説明

偏光照明光学素子

【課題】傾きを持って入射する光も適切に直線偏光光に変換できる偏光照明光学素子を提供する。
【解決手段】偏光照明光学素子は、偏光ビームスプリッタアレイ10を有している。偏光ビームスプリッタアレイ10は、直角プリズム20、21を組み合わせた第1プリズムセット14と、同様に構成された第2プリズムセット15とを備えている。各プリズムセット14、15は、直角プリズム20、21の斜面と直角プリズム22、23の斜面とを直交させて配置されている。直角プリズム20、21の間には、P偏光成光を透過させ、S偏光光を反射させる偏光分離膜16がある。直角プリズム22、23の間にも、同様の偏光分離膜17がある。各プリズムセット14、15の間には、小さい入射角で入射した光を透過させ、大きい入射角で入射した光を反射させる角度選択膜18がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無偏光の入射光を一定の偏光方向をもつ直線偏光光に変換する偏光照明光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルに表示させた画像を光源ランプからの光で照明してスクリーンに投写する液晶プロジェクタが種々製品化されている。よく知られるように、液晶表示パネルは、液晶分子を封入した所定厚みの液晶層と、その入射面側と出射面側にそれぞれ配置された偏光子と検光子とを備えている。偏光子と検光子とは、それぞれの偏光方向が互いに直交、あるいは平行となるように配置され、液晶層に入射した直線偏光光の通過を液晶分子の配向姿勢に応じて制御し、検光子を通して出射する直線偏光光の光量調節を行う。
【0003】
一方、液晶プロジェクタの光源装置中には、光源からの無偏光光を液晶表示パネルの偏光子と同じ向きの偏光方向の直線偏光光に変換する偏光照明光学素子が用いられるのが通常である。このような偏光照明光学素子としては、特許文献1で知られるように、偏光ビームスプリッタとλ/2位相差板とを組み合わせたプリズムアレイが多用されている。偏光ビームスプリッタは、偏光方向が互いに直交する2種類の直線偏光光のうちの一方を透過させ他方を反射させる偏光分離面を備え、この偏光分離面で分離された二種類の直線偏光光のいずれかをλ/2位相差板を通して偏光方向を90度回転させた後、他方の直線偏光光と併せることによって、偏光方向がそろった直線偏光光を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−194068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶プロジェクタの光源装置では、光源から照射された照明光をレンズアレイで平行光束に変換してから偏光照明光学素子に入射させている。しかしながら、照明光は、レンズアレイで平行光束に変換したとしても、その全てが光軸と平行にはならず、一部の光線は、5度程度の傾きを持って偏光照明光学素子に入射する。このように傾きを持って偏光照明光学素子に入射した照明光は、偏光照明光学素子の内部で反射して光源側に戻ったり、偏光分離面に入射せず、偏光方向が直交する2種類の直線偏光光が混在した状態のまま偏光照明光学素子から出射したりする場合があり、偏光照明光学素子の直線偏光光への変換効率を低下させる要因となっていた。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、液晶プロジェクタの光源装置などに用いられる偏光照明光学素子において、傾きを持って入射する照明光も適切に直線偏光光に変換できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の偏光照明光学素子は、一対の直角プリズムを組み合わせることで四角柱状に形成された第1プリズムセットと、前記第1プリズムセットと略同一に構成され、側面を合わせるように前記第1プリズムセットに隣接して配置される第2プリズムセットと、前記第1プリズムセットの前記一対の直角プリズムの間に設けられ、P偏光又はS偏光の直線偏光光の一方を透過させて前記第1プリズムセットから出射させるとともに、他方を反射させて前記第2プリズムセットに入射させる偏光分離膜と、前記第1プリズムセットから出射する直線偏光光と同じ方向に向かって出射するように、前記前記第2プリズムセットに入射した直線偏光光の光路を変える光路変更手段と、前記偏光分離膜が分離させたP偏光又はS偏光の直線偏光光の一方の偏光方向を90度回転させることにより、前記各プリズムセットから出射する直線偏光光をP偏光又はS偏光の一方に揃える偏光変換手段と、前記各プリズムセットの間に設けられ、小さい入射角で入射した光を透過させ、大きい入射角で入射した光を反射させる特性を有する角度選択膜とを備えたことを特徴とする。
