説明

光アクセスシステム

【課題】SMFの既存光通信システムにおける波長資源創出の際に、経済的に新規波長帯を加えることができ、且つ送信側から離れていても当該波長帯の光信号を受信できる光アクセスシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】光アクセスシステム301は、シングルモードファイバ51と、所望の波長域においてパルス圧縮効果が得られるようにシングルモードファイバ51の波長分散特性に応じた周波数チャープ特性の光パルスを出力する直接変調型レーザ11を有する光送信器100と、シングルモードファイバ51を介して直接変調型レーザ11からの光パルスを受信する光受信器200と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接変調型レーザを利用して下り送信を行う光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Passive optical network(PON)を用いたFiber to the home(FTTH)サービスが本格的に普及し、回線加入者数が増加しており、今後も増加傾向にある。さらに、光通信のトラヒック量も年率1.5〜2倍のペースで増加しており、光通信の高速・大容量化が求められている。また、ユーザ数が増加することで高速・大容量化だけでなく、サービスの多様化がますます進むと考えられる。このような高速・大容量化や多種多様なサービスの実現を見据えて、Time division multiplexing(TDM)技術のように時間軸上で多重化する技術だけではなくWavelength division multiplexing(WDM)技術のように波長軸を積極的に利用する技術が必要になると予想される。
【0003】
現在、光アクセス区間で使用されている波長は、G−PON(ITU G.984)やGE−PON(IEEE 802.3ah)で規定されており、次世代の10G級回線の一つである10G−EPON(IEEE 802.3av)の波長と合わせても、光アクセスにおける波長数は数波程度である。今後は、更なる大容量化やサービスの多様化を見据えて、WDM技術を活用して波長軸を積極的に利用し、低コストかつ既存システムと共存可能なシステムによる光アクセスシステムのアップグレード技術が求められている。
【0004】
しかしながら、従来の光アクセスシステムでは経済性を重視し、光源の半導体レーザ(LD)を安価にする目的で、一つのサービスで使用する波長帯を広くしたり、サービス間を切り分ける波長フィルタを安価にするためにサービス間の波長間隔を広くしたりしたため、現在の光通信波長域(1260〜1650nm)での空き領域が非常に狭くなり新たなサービスのための波長資源が不足することが懸念される。それを受け、昨今、光アクセスにおける新たな波長資源の創出に関する様々な検討が行われている。
【0005】
新たな波長資源創出のための技術として、大きく分けて二つの方法がある。その一つが、高密度WDM(DWDM)技術である。DWDM技術とは、各信号光の波長間隔を1nm以下という非常に狭い波長間隔にすることで光通信における波長数を格段に向上させる技術である。例えば、非特許文献1のようにすでに導入されているGE−PONにおいて、使用されていない波長帯(1565〜1625nm:L−band帯)を用いたDWDM技術により既存システムのアップグレードを行うという検討も報告されている。しかしながら、上記の技術では非常に狭く限られた波長帯を用いるため、高い波長安定性を有する光源や、超狭帯域な波長フィルタが必要になってしまい、光学部品が既存のものに比べて非常に高価になってしまうため、光アクセスには適していない。
【0006】
もう一方の波長資源創出の技術は、新規波長帯の開拓である。新規波長帯の開拓とは、現在、光アクセスでは使用されていない新たな波長域を、光通信に適用するという技術である。既存システムとの共存を考えた場合、新規波長帯としては既設シングルモードファイバ(SMF)において低損失領域(1dB/km以下)であり、現有の光デバイスが適用可能である短波長帯(特に1100〜1200nm帯)が有効とされている(例えば、非特許文献5を参照。)。
【0007】
このため、非特許文献2にあるように、経済的な短波長帯の面発光型レーザ(VCSEL)の研究開発が進んでいる。
【0008】
一方で、短波長帯は、既設SMFにおいて実効遮断波長を下回るため、モード分散による受信特性の劣化が懸念される。この懸念に対しては、非特許文献3のように、モードフィルタを用いることでモード分散の影響を抑制できる。モードフィルタとしては、遮断波長を短波長側にシフトさせた短波長帯用SMF、高次モードの曲げ損失が大きいことを利用した光ファイバコイルや、非常に広い波長域でシングルモード伝送が可能なフォトニッククリスタルファイバ(PCF)などを用いたものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H.Suzuki, M.Fujiwara, T.Suzuki, N.Yoshimoto, H.Kimura and M.Tsubokawa, “Wavelength−Tunable DWDM−SFP Transceiver with a Single Monitoring Interface and Its Application to Coexistence−Type Colorless WDM−PON”, ECOC 2007, PD 3.4 (2007).
