説明

個人認証方法及びそれに使用する個人認証装置

【課題】眼底血管パターン又は眼底血流分布の測定を利用した個人認証方法を、更に強固にするための改良技術を提供すること。
【解決手段】光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法において、予め登録された固指標によって固定された視線の方向で得られた測定視野内の前記情報のうち少なくとも一つを、予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法、及びそのための装置。視線の方向を固定するための固指標は、複数の固視点、例えば、文字列の一部、静止画像の一部又は動画の一部から選択でき、これらのどこを固視するかが予め登録されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底血管画像や眼底血流マップ等の眼底画像情報と、視線情報を利用した個人認証方法とそれに用いる個人認証装置に関する。更に詳しくは、本発明は、認証装置に取り込まれる画像範囲が視線の方向によって規定されることを利用し、視線の方向やその移動経路を解析し、予め登録されている個人データと照合することを特徴とする、個人認証方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本人(個人)認証は古くから指紋による方式が普及しているが、最近は目視による比較に代わって、イメージセンサーや半導体センサーとコンピュータによる画像処理を組み合わせた自動認証法が種々開発され、広く利用されている。また、指先や手の平の皮下静脈パターンを近赤外光とイメージセンサーを利用して読み取り、分岐点などの特徴を抽出して個人認証する方法も実用化されている。しかしながら、何れの方法もまだ完全ではなく、偽造との戦いが続いている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2は、レーザーを使った鮮明な高解像度の指紋センサーを開示しているが、これでは擬似指紋を判別できない。これに対して、特許文献3は、通常光線を使用し静脈パターンによって個人認証を行うと共に、更に脈拍の光学的検出によって被認証者が生きているかどうかを判定する方法を開示している。これは指紋認識ではないが、被認証者が生きていることの確認もできるので、偽造を防ぐのに効果的ではある。しかし、静脈パターンによる認証の信頼性、あるいは装置が複雑であるなどの問題点がある。
【特許文献1】特開平5−73666号公報
【特許文献2】特開平8−16752号公報
【特許文献3】特開2003−331268号公報
【0004】
一方、レーザーを生体に向けて照射すると、その反射散乱光の強度分布は、血球などの移動散乱粒子によって動的なレーザースペックル(ランダムな斑点模様)を形成するが、このパターンを、結像面においてイメージセンサーで検出し、各画素における模様の時間変化を定量化し、マップ状に表示することで、生体表面近傍の毛細血管の血流分布を画像化できることが知られている。そして、かかる現象を利用して、皮膚の下や眼底の血流マップを測定する技術や装置は、本発明者らによっていくつか提案されている(例えば、特許文献4〜9参照)。
【特許文献4】特公平5−28133号公報
【特許文献5】特公平5−28134号公報
【特許文献6】特開平4−242628号公報
【特許文献7】特開平8−112262号公報
【特許文献8】特開2003−164431号公報
【特許文献9】特開2003−180641号公報
【0005】
本発明者らは、血流マップを指紋パターンと結びつけて個人認証に用いるという概念に着想し鋭意研究を進め、皮下血流を測定することによる個人認証方法とその手段について既に提案した。即ち、(1)レーザー光束を拡げて指腹に照射し、皮下にある血管層から反射した光を、光学系を用いてイメージセンサー上にレーザースペックルとして結像する工程、(2)レーザースペックルの各画素における受光量の時間変化の速さを表す量、例えば、平均時間変化率、あるいはイメージセンサーの露光時間にしたがって積分された受光量の変動度の逆数を求め、その数値を二次元マップとして指腹の血流マップを得る工程、(3)血流マップとして現れた指紋パターンを、予め登録されている個人データと比較・判定する工程、からなる個人認証方法と、それぞれの工程を実行するための装置を提案した(特許文献10参照)。また、本発明者らは前記の方法を改良し、照明光に特定の波長のレーザーを用い指先に照射し、あるいは、複数の波長の異なるレーザーを同時または順次に指先に照射し、反射光に対する重畳的なあるいは複数の血流速マップを求めるという方法・手段も提案した(特許文献11参照)。
【特許文献10】国際公開第05/122896号パンフレット
【特許文献11】国際公開第07/142055号パンフレット
【0006】
