説明

偏向器およびその製造方法

【課題】 信頼性の高いブランキングアパーチャアレイを生産性良好に提供する。
【解決手段】 略同一形状の二対の電極に偏向用電圧を印加する配線が各電極に接続されている。配線の接続は、隣り合う電極に同一の配線が接続する。二つの電極へ接続された一つの配線のうち、いずれかの電極に不良が存在する場合に、いずれか一方の配線が補償回路となり、ブランキングアパーチャアレイの歩留まりが向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体集積回路等の露光に用いられる電子ビーム露光装置、イオンビーム露光装置等の荷電粒子線露光装置に関し、特に、複数の荷電粒子線を用いてパターン描画を行う荷電粒子線露光装置の偏向器およびその偏向器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の荷電粒子線を用いたマルチ荷電粒子線露光装置として、例えば、多数の開孔を有するブランキングアパーチャアレイを用いるものが知られている(例えば、特許文献1または非特許文献1参照)。この特許文献1では、ブランキングアパーチャアレイは、シリコンなどの半導体結晶を基板として、それに多数の開孔を所定間隔にて2次元的な配置で形成し、各開孔の両側面に一対のブランキング電極を形成してあり、ブランキング電極間に電圧を印加するか、しないかをパターンデータにより制御するようになっている。例えば、各開孔での一方の電極を接地し、他方の電極に電圧を印加すると、該開孔を通過する電子ビームは曲げられるので、下部に設置されたレンズを通過した後に単開孔アパーチャでカットされて電子ビームは試料面(半導体基板上のレジスト層)には届かない。一方、他方の電極に電圧を印加しないと、そこを通過する電子ビームは曲げられることはないので、下部に配置されたレンズを通過した後にアパーチャでカットされずに電子ビームが試料面に達する。
【0003】
特許文献2には、このブランキングアパーチャアレイの製造方法として、シリコンなどの半導体結晶の基板に複数の開孔を所定の間隔で2次元的に形成し、各開孔の周囲に偏向電極対を形成することにより製造する方法が知られている。具体的には、Si基板の表面に、ブランキングアパーチャアレイの電極に対応した凹部を形成し、各々の凹部に偏向電極をめっきにより形成した後、前記基板表面からめっき下地として用いた導電層を除去し、その後で電子ビームを通過させるためのアパーチャ開孔を前記Si基板にウェットエッチングなどで形成する。
【0004】
また他のブランキングアパーチャアレイ製造方法としては、Si基板にブランキングアパーチャの開孔を形成した後、スパッタリングや蒸着法により電極を形成する方法がある。
【特許文献1】実公昭56−19402号公報
【特許文献2】特開平7−2970107号公報
【非特許文献1】応用物理69、1135(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のブランキングアパーチャアレイは以下の課題を有している。
(1)作製方法が複雑である。そのため、アレイ数の増加を試みた場合、多数のブランキングアパーチャアレイを歩留まり良く作製することが困難である。特に、電極形成や電極と配線の接続部分において製造不良が発生しやすい。
(2)偏向電極の付近に例えばシリコン酸化膜等の絶縁体が広範囲に露出している。そのため、荷電粒子線が照射された場合に、チャージアップが生じ、開孔を通過する荷電粒子線に影響を与え、荷電粒子線の適切な偏向、および位置制御が行われず、精度良くパターンを露光することが困難になる可能性がある。
【0006】
本発明は、上述の従来例における課題を解決し、歩留まりの良いブランキングアパーチャアレイ構成、およびブランキングアパーチャアレイを歩留まりの良く作製する製造方法
の提供、チャージアップの起こりにくいブランキングアパーチャアレイを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
荷電粒子線を偏向する偏向器であって、
基板に形成された貫通孔と、第1の方向で2つの電極が互いに対向するように該貫通孔の側壁に設置された第1の電極対と、前記第1の方向とは略直交する第2の方向で2つの電極が互いに対向するように該貫通孔の側壁に設置された第2の電極対とを有し、
該第1および第2の電極対を構成する4つの電極は略同一形状であることを特徴とする偏向器。
