説明

偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置

【課題】偏波面の崩れを補正して、偏波間結合量特性と交差偏波特性の劣化を防止する。
【解決手段】同一面内で互いに交差する+45度偏波用の第1のダイポールアンテナ素子(AE1)と−45度偏波用の第2のダイポールアンテナ素子(AE2)とを有する複数の偏波ダイバーシチアンテナユニット(10)を垂直方向に所定の間隔をおいて配列させ、それらの偏波ダイバーシチアンテナユニット(10)の背部に反射板(60)を配設した偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置である。第1のダイポールアンテナ素子(AE1)を構成する素子導体と第2のダイポールアンテナ素子(AE2)を構成する素子導体に、偏波面のくずれを補正するための調整用導体部(27、28)をそれぞれ形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信用の基地局において使用される±45度偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体通信においては、2つの直交する偏波を独立して送受信する偏波ダイバーシチアンテナが多く使用されている。
図11に、特許文献1によって提案されている偏波ダイバーシチアンテナを示す。この偏波ダイバーシチアンテナ100は、第1のアンテナユニット200と、第2のアンテナユニット300とを組み合わせることによって構成されている。
【0003】
第1のアンテナユニット200は、誘電体基板201の面にダイポールアンテナ素子202とバラン内蔵給電線路203を形成した構成を有し、また、第2のアンテナユニット300は、誘電体基板301にダイポールアンテナ素子302とバラン内蔵給電線路303を形成した構成を有する。
なお、ダイポールアンテナ素子202、302及びバラン内蔵給電線路203、303は、印刷配線技術を用いて金属箔により形成されている。
【0004】
第1、第2のアンテナユニット200、300は、誘電体基板201,301の中心軸線に沿ってそれぞれ設けられた図示していない切込み部を介して相互が直交する形態で組み合わされている。
交差したダイポールアンテナ素子202、302は、それぞれバラン内蔵給電線路203、303を介して給電されて第1偏波、第2偏波を放射する。
【0005】
図12は、利得の増加を目的として上記偏波ダイバーシチアンテナ100を垂直方向に多段配列(図の例では2段)した構成を有する偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置を概念的に示す。
図12(a)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、各段の偏波ダイバーシチアンテナ100のダイポールアンテナ素子202、302がそれぞれ水平、垂直に向けられている。従って、各段の偏波ダイバーシチアンテナ100のダイポールアンテナ素子202、302がそれぞれ水平偏波(第1偏波)、垂直偏波(第2偏波)を放射する。
一方、図12(b)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、各段の偏波ダイバーシチアンテナ100のダイポールアンテナ素子202、302がそれぞれ垂直面に対して−45度、+45度傾斜している。従って、各段の偏波ダイバーシチアンテナ100のダイポールアンテナ素子202、302がそれぞれ−45度偏波(第1偏波)、+45度偏波(第2偏波)を放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−200776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、図12における上側の偏波ダイバーシチアンテナ100のダイポールアンテナ素子202、302をそれぞれ上側のダイポールアンテナ素子202、302とし、下側の偏波ダイバーシチアンテナ100のダイポールアンテナ素子202、302を下側のダイポールアンテナ素子202、302とする。
【0008】
図12(a)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置では、上側と下側のダイポールアンテナ素子202の各中心を通る垂直ライン上に上側と下側のダイポールアンテナ素子302が位置している。
したがって、上側のダイポールアンテナ素子202の中心において該上側のアンテナ素子202(302)による偏波と下側のダイポールアンテナ素子302(202)による偏波とが直交し、また、下側のダイポールアンテナ素子202の中心において該下側のアンテナ素子202(302)による偏波と上側のダイポールアンテナ素子302(202)による偏波とが直交することになる。
