説明

偏光フィルムの製造方法

【課題】高い偏光機能を有する偏光フィルムを効率良く製造することができる偏光フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを先端側から移動経路に送り入れて該移動経路中で長手方向に延伸する第1の工程と、先行する第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの後端側と次の第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端側とを重ね合わせた状態で、重ね合わせ部分に対し、該重ね合わせ部分の表面におけるパワー密度が200W/cm2以上10000W/cm2以下、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であるようにレーザー光を照射してレーザー溶着を実施することにより接合して連結する第2の工程と、を有し、連続して偏光フィルムを製造することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを移動させつつその移動経路において長手方向に延伸して偏光フィルムを作製する偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置などの画像表示装置において、偏光フィルムなどを含む光学フィルムが利用されている。
この種の偏光フィルムの製造方法としては、原反となる帯状のポリビニルアルコール系樹脂(PVA)フィルムがロール状に巻回されてなる原反ロールからポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を送り出して該原反フィルムの移動経路を規制しつつ、原反フィルムをガイドする複数本のローラと各種の薬液浴とを備えた装置に通して延伸させる方法が採用されており、例えば、原反フィルムをその長手方向に移動させて膨潤浴や染色浴に連続して浸漬させた後に前後2箇所において前記ローラで原反フィルムをニップして、その間において張力を加えて前記延伸を実施させる方法が採用されたりしている。
【0003】
ところで、この種の偏光フィルムの製造方法においては、原反ロールを交換する毎に改めて新しい原反フィルムをローラ等に巻き掛けて装置にセットするのは、非常に煩雑であり且つ時間を浪費するものであることから、先行する原反フィルムの末端部に次の原反ロールから繰り出された原反フィルムの先端部を接合して連結させた2つの原反フィルムを順次連続して偏光フィルムに加工することがなされている。
この種の接合手段としては、従来、粘着テープや接着剤などの接着接合手段、リベットや糸などによる縫合接合手段またはヒートシーラーなどによる加熱溶融接合手段などが採用されている。
【0004】
しかしながら、上記のような方法においては、それぞれ下記のような問題を有している。
・粘着テープや接着剤などによる接着接合における問題点
膨潤浴、染色浴などに原反フィルムを浸漬させる工程において、接着剤の成分などが薬液に溶け出すことで、薬液を汚染し、製品への異物付着の要因となりうることに加え、接着剤が薬液に溶解されたり薬液の成分によって膨潤したりすることで接合強度が低下し、延伸工程において所望の延伸倍率に達する前に連結部に破断を生じさせるおそれを有する。
・リベットや糸などによる縫合接合における問題点
この方法では、原反フィルムにリベットや糸を通すための穴が穿設されることになるために連結部に張力が加わった場合に前記穴を起点とした破断を生じさせるおそれを有する。
このことを防止すべく穴数を減らして穴の間隔を広めに確保させると、張力が加わった際に、シワが生じやすくなって延伸ムラを生じさせるおそれを有する。
・ヒートシーラー等による加熱溶融接合における問題点
上記のような接着接合や縫合接合における問題点の解決を図り得る接合手段として、下記特許文献1及び2などに示すようなヒートシーラーによって接合する手段が知られている。
この方法では、接着接合に比べて薬液を汚染するおそれが低く、縫合接合のように穴を設ける必要がない。
しかし、ヒートシーラーでは、溶着領域、及び、その周辺は、溶着時に受けた熱によって変性して通常の部分に比べて硬化した状態となる傾向がある。
そのため、延伸時にこの溶着領域を挟んで張力が加えられるとこの硬化した領域と通常の状態の領域との境界部分に集中して応力が生じやすく、全体が所望の延伸倍率に至る前に当該境界部分が極端に延伸されるおそれを有する。
したがって、高い延伸倍率での延伸を実施させようとすると上記境界部分において原反フィルムの破断を生じさせるおそれを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−171897号公報
【特許文献2】特開2010−8509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏光フィルムに高い偏光機能を付与するためには、一般には5.25倍以上の延伸を加えることが求められるが、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを上記に示したような従来の連結方法で連結した場合には、5.25倍以上の延伸負荷に連結部が耐えられず、破断を起こすおそれを有するため、連結部が通過する間の延伸倍率を5.25倍未満に変更することで破断を回避させるような対策がなされている。
しかしながら上記のような回避策を選択した場合においては、連結部前後の延伸倍率は所望の倍率(5.25倍以上)とはなっていないことから、製品として用いることが出来ず、材料ロスを発生させることになる。
【0007】
また、上記した延伸倍率5.25倍以上での延伸時における連結部の破断は、上記したような応力の集中に起因して生じる他、2つの原反フィルムの接合が弱く、接合部において両フィルムが剥離することに起因して生じる場合や、2つの原反フィルムの接合部が過度の加熱によって基材が分解されることで劣化し、機械的強度を下げる場合も有り、かかる剥離や過度の加熱に起因する破断を回避するために上記回避策を採用すれば、上記と同様に、材料ロスを発生させることになる。
【0008】
すなわち、従来の偏光フィルムの製造方法においては、高い偏光機能を有する偏光フィルムを効率良く製造することが難しいという問題を有していた。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、高い偏光機能を有し、偏光フィルムを効率良く製造することが可能な偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを先端側から移動経路に送り入れて該移動経路中で長手方向に延伸する第1の工程と、
先行する第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの後端側と次の第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端側とを重ね合わせた状態で、重ね合わせ部分に対し、該重ね合わせ部分の表面におけるパワー密度が200W/cm2以上10000W/cm2以下、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であるようにレーザー光を照射してレーザー溶着を実施することにより接合して連結する第2の工程と、
を有し、連続して偏光フィルムを製造することを特徴とする。
【0011】
ここで、「重ね合わせ部分の表面」とは、重ね合わせ部分においてレーザー光が入射する側の面を意味する。これにより、延伸を行う2以上の帯状のポリビニルアルコール系フィルムの内の先行する第一の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの末端側と、これに連結する第二の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端側とがレーザー溶着によって接合されることから、接着剤等の使用によって接着接合する場合に比べて薬液が汚染されたり、該薬液によって接合強度が低下されたりするおそれが抑制され得る。
また、ヒートシール等のように末端部及び先端部が厚み方向に全体的に加熱される場合には、溶着部たる接合部が冷却され難くなって該接合部の結晶性が低くなり難く、しかも、接合部の周辺が広範に亘ってポリビニルアルコール系樹脂フィルムの融点より低い温度で加熱され続けることから、該接合部の周辺において結晶性が高くなって硬化する領域が比較的大きくなる。これに対し、レーザー溶着においては、末端部と先端部との界面近傍の領域のみを局所的に加熱して溶着することが可能となることから、溶着部たる接合部を急速に冷却して該接合部の結晶性を低くすることが可能となり、しかも、接合部の周辺において上記融点より低い温度で加熱されて硬化する領域を比較的小さくすることができる。これにより、延伸を加えるに際して、レーザー溶着によって接合部を形成する方が、ヒートシール等によって接合部を形成する場合よりも、より高い延伸倍率で延伸してもフィルムの破断を抑制することが可能となる。よって、レーザー溶着による接合部をヒートシール等による接合部よりも、破断が生じることなく延伸することができる。