【0008】
請求項1乃至3のいずれかに記載の偏向器を製造する方法であって、
前記第1および第2の電極対を構成する4つの電極を形成する工程と、
該4つの電極に荷電粒子ビーム偏向用電圧を印加するための配線を形成する工程と、
不良電極または電極と配線の不良接続部分を選別する工程と、
不良電極または不良接続部分が存在した場合に、不良電極または不良接続部分へ接続された配線を切断する工程と、
該不良電極または不良接続部分から切断された配線を接地する工程と、
を有することを特徴とする偏向器の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、信頼性の高いブランキングアパーチャアレイもしくはマルチデフレクターを高い生産性を持って提供および製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を列挙する。
[実施形態1]
荷電粒子線を偏向する偏向器であって、該偏向器は、基板に形成された貫通孔と該貫通孔の側壁に対向して設置された第一の電極対と、該第一の電極対に略垂直な側壁面に設置された第二の電極対とを有し、該4つの電極は略同一形状であることを特徴とする偏向器。
【0011】
上記の構成のように、ひとつの偏向器に略同一形状の2組の電極対を有すると、何らかの理由によりいずれか一つの電極に不良が生じた場合に、該不良電極を含まない電極対を使用することで、ブランキングアパーチャアレイ全体が使用不能とならず、歩留まりが向上する。
【0012】
[実施形態2]
実施形態1に記載の2組の略同一形状の電極対を有する偏向器であって、荷電粒子線偏向用電圧を印加するため電極に接続される配線は、配線形成工程が完了した時点において、偏向用電圧を印加する一方の配線にはふたつの電極対のうちのそれぞれひとつの電極が、もう一方の偏向用電圧を印加する配線にはふたつの電極対のうちの残りの電極が接続されていることを特徴とする偏向器。すなわち、実施形態2においては、前記二組の電極対の4つの電極の隣り合うふたつの電極に同じ荷電粒子線偏向用電圧を印加する配線が接続されている。
【0013】
上記の構成のように、二組の電極対の4つの電極の隣り合う電極に同じ荷電粒子線偏向用電圧を印加する配線が接続されていると、いずれか一つの電極に不良が生じた場合に、該不良電極を含む電極対への配線を切断出来るようになり、該配線が補償回路となることで、ブランキングアパーチャアレイ全体が使用不能とならず、歩留まりが向上する。
【0014】
[実施形態3]
実施形態2に記載の偏向器であって、完成時または使用時において、二組の電極対に接続された配線のうちいずれか一方の電極対には偏向用電圧を印加する配線に接続されたままであり、もう一方の電極対に接続されていた配線は、偏向用電圧を印加する配線から切断されている、こと特徴とする偏向器。
【0015】
上記の構成のように、2組の電極対にそれぞれプラス/マイナス、プラス/0または0/マイナスのいずれかの制御電圧を印加する配線を形成し全ての電極に接続されることで、いずれかの電極や配線との接続部分において不良が生じた場合において、2つある電極対の良好な方の配線を残し、不良な電極または接続部分を含む電極対への配線を切断することを特徴とする偏向器とすることで、ブランキングアパーチャアレイが不良とならず、良品なブランキングアパーチャアレイとして使用することが出来、歩留まりが飛躍的に向上することが出来る。
【0016】
[実施形態4]
複数の偏向器を配列してなる偏向器アレイであって、実施形態2に記載された配線形成工程が完了した時点のままの偏向器と実施形態3に記載された一方の一方の電極対に接続されていた配線を切断された偏向器とが混在していることを特徴とする偏向器アレイ。この偏向器アレイは、ブランキングアパーチャアレイとして好適なものである。
【0017】
[実施形態5]
前記偏向器を製造する方法であって、前記2組の電極対を構成する略同一形状の4つの電極を形成する工程と、該4つの電極へ荷電粒子ビーム駆動用電圧を印加するための配線を形成する工程と、2組の電極対のうち良好な電極または電極と配線の接続部分を選別する工程と、良好でない、すなわち不良な電極または電極と配線の接続部分が見つかった場合に、不良な電極または電極と配線の接続部分への配線を切断する工程と、該不良な電極または電極と配線の接続部分に接続されていて切断された配線の切断部より各電極に近い配線部分において、該配線を接地する工程と、を有することを特徴とする偏向器の製造方法。