【非特許文献2】T.Kondo, M.Arai, A.Matsutani, T.Miyamoto and F.Koyama, “Isolator−free 10Gbit/s singlemode fibre data transmission using 1.1μm GaInAs/GaAs vertical cavity surface emitting laser”, ELECTRONICS LETTERS Vol.40, No.1, pp.65−66 (2004).
【非特許文献3】T.Shimizu, K.Nakajima, K.Shiraki, N.Hanzawa and T.Kurashima, “Multi−Band Mode Filter for Shorter Wavelength Region Transmission over Conventional SMF”, OFC/NFOEC 2008, OMH7 (2008).
【非特許文献4】G.P.Agrawal, “Fiber−Optic Communication Systems”, Wiley Inter−Science, pp.47−48, (2002).
【非特許文献5】T.Kanai, T.Taniguchi, T.Kubo, H.Kimura and H.Hadama, “Optical Access System Employing Short Wavelength Region (1.1〜1.2μm) and RZ−Format Direct Laser Modulation”, OECC2010, 8A4−4, (2010).
【非特許文献6】K.Tsujikawa, K.Kurokawa, K.Tajima, K.Nakajima, T.Matsui, I.Sankawa, and K.Shiraki, “Application of a Prechirp Technique to 10−Gb/s Transmission at 1064 nm Through 24 km of Photonic Crystal Fiber”,IEEE Photonics Technology Letters, Vol.18, No.19, pp.2026−2028, (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、非特許文献2の短波長帯のVCSELは、経済的であるが、横マルチモード発振であり、かつ構造的に光強度を大きくすることが困難である。このため、光アクセスで必要とされるのに十分な光強度を達成できず、既存光アクセスシステムのうち送信側から離れている受信側において当該波長帯で一定の受信感度を得ることが困難という課題がある。一方、一定レーザ光を外部変調する構成も検討されているが、装置構成が複雑になるのと低コスト化が難しいために光アクセスには適していない(例えば、非特許文献6を参照。)。
【0011】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、SMFの既存光通信システムにおける波長資源創出の際に、経済的に新規波長帯を加えることができ、且つ送信側から離れていても当該波長帯の光信号を受信できる光アクセスシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目標を達成するため、本発明は、SMFの既存光アクセスシステムにおける波長資源創出のため、送信側の光源として強度変調方式を用いた短波長帯の直接変調型レーザを備え、新規波長帯を追加することとした。
【0013】
具体的には、本発明に係る光アクセスシステムは、SMFと、所望の波長域においてパルス圧縮効果が得られるように前記SMFの波長分散特性に応じた周波数チャープ特性の光パルスを出力する直接変調型レーザを有する光送信器と、前記SMFを介して前記直接変調型レーザからの前記光パルスを受信する光受信器と、を備える。
【0014】
本光アクセスシステムは、直接変調型レーザで新規波長帯を追加する。直接変調型レーザの採用は、レーザ光を外部変調する構成より簡易であるから経済的であり、光アクセスに必要とされるのに十分な光強度の光パルスを出力することができ、送信側から離れた受信器においても光パルスを受信できる。さらに、短波長帯はSMFにおいて波長分散が正常分散領域となるため、直接変調型レーザの周波数チャープ特性(ダウンチャープ)とSMFの波長分散特性(正常分散領域)によって、当該波長帯の光パルスのパルス幅はSMFの伝送距離に応じて時間的に圧縮される。そのパルス圧縮効果により、受信側での光パルスのピークパワーが向上し、受信特性が改善する。すなわち、直接変調型レーザの周波数チャープ特性とSMFの波長分散特性を利用して光パルスを圧縮し受信感度を高めることができる。
