説明

信号到来方向推定装置

【課題】簡単な処理で無線信号の到来方向を推定することを目的とする。
【解決手段】複数の単位アンテナを備え、各単位アンテナで受信された信号に基づいて、無線信号の到来方向角を推定する信号到来方向推定装置において、各単位アンテナで受信された信号の値をベクトル要素とした受信ベクトルを求める受信ベクトル生成処理と、複数の単位アンテナの総合指向方向を示す総合指向性変数についての指向性関数をベクトル要素とし、指向性ベクトルを生成する指向性ベクトル生成処理と、受信ベクトルと、指向性ベクトルとの内積を求めるベクトル演算処理と、総合指向性変数を変化させつつ内積の大きさを検出する検出処理と、検出処理による検出値が極大となるときの総合指向性変数の値を、推定到来方向角として求める到来方向推定処理とを実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号の到来方向を推定する信号到来方向推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線信号が到来する方向に指向方向を向けるアレイアンテナ受信装置が広く用いられている。アレイアンテナ受信装置は複数の単位アンテナを備え、各単位アンテナで受信された信号の位相を調整する。そして、位相調整された信号を合成し、アレイアンテナ装置の総合受信信号とする。
【0003】
アレイアンテナ受信装置には、各単位アンテナで受信された信号に基づいて無線信号の到来方向を推定し、推定方向に指向方向が向くよう各単位アンテナで受信された信号の位相を調整するものがある。無線信号の到来方向を推定する適応化アルゴリズムとして、MMSE(Minimum Mean Square Error)、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)等が広く知られている。
【0004】
アレイアンテナ受信装置で受信される無線信号には、送信装置から送信され障害物で反射した後アレイアンテナ受信装置に到達するマルチパス信号と、送信装置から送信され障害物で反射することなく直接アレイアンテナ受信装置に到達する直接波信号とがある。マルチパス信号および直接波信号は、重なってアレイアンテナ受信装置に到達する。アレイアンテナ受信装置によれば、直接波信号とマルチパス信号とを分離し、直接波信号およびマルチパス信号を個別に処理することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−84217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線信号の到来方向を推定するMMSE、MUSIC等の適応化アルゴリズムでは、所定の演算を繰り返し行う必要がある。そのため、推定処理に必要な演算量が多くなり、迅速な受信処理の妨げとなるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に対してなされたものであり、簡単な処理で無線信号の到来方向を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の単位アンテナを備え、各単位アンテナで受信された信号に基づいて、無線信号の到来方向角を推定する信号到来方向推定装置において、各単位アンテナで受信された信号の値をベクトル要素とした受信ベクトルを求める受信ベクトル生成処理と、前記複数の単位アンテナの総合指向方向を示す総合指向性変数についての指向性関数をベクトル要素とし、指向性ベクトルを生成する指向性ベクトル生成処理と、前記受信ベクトルと、前記指向性ベクトルと、の内積を求めるベクトル演算処理と、前記総合指向性変数を変化させつつ前記内積の大きさを検出する検出処理と、前記検出処理による検出値が極大となるときの前記総合指向性変数の値を、推定到来方向角として求める到来方向推定処理と、を実行することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数の単位アンテナを備え、各単位アンテナで受信された信号に基づいて、無線信号の到来方向角を推定する信号到来方向推定装置において、各単位アンテナに対応して設けられ、対応する単位アンテナの受信信号の位相角を変化させる位相調整器と、各位相調整器から出力される受信信号を合成して出力する合成器と、各位相調整器を制御する制御手段と、を備え、前記位相調整器は、前記複数の単位アンテナの総合指向方向を