説明

偏光ガラスの製造方法

【課題】面内の偏光軸ずれを低減すると共に、面内の消光比特性を高める。
【解決手段】形状異方性を有する金属粒子がガラス中に配向して分散された偏光ガラスの製造方法の中の延伸工程において、延伸途中のガラスシートを、ノズルからの冷却ガスの吹き付けにより強制冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信などに利用される小型の光アイソレータ、あるいは、液晶・電気光学結晶・ファラデーローテータなどの組み合わせからなる光スイッチや電気磁気センサ等の偏光子として用いられる偏光ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配向、分散された形状異方性を有する微細な金属粒子、例えば銀粒子や銅粒子を分散含有するガラスは、その金属の光吸収波長帯が入射偏光方向によって異なるために、偏光子になることが知られている。そのような偏光ガラスは、伸長されたハロゲン化銅粒子含有ガラスあるいはハロゲン化銀粒子含有ガラスを還元することで作製できることも知られている。
【0003】
例えば、ハロゲン化銅粒子含有ガラスから偏光ガラスを作製する方法が、特許文献1に開示されている。この方法は、ガラスの粘度が10〜1010Pa・Sの範囲になる温度においてハロゲン化銅粒子を伸長し、次いで還元雰囲気下で熱処理することによりハロゲン化銅粒子を還元して、伸長された形状異方性の金属銅粒子を含有する偏光ガラスを製造するというものである。
【0004】
また、上記形状異方性の金属銅粒子を含有する偏光ガラスの製造方法を改良した方法として、ハロゲン化金属粒子含有ガラスを線引きする方法が、特許文献2に提案されている。この方法は、金属ハロゲン化粒子が分散されているガラスプリフォームを線引きする際に、伸長したガラスの冷却(自然冷却)を伸長と同時に行い、伸長したガラスを効率良く自然冷却することによって、伸長したハロゲン化金属粒子の再球状化を防止し、優れた偏光特性を有する偏光ガラスを製造するというものである。
【0005】
ところで、従来の、アイソレーションが35dB程度求められる高性能幹線系光アイソレータの部品として使用される偏光ガラスは、平面の寸法が1.0〜1.2mm角のものであった。そして、この偏光ガラスを、同サイズのファラデー素子の結晶に個々に位置合わせして接着することにより、光アイソレータ用の非相反素子を製造していた。これ以下のサイズの部品は、ハンドリングがしにくく、例えば、偏光ガラスとファラデー素子の結晶との接着作業が容易ではなく、実用化が難しいとされていた。
【0006】
それに対して最近では、メトロ系の光アイソレータ用として、平面の寸法が0.5〜0.6mm角程度の小さい部品が使用されるようになってきた。その製造方法は、まず10mm角程度のファラデー素子結晶と、同程度の寸法を有する偏光ガラスとを、位置合わせして貼り付ける。次いで、それを0.5〜0.6mm角程度の多数の部品にカットするというものである。この方法によれば、前記の従来品に較べて、約1/4の平面面積で済む部品を、多数、簡便に作製できるようになった。
【0007】
ところが、平面の寸法が小さい偏光ガラスを同サイズのファラデー素子結晶に個々に位置合わせして接着する場合は問題とならなかったが、10mm角程度の比較的大きめのサイズの偏光ガラスを使用する場合、ガラス面内での偏光軸ずれの問題が無視できなくなってきた。即ち、ガラス面内に偏光軸のずれた部分が存在すると、その部分では、偏光軸がずれた状態でファラデー素子と貼り合わされることになり、光アイソレータとしての偏光特性が損なわれるからである。
【0008】
従来、偏光ガラスにおける偏光軸ずれを低減する方法として、特許文献3に記載の方法が知られている。この方法は、延伸に使用する加熱炉の温度分布を、延伸方向に垂直な方向における両端部の温度が中央部より低くなるように設定すると共に、プリフォームのガラス厚を4mm以上と厚くすることで、延伸時の幅方向両端部のガラスの冷却速度を中心部より相対的に速くして、両端部の構造の凍結を速め、それにより、両端でのハライド金属延伸軸のハの字の開きを抑えるというものである。
【0009】
【特許文献1】特許第2740601号公報
【特許文献2】特許第2849358号公報
【特許文献3】特開2004−224660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載のように、加熱炉の両端部の温度を低く設定してプリフォームガラスを延伸すると、延伸されたガラスの幅方向両端部が中心部に較べて粘度が高い状態で延伸されるので、両端部に中心部よりも大きな張力がかかり、そのため、両端部のハライド金属微粒子が中心部よりも大きく延伸されて、面内の消光比特性にバラツキや分布が生じてしまうという問題がある。