【0008】
前記第2プリズムセットは、前記第1プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面と、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面とが直交するように配置され、前記光路変更手段は、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの間に設けられ、前記第1プリズムセットに設けられた前記偏光分離膜と同一の特性を有する偏光分離膜であり、前記偏光変換手段は、各々の稜線が互いに平行かつ同一面上に並ぶように配列された複数の直角プリズム要素を有し、前記各稜線がP偏光及びS偏光の直線偏光光の偏光方向に対して45度傾くように前記第2プリズムセットの入射側の側面に設けられ、入射した直線偏光光を前記直角プリズム要素の一対の斜面でそれぞれ内面全反射させることにより、直線偏光光の偏光方向を90度回転させるとともに、変換後の直線偏光光を入射方向と逆向きに出射させることが好ましい。
【0009】
また、前記第2プリズムセットを、前記第1プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面と、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面とが平行になるように配置し、前記光路変更手段を、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの間に設けられ、入射した直線偏光光を反射させる反射膜とし、前記偏光変換手段を、前記各プリズムセットの出射側の側面の一方に設けられ、透過する直線偏光光の偏光方向を90度回転させるλ/2位相差膜としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小さい入射角で入射した光を透過させ、大きい入射角で入射した光を反射させる特性を有する角度選択膜を各プリズムセットの間に設けたので、傾きを持って入射した無偏光の入射光も適切に直線偏光光に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液晶プロジェクタの光源装置の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】偏光照明光学素子の外観図である。
【図3】0〜10度の入射光に対する角度選択膜の特性を示すグラフである。
【図4】80〜90度の入射光に対する角度選択膜の特性を示すグラフである。
【図5】偏光照明光学素子の構造を示す部分破断斜視図である。
【図6】垂直に入射した光の光路を示す説明図である。
【図7】傾斜して入射した光の光路を示す説明図である。
【図8】角度選択膜がない場合を示す説明図である。
【図9】各直角プリズムの斜面が平行になるように各プリズムセットを配置した例を示す説明図である。
【図10】傾斜して入射した光の光路を示す説明図である。
【図11】角度選択膜がない場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、液晶プロジェクタの光源装置は、リフレクタ3とともに用いられる光源ランプ2を備えている。この光源ランプ2には、超高圧水銀ランプなどの高輝度のランプが用いられる。照明光路中には、赤外線及び紫外線カット用のフィルタ4が設けられ、種々の偏光光が合成された無偏光・可視域の照明光は、第1レンズアレイ5に入射する。第1レンズアレイ5は、複数のセグメントレンズを液晶表示パネルの矩形形状に倣うように矩形マトリクス状に配列したもので、同様の構造をもつ第2レンズアレイ6と協同して光源からの光を複数の光束に分割する。
【0013】
第2レンズアレイ6の個々のセグメントレンズから出射した照明光は、偏光照明光学素子7にほぼ平行光束となって入射する。偏光照明光学素子7は、様々な偏光光を含む無偏光の照明光中から紙面と垂直な偏光方向をもった直線偏光光を分離して照明レンズ8に入射させる作用をもつ。照明レンズ8は、偏光照明光学素子7から出射した直線偏光光を液晶表示パネルの有効画面内に導き、これにより液晶表示パネルを直線偏光光で効率的に照明することができる。
【0014】
図2に示すように、偏光照明光学素子7は、直方体状の外観を呈しており、偏光ビームスプリッタアレイ10と、その光入射面側に接合された複数のプリズムシート(偏光変換手段)12とから構成されている。偏光ビームスプリッタアレイ10は、一対の直角プリズム20、21を組み合わせた第1プリズムセット14と、同様に一対の直角プリズム22、23を組み合わせた第2プリズムセット15とを有し、これらを照明光の光軸と直交する方向に交互に複数並べることによって構成されている。直角プリズム20〜23は、同一形状の直角二等辺三角柱に形成されている。また、直角プリズム20〜23には、例えば、屈折率1.52の光学ガラス(BK7)が用いられている。