このようなことによって、延伸を加えるのに際して、ヒートシールを行った場合よりも、接合部と非接合部との境界部分への応力の集中を緩和することができる。
加えて、上記したパワー密度及び積算照射量でレーザー光を照射することにより、ポリビニルアルコール系樹脂を過度の加熱を抑制しつつ効率的に流動化させることができるため、末端部と先端部との界面部において溶融された上記樹脂同士を相溶させ易くすることができる。これにより、末端部と先端部を強固に溶着して接合させることが可能となるため、延伸を加えるのに際して、接合が弱いことから生じる接合部の剥離による破断や、過度に加熱されることから生じる基材が分解されることで劣化し、機械的強度が下がることによる破断を抑制することができる。
よって、例えば、5.25倍以上の延伸倍率の延伸工程においても、上記応力の集中による破断の発生を回避しつつ、上記剥離や上記機械的強度の低下に起因する破断の発生を回避することが可能となるため、接合部が通過する場合においても延伸条件を変更することなく、連続的に延伸を加えられる。従って、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上及び材料ロスの削減効果が得られる。
【0012】
また、本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、前記末端側と前記先端側との界面部に光吸収剤を配して前記レーザー溶着を実施することが好ましい。
【0013】
これにより、先端側と末端側との界面部におけるレーザー光の光吸収性が高まるため、より効率良く両者を溶着させることができる。
【0014】
また、本発明に係る偏光フィルムの製造方法は、波長800nm以上11000nm以下の赤外線レーザーで前記レーザー溶着を実施することが好ましい。
【0015】
これにより、上記末端側及び先端側をより効率的に溶融させることができるため、第一及び第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムをより効率的に連結することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の通り、本発明によれば、高い偏光機能を有する偏光フィルムを効率良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態の偏光フィルムの製造方法に用いる装置を示した概略斜視図
【図2】原反フィルムを連結して偏光フィルムの製造装置に供給する様子を示した概略斜視図
【図3】原反フィルムを連結するための連結装置の要部の機構を示した概略正面図
【図4】レーザー溶着時におけるレーザー光の照射状態を模式的に示す図であって、図4(a)は概略側面図であり、図4(b)は概略上面図
【図5】パワー密度と延伸倍率との関係を示すグラフ
【図6】積算照射量と延伸倍率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
まず、本実施形態の偏光フィルムの製造方法を実施するための好ましい延伸装置について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の延伸装置は、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下「原反フィルム」、あるいは、単に「フィルム」ともいう)がロール状に巻回された原反ロールから前記原反フィルム1が送り出される原反フィルム供給部3と、送り出された原反フィルム1を所定の薬液に浸漬するための複数の浸漬浴4と、該浸漬浴4内に前記原反フィルム1を通すように、原反フィルム1の移動経路を規制する複数のローラ9と、該移動経路中にて原反フィルム1を延伸する延伸手段と、複数の浸漬浴4に浸漬され且つ延伸されたフィルムを偏光フィルムとしてロール状に巻き取る偏光フィルム巻取部10とが備えられている。
【0019】
図1、図2は、好ましい延伸装置の一態様を示す概略斜視図である。
図1に示すように、複数の浸漬浴4として、フィルムの流れ方向上流側から順に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させる膨潤液の貯留された膨潤浴4a、膨潤されたフィルムを染色する染色液の貯留された染色浴4b、フィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋剤液の貯留された架橋浴4c、浴内でフィルムを延伸するための延伸浴4d、及び、該延伸浴4dに通されたフィルムを洗浄する洗浄液が貯留された洗浄浴4eという5種類の浸漬浴4が延伸装置に備えられている。
【0020】
また、本態様の延伸装置には、フィルムの移動経路における洗浄浴4eの下流側で且つ巻取部10の上流側に、フィルムに付着した洗浄液を乾燥させる乾燥装置11、具体的には乾燥オーブンが備えられている。
更に、本態様の延伸装置においては、ロール状に巻回された表面保護フィルム(例えば、トリアセチルセルロースフィルムやシクロオレフィンポリマーフィルム)等の積層用フィルム12が前記乾燥装置11で乾燥されたフィルムの両面側にそれぞれ配されており、乾燥後のフィルムの両面に積層用フィルム12を積層させるためのラミネート装置が備えられている。
【0021】
前記延伸手段としては、所謂ロール延伸手段9aが採用されている。即ち、前記移動経路中において、フィルムを間で狭持し且つ流れ方向下流側に送り出すように構成された対をなすニップローラ9aが複数組配され且つ流れ方向下流側の組の周速度が上流側よりも高速とされてなる構成が採用されている。
【0022】
更に、本延伸装置は、2以上の原反フィルムを連続的に延伸させ得るように構成されており、この2以上の原反フィルムの内の第一の原反フィルムの末端部と、第二の原反フィルムを連結するための装置が備えられている。すなわち、本延伸装置には、図2に示すように、先行する第一の原反フィルム1の末端部1aが規制された移動経路に通される前に、具体的には、浸漬浴4に通される前に、この第一の原反フィルム1の末端部1aと該原反フィルム1に次いで移動経路内に通す新たなる原反フィルム(第二の原反フィルム)の先端部1bとをレーザー溶着にて接合させて連結するための連結装置(図2に図示せず)が備えられている。
尚、図2に於いては、レーザー照射によって連結された部分(溶着部)を黒塗り部30で示している。
【0023】
次に、図3を参照しつつ好ましい連結装置について説明する。
この図3は、レーザー溶着によって原反フィルムどうしを接合させて連結する連結装置を示す概略構成図である。
図3は、連結される原反フィルムをその側面からTD方向(幅方向)に向かって見た連結装置の正面図が示されている。
この図3に示すように、前記連結装置は、平坦な上面部を有するステージ40と、該ステージ40の上方に配され、上下方向に移動可能に配された加圧部材50と、該加圧部材50の上方に配されたレーザー光源(図示せず)とを有しており、先行する第一の原反フィルム1の末端部1aと、これに連結する新たな第二の原反フィルム1の先端部1bとを前記ステージ40上において上下に重ね合わせ、この重ね合わせ部分を前記加圧部材50で加圧しつつ前記レーザー光源からレーザー光Rを照射することにより、前記末端部1aと前記先端部1bとの界面部を加熱溶融させて溶着させ得るように構成されており、前記加圧部材50がレーザー光Rの透過性に優れた透明な部材で構成されている。
【0024】
なお、前記連結装置には、前記末端部1aと前記先端部1bとの界面部におけるレーザー光Rの光吸収性を高め、より効率良く溶着を実施させ得るように、前記界面部において面接させる前記末端部1aか前記先端部1bかのいずれかの表面(又は両面)に予め光吸収剤を塗布する塗布装置を備えさせることも可能である。
【0025】
なお、ここで使用する光吸収剤としては、レーザー光Rを吸収して熱を発生させるものであれば特に限定がされず、カーボンブラック、顔料、染料などを用いることが出来る。
例えば、フタロシアニン系吸収剤、ナフタロシアニン系吸収剤、ポリメチン系吸収剤、ジフェニルメタン系吸収剤、トリフェニルメタン系吸収剤、キノン系吸収剤、アゾ系吸収剤、ジインモニウム塩などを用いることが出来る。
また、800nm〜1200nmの波長を有するレーザー光Rを発するレーザー光源を用いる場合には、例えば、米国Gentex社製から商品名「Clearweld」として市販の光吸収剤を用いることが出来る。
【0026】
これらの吸収剤は有機溶媒などで希釈して、前記塗布装置で塗布させることができ、該塗布装置としては、例えば、ディスペンサー、インクジェットプリンター、スクリーン印刷機、2流体式、1流体式又は超音波式スプレー、スタンパー、コーターなどの一般的な塗布装置を採用することができる。
【0027】
また、当該連結装置において利用するレーザー光源は、原反フィルムの重ね合わせ部分にレーザー光を後述するパワー密度及び積算照射量で照射するように構成されていれば、その種類は特に限定されるものではない。かかるレーザー光源から照射されるレーザー光は、新旧原反フィルムの重ね合わせ部分における新旧原反フィルムの界面において一方もしくは両方の原反フィルム表面に塗布するなどして配置された光吸収剤によって吸収され、発熱させる役目を担うものであって、用いる光吸収剤の吸収感度の高い波長を有することが好ましい。
