説明

保護チューブ

【課題】 過酷な滅菌処理下でも、長手方向の伸びがなく、しかも可撓性と形態安定性に優れた保護チューブを提供することにある。
【解決手段】可撓性金属チューブ(2)の外周を高抗張力耐熱性繊維(4)が縦添えされたガラス編組(3)を被覆する。次に、ガラス編組(3)及び高抗張力耐熱性繊維(4)にシリコーンワニス(5)を含浸する。最後にシリコーンワニス(5)が含浸されたガラス編組(3)の外周をシリコーンゴム層(6)で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護チューブに関する。さらに詳しくは、本発明は、特に食品生産関連機器用のケーブルや信号線、およびそれらを含む多芯ケーブルの保護チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界のように、雑菌の処理が非常に重要な分野においては、使用されるケーブルや信号線に耐滅菌処理能が要求される。具体的には、−1気圧で135℃以上という耐高圧蒸気強度が要求される。
通常、ケーブルや信号線は保護チューブ内に挿入され、その両端にコネクターが結線される。その際、保護チューブ端面とコネクター端面とは、密着状態で固定される。ところが、この状態で滅菌処理を行うと、保護チューブの長手方向に伸びが発生する。その結果、内部のケーブル類にストレスが生じ、最悪、断線という不具合が発生してしまう。
この問題に対応するため、金属製のジャバラ管をシリコーンゴムで被覆した保護チューブや、シリコーンゴムチューブを伸び防止用ガラス糸を縦添えしたガラス編組で被覆した保護チューブが提案されている。前者においては、ジャバラ管を用いることから伸びの問題は解決され併せて形態安定性も良好であるが、可撓性が悪く、取り回しに難がある。他方、後者ではガラス編組を採用しているため、可撓性は得られるものの伸びが抑えられず、また形態安定性も悪く、つぶれ易い、という欠点がある。
このように、従来の対策にはいずれも一長一短があり、滅菌処理への対応課題を根本的に解決するには至っていないのが実状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、過酷な滅菌処理下でも、長手方向の伸びがなく、しかも可撓性と形態安定性に優れた保護チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、金属チューブとして可撓性チューブを用いる際に、ガラス編組内に縦添えされる伸び防止用縦糸として高抗張力耐熱性繊維を、そして、被覆層としてシリコーンゴム層を採用すると共にこれら編組とゴム層とをシリコーンワニスで固定・一体化することに着目した結果、上記課題を一挙に解決するに至った。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、従来なし得なかった、伸びが無くしかも可撓性と形態安定性に優れた保護チューブが実現される。これは、ひとえにシリコーンワニスがガラス編組と高抗張力耐熱性繊維との固定の為だけでなく、シリコーンゴム層の変形や破裂防止にも寄与していることに因る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の保護チューブについて、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る保護チューブの一態様を示す側面図である。
【0007】
図1において、(1)は保護チューブ、(2)は可撓性金属チューブ、(3)はガラス編組、(4)は縦添された高抗張力耐熱性繊維、(5)はシリコーンワニス、(6)はシリコーンゴム層(シース)である。
ここで特徴的なことは、高抗張力耐熱性繊維(4)が縦添えされたガラス編組(3)とシリコーンゴム層(6)とがシリコーンワニス(5)の介在により一体化されていることである。
本発明において、可撓性金属チューブ(2)としてはスパイラル管が好適に採用される。この可撓性金属チューブ(2)は、その内部空間に挿入されるケーブルや信号線を保護するが、スパイラル形状ゆえに伸び縮みする。
この伸び縮みのうち、伸び防止対策用に採用されるのが、ガラス編組(3)とその中に縦添えされる高抗張力耐熱性繊維(4)である。この、高抗張力耐熱性繊維(4)の縦添えにより、可撓性金属チューブ(2)の可撓性の維持と伸び防止が両立する。一方、縮み防止対策用して採用されるのが、シリコーンワニス(5)である。該ワニス(5)を塗布しない状態でシリコーンゴム層(6)を被覆すると、可撓性金属チューブ(2)が縮んでしまい、結果的に高抗張力耐熱性繊維(4)がたるみ、縮み防止の役目を果たさなくなってしまう。これに対して、ガラス編組(3)と高抗張力耐熱性繊維(4)の隙間にシリコーンワニス(5)を含浸することによって、高抗張力耐熱性繊維(4)が縦添えされたガラス編組(3)とシリコーンゴム層(6)が一体的に固定され、たるみの発生が防止される。さらに、ワニス(5)は、シリコーンゴム層(6)と化学的な親和性を有するので、両者は強固に固着する。したがって、(3)〜(6)の部材は互いに強固に接着され、保護チューブ(1)自体の強度が向上する。