【0015】
第1プリズムセット14は、互いの斜面を合わせるように直角プリズム20、21を組み合わせて接合させることで、正四角柱の外形を成している。第2プリズムセット15も同様に、互いの斜面を合わせるように直角プリズム22、23を組み合わせて接合させることで、正四角柱の外形を成している。各プリズムセット14、15は、側面を合わせるように隣接して接合されている。ここで、直角プリズム20〜23の斜面とは、直角二等辺三角形に形成された上面及び底面の双方の斜辺を含む面のことである。
【0016】
偏光ビームスプリッタアレイ10は、このように各プリズムセット14、15を複数接合することで、直方体状に形成される。また、偏光ビームスプリッタアレイ10は、直角プリズム20、21の斜面と直角プリズム22、23の斜面とが直交するように向きを決めて各プリズムセット14、15を接合させている。
【0017】
第1プリズムセット14の直角プリズム20、21の間には、誘電体多層膜からなる偏光分離膜16が設けられている。第2プリズムセット15の直角プリズム22、23の間にも、同様の偏光分離膜(光路変更手段)17が設けられている。偏光分離膜16、17は、P偏光成分の直線偏光光(偏光分離膜16、17の法線と入射光線とを含む面に平行な偏光方向をもつ)を透過させ、S偏光成分の直線偏光光(P偏光成分の直線偏光光の偏光方向と直交する偏光方向をもつ)を反射させる特性を有している。
【0018】
また、各プリズムセット14、15の間には、入射した光の入射角によって、その光を透過又は反射させる特性を有する角度選択膜18が設けられている。角度選択膜18は、図3に示すように、400〜700nmの可視域の光が0〜10度の入射角で入射した場合、その光をほぼ100%透過させる。一方、角度選択膜18は、図4に示すように、400〜700nmの可視域の光が80〜90度の入射角で入射した場合、その光をほぼ100%反射させる。ここで、入射角とは、入射光線が入射点に立てた法線に対してなす角のことであるから、入射角0度で入射する光とは、すなわち角度選択膜18の表面に対する法線と平行に入射する光(表面に対して垂直に入射する光)のことである。
【0019】
このように、角度選択膜18は、小さい入射角で入射した光を透過させ、大きい入射角で入射した光を反射させる特性を有している。この角度選択膜18は、例えば、屈折率1.46の酸化シリコン(SiO)の単層膜を約0.5μmの厚みで成膜することにより構成される。
【0020】
プリズムシート12は、偏光ビームスプリッタアレイ10に含まれる各第2プリズムセット15のそれぞれに対応して設けられている。プリズムシート12は、直角プリズム22の側面と略同一の外形を有する短冊状に形成され、入射側の側面を覆うように直角プリズム22に接合されている。このプリズムシート12は、透明なプラスチックまたはガラスで製造することができる。
【0021】
このように、偏光ビームスプリッタアレイ10は、第2レンズアレイ6と対面する直角プリズム20、22の各側面のうち、直角プリズム20の側面は外部に露呈され、直角プリズム22の側面はプリズムシート12によって覆われている。なお、直角プリズム20の側面を覆う部分を平行平面にしておけば、短冊状の複数枚のプリズムシート12を一繋がりした1枚のシートにすることも可能である。
【0022】
図5に示すように、プリズムシート12には、互いの稜線が平行かつ同一面上に並ぶように配列された複数の直角プリズム要素26が形成されている。直角プリズム要素26は、それぞれの稜線が直角プリズム20〜23の各稜線に対して45度傾いて形成されている。プリズムシート12は、偏光分離膜17で反射したS偏光成分の直線偏光光が直角プリズム22の側面から出射し、直角プリズム要素26の斜面に入射した際に、直角プリズム要素26の一対の斜面で2回内面全反射させることにより、入射したS偏光成分の直線偏光光の光路を180度反転させて入射方向と逆向きに出射させるとともに、偏光方向を90度回転させる。このように、プリズムシート12は、直角プリズム22の側面から出射したS偏光成分の直線偏光光を、P偏光成分の直線偏光光に変換して再び偏光分離膜17に入射させる。
【0023】
次に、上記偏光照明光学素子7の作用について説明する。第2レンズアレイ6を構成する個々のマイクロレンズから主光線が略平行に出射した無偏光の照明光は、それぞれのマイクロレンズごとに偏光照明光学素子7に入射する。図6に示すように、マイクロレンズから出射した照明光は、第1プリズムセット14の直角プリズム20の側面を通って偏光分離膜16に45度の入射角で入射する。