【0028】
具体的には、レーザー光の種類としては、可視光域もしくは赤外線域の波長を有する半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO2レーザーなどのガスレーザーが挙げられる。
なかでも、安価で且つ面内均一なレーザービームが容易に得られる半導体レーザーやファイバーレーザーが好ましい。
また、原反フィルムの分解を避けつつ溶融を促す目的においては、瞬間的に高いエネルギーが投入されるパルスレーザーよりも連続波のCWレーザーのほうが好ましい。
【0029】
また、レーザー光のパワー密度及び積算照射量は、新旧原反フィルム1a、1bの重ね合わせ部分の表面におけるレーザー光のパワー密度が200W/cm2以上10,000W/cm2以下であり、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であるように設定される。なお、以下、新旧原反フィルム1a、1bの重ね合わせ部分の表面におけるレーザー光のパワー密度及び積算照射量を、単にパワー密度及び積算照射量という場合がある。
【0030】
レーザー光のパワー密度は、単位面積当たりのレーザー光のパワー(出力)であり、原反フィルムの重ね合わせ部分の表面(レーザー光が入射する側の面(レーザー光源側の面))におけるレーザー光のパワー(W)を、該表面におけるレーザー光のスポット径(図4(b)参照)の面積(cm2)で除して得られる値である(パワー密度=パワー/スポット径の面積)。また、原反フィルムの重ね合わせ部分に対して加圧部材50の上方からレーザー光を照射する場合には、かかるパワー密度は、加圧部材50を透過後において、上記重ね合わせ部分の上記表面におけるレーザー光のパワーを、該表面におけるスポット径で除して得られる値である。
【0031】
パワー密度が200W/cm2以上であることにより、重ね合わせ部分でのレーザー光が照射された部分において、ポリビニルアルコール系樹脂を効率的に流動化させることができるため、原反フィルム同士の界面部において溶融された上記樹脂同士を相溶させ易くすることができ、原反フィルム同士の強固な接合を得ることができる。また、パワー密度が大きくなるほどポリビニルアルコール系樹脂をより効率的に流動化させることが可能になるという観点から、パワー密度は、300W/cm2以上であることが好ましく、800W/cm2以上であることがより好ましい。
一方、パワー密度が10,000W/cm2以下であることにより、レーザー光が照射された部分においてポリビニルアルコール系樹脂の過度の加熱を抑制して、基材の分解による劣化を抑制できる。また、ポリビニルアルコール系樹脂の過度の加熱をより抑制することができるという観点から、パワー密度が5,000W/cm2以下であることが好ましく、3,000W/cm2以下であることがより好ましい。
【0032】
レーザー光の積算照射量(J/cm2)は、レーザー光の上記パワー密度(W/cm2)と照射時間(秒)との積によって得られる値である(積算照射量=パワー密度×照射時間)。なお、上記照射時間は、レーザー光照射を複数回行う場合には、各レーザー照射における照射時間の合計として得られる値である。また、上記照射時間は、レーザー光照射においてレーザー光源を重ね合わせ部分に沿って走査させる場合には、上記スポット径(mm、図4(b)参照))をレーザー光の走査速度(mm/秒)で除して得られる値である(照射時間=スポット径/走査速度)。
【0033】
レーザー光の積算照射量が30J/cm2以上であることにより、ポリビニルアルコール樹脂を十分に流動化させることができるため、原反フィルム同士の界面部において溶融された上記樹脂同士を相溶させ易くすることができ、原反フィルム同士の強固な接合を得ることができる。また、積算照射量が大きくなるほど上記樹脂をより十分に流動化させることが可能になる、という観点から、積算照射量が40J/cm2以上であることが好ましく、50J/cm2以上であることがより好ましい。
【0034】
一方、積算照射量が400J/cm2以下であることにより、上記樹脂の過度の加熱を抑制して、基材の分解による劣化で引き起こされる機械的強度の低下を抑制できる。また、ポリビニルアルコール系樹脂における過度の加熱をより抑制することができるという観点から、積算照射量が300J/cm2以下であることが好ましく、200J/cm2以下であることがより好ましい。
【0035】
原反フィルムの重ね合わせ部分の表面におけるレーザー光のパワーは、レーザーパワーメーターの受光部にレーザー光を照射することにより測定することができ、スポット径は、汎用のビームプロファイラにおける結像点のビーム直径により測定することができる。また、加圧部材50を透過後のレーザー光のパワー及びスポット径はそれぞれ、レーザー照射部と測定部との間に加圧部材50を設置する以外は、上記と同様な方法で測定することができる。
【0036】
また、レーザー光のパワーは、レーザー光源の発振機電源の電流を制御することによって、調整することができ、スポット径は、対物レンズを用いることによって調整することができる。そして、これらを調整することによって、上記重ね合わせ部分におけるパワー密度が上記範囲となるように、レーザー光のパワー及びスポット径を調整することができる。
そして、これを調整することによって、上記重ね合わせ部分における積算照射量が上記範囲となるように、レーザー光の走査速度を調整することができる。
【0037】
上記のように、レーザー光のパワー密度及び積算照射量を設定することにより、原反フィルム同士を接合部が過度に加熱されることなく強固に接合することができるため、延伸時における接合部の剥離や基材の分解劣化による機械的強度の低下を抑制することができ、かかる剥離や基材の分解劣化による機械的強度の低下に起因する破断を抑制することができる。
【0038】
レーザー光のビーム形状、照射回数、照射時間、更に走査速度などは、レーザー光のパワー密度及び積算照射量が上記した範囲を満たす限り、対象となる原反フィルム及び光吸収剤の光吸収率といった光学特性や原反フィルムを構成しているポリマーの融点、ガラス転移点(Tg)といった熱特性などの違いに応じて適宜最適化されればよい。
【0039】
また、レーザー光のスポット径としては、上記した照射レーザー光のパワー密度及び積算照射量が上記した範囲を満たす限り、対象となる原反フィルムの特性の違いに応じて適宜最適化されればよいが、かかるスポット径の巾(照射巾)は、新旧原反フィルム重ね合わせ幅の半値以上3倍以下であることが好ましい。
重ね合わせ幅の半値未満では、重ね合わせ部分の未接合部が大きく、接合後に搬送する際にばたついて、良好な搬送性を阻害するおそれを有する。
また、3倍以上の巾でレーザーを照射すると、接合及び延伸特性には影響は及ぼさないものの、エネルギー利用効率の観点からは好ましくない。
好ましくは、重ね合わせ幅と同値以上2倍以下である。
なお、新旧原反フィルムの重ね合せ幅は、0.1mm以上20.0mm未満とすることが好ましく、0.5mm以上10mm未満とすることが更に好ましい。
これは、重ね合わせ幅が0.1mm未満では、繰り返し精度よく広幅な原反フィルムを重ね合わせ配置することが難しいためであり、20.0mm以上になると、未接合部の形成を防止するためにレーザー光を20.0mm巾以上で照射する必要が生じることから必要なエネルギーが高くなり、省エネルギーの観点から好ましくないためである。
【0040】
このようなレーザー光の照射において重ね合わせた前記新旧原反フィルム(旧原反フィルムの末端部1aと新原反フィルムの先端部1b)をステージ上で加圧する加圧部材50としては、用いるレーザー光に対して高い透明性を示すガラス製の部材を用いることが出来る。
レーザー光の照射に際する加圧強度としては、0.5〜100kgf/cm2の範囲内であることが好ましく、10〜70kgf/cm2の範囲内であることが更に好ましい。
したがって、前記連結装置において好ましく採用される加圧部材50としては、このような強度で加圧することが可能な部材であればそのガラス部材の形状は特に限定されず、例えば、平板、円筒、球状のものを使用することが出来る。
ガラス部材の厚みは特に限定されないが、薄すぎると歪みによって良好な加圧ができず、厚すぎるとレーザー光の利用効率が下がるため、レーザー光が透過する方向における厚みが3mm以上30mm未満であることが好ましく、5mm以上20mm未満であることが更に好ましい。
【0041】
加圧部材50の材質としては、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス、テンパックス、パイレックス、バイコール、D263、OA10、AF45、ゼロデュアなどが挙げられる。
レーザー光の利用効率を高めるために、加圧部材として利用するガラス製部材は、用いるレーザー光波長に対して高い透明性を有することが好ましく、50%以上の光透過率を有していることが好ましく、70%以上の光透過率を有していることが更に好ましい。
【0042】