可撓性金属チューブ(2)としては、ステンレス(SUS)、銅、アルミニウム等の可撓性に優れた金属材料からなるスパイラル管が好ましく、その中でも、強度に優れ、腐食性に優れたステンレス(SUS)からなるスパイラル管が特に好ましい。スパイラル管自体は、上記金属の帯状平板、特に厚さが0.2mm〜1.0mm、幅が1.9mm〜2.1mmの帯状平板で構成されるのが好ましい。更に、スパイラル管のピッチは2.1mm〜2.6mmが好ましく、又、隣り合うスパイラル管の隙間は0.2mm〜0.5mmが好ましい。
ガラス編組(3)は、好ましくは、耐熱性ガラス繊維束から構成される。該繊維束としては、特に繊維径が0.08mm〜0.3mmの繊維束が好ましく用いられる。編組の際の打数は16〜36、持数1〜5、編組密度としては30%〜80%が好ましい。
高抗張力耐熱性繊維(4)としては、アラミド系繊維であるケブラー(デュポン製)、「テクノーラ」(帝人製)、「ノーメックス」(デュポン製)、「コーネックス」(帝人製)、その他のエンプラ繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維が好ましく、その中でもパラ型のアラミド系繊維が特に好ましい。
高抗張力耐熱性繊維(4)をガラス編組(3)中に配置する際の縦添えの態様としては、ガラス編組(3)の厚み方向のほぼ中央部でその外周方向に等間隔で配置するのが好ましい。縦添え本数は1本〜4本程度であればよい。高抗張力耐熱性繊維(4)としては、繊維を2本〜5本撚って得た、外径が0.2mm〜0.65mmの繊維束が好ましい。
シリコーンワニス(5)としては、斯界で常用されているシリコーン系ワニスであればよいが、特に耐熱性ワニスが好ましく用いられる。その含浸量は、ガラス編組(3)と高抗張力耐熱性繊維(4)との隙間が無くなるような量であればよい。また、シリコーンゴム層(6)を形成するゴムは、通常のシリコーンゴムであればよいが、特に耐熱性ゴムであればなお好ましい。その厚さは、可撓性チューブ(2)に対する保護機能と及びシース層自身としての保護機能の両者を考慮し、0.5mm〜0.9mmであるのが好ましい。
【0008】
次に、本発明に係る保護チューブの製造方法の一例について述べる。
本発明では、可撓性金属チューブ(2)の周りにガラス編組(3)を構成するガラス繊維束と、高抗張力耐熱性繊維(4)とを編み込んでいくが、その際、高抗張力耐熱性繊維(4)がたるまないようにその張力を調整しておくことが肝要である。
次に、シリコーンワニス(5)をガラス編組(3)と高抗張力耐熱性繊維(4)との隙間に浸透させる。ガラス編組(3)内の隙間をシリコーンワニス(5)で埋め込むには、含浸、塗布、あるいは被覆等による含浸処理が採用されるが、ガラス編組(3)及び高抗張力耐熱性繊維(4)の内部までワニスを浸透させるためには含浸処理が最も好ましい。
最後に、シリコーンワニス(5)が含浸したガラス編組(3)の周りにシリコーンゴム層(6)を被覆して、本発明の保護チューブが完成する。シリコーンゴム層(6)は、押出被覆、塗布、あるいは含浸等により形成されるが、生産性の点から押出被覆が好ましく採用される。
本発明によれば、ガラス編組(3)と高抗張力耐熱性繊維(4)との隙間にワニス(5)を含浸させることで、保護チューブ(1)が一体的に強化されるばかりでなく、後工程で発生し易い、高抗張力耐熱性繊維(4)のたるみも防止できる。しかも、実施例にも示すように、可撓性金属チューブ(2)、ガラス編組(3)、高抗張力耐熱性繊維(4)、シリコーンワニス(5)及びシリコーンゴム層(6)の各材質と寸法を調整することにより、オートクレーブ等で使用する−1気圧下で135℃以上の耐高圧蒸気強度を有する保護チューブとすることができる。
【実施例】
【0009】
先ず、板幅が2.0mm、厚さ0.3mmのステンレス(SUS304)帯状平板を用いて、内径7.6mm、外径8.2mm、ピッチ2.3mm、スパイラル管の隙間0.3mmのスパイラル管(可撓性金属チューブ(2))を成形した。次に、該チューブ(2)の周りに、高抗張力耐熱性繊維(4)を縦添えしながらガラス編組(3)を形成した。ガラス編組(3)の形成に際しては、繊維径が0.11mmのガラス繊維3本の撚糸束を打数32、持数3、編組密度65%で編組した。一方、高抗張力耐熱性繊維(4)としては、繊維径が0.35mmの「ケブラー」(デュポン社製)の3本撚糸束を4本用いて、ガラス編組(3)の厚み方向のほぼ中央部でその周方向に90度の間隔をおいて、引っ張った状態で該編組(3)中に編込んだ。更に、高抗張力耐熱性繊維(4)が縦添えされたガラス編組(3)の隙間に、キシレンで30%に希釈したシリコーンワニス「X40―4177」(信越シリコーン製)(5)を含浸した。
この際、シリコーンワニス(5)がガラス編組(3)と高抗張力耐熱性繊維(4)内にも十分浸透するように、ワニス槽内での5分間の浸漬処理を採用した。その後、炉温が180℃の乾燥炉にてシリコーンワニス(5)を乾燥固化した。
最後に、シリコーンゴム「TSR1126」(信越シリコーン製)を厚さ0.7mmで、ガラス編組(3)の周りに押出被覆して、内径7.6mm、外径8.7mmの本発明の保護チューブ(1)が完成した。
更に、比較例1として、シリコーンワニス(5)を省略する以外は、実施例と同一条件にて比較用保護チューブを作成した。
又、比較例2として、スパイラル管(2)を割愛する以外は、実施例と同一条件にて比較用保護チューブを作成した。