【0024】
偏光分離膜16は、入射した照明光の中からP偏光成分の直線偏光光を透過させ、S偏光成分の直線偏光光を90度反射させる。透過したP偏光成分の直線偏光光は、そのまま直角プリズム21を通って第1プリズムセット14から出射する。
【0025】
偏光分離膜16で反射したS偏光成分の直線偏光光は、約0度の入射角で角度選択膜18に入射して角度選択膜18を透過し、第2プリズムセット15の直角プリズム22に入射する。そして、頂角90度で偏光分離膜16と対面している第2プリズムセット15の偏光分離膜17で再度反射し、直角プリズム22の側面から出射してプリズムシート12に向かう。
【0026】
この直線偏光光は、偏光方向(偏光面)が紙面に対して垂直なS偏光成分からなる偏光光になっているが、その偏光方向に対して稜線が45度傾いた直角プリズム要素26に入射すると、その一対の斜面でそれぞれ内面全反射する間に偏光方向が90度回転し、偏光方向が紙面と平行なP偏光成分の直線偏光光となって第1プリズムセット14から出射する直線偏光光に揃えられる。
【0027】
変換されたP偏光成分の直線偏光光は、再び偏光分離膜17に入射する。そして、偏光分離膜17及び直角プリズム23を透過し、第1プリズムセット14から出射するP偏光成分の直線偏光光と同じ方向に向かって第2プリズムセット15を出射する。これにより、偏光分離膜16によって分離されたS偏光成分の直線偏光光も、偏光分離膜16を透過したP偏光成分の直線偏光光とともに液晶表示パネルの照明光として利用することができるようになる。
【0028】
ところで、第2レンズアレイ6から偏光照明光学素子7に照射される無偏光の照明光は、その全てが光軸と平行にはならず、図7、8に示すように、一部の光線は、5度程度の傾きを持って直角プリズム22の側面に入射する(これ以降、傾きを持って入射する光線を傾斜光線と称す)。
【0029】
図8に示すように、各プリズムセット14、15の間に角度選択膜18が設けられていない場合には、傾斜光線が直角プリズム20、22の境界部分を透過して、第1プリズムセット14側の偏光分離膜16ではなく、第2プリズムセット15側の偏光分離膜17に入射してしまうことがある。このように傾斜光線が偏光分離膜17に入射すると、傾斜光線に含まれるS偏光成分の直線偏光光が、偏光分離膜16、17で反射した後、直角プリズム20の側面から光源側に出射して不要光となってしまう。
【0030】
一方、各プリズムセット14、15の間に角度選択膜18が設けられていると、図7に示すように、5度程度の傾きを持って直角プリズム20の側面から入射した傾斜光線は、約85度の入射角で角度選択膜18に入射し、角度選択膜18で反射して偏光分離膜16に入射する。そして、偏光分離膜16に入射した後は、直角プリズム20の側面に対して垂直に入射した光線(図6参照)と同様の経路を辿り、P偏光成分の直線偏光光に変換されて第2プリズムセット15から出射される。
【0031】
このように、各プリズムセット14、15の間に角度選択膜18を設ければ、傾斜光線に含まれるS偏光成分の直線偏光光が光源側に出射して不要光となることを防ぎ、P偏光成分の直線偏光光に適切に変換することができる。そして、この偏光照明光学素子7を利用することによって、無偏光光として光源ランプ2から照射された照明光の中から、P偏光成分の直線偏光光をほぼ損失なく取り出すことが可能となり、液晶表示パネルを効率的に照明することができる。
【0032】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と機能・構成上同一のものについては、同符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施形態の偏光照明光学素子40は、偏光ビームスプリッタアレイ42を備えている。偏光ビームスプリッタアレイ42は、上記第1の実施形態と同様に、一対の直角プリズム50、51を組み合わせた第1プリズムセット44と、一対の直角プリズム52、53を組み合わせた第2プリズムセット45とを有し、これらを交互に複数並べることによって構成されている。また、本実施形態の偏光ビームスプリッタアレイ42は、直角プリズム50、51の斜面と直角プリズム52、53の斜面とが平行になるように向きを決めて各プリズムセット44、45を接合させている。
【0033】