また、この図12(a)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、指向性成形に必要な反射板等の図示していない構造物を併用する場合に、その指向性成形に大きな影響を与える該反射板等のエッジ部(指向性成形のために立ち上げられている)が必ず垂直方向または水平方向に沿って延びること、つまり、偏波面に沿って延びるか該偏波面に直交する方向に延びることになる。
【0009】
以上の理由から、図12(a)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置においては、偏波面のくずれが生じない。これは、偏波ダイバーシチアンテナ100を多段配置することが偏波間結合量や交差偏波特性を劣化させる原因にならないことを意味している。
【0010】
一方、図12(b)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置では、上側のダイポールアンテナ素子202の長手軸線と下側のダイポールアンテナ素子302の長手軸線の交点、及び、上側のダイポールアンテナ素子302の長手軸線と下側のダイポールアンテナ素子202の長手軸線との交点がいずれも上側と下側の偏波ダイバーシチアンテナ100の配列方向ライン(垂直なラインである)から離隔して位置することになる。
このことは、偏波面を歪めることとなり、そのため、この偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置では、上側のダイポールアンテナ素子202(302)による偏波と下側のダイポールアンテナ素子302(202)による偏波とが子中心において直交せず、また、下側のダイポールアンテナ素子202(302)による偏波と上側のダイポールアンテナ素子302(202)による偏波とが素子中心において直交しないことになる。
また、この偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、指向性成形に必要な反射板等の図示していない構造物を併用する場合に、ダイポールアンテナ素子202,302の長手軸線がその反射板等のエッジ部に対して45度の角度をなすことになる。
【0011】
以上の理由から、図12(b)に示す偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置においては、偏波面がくずれて偏波間結合量や交差偏波特性が劣化するという不都合を生じる。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑み、良好な偏波間結合量特性と交差偏波特性を維持した状態で±45度偏波を独立して送受信することが可能な偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、同一面内で互いに交差する+45度偏波用の第1のダイポールアンテナ素子と−45度偏波用の第2のダイポールアンテナ素子とを有する複数の偏波ダイバーシチアンテナユニットを垂直方向に所定の間隔をおいて配列させ、それらの偏波ダイバーシチアンテナユニットの背部に反射板を配設した偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置であって、前記目的を達成するため、前記第1のダイポールアンテナ素子を構成する素子導体と前記第2のダイポールアンテナ素子を構成する素子導体に、偏波面のくずれを補正するための調整用導体部をそれぞれ形成している。
【0014】
前記調整用導体部は、前記第1、第2のダイポールアンテナ素子の交差部を含む水平面に隣接しかつ該交差部から離れる方向に延びるように形成することができる。
また、前記第1、第2のダイポールアンテナ素子は、素子用誘電体基板に形成してもよい。
【0015】
前記第1のダイポールアンテナ素子及び前記第2の偏波用ダイポールアンテナ素子を構成する素子導体は、例えばn角形(n≧4)を有するように形成される。
前記素子導体は、例えば正方形状を持つように形成してよい。この場合、この素子導体の対角線が前記第1、第2のダイポールアンテナ素子の軸線上に位置される。
更に、前記第1のダイポールアンテナ素子を構成する各素子導体は非対称形状を有してもよく、前記第2のダイポールアンテナ素子を構成する各素子導体も同様である。
【0016】
前記第1のダイポールアンテナ素子に給電する給電路を形成した第1の給電用誘電体基板と前記第2の偏波用ダイポールアンテナ素子に給電する給電路を形成した第2の給電用誘電体基板とを有し、この第1、第2の給電用誘電体基板を交差結合するとともに、この結合した第1、第2の誘電体基板を前記素子用誘電体基板に対して鉛直に結合させた給電部を更に備えることができる。この前記給電部は、バランを内蔵するように構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、+45度偏波用の第1のダイポールアンテナ素子の素子導体に設けた調整用導体部と−45度偏波用の第2のダイポールアンテナ素子の素子導体に設けた調整用導体部とによって垂直偏波成分と水平偏波成分の差を低減して、偏波面のくずれを補正するようにしているので、交差偏波特性や偏波間結合量特性の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】偏波ダイバーシチアンテナユニットの構成を示す斜視図である。
