説明

係合識別機能を有するスタータ

本発明は、スタータ(100)と、スタータモータを始動させるための装置と、スタータピニオンの係合状態を識別するための装置と、スタータモータの始動方法と、対応するリングギヤとピニオン(101)との係合状態を識別するための方法と、コンピュータプログラムと、コンピュータプログラム製品とに関する。対応するリングギヤとピニオン(101)との係合状態、とりわけスタータ(100)のリングギヤとスタータピニオンとの係合状態を識別するための方法は、該ピニオン(101)を切り換えるためのスタータリレー(110)の通電と、該通電の少なくとも1つの通電パラメータの検出とを含み、検出された該通電パラメータと、候補となるピニオン位置との関連づけを行い、検出された該通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより、該ピニオン位置を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対応する歯車とピニオンとの係合状態を識別するための、請求項1の上位概念に記載の方法に関する。前記ピニオンはとりわけ、スタータに設けられたスタータピニオンである。
【0002】
さらに本発明は、請求項9の上位概念に記載のスタータモータの始動方法にも関する。
【0003】
本発明はさらに、請求項10に記載のコンピュータプログラムと、請求項11に記載のコンピュータプログラム製品とに関する。
【0004】
また本発明は、対応する歯車とピニオンとの係合状態を識別するための、請求項12に記載の装置に関する。前記ピニオンはとりわけ、スタータに設けられたスタータピニオンである。
【0005】
また本発明は、請求項13に記載の、スタータモータを始動させるための装置にも関する。
【0006】
また本発明は、噛み合わせるべきピニオンを備えた、請求項14に記載のスタータにも関する。
【0007】
先行技術
本発明は、対応する歯列とピニオンとの噛み合わせを制御するリレーを備えたスタータに関する。とりわけ、本発明はスタートストップシステムに関し、このスタートストップシステムはとりわけ、惰性回転する内燃機関との噛み合わせが行われた後にクランクシャフトの位置決めが行われる、機能拡張されたスタートストップシステムである。このような技術により、スタータが始動する前にピニオンの噛み合わせを確実に完了させることができる。
【0008】
公知の技術ではピニオン位置の識別は行われず、ピニオンの噛み合わせが完了する確率が高い時間を予め定め、この時間にわたって待機していた。その際には、スタータモータの始動前に内燃機関のリングギヤにスタータピニオンが係合し終わっていることを保証するために、リレーの通電とスタータの通電との間にある程度の無駄時間を設ける。ピニオンがリングギヤに確実に噛み合い終わる前にスタータが決して始動しないように、前記無駄時間を選択しなければならない。スタータが過度に早期に始動すると、噛み合っていない状態となり、ノイズが大きくなり、始動の中断にも繋がってしまう。しかし、このような構成により、大抵の場合には時間の損失を甘受しなければならず、この時間損失により始動時間が長くなり、惰性回転している内燃機関との噛み合わせを行った後にクランクシャフトの位置決めを行う場合には、内燃機関の一時的な静止および/または逆方向への運動に繋がる。
【0009】
EP960276B1から、2つの歯車を相互に係合させるための、内燃機関の始動装置の係合リレー用の回路装置が公知である。この回路装置は、両歯車が相互に係合する前に第1の期間後、第2の期間中にリレー電流を所定の電流値まで低下させるスイッチング素子を有する。このスイッチング素子は、一方の歯車が他方の歯車に達したときに開始する第3の期間中にリレー電流を所定の値まで上昇させる制御装置として構成されている。
【0010】
発明の開示
上述の従来技術に対し、各独立請求項に記載の特徴を有する本発明の方法、本発明のコンピュータプログラム、本発明のコンピュータプログラム製品、本発明の装置、および本発明のスタータは、ピニオン位置を識別することによりスタータの始動をより迅速に行うことができるという利点を有する。というのも、固定的な時間にわたって待機する必要がないからである。まさに、たとえば惰性回転中の内燃機関との噛み合わせが行われた後にクランクシャフトの位置決めを行う等の機能拡張されたスタートストップシステムにおいてこそ、快適性および寿命上の理由から、係合過程後に可能な限り迅速に内燃機関の位置決めを開始するのが有利である。このことにより、内燃機関の一時的な静止および/または逆方向への運動を防止するか、または少なくとも低減することができる。