【0015】
従って、本発明は、SMFの既存光通信システムにおける波長資源創出の際に、経済的に新規波長帯を加えることができ、且つ送信側から離れていても当該波長帯の光信号を受信できる光アクセスシステムを提供することができる。
【0016】
本発明に係る光アクセスシステムの前記光受信器は、モード分散の影響を低減するモードフィルタを有し、前記モードフィルタを介して前記光パルスを受信することを特徴とする。モード分散による受信特性の劣化を防止できる。
【0017】
本発明に係る光アクセスシステムの前記SMFは、1260〜1650nmの波長域用であり、前記直接変調型レーザは、1100〜1200nmの波長域の前記光パルスを出力する。
【0018】
本発明に係る光アクセスシステムは、前記光送信器と前記光受信器との距離から前記パルス圧縮効果が最大となる波長を前記光送信器に割り当てる設定手段をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る光アクセスシステムは、前記光送信器と前記光受信器との距離から前記パルス圧縮効果が最大となるように前記光受信器に対する伝送速度を前記光送信器に設定する設定手段をさらに備えることを特徴とする。パルス圧縮は距離依存性があるため波長及び距離によってパルス圧縮の効果が異なる。そのため、距離や伝送速度に応じて使用波長を切り替えることで、受信感度を最適にすることができる。
【0020】
本発明に係る光アクセスシステムは、前記光送信器と前記光受信器との間の総帯域が最大となるように、前記光受信器に送信する前記光パルスの波長、及び前記光受信器に対する伝送速度を前記光送信器に設定する設定手段をさらに備えることを特徴とする。受信器までの距離や受信器が要求する伝送速度を考慮することで光アクセスシステム全体の総帯域を最大にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、SMFの既存光通信システムにおける波長資源創出の際に、経済的に新規波長帯を加えることができ、且つ送信側から離れていても当該波長帯の光信号を受信できる光アクセスシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る光アクセスシステムを説明する図である。
【図2】本発明に係る光アクセスシステムを説明する図である。
【図3】本発明に係る光アクセスシステムを説明する図である。
【図4】波長とパルス圧縮の関係を説明する図である。
【図5】本発明に係る光アクセスシステムを説明する図である。
【図6】伝送速度(ビットレート)とパルス圧縮の関係を説明する図である。
【図7】本発明に係る光アクセスシステムを説明する図である。
【図8】本発明に係る光アクセスシステムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。また、枝番号を付さずに説明している場合は、当該符号の全ての枝番号に共通する説明である。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る光アクセスシステム301を説明する図である。光アクセスシステム301は、SMF51と、所望の波長域においてパルス圧縮効果が得られるようにSMF51の波長分散特性に応じた周波数チャープ特性の光パルスを出力する直接変調型レーザ11を有する光送信器100と、SMF51を介して直接変調型レーザ11からの光パルスを受信する光受信器200と、を備える。SMF51とパワースプリッタ52で光アクセス区間50が形成されている。
【0025】
例えば、SMF51は、1260〜1650nmの波長域用であり、直接変調型レーザ11は、1100〜1200nmの波長域の光パルスを出力する。すなわち、直接変調型レーザ11は、SMF51で構成される光アクセス区間50の波長域より短波長帯の光信号を出力する。
【0026】
光受信器200は、モード分散の影響を低減するモードフィルタ22を有し、モードフィルタを介して光パルスを光受信部21で受信する。
【0027】
光送信器100から出力された光パルスは、直接変調型レーザ11で超高速(例えば、10Gbps以上)に強度変調されており、SMF51中を伝送し、パワースプリッタ52により均等に分岐された後に、それぞれ光受信器200で受信される。その際、モード分散による受信特性の劣化を防ぐために、光受信部21の前段にモードフィルタ22を設置する。なお、伝送距離が短い場合はモード分散の影響が無視できるので、モードフィルタ22を省略することも可能である。