【0011】
また、プリフォームガラスの厚さを厚くして延伸すると、相対的に幅方向の中心部に較べて両端部が早く冷却されるので、結果的に上述の加熱炉の端部の温度を低くして延伸することと同じことになり、面内の消光比特性にバラツキや分布が生じてしまうという問題がある。また、プリフォームガラスの厚さを厚くした場合、プリフォームの体積が増し、延伸時に、より大きな張力をかける必要が生じるので、延伸装置を、その張力に耐えるだけの大型の設備とする必要が出てくる。また、プリフォームの体積が増すことで、母材となるガラスも多く消費することになり、結果的にコストが上昇するという問題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、偏光ガラスの面内の偏光軸ずれを低減することができると共に、面内の消光比特性を高めることができ、しかも、均質で製造コストの安価な偏光ガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、形状異方性を有する金属粒子がガラス中に配向して分散されている偏光ガラスの製造方法であって、金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスプリフォームを加熱し延伸する延伸工程と、該工程により得られたガラスシートを還元処理して、金属ハロゲン化粒子の一部又は全部を金属粒子とする還元工程と、を有し、前記延伸工程において、延伸途中のガラスシートを強制冷却手段によって強制冷却することを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法であって、前記強制冷却を、前記延伸途中のガラスシートの幅方向の中央部に対して行うことを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の偏光ガラスの製造方法であって、前記強制冷却手段として、ガスの吹き付けノズルを設け、前記強制冷却を、前記延伸途中のガラスシートに対する前記ノズルからのガスの吹き付けにより行うことを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明は、請求項3に記載の偏光ガラスの製造方法であって、前記ガスとして、室温より低い温度のガスを使用することを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明は、請求項1または2に記載の偏光ガラスの製造方法であって、前記強制冷却手段として、周囲より温度を低く制御した冷却部材を設け、前記強制冷却を、前記冷却部材を前記延伸途中のガラスシートの表面に近接させることにより行うことを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明は、形状異方性を有する金属粒子がガラス中に配向して分散されている偏光ガラスの製造方法であって、金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスプリフォームを加熱し延伸する延伸工程と、該工程により得られたガラスシートを還元処理して、金属ハロゲン化粒子の一部又は全部を金属粒子とする還元工程と、を有し、前記延伸工程において、加熱用の発熱体と延伸途中のガラスシートとの間に、該ガラスシートの幅方向の中央部に対する前記発熱体からの熱輻射を遮断する遮熱部材を挿入することを特徴とする。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6に記載の偏光ガラスの製造方法であって、前記遮熱部材として、セラミックス材、または金属板の表面にセラミックスを付与した材料を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、延伸途中のガラスシートを、従来のように室温によって自然冷却(放冷)するのではなく、強制冷却手段によって強制的に冷却するので、延伸したガラスシートの冷却速度を速めることができ、延伸軸が凍結する速度を全体的に速めることによって、延伸ガラスシートの幅方向端部でのハライド金属微粒子の延伸軸上部の中心側への傾き(延伸軸のハの字の傾き)を小さく抑えることができる。そして、このガラスシートを還元することによって、延伸面内の幅方向における偏光軸ずれの小さな偏光ガラスを得ることができる。
【0021】
