説明

偏向アンプの評価方法および荷電粒子ビーム描画装置

【課題】迅速に偏向アンプの故障の有無を判断できる偏向アンプの評価方法と、この機能を備えた荷電粒子ビーム描画装置とを提供する。
【解決手段】描画装置100は、第n番目にショットする電子ビーム200のオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする電子ビーム200のオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を設定する設定部114と、ブランキング偏向器212によりショット回数が所定値になるまで電子ビーム200のオン状態とオフ状態とを交互に繰り返す間、成形偏向器205または副偏向器209により2種類の動作パターンが交互に繰り返されて偏向された電子ビーム200のビーム電流を測定するファラデーカップ216とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏向アンプの評価方法および荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭くなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、微細パターンを描画可能な電子ビーム描画装置が用いられる。また、レーザビームを用いて描画するレーザビーム描画装置の開発も試みられている。尚、電子ビーム描画装置は、ウェハに直接パターン回路を描画する場合にも用いられる。
【0003】
特許文献1には、可変成形型電子ビーム描画装置の一例が開示されている。こうした装置における描画データは、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などの設計データ(CADデータ)に、補正や図形パターンの分割などの処理を施すことによって作成される。例えば、図形パターンの分割処理は、電子ビームのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で行われ、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。
【0004】
電子ビームで描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが形成される。具体的には、電子銃から出射された電子ビームは、第1の成形アパーチャで矩形状に成形された後、偏向器で第2の成形アパーチャ上に偏向されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、電子ビームは、ステージ上に載置されたマスクに照射される。
【0005】
上述したように、電子ビーム描画装置では、電子ビームを偏向させてマスク上に照射している。電子ビームの偏向制御は偏向アンプと偏向器によって行われ、偏向の種類によってそれぞれ複数の偏向アンプと偏向器がある。例えば、電子ビームのオンとオフによりビームショットの生成を行うブランキング制御、電子ビームを所望の形状と寸法に成形する成形制御、電子ビームを所望の位置にショットする位置制御が挙げられる。これらの偏向アンプが1つでも故障すると、意図しないパターンが描画されることになり、歩留まりの低下や装置のダウンタイムなどを招く。
【0006】
偏向アンプの評価は、実際の描画結果から確認するのが最も確実である。しかし、この場合には、1回の評価に数時間から数十時間の描画時間がかかる上に、高価な評価用マスクを必要とする。そこで、各偏向アンプから対応する偏向器への出力信号をオシロスコープでモニタして偏向アンプを評価することが行われている。ここで、ビームショットは、高速且つ連続に出力されるので、このようなビームショットを制御する偏向アンプを評価するには、高精度の測定機器が必要になる。しかし、オシロスコープを用いた測定では、オシロスコープの入力回路が飽和して正確な波形を観測できない。また、この方法においても、オシロスコープの接続のために数時間程度の装置のダウンタイムが発生するという問題がある。
【0007】
上記問題に対しては、二つの制御回路に逆位相となる偏向データを入力し、これらの出力側を抵抗加算して、その中点にプローブなどの接続手段を接続し、ショットキーダイオードで特異信号をクリップした上で、オシロスコープにより測定する手法が開示されている(特許文献2参照。)。
【0008】
特許文献2によれば、偏向アンプのセトリング時間や、選択した2つの偏向アンプ間の出力タイミングのずれを評価することは可能である。しかしながら、出力電圧レベルについての詳細な検証はできず、また、モニタ用の経路を通して測定するために最終的に偏向器に出力される電圧の評価もできない。さらに、近年においては、偏向アンプの高速化やばらつきの低下に伴い、より高精度の測定が要求され、プローブなどを含む測定装置側のインダクタンスの影響が無視できなくなるという問題も発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−293670号公報
【特許文献2】特開2004−259812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、迅速に偏向アンプの故障の有無を判断できる偏向アンプの評価方法と、この機能を備えた荷電粒子ビーム描画装置とを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、可変成形型荷電粒子ビーム描画装置に用いられる偏向アンプの評価方法であって、第1の成形アパーチャを通過した荷電粒子ビームを偏向アンプにより偏向して、第2の成形アパーチャを通過する荷電粒子ビームの形状および寸法を制御する成形偏向器について2種類の動作パターンを設定する工程と、
第n番目にショットする荷電粒子ビームのオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする荷電粒子ビームのオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を変えながら、ブランキング偏向器により荷電粒子ビームのオン状態とオフ状態とをショット回数が所定値になるまで交互に繰り返すとともに、第1の成形アパーチャを通過した荷電粒子ビームに対し、2種類の動作パターンが交互に繰り返されるように成形偏向器を制御し、この成形偏向器によって偏向された荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
ビーム電流から積分電流を演算し、遅延時間と積分電流との関係を求める工程とを有することを特徴とする偏向アンプの評価方法に関する。
この評価方法は、さらに、遅延時間と積分電流との関係から偏向アンプの故障の有無を判定する工程を有することができる。
【0013】
本発明の第1の態様において、2種類の動作パターンは、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、
第1のアパーチャ像が第2の成形アパーチャで完全に遮蔽される位置に偏向する動作パターンであることが好ましい。
【0014】
本発明の第1の態様において、偏向アンプは、第1、第2、第3および第4の偏向アンプを有し、
第1の偏向アンプは第1の電極に接続し、
第2の偏向アンプは、第1の電極と対極に位置する第2の電極に接続し、
第3の偏向アンプは、第1の電極から90°ずれた位置にある第3の電極に接続し、
第4の偏向アンプは、第2の電極から90°ずれた位置にある第4の電極に接続し、
2種類の動作パターンは、第1の偏向アンプから第1の電極に電圧を印加するとともに、第2の偏向アンプから第2の電極に電圧を印加して、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第1の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、
第1の電極と第2の電極に印加する電圧を変えて、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第2の所定位置で重なるように偏向する動作パターンであり、
さらに、第3の偏向アンプから第3の電極に電圧を印加するとともに、第4の偏向アンプから第4の電極に電圧を印加して、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第3の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、
第3の電極と第4の電極に印加する電圧を変えて、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第4の所定位置で重なるように偏向する動作パターンとを有し、
第1の所定位置と第2の所定位置に偏向する動作パターンが交互に繰り返されるように成形偏向器を制御し、この成形偏向器によって偏向された荷電粒子ビームの第1のビーム電流を測定する工程と、
第1のビーム電流から積分電流を演算し、遅延時間と積分電流との第1の関係を求める工程と、
第3の所定位置と第4の所定位置に偏向する動作パターンが交互に繰り返されるように成形偏向器を制御し、この成形偏向器によって偏向された荷電粒子ビームの第2のビーム電流を測定する工程と、
第2のビーム電流から積分電流を演算し、遅延時間と積分電流との第2の関係を求める工程とを有することが好ましい。
この評価方法は、さらに、第1と第2の関係から偏向アンプの故障の有無を判定する工程を有することができる。
【0015】
本発明の第2の態様は、可変成形型荷電粒子ビーム描画装置に用いられる偏向アンプの評価方法であって、
荷電粒子ビームを偏向アンプにより偏向して、試料面上における荷電粒子ビームの位置を制御する副偏向器について2種類の動作パターンを設定する工程と、
第n番目にショットする荷電粒子ビームのオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする荷電粒子ビームのオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を変えながら、ブランキング偏向器により荷電粒子ビームのオン状態とオフ状態とをショット回数が所定値になるまで交互に繰り返すとともに、荷電粒子ビームに対して2種類の動作パターンが交互に繰り返されるように副偏向器を制御し、この副偏向器によって偏向された荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
前記ビーム電流から積分電流を演算し、前記遅延時間と前記積分電流との関係を求める工程とを有することを特徴とする偏向アンプの評価方法に関する。
本発明の第2の態様において、2種類の動作パターンは、ビーム電流を測定する測定器の中心からはずれた位置に電子ビームが照射されるように偏向する動作パターンと、測定器の中心位置に電子ビームが照射されるように偏向する動作パターンであることが好ましい。
【0016】
本発明の第3の態様は、荷電粒子ビーム照射のオン状態とオフ状態を制御するブランキング偏向器と、
第1の成形アパーチャを通過した荷電粒子ビームを第1の偏向アンプにより偏向して、第2の成形アパーチャを通過する荷電粒子ビームの形状および寸法を制御する成形偏向器と、
荷電粒子ビームを第2の偏向アンプにより偏向して、試料面上における荷電粒子ビームの位置を制御する副偏向器と、
第n番目にショットする荷電粒子ビームのオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする荷電粒子ビームのオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を設定する設定部と、