示す総合指向性変数についての指向性関数に基づいて、対応する単位アンテナの受信信号の位相角を変化させる調整手段を備え、前記制御手段は、前記総合指向性変数を変化させつつ前記合成器の出力信号の大きさを検出する検出手段と、前記検出手段の検出値が極大となるときの前記総合指向性変数の値を、推定到来方向角として求める到来方向推定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な処理で無線信号の到来方向を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に本発明の第1の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置10の構成を示す。アレイアンテナ受信装置10は、アンテナ配置直線14上に等間隔dで配置されたn個の単位アンテナ12(nは2以上の整数)を備える。各単位アンテナ12には、図1の描画面において指向性最大方向を有しないアンテナを用いるものとする。このようなアンテナとしては、例えば、描画面に垂直な方向に延伸する半波長ダイポールアンテナを用いることができる。
【0012】
アレイアンテナ受信装置10は、各単位アンテナ12に対応する無線受信部16および直交検波器18を備える。各単位アンテナ12で受信された無線信号は、対応する無線受信部16に入力される。無線受信部16は無線信号を増幅し、増幅した信号をその周波数より低い周波数の信号に変換して、直交検波器18に出力する。各直交検波器18にはローカル信号Loが入力される。直交検波器18は、無線受信部16から出力された信号に対し、ローカル信号Loの位相を基準とした直交検波を施し、同相成分信号Iおよび直交成分信号Qを生成する。そして、同相成分信号Iを実数部とし直交成分信号Qを虚数部とした複素I/Q信号を、到来方向推定部26および重み付け合成処理部30−1〜30−3に出力する。
【0013】
重み付け合成処理部30−1〜30−3は同一の構成部を有する。各重み付け合成処理部は、直交検波器18に対応する重み付け乗算器20を備える。重み付け乗算器20は、重み付け演算部28から出力された重み付け係数を、直交検波器18から出力された複素I/Q信号に乗じて加算合計器22に出力する。ここで重み付け係数は、複素I/Q信号に乗ずることで、その複素I/Q信号の複素角を変化させる複素係数である。重み付け係数を複素I/Q信号に乗ずることは、単位アンテナ12で受信された信号の位相を変化させることに相当する。加算合計器22は、各重み付け乗算器20から出力された信号を加算合計し、総合受信信号として受信信号処理部24に出力する。
【0014】
このような構成によれば、各単位アンテナ12で受信され直交検波された信号は、重み付け係数に基づいて位相が調整された上で加算合計される。総ての単位アンテナ12によって定まる総合受信指向性は、重み付け係数に基づいて規定される。したがって、総合受信信号は、重み付け係数に基づいて規定された総合受信指向性を以て受信された信号となる。
【0015】
アレイアンテナ受信装置10は、3つの重み付け合成処理部30−1〜30−3を備え、各重み付け合成処理部に対して個別に総合受信指向性が規定され、重み付け合成処理部30−1〜30−3は、それぞれに対して個別に規定された総合受信指向性を以て受信した信号を、それぞれ、総合受信信号s1〜s3として出力する。
【0016】
重み付け演算部28は、各重み付け合成処理部について個別に定まる総合受信指向性の最大方向が、各重み付け合成処理部に対して指定する方向となるよう、各重み付け合成処理部に対して重み付け係数を求める。これによって、各重み付け合成処理部からは、指定された方向に指向性最大方向を向けたときの総合受信信号が出力される。各重み付け合成処理部に対して異なる方向を指定することにより、異なる方向から到来する複数の無線信号を分離受信することができる。なお、重み付け演算部28が重み付け係数を求める具体的な処理については後述する。
【0017】
受信信号処理部24は、重み付け合成処理部30−1〜30−3からそれぞれ出力された総合受信信号s1〜s3に含まれる情報を取得する等、総合受信信号s1〜s3に対する受信処理を実行する。
【0018】
なお、ここでは、3つの重み付け合成処理部30−1〜30−3を設けた構成を示しているが、分離受信する無線信号の数に応じて重み付け合成処理部の数を増減してもよい。
【0019】