また、ガラスシートの冷却速度が速まることにより、延伸したハロゲン化金属粒子の延伸形状の戻りを防止でき、還元後、高い消光比の偏光ガラスを幅方向の全域で得られるようになる。また、特別に厚いプリフォームを用意する必要がないため、母材ガラスから採取するプリフォーム枚数も増やすことができ、製造コストを安価に抑えることができる。また、プリフォームの断面積を小さくできるので、引き取り装置にかかる荷重を小さくでき、大型の引取り装置も不要となるため、製造コストを低く維持できる。
【0022】
請求項2の発明によれば、延伸途中のガラスシートの幅方向中央部を強制冷却するので、中央部のガラス構造を端部よりも早く凍結させることによって、端部での延伸ハライド金属粒子上部の中心側に向かう力を小さくして、延伸軸のハの字の傾きを小さく抑えることができる。また、従来のような延伸ガラスシートの自然冷却(放冷)では、幅方向中央部が冷えにくく、端部が冷えやすいことにより、ガラス粘性の違いで中央部と端部で張力に差が生じ、結果的に消光比特性が中央部と端部で異なってしまう現象を生じていたが、延伸ガラスシートの中央部を強制冷却手段により強制冷却することで、幅方向の中心部と端部で冷却速度の差を小さくすることができる。よって、ハライド金属微粒子にかかる中央部と端部での張力の差が小さくなり、ハライド金属微粒子の延伸状態が幅方向で均一となり、還元後、偏光ガラスの消光比特性の幅方向でのバラツキや分布を小さくすることができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、ノズルからガスを吹き付けることによりガラスシートを強制冷却するので、簡単な設備によって、容易にガラスシートの温度を制御することができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、室温より低い温度のガスを吹き付けるので、速やかにガラスシートを冷却することができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、周囲より温度を低く制御した冷却部材をガラスシートの表面に近接させることにより、ガラスシートを強制冷却するので、簡単な設備によって、容易にガラスシートの温度を制御することができる。
【0026】
請求項6の発明によれば、延伸工程において、加熱用の発熱体と延伸途中のガラスシートとの間に、ガラスシートの幅方向の中央部に対する発熱体からの熱輻射を遮断する遮熱部材を挿入するので、ガラスシートの幅方向の中央部の受熱量を制限することができ、同中央部を強制冷却するのと同様の温度分布を加熱炉を出る段階のガラスシートに与えることができる。従って、中央部のガラス構造を端部よりも早く凍結させることができ、それによって、端部での延伸ハライド金属粒子上部の中心側に向かう力を小さくして、延伸軸のハの字の傾きを小さく抑えることができる。そして、このガラスシートを還元することによって、延伸面内の幅方向における偏光軸ずれの小さい偏光ガラスを得ることができるようになる。
【0027】
また、延伸ガラスシートの自然冷却では、幅方向中央部が冷えにくく、端部が冷えやすいことにより、ガラス粘性の違いで中央部と端部で張力に差が生じ、結果的に消光比特性が中央部と端部で異なってしまう現象を生じる可能性があったが、延伸ガラスシートの中央部の加熱量を、予め加熱炉を出る段階において制限しておくことにより、ガラスシートの中心部と両端部の冷却速度のバランスをよくすることができる。よって、ハライド金属微粒子にかかる中央部と端部での張力の差を小さくすることができ、ハライド金属微粒子の延伸状態を幅方向で均一にすることができ、還元後、偏光ガラスの消光比特性の幅方向でのバラツキや分布を小さくすることができる。
【0028】
また、特別に厚いプリフォームを用意する必要がないため、母材ガラスから採取するプリフォーム枚数も増やすことができ、製造コストを安価に抑えることができる。また、プリフォームの断面積を小さくできるので、引き取り装置にかかる荷重を小さくでき、大型の引取り装置も不要となるため、製造コストを低く維持できる。
【0029】
請求項7の発明によれば、前記遮熱部材として、セラミックス材、または金属板の表面にセラミックスを付与した材料を使用するので、遮熱部材の耐久性の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
第1実施形態の偏光ガラスの製造方法は、形状異方性を有する金属粒子がガラス中に配向して分散されている偏光ガラスを、金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスプリフォームを加熱し延伸する延伸工程と、得られたガラスシートを還元処理して、金属ハロゲン化粒子の一部又は全部を金属粒子とする還元工程と、を経て製造するものであって、その特徴として、延伸工程において、延伸途中のガラスシートを強制冷却手段によって強制的に冷却するものである。