ブランキング偏向器によりショット回数が所定値になるまで荷電粒子ビームのオン状態とオフ状態とを交互に繰り返す間、成形偏向器または副偏向器により2種類の動作パターンが交互に繰り返されて偏向された荷電粒子ビームのビーム電流を測定する測定部と、
ビーム電流から積分電流を演算し、遅延時間と積分電流との関係を求める演算部と、
この関係から、第1の偏向アンプおよび第2の偏向アンプの少なくとも一方の故障の有無を判定する判定部とを有することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、迅速に偏向アンプの故障の有無を判断できる偏向アンプの評価方法と、この機能を備えた荷電粒子ビーム描画装置とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態による電子ビーム描画装置の構成図である。
【図2】第1の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。
【図3】第2の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。
【図4】(a)〜(c)は、偏向器間でタイミングが合っている例である。
【図5】(a)〜(c)は、偏向器間でタイミングが合っていない例である。
【図6】偏向器間でのタイミングは合っているが望ましくない例である。
【図7】(a)〜(c)は、ブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングが合っている例である。
【図8】(a)〜(c)は、ブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングが合っていない例である。
【図9】評価用時間と積分電流との相関関係の一例を示すグラフである。
【図10】(a)および(b)は、ブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングが合っている例である。
【図11】(a)および(b)は、ブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングが合っていない例である。
【図12】遅延時間と積分電流との相関関係を2つの偏向アンプで比較した例である。
【図13】8極の静電偏向器からなる成形偏向器と、各電極にアナログデータを印加するDACアンプユニットを示す図である。
【図14】図2の開口部を通過した第1の成形アパーチャ像と、第2の成形アパーチャの開口部との重なり位置の一例を示す図である。
【図15】遅延時間と積分電流との相関関係を2つの動作パターンで比較した例である。
【図16】ショット毎に電子ビームを照射する場合のブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングが合っている例である。
【図17】図16より遅延時間を長くした例である。
【図18】2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する場合のブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングが合っていない例である。
【図19】図18より遅延時間を長くした例である。
【図20】遅延時間と積分電流との相関関係を、1ショット毎に電子ビームを照射する場合と、2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する場合とで比較した例である。
【図21】2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する動作パターンについて、遅延時間と積分電流との相関関係を2つの偏向アンプで比較した例である。
【図22】2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する動作パターンについて、遅延時間と積分電流との相関関係を2つの偏向アンプで比較した他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本実施の形態における描画装置の構成を示す概念図である。
【0020】
図1において、描画装置100は、可変成形型の描画装置の一例であり、描画部150と制御部160を備えている。
【0021】
描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、成形偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208および副偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象となるマスク等の試料が描画時に配置されることになるが、ここでは図示を省略している。XYステージ105上には、試料が配置される位置とは異なる位置にファラデーカップ216が配置される。ファラデーカップ216は、電子ビーム200のビーム電流を測定する測定部である。
【0022】
ブランキング偏向器212は、例えば、2極または4極等の複数の電極によって構成される。成形偏向器205、主偏向器208および副偏向器209は、例えば、4極または8極等の複数の電極によって構成される。ここでは、偏向器毎に1つのDACアンプユニットしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプユニットが接続される。
【0023】
制御部160は、制御計算機110、偏向制御回路120、DAC(デジタル・アナログコンバータ)アンプユニット132,134,136(偏向アンプ)、検出器140、メモリ142、磁気ディスク装置等の記憶装置144および外部と接続するための外部インターフェース(I/F)回路146を有している。
【0024】
制御計算機110、偏向制御回路120、検出器140、メモリ142、記憶装置144および外部I/F回路146は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御回路120、DACアンプユニット132,134,136は、図示しないバスを介して互いに接続されている。DACアンプユニット132は、ブランキング偏向器212に接続される。また、DACアンプユニット134は、成形偏向器205に接続される。また、DACアンプユニット136は、副偏向器209に接続される。偏向制御回路120から各DACアンプユニットに対して、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。そして、各DACアンプユニットでは、それぞれのデジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させて偏向電圧として、接続された偏向器に出力される。このようにして、各偏向器には、接続されるDACアンプユニットから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。そして、検出器140は、ファラデーカップ216に接続される。尚、検出器140は、半導体検出器(SSD(Solid State Detector)とも言う。)に接続されてもよい。
【0025】
また、制御計算機110内には、データ処理部112、設定部114、演算部116、および判定部118といった各機能が配置される。データ処理部112、設定部114、演算部116および判定部118といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されてもよいし、ハードウェアで構成されてもよい。または、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせで構成されてもよい。または、ファームウェアとハードウェアの組み合わせで構成されてもよい。データ処理部112、設定部114、演算部116および判定部118といった各機能が、ソフトウェア、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせ、または、ファームウェアとハードウェアの組み合わせで構成される場合、制御計算機110に入力される入力データまたは演算された結果は、その都度メモリ142に記憶される。
【0026】
尚、図1では、本実施の形態を説明する上で必要な構成を記載しているが、描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、図1では、主偏向器208に電圧を印加するDACアンプユニットや、各レンズを制御する制御回路等は省略されている。また、ここでは、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いるが、これに限るものではなく、1段の偏向器によって位置偏向を行なう構成であってもよい。
【0027】
図2は、第1の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。また、図3は、第2の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。図2において、第1の成形アパーチャ203には、矩形、例えば正方形または長方形の開口部10が形成されている。図3において、第2の成形アパーチャ206には、長方形の1辺と6角形の1辺とを無くしてつなげた成形開口20が形成されている。成形開口20は、例えば、45度の整数倍の角度を頂点とした図形に形成されている。
【0028】
描画装置100は、次のように動作して描画する。
【0029】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームオンの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームオフの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮蔽されるように偏向される。ビームオフの状態からビームオンとなり、その後ビームオフになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。かかるビームオンの状態とビームオフの状態とを交互に生成する偏向電圧(第1の偏向電圧)は、DACアンプユニット132(第1のアンプユニット)から出力される。そして、ブランキング偏向器212は、DACアンプユニット132から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームオンの状態とビームオフの状態とを交互に生成する。例えば、ビームオンの状態では電圧を印加せず、ビームオフの際にブランキング偏向器212に電圧を印加すればよい。
【0030】
以上のようにして、ブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形、例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形、例えば長方形に成形する。第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。一方、DACアンプユニット134(第2のアンプユニットの一例)からは、第1の成形アパーチャ203を通過した電子ビーム200の向きを制御するための偏向電圧(第2の偏向電圧の一例)が出力される。この偏向電圧は成形偏向器205に印加され、これによって、第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像が偏向制御されてそのビーム形状と寸法を変化させる。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせられ、主偏向器208および副偏向器209によって偏向されて、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料の所望する位置に照射される。このとき、DACアンプユニット136(第2のアンプユニットの他の一例)から第2の成形アパーチャ206を通過した電子ビーム200の照射位置を制御するための偏向電圧(第2の偏向電圧の他の一例)が出力される。DACアンプユニット136から出力された偏向電圧が副偏向器209に印加されることで、試料の所望する位置に電子ビームが照射される。
