説明

偏光素子

【課題】偏光レンズ等の偏光素子の機械加工に際して、偏光フィルムまたは偏光シートと透明合成樹脂層との界面に剥離が発生することがない偏光素子を提供すること。
【解決手段】偏光フィルム(又は偏光シート)13の片面又は両面に重合性液状材料を重合硬化させた透明合成樹脂層(レンズ層)15、15を有して注型成形された偏光素子11。偏光フィルム(又は偏光シート)13と透明合成樹脂層15との間にゴム状弾性を有する接着剤層14を介在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム又は偏光シートの少なくとも片面に重合性液状材料を重合硬化させた透明合成樹脂層を有して注型成形されてなる偏光素子に関する。
【0002】
特に、注型成形に先立ち、偏光フィルム又は偏光シートをレンズ曲率に合せて熱プレス等により曲げ加工(前加工)をする必要がある偏光レンズ(眼鏡用)に好適な偏光素子に係る発明である。
【0003】
本発明の偏光素子は、上記偏光レンズの他に、サンバイザー、スキーゴーグル、自動車や住宅用の偏光窓ガラス、飛行機やオートバイの偏光風防ガラス、等にも適用できる。
【0004】
ここでは、偏光プラスチックレンズ(以下、「偏光レンズ」という。)を例にとり説明するが、これに限られるものではない。
【背景技術】
【0005】
偏光レンズを成形(成型)する方法として、一般的に熱可塑性樹脂の射出成形法、重合性液状材料(熱硬化性樹脂)の注型成形法がある(特許文献1段落0002、特許文献2)。
【0006】
表1に、偏光レンズを注型成形した場合の射出成形に対する有利な点を記載した対比を示す(特許文献1の表1から引用)。
【0007】
【表1】

【0008】
注型成形は、射出成形に対して有利な点が多いため、中・高屈折率用の偏光レンズの成形法として主流になりつつある。
【0009】
昨今、眼鏡フレームファッションの多様化に伴い、偏光レンズをフレームにセッティングする際の、素材レンズ(いわゆる丸レンズ)に対する機械加工も複雑化・多様化(孔明けやVカット等)してきている。
【0010】
そして、表1に記載の如く、注型成形の場合は、偏光フィルムとレンズ層(透明合成樹脂層)との密着性は良好であるとされていた。
【0011】
ところが、従来の偏光レンズでは、偏光フィルムとレンズ層の熱膨張率がそれぞれ異なることに起因して、温度変化等の環境変化により偏光フィルムがレンズ層(透明合成樹脂層)から経時的に剥離するおそれがあった(特許文献2段落0005)。
【0012】
このため特許文献2では、下記構成の偏光プラスチックレンズ(偏光素子)が提案されている(請求項1)。
【0013】
「イソシアナト基又はイソチオシアナト基を有する化合物と、ヒドロキシル基又はメルカプト基を有する化合物とを主成分とし、重合触媒を含有する重合原料を重合して得られるレンズ体が、ヒドロキシル基を有する樹脂から形成される偏光膜の両面に設けられている偏光プラスチックレンズであって、
前記レンズ体の重合原料に含有されるイソシアナト基又はイソチオシアナト基と、偏光膜を形成する樹脂に含有されるヒドロキシル基とがウレタン結合又はチオウレタン結合によって結合されていることを特徴とする偏光プラスチックレンズ。」
【0014】
しかし、そのような構成にしても、機械加工に際して、偏光フィルム又は偏光シートとの界面に剥離が発生することが分かった(後述の比較例・参照例参照)。
【0015】
特に、レンズ層(透明合成樹脂層)がエピスルフィド系やメタアクリレート系の材料の場合、顕著であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−168310号公報
【特許文献2】特開2005−99687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記にかんがみて、素材である偏光レンズ等の偏光素子の機械加工に際して、偏光フィルムまたは偏光シートと透明合成樹脂層(レンズ層)との界面に剥離が発生することがない偏光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意開発に努力をした結果、下記構成の偏光レンズに想到した。
【0019】
偏光フィルム又は偏光シートの少なくとも片面に重合性液状材料で形成される透明合成樹脂層を有して注型成形された偏光素子であって、
前記偏光フィルム又は偏光シートと前記透明合成樹脂層との間にゴム状弾性を有する接着剤層が介在されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