【図3】素子部の平面図である。
【図4】一方の給電部の構成例を示す正面図である。
【図5】他方の給電部の構成例を示す正面図である。
【図6】調整用導体部を設けない場合における+45度偏波リターンロス特性(a)、−45度偏波リターンロス特性(b)及び結合量特性(c)をそれぞれ示すグラフである。
【図7】調整用導体部を設けない場合の水平面指向特性を示すグラフである。
【図8】調整用導体部を設けた場合における+45度偏波リターンロス特性(a)、−45度偏波リターンロス特性(b)及び結合量特性(c)をそれぞれ示すグラフである。
【図9】調整用導体部を設けた場合の水平面指向特性を示すグラフである。
【図10】素子部の他の構成を示す平面図である。
【図11】従来の偏波ダイバーシチアンテナの構成例を示す斜視図である。
【図12】従来の偏波ダイバーシチアンテナを用いた水平垂直偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置及び±45度偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置の一実施形態を示した斜視図である。この偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、垂直方向Vに所定の間隔をおいて配列させた2つの偏波ダイバーシチアンテナユニット10を備えている。
なお、アンテナユニット10の配列段数は、3以上に設定することが一般的であるが、ここでは、説明の容易化及び図面の簡素化を図るためにその配列段数を2としている。また、本実施形態では、各偏波ダイバーシチアンテナユニット10の配列間隔が0.808λc(λc:使用周波数帯域の中心周波数の波長)に設定されている。
【0020】
図2に拡大して示すように、各アンテナユニット10は、素子部20と給電部30、40とを組み合わせた構成を有する。
素子部20は、誘電体基板21と、この誘電体基板21の面上に形成した素子導体22A、22B、23A、23Bとを備えている。素子導体22A、22B、23A、23Bは、金属箔(例えば銅箔)からなり、周知の印刷配線技術を用いて形成されている。
【0021】
素子部20の平面図である図3において、素子導体22A、22Bの対は第1のダイポールアンテナ素子AE1を構成し、また、素子導体23A、23Bの対は第2のダイポールアンテナ素子AE2を構成している。これらのダイポールアンテナ素子AE1、AE2は、共通の中心ギャップ部24を有し、その中心ギャップ部24においてそれらの軸線l1、l2が交差(直交)している。
そして、図3に示すxy平面において、ダイポールアンテナ素子AE1の中心軸線l1はy軸に対して時計回り方向に45度(+45度)傾き、また、ダイポールアンテナ素子AE2の中心軸線l2はy軸に対して反時計回り方向に45度(−45度)傾いている。
第1、第2のダイポールアンテナ素子AE1、AE2の長さL1は、約0.5λcに設定されている。
【0022】
本実施形態において、素子導体22A、23Bは同一形状(所定面積の正方形)を有し、素子導体22B、23Aは素子導体22A、23Bに調整用導体部27、28をそれぞれ付加した形状を有する。素子導体22A、22Bはその対角線がダイポールアンテナ素子AE1の軸線l1上に位置し、また、素子導体22A、22Bはその対角線がダイポールアンテナ素子AE2の軸線l2上に位置している。
中心ギャップ部24を挟む素子導体22A、22Bの給電部位には、軸線l1に沿う所定長の孔25A、25Bが貫通形成され、同様に、中心ギャップ部24挟む素子導体23A、23Bの給電部位には、軸線l2に沿う所定長の孔26A、26Bが貫通形成されている。
【0023】
調整用導体部27は、上記中心ギャップ部24を含む水平面(x軸を含む水平面)に隣接する素子導体22Bの縁部を該中心ギャップ部24から離れる方向に延長した細幅の舌片によって形成されている。同様に、調整用導体部28は、上記水平面に隣接する素子導体23Aの縁部を上記中心ギャップ部24から離れる方向に延長した細幅の舌片によって形成されている。
本実施形態において、調整用導体部27、28は、長さL2が約0.065λcに設定されるとともに、幅W1が約0.006λcに設定されている。
【0024】
なお、図3において、素子導体23Aの上辺から素子導体22Aの下辺に至るy方向長(=素子導体22Bの上辺から素子導体23Bの下辺に至るy方向長)、及び、素子導体23Aの左辺から調整用導体部27の先端に至るx方向長(=素子導体23Bの右辺から調整用導体部28の先端に至るx方向長)は、0.462λh以下に設定される。ここで、λhは使用周波数帯域の上限周波数fhの波長であり、本実施形態ではλh=1.12λcである(図6参照)。