【0031】
電子ビームによって試料に描画を行う場合、試料の描画領域は、主偏向器208で偏向可能な幅で短冊状に仮想分割される。そして、分割された短冊状の各領域が単位描画領域となる。しかし、各ショットのビームサイズはかかる単位描画領域に比べてはるかに小さいため、さらに、主偏向器208で偏向可能なサイズよりもはるかに小さい副偏向器209で偏向可能なサイズの複数の小領域(サブフィールド)に仮想分割される。そして、サブフィールド毎に照射が行なわれる。言い換えれば、主偏向器208で1つのサブフィールドの基準位置に照射位置が合うように偏向され、副偏向器209でかかるサブフィールド内の所望する位置にビームが照射されるように偏向する。描画の際はXYステージ105が移動するため、主偏向器208はXYステージ105の移動に追従しながらサブフィールドの基準位置にビームを偏向すればよい。
【0032】
以上述べたように、描画装置100では、ショットの生成のためのブランキング制御と、ビーム成形制御と、照射位置制御とを異なる偏向器で行なっているため、これら複数の偏向器間のタイミング調整が必要になる。以下では、まず、複数の偏向器間のタイミングが合っている場合とずれている場合について説明する。
【0033】
図4(a)〜(c)は、偏向器間でタイミングが合っている一例である。
【0034】
図1において、DACアンプユニット134および136には、DACアンプユニット132から各ショットを制御するためのタイミング信号となるDACSET信号が出力される。図4(a)でn番目のショットのためのDACSET信号は、(n−1)番目のショットのビームオンの電圧からビームオフの電圧に切り替わる前に、DACアンプユニット132から発せられる。そして、(n−1)番目のショットがビームオフの電圧に切り替わったら、n番目のショットのためのセトリングを開始し、セトリング時間Ts後にn番目のショットのため、ビームオフの電圧からビームオンの電圧に切り替わる。ここで、(n−1)番目のショットがビームオフの電圧に切り替わる時点Aよりどれくらい早い時点で、n番目のショットのためのDACSET信号をDACアンプユニット134,136に出力するかは、任意に設定可能である。言い換えれば、第n番目のビームオンの状態を生成するためのブランキング用DACSET信号を受けてから第(n−1)番目のビームオンの電圧から位置Aで示すビームオフの電圧に切り替わるまでの遅延時間t1(第1の遅延時間)(DACディレイタイムとも言う。)は任意に設定することができる。
【0035】
また、n番目のショットのための成形用DACSET信号は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発したときから時間t2だけ遅れて、DACアンプユニット134に入力される。時間t2は、ケーブルの引き回し方や配置位置といった装置のハードウェア構成などから避けられないタイムラグとなる。そして、DACアンプユニット134は、n番目の成形用DACSET信号を受けてから所定の遅延時間後に、第(n−1)番目のショットのビーム成形用の電圧から第n番目のショットのビーム成形用の電圧に向けて、偏向電圧(第2の偏向電圧の一例)の電圧変化を開始する。言い換えれば、DACアンプユニット134は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発したときから遅延時間(t3)(第2の遅延時間の一例)後に、第(n−1)番目のビームオンの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧から第n番目のビームオンの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧に向けて、成形用の偏向電圧の電圧変化を開始する。そして、第n番目のショットのビーム成形用の電圧に到達した後に、第n番目のショットのビームオンの状態になれば、所望のビーム成形を行なうことができる。
【0036】
同様に、n番目のショットのための照射位置用DACSET信号は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発したときから時間T2だけ遅れて、DACアンプユニット136に入力される。時間T2も、ケーブルの引き回し方や配置位置といった装置のハードウェア構成等から避けられないタイムラグとなる。そして、DACアンプユニット136は、n番目の照射位置用DACSET信号を受けてから所定の遅延時間後に、第(n−1)番目のショットの照射位置用の電圧から第n番目のショットの照射位置用の電圧に向けて、偏向電圧(第2の偏向電圧の他の一例)の電圧変化を開始する。言い換えれば、DACアンプユニット136は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発したときから遅延時間(T3)(第2の遅延時間の他の一例)後に、第(n−1)番目のビームオンの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧から第n番目のビームオンの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧に向けて、照射位置用の偏向電圧の電圧変化を開始する。そして、第n番目のショットの照射位置用の電圧に到達した後に、第n番目のショットのビームオンの状態になれば、所望の照射位置にビームを照射することができる。
【0037】
例えば、図4(a)において、ビームオフの状態の間に、ビーム成形用の電圧変化の開始点Pから到達点Qまでの電圧変化が終了すれば、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像30は、図4(b)に示すように、第2の成形アパーチャ206の成形開口20と一部が重なる所望の位置に偏向位置が制御された状態で、ビームオンの状態を迎えることができる。その結果、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過するので、試料面上で一定の照射量を得ることができ、図4(c)に示す所望の寸法のショットパターン32が描画される。図4(a)では、第(n−1)番目のショットのビームオンの状態からオフになった後に、第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するので、第(n−1)番目のショットのビームオンの状態では、まだ第(n−1)番目のショットのビーム成形用に到達済みの一定電圧のままである。よって、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過でき、所望の寸法のショットパターン32が描画される。
【0038】
ここで、第(n−1)番目のショットと第n番目のショットの間のビームオフの状態となるセトリング時間Tsはできるだけ短い方が複数のショットで描画する場合の描画時間を短縮できるので好適である。しかし、ビーム成形用の電圧変化の到達点Qになる前に第n番目のショットのビームオンの状態になってしまうと、成形偏向器205の電圧変化中に第1の成形アパーチャ203を電子ビーム200が通過してしまうので、第n番目のショットについて安定した照射量を得ることができない。そのため、セトリング時間Tsは、到達点Qになった後に第n番目のショットのビームオンの状態になるように設定する必要がある。逆に、まだ第(n−1)番目のショットのビームオンの状態の最中に、ビーム成形用の電圧変化の開始点Pがくるように設定してしまうと、後述するように、ビーム成形中に成形偏向器205の電圧が変化してしまうので、第(n−1)番目のショットについて安定した照射量を得ることができない。よって、時間Tsをできるだけ短くするためには、第(n−1)番目のショットのビームオンの状態が、ビームオフになった時点Aまたはその直後に、第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整することがより好適となる。かかる調整は、遅延時間(t3)が固定値(一定値)なので、遅延時間t1の調整によって達成される。
【0039】
図5(a)〜(c)は、偏向器間でタイミングが合っていない一例であり、遅延時間t1が長すぎる場合を示している。
【0040】
図5(a)に示すように、この例では遅延時間t1が長すぎることにより、まだ第(n−1)番目のショットのビームオンの状態であるにもかかわらず、ビーム成形用の電圧変化の開始点Pが来てしまう。その結果、第(n−1)番目のショットでのビーム成形中に電圧変化が生じ、第1のアパーチャ像40と成形開口20との重なり位置がずれてしまう。すなわち、例えば、図5(b)に示すように、偏向位置が第1のアパーチャ像40a〜40dのように移動してしまう。その結果、図5(c)に示すように、成形開口20を通過した電子ビームのショットパターンも、ショットパターン42a〜42dのように変化してしまう。そのため、所望する照射量が得られず、ショットパターンの寸法に誤差が生じる。
【0041】
図6は、偏向器間でのタイミングは合っているが望ましくない一例であり、遅延時間t1が短すぎる場合を示している。
【0042】
図6の例では、遅延時間t1が短すぎるため、第(n−1)番目のショットがビームオフになった時点Aからかなり遅れて、第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置してしまう。上述したように、セトリング時間Tsは、到達点Qになった後に、第n番目のショットのビームオンの状態になるように設定する必要があるので、これではセトリング時間Tsが必要以上に長くなってしまう。
【0043】
描画装置100では、偏向器間のタイミングを合わせながら、さらにセトリング時間Tsができるだけ短くなるように調整することが好ましい。すなわち、第(n−1)番目のショットのビームオン状態がビームオフになった時点A、または、その直後に、第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整する。
【0044】
次に、図1、図7および図8を用いて、ブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明する。
【0045】
図7(a)〜(c)は、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングが最適値ではないが一応合っている例を示している。ここでは、動作パターンとして、図7(b)に示すように、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向されるようにする。また、図7(c)に示すように、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮蔽される位置に偏向されるようにする。偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置とは、逆であってもよい。ここでは、偶数回数番目のショットでは、四角形のショット形状を形成し、そして、奇数回数番目のショットでは、ビーム遮断される例を示している。ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向されるような動作パターンとする。