後述の実施例で示す如く、本発明の構成の偏光素子(偏光レンズ)は、機械加工に際して偏光フィルム又は偏光シートと透明合成樹脂層との界面に剥離が発生しなくなる(表2〜4参照)。
【0021】
機械加工に際して、偏光フィルム又は偏光シートと透明合成樹脂層との間に介在するゴム状弾性を有する接着剤層で挟持された状態で裁断されることにより、薄肉の偏光フィルム層(通常、50μm前後)又は偏光シート(通常、700μm前後)が隣接する透明合成樹脂層との厚みの違いに基づく皴発生が阻止されるためと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用する偏光レンズの一モデル断面図である。
【図2】第1・第2モールドを用いてのテープ巻き回し方式の偏光レンズの注型成形法の説明用断面図である。
【図3】同じくガスケットシール方式の偏光レンズの注型成形法の説明用断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本実施形態の偏光レンズ(偏光素子)11は、基本的には、偏光フィルム(又は偏光シート)13の両面に重合性液状材料を用いて注型成形された透明合成樹脂層(レンズ層)15、15を有するものである(図1参照)。
【0024】
次に、本実施形態の偏光レンズの注型成形法としては、下記(1)テープ巻き回し方式(図2)、及び、(2)ガスケットシール方式(図3)のいずれでもよい。図3は片面にレンズ層を形成するものである。
【0025】
基本的には、偏光フィルム(又は偏光シート)13の両面にレンズ層15、15を有する偏光レンズ11を、一対の第1・第2モールド(通常、ガラス製)17、19を使用して成形する方法であって、前記第1モールド17を実質的に水平に保持した状態で、該第1モールド17上に賦形偏光フィルム(又は偏光シート)13を浮かし置き、さらに、前記第2モールド19を賦形偏光フィルム(又は偏光シート)13に対して所定隙間をおいてセットした状態で、前記第1・第2モールド17、19の周辺開口部を、テープ21を巻き回して形成もしくは、プラスチック製のガスケット23にてキャビティ25を形成して成形型27を調製し、該成形型27のキャビティ25に重合性液状材料を注入して、熱硬化重合や紫外線硬化重合などの手段により重合硬化乃至架橋硬化させて形成する。
【0026】
なお、上記第1・2モールド17、19は、偏光フィルム20を所定位置に位置決めするための位置決め部材30を、少なくとも一方(図例では双方)に有する。
【0027】
また、ガスケット23には、図3に示す如く、重合材料注入口23aを形成したものとする。
【0028】
ガスケット材料として、弾力性が有り重合性液状材料の漏れを防止できるエチレンコポリマーやオレフィン系熱可塑性エラストマーなどが好ましい。
【0029】
以下、注型成形法を用いての本実施形態の偏光レンズの製造方法を説明する。
【0030】
まず、第1モールド17の曲率に合わせて偏光フィルム(又は偏光シート)13を真空曲げや熱プレス等の公知の方法で曲げる。
【0031】
ここで使用する偏光フィルムとしては、特に限定されず、例えば、下記のようなものを使用可能である。
【0032】
・ポリビニルアルコール(PVAL)に水溶性二色性染料を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL一軸配向フィルムに沃素を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL一軸配向フィルムに水溶性二色性染料を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL等の分子構造をポリエン構造にしたポリビニレン偏光フィルム、
・ポリエステル系樹脂に二色性染料を少なくても1種含む非水溶性染料を添加した偏光フィルム、
・PVALフィルムそのものを分子内脱水し、共役二重結合にし、二色性をもたせたポリビニレン偏光フィルム、
【0033】
偏光シートとは、これらの偏光フィルムの片面もしくは両面に透明保護シートを貼り合わせる等して保護樹脂層を形成したものである。透明保護シートとしては、セルロース系シート、ポリエステル系シート、アクリル系シート、ポリカーボネート系シート、ポリアミド系シート等がある。
【0034】
これらの偏光フィルム又は偏光シートを、打ち抜きプレス又はレーザー加工によってモールド形状に切り抜くとともに曲げ加工(賦形加工)を行なう。該賦形加工後、適宜、偏光フィルム又は偏光シートの材質や変形等の状態によって乾燥アニールを行う。この乾燥アニールの条件は、通常、20〜120℃×5分〜25時間の範囲から、偏光フィルム又は偏光シートの種類によって、適宜選定する。
