの間に、図1に示す、以下の第16,17の工程を更に経ることにより、第1の実施の形態よりも、回収される金属の電解質品位を更に向上させることができる。
【0040】
第16工程25では、第6工程16aで得られた第2金属微粒子の沈殿物を、好ましくは濃度0.8〜4mol/lの硝酸で処理して、Sm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる。第6工程16aでろ過16aして得られた第2金属微粒子の沈殿物は、そのままでも高い電解質品位を有するが、この第16工程25を経ることにより、第5工程15の浮遊選鉱で分別しきれなかったSm、Sr、Co及びNiを除去できるため、更に高い電解質品位で固体電解質層の金属を回収できる。硝酸の濃度を上記範囲内にしたのは、下限値未満では空気極層、燃料極層の一部が浸出し難く、上限値を越えると、燃料極層に含まれるNiが酸化被膜を形成するため浸出し難くなるからである。また、硝酸で処理する際の温度は、好ましくは10〜40℃、更に好ましくは15〜25℃である。硝酸で処理する際の温度が10〜40℃であれば、空気極層、燃料極層を選択的に浸出させる点において好適であり、下限値未満では浸出速度が低下し、上限値を越えると固体電解質層が浸出するため好ましくない。
【0041】
第17工程26では、第16工程の処理液を、例えば、ろ過のような方法で固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、及びCoを含む浸出残渣を得る。第17工程26で得られた浸出残渣は、続いて第7工程16b、第8工程17を経る。
【0042】
以上、本発明の第3の実施の形態における第16,17の工程を経ることにより、固体電解質層の原料となる金属を更に高い電解質品位で回収することができる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0044】
<実施例1>
先ず、使用済みの発電セルを振動ミルにて平均粒径55μmの微粉末に粉砕した後、蒸留水160mlに、この微粉末20gを入れ、パルプ濃度が12.5質量%になるようにスラリーを作製した。このスラリーに酒石酸を添加してpHを3に調整し、捕収剤として濃度1.25×10-4mol/lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを所定量添加した。次に、このスラリーを浮選機(太田機械製作所社製)にて起泡させ、第1金属微粒子を泡に付着させ、残りの第2金属微粒子を沈殿させる浮遊選鉱法により分離した。このときの攪拌機の回転数を1000〜1500rpm、エアの送量を220ml/minとした。次いで、沈殿させた第2金属微粒子をろ過により回収し、回収した第2金属微粒子の沈殿物を水で洗浄した後、乾燥させ、ボールミルにて平均粒径1.3μmの固体電解質層の原料粉を得た。
【0045】
<実施例2>
スラリーのpHを2.4に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0046】
<実施例3>
スラリーのパルプ濃度を20質量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0047】
<実施例4>
捕収剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの濃度を1.88×10-4mol/lとしたこと以外は実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0048】
<実施例5>
実施例1と同様に浮遊選鉱により分離して沈殿させた第2金属微粒子を、ろ過により回収した後、この沈殿物を濃度1mol/lの硝酸130mlで1時間、室温で浸出処理した。次いで、ろ過による固液分離を行い浸出残渣を得た。得られた浸出残渣を水で洗浄した後、乾燥させ、ボールミルにて平均粒径1.3μmの固体電解質層の原料粉を得た。
【0049】
<比較例1>
スラリーのpHを5に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0050】
<比較例2>
捕収剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの濃度を0.63×10-4mol/lとしたこと以外は実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0051】
<比較例3>
スラリーのパルプ濃度を2質量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0052】
<比較例4>
スラリーのpHを1.6に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0053】
<比較例5>
捕収剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの濃度を2.5×10-4mol/lとしたこと以外は実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0054】
<比較例6>
スラリーのパルプ濃度を30質量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層の原料粉を得た。
【0055】
<評価1>
実施例1〜5、及び比較例1〜3で得られた固体電解質層の原料粉0.2gを王水で溶解後、蒸発乾固し、希塩酸で再溶解して不溶分を除去した後、ICP分析装置(ジャーレルアッシュ社製:ICAP−88)で電解質品位を測定した。
【0056】
また回収率は蒸留水に入れた微粉末の重量に対して、得られた固体電解質層の原料粉重量の比として求めた。
【0057】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜4と比較例1,4を比較すると、スラリーのpHを4を越える値に調整した比較例1及びスラリーのpHを2未満に調整した比較例4では、実施例1〜4よりも回収率は高かったものの、電解質品位が低下した。このことから、スラリーのpHは2〜4に調整することが好適であることが確認された。
【0058】
また実施例1〜4と比較例2,5を比較すると、添加する捕収剤の濃度が1×10-4mol/lに満たない比較例2では、実施例1〜4よりも回収率は高かったものの、電解質品位が低下した。一方、添加する捕収剤の濃度が2.2×10-4mol/lを越える比較例5では高い電解質品位の原料粉が得られたものの、回収率が低下した。このことから、添加する捕収剤の濃度は1〜2.2×10-4mol/lの範囲とすることが好適であることが確認された。
【0059】