【0018】
上記の構成のように、略同一形状の4つの電極を形成する工程と、該4つの電極の全てへ電圧を印加するための配線を形成する工程と、良好な電極を選別する工程と、不良な電極または電極と配線の接続部分が存在した場合、不良な電極または電極と配線の接続部分への配線を切断する工程と、切断された配線の切断部より各電極に近い配線部分において該配線を接地する工程と、を有することにより、貫通孔の側壁のチャージアップを防ぐことが出来、精度良くパターンを露光することが出来る偏向器の製造方法を提供することが出来る。また、歩留まりの良い製造方法を提供することが出来る。
【0019】
[実施形態6]
前記電極および配線を形成する工程は、前記2組の電極対を構成する略同一形状の4つの電極を形成した電極基板と、該電極基板に形成した各電極対に電圧を印加するための配線を形成した配線基板と、を張り合わせる工程であることを特徴とする偏向器の製造方法。
【0020】
上記の構成のように、電極を形成した基板と、前記電極基板に形成した各電極対に電圧を印加するための配線を形成した配線基板とを、張り合わせて形成される荷電粒子ビーム露光装置のブランキングアパーチャアレイの製造方法においても、前記電極を形成した基板に前記偏向器または前記製造工程を有することにより、ブランキングアパーチャアレイの製造工程が容易になり、歩留まりの良い製造方法を提供することが出来る。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。下記の実施例では、荷電粒子線の一例として電子ビーム露光装置の例を示す。なお、下記の実施例は、電子ビームに限らずイオンビームを用いた露光装置にも同様に適用できるものである。
[実施例1]
図1-1(1)〜図1-3(13)は、本発明に関わる電子ビーム露光装置のブランキングアパーチャアレイ(BAA)の製造方法の一例を説明する断面図である。
【0022】
図1-1(1)に示すように、例えば、4”φ、厚さ200μmのSiウエハからなる基板1の表面および裏面の両面に、プラズマCVD法を用いてSi窒化膜からなる絶縁層2を約1μmの厚さに成膜する。
【0023】
次に、図1-1(2)に示すように、絶縁層2上にレジスト3を塗布し、露光・現像して、図1-1(3)の溝4に対応する領域以外の部分を覆う。このレジスト3をエッチングマスクとして、絶縁層2を、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法により除去する。溝4は、後に明らかになるように、図1-2(7)〜図1-3(13)および図2の電極8に相当する部分である。
【0024】
次に、図1-1(3)に示すように、レジスト3と絶縁層2をエッチングマスクとして、Siウエハの基板1を誘導結合型プラズマ(ICP)−RIE法により加工し、同一形状の二対(4つ)の溝4を複数形成する。このとき、基板1裏面に配置したSi窒化膜の絶縁層2は、基板1をエッチングするときの、エッチングストッパ層となる。また、後述する導電層6と基板1の電気的絶縁を行うための層ともなる。
【0025】
次に、図1-1(4)に示すように、レジスト3を除去した後、基板1を熱酸化法により酸化することにより、基板1の同一形状の二対の溝4の側壁部に、例えば厚さ2μmのSi酸化膜からなる絶縁層5を形成する。この絶縁層5は、後述する導電材8と基板1の電気的絶縁を行うために形成される。
【0026】
次に、図1-1(5)に示すように、基板1の裏面に、例えば、EB蒸着法等によりCr膜とPt膜とCr膜を成膜し、導電層6を形成する。このとき、Cr/Pt/Cr積層膜である導電層6のそれぞれの膜厚をCr膜500Å、Pt膜2000Å、Cr膜500Åとした。さらに、導電層6の上にプラズマCVD法等によってSi酸化膜からなる絶縁層7を約1μmの厚さに成膜した。
【0027】
次に、図1-2(6)に示すように、基板1の表面側の絶縁層2および同一形状の二対の溝4の底部に位置する絶縁層2(Si窒化膜)のみを例えばRIE法により、同一形状の二対の溝4の底部に導電層6が表出するまで、選択的にエッチングして除去する。すなわち、同一形状の二対の溝4の側壁部に位置する絶縁層5(Si酸化膜)は除去されない。それにより、溝4の底部に導電層6が表出された溝が所定間隔を隔てて多数形成される。その他の方法として、熱リン酸を用いたウェットエッチングにより、同一形状の二対の溝4の側壁部に位置する絶縁層5は除去せずに、基板1の表面側の絶縁層2および同一形状の二対の溝4の底部に位置する絶縁層2のみを除去することも可能である。