【0028】
通常、光アクセスで使用されているSMF51はゼロ分散波長が1310nmとなっており、光源に1310nmよりも長波長の波長域の直接変調レーザを用いた場合、SMF51中を伝送させると直接変調レーザ11の周波数チャープ特性(ダウンチャープ)とSMF51の波長分散特性(異常分散領域)により、光パルスは伝送距離に応じて波形が歪む。
【0029】
当該短波長帯(1100〜1200nm)では、SMF51における波長分散が正常分散領域となる。そして直接変調型レーザ11の周波数チャープ特性(ダウンチャープ)により、光パルスのパルス幅は伝送距離に応じて時間的に圧縮される。このパルス圧縮効果により、当該短波長帯の光パルスはピークパワーが向上し、光受信器200での受信特性が改善する。すなわち、光アクセスシステム301は、直接変調型レーザ11の周波数チャープ特性とSMF51の波長分散で生み出される、光アクセス区間50の伝送距離に応じたパルス圧縮効果で受信特性を改善する。
【0030】
以上のように、光アクセスシステム301は、既設SMF51において低損失領域である短波長帯の直接変調型レーザ11を光送信器100の光源に用いることで、直接変調型レーザ11の周波数チャープ特性とSMF51の波長分散で生み出されるパルス圧縮効果を得ることができ、光受信器200側での受信感度を改善することができる。
【0031】
(実施形態2)
図2は、実施形態2の光アクセスシステム302を説明する図である。図2では、伝送速度がそれぞれ、波長λ1の1Gbpsのシステム、波長λ2の10Gbpsのシステム、及び波長λ3の短波長帯光アクセスシステムを同一の光ファイバ網上で共存させる場合を想定している。ここでは、1Gbpsのシステム及び10Gbpsのシステムが既存の光アクセスシステムであり、短波長帯が波長資源創出として追加される新規波長帯である。
【0032】
図2において、局舎装置160は、それぞれ波長が違う1Gbps光送信器101、10Gbps光送信器102及び短波長帯光送信器100の3種類の光送信器と、それらから出力された光信号を複合する光合波器150から構成される。合波された信号光はSMF51中を伝送しパワースプリッタ52によって均等に分岐される。分岐された信号光は、さらにSMF51中を伝送し、それぞれの変調速度に応じたユーザ(200、201、202)によって受信される。このとき、ユーザ(200、201、202)は、所望の波長の信号光のみを受信するために、波長フィルタ(23、213、223)を用いて所望の波長の光信号のみを受信する。また、短波長帯のユーザ200に関してはモード分散による受信特性の劣化を防ぐために、波長フィルタ23と光受信部21の間にモードフィルタ22を設置し高次モードを除去してから受信する。なお、ユーザ200は、光アクセス区間50が短距離の場合、モード分散の影響が無視できるので、モードフィルタ22を省略することができる。
【0033】
このようにして、既存の光通信波長域(λ1、λ2)とは別の波長帯(λ3)の追加システムを構築することで、既存システムと追加システムを同じ既存の光アクセス区間50に共存することが可能となり、既存のシステムを安価にアップグレードすることが可能となる。
【0034】
以上のように、光アクセスシステム302は、新たに追加する短波長帯として、既設SMF51において低損失領域である短波長帯の直接変調型レーザ11を光送信器100の光源に用いることで、既存システムと共存可能且つ安価なシステムアップグレードを可能にする。さらに、光アクセスシステム302は、短波長帯直接変調型レーザ11のチャープ特性とSMF51の波長分散で生み出されるパルス圧縮効果で光受信器200側で受信感度を改善することができる。
【0035】
(実施形態1、2の効果)
以上のように、短波長帯の光アクセスシステム(301〜302)は、既設SMFにおいて低損失な領域である短波長帯の直接変調型レーザ11を用いて、既存の光アクセスシステムと共存可能な光アクセスシステムを構築することで、既存の光アクセス区間50をそのまま使用することができるので、安価にシステムアップグレードを行うことができる。さらに、光アクセスシステム(301〜302)は、短波長帯の直接変調型レーザ11を光源に用いて強度変調し、既設SMF51中を伝送することで、直接変調型レーザ11の周波数チャープ特性(ダウンチャープ)とSMF51の波長分散特性(正常分散領域)で生み出されるパルス圧縮効果が得られる。このため、光アクセスシステム(301〜302)は、SMF51を伝送させることで生じる光パルスの損失による受信特性の劣化を改善することができる。