第1プリズムセット44の直角プリズム50、51の間には、P偏光成分の直線偏光光を透過させ、S偏光成分の直線偏光光を反射させる特性を有する偏光分離膜46が設けられている。第2プリズムセット45の直角プリズム52、53の間には、入射したP偏光成分又はS偏光成分の直線偏光光を反射させる反射膜(光路変更手段)47が設けられている。また、各プリズムセット44、45の間には、上記第1の実施形態の角度選択膜18と同様の特性を有する角度選択膜48が設けられている。
【0034】
第2レンズアレイ6と対面する直角プリズム52の側面には、第2レンズアレイ6から照射される無偏光の照明光が入射することを防ぐ遮光膜56が設けられている。一方、第2レンズアレイ6と対面する直角プリズム50の側面は、外部に露呈している。従って、照明光は、第1プリズムセット44のみに入射する。また、直角プリズム53の側面には、P偏光成分又はS偏光成分の直線偏光光が透過する際に、その偏光方向を90度回転させるλ/2位相差膜(偏光変換手段)58が設けられている。
【0035】
次に、本実施形態の作用を説明する。第2レンズアレイ6が照射した無偏光の照明光は、第1プリズムセット44の直角プリズム50の側面を通って偏光分離膜46に45度の入射角で入射する。偏光分離膜46は、入射した照明光の中からP偏光成分の直線偏光光を透過させ、S偏光成分の直線偏光光を90度反射させる。透過したP偏光成分の直線偏光光は、そのまま直角プリズム51を通って第1プリズムセット44から出射する。
【0036】
偏光分離膜46で反射したS偏光成分の直線偏光光は、約0度の入射角で角度選択膜48に入射して角度選択膜48を透過し、第2プリズムセット45の直角プリズム53に入射する。直角プリズム53に入射したS偏光成分の直線偏光光は、偏光分離膜46と平行に対面している反射膜47に入射する。反射膜47は、入射したS偏光成分の直線偏光光を、第1プリズムセット44から出射するP偏光成分の直線偏光光と同じ方向に向かうように反射させ、λ/2位相差膜58に入射させる。λ/2位相差膜58は、入射したS偏光成分の直線偏光光の偏光方向を90度回転させてP偏光成分の直線偏光光に変換し、第1プリズムセット44から出射する直線偏光光に偏光方向を揃える。これにより、上記第1の実施形態と同様に、偏光分離膜46によって分離されたS偏光成分の直線偏光光も、偏光分離膜46を透過したP偏光成分の直線偏光光とともに液晶表示パネルの照明光として利用することができる。
【0037】
ところで、図11に示すように、各プリズムセット44、45の間に角度選択膜48が設けられていない場合には、照明光に含まれる傾斜光線が偏光分離膜46に入射せず、直角プリズム50、53の境界部分を透過してλ/2位相差膜58に入射してしまうことがある。この場合には、傾斜光線に含まれるP偏光成分の直線偏光光がS偏光成分の直線偏光光に変換されるとともに、S偏光成分の直線偏光光がP偏光成分の直線偏光光に変換され、P偏光成分とS偏光成分とが混在した直線偏光光として偏光照明光学素子40から出射してしまう。そして、S偏光成分の直線偏光光は、液晶表示パネルの照明光として利用することができないため、いわゆる迷光になってしまう。
【0038】
一方、各プリズムセット44、45の間に角度選択膜48が設けられていると、図10に示すように、傾斜光線が角度選択膜18で反射して偏光分離膜46に入射する。そして、偏光分離膜46に入射した後は、直角プリズム50の側面に対して垂直に入射した光線(図9参照)と同様の経路を辿り、P偏光成分の直線偏光光に変換されて各プリズムセット44、45から出射される。
【0039】
このように、直角プリズム50、51の斜面と直角プリズム52、53の斜面とが平行になるように各プリズムセット44、45を配置した際にも、各プリズムセット44、45の間に角度選択膜48を設けることで、P偏光成分とS偏光成分とが混在した直線偏光光となって傾斜光線が偏光照明光学素子40から出射することを防ぎ、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、上記第2の実施形態では、第2プリズムセット45の直角プリズム53の側面にλ/2位相差膜58を設け、P偏光成分の直線偏光光に揃えて照明光を出射させるようにしたが、これとは反対に、第1プリズムセット44の直角プリズム51の側面にλ/2位相差膜58を設け、S偏光成分の直線偏光光に揃えて照明光を出射させるようにしてもよい。
【0041】
上記各実施形態では、角度選択膜18、48の材料として、酸化シリコン(SiO)の単層膜を示したが、角度選択膜18、48の材料は、これに限ることなく、直角プリズム20〜23、50〜53よりも屈折率の低い材料であればよい。例えば、フッ化マグネシウム(MgF)の単層膜を用いてもよいし、五酸化タンタル(Ta)と酸化シリコンとを交互に積層した誘電体多層膜を用いてもよい。さらには、屈折率の低い(例えば、屈折率1.44)シリコーン接着剤を用いてもよい。
【0042】