なお、加圧部材50を上記のようなガラス製の部材を用いて構成させる場合には、より広い面積をより均一に加圧して全域にわたって良好な接合を行わせ得るように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する部分に、前記ガラス製部材よりもクッション性に優れたクッション層を形成させることもできる。
すなわち、光透過性の良好なラバーシートやクッション性を有する透明樹脂シート等を備えた加圧部材50を採用することもでき、例えば、背面側がガラス製部材で構成され、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと接する前面側が透明ラバーシートで構成された加圧部材50を採用することができる。
【0043】
前記クッション層の形成には、例えば、シリコンラバー、ウレタンラバーなどのゴム系材料やポリエチレンなどの樹脂材料を用いることが出来る。
このクッション層の厚みは、50μm以上5mm未満であることが好ましく、1mm以上3mm未満が更に好ましい。
50μm未満であると、クッション性に乏しく、5mm以上の場合は、当該クッション層によってレーザー光の吸収や散乱が生じ、前記末端部1aと先端部1bとの接触界面部に到達するレーザー光のエネルギーを低下させるおそれを有する。
このクッション層は、用いるレーザー光波長に対して30%以上の光透過率を有することが好ましく、50%以上が更に好ましい。
また、かかるクッション層と同様のクッション層を、ステージ40の上面に配することもできる。
【0044】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、重ね合わせた新旧原反フィルムの重ね合わせ部分に沿ってレーザー溶着を実施して、ライン状の溶着部を形成させ得るように前記連結装置が構成されていることが好ましく、例えば、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを重ね合わせ部分に沿って走査させるための機構や、シリンドリカルレンズや回折光学素子といった光学部材の使用によってライン状のレーザービームを整形して原反フィルムの重ね合わせ部に照射する機構、更には複数のレーザー光源を重ね合わせ部に沿って配置し、無走査で同時照射することで一括溶融加熱接合する機構などが備えられていることが好ましい。
【0045】
なお、ここでは詳述しないが、上記のような連結装置には、一般的なレーザー溶着装置ならびにその周辺機器において利用されている種々の機構を採用することができる。
【0046】
次いで、このような連結装置を備えた延伸装置を利用して偏光フィルムを製造する方法について説明する。
【0047】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを先端側から移動経路に送り入れて該移動経路中で長手方向に延伸する第1の工程と、先行する第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの後端側と次の第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端側とを重ね合わせた状態で、重ね合わせ部分に、該重ね合わせ部分の表面におけるパワー密度が200W/cm2以上10,000W/cm2以下であり、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であるようにレーザー光を照射してレーザー溶着を実施することにより接合して連結する第2の工程と、を有し、連続して偏光フィルムを製造する。
【0048】
具体的には、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、前記第1の工程として、前記原反フィルムを膨潤浴4aに浸漬させて膨潤させる膨潤工程、膨潤されたフィルムを染色浴4bに浸漬させて染色する染色工程、染色されたフィルムを架橋浴4cに浸漬させてフィルムを構成している樹脂の分子鎖を架橋させる架橋工程、及び、該架橋工程後のフィルムを延伸浴4d内で延伸する延伸工程を実施する。
すなわち、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、最終的に目標の延伸倍率となるように膨潤浴4aから延伸浴4dの各浴において延伸を実施する。
また、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、前記延伸工程後のフィルムを洗浄する洗浄工程、該洗浄されたフィルムを乾燥装置11で乾燥させる乾燥工程、該乾燥後のフィルムに表面保護フィルムを積層する積層工程を実施する。
【0049】
そして、本実施形態の偏光フィルムの製造方法は、一つの原反ロールを前記原反フィルム供給部3にセットして、この原反フィルム供給部3から原反フィルムを連続的に送り出して、その移動経路において上記の工程を実施させて最終的に積層工程を終えた製品(偏光フィルム)を偏光フィルム巻取部10においてロール状に巻き取る巻取り工程を実施することによってなされるもので、複数の原反ロールを用意しておいて、その内の第一の原反ロールが終了する前に、新たな第二の原反ロールから原反フィルムを繰り出して、この新たな原反フィルムの先端部1bを先行している第一の原反ロールの末端部1aに接合させて連結する連結工程を前記第2の工程として別途実施する。
このことにより、引き続き、この新たなる原反ロールから原反フィルムを延伸装置に供給し前記第1の工程を実施して、偏光フィルムを連続的に製造させる。また、かかる第1の工程及び第2の工程を繰り返し実施することにより、順次連続して偏光フィルムを製造させることができる。
【0050】
なお、このような工程に供する原反フィルム(帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム)としては、以下のようなものが採用可能である。
【0051】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法に用いる原反フィルムとしては、偏光フィルムの原材料として用いられるポリビニルアルコール系高分子樹脂材料からなるフィルムを用いることができ、具体的には、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルム又はポリビニルアルコールの脱水処理フィルムなどを用いることができる。
通常、これらの原反フィルムは、上記に述べたようにロール状に巻回された原反ロールの状態で用いる。
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの形成材料であるポリマーの重合度は、一般に500〜10,000であり、1,000〜6,000の範囲であることが好ましく、1,400〜4,000の範囲にあることがより好ましい。
さらに、部分ケン化ポリビニルアルコールフィルムの場合、そのケン化度は、例えば、水への溶解性の点から、75モル%以上が好ましく、より好ましくは98モル%以上であり、98.3〜99.8モル%の範囲にあることがより好ましい。
【0052】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押し出し法等任意の方法で成膜されたものを適宜使用することが出来る。
原反フィルムの位相差値は、5nm〜100nmのものが好ましい。
また、面内均一な偏光フィルムを得る為に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム面内の位相差バラツキはできるだけ小さいほうが好ましく、原反フィルムとしてのポリビニルアルコール系樹脂フィルムの面内位相差バラツキは、測定波長1000nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。
【0053】
なお、レーザー溶着される時の吸水状態としては、2質量%〜15質量%の吸水率であることが好ましく、4質量%〜10質量%の吸水率が更に好ましい。
連結される前の原反フィルムが15質量%以上の吸水率を有すると、レーザー溶着時において加熱溶融部に水分蒸発による発泡が生じやすくなり、溶着不良を起こすおそれを有する。
逆に吸水率が2質量%未満の場合は、原反フィルムをレーザーで加熱した部分における樹脂流動性が乏しくなって、溶着効率の低下を招くおそれを有する。
このようなことから、連結に際して用いる原反フィルムの吸水率は上記のような範囲内であることが好ましい。
なお、この吸水率については、温度25℃、相対湿度55%RHの条件に設定した恒温恒湿器内に50mm×150mmサイズのポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を入れて30分間放置し、温恒恒湿器へ入れる前の原反フィルムの質量M1と、恒温恒湿器での放置後の原反フィルムの質量M2から、恒温恒湿器での放置前後の質量変化(M2−M1)を算出し、該質量変化を恒温恒湿器へ入れる前の原反フィルムの質量M1で除して100を掛けることによって算出することができる(吸水率={(M2−M1)/M1}×100)。