次に、到来方向推定部26が実行する処理について説明する。到来方向推定部26は、異なる方向から到来する複数の無線信号の各到来方向を推定する。ここでは、図1の最上段の直交検波器18から出力される複素I/Q信号をx1とし、以降、上から順に各直交検波器18から出力される複素I/Q信号をx2、x3、・・・xnとする。
【0020】
到来方向推定部26は、複素I/Q信号x1〜xnをベクトル要素とする受信ベクトルVxを求める。受信ベクトルは、(数1)のように表される。
【0021】
【数1】

【0022】
到来方向推定部26は、以下に説明する総合指向性変数θに対し、(数2)に基づいて指向性関数fk(θ)を求める。ここで、kは1〜nのうちいずれかの整数である。
【0023】
【数2】

【0024】
ここで、jは虚数単位、λは受信対象の無線信号の波長、dは単位アンテナ12の配置間隔、総合指向性変数θは、アンテナ配置直線14に垂直な方向を0°としたときの方位角を示す。図1においては、アンテナ配置直線14に垂直な基準直線32に対して方位角θをなす方位を矢印34を以て示している。
【0025】
到来方向推定部26は、指向性関数f1(θ)〜fn(θ)を(数2)に基づいて求め、指向性関数f1(θ)〜fn(θ)をベクトル要素とする指向性関数ベクトルVfを求める。指向性関数ベクトルVfは(数3)のように表される。
【数3】

【0026】
到来方向推定部26は、受信ベクトルVxと指向性関数ベクトルVfとの内積として定義される方向推定用検出値P(θ)を次の(数4)に従って求める。
【0027】
【数4】

ここで、上付きの符号*は、受信ベクトルの各要素の複素共役をとることを意味する。
【0028】
到来方向推定部26は、総合指向性変数θを−90°〜90°の範囲、または90°〜270°の範囲で変化させつつ、方向推定用検出値P(θ)の大きさを測定する。方向推定用検出値P(θ)の大きさは、例えば、複素数絶対値の時間平均値として定義することができる。到来方向推定部26は、総合指向性変数θに対する方向推定用検出値P(θ)の大きさの関係を求める。
【0029】
図2にその関係の例を示す。図2は、総合指向性変数θを−90°〜90°の範囲で変化させつつ方向推定用検出値P(θ)の大きさを測定して得られた関係である。横軸は総合指向性変数θを示し、縦軸は方向推定用検出値P(θ)の大きさを示す。この例は、総合指向性変数θ1、θ2、およびθ3において、方向推定用検出値P(θ)の大きさが極大値となることを示す。
【0030】
到来方向推定部26は、方向推定用検出値P(θ)の大きさが極大値となったときの総合指向性変数θを、無線信号の推定到来方位角とする。推定到来方位角は、複数求められることがある。複数求められた推定到来方位角は、直接波信号の到来方向を示す方位角およびマルチパス信号の到来方向を示す方位角の推定値となる。図2の例では、推定到来方位角はθ1、θ2およびθ3である。また、直接波信号に対する方向推定用検出値P(θ)の極大値は、マルチパス信号に対する方向推定用検出値P(θ)の極大値よりも大きいことが多い。図2の例では、最も大きい極大値は、推定到来方位角θ1に対する極大値である。したがって、推定到来方位角θ1が直接波信号の到来方向を示し、推定到来方位角θ2およびθ3がマルチパス信号の到来方向を示す可能性が高い。
【0031】
このような処理によれば、マルチパス環境下において、異なる方向から到来する直接波信号およびマルチパス信号の各到来方向の方位角を推定することができる。
【0032】
次に、アレイアンテナ受信装置10の指向性最大方向を、推定された到来方向に向ける処理について説明する。ここでは、到来方向推定部26が、3つ以上の推定到来方位角を求め、方向推定用検出値P(θ)の極大値が大きい順に、上位3つの推定到来方位角θ1、θ2、およびθ3が求められた場合について説明する。
【0033】
到来方向推定部26は、推定到来方位角としてθ1、θ2、およびθ3を重み付け演算部28に出力する。重み付け演算部28は、重み付け合成処理部30−1〜30−3に対応する指向性最大方向が、それぞれ、推定到来方位角θ1〜θ3の方向となるよう、各重み付け合成処理部に対する重み付け係数を求める。重み付け演算部28は、具体的には、次のような処理を実行する。
【0034】
重み付け演算部28は、推定到来方位角θ1の極性を反転した値を(数2)右辺のθに代入し、重み付け係数w1(θ1)〜wn(θ1)を求める。すなわち、
【0035】
【数5】

【0036】