本実施形態では、上記素子導体23Aの左辺から調整用導体部27の先端に至るx方向長L3を0.462λhに設定している。なお、上記y方向長及びx方向長は、それぞれ素子部29の実装状態における垂直方向長および水平方向長に対応する。
【0025】
給電部30は、図4に拡大して示すように、誘電体基板31の一方の面に金属箔からなる一対の接地導体32A、32Bを形成し、該誘電体基板31の他方の面に同じく金属箔からなる給電線路導体33を形成した構成を有する。この接地導体32A、32B及び給電線路導体33も、印刷配線技術を用いて形成されている。なお、以下の説明において用いる上下、左右等の語句は、該当図面上での方向を示すものであって、実装状態下での方向とは必ずしも一致しない。
【0026】
接地導体32A、32Bは、それら間に無金属箔部分34が形成されるように、誘電体基板31の上下方向中心軸線に対して対称に形成されている。
誘電体基板31は、上端左右部に舌片35A、35Bがそれぞれ突設されるとともに、下端左右部に舌片36A、36Bがそれぞれ突設されている。図示のように、接地導体32Aは、舌片35A、36Aの面上まで延在し、また、接地導体32Bは舌片35B、36Bの面上まで延在している。そして、舌片36Bの背面側には、給電線路導体33の下端部が位置している。
【0027】
上記無金属箔部分34の部位には、直線状の切り欠き溝37が形成されている。この切り欠き溝37は、誘電体基板31の上下中心軸線上に位置する形態で該誘電体基板31の下端から上方部に至るように、具体的には、無金属箔部分34の上方部を横断する後述の給電線路導体33の直前まで延びるように形成されている。
給電線路導体33は、一方の接地導体(本実施形態では、接地導体32B)の背部において誘電体基板31の下端から上方に延びた後、横に折れ曲って無金属箔部分34の上方部を横断し、次いで、他方の接地導体32の背部で下方に折り返すように形成されている。この給電線路導体33は、接地導体32A、32Bと共にバラン(平衡不平衡変換器)を構成している。
【0028】
図5に示すように、他方の給電部40も上記給電部30の各構成要素31、32A、32B、33、34、35A、35B、36A、36B及び37に対応する構成要素41、42A、42B、43、44、45A、45B、46A、46B及び47を備えている。
この給電部40における切り欠き溝47は、誘電体基板41の上下中心軸線上に位置する形態で該誘電体基板41の上端から下方に向かって延びている。この切り欠き溝47の長さは、図4に示す切り欠き溝37の上端から誘電体基板31の上端に至る長さと一致している。給電線路導体43は、接地導体42A、42Bと共にバランを構成している。
【0029】
上記給電部30、40は、切り欠き溝37、47を介して互いの面が直交するように一体結合される(図2参照)。この一体化された給電部30,40の上部には、舌片35A、35B、45A、45Bが突出する。そこで、図3に示す素子部20の孔25A、25B、26A、26Bに上記舌片35A、35B、45A、45Bをそれぞれ挿入して、図2に示すように素子部20を給電部30、40に一体結合する。
素子部20の上面側に突出した舌片35A、35B、45A、45Bは、それらに貼着された金属箔がハンダ等の手段を用いて対応する素子導体22A、22B、23A、23Bに電気的に接続され、これによって、素子導体22A、22B、23A、23Bの給電部位がそれぞれ接地導体32A、32B、42A、42Bと電気的に接続される。
【0030】
上記のように構成された偏波ダイバーシチアンテナユニット10は、図1に示すように、給電回路部50の誘電体基板51に所定の間隔をおいて立設される。すなわち、各アンテナユニット10は、給電部30の下端に形成された図4に示す舌片36A、36Bと給電部40の下端に形成された図5に示す舌片46A、46Bとを、上記誘電体基板51に貫通形成した図示していない孔に挿入することによって誘電体基板51に立設される。
このとき、各アンテナユニット10は、接地導体32A、32B、42A、42B(図4、図5参照)の下端部が、誘電体基板51の表面全域に形成された金属箔からなる接地導体にハンダ等の手段を用いて接続される。また、給電線路導体33の下端部が、誘電体基板51の背面側に形成された金属箔からなる+45°偏波用給電線路導体(図示せず)に接続され、同様に、給電線路導体34の下端部が、誘電体基板51の背面側に形成された金属箔からなる−45°偏波用給電線路導体(図示せず)に接続される。
【0031】