【表1】



この結果、本発明の保護チューブと比較例1〜2の保護チューブとを比較すると、上記、表1から判るように、本発明の保護チューブ(1)の伸びは1%以下と、比較例1の3%に比べて格段に抑制されている。更に、高温高圧下での形態安定性についても、本発明の保護チューブ(1)は、比較例1〜比較例2の保護チューブより優れている。このように、本発明の保護チューブ(1)は、伸びが無く、しかも形態安定性に優れ、なお且つ可撓性と構造一体性にも優れた保護チューブであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の保護チューブは、伸びが実質的に発生しないばかりか、高温高圧の環境下においても耐久性に優れているので、食品生産関連機器用のみならず、医療機器等における滅菌処理を必要とするケーブルや信号線へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る保護チューブの一態様を示す側面図である。
【符号の説明】
【0012】
1 保護チューブ
2 可撓性金属チューブ
3 ガラス編組
4 高抗張力耐熱性繊維
5 シリコーンワニス
6 シリコーンゴム層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性金属チューブ、該金属チューブの外周を被覆するガラス編組、該ガラス編組に縦添えされた高抗張力耐熱性繊維、該ガラス編組に含浸されたシリコーンワニス、および該シリコーンワニスが含浸されたガラス編組層を被覆するシリコーンゴム層を含むことを特徴とする保護チューブ。
【請求項2】
該金属チューブがスパイラル管である請求項1に記載の保護チューブ。
【請求項3】
該高抗張力耐熱性繊維が該ガラス編組中に等間隔で縦添えされている請求項1〜2のいずれかに記載の保護チューブ。
【請求項4】
該高抗張力耐熱性繊維が、繊維本数1本〜4本の撚糸束である請求項1〜3のいずれかに記載の保護チューブ。
【請求項5】
該高抗張力耐熱性繊維がアラミド系繊維である請求項1〜4のいずれかに記載の保護チューブ。
【請求項6】
−1気圧下で135℃以上の耐高圧蒸気強度を有する請求項1〜5いずれかに記載の保護チューブ。



【図1】
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【公開番号】特開2007−118257(P2007−118257A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310360(P2005−310360)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】