【0036】
(実施形態3)
図3は、実施形態3の光アクセスシステム303を説明する図である。短波長帯の光アクセスシステム303は、局舎装置160、ユーザ(200−1,200−2,200−3)、SMF51、及びパワースプリッタ52を備える。局舎装置160は、短波長帯の直接変調型レーザ11を光源とする短波長帯光送信器(100−1,100−2,100−3)及び設定手段15を備える。また、ユーザ200はそれぞれモードフィルタ(22−1、22−2、22−3)、短波長帯光受信部(21−1、21−2,21−3)を備える。
【0037】
光アクセスシステム303は、図2の光アクセスシステム302に対し、光送信器100と光受信器200との距離からパルス圧縮効果が最大となる波長を光送信器100に割り当てる設定手段15をさらに備える。
【0038】
伝送速度が一定の場合、パルス圧縮効果はSMF51の伝送距離に依存していてある決まった距離でピークを持ち、その距離は波長によって異なる。設定手段15は、その特性を活用し、光送信器100からユーザ200までの距離に応じて伝送する光パルスの波長(λ1、λ2、λ3)を選択し、各光送信器100に設定する。これにより、光アクセスシステム303は、各光受信器200の位置で最大のパルス圧縮効果を得ることができる。
【0039】
非特許文献4より、パルス圧縮効果における波長とパルス幅が最短となる伝送距離の関係として次式を得る。
【数1】

ここで、Cはチャープパラメータ、Lは分散長をそれぞれ表わす。また、Tは初期パルス幅、βは伝搬定数を表わす。このβは波長依存性があり、その値が波長によって変化する。(1)式における波長とSMF伝送距離の関係を図4に示す。今回、チャープパラメータCを−4、変調速度を10Gbps、初期パルス幅Tを50psとした。また、変調形式についてはReturn to zero(RZ)形式を採用することを想定した。
【0040】
図4の横軸は光パルスの波長であり、縦軸はパルス圧縮効果によりパルス幅が最短となるSMF伝送距離である。図4のように、伝送速度が等しい場合、上記パルス圧縮効果によってパルス幅が最短となるSMF伝送距離は、波長が短くなると短距離化する傾向がある。この特性を活かし、波長ごとにSMF伝送距離を最適化することで、パルス圧縮効果による受信感度の改善を最大限に得ることができる。
【0041】
例えば、ある局舎装置からユーザ(もしくはユーザ群)までの距離が10km、15km、20kmだとした場合、それぞれの距離でパルス圧縮効果が最大となる波長はそれぞれ、1020nm、1120nm、1165nmである。これらの波長を、局舎装置(OLT)から各距離にいるユーザ(もしくはユーザ群)に対して割り当てることで、パルス圧縮効果を最大限に活用することができる。
【0042】
従来の1サービスに1波長を用いる方式では、局舎装置からの距離に関係なく、全てのユーザに対して最も遠く(この場合20km)まで伝送できる波長を使う必要があるため、使用可能な波長領域が限られてしまうか、伝送速度を落とさざるを得ない。一方、光アクセスシステム303は、一つの光アクセス区間50上で複数の波長を使用することができるため、局舎装置160から光受信器200までの距離に合わせて波長を選択することで、伝送速度を落とすことなく同一もしくはそれ以上のサービスを提供することができる。上記の短波長帯を新規波長資源とした光アクセスシステムを既存光アクセス区間で使用することで、経済的なシステムアップグレードが可能となる。
【0043】
以上のように、光アクセスシステム303は、光送信器の光源に既設SMF51において低損失領域である短波長帯の直接変調型レーザ11を用いることで、既存システムと共存可能且つ安価なシステムアップグレードを可能にする。さらには、短波長帯直接変調型レーザのチャープ特性とSMFの波長分散で生み出されるパルス圧縮効果を得ることができ、光受信器200側で受信感度が改善する。そして、設定手段15は、パルス圧縮効果の波長依存性を活用し、光受信器200のSMF伝送距離と波長との組み合わせを最適化して各光送信器100に設定する。これにより、光アクセスシステム303は、各地点において最大限のパルス圧縮効果を得ることができる。
【0044】
(実施形態4)
図5は、実施形態4の光アクセスシステム304を説明する図である。光アクセスシステム304は、短波長帯の直接変調型レーザ11を光源とする局舎装置160、SMF51、パワースプリッタ52、及びユーザ200を備える。局舎装置160は、直接変調型レーザ11及び設定手段15を備える。また、ユーザ200は、モードフィルタ22及び短波長帯光受信部21を備える。