【0046】
まず、上記動作パターンのデータを外部I/F回路146を介して記憶装置144に入力する。尚、図示しないキーボードやマウス等の入力手段から制御計算機110に入力してもよい。また、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置にXYステージ105を移動させておく。また、第2の成形アパーチャ206を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216に入射できるように、主偏向器208および副偏向器209の偏向量を調整しておく。
【0047】
図1において、データ処理部112は、記憶装置144から動作パターンのデータを読み出し、描画装置100で使用可能なフォーマットのショットデータを生成する。
【0048】
次に、設定部114は、遅延時間t1の代わりとなる複数の評価用時間を設定する。また、所定のセトリング時間Tsも設定しておく。
【0049】
続いて、電子銃201から放出された電子ビーム200に対し、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212により、ビームオンの状態とビームオフの状態とを所定の回数交互に繰り返す。また、この間、成形偏向器205によって、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200の向きを制御する。すなわち、第2n番目のビームオン状態で生成されたショットのビームは、成形偏向器205により四角形のショット形状を形成する位置に偏向され、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットのビームは、第2の成形アパーチャ206の遮蔽部でビーム遮断される。かかる動作を、設定された評価用時間毎に、ショット回数がそれぞれN回になるまで繰り返す。
【0050】
図7(a)に示すように、この例では、成形用の偏向電圧の電圧変化となる開始位置P(P’)から到達位置Q(Q’)までがビームオフの状態中に収まっているので、第2の成形アパーチャ206の成形開口20と一部が重なる所望の位置に偏向位置が制御された状態で、ビームオンの状態を迎えることができる。その結果、例えば、第2n番目のビームオン状態で生成されたショットでは、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過するのでファラデーカップ216には一定の照射量で入射する。これは、所望の寸法のショットパターン32が描画されたのと同じである。一方、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットでは、完全に電子ビーム200が遮蔽され、ファラデーカップ216にはビームが到達しないので、照射量は0(ゼロ)となる。これは、照射位置に何もショットされないのと同じである。
【0051】
図8(a)〜(c)は、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングが合っていない例を示している。
【0052】
図8(a)に示すように、この例では、成形用の偏向電圧の電圧変化の途中から到達位置Q(Q’)までが、ビームオンの状態中に位置してしまっているので、図8(b)に示すように、第2の成形アパーチャ206の成形開口20と一部が重なる所望の位置へと偏向位置が移動中の状態で、ビームオンの状態を迎えることになる。その結果、例えば、第2n番目のビームオン状態で生成されたショットでは、不安定な電子ビーム200が成形開口20を通過するので、ファラデーカップ216には図7の例とは異なる照射量で入射する。これは、誤差が生じた寸法のショットパターン42が描画されたのと同じである。一方、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットでは、図8(c)に示すように、完全に電子ビーム200が遮蔽され、ファラデーカップ216にはビームが到達しないので、照射量は0となる。あるいは、偏向位置が移動中なので、若干の漏れビームがファラデーカップ216に到達することもあり得る。照射量が0(ゼロ)であれば、照射位置に何もショットされないのと同じである。
【0053】
以上のようにして、評価用時間を可変にしながら、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212(またはDACアンプユニット132)によりビームオンの状態とビームオフの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、順に2つの偏向位置に交互に偏向されるように成形偏向器205(またはDACアンプユニット134)を制御する。
【0054】
そして、設定された評価用時間毎に、成形偏向器205によって向きが制御された電子ビーム200のビーム電流を測定する。具体的には、ファラデーカップ216で成形開口20を通過したショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0055】
演算部116は、設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。各ショットの時間は、ナノ秒といった単位の非常に短時間であるので、1回のショットの電流値では検出が困難である。そのため、N回のショットの電流値の積分を行なうことで検出可能な電流値を得ることができる。ショット回数Nは、例えば、測定機器の検出下限以上のビーム照射が得られる回数であればよい。例えば、20ms以上であればよい。検出誤差を小さくする点から、より好ましくは数秒から十数秒である。この場合、1つの評価用時間の積分電流を得るまで、数秒から十数秒で済ますことができるので、複数の評価用時間の数を例えば百種類としても、数百秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。
【0056】
上記のようにして得られた複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係は、記憶装置144に格納される。
【0057】
上述した例では、成形偏向器205で偏向される2箇所の偏向位置の一方が、完全に遮蔽される位置となっているが、これに限るものではない。例えば、他のショット図形の形状になる位置でも構わない。例えば、四角形と三角形とを交互に成形するように繰り返してもよい。すなわち、成形開口20を通過する電子ビームの照射量が異なる2つの位置間に交互に偏向されればよい。
【0058】
図9は、複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係の一例を示すグラフである。横軸は遅延時間t1(評価用時間)、縦軸は積分電流値である。図9の例は、成形開口20を通過する電子ビームの照射量が異なる2つの位置で測定された場合を示している。
【0059】
ビームオンの状態になった時点で、既に成形用の偏向電圧が一定値に到達するような遅延時間t1(評価用時間)に設定されていれば、図9で積分電流値は同じ値になる。逆に、ビームオンの状態で、成形用の偏向電圧が電圧変化の途中となる遅延時間t1(評価用時間)に設定されていれば、図9で積分電流値は異なる値となる。このことは、積分電流値が同じ値で一定となっている遅延時間t1(評価用時間)の範囲内では、ビームオンの状態になった時点で成形用の偏向電圧が一定値に到達していることを示す。つまり、設定されたセトリング時間Tsにおいて、ブランキング偏向器212と成形偏向器205のタイミングが合っている状態、すなわち、図4で示した状態になる。逆に、積分電流値が一定の状態から変化を開始した後の傾きが生じている遅延時間t1(評価用時間)の範囲内では、ブランキング偏向器212と成形偏向器205のタイミングが合っていない状態、すなわち、図5で示した状態になる。
【0060】
尚、図9では、遅延時間t1を長くしていくと、積分電流が一定の状態から変化した後に再び一定に戻っている。これは、遅延時間t1を長くしすぎて、例えば、(n−1)番目のショット時にn番目のショット用の成形偏向電圧になっていることを示している。
【0061】
設定部114は、記憶装置144から相関関係を読み出し、積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間Rよりも短くなるように、遅延時間t1を選択する。これにより、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内で選択できる。その結果、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングを合わせることができる。このとき、セトリング時間Tsをより短くするため、設定部114は、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内のうち、変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を選択することが好ましい。変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を選択することで、図4に示した第(n−1)番目のショットのビームオンの状態がビームオフになった時点A、または、その直後に、第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整できる。
【0062】
以上のようにして選択された時間を遅延時間t1として設定する。これにより、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミング合わせを行なうことができる。さらに、変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を設定することで、よりセトリング時間Tsを短くして描画時間を短縮することができる。セトリング時間Tsは、到達点Qになった後に第n番目のショットのビームオンの状態になるできるだけ短い時間に設定する。
【0063】
図7および図8では、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミング合わせを行なう場合を示した。次に、照射位置用の偏向器、特に、副偏向器209とブランキング偏向器212間のタイミング合わせを行なう場合について説明する。
【0064】
副偏向器209とブランキング偏向器212間のタイミング調整方法は、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミング合わせを行なう場合において、成形偏向を照射位置偏向に置き換える以外は同様である。
【0065】
図10および図11を用いて、ブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明する。
【0066】
図10(a)および(b)の例では、ブランキング偏向器212と副偏向器209間のタイミングが合っている例を示している。ここでは、動作パターンとして、図10(b)に示すように、例えば、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216の中心から若干はずれた位置に照射されるように偏向位置を設定する。但し、照射された電子ビーム200の一部がファラデーカップ216で検出可能な位置とする。一方、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216の中心位置に照射されるように偏向位置を設定する。偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置とは逆であってもよい。ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向されるような動作パターンとする。