【0031】
図1は第1実施形態の偏光ガラスの製造方法の説明図であり、図中1はガラスプリフォーム、2はプリフォーム送り装置、3は加熱炉、4は引っ張りローラ、1Aはガラスシート、5はガス吹き付けノズル、6は防風カバーである。本製造方法では、強制冷却手段として、ガスの吹き付けノズル5を設け、強制冷却を、延伸途中のガラスシート1Aに対する前記ノズル5からのガスの吹き付けにより行うことを特徴としている。
【0032】
ここで形状異方性を有するとは、1を超えるアスペクト比を有することを意味している。金属粒子の金属としては、例えば銅、銀、金、及び白金等を挙げることができる。また、金属粒子のアスペクト比は、偏光ガラスに要求される物性、特に光吸収波長に応じて適宜決定できるが、例えば2:1〜100:1の範囲であることが好ましい。特に、光通信波長(1.31〜1.55μm)付近を吸収波長とするためには、10:1〜30:1の範囲であることが好ましい。
【0033】
偏光ガラスにおける形状異方性の金属粒子は、ガラス中に実質的に一方向に配向して分散される。母材であるガラスの種類としては、例えば、特にガラスの軟化温度がハロゲン化物の融点よりも高い、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス等を挙げることができる。
【0034】
また、原料としては、金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスを用いる。金属ハロゲン化物のハロゲンとしては、例えば塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。金属ハロゲン化物としては、例えば塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、塩化金、臭化金、ヨウ化金、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金等を挙げることができる。金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスは、公知の方法により容易に製造することができる。
【0035】
このような金属ハロゲン化物粒子としては、粒径が50〜200nmの範囲のもの、特に70〜170nmの範囲のものが好ましい。粒径が上記範囲より小さくなると、線引きしたときに所定のアスペクト比が得られにくく、その結果、光通信用の波長での光吸収波長が得られ難くなる傾向がある。粒径が上記範囲よりも大きくなると、偏光ガラスとしたときにガラス内部に残存する金属ハロゲン化物による透過損失の影響が大きくなる傾向がある。また、金属ハロゲン化物の含有量は、所定の還元処理で得られる金属粒子により充分な消光比が得られ、かつ偏光ガラスとしたときにガラス内部に残存する金属ハロゲン化物による透過損失の影響が大きくならない程度に調整されることが好ましく、ガラス組成中のハロゲン化物を形成する金属とハロゲンの量を適宜調節することで変化させることができる。
【0036】
ところで、10mm角程度の平板サイズの偏光ガラス面内での偏光軸ずれは、延伸工程で発生するものと考えられている。板状のプリフォームを加熱して延伸する際に、プリフォームに存在するハライド金属微粒子は、ガラス軟化温度付近(ハライド金属の融点以上)で棒状に延伸され、ガラス構造が凍結する温度(Tg付近)に冷却された時点で、延伸軸が固定される。その際に偏光軸ずれが発生する。そこで、その発生原理について説明する。
【0037】
図2は板状のプリフォーム1をガラスシート1Aに延伸する段階の幅方向正面(図1のII矢印方向)から見た図である。板状のプリフォーム1は、加熱延伸により、その幅が除々に減少してゆく。このとき、プリフォーム1の幅の減少率が大きいA地点では、プリフォーム1の端部のハライド金属微粒子Pの延伸軸は、中央部に対して、上に開いた逆ハの字の形に大きく傾斜している。この傾きは、プリフォーム1の外形形状の変化に対応している。
【0038】
プリフォーム1の幅の減少が、緩やかになっている地点Bでは、上述の上に開いた逆ハの字の傾斜が、外形の変化の減少と共に小さくなっている。プリフォーム1の幅が一定になる直前の地点Cでは、プリフォーム1の端部での延伸軸の傾きが、中央部に対して平行になる。
【0039】