【0035】
この賦形加工後の偏光フィルム又は偏光シートにディッピング、スピンコート等の公知の方法で接着剤を塗布し、常温・加熱乾燥により固化させて接着剤層塗布処理をした偏光フィルム又は偏光シートを調製する。
【0036】
この常温・加熱乾燥の条件は、接着剤の材質や偏光フィルム又は偏光シートの種類によって、20〜120℃×5分〜10時間の範囲から、適宜選定する。
【0037】
接着剤は、接着剤層がゴム状弾性を有するものであれば特に限定されない。通常、エラストマー系接着剤と称されるものを使用し、望ましくは、接着剤層が引張試験(JIS K 6251)におけるM200:0.1〜1.0MPaを示すものとする。
【0038】
具体的には、(1)エステル系TPE、(2)ウレタン系TPE、及び(3)二液硬化・一液硬化型ポリウレタン等を有機溶剤や水等で希釈乃至分散させた溶液タイプや水性エマルションタイプとした接着剤を使用可能である。
【0039】
(1)エステル系TPE:
エステル系TPE(TPEE)としては、ポリエステル・ポリエーテル型及びポリエステル・ポリエステル型の双方を使用可能である。
【0040】
上記TPEEは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテル又はポリエステルを使用したマルチブロック共重合体である。
【0041】
そして、上記TPEEのハードセグメントとソフトセグメントのモル比率は、前者/後者=約30/70〜90/10、望ましくは、約40/60〜80/20とする。ハードセグメントの割合が過少では、硬さ、モジュラス、機械的強度及び耐熱性が低下し、過多ではゴム状弾性及び低温特性が低下する。
【0042】
本発明では、TPEEの表面硬度(ショアD)は、約35〜75、曲げ弾性率は、約4〜800MPaを示すものが望ましい。
【0043】
以下に、TPEEのハードセグメント構成成分とソフトセグメント構成成分の具体例を挙げる。
【0044】
・ハードセグメント構成成分としてのポリエステル:
具体的には、ジカルボン酸と低分子グリコールよりなる。
【0045】
上記ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、デカメチレンジカルボン酸,オクタデカンジカルボン酸等の炭素数4〜20の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、ε−オキシカプロン酸等の脂肪族オキソカルボン酸(下記一般式参照)、ダイマー酸(二重結合を有する脂肪族モノカルボン酸を二量重合させた二塩基酸)等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でもテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が望ましい。
【0046】
一般式:R1CO(CH2n COOH
注)R1 :アルキル基又はH、n=0〜19。
【0047】
上記低分子グリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−シクロヘキサンジメタノール、等、及びそれらのエステル形成誘導体が挙げられる。これらの中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが望ましい。
【0048】
・ソフトセグメント構成成分としてのポリエステル:
ジカルボン酸類と長鎖グリコールよりなり、ジカルボン酸類としては、前記のものが挙げられる。
【0049】
長鎖グリコールとしては、ポリ(1,2−ブタジエングリコール)、ポリ(1,4−ブタジエングリコール)及びそれらの水素添加物等が挙げられる。
【0050】
また、ε−カプロラクトン(C6)、エナントラクトン(C7)、及びカプリロラクトン(C8)もポリエステル構成成分として有用である。
【0051】
これらの中で、ε−カプロラクトンが望ましい。
【0052】
・ソフトセグメント構成成分としてのポリエーテル:
ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等のポリ(アルキレンオキシド)グリコール類が挙げられ、これらの中でポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが使用に際して望ましい。
【0053】
