説明

偏光板及びその製造方法並びにそれを用いた積層光学部材及び液晶表示装置

【課題】保護フィルムが破断しにくく、全体の薄肉化を図ることが可能な偏光板及び光板及びその製造方法並びにそれを用いた積層光学部材及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】偏光板10は、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルム11と、この偏光フィルム11の両面に積層され、延伸されたアクリル系樹脂からなる保護フィルム12,13と、を備える。このアクリル系樹脂は、透明なアクリル系樹脂に数平均粒径10〜300nmのゴム弾性体粒子が25〜45重量%配合されたアクリル系樹脂組成物である。さらに、アクリル系樹脂は、機械流れ方向(MD)若しくは機械流れ方向に直交する方向(TD)に一軸延伸されるか、又は機械流れ方向(MD)及び機械流れ方向に直交する方向(TD)に同時若しくは逐次二軸延伸されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板及びその製造方法並びにそれを用いた積層光学部材及び液晶表示装置に関し、特に、偏光フィルムに保護フィルムが積層された偏光板及びその製造方法並びにそれを用いた積層光学部材及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力が少ない、低電圧で動作する、軽量で薄型である等の特徴があるため、これらの特徴を生かして、各種の表示用デバイスに用いられている。液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、位相差フィルム、集光シート、拡散フィルム、導光板、光反射シート等、多くの材料から構成されている。そのため、構成フィルムの枚数を減らしたり、フィルム又はシートの厚みを薄くしたりすることで、生産性や軽量化、明度の向上等を目指した改良が盛んに行われている。
【0003】
一方で、液晶表示装置は、用途によっては厳しい耐久条件に耐えうる製品が必要とされている。例えば、カーナビゲーションシステム用の液晶表示装置は、それが置かれる車内の温度や湿度が高くなることがあり、通常のテレビやパーソナルコンピュータ用のモニターと比べると、温度及び湿度条件が厳しい。そのような用途には、偏光板も高い耐久性を示すものが求められる。
【0004】
偏光板は通常、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム(偏光子ともいう)の片面又は両面に、透明な保護フィルムが積層された構造を有する。偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに縦一軸延伸と二色性色素による染色とを行なった後、ホウ酸処理して架橋反応を起こさせ、次いで水洗、乾燥する方法により製造されている。
【0005】
二色性色素としては、ヨウ素又は二色性有機染料が用いられる。このようにして得られる偏光フィルムの片面又は両面に保護フィルムを積層して偏光板が形成され、液晶表示装置に組み込まれて使用される。
【0006】
上記保護フィルムには、トリアセチルセルロースに代表されるセルロースアセテート系樹脂フィルムが多く使用されており、その厚みは通例30〜120μm程度の範囲内である。また、保護フィルムの積層には、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を用いることが多い。
【0007】
しかしながら、二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの片面又は両面に、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを積層した偏光板は、湿熱条件下で長時間使用した場合に、偏光性能が低下したり、保護フィルムと偏光フィルムとが剥離し易くなったりするという問題がある。
【0008】
そこで、少なくとも一方の保護フィルムを、セルロースアセテート系以外の樹脂で構成する方法が提案されている。
【0009】
例えば、偏光フィルムの両面に保護フィルムを積層した偏光板において、その保護フィルムの少なくとも一方を、同時に位相差フィルムの機能を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂で構成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、ヨウ素又は二色性有機染料が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの一方の面に非晶性オレフィン系樹脂からなる保護フィルムが積層され、他方の面には、セルロースアセテート系樹脂等、非晶性オレフィン系樹脂とは異なる樹脂からなる保護フィルムが積層された偏光板が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
さらには、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに、ウレタン系樹脂とポリビニルアルコール系樹脂とを含有する接着剤を介して、環状オレフィン系樹脂からなる保護フィルムを積層することも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
また、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに、特定の位相差特性を有する環状オレフィン系樹脂フィルムを積層して偏光板とすることも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
しかし、ノルボルネン系樹脂などの非晶性オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂)は、最近実用化された樹脂であって、トリアセチルセルロースよりも高価であり、そのため、単なる保護フィルムとしてよりは、位相差フィルムとして用いられることが多かった。
【0014】
そこで、安価な樹脂材料を偏光板の保護フィルムに使用することも提案されており、例えば、オレフィン系樹脂やアクリル系樹脂などが樹脂材料として研究されている。オレフィン系樹脂としては、例えば、結晶性オレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂を保護フィルムとすることが知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0015】
しかしながら、ポリプロピレン系樹脂を偏光板の保護フィルムとした場合、特にそのポリプロピレン系樹脂フィルムを液晶セル側の面に配置した構成では、トリアセチルセルロースや非晶性オレフィン系樹脂のフィルムを液晶セル側保護フィルムとする構成に比べ、正面コントラストが低下しやすいという問題があった。
【0016】
一方、アクリル系樹脂としては、ラクトン環を含有する(メタ)アクリル系樹脂からなる保護フィルムが知られている(例えば、特許文献6参照)。このような保護フィルムを備えることにより、耐久性や表示の均一性に優れた偏光板を提供することが可能となる。
【0017】
さらに、アクリル系樹脂を延伸倍率50〜200%の範囲内で一軸又は二軸延伸した偏光板保護フィルムが知られている(例えば、特許文献7参照)。このような延伸されたアクリル系樹脂を用いることで、機械的強度と熱収縮性の優れた光学フィルムとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平8−43812号公報
【特許文献2】特開2002−174729号公報
【特許文献3】特開2004−334168号公報
【特許文献4】特開2007−65452号公報
【特許文献5】特開2009−75471号公報
【特許文献6】特開2009−122663号公報
【特許文献7】特開2008−216586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上述したアクリル系樹脂からなる保護フィルムは、そのままでは柔軟性に劣り、割れやすいという問題があった。
【0020】
本発明の目的は、偏光フィルムと保護フィルムとが積層された偏光板であって、保護フィルムが破断しにくく、かつ全体の薄肉化も図ることが可能な偏光板及びその製造方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、このような偏光板を用いた積層光学部材及び液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題は、本発明の偏光板によれば、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムと、前記偏光フィルムの片面又は両面に積層され、延伸されたアクリル系樹脂からなる保護フィルムと、を備え、前記アクリル系樹脂が、透明なアクリル系樹脂に数平均粒径10〜300nmのゴム弾性体粒子が25〜45重量%配合されたアクリル系樹脂組成物からなることにより解決される。
【0022】
この場合、前記アクリル系樹脂が、機械流れ方向(MD)若しくは前記機械流れ方向に直交する方向(TD)に一軸延伸されるか、又は前記機械流れ方向(MD)及び前記機械流れ方向に直交する方向(TD)に同時若しくは逐次二軸延伸されることが好ましい。