一方、従来、個人の生体情報、例えば、眼底カメラ撮影画像からの眼底情報をコード化、暗号化して署名データやパスワードを形成する方法・装置も提案されている(例えば、特許文献12〜15参照)。そして、本発明者らは、前記レーザースペックルの技術と眼底情報を利用して、偽造の非常に困難な眼底血流分布の画像化によって得られる網膜上の血管の走行、動脈と静脈の分布形状、更には網膜背後にある脈絡膜血管層の分布、血流経時変化などの血流データを利用した、非常に強力な個人認証法を創案し、特許出願を行っている(PCT/JP2007/060776)。
【特許文献12】特開平7−213511号公報
【特許文献13】特開平11−215119号公報
【特許文献14】特開平11−149453号公報
【特許文献15】特開2007−41831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目の網膜の血管模様は個人によって全て異なり、生涯殆ど形を変えることはないと言われている。また、その血流分布画像や経時変化も、本人であることを証明し、他人を排除する最も有力な方法と考えられる。しかし、最先端の微細加工技術の粋を集めれば、人の網膜血流を模した流路を形成した模擬眼を製作することは、絶対不可能とは言い切れない。また、眼底血流情報が、侵入を企てる者によって医療機関から盗み出される危険もある。例えば、眼底血流認証装置を常時利用しているために扱いに習熟している人が、他人の眼底を模した模擬眼を製作して装置に読み込ませれば、その他人になりすますことができるかもしれない。即ち、本発明者らが先に提案した眼底血流分布の画像化を元にした個人認証装置は極めて強力ではあるものの、今のままではまだ完全とは言い難い。そこで、本発明の課題は、特に、眼底血流分布の測定を利用した個人認証方法を、更に強固にするための改良技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
眼底血管又は血流分布の測定に際し、視線を変えると眼球が回転し、眼底血管又は血流分布の測定装置(個人認証装置)側から見れば、観察視野内を網膜血管パターンが移動したように見える。言い換えれば、予め登録された視線方向に被検眼の視線が一致していない限り、個人認証装置側は別のパターンとして認識し、他人として拒否することになる。本発明は、かかる原理に基づき、被検者の視線と、眼底血管画像や血流画像の観察視野が1対1に対応する性質を利用したものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載された発明は、光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法において、予め登録された固指標によって固定された視線の方向で得られた測定視野内の前記眼底血管画像情報、眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを、予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、視線の方向を固定するための固指標が、複数の固視点候補を有しており、どこを固視するかを予め登録しておくようにしたことを特徴とする請求項1記載の個人認証方法である。この請求項2の発明は、個人認証装置内に複数の固視点候補を用意し、被検者が登録時に指定した固視点を注視することによって得られる血管模様や血流マップを、登録時のそれと比較・照合することによって、登録時の固視位置を知らない他人を排除できるように意図したものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、固視点が、文字列の一部、静止画像の一部又は動画の一部を利用するものであることを特徴とする請求項2記載の個人認証方法である。
【0012】
そして、請求項4に記載された発明は、前記認証方法において用いられる個人認証装置に関するものである。即ち、光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合して個人を識別する個人認証装置において、視線の方向を固定するための手段が設けられていることを特徴とする個人認証装置である。
【0013】
請求項5に記載された発明は、視線の方向を固定するための手段が、複数の固視点候補を有する固指標からなることを特徴とする請求項4記載の個人認証装置である。
【発明の効果】
【0014】
眼底血管パターンや眼底血流分布は先天的なものであり、非常に複雑な情報を含んだハードウェアと見なされ、指紋などよりは遙かに精度良く個人認証に利用できる。しかし、他人になりすまして侵入を企てる側の偽造能力は常に進歩するため、対策は無限に必要と言える。例えば、視線を利用して偽眼を識別する方法は既に提案されているが(例えば、特許文献15参照)、角膜反射などを利用する限り精度が悪く、隠しカメラなどで盗み取られる危険性もある。これに対して、眼底血管パターンや血流分布を観察する光学系は、目に近接させて使用する必要があるため、隠しカメラなどを取り付けるスペースが無い。また、観察中に顔が揺れた場合、従来の角膜反射を利用した視線検出法では誤差が発生し、十分な精度が得られないのに対し、眼底血管パターンや血流分布を観察する光学系では、眼球固有の光学的構造により、視線を変えない限り眼底の同じ場所が観察視野内に捉えられる。本発明は、このような性質、即ち、眼底観察系が捉える視野が、被検眼の視線方向により正確に決定される性質を利用したものであるから、精度が高くかつ偽造防止能力に非常に優れた個人認証方法及び装置が提供される。