本発明では、前記通電の少なくとも1つの通電パラメータを検出し、検出された該通電パラメータと、候補となるピニオン位置とを関連づけ、検出された該通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより、該ピニオン位置を識別する。このようなピニオン位置の識別により、過度に早期に始動しないようになり、すなわち、ピニオンが完全に噛み合う前に始動しないようになり、このことによって、誤った噛み合わせによってノイズが大きくなったり始動が中断したりする誤機能が生じることがなくなることが保証される。ピニオン位置識別のために通電パラメータを検出することにより、たとえば位置を光学的に検出する付加的なセンサが必要なくなり、このことにより、エラーの可能性も低減する。通電パラメータの繰り返し生じる典型的な特性曲線の特性に基づき、ピニオンの位置を一義的に推定することができ、このことにより、高い確実性で噛み合わせの失敗を排除することができる。
【0011】
従属請求項に記載された実施形態によって、独立請求項に記載された装置を有利に発展させること、および改善することが可能である。
【0012】
有利には、検出可能な通電パラメータと関連性のある複数のピニオン位置をデータメモリに格納する。とりわけ、複数の異なる離散的な通電パラメータと、対応する複数のピニオン位置とを格納する、このようにして、噛み合わせに関連するピニオン位置の相互間の中間位置のすべてを記録することがなくなり、このことによって記憶スペースが低減し、計算速度または処理速度が最大限になる。このことに対応して、別の実施形態では別の位置も格納し、たとえば電機子やフォーク形レバー等の位置を格納することにより、複数の異なる部品の複数の位置が識別できるようにする。ピニオンの運動は別の部品の位置に依存するので、上述のようにして冗長性を実現することができ、この冗長性により識別精度がさらに上昇し、それによって誤識別も排除される。
【0013】
特に有利には、検出された前記通電パラメータと、候補となるピニオン位置とを関連づけ、検出された該通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより、該ピニオン位置を識別する。メモリ内において、複数の各ピニオン位置が複数の異なる通電パラメータの対応する特性曲線に対応付けられているので、通電パラメータを検出することにより、ピニオン位置を確実に求めて識別することができる。たとえば、通電パラメータを電流とし、電流上昇‐電流降下‐電流上昇‐電流降下‐電流上昇‐電流降下の順序を該通電パラメータの特性経過として、該特性経過と、ピニオンがリングギヤに噛み合い開始するピニオン位置とを対応付けることができる。別の特性経過または順序は、別の位置に対応付けられる。関連づけは、電流上昇または電流降下の順序の他に、検出された通電パラメータの特性曲線の勾配または大きさにも依存する。たとえば、特定のピニオン位置と、それに対応する電流レベルである電流降下とを対応付けることもできる。
【0014】
本発明はさらに、検出可能な通電パラメータと関連性のある複数のピニオン位置がデータメモリに格納されているという利点も有する。ピニオンはスタータにおいて複数の位置をとることができ、とりわけ、噛み合っていない位置と、噛み合っている位置と、噛み合わせ開始時の位置および/または噛み合わせ終了時の位置とをとることができる。本発明の一実施形態では、複数の位置がそれぞれ対応する通電パラメータ特性経過に対応付けられる。このことにより、噛み合わせに関連するピニオン位置だけでなく、別の位置も識別できるようになり、よって、別のピニオン位置を監視することにより、別の切換エラーが生じるのを回避し、適時にメンテナンスを行うことができる。
【0015】
特に有利な実施形態では、前記通電パラメータの検出は、該通電パラメータの時間的な特性経過の検出を含む。この通電パラメータは、噛み合わせ時には時間の経過とともに変化するので、検出は特定の電流値にのみ依存するのではなく、電流値の時間的順序にも依存する。電流降下だけでは、ピニオンの所定の位置を推定することができず、むしろその際には、通電パラメータの通電レベルと、該通電パラメータのこれまでの時間的順序とが重要であり、とりわけ、通電パラメータの時間的変化も重要である。通電パラメータと時間との関係により、識別確率の信頼性がさらに上昇する。
【0016】