【0023】
また、前記偏光フィルムと前記保護フィルムとが水系の接着剤を介して積層されていることが好ましい。
【0024】
この場合において、前記水系の接着剤は、架橋性のエポキシ樹脂を含有すると好適である。
【0025】
あるいは、前記偏光フィルムと前記保護フィルムとが無溶剤型のエポキシ系接着剤を介して積層されていることが好ましい。
【0026】
この場合において、無溶剤型のエポキシ系接着剤は、加熱又は活性エネルギー線の照射によるカチオン重合で硬化するものであることが好ましい。
【0027】
上記課題は、本発明の偏光板の製造方法によれば、上記のいずれかに記載の偏光板の製造方法であって、前記保護フィルムのうち前記偏光フィルムに貼り合わされる側の表面に改質処理を施し、次いでその処理面に接着剤を介して前記偏光フィルムを貼り合わせることにより解決される。
【0028】
上記課題は、本発明の積層光学部材によれば、上記のいずれかに記載の偏光板と他の光学機能を示す光学層との積層体からなることにより解決される。
【0029】
この場合、前記光学層が位相差フィルムであることが好ましい。
【0030】
また、上記課題は、本発明の液晶表示装置によれば、上記のいずれかに記載の偏光板又は積層光学部材が、粘着剤を介して液晶セルに貼合されていることにより解決される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の偏光板によれば、アクリル系樹脂にゴム弾性体粒子が配合されているため、保護フィルムの柔軟性に優れ、割れにくい性質を有している。加えて、延伸処理により保護フィルムの強度が向上しているため、柔軟性と強度の両方において従来の保護フィルムよりも優れており、破断しにくい性質を有している。さらに、延伸処理により保護フィルムが薄くなっているため、偏光板全体の薄肉化を図ることが可能となる。さらにまた、アクリル系樹脂は、他の樹脂に比べて延伸処理により位相差が生じにくいため、虹ムラが生じにくく光学特性に優れた偏光板とすることができる。
【0032】
また、本発明によれば、このような破断しにくく薄肉で虹ムラの生じにくい偏光板を製造する方法や、このような偏光板を備えた積層光学部材や液晶表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
【図2】第1の実施形態の偏光板を用いた積層光学部材及び液晶表示装置の断面模式図である。
【図3】他の実施形態の偏光板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下に説明する部材や配置等によって限定されず、これらの部材等は本発明の趣旨に沿って適宜改変することができる。
【0035】
本発明の光学部材は、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムと、この偏光フィルムの片面又は両面に積層され、延伸されたアクリル系樹脂からなる保護フィルムを備えている点を特徴としている。
【0036】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る偏光板を示している。この実施形態の偏光板10は、偏光フィルム11と、この偏光フィルム11の両面に積層された保護フィルム12,13とを備えている。
【0037】
[偏光フィルム]
偏光フィルム11は、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する方向の振動面を有する直線偏光を透過させる機能を有する。本実施形態の偏光フィルム11は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものを使用している。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。すなわち、偏光フィルム11として、具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素を吸着配向させたヨウ素系偏光フィルム、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性有機染料を吸着配向させた染料系偏光フィルムなどを挙げることができる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得ることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルと、これに共重合可能な他の単量体との共重合体などが用いられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用し得る。
【0039】
偏光フィルム11は、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの水分を調整する調湿工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する延伸工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、二色性色素を吸着配向させる染色工程、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理するホウ酸処理工程、ホウ酸水溶液を洗い落とす洗浄工程を経て製造される。
【0040】
一軸延伸は、染色の前に行うこともできるし、染色中に行うこともできるし、あるいは、染色後のホウ酸処理中に行うこともできる。また、これら複数の段階で一軸延伸がなされてもよい。一軸延伸するには、周速度の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は通常4〜8倍程度である。最終的に得られる偏光フィルム11の厚みは、例えば、5〜150μm程度とすることができる。
【0041】
[保護フィルム]
保護フィルム12,13は、偏光フィルム11の表面の摩損防止や補強などの機能を有する部材であり、延伸されたアクリル系樹脂から構成される。本実施形態の偏光板10では、アクリル系樹脂からなる保護フィルム12,13が偏光フィルム11の両面に積層配置されているが、後述する他の実施形態のように、片面にのみ配置されてもよい。
【0042】
保護フィルム12,13を構成するアクリル系樹脂には、柔軟性を向上させてハンドリング性を高めるため、数平均粒子径が10〜300nmのゴム弾性体粒子が25〜45重量%配合されている。保護フィルム12,13は、高い透明性と光学的均一性を有している。具体的には、保護フィルム12,13の内部ヘイズ値が0.5%以下でかつ外部ヘイズ値が5%以下であり、波長590nmにおいて面内位相差値が10nm以下であり、波長590nmにおいて厚み方向の位相差値の絶対値が30nm以下である。
【0043】
[アクリル系樹脂]
上記アクリル系樹脂は、メタクリル酸アルキルを主体とする重合体からなる。メタクリル酸アルキルの単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルが、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、かつメタクリル酸アルキルが99重量%以下である。なお、アクリル系樹脂としては、メタクリル酸アルキルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸アルキル50重量%以上とメタクリル酸アルキル以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。メタクリル酸アルキルとしては、通常、そのアルキル基の炭素数が1〜4のものが用いられ、中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0044】
また、メタクリル酸アルキル以外の単量体は、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能単量体であってもよいし、分子内に2個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能単量体であってもよい。特に、単官能単量体が好ましく用いられ、その例としては、アクリル酸メチルやアクリル酸エチルのようなアクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリルが挙げられる。共重合成分としてアクリル酸アルキルを用いる場合、その炭素数は通常1〜8である。
【0045】
また、アクリル系樹脂としては、グルタルイミド誘導体、グルタル酸無水物誘導体、ラクトン環構造などを有しないことが好ましい。これらのアクリル系樹脂は、保護フィルム12,13として十分な機械強度や耐湿熱性が得られない場合がある。
【0046】
[ゴム弾性体粒子]
保護フィルム12,13に含有されるゴム弾性体粒子は、ゴム弾性体を含有する粒子であり、ゴム弾性体のみからなる粒子であってもよいし、ゴム弾性体の層を有する多層構造の粒子であってもよい。ゴム弾性体としては、例えば、オレフィン系弾性重合体、ジエン系弾性重合体、スチレン−ジエン系弾性共重合体、アクリル系弾性重合体が挙げられる。中でも、保護フィルム12,13の表面硬度や耐光性、透明性の点からアクリル系弾性重合体が好ましく用いられる。
【0047】