【0054】
次に、上記原反フィルムに前記延伸装置で延伸を加えて偏光フィルムに加工するための各工程について説明する。
【0055】
(膨潤工程)
本工程においては、例えば、原反フィルム供給部3から送出される原反フィルムを前記ローラ9によって移動速度を一定に維持しつつ水で満たされた膨潤浴4aに案内して水中に前記原反フィルムを浸漬させる。
これにより原反フィルムが水洗され、原反フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるとともに、原反フィルムを水で膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止する効果が期待できる。
【0056】
前記膨潤浴4aの中の膨潤液には、水以外にグリセリンやヨウ化カリウムなどを適宜添加しておいてもよく、これらを添加する場合には、その濃度は、グリセリンであれば5質量%以下、ヨウ化カリウムでは10質量%以下とすることが好ましい。
膨潤液の温度は、20〜45℃の範囲とすることが好ましく、25〜40℃とすることが更に好ましい。
前記原反フィルムが前記膨潤液に浸漬される浸漬時間は、2〜180秒間とすることが好ましく、10〜150秒間とすることがより好ましく、30〜120秒間とすることが特に好ましい。
また、この膨潤浴中でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを長さ方向に延伸してもよく、そのときの延伸倍率は膨潤による伸展も含めて1.1〜3.5倍程度とすることが好ましい。
【0057】
(染色工程)
前記膨潤工程を経たフィルムには、膨潤工程と同様にローラ9によって染色浴4bに貯留されている染色液中に浸漬させて染色工程を実施する。
例えば、ヨウ素等の二色性物質を含む染色液に膨潤工程を経たポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することによって、上記二色性物質をフィルムに吸着させる方法を採用して前記染色工程を実施することができる。
前記二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。
【0058】
有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック等が使用できる。
これらの二色性物質は、一種類のみ使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0059】
前記有機染料を用いる場合は、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点から、二種類以上を組み合わせることが好ましい。
具体例としては、コンゴーレッドとスプラブルーG、スプラオレンジGLとダイレクトスカイブルーの組合せ、又は、ダイレクトスカイブルーとファーストブラックとの組合せなどが挙げられる。
前記染色浴の染色液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液を使用できる。
前記溶媒としては、水を一般的に使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒を更に添加して用いても良い。
この染色液における二色性物質の濃度としては、0.010〜10質量%の範囲とすることが好ましく、0.020〜7質量%の範囲とすることがより好ましく、0.025〜5質量%とすることが特に好ましい。
【0060】
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、更にヨウ化物を添加することが好ましい。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。
これらヨウ化物の添加割合は、前記染色浴において、0.010〜10質量%とすることが好ましく、0.10〜5質量%とすることがより好ましい。
これらの中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:5〜1:100の範囲とすることが好ましく、1:6〜1:80の範囲とすることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲とすることが特に好ましい。
【0061】
前記染色浴へのフィルムの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、0.5〜20分の範囲とすることが好ましく、1〜10分の範囲が更に好ましい。また、染色浴の温度は、5〜42℃の範囲とすることが好ましく、10〜35℃の範囲とすることがより好ましい。
また、この染色浴中でフィルムを長さ方向に延伸しても良く、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜4.0倍程度とすることが好ましい。
なお、染色工程としては、前述のような染色浴に浸漬する方法以外に、例えば、二色性物質を含む水溶液を前記ポリマーフィルムに塗布又は噴霧する方法を採用しても良い。
また、本発明においては、染色工程を行わずに、用いる原反フィルムとして、予め二色性物質が混ぜられたポリマー原料で成膜されたフィルムを採用しても良い。
【0062】
(架橋工程)
次いで、架橋剤液を貯留する架橋浴4cにフィルムを導入し、前記架橋剤液中にフィルムを浸漬して架橋工程を実施する。
前記架橋剤としては、従来公知の物質を使用できる。
例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどを使用できる。
これらは一種類のみ用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。
二種類以上を併用する場合には、例えばホウ酸とホウ砂の組合せが好ましく、また、その添加割合(モル比)は、4:6〜9:1の範囲とすることが好ましく、5.5:4.5〜7:3の範囲とすることがより好ましく、6:4とすることが最も好ましい。
前記架橋浴の架橋剤液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解したものを使用できる。
前記溶媒としては、例えば水を使用できるが、更に水と相溶性のある有機溶媒を併用しても良い。前記架橋剤液における架橋剤の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜10質量%の範囲とすることが好ましく、2〜6質量%とすることがより好ましい。
【0063】
前記架橋浴中の架橋剤液には、偏光フィルムに面内均一な特性を付与させるべくヨウ化物を添加しても良い。
このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられ、これらを添加する場合におけるヨウ化物の含有量は0.05〜15質量%とすることが好ましく、0.5〜8質量%とすることがより好ましい。
架橋剤とヨウ化物の組合せとしては、ホウ酸とヨウ化カリウムの組合せが好ましく、ホウ酸とヨウ化カリウムの割合(質量比)は、1:0.1〜1:3.5の範囲とすることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲とすることが更に好ましい。
【0064】
前記架橋浴における架橋剤液の温度は、通常、20〜70℃の範囲とすることが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの浸漬時間は、通常、1秒〜15分の範囲の内のいずれかの時間とされ、5秒〜10分とされることが好ましい。
当該架橋工程においては、架橋浴中でフィルムを長さ方向に延伸してもよく、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜5.0倍程度とすることが好ましい。
なお、架橋工程としては、染色工程と同様に、架橋剤液中に浸漬させる処理方法に代えて、架橋剤含有溶液を塗布又は噴霧する方法によって実施しても良い。
【0065】
(延伸工程)
前記延伸工程は、染色、架橋されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、例えば、後述するように累積した総延伸倍率が5.25〜8倍程度となるようにその長さ方向に延伸する工程であり、湿式延伸法では、延伸浴に貯留された溶液中にフィルムを浸漬した状態でその長さ方向に張力を加えて延伸を実施する。
延伸浴に貯留する溶液としては、特に限定されるわけではないが、例えば、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素又は亜鉛の化合物の添加された溶液を用いることが出来る。
この溶液の溶媒としては、水、エタノールあるいは各種有機溶媒を適宜用いることが出来る。
なかでも、ホウ酸及び/又はヨウ化カリウムをそれぞれ2〜18質量%程度添加した溶液を用いることが好ましい。
このホウ酸とヨウ化カリウムを同時に用いる場合には、その含有割合(質量比)は、1:0.1〜1:4程度、より好ましくは、1:0.5〜1:3程度の割合で用いることが好ましい。