【0028】
次に、図1-2(7)に示すように、電解メッキ法により、同一形状の二対の溝4の底部に表出する導電層6をメッキ用電極(シード層)として、同一形状の二対の溝4内に選択的にめっきを行い、金からなる導電材8、8´を充填する。言い換えれば、同一形状の二対の溝4内に導電材8を選択的に成長させることができる。このとき、基板1の裏面の絶縁層7は、溝4以外の導電層6に、めっきがされないようにするための保護層として働く
。溝4に導電材8を埋め込んだ後、導電材8、8´の不必要な(例えば基板1の表面より盛り上がった)部分を、例えば化学的機械的研磨法(CMP)法により、研磨して除去する。また、金メッキ前に、Si酸化膜からなる絶縁層5と金からなる導電材8、8´の密着性を向上させる目的で、絶縁層5の表面にCr膜をスパッタ法で成膜しても良い。また、メッキ材料として、金の他に、銅を用いても良い。以上により、同一形状の二対の電極が形成される。
【0029】
次に、図1-2(8)に示すように基板1の裏面に位置する導電層6および絶縁層7を、RIE等により、エッチング除去する。
【0030】
次に、基板1の表面側に、プラズマCVD法等によってSi酸化膜からなる絶縁層9を約1μmの厚さに成膜し、さらに、絶縁層9上にレジストを塗布し、露光・現像し、溝に対応する領域以外の部分を覆う。このレジストをエッチングマスクとして、絶縁層9を、図1-2(9)に示すように、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法により除去する。さらに、レジストを除去後、絶縁層9上の全面に、金からなる配線層10をスパッタ法により、堆積させる。
【0031】
次に、配線層10上にフォトレジストを塗布し、露光・現像する。このレジストをエッチングマスクとして、図1-2(10)に示すように、配線層10を、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法により除去し配線パターンを形成する。
【0032】
次に、図1-3(11)に示すように、基板1の表面側に、プラズマCVD法等によってSi酸化膜からなる絶縁層11を約1μmの厚さに成膜し、さらに、絶縁層11上の全面に、金からなる導電層12をスパッタ法により、堆積させる。この導電層12は、チャージアップ防止用金属層として機能するものであり、アースされる。
【0033】
次に、導電層12上にレジスト13を塗布し、露光・現像して、同一形状の二対の溝間の基板部分に形成しようとする開口に対応する領域外を覆う。このレジストをエッチングマスクとして、図1-3(12)に示すように、導電層12を例えばイオンミリング法によりエッチングして、次に、反応性イオンエッチング(RIE)法により絶縁層11および9をエッチングする。更に、基板1をICP−RIE法によりエッチングした後、絶縁層(Si窒化膜)2を反応性イオンエッチング(RIE)法で除去する。その結果、同一形状の二対の溝で側壁絶縁膜間の基板部分に開口14が形成される。このとき、絶縁層2は、基板1をエッチングする際のエッチングストッパー層となる。
【0034】
次に、図1-3(13)に示すように、開口14の側壁部のSi酸化膜からなる絶縁層5をHFとNHFの混合液を用いてウェットエッチングにより除去して、更に、開口14の底部に位置するSi窒化膜からなる絶縁層2を例えば熱リン酸を用いてウェットエッチングにより除去するとブランキングアパーチャアレイ(BAA)が完成する。
【0035】
以上のように作製したBAAの断面図を図1-3(13)のAA’断面図として図2(1)、(2)に示す。同図に示すように、同一形状の二対の導電材8、8´からなる電極が形成されている。このような構造にすることで、いずれか一方の電極対またはいずれか一つの電極や配線と電極の接続部に不良が生じても、良好な電極対を選択的に用いることでBAAとして利用出来、BAAの歩留まりが向上する。また、四方の壁が導電材によって覆われた構造となっていることから、それにより開口14のチャージアップを防ぐことが出来る。図2(2)は、電極形状によって電極の剥がれにくさを高めた構造の例を示す。また、開口14の形状は、図2に示した方形だけでなく、円形状でも良い。また、電極の形成方法は、Si基板にブランキングアパーチャの正方形または円形の開孔を設けた後、蒸着法、スパッタ法やCVD法などの成膜手段により開孔の側壁に膜状の電極を形成する