アクリル系弾性重合体は、アクリル酸アルキルを主体とする重合体であるのが好ましく、アクリル酸アルキルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸アルキル50重量%以上とアクリル酸アルキル以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。アクリル酸アルキルとしては、通常、そのアルキル基の炭素数が4〜8のものが用いられる。また、アクリル酸アルキル以外の単量体の例としては、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルのようなメタクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル等の単官能単量体や、(メタ)アクリル酸アリルや(メタ)アクリル酸メタリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、マレイン酸ジアリルのような二塩基酸のジアルケニルエステル、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル等の多官能単量体が挙げられる。
【0048】
アクリル系弾性重合体を含有するゴム弾性体粒子は、アクリル系弾性重合体の層を有する多層構造の粒子であるのが好ましく、アクリル系弾性重合体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する2層構造のものであってもよいし、更にアクリル系弾性重合体の内側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する3層構造のものであってもよい。なお、アクリル系弾性重合体の外側又は内側に形成される層を構成するメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例は、先にアクリル系樹脂の例として挙げたメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例と同様である。このような多層構造のアクリル系ゴム弾性体粒子は、例えば特公昭55−27576号公報に記載の方法により、製造することができる。
【0049】
ゴム弾性体粒子としては、その中に含まれるゴム弾性体の数平均粒径が10〜300nmのものが使用される。これにより、接着剤を用いて保護フィルム12,13を偏光フィルム11に積層したときに、保護フィルム12,13が接着剤層から剥がれ難くすることができる。このゴム弾性体の数平均粒径は、好ましくは50nm以上、250nm以下である。
【0050】
最外層がメタクリル酸メチルを主体とする重合体であり、その中にアクリル系弾性重合体が包み込まれているゴム弾性体粒子においては、それを母体のアクリル系樹脂に混合すると、ゴム弾性体粒子の最外層が母体のアクリル系樹脂と混和するため、その断面において、酸化ルテニウムによるアクリル系弾性重合体への染色を施し、電子顕微鏡で観察した場合、そのゴム弾性体粒子が、最外層を除いた状態の粒子として観察される。具体的には、内層がアクリル系弾性重合体であり、外層がメタクリル酸メチルを主体とする重合体である2層構造のゴム弾性体粒子を用いた場合には、内層のアクリル系弾性重合体部分が染色されて単層構造の粒子として観察される。また、最内層がメタクリル酸メチルを主体とする重合体であり、中間層がアクリル系弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチルを主体とする重合体である3層構造のゴム弾性体粒子を用いた場合には、最内層の粒子中心部分が染色されず、中間層のアクリル系弾性重合体部分のみが染色された2層構造の粒子として観察されることになる。本明細書において、ゴム弾性体粒子の数平均粒径とは、このように、ゴム弾性体粒子を母体樹脂に混合して断面を酸化ルテニウムで染色したときに、染色されてほぼ円形状に観察される部分の径の数平均値である。
【0051】
保護フィルム12,13を形成する上記アクリル系樹脂組成物は、透明なアクリル系樹脂に、数平均粒子径が10〜300nmのゴム弾性体粒子が25〜45重量%配合されている。
【0052】
上記アクリル系樹脂組成物は、例えば、ゴム弾性体粒子を得た後、その存在下にアクリル系樹脂の原料となる単量体を重合させて、母体のアクリル系樹脂を生成させることにより製造してもよいし、ゴム弾性体粒子とアクリル系樹脂とを得た後、両者を溶融混練等により混合することにより製造してもよい。
【0053】
上記アクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、顔料や染料のような着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤を含有させてもよい。
【0054】
紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させるために添加される。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤等の公知のものが使用可能である。中でも、2,2´−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2´−ヒドロキシ−3´−tert−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2,2´,4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン等が好適に用いられる。これらの中でも、特に2,2´−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が好ましい。紫外線吸収剤の濃度は、保護フィルム12,13の波長370nm以下の透過率が、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下となる範囲で選択することができる。紫外線吸収剤を含有させる方法としては、紫外線吸収剤を予めアクリル系樹脂中に配合する方法;溶融押出成形時に直接供給する方法などが挙げられ、いずれの方法が採用されてもよい。
【0055】
赤外線吸収剤としては、ニトロソ化合物、その金属錯塩、シアニン系化合物、スクワリリウム系化合物、チオールニッケル錯塩系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、トリアリルメタン系化合物、イモニウム系化合物、ジイモニウム系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アミノ化合物、アミニウム塩系化合物、カーボンブラック、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、周期表4A、5A若しくは6A族に属する金属の酸化物、炭化物、ホウ化物等の赤外線吸収剤などを挙げることができる。これらの赤外線吸収剤は、赤外線(波長約800nm〜1100nmの範囲の光)全体を吸収できるように、選択することが好ましく、2種類以上を併用してもよい。赤外線吸収剤の量は、例えば、保護フィルム12,13の800nm以上の波長の光線透過率が10%以下となるように適宜調整することができる。
【0056】
アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、80〜120℃の範囲内が好ましい。さらに、上記アクリル系樹脂組成物は、フィルムに成形したときの表面の硬度が高いもの、具体的には、鉛筆硬度(荷重500gで、JIS K5600−5−4に準拠)でB以上のものが好ましい。
【0057】
また、上記アクリル系樹脂組成物は、保護フィルム12,13の柔軟性の観点から、曲げ弾性率(JIS K7171)が1500MPa以下であるのが好ましい。この曲げ弾性率は、より好ましくは1300MPa以下であり、更に好ましくは1200MPa以下である。この曲げ弾性率は、上記アクリル系樹脂組成物中のアクリル系樹脂やゴム弾性体粒子の種類や量などによって変動し、例えば、ゴム弾性体粒子の含有量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。また、アクリル系樹脂として、メタクリル酸アルキルの単独重合体を用いるよりも、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキル等との共重合体を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなる。
【0058】
また、ゴム弾性体粒子として、上記3層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いるよりも、上記2層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなり、更に単層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなる。また、ゴム弾性体粒子中、ゴム弾性体の平均粒径が小さいほど、又はゴム弾性体の量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。そこで、アクリル系樹脂やゴム弾性体粒子の種類や量を上記所定の範囲で調整して、曲げ弾性率が1500MPa以下になるようにすることが好ましい。