ガラス構造が凍結する直前(地点CとDの間)においては、図3に示すように、延伸面内の幅方向の中心部では、ハライド金属粒子Pが下方に大きな張力を受け、左右に等しい張力を受けるので、その延伸軸は延伸方向に平行である。しかし、延伸面内の幅方向の端部、例えば右端では、下方への大きな張力と左下へのわずかな張力がかかっており、その反力として、大きな上方への反力と、わずかな左上の反力が延伸微粒子Pに働いている。その結果、延伸面内の幅方向の右端では、延伸されたハライド微粒子は上側がわずかに左側(中心部側)に傾斜するようになる。同様に延伸面内の幅方向の左端では、延伸されたハライド微粒子は、右上へのわずかな反力のため、上側がわずかに右側に傾斜するようになる。
【0040】
そして、プリフォーム1の幅が最小になり、ガラス構造が凍結されるD地点では、上述のプリフォーム1の端部の中央部に向かう反力の影響で、A、B地点とは逆の下に開いたハの字に延伸軸が僅かに傾斜する。ガラス構造が凍結されてプリフォームの幅がD地点同様に最小になっているE地点では、延伸軸は下に開いたハの字にD地点と同じ傾斜で傾斜している。これが連続してゆくので、還元処理後、10mm角程度に切断した偏光ガラスには、面内に偏光軸のずれが生じることになっていた。
【0041】
その点、本実施形態の方法では、金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスプリフォームを加熱し延伸する工程において、延伸されたガラスシートを冷却手段によって連続的に冷却することを特徴としている。ここでの冷却は、ガラスシートを室温にて自然冷却(放冷)するのではなく、強制的にガラスシートに冷却ガスを吹き付けて放熱を促すことを意味する。
【0042】
加熱炉3から引き出されたガラスシート1Aは、特許文献2に記載のように、ガラスプリフォーム1の変形開始位置から雰囲気温度が100℃になる位置まで120秒以内に移動させることによって、その冷却速度を延伸ハロゲン化微粒子が再球状化しないように調整できるが、さらに強制冷却することによって、その冷却速度を上げることができる。また、冷却速度を上げることによって、さらに延伸したハロゲン化金属微粒子の延伸形状の戻りを防止でき、還元後、高い消光比の偏光ガラスが得られる。
【0043】
また、冷却ガスの吹き付けによる強制冷却によって、延伸されたガラスの幅方向全域での冷却速度が上がり、延伸軸が凍結する速度が全体的に速まることによって、前述した延伸ガラスシート端部でのハライド金属微粒子延伸軸が中心部へ傾く(延伸軸のハの字の傾き)のを、小さく抑えることができる。即ち、強制的な冷却を、B地点から行うことによって、ガラス構造が凍結するD地点までの距離(B−D)を短くし、同時にプリフォーム端部の延伸軸が下に開くハの字の傾斜角度を小さく抑えることができる。そして、このガラスシートを還元することによって、延伸面内の幅方向で偏光軸のずれが小さい偏光ガラスが得られる。
【0044】
特にこの場合、ガラスプリフォーム1を加熱し延伸する工程において、延伸されたガラスシート1Aの幅方向の中央部を冷却するのが効果的である。ここで幅方向の中央部とは、延伸されたガラスシート1Aの幅の中心点から両端部方向にシート半幅の2%から60%、好ましくは10〜50%の範囲を言う。延伸されたガラスの幅方向での中央部を冷却することによって、幅方向端部での延伸ハライド金属粒子上部の中心部に向かう反力を小さくし、反力による延伸方向との傾きを小さくし、延伸軸のハの字の傾きを小さく抑えることができる。
【0045】
また、延伸されたガラスシートの幅方向の中心部と端部で冷却速度の差が小さくなるので、ハライド金属微粒子にかかる張力の大きさが中央部と端部で差が小さくなり、その延伸状態が幅方向で均一となり、還元後、偏光ガラスの消光比特性の幅方向でのバラツキや分布を小さくすることができる。
【0046】
延伸して得られるガラスシートは、次いで還元処理して、ガラス中の金属ハロゲン化物粒子の一部又は全部を金属粒子とする。この還元処理は、例えば、シート状のガラスを還元性のガス雰囲気中で熱処理することで行うことができる。還元性のガスとしては、例えば水素ガスやCO−COガス等を挙げることができる。還元の条件は、還元すべき金属ハロゲン化物の種類により異なる。但し、還元の温度が高すぎると、還元して得られる金属粒子が再球状化することを考慮して、還元温度は決められる。例えば、ハロゲン化銅の場合、約350〜550℃であることが適当である。また、還元の時間は、還元温度及び還元の程度を勘案して適宜決めることができる。通常、30分〜10時間の範囲で行うことができる。
【0047】