前記延伸浴における溶液の温度としては、例えば、40〜67℃の範囲とすることが好ましく、50〜62℃とすることがより好ましい。
【0066】
(洗浄工程)
該洗浄工程は、例えば、水などの洗浄液の貯留された洗浄浴にフィルムを通すことにより、これより前の処理で付着したホウ酸等の不要残存物を洗い流す工程である。
前記水には、ヨウ化物を添加することが好ましく、例えば、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムを添加することが好ましい。
洗浄浴の水にヨウ化カリウムを添加する場合、その濃度は通常0.1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%とされる。
更に、洗浄液の温度は、10〜60℃とすることが好ましく、15〜40℃とすることがより好ましい。
また、洗浄処理の回数、すなわち、洗浄液に浸漬した後、洗浄液から引き上げる繰り返し回数は、特に限定されることなく複数としてもよく、複数の洗浄浴に添加物の種類や濃度の異なる水を貯留しておき、これらにフィルムを通すことにより洗浄工程を実施してもよい。
なお、フィルムを各工程における浸漬浴から引き上げる際には、液ダレの発生を防止するために、従来公知であるピンチロール等の液切れロールを用いたり、エアナイフによって液を削ぎ落としたりするなどの方法により、余分な水分を取り除いても良い。
【0067】
(乾燥工程)
前記洗浄工程において洗浄を行ったフィルムは、前記乾燥機11に導入し、自然乾燥、風乾燥、加熱乾燥など、適宜最適な方法で乾燥させて当該乾燥工程を実施することができる。
この内、加熱乾燥による乾燥工程を実施する場合であれば、加熱乾燥の条件は、加熱温度を20〜80℃程度、乾燥時間を1〜10分間程度とすることが好ましい。
更には、乾燥温度は前記方法に関わらずフィルムの劣化を防ぐ目的としてできるだけ低温にすることが好ましい。
より好ましくは60℃以下であり、45℃以下とすることが特に好ましい。
【0068】
(積層工程)及び(巻取り工程)
本実施形態においては、以上のような工程を経たフィルムを巻取りローラにて巻き取る巻取り工程を実施することによりロール状に巻回された偏光フィルムを得ることができる。
なお、本実施形態においては、乾燥工程にて乾燥させた偏光フィルムの表面片側もしくは両側に適宜表面保護用フィルムなどを積層させる積層工程を実施してから巻取り工程を実施するようにしてもよい。
このように製造される偏光フィルムの最終的な総延伸倍率は、原反フィルムに対して、5.25〜8.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることが好ましく、5.5〜7.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることがより好ましい。
上記のような延伸倍率が好ましいのは、最終的な総延伸倍率が5.25倍未満では、高い偏光特性を有する偏光フィルムを得ることが難しく、8.0倍を超えると、フィルムに破断を生じさせるおそれを有するためである。
【0069】
また、かかる偏光フィルムの最終的な総延伸倍率は、非接合部(すなわち原反フィルム)及び接合部のいずれも、原反フィルムに対して上記した5.25〜8.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることが好ましく、5.5〜7.0倍の範囲の内のいずれかの延伸倍率であることがより好ましい。
【0070】
(連結工程)
前記のように本実施形態においては、一つの原反ロールの全てが延伸装置に供給されてしまう前に、更に次の原反ロールからポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を繰り出させて、この新たな原反フィルムの先端部1bを延伸装置で各工程が実施されている原反ロールの末端部1aに重ね合わせた状態で接合させて連結する連結工程(前記第2の工程)を実施する。また、連結工程においては、末端部1aと先端部1bとを重ね合わせた状態で、重ね合わせ部分に対し、該重ね合わせ部分のレーザー光源側の表面におけるパワー密度が200W/cm2以上10,000W/cm2以下であり、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であるようにレーザー光を照射してレーザー溶着を実施することにより接合して連結する。
このように先行する第一の原反フィルムの末端部と、次の第二の原反フィルムの先端部とを接合することによって、高い偏光機能を付与するために必要な、高い延伸倍率、例えば、5.25倍以上の延伸倍率においても破断が発生しない連結が可能となり、接合部が通過する場合においても延伸条件を変更することなく第二の原反フィルムを延伸する工程(前記第1の工程)に移行することができ効率よく偏光フィルムを製造することができる。
すなわち、第一の原反フィルムと第二の原反フィルムとを、延伸条件を変えずに延伸装置に連続通紙できることによって、作業効率の向上、生産性の向上、歩留まりの向上及び材料ロスの削減効果が得られる。
【0071】
なお、この連結工程は、第一の原反フィルムを延伸する工程(前記第1の工程)を完全に終了させた後に実施する必要は無く、例えば、前記第1の工程の後段側において、該第1の工程と並行して実施することができる。
例えば、前記連結装置と前記膨潤浴4aとの間にアキュムレータを備えた延伸装置を使用して第一の原反ロールを前記アキュムレータを通じて膨潤浴4aに供給し、該第一の原反ロールの巻き終わり部分に差し掛かった際に、その末端部を停止状態にさせつつも前記アキュムレータに蓄積した原反フィルムを膨潤浴4a側に供給して、前記第一の原反フィルムの延伸(前記第1の工程)を実施しつつ、新たなる原反ロールの先端部と前記末端部とのレーザー溶着による連結工程を実施させることができる。
【0072】
また、予め2本の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを連結する連結工程を実施した後に、連結した帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの内の一方のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸(前記第1の工程)を開始しても良い。
【0073】
前記連結工程は、前記第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(旧原反フィルム)の末端部と前記第二の帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(新原反フィルム)の先端部とを重ね合わせ、このように重ね合わせた前記末端部と前記先端部との界面部をレーザー溶着することによって実施する。具体的には、先行する旧原反フィルムの末端部1aと次の新原反フィルムの先端部1bの内のいずれか一方、あるいは、両方の表面に光吸収剤を塗布して、重ね合せ部の幅が0.1mm以上20.0mm未満となるようにステージ40の上で新旧原反フィルムを上下に重ね合わせた配置とし、この重ね合わせ部分を前記加圧部材50で加圧しつつ、上記したレーザー光をこの重ね合わせ部分に照射してフィルム界面において互いの樹脂を相溶させて溶着部30を形成させることによって実施し得る。
このようにレーザー光によって溶着することによって、ヒートシーラーによる溶着を行うような場合に比べて、接合部の結晶性を低くすると共に、接合部周辺において結晶性が高くなる領域を減少させることができ、延伸時に接合部の周辺において応力集中の生じ難いような接合部を形成させることができる。
【0074】
このことについて具体的に説明すると、例えば、ヒートシーラーによって接合されることによって接合部の周辺に結晶性が高くなる領域(硬化領域)が形成されている原反フィルムを前記延伸装置に供給し、30℃前後の温度の前記膨潤浴4a、染色浴4b、架橋浴4cを通過させても、上記硬化領域においては殆ど膨潤されず、さらに、60℃前後の延伸浴4dにおいても、上記硬化領域においては殆ど膨潤されず、延伸されないため、この硬化領域の前後に大きな歪みの生じた領域が形成されることになる。これは、ヒートシーラーで接合された接合部の周辺は、ヒートシーラーによる加熱時に、原反フィルムの融点より低い温度で加熱され続けることにより、非接合部(バルク)よりも結晶化度が大きく(結晶性が高く)なって硬化し、しかも膨潤し難いことから軟化し難くなるため、延伸に際して伸び難くなる、ということによるものである。
そして、この接合部周辺の硬化領域が延伸浴4dで延伸を受けた際に破断を生じさせることになり、かかる破断が発生すると、接合部をそれ以上伸ばすことができなくなる。
【0075】