【0059】
保護フィルム12,13を多層構成とする場合、上記アクリル系樹脂組成物の層以外に存在しうる層は、その組成に特に限定はなく、例えば、ゴム弾性体粒子を含有しないアクリル系樹脂又はその組成物の層であってもよいし、ゴム弾性体粒子の含有量やゴム弾性体粒子中のゴム弾性体の平均粒径が上記規定外であるアクリル系樹脂組成物からなる層であってもよい。
【0060】
典型的には2層又は3層構成であって、例えば、上記アクリル系樹脂組成物の層/ゴム弾性体粒子を含有しないアクリル系樹脂又はその組成物の層からなる2層構成であってもよいし、上記アクリル系樹脂組成物の層/ゴム弾性体粒子を含有しないアクリル系樹脂又はその組成物の層/上記アクリル系樹脂組成物の層からなる3層構成であってもよい。多層構成の保護フィルム12,13は、上記アクリル系樹脂組成物の層の面を、偏光フィルム11との貼合面とすればよい。
【0061】
また、保護フィルム12,13を多層構成とする場合、ゴム弾性体粒子や上記配合剤の各層の含有量を互いに異ならせてもよい。例えば、紫外線吸収剤及び/又は赤外線吸収剤を含有する層と、この層を挟んで紫外線吸収剤及び/又は赤外線吸収剤を含有しない層とが積層されていてもよい。また、上記アクリル系樹脂組成物の層の紫外線吸収剤の含有量が、ゴム弾性体粒子を含有しないアクリル系樹脂又はその組成物の層の紫外線吸収剤の含有量よりも、高くなるようにしてもよく、具体的には、前者を好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%とし、後者を好ましくは0〜1重量%、より好ましくは0〜0.5重量%としてもよく、これにより、偏光板の色調を悪化させることなく、紫外線を効率的に遮断することができ、長期使用時の偏光度の低下を防ぐことができる。
【0062】
本発明の保護フィルム12,13は、延伸されたアクリル系樹脂フィルムからなる点を特徴としている。このように延伸処理を行うことで、膜厚が薄くなるとともに保護フィルム12,13の強度も向上する。このような保護フィルム12,13は、まず上記アクリル系樹脂組成物を製膜し、続いて得られた未延伸フィルム(原反フィルム)を延伸することで得ることができる。
【0063】
アクリル系樹脂は、任意の方法で製膜して未延伸フィルムとする。この未延伸フィルムは、透明で実質的に面内位相差がないものが好ましい。製膜方法としては、例えば、溶融樹脂を膜状に押し出して製膜する押出成形法、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延した後で溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などを採用することができる。
【0064】
押出成形法の具体例としては、例えば、アクリル系樹脂組成物を2本の金属製ロールで挟み込んだ状態で製膜する方法が挙げられる。この場合の金属製ロールは鏡面ロールであることが好ましい。これにより、表面平滑性に優れた未延伸フィルムを得ることができる。なお、保護フィルム12,13として多層構成のものを得る場合、上記アクリル系樹脂組成物を、他のアクリル系樹脂組成物と共に、多層押出後、製膜すればよい。このようにして得られる未延伸フィルムの厚みは、5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは10〜85μmである。
【0065】
続いて、得られた未延伸フィルムに対して延伸処理を行う。この延伸処理により、機械的強度が高く薄肉の保護フィルム12,13を得ることができる。延伸処理としては、一軸延伸や二軸延伸などが挙げられる。延伸方向としては、未延伸フィルムの機械流れ方向(MD)、これに直交する方向(TD)、機械流れ方向(MD)に斜交する方向などが挙げられる。二軸延伸は、2つの延伸方向に同時に延伸する同時二軸延伸でもよく、所定方向に延伸した後で他の方向に延伸する逐次二軸延伸であってもよい。
【0066】
このような延伸処理は、例えば出口側の周速度を早くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向(機械流れ方向:MD)に延伸したり、未延伸フィルムの両側端をチャックで把持して機械流れ方向に直交する方向(TD)に広げたりすることで行う。
【0067】
延伸処理による延伸倍率は、50〜300%が好ましく、特に100〜250%、更に好ましくは150〜200%である。延伸倍率が50%を下回ると、保護フィルム12,13の機械的強度がそれほど向上しないため好ましくない。また、延伸倍率が300%を上回ると、膜厚が薄くなりすぎて逆に破断しやすくなったり、ハンドリング性が低下したりするため好ましくない。なお、ここでいう延伸倍率は、以下の数式を用いて求めたものである。
数式:延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0068】
こうして得られた保護フィルム12,13は、延伸処理が施されているため、未延伸フィルムに比べて機械的強度が高く破断しにくいものとなる。
【0069】
また、保護フィルム12,13は、未延伸フィルムに比べて薄肉となっている。具体的には、延伸後の保護フィルム12,13の膜厚は、未延伸フィルムの膜厚を1とした場合に対して、0.7〜0.25倍の厚みとなる。
【0070】
次に、保護フィルム12,13のヘイズ値について説明する。ヘイズ値とは、フィルムに可視光を照射したときの全光線透過率に対する拡散光線透過率の割合であり、ヘイズ値が小さいほどフィルムが透明性に優れているものであることが認められる。また、内部ヘイズ値とは、フィルムのヘイズ値より、フィルムの表面形状に起因するヘイズ値(外部ヘイズ値)を差し引いた値を示す。
【0071】
保護フィルム12,13のヘイズ値は、上述したように内部ヘイズ値が0.5%以下であることが好ましく、外部ヘイズ値が5%以下であることが好ましい。内部ヘイズ値が0.5%、外部ヘイズ値が5%を超えると、フィルムを透過する光が散乱し、液晶表示装置に貼合した際に表示特性が低下してしまう場合がある。
【0072】
次に、保護フィルム12,13の位相差値について説明する。フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をn、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をn、厚み方向の屈折率をn、厚みをdとしたときに、面内の位相差値(R)及び厚み方向の位相差値(Rth)は、それぞれ下式(I)と(II)で定義される。
【0073】
=(n−n)×d (I)
th=[(n+n)/2−n]×d (II)
保護フィルム12,13は、波長590nmにおける面内の位相差値(R)が10nm以下であることが好ましく、更に好ましくは5nm以下である。また、波長590nmにおける厚み方向の位相差値(Rth)の絶対値が10nm以下であることが好ましい。保護フィルム12,13の面内の位相差値(R)が10nmより大きく、また厚み方向の位相差値(Rth)の絶対値が10nmより大きい場合、斜め方向の漏れ光の着色現象が起こり、表示特性が低下してしまう。
【0074】
また、保護フィルム12,13のMD(machine direction、長尺状で得られるフィルムの長手方向)と光軸とのなす角度は±5°以下であることが好ましく、更に好ましくは±3°以下である。上記の角度が±5°よりも大きくなる場合、黒表示時における光漏れが大きくなり、コントラスト比の低下が顕著となる。
【0075】
さらに、上記面内の位相差値及びMDと光軸とのなす角度から計算される透過率パラメータの値が0.03以下であることが好ましく、更に好ましくは0.007以下であり、更に好ましくは0.001以下である。この値が0.03よりも大きくなる場合、黒表示時における光漏れが顕著となり、コントラスト比の低下が顕著となる。ここでいう透過率パラメータは、下式で定義され、ここに、θは保護フィルム12,13のMDと光軸とのなす角度を表し、Rは波長590nmにおける面内の位相差値を表す。
(透過率パラメータ)=sin2θ×sin(π×R/590)
【0076】
[接着剤]
偏光フィルム11と保護フィルム12,13は、公知の接着剤などにより貼り合わせて偏光板10とする。接着剤としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを接着剤成分とする接着剤を用いることができる。好ましい接着剤の1つは、無溶剤型の接着剤である。無溶剤型の接着剤は、有意量の溶剤を含まず、加熱や活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光、電子線、X線等)の照射により反応硬化する硬化性化合物(モノマー又はオリゴマーなど)を含み、当該硬化性化合物の硬化により接着剤層を形成するものであり、典型的には、加熱や活性エネルギー線の照射により反応硬化する硬化性化合物と、重合開始剤とを含む。無溶剤型の接着剤のなかでは、反応性の観点から、カチオン重合で硬化するものが好ましく、特に、エポキシ化合物を硬化性化合物とする無溶剤型のエポキシ系接着剤は、偏光フィルム11とアクリル系樹脂フィルムとの接着性と、偏光フィルム11とアクリル系樹脂以外の樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13との接着性の両方において優れているためより好ましい。