各アンテナユニット10の背部には、反射板60が配設されている。この反射板60は、誘電体基板51の背面側に位置され、その長手方向に沿った両端部に指向性成形のための立上げ部61がそれぞれ形成されている。なお、本実施形態では、各アンテナユニット10の素子部20と反射板60間の距離が約0.226λcに設定されている。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、各アンテナユニット10の配列方向が垂直方向Vとなる形態で設置される。従って、図3に示すx軸、y軸はそれぞれ垂直軸V、水平軸Hに沿うことになる。この状態では、各アンテナユニット10の素子部20が垂直面内に位置され、かつ、各アンテナユニット10の第1、第2のダイポールアンテナ素子AE1、AE2の軸線l1、l2が垂直軸Vに対してそれぞれ+45度、−45度傾くことになる。
【0033】
次に、本実施形態に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置の動作について説明する。
図1に示す各アンテナユニット10において、第1のダイポールアンテナ素子AE1(図3参照)は、バラン内蔵給電部30を介して給電される給電回路部50からの電力で励振されて+45度偏波を放射し、また第2のダイポールアンテナ素子AE2(図3参照)は、バラン内蔵給電部40を介して給電される給電回路部50からの電力で励振されて−45度偏波を放射する。
【0034】
ところで、図12(b)に示す±45度偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、前述した理由に起因する偏波面のくずれのために、偏波間結合量や交差偏波特性が劣化するという不都合を生じる。
これに対して、本実施形態に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置は、図2に示したように、素子部20に調整用導体部27、28が形成されているので、上記のような不都合を回避することができる。
すなわち、この調整用導体部27、28は、水平偏波成分のみに作用して、この水平偏波成分の指向性の偏りや強さを調整する機能を有する。具体的には、水平偏波成分の指向性や強さを垂直偏波成分の指向性や強さに合わせることで、偏波面の回転や反射板60の立上げ部61の影響による偏波面のくずれを補正する。
従って、本実施形態に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置によれば、良好な偏波間結合量特性と交差偏波特性とを得ることができる。
【0035】
図6(a)、(b)及び(c)は、調整用導体部27、28を設けない場合における+45度偏波リターンロス特性、−45度偏波リターンロス特性及び結合量特性をそれぞれ示すグラフである。また、図7は、調整用導体部27、28を設けない場合の水平面指向特性を示すグラフである。
この指向特性に示すように、主偏波成分は1.50°でピーク値A1(0.00dB)を、垂直偏波成分は4.50°でピーク値B1(−3.23dB)を、水平偏波成分は−6.00°でピーク値C1(2.46dB)を、交差偏波成分は−44.00°でピーク値D1(−13.47dB)をそれぞれ示す。
【0036】
一方、図8(a)、(b)及び(c)は、調整用導体部27、28を設けた場合における、つまり、本実施形態に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置についての+45度偏波リターンロス特性、−45度偏波リターンロス特性及び結合量特性をそれぞれ示す。また、図9は調整用導体部27、28を設けた場合の水平面指向特性を示している。
図9の指向特性に示すように、主偏波成分は2.50°でピーク値A1(0.00dB)を、垂直偏波成分は0.50°でピーク値B1(−2.77dB)を、水平偏波成分は2.50°でピーク値C1(−2.88dB)を、交差偏波成分は−85.50°でピーク値D1(−21.14dB)をそれぞれ示す。
【0037】
図6と図8の対比及び図7と図9の対比から明らかなように、調整用導体部27、28を設けた本実施形態に係る偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置によれば、リターンロス特性や指向性を損なうことなく、良好な偏波間結合量特性と交差偏波特性を得ることができる。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限定されず、別の種々の実施形態を含み得るものである。
すなわち、本発明は、図10示す素子部20’を使用しても実施することができる。この素子部20’は、誘電体基板21’に図3に示す素子導体22A、22B、23A、23Bに対応する素子導体22A’、22B’、23A’、23B’を備え、素子導体23B’に調整用導体部27’を形成するとともに、素子導体23A’に調整用導体部28’を形成した構成を有する。
この素子部20’において、第1のダイポールアンテナ素子を構成する素子導体22A’、22B’と、第2のダイポールアンテナ素子を構成する素子導体23A’、23B’とは、アンテナ素子の軸線に対する対称性を有していない。しかし、このような素子部20’を使用した場合においても、図3に示す素子部20を使用した場合と同様に、良好な偏波間結合量特性と交差偏波特性を得ることができる。
【0039】