一方で、本実施形態においては、レーザー光の照射により新旧原反フィルムの重ね合わせ部分において界面近傍のみを選択的(局所的)に発熱させて加熱するため、溶融された領域を急速に冷却させることが可能となり、かかる急冷によって接合部の非晶質化を促進して、該接合部の結晶化度を小さく(結晶性を低く)することができる。また、接合部周辺において原反フィルムの融点よりも低い温度で加熱される領域を、ヒートシーラーで溶着する場合よりも小さくすることができるため、かかる周辺において結晶性が高くなることを抑制することができる。このように、接合部の非晶質化を促進すると共に、接合部周辺の結晶化を抑制することによって、接合部及びその周辺は、膨潤によって軟化し易くなり、延伸に際して伸び易くなる。また、レーザー光の照射スポットを小さくする程、より局所的な加熱が可能となるため、接合部周辺において結晶性が高くなる領域をより小さくすることが可能となる。
【0076】
このように、本実施形態においては、接合部において末端部と先端部との界面近傍を局所的に加熱するため、接合部においては結晶性を低くし、接合部の周辺においては結晶性が高くなる領域を小さくすることができる。これにより、接合部周辺での硬化を抑制しつつ、接合部を伸び易くすることができるため、接合部と非接合部との境界部分における応力の集中を緩和することができる。
例えば、前記膨潤浴4a、染色浴4b、架橋浴4cを30℃前後の温度としている場合では、膨潤による軟化効果はあまり期待することができないものの、延伸浴を50〜62℃としていると、接合部及びその周辺の膨潤が進行し、これらを延伸させ得る。すなわち、接合部の周辺で破断が生じることなく、接合部を延伸させ得る。
すなわち、溶着における熱の影響を受けていない領域(非接合部)と熱の影響を受けている領域(接合部)との延伸性を近似させることができ、破断等の問題を抑制しつつ高い倍率での延伸を実施させ得る。
【0077】
本実施形態においては、連結工程においてレーザー溶着を行うことにより、接合部における加熱後の急冷が可能となるため、接合部の結晶性を低くすることができ、延伸に際して接合部が伸び易くなる。また、レーザー光の照射後、接合部を冷却することにより、接合部の非晶質化をより進行させることもできる。例えば、加圧部材50を接合部に当接させた状態で該加圧部材50を冷却したり、ステージ40を冷却することによって、レーザー照射後の接合部を冷却することができる。また、例えば、接合部に水を吹き付けることによって、レーザー照射後の接合部の冷却を促進することもできる。
【0078】
また、上記の通り、延伸浴4dを50〜62℃とすることが好ましく、これにより、レーザー溶着によって接合された接合部の膨潤をさらに進行させ得るため、接合部を延伸させ易くすることができる。
【0079】
上記したようにレーザー溶着を行うことにより、接合部と非接合部との境界部分における応力の集中を緩和することができるため、かかる応力の集中に起因する破断を抑制することができる。
【0080】
さらに、本実施形態においては、レーザー溶着時に、レーザー光のパワー密度が200W/cm2以上10,000W/cm2以下であることにより、原反フィルム同士の界面において溶融されたポリビニルアルコール樹脂を過度の加熱を抑制しつつ効率的に流動化させて該樹脂同士を相溶させ易くすることができ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であることにより、上記樹脂を過度の加熱を抑制しつつ十分に流動化させて上記樹脂同士を相溶させ易くすることができるため、基材の分解劣化による機械的強度の低下を抑制しつつ原反フィルム同士の接合を強固なものとすることができる。これにより、上記のように接合部の膨潤や延伸が進行しても、接合部における剥離を防止することができ、剥離に起因するような破断等の問題を抑制しつつ高い倍率での延伸を実施させ得る。また、基材の分解劣化による機械的強度の低下を抑制できることから、かかる機械的強度の低下に起因するような破断等の問題を抑制しつつ高い倍率での延伸を実施させ得る。
【0081】
このように、本実施形態の偏光フィルムの製造方法においては、接合部と非接合部との境界部分への応力の集中に起因するような破断や、接合部における原反フィルム同士の剥離や基材の分解劣化による機械的強度の低下に起因するような破断が生じるおそれの低い接合部を形成させることができる。
【0082】
なお、本実施形態の製造方法によって製造される偏光フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、非接合部が5〜40μmであることが好ましい。
非接合部の厚さが5μm以上であれば機械的強度が低下することはなく、また40μm以下であれば光学特性が低下せず、画像表示装置に適用しても薄型化を実現できる。
【0083】
本実施形態により製造された偏光フィルムは、液晶セル基板に積層される偏光フィルムなどとして、液晶表示装置等に使用することができ、また液晶表示装置の他、エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイ及び電界放出ディスプレイなどの各種画像表示装置における偏光フィルムとして用いることが出来る。
なお、実用に際しては、両面又は片面に各種光学層を積層して光学フィルムとしたり、各種表面処理を施したりして、液晶表示装置等の画像表示装置に用いることもできる。
前記光学層としては、要求される光学特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、偏光フィルムの保護を目的とした透明保護層、視覚補償等を目的とした配向液晶層、他のフィルムを積層するための粘着層の他、偏光変換素子、反射板、半透過板、位相差板(1/2や1/4などの波長板(λ板)を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルムなどの画像表示装置等の形成に用いられるフィルムを用いることが出来る。
また表面処理としては、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止や拡散又はアンチグレアを目的とした表面処理を挙げることが出来る。
本実施形態の偏光フィルムの製造方法は、以上の通りであるが、本発明は本実施形態に限定されず本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0084】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
(基本条件)
・原反フィルム:ポリビニルアルコール樹脂(PVA)フィルム((株)クラレ社製、
厚み75μm、巾30mm、吸水率6%)
・重ね合わせ幅:1.5mm巾
・加熱溶融接合手段:レーザー
・レーザー:半導体レーザー(波長940nm、スポット径2mmφ、トップハットビ ーム)
・光吸収剤:商品名「Clearweld LD120C」(米国ジェンテックス社製、
溶媒アセトン)、下側に配した原反フィルムの上面に2.0mm巾で10 nL/mm2塗布
・加圧部材:石英ガラス板(10mm厚)
・加圧条件:原反フィルム重ね合わせ部へ加重66kgf/cm2で押し付け
・ステージ:シリコンラバー(3mm厚)の上面にポリイミド層(125μm)を積層
【0086】
【表1】

【0087】
(実施例1)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、図4(a)に示すように、上面にポリイミド層を有するシリコンラバーから形成されたステージ40上に載置された2本の原反フィルム1a、1bの重ね合わせ部分を、加圧部材50により加圧しつつ、図4(b)に示すようにレーザー光を巾方向に走査して2本の原反フィルム1a、1bをレーザー溶着して連結した。次に、溶着部たる接合部の前後を50mm長ほど切り出して、図1に示すような延伸装置において延伸倍率が、膨潤浴では2.6倍、染色浴では3.4倍、架橋浴では3.6倍、延伸浴では6.0倍となるように延伸した後、洗浄浴を通過させることにより、偏光フィルムをバッチ製造した。その結果、目標とする累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても試料は破断することがなかった。
この試料について、手指で180°ピール評価をしたとき剥離が認められるか否か(剥離性)を調べる剥離性試験を実施し、接合部では剥離できず、未接合部にて破断が起こる場合を○、接合部が剥離できる場合を×として判定したところ、表1に示すように、接合部は剥離できないことが認められた。
また、この試料において洗浄浴通過後の累積した延伸倍率は、表1に示すように5.8であった。
なお、表1において、延伸倍率は、累積した総延伸倍率を示す。
【0088】
(実施例2)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても試料は破断することがなかった。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部は剥離できなかった。さらに、この試料において洗浄浴通過後の累積した総延伸倍率は、表1に示すように6.0倍であった。
【0089】
(実施例3)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても試料は破断することがなかった。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部は剥離できなかった。さらに、この試料において洗浄浴通過後の累積した総延伸倍率は、表1に示すように6.1倍であった。