さらに有利には、検出された時間的な特性経過から微分によって、微分された特性経過を生成する。通電パラメータ特性の変化、すなわち通電パラメータ特性の勾配こそが、ピニオン位置の識別に特に有利である。それゆえ、ピニオン位置を表す、勾配の境界を定義することができる。検出された通電パラメータないしは該通電パラメータの勾配が前記境界内にない場合、現在はたとえば、噛み合わせ切換時点ではないということになる。このようにして、電圧変化や、噛み合わせに関連しない別の影響に起因する誤動作を回避することができる。このことに相応して、前記限界値の前後に公差値を設けることができ、この公差値に達する場合、たとえば再測定を実施するか、または、時間順序制御される噛み合わせを実施する。
【0017】
特に有利なのは、特性の複数の異なる区間の分類を行うことにより、相応の変動に応じた複数の離散的な区間を含む特性経過を生成することである。この分類ではたとえば、電流上昇と、電流下降と、電流一定とに分類される。さらに下位分類も規定され、たとえば、高い電流レベルでの電流上昇、低い電流レベルでの電流上昇、大きな勾配での大きな電流上昇、小さい勾配での小さい電流上昇等が規定される。このような分類に基づいて、一義的なピニオン位置を対応付けることができ、たとえばピニオンが当接したときのピニオン位置や、ピニオンが開始位置または終了位置にあるときのピニオン位置を対応付けることができる。このようにして、始動に関連するピニオン位置のみが対応付けられ、このことにより計算能力が節約され、より高いパフォーマンスが実現される。
【0018】
さらに有利には、前記関連づけは、特性と適切な所定の特性曲線との比較を含む。複数の異なる試験から、複数の異なる通電パラメータごとに特性曲線を見出しておく。このように見出された特性曲線は適切に格納されるか、または1つの特性曲線にまとめられ、場合によっては公差領域が追加されて格納される。有利な実施形態では、特性曲線の格納は固定的でなく、自動学習によって行われる。このことにより、さらに別の経験値および測定値に基づいて特性曲線が規則的に適合されるようにする。特性曲線が寿命に依存して変化する場合であっても、有利な実施形態では、この変化が考慮される。
【0019】
特に有利には、前記特性曲線にピニオン位置特性経過が対応付けられる。この1つまたは複数の特性曲線に、対応するピニオン位置特性経過を対応付けることにより、該特性曲線の各点がピニオン位置に対応するようになる。ここで特に重要なのは、相応に関連するピニオン位置を表す、特性曲線の方向転換点である。その際には、この特性曲線の各点は特定のピニオン位置を理論的にのみ表すだけであり、むしろ、点領域がピニオン位置領域に対応付けられる。このようにして、特定のために必要とされる計算能力が低くなる。というのも、始動のためには所定の離散的なピニオン位置のみを識別すればよいからである。
【0020】
本発明の別の有利な実施形態では、時間と電流強度と電圧強度と電流変化と電圧変化等とを含む群から選択される少なくとも1つの別のパラメータを、ピニオン位置の特定のために考慮する。とりわけ、高コストのセンサを必要とすることなく、たとえば電流強度を介して、電流を簡単かつ正確に検出することができ、また、たとえば電圧レベルを介して、電圧を簡単かつ正確に検出することもできる。適切な端子を設けることにより、既存のスタータシステムにも本発明の方法を簡単に後付けできるようにすることができる。
【0021】
さらに有利には、スタータモータの始動方法において、対応する歯車とピニオンとの係合状態を識別するための本発明の方法を実施し、たとえば始動またはクランクシャフト位置決め等であるさらなる別のステップを、とりわけピニオンの噛み合い後に、ピニオンの識別された位置に依存して実施する。前記ピニオンはとりわけ、スタータに設けられたスタータピニオンである。ピニオン位置を識別することにより、とりわけ始動に最適なピニオン位置を識別することにより、リレーの開閉、すなわち回転開始を時間遅延なく実現することができるようになる。このことにより、とりわけスタートストップシステムにおいて効率が上昇する。
【0022】
有利には、前記方法をコンピュータプログラムおよび/またはコンピュータプログラム製品として実現することができる。このコンピュータプログラムおよび/またはコンピュータプログラム製品には、すべての計算ユニットが含まれ、とりわけ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ASSP(Application Specific Standard Product)およびDSP(Digital Signal Processor)等である集積回路と、ハードワイヤード計算モジュールとが含まれる。適切な構成により、本発明の方法を迅速かつ簡単に後付けできるように構成することができる。
【0023】