【0067】
まず、上記動作パターンのデータを、外部I/F回路146を介して記憶装置144に入力する。または、図示しないキーボードやマウス等の入力手段から制御計算機110に入力してもよい。また、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームが、ファラデーカップ216に入射できる位置にXYステージ105を移動させておく。また、主偏向器208についても、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射する位置、例えば、ファラデーカップ216の中心に偏向されるような偏向量に設定しておく。さらに、第1のアパーチャ像が第2の成形アパーチャ206を通過できるように、成形偏向器205の偏向量を調整しておく。より好ましくは、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像全体が第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過できるように、成形偏向器205の偏向量を調整しておく。これにより、成形偏向器205の偏向タイミングずれの影響を排除できる。
【0068】
データ処理部112は、記憶装置144から動作パターンのデータを読み出し、描画装置で使用可能なフォーマットのショットデータを生成する。
【0069】
設定部114は、遅延時間t1の代わりとなる複数の評価用時間を設定する。また、所定のセトリング時間Tsも設定しておく。
【0070】
電子銃201から放出された電子ビーム200に対し、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212により、ビームオンの状態とビームオフの状態とを所定の回数交互に繰り返す。そして、この間中、副偏向器209により、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200の向きを制御する。具体的には、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットのビームは、副偏向器209によりファラデーカップ216の中心から若干はずれた位置に偏向され、第2n番目のビームオン状態で生成されたショットのビームは、副偏向器209によりファラデーカップ216の中心位置に偏向される。かかる動作を、設定された評価用時間毎に、ショット回数がそれぞれN回になるまで繰り返す。
【0071】
図10(a)に示すように、この例では、照射位置用の偏向電圧の電圧変化となる開始位置Pから到達位置Qまでがビームオフの状態中に収まっているので、所望の位置に偏向位置が制御された状態でビームオンの状態を迎えることができる。その結果、例えば、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットでは、ショットされたビームの一部の照射量が一定量入射する。一方、第2n番目のビームオン状態で生成されたショットでは、ショットされたビームの全照射量が入射する。
【0072】
一方、図11(a)および(b)は、ブランキング偏向器212と副偏向器209間のタイミングが合っていない場合を示している。この例では、図11(a)に示すように、照射位置用の偏向電圧の電圧変化の開始位置Pがビームオンの状態中に位置してしまっている。このため、図11(b)に示すように、ファラデーカップ216の中心からはずれた所定の位置からファラデーカップ216の中心へと偏向位置が移動中の状態でビームオンの状態を迎えることになる。その結果、例えば、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットでは、ファラデーカップ216に入射される照射量が図10の例とは異なる量で入射する。具体的には、図11の例では、図10の場合より照射量が増えることになる。
【0073】
上記したように、評価用時間を可変にしながら、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212(またはDACアンプユニット132)によりビームオンの状態とビームオフの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。また、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、順に2つの偏向位置に交互に偏向されるように副偏向器209(またはDACアンプユニット136)を制御する。そして、設定された評価用時間毎に、副偏向器209により向きが制御された電子ビーム200のビーム電流を測定する。すなわち、ファラデーカップ216で各ショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0074】
演算部116は、成形偏向器205のタイミング調整の場合と同様、設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。ショット回数Nは、成形偏向器205のタイミング調整の場合と同様でよい。よって、複数の評価用時間の数を例えば百種類としても、数百秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。
【0075】
得られた複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係は、記憶装置144に格納される。設定部114は、記憶装置144から相関関係を読み出し、積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間Rよりも短くなるように遅延時間t1を選択する。これにより、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内で選択できる。その結果、ブランキング偏向器212と副偏向器209間のタイミングを合わせることができる。このとき、セトリング時間Tsをより短くするため、設定部114は、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内のうち、変化開始時間(図9の例ではRで示す位置)により近くなるように遅延時間t1を選択することが好ましい。変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を選択することで、図4に示した成形偏向の場合と同様、第(n−1)番目のショットのビームオンの状態がビームオフになった時点A、または、その直後に、第n番目のショットの照射位置用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整できる。
【0076】
上記で選択された時間を遅延時間t1として設定することで、ブランキング偏向器212と照射位置用の副偏向器209間のタイミング合わせを行なうことができる。さらに、変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を設定することで、よりセトリング時間Tsを短くして描画時間を短縮することができる。
【0077】
以上は、偏向器間のタイミングを調整する方法の一例である。このように、この方法は、ブランキングアンプと他のアンプとの同期の調整に用いられる。本実施の形態では、この方法を偏向アンプの故障評価に利用することとし、以下でその評価方法について説明する。
【0078】
偏向アンプにおいて、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係は、前述した図9のようになる。すなわち、ビームオンの状態になった時点で、既に成形用の偏向電圧が一定値に到達するような遅延時間t1(評価用時間)に設定されていれば、積分電流値は同じ値になる。逆に、ビームオンの状態で、成形用の偏向電圧が電圧変化の途中となる遅延時間t1(評価用時間)に設定されていれば、積分電流値は異なる値になる。つまり、図9で、積分電流値が一定の状態から変化を開始した後の傾きが生じている遅延時間t1(評価用時間)の範囲内は、ブランキング偏向器と、成形偏向器または副偏向器とのタイミングが合っていない状態である。
【0079】
本実施の形態では、図9に示すようなグラフから偏向アンプの故障の有無を判断する。
【0080】
図12は、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係を、2つの偏向アンプ(1)と(2)で比較した例である。この図から分かるように、これらの偏向アンプの間には、積分電流値が一定の状態から変化を開始した後の傾きの程度に違いが見られる。
【0081】
より詳しくは、偏向アンプ(2)では、積分電流値が変化を続けている時間が偏向アンプ(1)より長くなっている。ここで、偏向アンプ(1)は、故障のない正常なアンプとする。積分電流値の変化開始時間が正常な偏向アンプより遅くなる原因としては、偏向アンプのセトリング時間が長くなっていることが挙げられる。つまり、偏向アンプ(2)に故障が起きていることが疑われる。尚、積分電流値の変化開始時間が短くなる場合も生じ得る。この原因としては、ブランキングアンプの出力タイミングを制御する回路の異常が挙げられ、上記と同様、この場合にも偏向アンプ(2)の故障が疑われる。
【0082】
以上のことから、本実施の形態では、成形偏向器(または副偏向器)について2種類の動作パターンを設定し、遅延時間t1を変えながら電子ビームのビーム電流を測定する。得られた電流値について積分電流を演算し、遅延時間と各遅延時間に対応する積分電流との関係を求める。そして、正常な偏向アンプと比較して、測定対象となった偏向アンプに故障が生じているか否かを判断する。
【0083】
本実施の形態の偏向アンプの評価方法は、上記で説明した図1の描画装置100によって実施可能である。そこで、描画装置100を用いた偏向アンプの評価方法について述べる。尚、以下では、成形偏向アンプを例にとり説明するが、副偏向アンプについても同様である。
【0084】
例えば、成形偏向器について、2種類の動作パターンを設定する。例えば、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、図7(b)に示すように、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向する。また、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、図7(c)に示すように、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮蔽される位置に偏向されるようにする。この場合、偶数回数番目のショットでは四角形のショット形状となり、奇数回数番目のショットではビームが遮断される。そして、ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向する。
【0085】
尚、偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置は、上記と逆であってもよい。また、上記例では、成形偏向器205で偏向される2箇所の偏向位置の一方が、完全に遮蔽される位置となっているが、これに限るものではない。例えば、他のショット図形の形状になる位置でも構わない。例えば、四角形と三角形とを交互に成形するように繰り返してもよい。つまり、成形開口20を通過する電子ビームの照射量が異なる2つの位置間に交互に偏向されればよい。但し、積分電流値の差が明確となるような位置に偏向することが好ましい。