【0015】
また、本発明では、以下に列挙する手段・手法を導入することで、認証効果を高めている。先ず、認証装置内に複数の固視点候補を用意し、被検者が登録時に指定した固視点を注視することによって得られる血管パターンや血流マップを、登録時のそれと比較・照合することによって、登録時の固視位置を知らない他人を排除できる。仮に、精密加工技術によって眼底血流を模した模擬眼ができたとしても、それだけでは網膜の機能がないので、特定の方向を注視することはできない。
【0016】
更に、侵入を企てる側の技術が進んで、例えば、網膜血管の背後にイメージセンサーを集積させ、視線の先に見える画像を取り出せるように細工したとしても、前記複数の固視点候補に、文字列、静止画像、動画など一般的な映像の一部を利用すれば、本人でない限りどこをどのように注視すればいいか分からない。本発明は、眼の持つ視覚機能を有効に利用し、後天的なソフトウェア的要素、即ち、学習や記憶によって身に付いた本人の知的情報処理能力と組み合わせることによって、より強固な認証システムへと改良されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法において、予め登録された固指標によって固定された視線の方向で得られた測定視野内の前記眼底血管画像情報、眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを、予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とするものである。
【0018】
本発明は、光学的手法により得られた眼底血管画像情報と、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報という2種類の眼底画像の、いずれかを利用するものである。前者は、眼底カメラなど一般的な眼底観察光学系によって捉えられる血管パターンである。これは既にほぼ完成された技術であり、白色光などインコヒーレント光で眼底を照明し、撮像素子で血管画像をコンピュータに取り込むことができる。被検者が視線を動かせば眼球が回転し、測定視野内を血管パターンが移動するので、この視線とその移動情報を予め登録してある一連の画像と比較・照合することで、本人かどうかを判定できる。この方法で得られる画像には、初めから血管パターンの濃淡画像が現れており、コントラスト強調や輪郭抽出など、簡単な画像処理の後、直ぐに認証用画像として利用できる。しかし前処理が簡便な分、眼底血管網を模した濃淡画像を眼底部に貼り付けた模擬眼を作り、検出側に読み込ませて誤認証させることも、不可能とは言えない。
【0019】
後者の眼底血流分布に関する技術は、本発明者らが開発した眼底血流画像化装置によって捉えられる眼底血流分布の動画と、その経時変化の情報を利用するものである。これは最近実用レベルになった新しい技術であり、レーザーで眼底の広い領域を照明し、散乱光が眼底の像面上に形成するランダムな干渉模様の時間変化を解析することで、二次元血流マップの動画を得ている。この方法は、ランダムな斑点模様から血流マップを現像するプロセスが複雑な分、解析時間もコストも多くかかるが、眼底血管網と同等の細いチャンネルを形成し、実際に散乱粒子を流さなければ、血流模様が現れないため、偽造は困難を極める。本発明では、これら2つの眼底画像を個人認証に利用するに際して、前者に対しては弱点を克服するために、後者に対しては更に強固な認証システムを構築するために、本人が予め登録した視線情報を認証過程で参照するものである。
【0020】
前記したように、光学的手法により得られた眼底血管画像情報やレーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報は、公知の方法・手段で得ることができる。本発明においては、それらの情報を得るに際して、予め登録された固指標によって固定された視線の方向の測定視野内の情報を得るものである。
【0021】
例えば、眼底血流画像化装置は元来医療機器として開発されたもので、固視の安定しない患者のために、測定中に被検眼がどの方向にどのくらい移動したかを解析し、その移動ベクトルに従って、血流マップを移動先にずらして重ね合わせていく機能を持っている。この時、固視の移動に対する分解能は、通常0.1度程度はあるので、固視のわずかな移動も検出することができる。言い換えれば、眼底血流を画像化した時点で、既に固視の移動情報を高精度で把握していることになる。一方、ある動画像に対して本人が予め登録した条件を適応することにより、理論的な固視移動情報を規定できる。この理論的に求められた追尾情報と、実際に被検眼から得られた固視の方位やその経時変化を比較・照合することで、本人か否かを判断できる。
【0022】