【0077】
このような硬化性化合物であるエポキシ化合物としては、特に制限されないが、カチオン重合により硬化するものが好ましく、特に、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を用いることがより好ましい。このような分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物の水素化物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。なお、硬化性化合物であるエポキシ化合物は、通常、分子内に2個以上のエポキシ基を有する。
【0078】
まず、芳香族エポキシ化合物の水素化物について説明する。芳香族エポキシ化合物の水素化物は、芳香族エポキシ化合物の原料である芳香族ポリヒドロキシ化合物を触媒の存在下、加圧下で、芳香環に対して選択的に水素化反応を行なって得られる核水添ポリヒドロキシ化合物をグリシジルエーテル化する方法により得ることができる。芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂のようなノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これらの原料であるビスフェノール類を代表例とする芳香族ポリヒドロキシ化合物を上記のように核水添し、その水酸基にエピクロロヒドリンを反応させれば、芳香族エポキシ化合物の水素化物が得られる。なかでも、芳香族エポキシ化合物の水素化物として、水素化されたビスフェノールAのグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0079】
次に、脂環式エポキシ化合物について説明する。脂環式エポキシ化合物とは、脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有するエポキシ化合物を意味し、「脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有する」とは、下記式に示される構造を有することを意味する。式中、mは2〜5の整数である。
【化1】

(式中、mは2〜5の整数を表す。)
【0080】
したがって、脂環式エポキシ化合物とは、上記式に示される構造を1個以上有しており、通常、分子内に合計2個以上のエポキシ基を有する化合物である。より具体的には、上記式における(CH中の1個又は複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合した化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。(CH中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基などの直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。このような脂環式エポキシ化合物のなかでも、エポキシシクロペンタン環(上記式においてm=3のもの)や、エポキシシクロヘキサン環(上記式においてm=4のもの)を有するエポキシ化合物は、接着強度に優れる接着剤が得られることからより好ましく用いられる。以下に、好ましい脂環式エポキシ化合物の構造を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0081】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ−[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン(この化合物は、3,4−エポキシシクロヘキサンスピロ−2´,6´−ジオキサンスピロ−3´´,5´´−ジオキサンスピロ−3´´´,4´´´−エポキシシクロヘキサンとも命名できる化合物である)、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−8,9−エポキシ−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ビス−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル、ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
【0082】
また、上記脂肪族エポキシ化合物としては、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0083】
なお、エポキシ化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0084】
無溶剤型のエポキシ系接着剤に含有されるエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常、30〜3,000g/当量、好ましくは50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の保護フィルム12,13の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、エポキシ当量が3,000g/当量を超えると、エポキシ系接着剤に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
【0085】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、上記エポキシ化合物をカチオン重合させるために、カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射、又は加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるものである。いずれのタイプのカチオン重合開始剤が用いられてもよいが、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。なお、以下では、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射によりカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を光カチオン重合開始剤とも称する。
【0086】
光カチオン重合開始剤を使用すると、常温での接着剤成分の硬化が可能となるため、偏光フィルム11の耐熱性あるいは膨張による歪を考慮する必要が減少し、保護フィルム12,13を、密着性良く偏光フィルム11上に形成することができる。また、光カチオン重合開始剤を用いると、光で触媒的に作用するため、エポキシ系接着剤に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
【0087】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄−アレン錯体などを挙げることができる。これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0088】
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品として容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、「カヤラッド(登録商標) PCI−220」、「カヤラッド(登録商標) PCI−620」(以上、日本化薬(株)製)、「UVI−6990」(ユニオンカーバイド社製)、「アデカ(登録商標)オプトマー SP−150」、「アデカ(登録商標)オプトマー SP−170」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−5102」、「CIT−1370」、「CIT−1682」、「CIP−1866S」、「CIP−2048S」、「CIP−2064S」(以上、日本曹達(株)製)、「DPI−101」、「DPI−102」、「DPI−103」、「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」、「TPS−101」、「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「DTS−102」、「DTS−103」(以上、みどり化学(株)製)、「PI−2074」(ローディア社製)などを挙げることができる。
【0089】
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して、通常0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。
【0090】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、光カチオン重合開始剤とともに、さらに、必要に応じて光増感剤を含有することができる。光増感剤を使用することで、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤を配合する場合、その量は、エポキシ化合物100重量部に対して、0.1〜20重量部程度である。
【0091】