上記TPEEは、慣用の方法で製造が可能である。具体的には、ジカルボン酸の低級アルキルエステルを、脂肪族長鎖グリコール及び低分子グリコールと混合して、テトラブチルチタネート等の触媒の存在下で約150〜200℃の温度で加熱し、エステル交換反応を行い、まず低重合体を形成し、さらにこの低重合体を高真空下約220〜280℃で加熱攪拌し、重縮合を行い、TPEEとする。前記低重合体はジカルボン酸と長鎖グリコール及び低分子グリコールとの直接エステル化反応によっても得ることができる。
【0054】
上記において、TPEEを塗膜形成ポリマーの全部とせず、主体とする場合に組み合わせ可能なポリマーとしては、TPEEと混和可能なポリマーであれば特に限定されない。例えば、通常のエステル系樹脂(PBT、PET等)、アミド系樹脂、さらには、アミド系TPE等任意であり、通常、ポリマー全体に占める割合は、約50%未満、望ましくは約30%未満とする。
【0055】
このようなTPEEには、溶液タイプの形態で添加してもよいが、加工性及び環境保護の観点より水性エマルションの形態で添加することが望ましい。
【0056】
この水性エマルション化は、慣用の方法により行うことができるが、具体的には、ポリマーを界面活性剤(外部乳化剤)の存在下、高い機械的剪断を行って強制的に乳化させる強制乳化法が望ましい。
【0057】
通常使用される界面活性剤としては、
・アニオン系界面活性剤…ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ類、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、等、
・カチオン系界面活性剤…第4級アンモニウム塩、等、
・ノニオン系界面活性剤…ポリエチレングリコール、長鎖アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、等、
が挙げられる。これらの中で、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムが望ましい。
【0058】
また、ポリマーにイオン性の親水基を導入し、乳化剤の助力無しに水中に分散安定させる自己乳化法で行う、又は併用してもよい。
【0059】
なお、上記において溶液タイプとする場合は、炭化水素類、ハロゲン化類、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類の各種溶剤を、単独で又は併用して溶液タイプとする。
【0060】
(2)ウレタン系TPE
上記ウレタン系TPEは、溶液タイプの形態で添加してもよいが、加工性及び環境保護の観点より、水性エマルションの形態で添加することが望ましい。
【0061】
上記ウレタン系TPEは、通常、長鎖ポリオールとポリイソシアネートからなる軟質相(ソフトセグメント)と、短鎖ポリオールとポリイソシアネートからなる硬質相(ハードセグメント)とで構成されるものである。さらには、光学基材等に塗布・硬化後、部分架橋可能なようにポリアミン等の反応性成分を添加したものが望ましい。
【0062】
そして、上記軟質相を形成する長鎖ポリオールとしては、ポリアルキレングリコール(PTMG等)のポリエーテル系、ポリアルキレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート等のポリエステル系や、両者が混在するポリエーテルポリエステル系など任意である。これらのうちで、ポリエステル系・ポリエーテルポリエステル系が、耐衝撃性の見地から望ましい。
【0063】
また、上記短鎖ポリオールとしては、エチレングリコール、1,2- プロピレングリコール、1,3- ブタンジオール、1,4- ブタンジオール、1,6- ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等が例示できる。
【0064】
また、上記ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4' −ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5- ナフタレンジイソシアネート等の芳香族系、1,6- ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加MDI等の脂肪族・脂環式系のものを挙げることができる。耐光性等の見地から、非黄変性タイプの脂肪族・脂環式系のものが望ましい。
【0065】
なお、上記において、溶液タイプとする場合は、エステル系TPEの場合と同様、炭化水素類、ハロゲン化類、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、等を単独で又は併用して溶液タイプとする。
【0066】
(3)その他のウレタン系接着剤