【0090】
(実施例4)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても試料は破断することがなかった。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部は剥離できなかった。さらに、この試料において洗浄浴通過後の累積した総延伸倍率は、表1に示すように5.8倍であった。
【0091】
(実施例5)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても試料は破断することがなかった。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部は剥離できなかった。さらに、この試料において洗浄浴通過後の累積した総延伸倍率は、表1に示すように5.7倍であった。
【0092】
(実施例6)
原反フィルムの巾を3,000mm巾へ変更すること以外は上記実施例3と同様のレーザー光照射条件にて2本の原反フィルムを連結し、上記実施例1と同様の偏光フィルム製造条件にてロールトゥロールで偏光フィルムを製造した結果、上記実施例3と同様に累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても連結部は破断することが無く、連続通紙することができた。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部は剥離できなかった。さらに、この試料において洗浄浴通過後の累積した総延伸倍率は、表1に示すように6.1倍であった。
【0093】
(実施例7)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、累積した総延伸倍率5.25倍の延伸条件においても試料は破断することがなかった。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部は剥離できなかった。さらに、この試料において洗浄浴通過後の累積した総延伸倍率は、表1に示すように5.6倍であった。
【0094】
(比較例1)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、目標とする累積した総延伸倍率5.25倍まで延伸する前に、接合部の剥離に起因する破断が生じた。また、この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部で剥離することができた。さらに、この試料において破断直前の累積した総延伸倍率は、表1に示すように1.2倍であった。
【0095】
(比較例2)
上記基本条件において、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして2本の原反フィルムの重ね合わせ部分にレーザー光を照射したが、両フィルムは接合されなかった。
【0096】
(比較例3)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、目標とする累積した総延伸倍率5.25倍まで延伸する前に、接合部の剥離に起因する破断が生じた。この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部を剥離することができた。また、この試料において破断直前の累積した総延伸倍率は、表1に示すように3.9倍であった。
【0097】
(比較例4)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、目標とする累積した総延伸倍率5.25倍まで延伸する前に、接合部の剥離に起因する破断が生じた。この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部を剥離することができた。また、この試料において破断直前の累積した総延伸倍率は、表1に示すように4.0倍であった。
【0098】
(比較例5)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、目標とする累積した総延伸倍率5.25倍まで延伸する前に、接合部の剥離に起因する破断が生じた。この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部を剥離することができた。また、この試料において破断直前の累積した総延伸倍率は、表1に示すように3.8倍であった。
【0099】
(比較例6)
上記基本条件に加え、上記表1に示すレーザー光照射条件にて、上記実施例1と同様にして偏光フィルムを製造した結果、目標とする累積した総延伸倍率5.25倍まで延伸する前に、接合部の剥離に起因する破断が生じた。この試料について、上記実施例1と同様に剥離性試験を実施したところ、表1に示すように、接合部を剥離することができた。また、この試料において破断直前の累積した総延伸倍率は、表1に示すように3.7倍であった。
【0100】
図5に、表1におけるパワー密度と延伸倍率との関係を示し、図6に、表1における積算照射量と延伸倍率との関係を示す。なお、図5及び図6において、延伸倍率は、累積した総延伸倍率を示す。
【0101】
表1及び図5、図6より、実施例1〜7に示すようにパワー密度が200W/cm2以上10,000cm2以下、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下のレーザー光を照射してレーザー溶着を行った場合には、接合されたフィルムにおいて接合部が剥離し難く、延伸倍率は5.6〜6.1倍と高かった。
一方、比較例1に示すように、パワー密度が200W/cm2よりも小さく、積算照射量も30J/cm2よりも小さい場合には、接合されたフィルムが剥離し易く、延伸倍率は1.2倍と低かった。また、比較例2に示すように、パワー密度が200W/cm2以上であっても、積算照射量が下限(30J/cm2)よりも小さ過ぎる場合には、原反フィルム同士が接合されなかった。さらに、比較例3に示すように、パワー密度を比較例2よりも大きくしても、積算照射量が上記下限よりも小さい場合には、原反フィルムは接合されたものの、原反フィルム同士が剥離し易くなっていることから、上記目標延伸倍率の延伸時に破断が生じた。
また、比較例4に示すように、パワー密度を比較例3よりも大きくしても、積算照射量が上記下限よりも小さい場合には、接合されたフィルムが剥離し易く、上記目標延伸倍率の延伸時に破断が生じた。また、比較例5に示すように、積算照射量を上記下限以上にしても、パワー密度が下限(200W/cm2)よりも小さい場合には、接合されたフィルムが剥離し易く、上記目標延伸倍率の延伸時に破断が生じた。さらに、比較例6に示すように、パワー密度及び積算照射量の両方とも上記下限よりも小さい場合には、接合されたフィルムが剥離し易く、上記目標延伸倍率の延伸時に破断が生じた。
【0102】
以上のことから、本発明によれば、高い偏光機能を有する偏光フィルムを従来の方法に比べて効率良く製造し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0103】
1:原反フィルム(帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルム)、1a:末端部、1b:先端部、4d:延伸浴、9:ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを先端側から移動経路に送り入れて該移動経路中で長手方向に延伸する第1の工程と、
先行する第一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの後端側と次の第二のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの先端側とを重ね合わせた状態で、重ね合わせ部分に対し、該重ね合わせ部分の表面におけるパワー密度が200W/cm2以上10000W/cm2以下、且つ、積算照射量が30J/cm2以上400J/cm2以下であるようにレーザー光を照射してレーザー溶着を実施することにより接合して連結する第2の工程と、
を有し、連続して偏光フィルムを製造することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記末端側と前記先端側との界面部に光吸収剤を配して前記レーザー溶着を実施することを特徴とする請求項1記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
波長800nm以上11000nm以下の赤外線レーザーで前記レーザー溶着を実施することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−88382(P2012−88382A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232702(P2010−232702)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】