【0086】
次に、第n番目のビームオンの状態を生成するためのブランキング用DACSET信号を受けてから、第(n−1)番目のビームオンの電圧からビームオフの電圧に切り替わるまでの遅延時間t1を変えながら、所定の時間毎に、ブランキング偏向器212(またはDACアンプユニット132)によりビームオンの状態とビームオフの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、上記した2つの偏向位置に交互に偏向されるように成形偏向器205(またはDACアンプユニット134)を制御する。
【0087】
そして、設定した遅延時間毎に、成形偏向器205によって向きが制御された電子ビーム200のビーム電流を測定する。具体的には、ファラデーカップ216で成形開口20を通過したショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0088】
演算部116は、設定した遅延時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。各ショットの時間は、ナノ秒といった単位の非常に短時間であるので、1回のショットの電流値では検出が困難である。そのため、N回のショットの電流値の積分を行なうことで検出可能な電流値を得ることができる。ショット回数Nは、例えば、測定機器の検出下限以上のビーム照射が得られる回数であればよい。例えば、20ms以上であればよい。検出誤差を小さくする点から、より好ましくは数秒から十数秒である。この場合、1つの遅延時間の積分電流を得るまで、数秒から十数秒で済ますことができるので、複数の遅延時間の数を例えば百種類としても、数百秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。
【0089】
上記のようにして得られた複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係は、記憶装置144に格納される。尚、記憶装置144には、正常な偏向アンプについて上記と同様にして求めた相関関係も格納しておく。
【0090】
次に、判定部118において、記憶装置144に記憶された相関関係を参照し、正常な偏向アンプの相関関係と比較する。具体的には、積分電流値が一定の状態から変化を開始する時間や、変化を開始した後の傾きの程度について、両者に違いが見られるか否かを判定する。これらの内の少なくとも一方に所定の閾値以上のずれがある場合には、偏向アンプに故障が生じていると判断する。判定部118の結果は、記憶装置144に記憶されるとともに、外部I/F回路146を介して外部に出力される。または、図示しないモニタまたはプリンタ等に出力されてもよい。
【0091】
また、本実施の形態においては、所定の日毎または所定の週毎に上記と同様の測定を行い、例えば、最新の測定による相関関係と、1つ前の測定による相関関係とを比較する。具体的には、積分電流値が一定の状態から変化を開始する時間、または、変化を開始した後の傾きの程度について両者を比較し、その差を求める。そして、差が閾値より大きくなった場合に、故障が生じたと判定することもできる。
【0092】
次に、偏向アンプの評価方法の別の例について説明する。
【0093】
上述したように、成形偏向器、主偏向器および副偏向器は、例えば、4極または8極等の複数の電極によって構成される。各電極には、それぞれ少なくとも1つのDACアンプユニットが接続され、偏向制御回路は、各偏向器を制御するための複数のデジタルデータをDACアンプユニットに同期をとりながら送信する。デジタルデータは、各偏向器を構成する複数の電極への指示電圧信号(デジタル信号)である。各電極に対応して設けられた各DACアンプユニットは、偏向制御回路から受信したデジタルデータをDA変換し、DA変換後のアナログデータを増幅し、さらにその増幅されたアナログデータを対応する副偏向器の電極に送信する。
【0094】
図13は、8極の電極130a〜130hと、各電極にアナログデータを印加する8個のDACアンプユニット232を示す図である。8個の電極130a〜130hは、対向する4対の電極からなっており、それぞれ対応するDACアンプユニット232a〜232hからアナログ電圧が印加される。
【0095】
具体的には、電極130aには、DACアンプユニット232aから電圧「y」が印加され、電極130aの対極となる電極130eには、DACアンプユニット232eから電圧「−y」が印加される。また、電極130bには、DACアンプユニット232bから電圧「(x+y)/21/2」が印加され、電極130bの対極となる電極130fには、DACアンプユニット232fから電圧「(−x−y)/21/2」が印加される。また、電極130cには、DACアンプユニット232cから電圧「x」が印加され、電極130cの対極となる電極130gには、DACアンプユニット232gから電圧「−x」が印加される。さらに、電極130dには、DACアンプユニット232dから電圧「(x−y)/21/2」が印加され、電極130dの対極となる電極130hには、DACアンプユニット232hから電圧「(−x+y)/21/2」が印加される。
【0096】
偏向制御回路230から、成形偏向器130の各電極130a〜130h制御用のデジタルデータが、各DACアンプユニット232a〜232hに送信されると、各DACアンプユニット232a〜232hから、各電極130a〜130hに、アナログ電圧が印加される。
【0097】
尚、図13においては、4対(8個)の電極で構成された成形偏向器130を示しているが、この成形偏向器130を2対(4個)の電極で構成してもよい。また、副偏向器や主偏向器を2対(4個)の電極で構成してもよい。
【0098】
図14は、図2の開口部10を通過した第1の成形アパーチャ像50と、第2の成形アパーチャ206の成形開口20との重なり位置の一例を示す図である。
【0099】
図14において、電子ビーム200を偏向しない場合、第1の成形アパーチャ像50は、(0)で示す開口部20から外れた位置に照射される。一方、正方形または長方形に電子ビーム200を成形する場合には、図13のDACアンプユニット232aから電極130aに電圧「y」が印加され、第1の成形アパーチャ像50は、成形偏向器130によって偏向されて(1)で示す位置に照射され、成形開口20を通過する斜線部分が成形された像となる。
【0100】
図14において、左下に直角の角が位置する直角二等辺三角形に電子ビーム200を成形する場合、図13のDACアンプユニット232bから電極130bに電圧「(x+y)/21/2」が印加され、第1の成形アパーチャ像50は、成形偏向器130によって偏向されて(2)で示す位置に照射され、成形開口20を通過する斜線部分が成形された像となる。
【0101】
また、図14において、右下に直角の角が位置する直角二等辺三角形に電子ビーム200を成形する場合、図13のDACアンプユニット232hから電極130hに電圧「(−x+y)/21/2」が印加され、第1の成形アパーチャ像50は、成形偏向器130によって偏向されて(3)で示す位置に照射され、成形開口20を通過する斜線部分が成形された像となる。
【0102】
また、図14において、右上に直角の角が位置する直角二等辺三角形に電子ビーム200を成形する場合、図13のDACアンプユニット232fから電極130fに電圧「(−x−y)/21/2」が印加され、第1の成形アパーチャ像50は、成形偏向器130によって偏向されて(4)で示す位置に照射され、成形開口20を通過する斜線部分が成形された像となる。
【0103】
さらに、図14において、左上に直角の角が位置する直角二等辺三角形に電子ビーム200を成形する場合、図13のDACアンプユニット232dから電極130dに電圧「(x−y)/21/2」が印加され、第1の成形アパーチャ像50は、成形偏向器130によって偏向されて(5)で示す位置に照射され、成形開口20を通過する斜線部分が成形された像となる。
【0104】
図13の成形偏向器130について、8極の各静電偏向器に上記の電圧を加えた場合、電子ビームの位置変動は印加電圧に比例することから、位置Xと位置Yはそれぞれ下記式で表される。尚、下記式でαは偏向感度である。

【0105】
図13において、偏向アンプの故障により電極130cが0Vに固定されたとする。この場合の位置Xと位置Yは、それぞれ下記式のようになる。

【0106】
このように、偏向アンプが正常である場合の位置Xは4αxであるのに対し、電極130cが0Vに固定されると位置xは3αxとなる。つまり、所望とする偏向量の(3/4)程度しか電子ビームを偏向できなくなる。
【0107】
そこで、かかる場合の偏向アンプの評価方法について説明する。ここで、偏向アンプは、第1、第2、第3および第4の偏向アンプを有し、第1の偏向アンプは第1の電極に接続し、第2の偏向アンプは、第1の電極と対極に位置する第2の電極に接続し、第3の偏向アンプは、第1の電極から90°ずれた位置にある第3の電極に接続し、第4の偏向アンプは、第2の電極から90°ずれた位置にある第4の電極に接続しているとする。
【0108】
まず、偏向アンプの評価を行うために、前述と同様に、成形偏向器について2種類の動作パターン(動作パターン1)を設定する。ここで、2種類の動作パターンは、第1の偏向アンプから第1の電極に電圧を印加するとともに、第1の電極の対極となる第2の電極に第2の偏向アンプから電圧を印加して、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第1の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、第1の電極と第2の電極に印加する電圧を変えて、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第2の所定位置で重なるように偏向する動作パターンである。
【0109】
本実施の形態では、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、図14の(2)で示す位置に偏向し、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、図14の(4)で示す位置に偏向する。そして、ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向する。尚、偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置は、上記と逆であってもよい。
【0110】
次に、第n番目のビームオンの状態を生成するためのブランキング用DACSET信号を受けてから、第(n−1)番目のビームオンの電圧からビームオフの電圧に切り替わるまでの遅延時間t1を変えながら、所定の時間毎に、DACアンプユニット232bとDACアンプユニット232fにより、ビームオンの状態とビームオフの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、上記した2つの偏向位置に交互に偏向されるように、成形偏向器130を制御する。
【0111】
そして、設定した遅延時間毎に、上記した別の例と同様に、電子ビーム200のビーム電流(第1のビーム電流)を測定する。すなわち、図1のファラデーカップ216で成形開口20を通過したショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0112】