この方法の場合、特別に厚いプリフォームを用意する必要がないため、母材ガラスから採取するプリフォーム枚数も増やすことができ、製造コストを安価に抑えることができる。また、プリフォームの断面積を小さくできるので、引き取り装置にかかる荷重を小さくでき、大型の引取り装置も不要となるため、製造コストを低く維持できる。
【0048】
前記の冷却ガスとしては、Air、Ar、N、O、H、混合ガス等、どのようなガスを用いてもよい。また、この冷却ガスを、コールドトラップ等に通すことによりガス中の水分を除き、ガラスに吹き付けるガス温度を室温より下げることによって、冷却速度を更に増すことができる。
【0049】
また、冷却ガスを延伸したガラスに吹き付ける際に、加熱炉3への温度低下の影響がないように、下方に向かって角度を付けてガスを吹き付けることが好ましい。さらに、加熱炉3に冷却ガスが流れ込まないように、加熱炉3と延伸されたガラスの間に、図1に示すような防風カバー6を取り付けてもよい。
【0050】
なお、ノズル5の形状は、例えば内径0.5〜20mmΦ程度の円形管状でもよいし、20×2mm程度の矩形管状でもよい。また、延伸されるガラスの幅、厚さ、延伸速度等によって、ノズル5の形状やサイズを適宜調節することにより、吹き付け効果に変化をもたせることもできる。
【0051】
また、ガスを吹き付ける際の流量は、例えば0.01〜5.0リットル/分程度の弱い吹き付けが可能なレベルに設定するのがよく、その流量も、ノズル5とガラスの距離、吹き付けの角度、吹き付けるガスの温度、ノズル形状、開口部面積、延伸速度等によって適宜調節するのがよい。あまり強く吹き付けると、上部の加熱炉3の温度を乱したり、延伸して強い歪がかかっているガラスの急激な冷却のため、破断が生じるので注意が必要である。
【0052】
図4は本発明の第2実施形態の説明図である。
前記第1実施形態では、ノズルからのガスの吹き付けにより、延伸されたガラスシートを強制冷却するようにしたが、本実施形態では、延伸されたガラスシート1Aの冷却を、周囲よりも温度を低く制御した冷却部材7をガラスシート1Aの表面の間近に挿入してガラスシート1Aの熱を吸収することで行うようにしている。
【0053】
冷却部材7は、その内部に冷却媒体を循環させることのできる構造になっており、外部に接続した温度制御装置8から冷却媒体が送り込まれることにより、周囲より温度が低い状態に保たれ、それにより、ガラスシート1Aの熱を吸収する。なお、ガラスシート1Aの発する熱を、冷却部材7で吸収し、循環している冷却媒体に伝わった熱を、温度制御装置8で放出するシステムであれば、使用する冷却部材7や冷却媒体の種類等は適宜選択可能である。
【0054】
このように、冷却部材7を使用することでも、ガラスシート1Aを強制冷却することができる。従って、上述の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、冷却部材7をガラスシート1Aの幅方向の中央部に対応させて配置することにより、中央部にガスを吹き付けて強制するのと同様の効果を得ることができる。
【0055】
図5は本発明の第3実施形態の説明図である。
前記第1、第2実施形態では、加熱炉3から出てくるガラスシート1Aを、ノズル5からのガスの吹き付けや冷却部材7の近接配置により強制的に冷却する場合を示したが、本実施形態では、加熱炉3中の発熱体3aと延伸途中のガラスシート1Aとの間に、ガラスシート1Aの幅方向の中央部に対する発熱体3aからの熱輻射を遮断する遮熱部材9を挿入する。このようにすることで、ガラスシート1Aの幅方向の中央部の受熱量を制限することができ、同中央部を強制冷却するのと同様の温度分布を加熱炉3を出る段階のガラスシート1Aに与えることができる。従って、前記第1、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
加熱炉3からの熱輻射を遮る遮熱部材9としては、アルミナ、ジルコニア、石英等のセラミックスや、冷却したSUSなどの金属等、耐熱性と断熱性がある材料であれば良い。特にアルミナやジルコニア、石英等のセラミックスは、断熱性に特に優れ、形状加工性や耐熱性も良いので、遮熱材料として好ましい。
【0057】
また、厚さ0.3〜3mm程度のSUS板に、石英、ジルコニア、アルミナ等のセラミックス粉末を塗布して焼成した材料を遮熱部材9として利用することも、効率良く加熱炉3の輻射熱を遮る方法として好ましい。
【0058】
遮熱部材9の形状としては、例えば20×5mmの矩形形状や、上面6×下面4×高さ5mm等の台形形状、R数mm程度の面取りをした矩形形状や台形形状などを採用することができる。また、形状やサイズは、延伸されるガラスの幅、厚さ、延伸速度等によって適宜調節するのがよい。