特に有利には、本発明の方法を実施するための手段を含む適切な装置に、本発明の方法を変換することができる。したがって本発明の有利な実施形態には、対応する歯車とピニオンとの係合状態を識別するための装置において、ピニオンを切り換えるためにスタータリレーの通電を行うための通電部と、該スタータリレーの通電の少なくとも1つの通電パラメータを検出するための検出部とが含まれるように構成された実施形態が含まれる。前記ピニオンはとりわけ、スタータに設けられたスタータピニオンである。特に有利には、検出された前記通電パラメータに基づいて、可能なピニオン位置との関連性を形成し、検出された該通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより、該ピニオン位置を識別するための制御部が設けられる。前記通電部と前記検出部と前記制御部とをそれぞれ個々に異なって構成することができる。たとえば、前記制御部は制御ロジックまたは制御モジュールを含むことができ、この制御ロジックまたは制御モジュールに、たとえば本発明の方法がソフトウェアとして実装されるか、または回路として実装される。適切な装置を用いて、本発明の方法を簡単に具現化することができる。
【0024】
本発明の方法をスタータにおいて使用するために、本発明の有利な実施形態では、スタータモータを始動させるための装置において、対応する歯車とピニオンとの係合状態を識別するための装置が設けられており、該ピニオンはとりわけ、スタータに設けられたスタータピニオンである。上述のことに相応して前記スタータを始動させるための装置は、ピニオンを切り換えるためのスタータリレーの通電を行うための通電部と、該スタータリレーの通電の少なくとも1つの通電パラメータを検出するための検出部とを含み、制御部が設けられており、該制御部は、検出された該通電パラメータに基づいて、可能なピニオン位置との関連性を形成し、検出された該通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより該ピニオン位置を識別するように設けられている。本発明の装置はさらに、前記スタータモータを始動させるためのアクチュエータを含み、該アクチュエータは、識別された前記ピニオン位置に依存して、とりわけピニオンの噛み合い後に、前記スタータモータを始動させる。前記スタータモータの始動は有利には、適切なリレーの通電によって行われる。
【0025】
このことにより、本発明のさらに別の有利な実施形態では、噛み合わせるべきピニオンを備えたスタータに、スタータモータを始動させるための本発明の装置が設けられている。このような構成により、とりわけスタートストップ機能のために最適であり、高速に噛み合い可能なスタータを実現することができる。
【0026】
本発明の実施例を図面に示し、以下の記述において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ピニオン101を有するスタータ100の断面を概略的に示す斜視図である。
【図2】噛み合わせ過程時に検出される通電パラメータの2つの時間的な特性経過を概略的に示すグラフである。
【図3】図2に示された通電パラメータのうち1つの通電パラメータの特性を特性曲線状に示す概略的なグラフである。
【図4】スタータ制御ユニットの概略的な回路図である。
【図5】噛み合わせ過程時に検出される通電パラメータの複数の時間的な特性経過を概略的に示すグラフである。
【0028】
本発明の実施形態
図1は、ピニオン101を有するスタータ100の断面を概略的に示す斜視図である。ピニオン101はリレー110を介して切り換えられることにより、適切な通電時には、ピニオン101がスタータ100のリングギヤに噛み合う。この噛み合わせは、大まかには下記のように実施される。押込リレーとも称されるリレー110は、電気的コンタクトであるボルトを有する。この電気的コンタクトは、図中にないスタータバッテリーの正極に接続されている。前記ボルトはリレーカバーを貫通している。このリレーカバーはリレー筐体を封止し、該リレー筐体は複数の固定部材(ねじ)を用いて駆動装置ベアリングシールドに固定されている。前記係合リレー110にはさらに、引込巻線または噛合巻線ENWといわゆる保持巻線HWとが設けられている。前記引込巻線ENWおよび保持巻線HWは、それぞれスイッチオン状態になると、双方ともに、リレー筐体(電磁的に伝導性の材料から成る)と線形運動可能な電機子102と電機子継鉄103とに流れる電磁界を生じさせる。前記電機子102は、該電機子102の線形引き込み時に切換ボルト105の方向に移動するスライドバー104を支持する。前記スライドバー104が切換ボルト105までこのように移動することにより、該切換ボルト105は静止位置から2つのコンタクトの方向に移動し、前記コンタクトの方向に設けられた、該切換ボルト105の端部に取り付けられたコンタクトブリッジが、両コンタクトを相互に電気的に接続する。このことにより、前記ボルトから前記コンタクトブリッジを介して給電線まで、ひいては炭素ブラシまで電力が伝送され、このように電力が伝送されると、駆動モータまたはスタータ100が通電される。