重み付け演算部28は、重み付け係数w1(θ1)〜wn(θ1)を重み付け合成処理部30−1が備える対応する重み付け乗算器20に出力する。図1に示す重み付け合成処理部30−1については、n個の重み付け乗算器20に、上から順に重み付け係数w1(θ1),w2(θ1),・・・,wn(θ1)が出力される。
【0037】
同様にして、重み付け演算部28は、推定到来方位角θ2について重み付け係数w1(θ2)〜wn(θ2)を求め、さらに、推定到来方位角θ3について重み付け係数w1(θ3)〜wn(θ3)を求める。そして、重み付け係数w1(θ2)〜wn(θ2)を重み付け合成処理部30−2が備える対応する重み付け乗算器20に出力し、重み付け係数w1(θ3)〜wn(θ3)を重み付け合成処理部30−3が備える対応する重み付け乗算器20に出力する。
【0038】
このような処理によれば、重み付け合成処理部30−1〜30−3からは、それぞれ、方位角θ1〜θ3の方向を指向性最大方向としたときの総合受信信号s1〜s3が出力される。受信信号処理部24は、総合受信信号s1〜s3に対する受信処理を実行する。これによって、異なる方向から到来する3つの無線信号を分離して処理することができ、直接波信号とマルチパス信号とを分離して処理することができる。
【0039】
ここでは、推定到来方位角が示す方向に指向性最大方向を向けるための重み付け係数を(数2)を用いて求める処理について説明した。このような処理の他、同様の処理を行う一般的なアルゴリズムを用いてもよい。例えば、重み付け演算部28が、次のような処理を実行してもよい。
【0040】
重み付け演算部28は、推定到来方位角θ1、θ2、およびθ3を用い、(数6)で示される重み付け行列W(θ1,θ2,θ3)を求める。
【0041】
【数6】

【0042】
ここで、行列F-1(θ1,θ2,θ3)は行列F(θ1,θ2,θ3)の逆行列であり、行列F(θ1,θ2,θ3)は(数7)で与えられる。
【0043】
【数7】

【0044】
ここで、右辺のfk(θ)は(数2)で定義される指向性関数である。重み付け合成処理部30−1〜30−3がそれぞれ出力する総合受信信号s1〜s3は、次の(数8)で表される。
【0045】
【数8】

【0046】
ここで、右辺のベクトル(x1,x2,・・・xn)は、(数1)の受信ベクトルVxを転置したものである。したがって、重み付け演算部28は、(数6)で示される重み付け行列W(θ1,θ2,θ3)の第1行(行は横方向の配列)の各要素を、重み付け合成処理部30−1の対応する重み付け乗算器20に出力する。同様にして、(数6)で示される重み付け行列W(θ1,θ2,θ3)の第2行および第3行の各要素を、それぞれ、重み付け合成処理部30−2および30−3の対応する重み付け乗算器20に出力する。
【0047】
重み付け行列W(θ1,θ2,θ3)の各行の各要素を重み付け係数とすることにより、重み付け合成処理部30−1からは、方位角θ1の方向を指向性最大方向とし、方位角θ2およびθ3の各方向に指向性ヌルを向けたときの総合受信信号s1が出力される。同様に、重み付け合成処理部30−2からは、方位角θ2の方向を指向性最大方向とし、方位角θ1およびθ3の方向に指向性ヌルを向けたときの総合受信信号s2が出力され、重み付け合成処理部30−3からは、方位角θ3の方向を指向性最大方向とし、方位角θ1およびθ2の方向に指向性ヌルを向けたときの総合受信信号s3が出力される。これによって、、異なる方向から到来する3つの無線信号を分離して処理することができ、直接波信号とマルチパス信号とを分離して処理することができる。
【0048】
本実施形態に係るアレイアンテナ受信装置10においては、到来方向推定部26は、総合指向性変数θに対する方向推定用検出値P(θ)の大きさの関係を求める。そして、求められた関係に基づいて推定到来方位角を求める。(数1)〜(数4)から明らかなように、方向推定用検出値P(θ)を求める処理は繰り返し演算を含まない。また、総合指向性変数θに対する方向推定用検出値P(θ)の大きさの関係は、総合指向性変数θの値を所定範囲内で変化させつつ、方向推定用検出値P(θ)の大きさを測定することで求めることができる。したがって、MMSE、MUSIC等の繰り返し演算を行うアルゴリズムを用いる場合に比して、簡単な処理で無線信号の到来方向を求めることができる。
【0049】