【0045】
短波長帯光送信器100の直接変調型レーザ11が強度変調した光パルスは、SMF51中を伝送しパワースプリッタ52により均等に分岐された後に、それぞれ短波長帯光受信部21により受信される。その際、モード分散による受信特性の劣化を防ぐために、短波長帯光受信部21の前段にモードフィルタ22を設置する。なお、伝送距離が短い場合はモード分散の影響が無視できるので、モードフィルタ22を省略することができる。
【0046】
光アクセスシステム304は、図1の光アクセスシステム301に対して、光送信器100と光受信器200との距離からパルス圧縮効果が最大となるように光受信器200に対する伝送速度を光送信器100に設定する設定手段15をさらに備える。
【0047】
パルス圧縮効果は、SMF51の伝送距離に応じて変化し、ある決まった距離でピークを持つ。その距離というのは、波長が単一であれば直接変調型レーザ11を変調する速度、つまり伝送速度に依存する。設定手段15は、光送信器100の直接変調型レーザ11を変調する速度を可変にする。具体的には、設定手段15は、その特性を活用し、各ユーザ200のSMF伝送距離に応じてパルス圧縮効果が最大になるように当該波長における伝送速度を設定する。
【0048】
次式に、RZ形式を採用した際の伝送速度Bと初期パルス幅の関係を示す。
【数2】

伝送速度とパルス幅が最短となるSMF伝送距離の関係を図6に示す。図6の横軸は、伝送速度(ビットレート)、縦軸はパルス圧縮効果によりパルス幅が最短となるSMF伝送距離である。
【0049】
ここでは波長が1100及び1200nmについての関係を示す。このように、伝送速度が上がるとパルス幅が最短となる伝送距離は短くなる。また、その距離は波長に依存しており、波長が短いほどその距離も短くなる。そのため光アクセスシステム304は、波長と伝送速度を制御することで光アクセス区間(例えば局舎装置から20km以内)全体に亘ってパルス圧縮効果を得る。例えば直接変調型レーザの波長が1100nm、1200nmの場合、光アクセス区間の最長距離(この例では20km)において、パルス圧縮効果が最大となる伝送速度は図6に示すようにそれぞれ8.5Gbps、11.5Gbpsである。
【0050】
図5の光アクセスシステム304は、3人のユーザ200で1つの波長を用いて下りの通信を行っている。ユーザは局舎装置160からの距離が異なっているので、その波長での最大伝送速度もユーザ毎に違った値となっている。光アクセスシステム304はユーザ毎に伝送速度を変えることで、特定波長、当該ユーザ距離における最大の伝送速度で伝送する。これにより、光アクセスシステム304は、光アクセス区間50における波長の伝送帯域を最大限に活用することができる。ユーザ毎に伝送速度(帯域)が異なるため、例えば時分割多重(TDM)を用いてユーザの割り当て時間を制御することで単位時間あたりの割り当て帯域を公平にすることや、帯域を考慮した利用料金にするといった方式が考えられる。
【0051】
(実施形態5)
図7は、実施形態5の光アクセスシステム305を説明する図である。光アクセスシステム305は、図1の光アクセスシステム301に対して、光送信器100と光受信器200との間の総帯域が最大となるように、光受信器200に送信する光パルスの波長、及び光受信器200に対する伝送速度を光送信器100に設定する設定手段15をさらに備える。
【0052】
光アクセスシステム305は複数のユーザが1つの光アクセス区間50を共有し、複数の波長を用いる方式である。図6に示すように局舎装置160からの距離の遠いユーザ200−3は速い伝送速度で伝送するための波長が限られているが、距離が近いユーザ200−1の場合にはより短い波長でも伝送可能であり、距離の近いユーザ200−1は波長の選択肢が多いと言える。そのため遠いユーザ200−3にはより長い波長を、近いユーザ200−1には短い波長を割り当てることにより光アクセスシステム305の総帯域をあげることができる。図7の光アクセスシステム305ではユーザ毎に違う波長を用いているが、互いに距離の近いユーザ毎にグループを作りグループ内では同じ波長を使うことも考えられる。
【0053】
また、局舎装置160からの距離とユーザ分布の関係は一様ではなく、ある程度の距離に多くのユーザが分布している場合もある。この場合、同じ距離に分布しているユーザが多いときに同じ波長を用いて通信を行うとユーザ当たりの利用帯域が減少してしまう。そのため、光アクセス区間50内のユーザの中で利用帯域が公平になるよう同等距離にいるユーザが多いときには、その距離に対し複数の波長を用いる事も考えられる。上記とは異なる割り当て方式として、ユーザ数の多い距離において、より速い伝送速度で伝送できる長波長(例えば1200nm)を割り当て、同じ距離のユーザで帯域を分けた時に、他のユーザとの利用帯域が同等となるよう制御することも可能である。