図1において、演算部116は、設定した遅延時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。各ショットの時間は、ナノ秒といった単位の非常に短時間であるので、1回のショットの電流値では検出が困難である。そのため、N回のショットの電流値の積分を行なうことで検出可能な電流値を得ることができる。ショット回数Nは、例えば、測定機器の検出下限以上のビーム照射が得られる回数であればよい。例えば、20ms以上であればよい。検出誤差を小さくする点から、より好ましくは数秒から十数秒である。この場合、1つの遅延時間の積分電流を得るまで、数秒から十数秒で済ますことができるので、複数の遅延時間の数を例えば百種類としても、数百秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。
【0113】
上記のようにして得られた複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係(第1の相関関係)は、記憶装置144に格納される。
【0114】
また、この例では、偏向アンプの評価を行うために、成形偏向器についてもう1組の動作パターン(動作パターン2)を設定する。すなわち、第3の偏向アンプから第3の電極に電圧を印加するとともに、第3の電極の対極となる第4の電極に第4の偏向アンプから電圧を印加して、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第3の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、第3の電極と第4の電極に印加する電圧を変えて、第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が第2の成形アパーチャの成形開口の第4の所定位置で重なるように偏向する動作パターンである。
【0115】
本実施の形態において、前述の1組の動作パターン(動作パターン1)は、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、図14の(2)で示す位置に偏向し、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、図14の(4)で示す位置に偏向するというものであった。さらに、もう1組の動作パターン(動作パターン2)として、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、図14の(3)で示す位置に偏向し、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、図14の(5)で示す位置に偏向するパターンを設定する。そして、ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向する。尚、偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置は、上記と逆であってもよい。
【0116】
そして、上記と同様に、第n番目のビームオンの状態を生成するためのブランキング用DACSET信号を受けてから、第(n−1)番目のビームオンの電圧からビームオフの電圧に切り替わるまでの遅延時間t1を変えながら、所定の時間毎に、DACアンプユニット232bとDACアンプユニット232fにより、ビームオンの状態とビームオフの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、上記した2つの偏向位置に交互に偏向されるように、成形偏向器130を制御する。
【0117】
次いで、設定した遅延時間毎に、図1のファラデーカップ216で成形開口20を通過したショットの電子ビーム200のビーム電流(第2のビーム電流)を測定する。ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。制御計算機110の演算部116は、設定した遅延時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。そして、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係(第2の相関関係)を求めて、結果を記憶装置144に格納する。
【0118】
次に、判定部118において、記憶装置144に記憶された2種類の動作パターンに対応する相関関係を比較する。
【0119】
図15は、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係を、2つの動作パターン1と2で比較した例である。この図から分かるように、これらの動作パターンの相関関係は一致している。これは、動作パターン1に関連する電極130bおよび電極130fと、動作パターン2に関連する電極130dおよび130hとが、互いに対称に配置されていることによる。つまり、正常な偏向アンプであれば相関関係は図15のように一致するはずである。しかし、いずれかの偏向アンプに故障が生じると相関関係は一致しなくなる。具体的には、故障が生じた偏向アンプにかかる相関関係において、積分電流値が一定の状態から変化を開始する時間や、変化を開始した後の傾きの程度に変化が生じることによって、正常な偏向アンプにかかる相関関係との間に違いが生じる。
【0120】
そこで、判定部118では、動作パターン1の相関関係と動作パターン1の相関関係とを比較し、両者に違いが見られるか否かを判定する。これらの間に所定の閾値以上のずれがある場合には、偏向アンプに故障が生じていると判断する。判定部118の結果は、記憶装置144に記憶されるとともに、外部I/F回路146を介して外部に出力される。または、図示しないモニタまたはプリンタ等に出力されてもよい。
【0121】
尚、記憶装置144に、予め正常な偏向アンプについて上記と同様にして求めた相関関係を格納しておき、所定の日毎または所定の週毎に測定を行って得られた相関関係(動作パターン1と2の各相関関係)を正常な偏向アンプの相関関係と比較してもよい。動作パターン1および2の内の少なくとも一方の相関関係と、リファレンスである正常な偏向アンプの相関関係との間に閾値以上のずれがある場合には、偏向アンプに故障が生じていると判断する。
【0122】
図12の例では、第2n番目(偶数回数番目)のショットは、図7(b)に示すように、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向し、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットは、図7(c)に示すように、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮蔽される位置に偏向した。この場合、偶数回数番目のショットでは四角形のショット形状となり、奇数回数番目のショットではビームが遮断される。そして、ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向する。
【0123】
上記例では、全てのショットについて電子ビームが照射されるようにしているが、本実施の形態では、例えば、2ショットに1ショットの間隔で電子ビームが照射されるようにしてもよい。図16〜図20を用いて詳しく説明する。
【0124】
図16および図17は、図12と同様にショット毎に電子ビームを照射する例であり、図17は、図16より遅延時間を長くしている。これらの例では、図7(b)に示すように、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向する動作パターンと、図7(c)に示すように、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮蔽される位置に偏向する動作パターンとを、ショット毎に繰り返している。
【0125】
尚、図16および図17の例では、図12と異なり、成形用の偏向電圧の電圧変化の途中から到達位置までが、ビームオンの状態中に位置してしまっている。しかし、図8(a)に示す例とは違い、電圧変化をしている部分が全てビームオンの状態に収まっているので、第2n番目のビームオン状態で生成されたショットでは、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過し、ファラデーカップ216に一定の照射量で入射する。また、第(2n−1)番目のビームオン状態で生成されたショットについても同様である。そして、図16と図17では同じ積分電流値を示す。
【0126】
図18および図19は、2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する例であり、図19は、図18より遅延時間を長くしている。これらの例でも、図7(b)に示すように、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向する動作パターンと、図7(c)に示すように、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮蔽される位置に偏向する動作パターンとを、ショット毎に繰り返している。
【0127】
図18および図19の例でも、成形用の偏向電圧の電圧変化の途中から到達位置までが、ビームオンの状態中に位置してしまっている。しかし、この場合は、図16および図17の例と違って、ファラデーカップ216に入射する電子ビームの照射量が図18と図19で異なる。すなわち、図19の積分電流値の方が図18の積分電流値より低い値を示す。
【0128】
図20は、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係を、1ショット毎に電子ビームを照射する場合と、2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する場合とで比較したものである。
【0129】
また、図21は、2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する動作パターンについて、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係を、2つの偏向アンプ(偏向アンプ(3)および(4))の間で比較した例である。この図から分かるように、これらの偏向アンプの間には、積分電流値が一定の状態から変化を開始した後の傾きの程度に違いが見られる。
【0130】
より詳しくは、偏向アンプ(4)では、積分電流値が変化を開始する時間は同じであるが、変化量が偏向アンプ(3)より緩やかになっている。ここで、偏向アンプ(3)は、故障のない正常なアンプとする。積分電流値の変化量が緩やかになる原因としては、偏向アンプのセトリング時間が長くなっていることが挙げられる。つまり、偏向アンプ(4)に故障が起きていることが疑われる。尚、積分電流値の変化開始時間が短くなったり、長くなったりする場合も生じ得る。この原因としては、ブランキングアンプの出力タイミングを制御する回路の異常が挙げられ、上記と同様、この場合にも偏向アンプ(4)の故障が疑われる。
【0131】
図22は、図13に示す8極の静電偏向器からなる成形偏向器において、偏向アンプの1つが故障した場合の例であり、2ショットに1ショットの間隔で電子ビームを照射する動作パターンについて、複数の遅延時間と各遅延時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係を表している。図22において、実線は、1極の出力電圧が小さくなってしまった偏向アンプに対応し、点線は正常な偏向アンプに対応する。このように、故障が起きている偏向アンプの上記相関関係は、正常な偏向アンプとは異なるものとなる。そこで、評価対象である偏向アンプと、正常な偏向アンプとの差をとり、この値が閾値より大きくなるか否かで故障の有無を判断することができる。