【0059】
次に実施例について述べる。
【実施例1】
【0060】
実施例1では、次のように偏光ガラスを作成した。
(1)プリフォームの作成:
SiO59.6%、AlF2%、Al6.8%、B20%、NaO9.7%、NaCl1%、CuCl0.8%、SnO0.1%からなる組成のガラスを、5リットルの白金ルツボにて1410℃で溶解した後、鋳型に流し込み470℃で除冷し、ガラスブロックを作製した。このガラスブロックから適当な大きさに切り出し、750℃にて90分熱処理し、前記ガラスブロック中に平均粒径約100nmの塩化銅粒子を含むガラスを得た。このガラスを加工して、110×250×3mmtの面の両側を光学的に研磨した板状のガラスプリフォームを得た。
【0061】
(2)延伸工程:
上記のプリフォームを線引き装置で加熱延伸した。図1に示すように、プリフォーム1を送り装置2に取り付け、プリフォーム1の下端部が、加熱炉3のほぼ中央にくるように位置をセットした。図示しない温度制御装置により加熱炉3内の温度を710℃まで昇温した。プリフォーム1下端には、針金が巻きつけてあり、前記炉3温度が安定した後、前記針金に加重をかけ、ガラスの伸長を開始し、引っ張り装置4のローラ部に伸長したガラスが達した後、針金の加重をはずした。
【0062】
延伸してシート状になったガラスを、引っ張り装置4である駆動ローラに挟み、加熱炉3内の温度を690℃に再設定した。温度が安定した後、水平方向30mm、垂直方向5mmの開口部形状の吹き付けノズル5から室温の窒素ガスを0.5リットル/分の流速で、ガラスシート1Aに対して約45°の角度で吹き付けながら、プリフォーム送り装置2によりプリフォームを15mm/分で送り、同時にローラにより張力をかけて、連続的にガラスシート1Aを引っ張った。このときのガラスと吹き付けノズル5との距離は5mmで、引っ張り速度は40cm/分であった。得られたガラスシート形状は、幅18mm、厚さ0.6mmで、引っ張り応力は20.5MPaであった。
【0063】
(3)還元:
得られたガラスシート1Aを1気圧の水素ガス雰囲気中で、425℃で8時間熱処理して、偏光ガラスを作製した。幅方向の中心点と、そこから幅方向の両端部に5mm離れた点における1.31μmでの消光比と、中心点の偏光軸を基準角度とした偏光軸のずれを測定した結果を表1に示す。
【実施例2】
【0064】
実施例2では、実施例1と同様のプリフォーム作製、加熱延伸を行った。ただし、冷却ガスとしては0℃の乾燥空気を用い、ノズル5は内径2mmφの円形管状のものを使用した。冷却するガラス面に対し、ノズル5の吹き付け角度を約60°に設定し、ガス流速は2.0リットル/分に設定した。得られたガラスシート1Aに対しては、実施例1と同様の還元を行った。測定した消光比と偏光軸ずれの結果を表1に示す。
【実施例3】
【0065】
実施例3では、実施例1と同様のプリフォーム作製、加熱延伸を行った。ただし、水平方向30mm、垂直方向10mmの矩形形状の銅製冷却部材7を、ガラスシート1Aから5mm離して、図4に示すように、ガラスシート1Aに対向させて配置し、ガラスシート1Aの冷却を行った。矩形形状の銅製冷却部材7は、内部に冷却水が循環する構造になっており、ガラスシート1Aを挟むそれぞれの冷却部材7には、それぞれ冷却水を循環させる二本のパイプが接続され、冷却水は、外部のチラー(冷却水温度制御装置8)に導かれ、15℃の冷却水が循環する。得られたガラスシートに対しては、実施例1と同様の還元を行った。測定した消光比と偏光軸ずれの結果を表1に示す。
【実施例4】
【0066】
実施例4では、実施例1と同様のプリフォーム作製、加熱延伸を行った。ただし、図5に示すように、延伸したガラスシート1Aと加熱炉3の発熱体3aの間に、水平方向30mm、垂直方向20mm、厚さ3mmのZrO2製の遮熱部材9を2枚挿入した。そして、2枚の遮熱部材9を、ガラス面から5mmの距離をおいて対向させ、その下端を加熱炉3の下端に合わせて設置し、加熱炉3からの輻射熱を遮ることで、延伸したガラスシート1Aの幅方向の中心部を冷却した。得られたガラスシートに対しては、実施例1と同様の還元を行った。測定した消光比と偏光軸ずれの結果を表1に示す。
【実施例5】
【0067】
実施例5では、実施例1と同様のプリフォーム作製、加熱延伸を行った。ただし、図5に示すように、延伸したガラスシート1Aと加熱炉3の発熱体3aの間に、ZrO2粉末を水平方向5mm、垂直方向30mm、厚さ2mmのSUS板両面に塗布して乾燥させた遮熱部材9を2枚挿入した。そして、2枚の遮熱部材9を、ガラス面から5mmの距離をおいて対向させ、その下端を加熱炉3の下端に合わせて設置し、加熱炉3からの輻射熱を遮ることで、延伸したガラスシート1Aの幅方向の中心部を冷却した。得られたガラスシート1Aに対しては、実施例1と同様の還元を行った。測定した消光比と偏光軸ずれの結果を表1に示す。