上記ウレタン系TPEをベースとするもの以外に、(a)熱可塑性ポリウレタンを有機溶剤又は水で希釈して少量のポリイソシアネートを添加して架橋させる溶剤、水性の二液型、や(b)湿気硬化型プレポリマーの一液、ポリオール/イソシアネートの二液、等の反応型も使用可能である。
【0067】
上記接着剤の塗布方法は、ディッピング法、スピンコート法等の公知の方法から、適宜、選択することができる。
【0068】
上記のようにして賦形加工後、接着剤を塗布した偏光フィルム又は偏光シートの両面にレンズ層を有する偏光プラスチックレンズを、一対の第1・第2モールドを使用して前述のテープ巻きまわし方式又はガスケットシール方式で成形する。
【0069】
そして、レンズ材料としての重合性液状材料(架橋性材料)は、例えば、周知の(メタ)アクリレート系重合組成物、アリル系重合組成物(CR39等)、(チオ)ウレタン系重合組成物、エピスルフィド系重合組成物、ウレア系重合組成物、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ(−4−メチルペンテンー1)等から、適宜、選択する。
【0070】
なお、偏光レンズに高屈折が要求される場合は、重合性液状材料としては、下記ポリチオウレタン(a)、エピスルフィド系樹脂(b)等の硫黄含有樹脂を使用する。特に、ポリチオウレタンが高屈折率材料を得やすく、薄いレンズが製造できる。
【0071】
(a)ポリチオウレタンとは、ポリウレタン結合(−NHCOO−)の酸素原子の少なくとも1個が硫黄原子に入れ替わった結合(−NHCOS−、−NHCSO−、−NHCSS−)を有するポリマー(樹脂)を意味し、ポリイソシアナト、ポリイソチオシアナト、ポリイソシアナトチオイソシアナトより選ばれる1種または2種以上のポリイソシアナト成分と、ポリチオール成分とからなる公知ものを好適に使用できる(特開平8−208792号公報等参照)。
【0072】
ここでイソシアナト成分としては、脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・チオカルボニル(チオケトン)誘導体を母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、脂肪族系又は脂環式系のものが望ましい。
【0073】
また、ポリオール成分としては、同様に脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・ポリチオエーテルを母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、同様に脂肪族系又は脂環式系のものが望ましい。
【0074】
具体的には、下記化学式で示されるポリチオエーテルを母体化合物とするものからなる又は主体とするものであることが望ましい。
【0075】
【化1】

【0076】
他のポリオール成分としては、分岐炭化水素多価アルコールのω−メルカプト脂肪族カルボン酸の全置換エステルを好適に使用できる。
【0077】
具体的には、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトグリコレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(2−メルカプトグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)等を挙げることができる。
【0078】
(b)エピスルフィド系樹脂とは、ジチオエポキシ化合物と硬化剤と、さらには、その他の重合性化合物とを反応させて得られるポリマー(樹脂)を意味し、例えば、下記化学式で示される直鎖アルキルスルフィド型ジチオエポキシ化合物を硬化させる公知のものを使用できる(特開平9−110979号、特開平10−114764号公報等)。
【0079】
【化2】

【0080】
上記硬化剤としては、通常のエポキシ樹脂用硬化剤であるアミン類、有機酸類、無機酸類を使用可能である。
【0081】
なお、(メタ)アクリル系ポリマーとしては、レンズ用の汎用の市販のポリマー材料を使用可能である。
【0082】
上記、本発明の偏光レンズ(プラスチックレンズ)の注型成形による製造に際して、レンズ材料である重合性液状材料に、種々の添加剤、例えば、染料、青味付け(ブルーイング)剤、内部離型剤、消臭剤、酸化防止剤、安定剤、重合開始剤等を必要に応じて添加してもよい。なお、樹脂硬化(重合)は、熱硬化重合、紫外線硬化重合等で行う。
【0083】
また、本発明のプラスチックレンズの表面を、一般的に行われている強化塗膜を塗布し、硬度等の改質処理することが望ましい。
【0084】