また、加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤も、市販品として容易に入手することができ、例えば、いずれも商品名で、「アデカ(登録商標)オプトン CP77」、「アデカ(登録商標)オプトン CP66」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−2639」、「CI−2624」(以上、日本曹達(株)製)、「サンエイド(登録商標) SI−60L」、「サンエイド(登録商標) SI−80L」、「サンエイド(登録商標) SI−100L」(以上、三新化学工業(株)製)などが挙げられる。これらの熱カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。また、光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤とを併用することも好ましい。
【0092】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、オキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物を更に含有してもよい。
【0093】
無溶剤型のエポキシ系接着剤を用いる場合において、偏光フィルム11と保護フィルム12,13との接着は、当該接着剤を保護フィルム12,13及び/又は偏光フィルム11の接着面に塗布し、両者を貼り合わせることにより行うことができる。偏光フィルム11及び/又は保護フィルム12,13に無溶剤型のエポキシ系接着剤を塗工する方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、少量の溶剤を用いて粘度調整を行なってもよい。このために用いる溶剤は、偏光フィルム11の光学性能を低下させることなく、エポキシ系接着剤を良好に溶解するものであればよく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。
【0094】
未硬化のエポキシ系接着剤からなる接着剤層を介して偏光フィルム11に保護フィルム12,13を貼合した後は、活性エネルギー線を照射するか、又は加熱することにより、当該接着剤層を硬化させ、保護フィルム12,13を偏光フィルム11上に固着させる。活性エネルギー線の照射により硬化させる場合、好ましくは紫外線が用いられる。具体的な紫外線光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、ブラックライトランプ、メタルハライドランプなどを挙げることができる。活性エネルギー線、例えば紫外線の照射強度や照射量は、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム11、保護フィルム12,13に悪影響を与えないように適宜選択される。また、加熱により硬化させる場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、そのときの温度や時間も、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム11、保護フィルム12,13に悪影響を与えないように適宜選択される。
【0095】
以上のようにして得られる、硬化後のエポキシ系接着剤からなる接着剤層の厚みは、通常0.1〜50μmであり、好ましくは1μm以上である。また、1〜20μm、更には2〜10μmの範囲にあることがより好ましい。
【0096】
上記無溶剤型のエポキシ系接着剤は、アクリル系樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13と偏光フィルム11との貼合、あるいはアクリル系樹脂以外の樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13と偏光フィルム11との貼合、又はこれらの両者の貼合に好ましく用いることができる。
【0097】
また、別の好ましい接着剤として、水系の接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解したもの、又はこれを水に分散させたものを挙げることができる。水系の接着剤を用いると、接着剤層の厚みをより低減することができる。水系の接着剤としては、接着剤成分として、例えば、水溶性の架橋性エポキシ樹脂、あるいは親水性のウレタン系樹脂を含有するものを挙げることができる。
【0098】
水溶性の架橋性エポキシ樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂を挙げることができる。このようなポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズ(登録商標)レジン650」、「スミレーズ(登録商標)レジン675」(いずれも商品名)などがある。
【0099】
接着剤成分として水溶性の架橋性エポキシ樹脂を用いる場合は、更に塗工性と接着性を向上させるために、ポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を混合するのが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールのような、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。なかでも、酢酸ビニルと不飽和カルボン酸又はその塩との共重合体のケン化物、すなわち、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。なお、ここでいう「カルボキシル基」とは、−COOH及びその塩を含む概念である。
【0100】
市販されている好適なカルボキシル基変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、それぞれ(株)クラレから販売されている「クラレポバール KL−506」、「クラレポバール KL−318」、「クラレポバール KL−118」、それぞれ日本合成化学工業(株)から販売されている「ゴーセナール(登録商標) T−330」、「ゴーセナール(登録商標) T−350」、電気化学工業(株)から販売されている「DR−0415」、それぞれ日本酢ビ・ポバール(株)から販売されている「AF−17」、「AT−17」、「AP−17」などが挙げられる。
【0101】
水溶性の架橋性エポキシ樹脂を含む接着剤は、上記エポキシ樹脂及び必要に応じて加えられるポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を水に溶解し、接着剤溶液として調製することができる。この場合、水溶性の架橋性エポキシ樹脂は、水100重量部に対して、0.2〜2重量部程度の範囲の濃度とするのが好ましい。また、ポリビニルアルコール系樹脂を配合する場合、その量は、水100重量部に対して、1〜10重量部程度、更には1〜5重量部程度とするのが好ましい。
【0102】
一方、ウレタン系樹脂を含む水系の接着剤を用いる場合、適当なウレタン樹脂の例として、アイオノマー型のウレタン樹脂、特にポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を挙げることができる。ここで、アイオノマー型とは、骨格を構成するウレタン樹脂中に、少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。また、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂の市販品として、例えば、DIC(株)から販売されている「ハイドラン(登録商標) AP−20」、「ハイドラン(登録商標) APX−101H」などがあり、いずれもエマルジョンの形で入手できる。
【0103】
アイオノマー型のウレタン樹脂を接着剤成分とする場合、更にイソシアネート系などの架橋剤を配合することが好ましい。イソシアネート系架橋剤は、分子内にイソシアナト基(−NCO)を少なくとも2個有する化合物であり、その例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのようなポリイソシアネート単量体のほか、それらの複数分子がトリメチロールプロパンのような多価アルコールに付加したアダクト体、ジイソシアネート3分子がそれぞれの片末端イソシアナト基の部分でイソシアヌレート環を形成した3官能のイソシアヌレート体、ジイソシアネート3分子がそれぞれの片末端イソシアナト基の部分で水和・脱炭酸して形成されるビュレット体のようなポリイソシアネート変性体などがある。好適に使用し得る市販のイソシアネート系架橋剤として、例えば、DIC(株)から販売されている「ハイドラン(登録商標)アシスター C−1」などが挙げられる。
【0104】
アイオノマー型のウレタン樹脂を含む水系接着剤を用いる場合は、粘度と接着性の観点から、そのウレタン樹脂の濃度が10〜70重量%程度、更には20重量%以上、また50重量%以下となるように、水中に溶解又は分散させたものが好ましい。イソシアネート系架橋剤を配合する場合、その配合量は、ウレタン系樹脂100重量部に対してイソシアネート系架橋剤が5〜100重量部程度となるように適宜選択される。
【0105】