【0029】
また、係合リレー110ないしは電機子102はさらに、引張部材106を用いて、駆動装置ベアリングシールドに回転運動可能に設けられたレバー107を動かす役割も有する。このレバー107は通常はフォーク形レバーとして形成され、レバー107の外周に設けられた図示されていない2つの「歯」が2つを包囲することにより、これらの2つの間に挟み込まれた連行リング108を、ばねの抵抗に抗してフライホイールの方向に動かし、このことによって始動ピニオン101をリングギヤに噛み合わせる。
【0030】
上述の噛合過程中または係合過程中に、複数の異なるステップによって、リレー110の少なくとも1つの通電パラメータが変化し、とりわけリレー電流およびリレー電圧が変化する。図2に、通電パラメータの2つの特性経過を時間軸上に示す。図2に示された通電パラメータは、噛合巻線が通電されているときのリレー110の電流特性である。1つの特性は、検出された電流特性を表しており、この電流特性は図3にも概略的に示されている。別の特性は、電流特性の1次微分を表す。この電流特性には、係合過程の複数の異なる段階を対応付けることができる。係合過程は大まかには、以下の段階に分けられる。初期状態Aでは、係合過程に関与するすべての部品が静止状態にある。通電が行われると、これに相応する電流上昇1が観察される。所定の時間の経過後に、上記の通電によって電機子102がBにおいて移動し始め、電機子戻しばね102aを押しつぶす。ここで、電流降下2が観察される。さらに、電機子102の運動と、ひいては該電機子の運動に伴うフォーク形レバー107の運動とにより、連行部材108が該フォーク形レバー107に当たり‐C‐、その際に電流上昇3が観察される。その次に、連行部材108によってピニオン101が動き始め‐D‐、このことによって再び電流降下4が観察される。ピニオン101がリングギヤに当たり‐E‐、運動が停止するまで、電流降下4は観察される。その次に電流上昇5が観察される。ピニオン101がリングギヤに当たった後、該ピニオン101はリングギヤに係合し‐F‐、その際には電流降下6が観察される。この係合の終了時に、係合過程を制限する当接部に電機子102が当たる‐G‐。その際には相応に、電流の再上昇7が観察される。このような特徴的な特性経過は、どの噛み合わせ過程でも多かれ少なかれ顕れる。図2には電流特性の他に、電流特性の1次微分も示されている。これら双方の特性経過に基づいて、複数の異なるピニオン位置に簡単に対応付けることができる。
【0031】
図4は概略的な回路図である。この回路図では、スタータまたはスタータモータ100にスタートストップ機能が設けられている。スタータ100は上述のリレー110も有する。リレー110の一方の側は、端子KL30を介してバッテリー130の正極に接続されており、バッテリー130の負極は端子KL31を介して接地されている。スタータ100の他方の側は、リレー110によって制御装置‐スタータコントロールユニットSCUが結合されている。この制御装置SCUは種々の入力端ないしは出力端を有し、とりわけ、KL87,KWR,CANH,CANL,キルスイッチ、KL31,Gnd Fzg(車体アース),GND,KL30p,KL50r,KL50s,KL45,KL50tの端子を有する。制御装置は、エンジンにねじ留めすることにより接地される。KL31はバッテリーアースである。したがってKL30は、+12Vの電圧を有するバッテリーからの給電を表す。KL50は、モトロニックモジュールから直接行われる保持巻線HWおよび噛合巻線ENWの通電を表す。KL30pは、制御装置SCUにおいて+12Vバッテリー給電を行うための端子接続を表す。KL50rは、保持巻線HWと噛合巻線ENWと開閉巻線STWとに+12V給電を行うための端子接続を表す。KL50sは、開閉巻線STWを接地するための端子接続を示す。KL45は制御装置SCUから+12Vバッテリー給電を行うための端子接続を表す。すなわち、スイッチング素子S1〜S3のスイッチング時のスタータ通電を表す。これらのスイッチング素子S1〜S3は共にスイッチングされるか、または個別にスイッチングされる。KL50tは、保持巻線HWおよび噛合巻線ENWにおける接地との端子接続を表す。S0は、制御装置SCUの主スイッチを表す。この主スイッチを介して、電力部とも称される前記制御装置SCUは切り換えられる。