さらに、防曇処理加工、反射防止加工、撥水処理加工、帯電防止処理加工等の表面処理をほどこしてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の効果を確認するために、比較例、参照例とともに行なった実施例について説明する。
【0086】
各実施例の偏光レンズは下記の如く調製した。
【0087】
(1)偏光フィルム(又は偏光シート)の前加工(賦形・裁断)
成形型の第一モールドの曲率66.16mmに合わせて、下記各偏光フィルムは加湿した後熱プレスにて曲げ、各偏光シートはそのまま熱プレスで曲げた。
【0088】
これをレーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光フィルム又は偏光シートを調製した。
【0089】
・F−01:(株)ポラテクノ製染料系PVA偏光フィルム「G−15」
・F−02:廣島電子工業(株)製ヨウ素系PVA偏光フィルム「Brown41」
・S−01:住友ベークライト(株)製染料系TAC偏光シート「G−36」
・S−02:三井化学(株)製染料系PET偏光シート「G」
【0090】
(a)偏光フィルムの前処理
・実施例1〜4:
下記処方で均一な状態になるまで攪拌して調製した水性エマルションエステルTPE系の接着剤「A−01」を表示の偏光フィルム又は偏光シートの両面に下記条件で塗布した。
【0091】
・「ペスレジン A−160P」(高松油脂株式会社製、水分散エマルション、固形分濃度27%) 100部
・メチルアルコール 900部
・シリコーン系界面活性剤「SILWET L−77」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製) 2部
塗布方法:ディッピング(15℃、30sec.200mm/min.)、
乾燥条件:50℃×30分。
【0092】
・実施例5〜8:
下記処方で均一な状態になるまで攪拌して調製した2液硬化型ポリウレタン系の接着剤「A−02」を、表示の偏光フィルム又は偏光シートの両面に下記条件で塗布した。
【0093】
・主剤「LOVE5A」(熱可塑性ポリウレタンのMEK溶解物) 100部
・硬化剤「LOVE5B」(株式会社アルテコ製、ポリイソシアネートの酢酸エチル溶解物) 2部
塗布方法:ディッピング(15℃、30sec.200mm/min.)、
乾燥条件:50℃×30分。
【0094】
・実施例9〜12:
下記処方で均一な状態になるまで攪拌して調製した水性エマルションポリウレタン系の接着剤「A−03」を、表示の上記偏光フィルム又は偏光シートの両面に下記条件で塗布した。
【0095】
・水性エマルションポリウレタン「スーパーフレックス150」(第一工業製薬社製、固形分濃度:30%、無黄変型、エステル・エーテル系) 100部
・メチルアルコール 600部
・レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤 1部
塗布方法:ディッピング(20℃、60sec.200mm/min.)、
乾燥条件:70℃×60分。
【0096】
(b)表2〜4の各比較例は、表示の両面に下記条件でプラズマ又はアルカリエッチングを行なった。
【0097】
・プラズマエッチング:ヤマト科学株式会社製プラズマリアクターPR501A(酸素ガス使用、流量40cc/分、100w×40秒)。
【0098】
・アルカリエッチング処理 ;30℃のNaOH水溶液(10wt%)に5分間浸漬。
【0099】
(c)表2〜4の各参照例は、無処理の上記偏光フィルム又は上記偏光シートを用いた。
【0100】
(2)成形型の調製
上記前処理をした又は無処理の賦形偏光フィルム(又は賦形偏光シート)13、14を、下記仕様の第1モールド17及び第2モールド19の2枚1組の間にセット後、中心間隔3.0mmとなるように下記仕様の粘着テープ20を巻き回して成形型を調製した(図2参照)。
【0101】
・第1モールド:ガラス製、外径80mm、使用面曲率66.16mm、中心厚4.0mm、
・第2モールド:ガラス製、外径80mm、使用面曲率65.59mm、中心厚4.0mm
・粘着テープ:38μm厚PETフィルム上にシリコーン系粘着剤が塗布されたスリオンテック製6263−50粘着テープを使用した。
【0102】
(3)注入成形
上記成形型に下記各重合性液状材料を注入後、下記各温度条件で加熱重合(硬化)させた。該加熱重合後、型から取り出す離型は、クサビ状工具で物理的(機械的)に行った。
【0103】
<実施例・比較例・参照例1〜4>
(a)重合性液状材料の調製
ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド:90部、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジチオール:10部を窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分間混合攪拌し、硬化触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン:0.3部、香気性付与剤としてイソプレゴール:0.3部、更に、紫外線吸収剤として3−〔5−(2−ベンゾトリアゾイル)−3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオン酸とポリエチレングリコールとのモノエステル:1.5部をそれぞれ添加し、更に窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分間混合攪拌した。
【0104】
そして、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで攪拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターで濾過し、屈折率(ne)1.74のエピスルフィド系レンズ原料液(重合性液状材料)を調製した。
【0105】
(b)成形加熱条件
20℃×8時間→20℃から60℃まで4時間かけて昇温→60℃から100℃まで2時間かけて昇温→100℃から120℃まで1時間かけて昇温→120℃×2時間→120℃から40℃まで4時間かけて冷却する。
【0106】
<実施例・比較例・参照例5〜8>
(a)重合性液状材料の調製
株式会社トクヤマ製フォトクロミック機能レンズ原料トランシェイド500PRE:100部、硬化触媒としてAKZO Nobel社製Trigonox23−C7:1.3部、Trigonox21S:0.1部を窒素ガス雰囲気下で20℃に温度調節しながら30分間混合攪拌した。
【0107】
そして、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで攪拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターで濾過し、屈折率(ne)1.55のフォトクロミック機能を備えたメタアクリレート系レンズ原料液(重合性液状材料)を調製した。
【0108】
(b)成形加熱条件
35℃×8時間→35℃から50℃まで4時間かけて昇温→50℃から70℃まで2時間かけて昇温→70℃から90℃まで1時間かけて昇温→90℃×2時間→90℃から60℃まで2時間かけて冷却する。
【0109】
<実施例・比較例・参照例9〜12>
(a)重合性液状材料の調製
2,5−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシナト)100部に、硬化剤としてジブチルチンジクロライド:0.1部、内部離型剤としてアルキル燐酸エステル(アルコールC8〜C12)塩:0.3部、香気性付与剤としてカプロン酸エチル:0.2部、更に、紫外線吸収剤として3−〔5−(2−ベンゾトリアゾイル)−3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオン酸とポリエチレングリコールとのモノエステル:2.0部をそれぞれ添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。その後、更にペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)50部と、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1.11−ウンデカンジチオール:50部を添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0110】
そして、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで攪拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターで濾過し、屈折率(ne)1.60のポリチオウレタン系レンズ原料液(重合性液状材料)を調製した。
【0111】
(b)成形加熱条件
20℃×8時間→20℃から60℃まで4時間かけて昇温→60℃から100℃まで2時間かけて昇温→100℃から120℃まで1時間かけて昇温→120℃×2時間→120℃から40℃まで4時間かけて冷却する。
【0112】
<評価試験>