【0132】
尚、上記では、成形偏向アンプの評価方法について述べたが、副偏向アンプの評価方法についても同様である。具体的には、上記で説明した方法において、成形偏向を照射位置偏向に置き換えればよい。
【0133】
以上述べたように、成形偏向器(または副偏向器)について2種類の動作パターンを設定し、遅延時間t1を変えながら電子ビームのビーム電流を測定して積分電流を演算し、遅延時間と各遅延時間に対応する積分電流との関係を求めることで、測定対象となった偏向アンプに故障が生じているか否かを判断することができる。この場合、正常な偏向アンプと比較して故障の有無を判断してもよく、所定の日毎または所定の週毎に測定を行い、例えば、最新の測定による相関関係と、1つ前の測定による相関関係とを比較することで故障の有無を判断してもよい。ここで、故障の判断は、積分電流値が変化を開始した後の傾きの程度について両者を比較し、その差が閾値より大きくなるか否かで行うことができる。
【0134】
また、偏向アンプの評価を行うために、成形偏向器(または副偏向器)について1組の動作パターン(動作パターン1)を設定する。例えば、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、図14の(2)で示す位置に偏向し、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、図14の(4)で示す位置に偏向する。さらに、もう1組の動作パターン(動作パターン2)として、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、図14の(3)で示す位置に偏向し、第(2n−1)番目(奇数回数番目)のショットでは、図14の(5)で示す位置に偏向するパターンを設定する。そして、動作パターン1と2のそれぞれについて、ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向する。動作パターン1に関連する2つの電極と、動作パターン2に関連する2つの電極とは、互いに対称に配置されているので、正常な偏向アンプであれば動作パターン1と2の相関関係は一致する。したがって、相関関係を比較することで偏向アンプの故障の有無を判断することができる。尚、記憶装置に予め正常な偏向アンプについて求めた相関関係を格納しておき、所定の日毎または所定の週毎に測定を行って得られた相関関係(動作パターン1と2の各相関関係)を正常な偏向アンプの相関関係と比較してもよい。
【0135】
以上の評価方法と、この方法を実施可能な本実施の形態の電子ビーム描画装置によれば、迅速に偏向アンプの故障の有無を判断することができる。
【0136】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。例えば、上記では、装置構成や制御手法などで本発明の説明に直接必要しない部分については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0137】
例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置、偏向器間のタイミング調整方法、および偏向アンプの故障検出方法は、本発明の範囲に包含される。さらに、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0138】
10 開口部
20 成形開口
30,40,50 第1のアパーチャ像
32,42 ショットパターン
100 描画装置
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 データ処理部
114 設定部
116 演算部
118 判定部
120,230 偏向制御回路
130,205 成形偏向器
130a〜130h 電極
132,134,136,232a〜232h DACアンプユニット
140 検出器
142 メモリ
144 記憶装置
146 外部I/F回路
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 第1の成形アパーチャ
204 投影レンズ
206 第2の成形アパーチャ
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
212 ブランキング偏向器
214 ブランキングアパーチャ
216 ファラデーカップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変成形型荷電粒子ビーム描画装置に用いられる偏向アンプの評価方法であって、
第1の成形アパーチャを通過した荷電粒子ビームを偏向アンプにより偏向して、第2の成形アパーチャを通過する前記荷電粒子ビームの形状および寸法を制御する成形偏向器について2種類の動作パターンを設定する工程と、
第n番目にショットする前記荷電粒子ビームのオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする前記荷電粒子ビームのオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を変えながら、ブランキング偏向器により前記荷電粒子ビームのオン状態とオフ状態とをショット回数が所定値になるまで交互に繰り返すとともに、前記第1の成形アパーチャを通過した前記荷電粒子ビームに対し、前記2種類の動作パターンが交互に繰り返されるように前記成形偏向器を制御し、該成形偏向器によって偏向された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
前記ビーム電流から積分電流を演算し、前記遅延時間と前記積分電流との関係を求める工程とを有することを特徴とする偏向アンプの評価方法。
【請求項2】
前記2種類の動作パターンは、前記第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が前記第2の成形アパーチャの成形開口の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、
前記第1のアパーチャ像が前記第2の成形アパーチャで完全に遮蔽される位置に偏向する動作パターンであることを特徴とする請求項1に記載の偏向アンプの評価方法。
【請求項3】
前記偏向アンプは、第1、第2、第3および第4の偏向アンプを有し、
前記第1の偏向アンプは第1の電極に接続し、
前記第2の偏向アンプは、前記第1の電極と対極に位置する第2の電極に接続し、
前記第3の偏向アンプは、前記第1の電極から90°ずれた位置にある第3の電極に接続し、
前記第4の偏向アンプは、前記第2の電極から90°ずれた位置にある第4の電極に接続し、
前記2種類の動作パターンは、前記第1の偏向アンプから第1の電極に電圧を印加するとともに、前記第2の偏向アンプから前記第2の電極に電圧を印加して、前記第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が前記第2の成形アパーチャの成形開口の第1の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、
前記第1の電極と前記第2の電極に印加する電圧を変えて、前記第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が前記第2の成形アパーチャの成形開口の第2の所定位置で重なるように偏向する動作パターンであり、
さらに、前記第3の偏向アンプから前記第3の電極に電圧を印加するとともに、前記第4の偏向アンプから前記第4の電極に電圧を印加して、前記第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が前記第2の成形アパーチャの成形開口の第3の所定位置で重なるように偏向する動作パターンと、
前記第3の電極と前記第4の電極に印加する電圧を変えて、前記第1の成形アパーチャを通過した第1のアパーチャ像の一部が前記第2の成形アパーチャの成形開口の第4の所定位置で重なるように偏向する動作パターンとを有し、
前記第1の所定位置と前記第2の所定位置に偏向する動作パターンが交互に繰り返されるように前記成形偏向器を制御し、該成形偏向器によって偏向された前記荷電粒子ビームの第1のビーム電流を測定する工程と、
前記第1のビーム電流から積分電流を演算し、前記遅延時間と前記積分電流との第1の関係を求める工程と、
前記第3の所定位置と前記第4の所定位置に偏向する動作パターンが交互に繰り返されるように前記成形偏向器を制御し、該成形偏向器によって偏向された前記荷電粒子ビームの第2のビーム電流を測定する工程と、
前記第2のビーム電流から積分電流を演算し、前記遅延時間と前記積分電流との第2の関係を求める工程とを有することを特徴とする請求項1に記載の偏向アンプの評価方法。
【請求項4】
可変成形型荷電粒子ビーム描画装置に用いられる偏向アンプの評価方法であって、
荷電粒子ビームを偏向アンプにより偏向して、試料面上における前記荷電粒子ビームの位置を制御する副偏向器について2種類の動作パターンを設定する工程と、
第n番目にショットする前記荷電粒子ビームのオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする前記荷電粒子ビームのオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を変えながら、ブランキング偏向器により前記荷電粒子ビームのオン状態とオフ状態とをショット回数が所定値になるまで交互に繰り返すとともに、前記荷電粒子ビームに対して前記2種類の動作パターンが交互に繰り返されるように前記副偏向器を制御し、該副偏向器によって偏向された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
前記ビーム電流から積分電流を演算し、前記遅延時間と前記積分電流との関係を求める工程とを有することを特徴とする偏向アンプの評価方法。
【請求項5】
荷電粒子ビーム照射のオン状態とオフ状態を制御するブランキング偏向器と、
第1の成形アパーチャを通過した前記荷電粒子ビームを第1の偏向アンプにより偏向して、第2の成形アパーチャを通過する前記荷電粒子ビームの形状および寸法を制御する成形偏向器と、
前記荷電粒子ビームを第2の偏向アンプにより偏向して、試料面上における前記荷電粒子ビームの位置を制御する副偏向器と、
第n番目にショットする前記荷電粒子ビームのオン状態を生成する信号が発せられてから、第(n−1)番目にショットする前記荷電粒子ビームのオン状態の電圧からオフ状態の電圧に切り替わるまでの遅延時間を設定する設定部と、
前記ブランキング偏向器によりショット回数が所定値になるまで前記荷電粒子ビームのオン状態とオフ状態とを交互に繰り返す間、前記成形偏向器または前記副偏向器により2種類の動作パターンが交互に繰り返されて偏向された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する測定部と、
前記ビーム電流から積分電流を演算し、前記遅延時間と前記積分電流との関係を求める演算部と、
前記関係から、前記第1の偏向アンプおよび前記第2の偏向アンプの少なくとも一方の故障の有無を判定する判定部とを有することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−15336(P2012−15336A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150564(P2010−150564)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】