S1〜S3は、スタータ電流を切り換えるためのスイッチまたはスイッチング素子を表す。これらのスイッチまたはスイッチング素子には抵抗R1〜R3が並列接続されている。スイッチング素子S4は、制御装置SCUによって保持巻線HWおよび噛合巻線ENWの通電を切り換えるために設けられている。スイッチング素子S5は開閉巻線STWの通電を切り換える。このことにより、内部には、前記複数の異なるスイッチング素子S1〜S4,S0a/bと、シャントと、たとえばダイオード等である別の電気的モジュールとが含まれる。前記制御装置SCUは端子KL30pを介して、スタータと共通の接続点においてバッテリー120の正極に接続されている。前記制御装置SCUは端子KL50r、KL50s、KL45およびKL50tを介してスタータ100のリレー110に接続されている。さらにモトロニックユニット140が設けられており、該モトロニックユニット140は端子KL50Lを介して、線路を用いて、前記制御装置SCUと前記リレー110との間の端子KL50rに結合されている。制御装置SCUとモトロニック140とリレー110とは下記のように構成されており、下記のように動作する。端子KL87を介して制御装置SCUすなわちロジック部の給電が実現される。KWRは、とりわけクランクシャフト位置決めのための、クランクシャフト基準信号を表す。CANHはCANハイ信号を表し、CANLはCANロー信号を表す。これらの信号は、別の制御のために、バスシステム(コントローラエリアネットワーク)の信号として機能する。
【0032】
さらに別の通電パラメータとして、電圧を代替的または併用して検出することができる。対応する特性経過を図5に示す。図5は、対応する特性経過を示す。噛合巻線の通電が行われ、それによってリレー電機子102の動きプロセスが生じると、時間的に変化するリレー電流が生じる(図2および図5中のRS)。この特性経過は、図2と図5とにおいて類似している。この可変のリレー電流により、電流が流れている噛合巻線のコイルの磁界が変化する。噛合巻線ENWの磁界が変化することにより、開閉巻線STWに電圧が誘導され、この電圧は端子KL50sにおいてU50sとして観察される。したがって、通電されていないこの開閉巻線STWが測定センサとして使用される。この時間的な流れの中で、電圧U50sは1回、端子KL50rにおける電圧U50rを超える。この時点で、ピニオンの噛み合わせはすでに確実に完了している。この過程は、矩形の曲線EINによって示されている。したがって、係合を確実に識別するためには、電圧U50sから電圧U50rを減算する。この値が相応の限界値を超え、その後に電流が上昇すると、この条件が満たされたときに、ピニオンが係合完了したと見なされる。さらに、安全のための冗長分を考慮することもできる。この冗長分の条件は、リレー通電の開始後に所定の時間制限を超えることである。この時間制限は、それ以前の経験値に応じて適合することができ、たとえば自動学習適合プロセスで適合することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する歯車とピニオン(101)との係合状態、とりわけスタータ(100)のリングギヤとスタータピニオンとの係合状態を識別する方法であって、
前記ピニオン(101)を切り換えるためのスタータリレー(110)の通電を行い、
前記通電の少なくとも1つの通電パラメータの検出を行う、方法において、
検出された前記通電パラメータと、候補となるピニオン位置との関連づけを行い、
検出された前記通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより、該ピニオン位置を識別する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
検出可能な前記通電パラメータと関連する複数のピニオン位置をデータメモリに格納する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出は、前記通電パラメータの時間的な特性経過の検出を含む、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
検出された前記時間的な特性経過を微分することによって、微分された特性経過を生成する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記特性経過を複数の異なる区間に分類することにより、前記特性経過の相応の変動に応じた離散的な区間(A−B,B−C,C−D,D−E,E−F,F−G)を含む特性経過を生成する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記関連づけは、前記特性経過と、適切な所定の特性曲線との比較を含む、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記特性曲線にピニオン位置特性経過を対応付ける