上記水系の接着剤を用いる場合において、偏光フィルム11と保護フィルム12,13との接着は、当該接着剤を保護フィルム12,13及び/又は偏光フィルム11の接着面に塗布し、両者を貼り合わせることにより行うことができる。より具体的には、偏光フィルム11及び/又は保護フィルム12,13に水系の接着剤を、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなどの塗工方式で均一に塗布した後、塗布面にもう一方のフィルムを重ねてロール等により貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。乾燥は、例えば、60〜100℃程度の温度で行うことができる。接着性をより高めるために、乾燥後、室温よりやや高い温度、例えば30〜50℃程度の温度で1〜10日間程度養生することが好ましい。
【0106】
上記水系の接着剤は、上記無溶剤型のエポキシ系接着剤と同様に、アクリル系樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13と偏光フィルム11との貼合、あるいはアクリル系樹脂以外の樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13と偏光フィルム11との貼合、又はこれらの両者の貼合に好ましく用いることができる。偏光フィルム11の両面にアクリル系樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13が積層される場合及び、偏光フィルム11の一方の面にアクリル系樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13を積層し、他方の面にアクリル系樹脂以外の樹脂フィルムからなる保護フィルム12,13(波長板や視野角補償フィルム等の位相差フィルムである場合を含む。以下同様。)を積層する場合のいずれにおいても、偏光フィルム11の両面に積層されるフィルムの接着に同じ接着剤が用いられてもよいし、異なる接着剤が用いられてもよいが、製造工程の簡略化及び偏光板の構成部材の削減のためには、同じ接着剤を用いることが好ましい。
【0107】
保護フィルム12,13のうち偏光フィルム11に貼り合わされる側の表面には、接着性を向上させる点から、改質処理を施すことが好ましい。以下に、表面改質処理について説明する。
【0108】
(表面改質処理)
上記表面改質処理としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、表面改質処理は、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理の具体例としては、コロナ処理やグロー放電処理などの放電処理、火炎処理、オゾン処理、UVオゾン処理、紫外線処理や電子線処理などの電離活性線処理等が挙げられる。なかでも、UVオゾン処理、コロナ処理及び/又はプラズマ処理が好ましく用いられる。これらの処理では連続生産が可能であるため、経済性及び作業性に優れるからである。
【0109】
本明細書において、「UVオゾン処理」とは、オゾンを含む空気を吹き付けながら、紫外線を照射することにより、フィルム表面を処理するものをいう。また、「コロナ処理」とは、接地された誘電体ロールと絶縁された電極との間に高周波、高電圧を印加することにより、電極間の空気が絶縁破壊してイオン化し発生するコロナ放電内へフィルムを通過させることによってフィルム表面を処理するものをいう。「プラズマ処理」とは、低圧の不活性ガスや酸素、ハロゲンガスなど無機気体中でグロー放電を起こすと、気体分子の一部がイオン化して発生する低温プラズマ内へフィルムを通過させることによって、フィルム表面を処理するものをいう。
【0110】
偏光板10は、他の光学機能を示す光学層と積層することで、所望の光学特性を有する積層光学部材とすることができる。そして、この積層光学部材は、液晶表示装置として使用することができる。図2は、第1の実施形態の偏光板10を用いた積層光学部材と液晶表示装置の一例を示している。この図の液晶表示装置1は、液晶セル3の視認側(フロント側)に積層光学部材4が、背面側(リア側)に積層光学部材5が配置された構成となっている。液晶セル3の背面側にはバックライト6が配置されており、このバックライト6と積層光学部材5の間には光拡散板7が配置されている。液晶セル3と積層光学部材4,5は、図示しない接着剤により貼り合わされている。
【0111】
本実施形態の積層光学部材4は、偏光板10と、偏光板10の液晶セル3側に積層される位相差板15と、偏光板10のうち位相差板15と反対側に積層されるコーティング層17とにより構成されている。
【0112】
[コーティング層]
コーティング層17は、偏光板10の視認側の表面を被覆する保護フィルムであり、例えば樹脂フィルムから構成される。コーティング層に使用される樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル−酢酸ビニル、メチルメタクリレート共重合体、トリアセチルセルロースなどが挙げられる。
【0113】
[位相差板]
位相差板15は、面内に配向し、光学異方性を有する位相差フィルムから構成される部材である。位相差板15としては、1/4波長板、1/2波長板などが例示される。1/4波長板は、可視光の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長(90度)の位相差を示す位相差板であり、直線偏光と円偏光を相互に変換する機能を有するとともに、液晶セル11内の液晶などの視野角を補償する機能を有している。1/2波長板は、可視光の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/2波長(180度)の位相差を示す位相差板であり、直線偏光の向きを180度回転させる機能を有している。
【0114】
1/4波長板の面内位相差値Rは、10〜300nm程度の範囲から適宜選択することが可能であり、好ましくは70〜160nmであり、より好ましくは80〜150nmである。また、1/2位相差板の面内位相差値Rは240〜400nmであり、好ましくは200〜300nmである。これらの位相差値は、液晶表示装置1の種類や目的に応じて、円偏光(楕円偏光)の楕円率や長軸方位角などを考慮して適宜決定することができる。
【0115】
1/4波長板や1/2波長板は、未延伸のポリマーフィルムに一軸延伸、二軸延伸などの延伸処理を適用することで得ることができる。ポリマーフィルムの材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロース誘導体など公知の材料を適宜選択して使用することができる。位相差板15としては、1/4波長板であっても、1/4波長板と1/2波長板を積層させた複合位相差板であってもよい。
【0116】
[バックライト]
バックライト6は、液晶セル3を照明する装置である。バックライト6としては、エッジライト式や直下型方式などの種類が挙げられる。エッジライト式は、側面に配置した冷陰極管などの光源から導光板を通じて液晶セル3に光を照射する。また、直下型方式では、液晶セル3の背面側に光源を配置して液晶セル3に光を照射する。バックライト6の種類は、液晶表示装置の用途に応じたものを適宜採用することができる。
【0117】
[光拡散板]
光拡散板7は、バックライト6からの光を拡散させる機能を有する光学部材である。光拡散板7は、光拡散性を有するものが使用される。光拡散性の付与は、例えば、熱可塑性樹脂に光拡散剤である粒子を分散させる、熱可塑性樹脂板の表面に凹凸を形成する、熱可塑性樹脂板の表面に粒子が分散された樹脂組成物の塗布層を設ける、などにより行うことができる。光拡散板7の厚みは、0.1〜5mm程度とすることができる。また、光拡散板7と液晶セル3との間には、プリズムシート(集光シートとも呼ばれ、例えば、3M社製の「BEF」など)、輝度向上シート(例えば、3M社製の「DBEF」など)、光拡散シートなど、他の光学機能性を示すシートを配置することもできる。他の光学機能性を示すシートは、必要に応じて1枚以上、複数種類配置することも可能である。さらに、光拡散板7として、例えば、シリンドリカルな形状を表面に有するプリズムシートと光拡散板との積層一体品(例えば、特開2006−284697号公報に記載されるもの)のような、光拡散機能に他の機能が複合化された光学シートを用いることも可能である。
【0118】
<他の実施形態>
次に、本発明の他の実施形態に係る偏光板について説明する。上述した第1の実施形態では偏光フィルム11の両面に延伸されたアクリル系樹脂からなる保護フィルム12,13を備えているが、本発明の偏光板としてはこのような構成に限定されない。例えば、図3に示すように、延伸アクリル樹脂からなる保護フィルムが片面にのみ積層された構成でもよい。
【0119】
図3(a)は、偏光フィルムの片面にのみ保護フィルムが積層されている偏光板の例である。この偏光板20は、偏光フィルム21と保護フィルム22とから構成されている。偏光フィルム21と保護フィルム22は、第1の実施形態の偏光フィルム11、保護フィルム12,13とそれぞれ同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0120】
続いて、図3(b)は、偏光フィルムの両面に保護フィルムが積層され、そのうち一方のみが延伸されたアクリル系樹脂からなる偏光板の例である。この偏光板30は、偏光フィルム31と、偏光フィルム31の片側に配置された保護フィルム32と、反対側に配置された保護フィルム33とから構成されている。このうち保護フィルム32は、延伸されたアクリル系樹脂からなる保護フィルムであり、他方の保護フィルム33は、このアクリル系樹脂からなる保護フィルム32とは異なる種類の保護フィルムである。