方法でも良い。
【0036】
比較のため、図3に従来のBAAの断面図を示す。同図に示すように、同一形状の一対の電極よりなる。このような従来の構造においては、一つの電極や電極と配線接続部に不良が生じた場合、このブランキングアパーチャは使用できない。すると、このブランキングアパーチャを含むブランキングアパーチャアレイが全体として使用できなくなる。また、電極のない側壁部においてチャージアップが発生しやすく電子ビームに影響を与え精度の良い露光が出来ない。図2および3において、15は電子ビームの軸位置を示す。
【0037】
[実施例2]
図4は、本発明に関わる電子ビーム露光装置のブランキングアパーチャアレイ(BAA)の第2実施例を説明する模式図である。
図4では、図1-3(13)で作製が完了したブランキングアパーチャアレイの中の一つのブランキングアパーチャの電極および配線の構成を模式図に示している。二対の電極101、101´と102、102´に偏向制御用電圧を印加する配線103、103´が各電極に接続されている。配線の接続は、電極101、102に配線103が接続され、電極101´、102´に配線103´が接続されている。二つの電極へ接続された配線のうち、いずれかの電極に不良が存在する場合に、いずれか一方の配線が補償回路となり、ブランキングアパーチャアレイの歩留まりが向上する。
【0038】
いずれの電極においても不良が存在しない場合には、4つの電極に配線したまま電圧を印加することにより電子線の偏向を行うことが出来るので、ブランキングアパーチャとして使用することが出来る。
【0039】
[実施例3]
図5は、本発明に関わる電子ビーム露光装置のブランキングアパーチャアレイ(BAA)の第3実施例を説明する模式図である。また図6は、図5のBB´断面図を示す。
図5では、図1-3(13)で作製が完了した後、良好な電極を選別する工程で不良な電極102が発見され、不良な電極または電極と配線の接続部分への配線を切断する工程と、切断された配線の切断部より各電極に近い配線部分において該配線を接地する工程と、を経たブランキングアパーチャアレイの中の一つのブランキングアパーチャの電極および配線を模式図に示している。同図のように、不良な電極102が存在する場合に、一つの配線103が二つの電極101、102に接続されていることから、電極101への配線が補償回路となり、一組の電極対(電極101、101´)が正常に機能するため、ブランキングアパーチャアレイとして使用することが出来、歩留まりの向上したブランキングアパーチャアレイを提供できる。また、図6に示すように、電極102の内部に鬆106などの不良が確認された場合、電極102への配線103を切断する。切断した配線103をブランキングアパーチャアレイ表面に形成された帯電防止層107に接続することにより、開孔内の側壁のほぼ全てが導電材で覆われるため、チャージアップを防止することが出来、精度の良いパターンが形成できるブランキングアパーチャアレイを提供することが出来る。
【0040】
[実施例4]
図7は、本発明に関わる電子ビーム露光装置のブランキングアパーチャアレイ(BAA)の製造方法の第4実施例を説明するフロー図である。
図1-1〜図1-3に示したように電極乃至配線形成工程まででブランキングアパーチャアレイの基本構造を形成した後、電極および電極と配線の接続部分の不良を選別する検査工程を行う。検査方法は、非破壊で検査できるマイクロフォーカスX線CTシステムを用いて行えばよい。続いて、不良の存在する電極へ接続している配線を、フォーカスイオンビーム装置を用いて切断した後、同装置を用いて絶縁材料、例えばSiO、を開孔した部
分に堆積させ開孔をふさぐ。さらに、切断した配線の電極よりの部分に同装置を用いて、配線まで開孔した後、同装置を用いて金属材料、例えばタングステン、を表面の帯電防止層12(図1-3(13)参照)まで堆積し、帯電防止層と電気的な接続を形成する。以上で、補償回路を用いたブランキングアパーチャアレイが完成する。
また、X線CTシステムとフォーカスイオンビーム装置のステージ座標系をそろえると、製造時の効率が向上する。