なお、ここでは、異なる方向から到来する3つの無線信号を分離受信することを目的とし、3つの重み付け合成処理部を備える構成について説明した。重み付け合成処理部は、分離受信する無線信号の数に応じた数だけ設けることができる。到来方向推定部26は、方向推定用検出値P(θ)の極大値が大きい順に、重み付け合成制御部が設けられた数の推定到来方位角を求める。重み付け演算部28は、各重み付け合成処理部に応じた重み付け係数を求め、各重み付け合成処理部に出力する。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置36について説明する。図3にアレイアンテナ受信装置36の構成を示す。アレイアンテナ受信装置36は、第1の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置10における、到来方向推定部26、重み付け演算部28、および重み付け合成処理部30−1〜30−3を、総合処理部38に置き換えたものである。図1の構成部と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
重み付け制御部40は、無線信号の到来方向を推定する処理、その処理によって求められた推定到来方位角が示す方向に指向性最大方向を向ける処理を異なる時間帯に行う。
【0052】
重み付け乗算器20は、重み付け制御部40から出力された重み付け係数を、複素I/Q信号に乗じて加算合計器22に出力する。加算合計器22は、重み付け乗算器20から出力された信号を加算合計し、総合受信信号として重み付け制御部40および受信信号処理部24に出力する。
【0053】
このような構成によれば、各単位アンテナ12で受信された信号は、重み付け係数に基づいて位相が調整された上で加算合計される。総ての単位アンテナ12によって定まる総合受信指向性は、重み付け係数に基づいて規定される。したがって、総合受信信号は、重み付け係数に基づいて規定された総合受信指向性を以て受信された信号となる。
【0054】
重み付け制御部40は、異なる方向から到来する複数の無線信号の各到来方向を推定する。その後、アレイアンテナ受信装置36の指向性最大方向が、推定された到来方向のうちの1つに向けられるよう、重み付け係数を求める。
【0055】
異なる方向から到来する複数の無線信号の各到来方向を推定する処理について説明する。重み付け制御部40は、総合指向性変数θに対し、(数9)に基づいて重み付け係数w1(θ)〜wn(θ)を求める。
【0056】
【数9】

【0057】
重み付け制御部40は、重み付け係数w1(θ)〜wn(θ)を対応する重み付け乗算器20に出力する。これによって、指向性最大方向は方位角θの方向となる。
【0058】
重み付け制御部40は、総合指向性変数θを−90°〜90°の範囲、または90°〜270°の範囲で変化させつつ、総合受信信号の大きさを方向推定用検出値として測定する。そして、総合指向性変数θに対する方向推定用検出値の大きさの関係を求める。
【0059】
重み付け制御部40は、方向推定用検出値の大きさが極大値となったときの総合指向性変数θを、無線信号の推定到来方位角とする。
【0060】
このような処理によれば、マルチパス環境下において、異なる方向から到来する直接波信号およびマルチパス信号の各到来方向の方位角を推定することができる。
【0061】
次に、アレイアンテナ受信装置36の指向性最大方向が、推定された到来方向のうちの1つに向けられるよう、重み付け係数w1〜wnを求める処理について説明する。ここでは、推定到来方位角としてθ1、θ2、θ3の3つが求められた場合について説明する。
【0062】
重み付け制御部40は、所定の第1の時間帯に、指向性最大方向を推定到来方位角θ1とする重み付け係数w1(θ1)〜wn(θ1)を求める。この重み付け係数は、アレイアンテナ受信装置10の重み付け演算部28が実行する処理と同様の処理によって求めることができる。重み付け制御部40は、重み付け係数w1(θ1)〜wn(θ1)を対応する重み付け乗算器20に出力する。
【0063】
このような処理によれば、指向性最大方向を方位角θ1の方向とすることができる。これによって、加算合計器22からは、方位角θ1の方向を指向性最大方向としたときの総合受信信号が出力される。受信信号処理部24は、総合受信信号に対する受信処理を実行する。したがって、アレイアンテナ受信装置36は、第1の時間帯には、方位角θ1の方向から到来した無線信号に対する受信処理を実行することができる。
【0064】