もちろん、この素子部20’においても、第1、第2のダイポールアンテナ素子の長さが約0.5λcに設定され、また、素子導体23A’の上辺から素子導体22A’の下辺に至る垂直方向長(=素子導体22B’の上辺から素子導体23B’の下辺に至る垂直方向長)、及び調整用導体部27’の先端から調整用導体部28’の先端に至る水平方向長L4がそれぞれ0.462λh以下に設定される。
なお、図3に示す調整用導体部27(28)は、中心ギャップ部24を含む水平面に隣接する態様で設けられ、また、図10に示す調整用導体部27’(28’)も同様の形態で設けられている。これは、調整用導体部27、28及び調整用導体部27’28’による垂直偏波成分への影響をできるだけ少なくするためである。
【符号の説明】
【0040】
AE1、AE2 ダイポールアンテナ素子
10 偏波ダイバーシチアンテナユニット
20、20’ 素子部
21、21’ 誘電体基板
22A、22B、23A、23B 素子導体
22A’、22B’、23A’、23B’ 素子導体
25A、25B、26A、26B 孔
27、27’、28、28’ 調整用導体部
30、40 給電部
31、41 誘電体基板
32A、32B、42A、42B 接地導体
33、43 給電線路導体
35A、35B、45A、45B 舌片
36A、36B、46A、46B 舌片
37、47 切り欠き溝
50 給電回路部
51 誘電体基板
60 反射板
61 立上げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一面内で互いに交差する+45度偏波用の第1のダイポールアンテナ素子と−45度偏波用の第2のダイポールアンテナ素子とを有する複数の偏波ダイバーシチアンテナユニットを垂直方向に所定の間隔をおいて配列させ、それらの偏波ダイバーシチアンテナユニットの背部に反射板を配設した偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置であって、
前記第1のダイポールアンテナ素子を構成する素子導体と前記第2のダイポールアンテナ素子を構成する素子導体に、偏波面のくずれを補正するための調整用導体部をそれぞれ形成したことを特徴とする偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項2】
前記調整用導体部は、前記第1、第2のダイポールアンテナ素子の交差部を含む水平面に隣接しかつ該交差部から離れる方向に延びるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1、第2のダイポールアンテナ素子を素子用誘電体基板に形成したことを特徴とする請求項1に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1のダイポールアンテナ素子及び前記第2の偏波用ダイポールアンテナ素子を構成する素子導体がn角形(n≧4)を有することを特徴とする請求項1に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項5】
前記素子導体が正方形状をなし、この素子導体の対角線を前記第1、第2のダイポールアンテナ素子の軸線上に位置させたことを特徴とする請求項6に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項6】
前記第1のダイポールアンテナ素子を構成する各素子導体が非対称形状を有するとともに、前記第2のダイポールアンテナ素子を構成する各素子導体が非対称形状を有することを特徴とする請求項3に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項7】
前記第1のダイポールアンテナ素子に給電する給電路を形成した第1の給電用誘電体基板と前記第2の偏波用ダイポールアンテナ素子に給電する給電路を形成した第2の給電用誘電体基板とを有し、この第1、第2の給電用誘電体基板を交差結合するとともに、この結合した第1、第2の誘電体基板を前記素子用誘電体基板に対して鉛直に結合させた給電部を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。
【請求項8】
前記給電部は、バランを内蔵するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の偏波ダイバーシチアレイアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−26707(P2013−26707A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157725(P2011−157725)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000217653)電気興業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】