【0041】
前述のような工程を実施することにより、不良な電極または電極と配線の接続部分を選別することが出来、補償回路により不良部分を切り離すことが出来、生産性が向上する。さらに不良電極を帯電防止層に接続することで、チャージアップがなく、精度の良いパターンが形成できるブランキングアパーチャアレイの製造方法が提供できる。
【0042】
[実施例5]
図8は、本発明に関わる電子ビーム露光装置のブランキングアパーチャアレイ(BAA)の製造方法の第5実施形態を説明する模式図である。
配線基板201と電極基板202を個別に作製した後、前記2つの基板を張り合わせることによりブランキングアパーチャアレイが製造できる。この方法では、電極の不良を検査する場合、電極基板に配線がないので、不良電極選別の検査を高精度に行うことが出来るため、歩留まりが向上する。
【0043】
以上の実施例によれば、信頼性の高いブランキングアパーチャアレイもしくはマルチデフレクターを高い生産性を持って提供および製造することができる。
【0044】
[実施例6]
次に上記説明したブランキングアパーチャアレイを用いた電子ビーム露光装置を利用したデバイスの生産方法の実施例を説明する。
図9は微小デバイス(ICやLSI等の半導体チップ、液晶パネル、CCD、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造のフローを示す。ステップ1(回路設計)では微小デバイス、例えば半導体デバイスの回路設計を行う。ステップ2(EBデータ変換)では設計した回路パターンに基づいて露光装置の露光制御データを作成する。
【0045】
一方、ステップ3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記用意した露光制御データが入力された露光装置とウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ4によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の組み立て工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、ステップ7でこれを出荷する。
【0046】
上記ステップ4のウエハプロセスは以下のステップを有する。ウエハの表面を酸化させる酸化ステップ、ウエハ表面に絶縁膜を成膜するCVDステップ、ウエハ上に電極を蒸着によって形成する電極形成ステップ、ウエハにイオンを打ち込むイオン打ち込みステップ、ウエハに感光剤を塗布するレジスト処理ステップ、上記の露光装置によって回路パターンをレジスト処理ステップ後のウエハに焼付露光する露光ステップ、露光ステップで露光したウエハを現像する現像ステップ、現像ステップで現像したレジスト像以外の部分を削り取るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト剥離ステップ。これらのステップを繰り返し行うことによって、ウエハ上に多重に回路パターンを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1−1】本発明の第1実施例に係るBAAの初めから絶縁層7を成膜するまでの各製造プロセスにおける部分断面図である。
【図1−2】本発明の第1実施例に係るBAAの図1-1に続く各製造プロセスにおける部分断面図である。
【図1−3】本発明の第1実施例に係るBAAの図1-2に続きBAAを製造が完成するまでの各製造プロセスにおける部分断面図である。
【図2】図1-3(13)におけるAA’断面図である。
【図3】従来のBAA断面構造図である。
【図4】本発明の第2実施例に係るBAAの部分模式図である。
【図5】本発明の第3実施例に係るBAAの部分模式図である。
【図6】図5におけるBB´断面図である。
【図7】本発明の第4実施例に係るBAAの製造プロセスを示すフロー図である。
【図8】本発明の第5実施例に係るBAAの製造プロセス模式図である。
【図9】デバイスの製造プロセスのフローを説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 絶縁層
3 レジスト
4 溝
5 絶縁膜
6 導電層
7 絶縁層ダイナミックフォーカスコイル
8、8´導電材
9 絶縁層
10 配線層
11 絶縁層
12 導電層
13 レジスト