人間の画像処理機能は極めて優れており、例えば、ランダムパターン内に埋もれた既知のパターンの輪郭を取り出す能力や、両眼の視差を利用した立体視能力があるので、これらを利用して視線を特定方向に定めることもできる。
【0023】
本発明において、視線の方向を固定するためには固指標を用いて、固指標が、複数の固視点候補を有しており、どこを固視するかを予め登録しておくようにするのが好ましい。そして、固視点としては、文字列の一部、静止画像の一部又は動画の一部を利用するのが好ましい。固指標が画像や文字・数字表示画面の場合は、表示された画像や文字から連想されるものや、演算結果、翻訳や変換結果など、予め登録しておいた知的作業の結果を視線で指定することにより、その手順を知らない他人を排除できる。固指標として静止画を用いる場合は、複数の固視点を見る順序と、それぞれの固視時間を検出し、予め登録されている情報、例えば、5秒以上あるいは3秒以内といった情報と比較すれば良い。また、固指標として動画を用いる場合は、固視の方位とその経時変化を検出し、予め登録されている情報と比較すれば良い。
【0024】
具体的には、例えば、認証装置内に日付と時間、数字列だけが並んで見えていたとして、それらの数字文字列に対して、どのような演算手順を用いるかは当人が自由に決められるし、簡単な暗号化もできる。本人が「時刻を表す数字の総和を取り、3を加えた2桁数字を順次見る」と登録していれば、他人がこのような演算結果を推測して模擬眼に指令を送り、速やかに所定の場所を固視するよう制御することは極めて困難と言える。
【0025】
また、前記動画の一部を固視点に利用する場合は、何を固視するかを予め登録しておき、動画内の固視対象の移動に合わせて眼底画像や眼底血流画像の測定視野が移動する様子、即ち、視線の方位やその経時変化を解析した結果が、登録されている固視対象の移動情報と合致しているか否かを、本人認証の判定に利用することができる。
【0026】
前記したような本発明の個人認証方法は、下記の装置を用いることによって実施することができる。即ち、光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合して個人を識別する個人認証装置において、視線の方向を固定するための手段が設けられていることを特徴とする個人認証装置である。視線の方向を固定するための手段としては、固視標を含む手段を用いることができる。そして、かかる装置においては、視線の方向を固定するための手段が、複数の固視点候補を有する固指標からなるものが好ましい。
【0027】
以下、図面を用いて本発明の原理を説明する。図1において、1は眼底血流画像化装置又は眼底画像撮像装置、2は固視画面、3は認証用情報処理装置、4は認証システムの内と外を隔てる障壁、5は眼底を観察し易くするために周囲の光を遮るフードである。 認証システムの外部にいる人間がフード内の所定の位置に眼を合わせると、図1の眼底血流画像化装置又は眼底画像撮像装置1が起動して、認証用情報処理装置3にデータが送られる。被検者が、固視画面2の中のあらかじめ登録している内容に従って所定の位置を固視すれば、眼底画像撮像装置1によって得られた血流画像又は血管画像データが、認証用情報処理装置3の内部で登録済みの画像と比較・照合され、本人かどうかが判断される。
【0028】
図2の6は、眼底血流画像又は血管画像の全体像であり、図3は、固視画面として文字列を用いた場合の例である。認証システムに実際に取り込まれる眼底血流画像や血管画像は、図2の7、8の枠内など、限られた領域となる。例えば、図3の固視画像は、ありきたりの言葉を用いているが、被検者が先頭の文字Wを固視したときは、それに対応して観察視野に捉えられる眼底血流画像又は血管画像は、図2の7になるのに対して、二番目の文字eを固視したときは図2の8が捉えられる。このマップのずれは顕著であり、本人と他人を識別するには十分な能力がある。
【0029】
また、図4は、固視画面に演算処理を促す文字情報と、固指標としての16進数を表示した例である。このような画面に対しては、様々な処理が考えられる。例えば、ある人は、火曜日が週の3日目、これに3月11日なので、3+3+11=17として、答えの一桁目である7を固視するように設定できる。別の人は、17を16進数にして、その一桁目である1を固視するかもしれない。検出に入った時刻表示が31秒で、まだ切り替わるまでの時間に余裕がある場合、27分を逆にして7を3秒以上、その後2を1秒以上固視すると登録することもできる。このときの登録内容は、「分を表す数字の下位桁目を3秒以上、上位桁目を1秒以上固視する」という表現になる。このように各固視点を凝視する時間も予め指定しておけば、個人認証に利用できる。
【0030】
固視画面にアニメーションを用いる場合の例としては、例えば、色々な種類の花と、色の異なる蝶が数匹舞っていて、しかも蝶の色が刻々7色に変わっていく画面を表示しておくとする。このような例では、「どこを起点にしても良いから、先ず青色の蝶を見て、それが別の色に切り替わったら黄色の蝶を見て、それも別の色に切り割ったらチューリップを見る」など、非常に手の込んだ登録も可能である。
【0031】