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
時間と電流強度と電圧強度と電流変化と電圧変化等とを含む群から選択される少なくとも1つの別のパラメータを、ピニオン位置の特定のために考慮する、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
スタータモータの始動方法であって、
対応する歯車とピニオン(101)との係合状態、とりわけスタータ(100)のリングギヤとスタータピニオンとの係合状態を識別するための、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法が含まれており、
とりわけ前記ピニオン(101)の噛み合い後に、たとえば始動またはクランクシャフト位置決め等であるさらなる別のステップを、該ピニオン(101)の識別された位置に依存して実施する
ことを特徴とする、始動方法。
【請求項10】
プログラムがコンピュータ上で実行される場合に請求項1から9までのいずれか1項記載のすべてのステップを実施するためのプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【請求項11】
プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品において、
前記プログラムコード手段は、前記プログラム製品がコンピュータにおいて実行される場合に請求項1から9までのいずれか1項記載の方法を実施するためのコンピュータ読み出し可能な媒体上に記憶されていることを特徴とする、コンピュータプログラム製品。
【請求項12】
対応する歯車とピニオン(101)との係合状態、とりわけスタータ(100)のリングギヤとスタータピニオンとの係合状態を識別するための装置であって、
前記ピニオン(101)を切り換えるためのスタータリレー(110)の通電を行うための通電部と、
前記通電の少なくとも1つの通電パラメータを検出するための検出部と
を有する装置において、
制御部が設けられており、該制御部は、
検出された前記通電パラメータに基づいて、候補となるピニオン位置との関連性を形成し、
検出された前記通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより、該ピニオン位置を識別する
ように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項13】
スタータモータの始動を行うための装置であって、
対応する歯車とピニオン(101)との係合状態、とりわけスタータ(100)のリングギヤとスタータピニオンとの係合状態を識別するための装置が設けられており、
前記装置は、
前記ピニオン(101)を切り換えるためのスタータリレー(110)の通電を行うための通電部と、
前記通電の少なくとも1つの通電パラメータを検出するための検出部と
を有し、
制御部が設けられており、該制御部は、
検出された前記通電パラメータに基づいて、候補となるピニオン位置との関連性を形成し、
検出された前記通電パラメータに対応するピニオン位置を選択することにより該ピニオン位置を識別する
ように構成されており、
さらに、前記スタータモータを始動させるためのアクチュエータが設けられており、
前記アクチュエータは、とりわけ前記ピニオン(101)の噛み合い後に、該ピニオン(101)の識別された位置に依存して前記始動を行う
ことを特徴とする、装置。
【請求項14】
噛み合わせるべきピニオン(101)を備えたスタータ(100)であって、
請求項12に記載の、スタータモータを始動させるための装置が設けられていることを特徴とする、スタータ(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−515909(P2013−515909A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546401(P2012−546401)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068020
【国際公開番号】WO2011/080010
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】