101、101´、102、102´ 電極
103、103´ 配線
104コンタクト部
105 配線切断部
201 配線基板
202 電極基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を偏向する偏向器であって、
基板に形成された貫通孔と、第1の方向で2つの電極が互いに対向するように該貫通孔の側壁に設置された第1の電極対と、前記第1の方向とは略直交する第2の方向で2つの電極が互いに対向するように該貫通孔の側壁に設置された第2の電極対とを有し、
該第1および第2の電極対を構成する4つの電極は略同一形状であることを特徴とする偏向器。
【請求項2】
前記第1および第2の電極対を構成する4つの電極に荷電粒子線偏向用電圧を印加するための第1および第2の配線を有し、前記第1の配線は前記第1の電極対を構成する2つの電極の一方および前記第2の電極対を構成する2つの電極の一方に接続され、前記第2の配線は前記第1の電極対を構成する2つの電極の他方および前記第2の電極対を構成する2つの電極の他方に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の偏向器。
【請求項3】
前記第1および第2の電極対を構成する4つの電極に荷電粒子線偏向用電圧を印加するための第1および第2の配線を有し、前記第1の配線は前記第1および第2の電極対の一方に接続されており、前記第2の配線は前記第1および第2の電極対の他方のうち少なくとも1つの電極から切断していることを特徴とする請求項1に記載の偏向器。
【請求項4】
複数の偏向器を配列してなる偏向器アレイであって、請求項2に記載の偏向器と請求項3に記載の偏向器とが混在していることを特徴とする偏向器アレイ。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の偏向器を複数個配置したことを特徴とするブランキングアパーチャアレイ。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の偏向器を製造する方法であって、
前記第1および第2の電極対を構成する4つの電極を形成する工程と、
該4つの電極に荷電粒子ビーム偏向用電圧を印加するための配線を形成する工程と、
不良電極または電極と配線の不良接続部分を選別する工程と、
不良電極または不良接続部分が存在した場合に、不良電極または不良接続部分へ接続された配線を切断する工程と、
該不良電極または不良接続部分から切断された配線を接地する工程と、
を有することを特徴とする偏向器の製造方法。
【請求項7】
前記第1および第2の電極対を構成する4つの電極が形成された電極基板と、該4つの電極に荷電粒子ビーム偏向用電圧を印加するための配線が形成された配線基板と、を張り合わせる工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の偏向器の製造方法。
【請求項8】
複数個の偏向器を配列してなるブランキングアパーチャアレイの製造方法であって、
各偏向器を請求項6または7に記載の方法で製造することを特徴とするブランキングアパーチャアレイの製造方法。
【請求項9】
荷電粒子線を用いて被露光基板を露光する荷電粒子線露光装置であって、
荷電粒子線を放射する荷電粒子源と、
前記荷電粒子源の中間像を複数形成する第1の電子光学系と、
前記第1の電子光学系によって形成される複数の中間像を被露光基板上に投影する第2の電子光学系と、
前記被露光基板を保持し所定の位置に駆動して位置決めする位置決め装置とを有し、
前記第1の電子光学系が、請求項1〜3のいずれかに記載の偏向器、請求項4に記載の
偏向器アレイまたは請求項5に記載のブランキングアパーチャアレイを含むことを特徴とする荷電粒子線露光装置。
【請求項10】
請求項9に記載の荷電粒子線露光装置を用いて被露光基板を露光する工程と、露光された前記基板を現像する工程と、を有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−19438(P2006−19438A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194774(P2004−194774)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】