同様にして、重み付け制御部40は、第1の時間帯とは異なる第2の時間帯に、指向性最大方向を推定到来方位角θ2とする重み付け係数w1(θ2)〜wn(θ2)を求め、対応する重み付け乗算器20に出力する。さらに、第1および第2の時間帯のいずれとも異なる第3の時間帯に、指向性最大方向を推定到来方位角θ3とする重み付け係数w1(θ3)〜wn(θ3)を求め、対応する重み付け乗算器20に出力する。受信信号処理部24は、各時間帯に加算合計器22から出力された総合受信信号に対する受信処理を実行する。
【0065】
このような処理によれば、アレイアンテナ受信装置36は、第1、第2および第3の時間帯には、それぞれ方位角θ1、θ2、およびθ3の方向から到来した無線信号に対する受信処理を実行することができる。
【0066】
上記では、推定到来方位角としてθ1、θ2、θ3の3つが求められた場合について説明したが、2つの推定到来方位角が求められた場合、または4つ以上の推定到来方位角が求められた場合についても同様の処理を実行することができる。すなわち、重み付け制御部40は、各推定到来方位角に対応する時間帯内に、各推定到来方位角に対応する重み付け係数を求め、求められた重み付け係数を対応する重み付け乗算器20に出力する。これによって、各推定到来方位角が示す方向から到来した無線信号に対する受信処理を、時間分割によって実行することができる。
【0067】
このようなアレイアンテナ受信装置36の構成および処理によれば、異なる方向から到来する複数の無線信号のそれぞれを、異なる時間帯に処理することができる。したがって、マルチパス環境下においても、直接波信号とマルチパス信号とを分離して処理することができる。
【0068】
本実施形態に係るアレイアンテナ受信装置36によれば、無線信号の到来方向を推定する処理および指向性最大方向を推定された方向に向ける処理を、同一のハードウエアによって行うことができる。さらに、異なる方向から到来した複数の無線信号に対する処理を同一のハードウエアによって行うことができる。これによって、第1の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置10に比して、ハードウエアを小規模にすることができる。
【0069】
なお、第1および第2の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置では、複数の単位アンテナ12をアンテナ配置直線14上に等間隔dで配置する構成とした。単位アンテナの配置は、このような配置に限定されない。例えば、複数の単位アンテナを円周上に配置したり、単位アンテナの配置間隔を等間隔とせず、ばらついた間隔としたりしてもよい。この場合、複数の単位アンテナをアンテナ配置直線14上に等間隔dで配置した構成を基準として、配置の変更に基づいて各単位アンテナの受信信号が受ける位相変化を補償する手段を設ければよい。例えば、無線受信部にフェーズシフタを設ける、(数2)、(数5)、(数9)等における指数関数の独立変数を位相補償値だけ増減させる等の措置を施せばよい。
【0070】
本発明の第1および第2の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置は、測定対象物までの距離を測定する距離測定システムに用いることができる。距離測定システムは、測定対象物に取り付けられる無線タグと、無線タグまでの距離を測定する距離測定装置とを備える。距離測定装置は、測定対象の無線タグに固有に割り当てられた符号を含む無線信号を送信する。無線信号を受信した無線タグは、無線信号が示す符号と自らに割り当てられた符号とが一致する場合には、無線応答信号を返信する。距離測定装置は、無線信号を送信してから無線応答信号が受信されるまでの時間、および無線信号の伝搬速度等に基づいて、距離測定対象の無線タグまでの距離を測定する。
【0071】
このような距離測定装置に、本発明の第1または第2の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置を搭載することで、次のような効果を得ることができる。すなわち、無線タグまでの距離測定を正確に行うためには、無線タグから返信され、障害物で反射することなく直接距離測定装置に到来した無線応答信号、すなわち、直接波信号を用いることが好ましい。距離測定装置に、本発明の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置を搭載することにより、受信信号から直接波信号を分離して無線タグまでの距離を測定することができる。これによって、正確な距離測定を行うことができる。