【実施例6】
【0068】
実施例6(比較例1)では、実施例1と同様のプリフォーム作製、加熱延伸を行った。ただし、延伸したガラスに対し、実施例1〜実施例5の手段(ノズル、冷却部材、遮熱部材による冷却や受熱調整)を講じなかった。得られたガラスシートに対しては、実施例1と同様の還元を行った。測定した消光比と偏光軸ずれの結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から分かるように、実施例1〜5では、実施例6(比較例1)と較べて、端部と中央部の消光比のバラツキが小さくなった。また、端部の偏光軸ずれ角度も小さくなった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態の説明図である。
【図2】偏光軸ずれの元になる延伸軸の傾斜の発生メカニズムの説明図である。
【図3】偏光軸ずれの元になる延伸軸の傾斜の発生メカニズムの説明図でさる。
【図4】本発明の第2実施形態の説明図である。
【図5】本発明の第3実施形態の説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1:プリフォーム
1A:ガラスシート
3:加熱炉
5:ガス吹き付けノズル
7:冷却部材
9:遮熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状異方性を有する金属粒子がガラス中に配向して分散されている偏光ガラスの製造方法であって、
金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスプリフォームを加熱し延伸する延伸工程と、
該工程により得られたガラスシートを還元処理して、金属ハロゲン化粒子の一部又は全部を金属粒子とする還元工程と、を有し、
前記延伸工程において、延伸途中のガラスシートを強制冷却手段によって強制冷却することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法であって、
前記強制冷却を、前記延伸途中のガラスシートの幅方向の中央部に対して行うことを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の偏光ガラスの製造方法であって、
前記強制冷却手段として、ガスの吹き付けノズルを設け、前記強制冷却を、前記延伸途中のガラスシートに対する前記ノズルからのガスの吹き付けにより行うことを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の偏光ガラスの製造方法であって、
前記ガスとして、室温より低い温度のガスを使用することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の偏光ガラスの製造方法であって、
前記強制冷却手段として、周囲より温度を低く制御した冷却部材を設け、前記強制冷却を、前記冷却部材を前記延伸途中のガラスシートの表面に近接させることにより行うことを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項6】
形状異方性を有する金属粒子がガラス中に配向して分散されている偏光ガラスの製造方法であって、
金属ハロゲン化物粒子が分散されているガラスプリフォームを加熱し延伸する延伸工程と、
該工程により得られたガラスシートを還元処理して、金属ハロゲン化粒子の一部又は全部を金属粒子とする還元工程と、を有し、
前記延伸工程において、加熱用の発熱体と延伸途中のガラスシートとの間に、該ガラスシートの幅方向の中央部に対する前記発熱体からの熱輻射を遮断する遮熱部材を挿入することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光ガラスの製造方法であって、
前記遮熱部材として、セラミックス材、または金属板の表面にセラミックスを付与した材料を使用することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−302505(P2007−302505A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131919(P2006−131919)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】