上記で調製した各偏光レンズについて、下記項目の評価を行った。
【0113】
1)偏光レンズの外観:
目視による。
【0114】
2)偏光度(%):
(株)日立製作所製、分光光度計U−4100を使用し、製造された2枚の偏光レンズを重ねて400nmから700nm波長領域で測定した各波長の分光透過率値からJIS−Z8701により光線透過率(%)を算出する。なお、この数値が、大きいものほど可視光の透過率がよい。
【0115】
そこで、製造された偏光レンズの偏光フィルムの延伸方向を2枚平行に重ねて測定したときの光線透過率(Tp)と2枚直交に重ねて測定したときの光線透過率(Tc)を測定する。
【0116】
そして、下記数式にて偏光度(V)を算出する。
【0117】
V=√(Tp−Tc)/(Tp+Tc)×100 (%)
3)偏光レンズのフィルム(シート)密着性試験
下記の3種類の試験にて確認した。
【0118】
3−1)耐温水試験:70℃×16時間浸漬、剥離の有無を目視にて観察する。
【0119】
3−2)ボイリング試験:沸騰水×3時間浸漬、剥離の有無を目視にて観察する。
【0120】
3−3)万力破壊試験:万力にてレンズを挟み、破壊されるまでレンズを曲げて破壊された時の剥離の有無を目視にて観察する。
【0121】
<結果考察>
上記評価試験の結果を示す表2〜4に示す。
【0122】
偏光レンズ外観・偏光度において、各実施例・比較例・参照例のいずれにおいても問題がない。
【0123】
しかし、表2・3に示す如く、レンズ材料がエピスルフィド系、メタアクリル系の場合、全ての項目のフィルム(シート)密着性において、フィルム(シート)無処理の参照例は勿論、プラズマ・アルカリエッチングの比較例も、問題があることが分かった。
【0124】
また、表4に示す如く、レンズ材料がポリチオウレタン系の場合、温水・ボイリング試験のフィルム(シート)密着性において、比較例・参照例もアルカリエッチング前処理を除いて問題がないが、万力破壊試験のフィルム(シート)密着性において、問題があることが分かった。
【0125】
これらの比較例・参照例に対して、本発明の各実施例は、レンズ材料および密着性試験項目に関係なく問題がないことが確認できた。
【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【符号の説明】
【0129】
11 偏光レンズ(偏光素子)
13 偏光フィルム(又は偏光シート)
15 レンズ層(透明合成樹脂層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルム又は偏光シートの少なくとも片面に重合性液状材料を重合硬化させた透明合成樹脂層を有して注型成形された偏光素子であって、
前記偏光フィルム又は偏光シートと前記透明合成樹脂層との間にゴム状弾性を有する接着剤層が介在されてなることを特徴とする偏光素子。
【請求項2】
前記接着剤層が引張試験(JIS K 6251)におけるM200:0.1〜1.0MPaを示すものであることを特徴とする請求項1記載の偏光素子。
【請求項3】
前記接着剤層が、エステル系TPE、ウレタン系TPE又は二液硬化型ポリウレタンゴム系をベースとするものからなることを特徴とする請求項1又は2記載の偏光素子。
【請求項4】
前記偏光フィルムがポリビニルアルコール(PVA)製またはポリビニレン製であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の偏光素子。
【請求項5】
前記偏光シートが、PVA製である偏光フィルムをセルロース系又は飽和ポリエステル系の保護樹脂層で保護したものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の偏光素子。
【請求項6】
前記透明合成樹脂層が、エピスルフィド系、ポリチオウレタン系又はアクリル系であることを特徴とする請求項1〜5いずれか一記載の偏光素子。
【請求項7】
前記透明合成樹脂層が、エピスルフィド系又はアクリル系であることを特徴とする請求項6記載の偏光素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一記載の偏光素子からなることを特徴とする偏光レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−145513(P2011−145513A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6748(P2010−6748)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】