【0054】
(実施形態6)
図8は、実施形態6の光アクセスシステム306を説明する図である。光アクセスシステム306は図7の光アクセスシステム305において、あるユーザが複数の波長を同時に使う方式である。それぞれの波長でパルス圧縮効果が最大となるように各波長の伝送速度を制御する。このようにあるユーザ200が複数のサービスを使用する際に、ユーザ200の局舎装置160からの距離と使用するサービス(伝送速度)に合わせた波長を選択することで、より高速なサービスを提供することができる。
【0055】
(実施形態3〜6の効果)
以上のように、短波長帯の光アクセスシステム(303〜306)は、光送信器100の光源に既設SMF51において低損失領域であり現有の光デバイスが適用可能な短波長帯の直接変調型レーザ11を用いることで、既存システムと共存可能且つ安価なシステムアップグレードを可能にする。さらには、短波長帯直接変調型レーザ11の周波数チャープ特性とSMF51の波長分散で生み出されるパルス圧縮効果を得られ、光受信器200側で受信感度が改善する。そのパルス圧縮効果の伝送速度(初期パルス幅)依存性を活用し、光送信器における伝送速度を制御することで、光アクセス区間50全体に亘ってパルス圧縮効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
11:直接変調型レーザ
15:設定手段
21、21−1、21−2、21−3、211、221:光受信部
22、22−1、22−2、22−3:モードフィルタ
23、213、223:波長フィルタ
50、50−1、50−2、50−3:光アクセス区間
51;SMF
52:パワースプリッタ
100、100−1、100−2、101、102:光送信器
150:光合波器
160:局舎装置
200、200−1、200−2、200−3、201、202:光受信器、ユーザ
301〜306:光アクセスシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルモードファイバと、
所望の波長域においてパルス圧縮効果が得られるように前記シングルモードファイバの波長分散特性に応じた周波数チャープ特性の光パルスを出力する直接変調型レーザを有する光送信器と、
前記シングルモードファイバを介して前記直接変調型レーザからの前記光パルスを受信する光受信器と、
を備える光アクセスシステム。
【請求項2】
前記光受信器は、モード分散の影響を低減するモードフィルタを有し、前記モードフィルタを介して前記光パルスを受信することを特徴とする請求項1に記載の光アクセスシステム。
【請求項3】
前記シングルモードファイバは、1260〜1650nmの波長域用であり、
前記直接変調型レーザは、1100〜1200nmの波長域の前記光パルスを出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の光アクセスシステム。
【請求項4】
前記光送信器と前記光受信器との距離から前記パルス圧縮効果が最大となる波長を前記光送信器に割り当てる設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光アクセスシステム。
【請求項5】
前記光送信器と前記光受信器との距離から前記パルス圧縮効果が最大となるように前記光受信器に対する伝送速度を前記光送信器に設定する設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光アクセスシステム。
【請求項6】
前記光送信器と前記光受信器との間の総帯域が最大となるように、前記光受信器に送信する前記光パルスの波長、及び前記光受信器に対する伝送速度を前記光送信器に設定する設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光アクセスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−34134(P2013−34134A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169664(P2011−169664)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】