【0121】
保護フィルム33の材料としては、例えば、メタクリル酸メチル系樹脂等のアクリル系樹脂(メタクリル系樹脂とアクリル系樹脂を含む)、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂に代表されるポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂を挙げることができる。
【0122】
上記の保護フィルム33は、未延伸の無配向性フィルムであってもよく、上記の樹脂をフィルム状に成形した後で延伸処理を施してもよい。このとき、延伸方向は、機械流れ方向(MD)、MDと直交する方向(TD)、MDと斜光する方向など、いずれの方向であってもよい。また、延伸の種類としては、一軸延伸、同時二時延伸、逐次二時延伸など、公知の方法を採用することができる。このような延伸操作を施すことにより、機械的強度の高い保護フィルム33を得ることができる。
【0123】
このような偏光板20,30についても、第1の実施形態と同様に、他の光学機能を示す光学層を積層することで、所望の光学特性を有する積層光学部材とすることができる。そして、この積層光学部材は、液晶表示装置として使用することができる。積層光学部材と液晶表示装置の詳細については、第1の実施形態で説明したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【実施例】
【0124】
[実施例1]
(a)アクリル系樹脂フィルムの製造
(アクリル系樹脂とアクリル系弾性重合体粒子)
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチルの重量比96/4の共重合体を、アクリル系樹脂とした。また、最内層が、メタクリル酸メチルに少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された硬質の重合体、中間層が、アクリル酸ブチルを主成分とし、さらにスチレン及び少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された軟質の弾性体、最外層が、メタクリル酸メチルに少量のアクリル酸エチルを用いて重合された硬質の重合体からなる3層構造の弾性体粒子であって、中間層である弾性体までの平均粒径が240nmのものを、アクリル系弾性重合体粒子とした。
【0125】
(b)アクリル系樹脂フィルムの作製
上記のアクリル系樹脂と上記のアクリル系弾性重合体粒子が前者/後者=70/30の重量比で配合されているペレットを二軸押出機で溶融混練しつつ、アクリル系樹脂組成物のペレットとした。このペレットを65mmφの一軸押出機に投入し、設定温度275℃のT型ダイを介して押し出し、押し出されたフィルム状溶融樹脂の両面を、45℃に温度設定された鏡面を有する2本のポリシングロールで挟み込んで冷却し、アクリル系樹脂フィルムを作製した。
【0126】
得られたフィルムを、一軸延伸機(インストロン製)を用いて、延伸温度150℃、延伸速度2.0m/分にて、フィルムの機械的流れ方向の延伸倍率が2.0倍になるように延伸して、2種2層構成で全体の厚みが35μmである多層延伸フィルムを得た。
【0127】
上の縦延伸が施されたフィルムの幅方向両端175mmずつをスリットし、幅550mmの状態でテンター延伸機にフィルムを導入した。そして、その幅方向両端25mmをチャックで掴み、テンター延伸機入口のチャック間距離を500mmとしてオーブン内の高さ方向中心部を通過させることにより、横延伸を行った。横延伸は、ライン速度を2m/分、予熱ゾーンの雰囲気温度を143℃、延伸ゾーンの雰囲気温度を130℃、テンター延伸機出口のチャック間距離を2,000mm、横延伸倍率を4倍に設定して行った。横延伸終了後は、流れ方向中央を中心に幅が1,400mmとなるように、幅方向両端をスリットして位相差フィルムを得た。ここでライン速度とは、オーブン内におけるフィルムの流れ方向移動速度を意味し、ライン速度2m/分なので、長さ6mの予熱ゾーンを通過する時間(予熱時間)は3分、長さ6mの延伸ゾーンを通過する時間(延伸時間)も3分となる。
【0128】
(c)アクリル系樹脂フィルムへのプロテクトフィルムの貼合
片面に弱粘着性のゴム系粘着剤層が設けられた厚み60μmのオレフィン系樹脂フィルムを用意し、これをプロテクトフィルムとした。このプロテクトフィルムは、ヘイズ値が14.4%で、ゴム系粘着剤層の厚みが20μmであった。フィルム貼合用のロールタイプラミネーターに、(b)で得られたアクリル系樹脂フィルムを貼合前張力0.013N/mmで供給し、上記プロテクトフィルムを貼合前張力0.20N/mmで供給し、プロテクトフィルムのゴム系粘着剤層がアクリル系樹脂フィルムと重なるように貼合した。
【0129】
(d)偏光板の作製
ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向している偏光フィルムの片面に、上記(a)〜(c)で作製したプロテクトフィルム貼着アクリル系樹脂フィルムのアクリル系樹脂フィルム側を、偏光フィルムの他面には、日本ゼオン(株)から入手した環状オレフィン系樹脂の二軸延伸フィルムであって厚み50μmの「ゼオノアフィルム」(面内の位相差値R=55nm、厚み方向の位相差値Rth=124nm)をそれぞれ貼合した。
【0130】
貼合後、メタルハライドランプを光源とする紫外線照射装置を用い、320〜400nmの波長における積算光量が200mJ/cmとなるように環状オレフィン系樹脂フィルム側から紫外線照射して接着剤を硬化させた。
【0131】
サンプルの偏光度を、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V−7100で測定した。その結果、偏光度は99.976%であった。これにより、作製したサンプルが偏光板として十分な性能を発揮できることが確認できた。
【符号の説明】
【0132】
1 液晶表示装置、3 液晶セル、4,5 複合光学部材、6 バックライト、7 光拡散板、10 偏光板、11 偏光フィルム、12,13 保護フィルム(アクリル系樹脂フィルム)、15 位相差板、17 コーティング層、20 偏光板、21 偏光フィルム、22 保護フィルム、30 偏光板、31 偏光フィルム、32 保護フィルム(アクリル系樹脂フィルム)、33 保護フィルム(他の種類のフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの片面又は両面に積層され、延伸されたアクリル系樹脂からなる保護フィルムと、を備え、
前記アクリル系樹脂は、透明なアクリル系樹脂に数平均粒径10〜300nmのゴム弾性体粒子が25〜45重量%配合されたアクリル系樹脂組成物からなることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂が、機械流れ方向(MD)若しくは前記機械流れ方向に直交する方向(TD)に一軸延伸されるか、又は前記機械流れ方向(MD)及び前記機械流れ方向に直交する方向(TD)に同時若しくは逐次二軸延伸される請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記偏光フィルムと前記保護フィルムとが水系の接着剤を介して積層されている請求項1又は2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記水系の接着剤は、架橋性のエポキシ樹脂を含有する請求項3に記載の偏光板。
【請求項5】
前記偏光フィルムと前記保護フィルムとが無溶剤型のエポキシ系接着剤を介して積層されている請求項1又は2に記載の偏光板。
【請求項6】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、加熱又は活性エネルギー線の照射によるカチオン重合で硬化するものである請求項5に記載の偏光板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の偏光板の製造方法であって、
前記保護フィルムのうち前記偏光フィルムに貼り合わされる側の表面に改質処理を施し、
次いでその処理面に接着剤を介して前記偏光フィルムを貼り合わせることを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の偏光板と他の光学機能を示す光学層との積層体からなることを特徴とする積層光学部材。
【請求項9】
前記光学層が位相差フィルムである請求項8に記載の積層光学部材。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の偏光板又は請求項8若しくは9に記載の積層光学部材が、粘着剤を介して液晶セルに貼合されていることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−32773(P2012−32773A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78508(P2011−78508)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】