また実施例1〜4と比較例3,6を比較すると、スラリーのパルプ濃度が10質量%に満たない比較例3では、実施例1〜4よりも高い電解質品位の原料粉が得られたものの、回収率が大幅に低下した。一方、スラリーのパルプ濃度が20質量%を越える比較例6では回収率は高かったものの、電解質品位が低下した。このことから、スラリーのパルプ濃度は10〜20質量%とすることが効果的であることが確認された。
【0060】
更に実施例5と実施例1を比較すると、実施例5では、実施例1よりも回収率は低下したものの、実施例1よりも更に高い電解質品位の原料粉が得られた。このことから、硝酸による浸出処理工程を更に含むことが効果的であることが確認された。
【0061】
<実施例6>
先ず、実施例1で浮遊選鉱法により分離した第1金属微粒子を、濃度1mol/lの硝酸で2時間、室温で浸出処理した後、ろ過による固液分離を行い、浸出残渣を得た。次いで、得られた浸出残渣5.2gを、濃度6mol/lの塩酸25mlで2時間、温度60℃で浸出処理した後、ろ過した。得られたろ液に1mol/l及び0.001mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10とした後、炭酸ナトリウム1gを加え、ろ過した。得られた沈殿を蒸留水で洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物とSrの炭酸塩とした後、更に、これらの酸化物と炭酸塩を大気中、温度1250℃で6時間焼成した後、ボールミルにて平均粒径1.3μmの固体電解質層の原料粉を得た。
【0062】
<評価2>
実施例6で得られた固体電解質層の原料粉0.2gを王水で溶解後、蒸発乾固し、希塩酸で再溶解して不溶分を除去した後、ICPで電解質品位を測定した。
【0063】
また回収率は蒸留水に入れた微粉末の重量に対して、得られた固体電解質層の原料粉重量の比として求めた。なお実施例6の回収率は、実施例1の回収率66.4%との合計値である。
【0064】
【表2】

表1、表2から明らかなように、実施例1と比較して実施例6では電解質品位、回収率ともに上昇した。このことから、浮遊選鉱法により分離した第1金属微粒子を硝酸で浸出処理した後、浸出残渣を塩酸処理して得られたろ液にアルカリ性で炭酸塩を加えて析出した沈殿を洗浄、焼成することで、更に効率的に固体電解質原料粉を回収できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法を示す工程図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm、Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni、Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La、Sr、Ga、Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法であって、
前記使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程と、
前記第1工程の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、
前記第2工程で作製したスラリーに酸を添加して前記スラリーをpH2〜4の範囲に調整する第3工程と、
前記第3工程でpH調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/lの捕収剤を添加する第4工程と、
前記第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて第1金属微粒子を泡に付着させ、残りの第2金属微粒子を沈殿させる第5工程と、
前記第5工程で沈殿させた第2金属微粒子をろ過し、沈殿物を得る第6工程と、
前記第6工程で得られた沈殿物を洗浄、乾燥してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第7工程と、
前記第7工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第8工程と
を含むことを特徴とする金属の回収方法。
【請求項2】
酸が酒石酸、クエン酸、硝酸又は硫酸である請求項1記載の金属の回収方法。
【請求項3】
捕収剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムである請求項1又は2記載の金属の回収方法。
【請求項4】
第5工程に続いて、第5工程で泡に付着した第1金属微粒子を硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第9工程と、
前記第9工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る第10工程と、
前記第10工程で得られた浸出残渣を塩酸で処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる第11工程と、
前記第11工程の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る第12工程と、
前記第12工程で得られたろ液にアルカリを加え、次いで炭酸塩を加えて沈殿を析出させる第13工程と、
前記第13工程で生成した沈殿を固液分離した後、洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物と、Srの炭酸塩とを得る第14工程と、
前記第14工程で得られた酸化物と炭酸塩を焼成した後、微粉末に粉砕する第15工程と
を更に含む請求項1記載の金属の回収方法。
【請求項5】
第6工程と第7工程の間に、第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第16工程と、
前記第16工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第17工程と
を更に含む請求項1記載の金属の回収方法。
【請求項6】
酸が酒石酸、クエン酸、硝酸又は硫酸である請求項5記載の金属の回収方法。
【請求項7】
捕収剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムである請求項5又は6記載の金属の回収方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−144219(P2009−144219A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324712(P2007−324712)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】