上記各実施形態では、0〜10度の入射角で入射した光をほぼ100%透過させ、80〜90度の入射角で入射した光をほぼ100%反射させる角度選択膜18、48を示したが、角度選択膜18、48が透過又は反射させる入射角の範囲は、上記に限定されるものではない。
【0043】
上記各実施形態では、直角プリズム20〜23、50〜53の材料として、屈折率1.52の光学ガラスを用いたが、直角プリズム20〜23、50〜53の材質、及び屈折率は、これに限定されるものではない。
【0044】
上記各実施形態では、液晶プロジェクタの光源装置に本発明の偏光照明光学素子を適用した例を示したが、本発明の偏光照明光学素子は、これに限ることなく、他の光学機器に適用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
7、40 偏光照明光学素子
10、42 偏光ビームスプリッタアレイ
12 プリズムシート(偏光変換手段)
14、44 第1プリズムセット
15、45 第2プリズムセット
16、46 偏光分離膜
17 偏光分離膜(光路変更手段)
18、48 角度選択膜
20〜23、50〜53 直角プリズム
47 反射膜(光路変更手段)
58 λ/2位相差膜(偏光変換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の直角プリズムを組み合わせることで四角柱状に形成された第1プリズムセットと、
前記第1プリズムセットと略同一に構成され、側面を合わせるように前記第1プリズムセットに隣接して配置される第2プリズムセットと、
前記第1プリズムセットの前記一対の直角プリズムの間に設けられ、P偏光又はS偏光の直線偏光光の一方を透過させて前記第1プリズムセットから出射させるとともに、他方を反射させて前記第2プリズムセットに入射させる偏光分離膜と、
前記第1プリズムセットから出射する直線偏光光と同じ方向に向かって出射するように、前記前記第2プリズムセットに入射した直線偏光光の光路を変える光路変更手段と、
前記偏光分離膜が分離させたP偏光又はS偏光の直線偏光光の一方の偏光方向を90度回転させることにより、前記各プリズムセットから出射する直線偏光光をP偏光又はS偏光の一方に揃える偏光変換手段と、
前記各プリズムセットの間に設けられ、小さい入射角で入射した光を透過させ、大きい入射角で入射した光を反射させる特性を有する角度選択膜とを備えたことを特徴とする偏光照明光学素子。
【請求項2】
前記第2プリズムセットは、前記第1プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面と、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面とが直交するように配置され、
前記光路変更手段は、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの間に設けられ、前記第1プリズムセットに設けられた前記偏光分離膜と同一の特性を有する偏光分離膜であり、
前記偏光変換手段は、各々の稜線が互いに平行かつ同一面上に並ぶように配列された複数の直角プリズム要素を有し、前記各稜線がP偏光及びS偏光の直線偏光光の偏光方向に対して45度傾くように前記第2プリズムセットの入射側の側面に設けられ、入射した直線偏光光を前記直角プリズム要素の一対の斜面でそれぞれ内面全反射させることにより、直線偏光光の偏光方向を90度回転させるとともに、変換後の直線偏光光を入射方向と逆向きに出射させることを特徴とする請求項1記載の偏光照明光学素子。
【請求項3】
前記第2プリズムセットは、前記第1プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面と、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの斜面とが平行になるように配置され、
前記光路変更手段は、前記第2プリズムセットの前記一対の直角プリズムの間に設けられ、入射した直線偏光光を反射させる反射膜であり、
前記偏光変換手段は、前記各プリズムセットの出射側の側面の一方に設けられ、透過する直線偏光光の偏光方向を90度回転させるλ/2位相差膜であることを特徴とする請求項1記載の偏光照明光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−181717(P2010−181717A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26205(P2009−26205)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】