また、登録した最初の固視点で、眼底血管画像や眼底血流画像が登録されているものと一致しなければ動画が始まらない、という機能を設けておけば、動画の内容を侵入者に開示しなくてすむので、より安全といえる。
【0032】
一般的な認証装置では、生体認証に入る前に、カードや登録番号などで被検者のIDを先に入力することが多い。固視に用いる画像は、図4のようなものを登録メンバー全てに共通で用いても良いが、より強固な認証システムを構築したければ、メンバーが独自に作成したオリジナル画像を登録し、IDに従って読み出すようにすればよい。
【0033】
右目と左目に別々の画像やロジックを登録して、常用と非常用に切り替えて使用することもできる。
【0034】
眼底血管網は、一人一人を識別するための非常に精巧な模様ではあるが、これを微細加工技術を駆使して人工的に再現しようとする者が現れても不思議ではない。しかし、本発明のごとく、別の人間が創作した動画像のどこを見れば良いかを瞬時に判断し、そこに偽造眼を向けて追尾する技術は、極めて難しいと想像される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明による個人認証システムは、眼底血管撮影装置や眼底血流分布動画像化装置によって得られる画像情報と、本人しか知らない固視点情報を組み合わせている。前者のうち眼底血管を撮影する技術は昔からあり、単なる濃淡画像であるため偽造は比較的容易であるが、後者の固視点情報と組み合わせると、非常に強固な個人認証システムを構成できる。更に、前者のうち眼底血流分布を動画で画像化する装置は、最近本発明者らによって開発された技術で、血管網に似せた微細な流路を人工的に作り、散乱粒子を実際に流さなければ信号が得られないので、偽造が極めて難しい。これに後者の固視点情報を組み合わせれば、人間の眼の画像処理能力や脳の記憶、演算処理能力を十分に生かした究極の個人認証システムを構築できる。眼底血管画像を用いるか、眼底血流画像を用いるかは、要求される認証精度、使用条件、機密内容、管理コスト等を考慮して使い分けることができる。これらの利点を生かして、部外者の浸入を防止すべき重要施設への入退室監視、出入国管理、機密性の高い情報システムへのアクセス権取得など、本発明は様々なレベルのセキュリティ管理に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】眼底血管パターン又は眼底血流分布測定を用いた個人認証方法の説明図である。
【図2】眼底血流画像又は眼底血管画像の全体像と、固視位置を変えたときに得られる、画像の違いの例を説明するための図である。
【図3】固視画面として文字列を用いた場合の例である。
【図4】固視画面に演算処理を促す文字列と、固指標としての16進数を表示した例である。
【符号の説明】
【0037】
1 眼底血流画像化装置または眼底画像撮像装置
2 固視画面
3 認証用情報処理装置
4 障壁
5 フード
6 眼底血流画像又は眼底血管画像
7 図3のWを固視したときの測定視野に捉えられる血流画像又は血管画像
8 図3のeを固視したときの測定視野に捉えられる血流画像又は血管画像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法において、予め登録された固指標によって固定された視線の方向で得られた測定視野内の前記眼底血管画像情報、眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを、予め登録されている個人の情報と比較・照合することを特徴とする個人認証方法。
【請求項2】
視線の方向を固定するための固指標が、複数の固視点候補を有しており、どこを固視するかを予め登録しておくようにしたことを特徴とする請求項1記載の個人認証方法。
【請求項3】
固視点が、文字列の一部、静止画像の一部又は動画の一部を利用するものであることを特徴とする請求項2記載の個人認証方法。
【請求項4】
光学的手法により得られた眼底血管画像情報、レーザーを利用して得られた眼底血流分布画像情報又はその経時変化の情報のうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人の情報と比較・照合して個人を識別する個人認証装置において、視線の方向を固定するための手段が設けられていることを特徴とする個人認証装置。
【請求項5】
視線の方向を固定するための手段が、複数の固視点候補を有する固指標からなることを特徴とする請求項4記載の個人認証装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−251924(P2009−251924A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98820(P2008−98820)
【出願日】平成20年4月6日(2008.4.6)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(506255979)株式会社シスコム (2)
【Fターム(参考)】