【0072】
本発明の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置は、方向推定用検出値の大きさに基づいて推定到来方位角を求める。方向推定精度を向上させるためには、受信ベクトルVxの各要素の信号対雑音比(SNR)を大きくすることが好ましい。
【0073】
無線信号を無変調の搬送波信号としたときには、アンテナ素子毎に複素I/Q信号の時間平均化を行い、その結果を受信ベクトルVxの各要素とすることでSNRの向上を図ることができる。
【0074】
また、送信装置が変調信号を送信するシステム構成とした場合であっても、次のような構成とすることで、受信ベクトルVxの各要素のSNRを大きくすることができる。すなわち、アレイアンテナ受信装置10が推定到来方位角を求める処理を実行するときに、到来方向推定部26は、複数の直交検波器18のうちいずれか1つが出力する複素I/Qが示すシンボル位相角を、各直交検波器18が出力する複素I/Qの複素角から減算し、シンボル位相角による複素角変動が除去された各複素I/Q信号を用いた処理を実行する。これによって、送信装置が無変調の搬送波信号を送信した場合と同様、方向受信ベクトルVxの各要素のSNRを大きくすることができ、方向推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置の構成を示す図である。
【図2】総合指向性変数に対する総合受信信号の大きさの関係の例を示す図である。
【図3】第2の実施形態に係るアレイアンテナ受信装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
10,36 アレイアンテナ受信装置、12 単位アンテナ、14 アンテナ配置直線、16 無線受信部、18 直交検波器、20 重み付け乗算器、22 加算合計器、24 受信信号処理部、26 到来方向推定部、28 重み付け演算部、30−1〜30−3 重み付け合成処理部、32 基準直線、34 矢印、38 総合処理部、40 重み付け制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位アンテナを備え、
各単位アンテナで受信された信号に基づいて、無線信号の到来方向角を推定する信号到来方向推定装置において、
各単位アンテナで受信された信号の値をベクトル要素とした受信ベクトルを求める受信ベクトル生成処理と、
前記複数の単位アンテナの総合指向方向を示す総合指向性変数についての指向性関数をベクトル要素とし、指向性ベクトルを生成する指向性ベクトル生成処理と、
前記受信ベクトルと、前記指向性ベクトルと、の内積を求めるベクトル演算処理と、
前記総合指向性変数を変化させつつ前記内積の大きさを検出する検出処理と、
前記検出処理による検出値が極大となるときの前記総合指向性変数の値を、推定到来方向角として求める到来方向推定処理と、
を実行することを特徴とする信号到来方向推定装置。
【請求項2】
複数の単位アンテナを備え、
各単位アンテナで受信された信号に基づいて、無線信号の到来方向角を推定する信号到来方向推定装置において、
各単位アンテナに対応して設けられ、対応する単位アンテナの受信信号の位相角を変化させる位相調整器と、
各位相調整器から出力される受信信号を合成して出力する合成器と、
各位相調整器を制御する制御手段と、
を備え、
前記位相調整器は、
前記複数の単位アンテナの総合指向方向を示す総合指向性変数についての指向性関数に基づいて、対応する単位アンテナの受信信号の位相角を変化させる調整手段を備え、
前記制御手段は、
前記総合指向性変数を変化させつつ前記合成器の出力信号の大きさを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出値が極大となるときの前記総合指向性変数の値を、推定到来方向角として求める到来方向推定手段と、
を備えることを特徴とする信号到来方向推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−48637(P2010−48637A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212395(P2008−212395)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】