説明

光インプリント方法

【課題】 両面インプリント装置においてディスクを選択的に剥離できる光インプリント方法を提供する。
【解決手段】 前記方法は、両面インプリント装置において、下面側スタンパ装置を上面側スタンパ装置に対峙させた後、下面側スタンパ装置に載置された、両面にレジストが塗布された被転写体に上面側スタンパ装置を押圧しながら、前記被転写体のレジストに下面側スタンパ装置のUV光源及び上面側スタンパ装置のUV光源から紫外線を照射して前記レジストを硬化させ、硬化レジストに前記スタンパのパターンを転写する際に、下面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間を上面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間よりも短くすることにより、転写済みディスクを下面側スタンパ装置から選択的に剥離させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクリートトラックメディアのように両面に微細構造を形成するアプリケーションに適した両面インプリント装置における光インプリント方法に関する。更に詳細には、本発明は、両面インプリント装置でナノインプリントされる被転写体の剥離作業を円滑に行うことができる光インプリント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどの各種情報機器の目覚ましい機能向上により、使用者が扱う情報量は増大の一途を辿り、ギガからテラ単位領域に達している。このような環境下において、これまでよりも一層記録密度の高い情報記憶・再生装置やメモリーなどの半導体装置に対する需要が益々増大している。
【0003】
記録密度を増大させるには、一層微細な加工技術が必要となる。露光プロセスを用いた従来の光リソグラフィー法は、一度に大面積を微細加工することができるが、光の波長以下の分解能を持たないため、自ずから光の波長以下(例えば、100nm以下)の微細構造の作製には適さない。光の波長以下の微細構造の加工技術として、電子線を用いた露光技術、X線を用いた露光技術及びイオン線を用いた露光技術などが存在する。しかし、電子線描画装置によるパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用した一括露光方式によるものと異なって、電子線で描画するパターンが多ければ多いほど、描画(露光)時間がかかる。従って、記録密度が増大するにつれて、微細パターンの形成に要する時間が長くなり、製造スループットが著しく低下する。一方、電子線描画装置によるパターン形成の高速化を図るために、各種形状のマスクを組み合わせてそれらに一括して電子線を照射する一括図形照射法の開発が進められているが、一括図形照射法を使用する電子線描画装置は大型化すると共に、マスクの位置を一層高精度に制御する機構が更に必要になり、描画装置自体のコストが高くなり、結果的に、媒体製造コストが高くなるなどの問題点がある。
【0004】
光の波長以下の微細構造の加工技術として、従来のような露光技術に代えて、プリント技術による方法が提案されている。例えば、特許文献1には、「ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術」に関する発明が記載されている。ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術は、前もって電子線露光技術等の光の波長以下の微細構造の加工技術を用いて、所定の微細構造パターンを形成した原版(モールド)をレジスト塗布被転写基板に加圧しながら押し当て、原版の微細構造パターンを被転写基板のレジスト層に転写する技術である。原版さえあれば、特別に高価な露光装置は必要無く、通常の印刷機レベルの装置でレプリカを量産できるので、電子線露光技術等に比較してスループットは飛躍的に向上し、製造コストも大幅に低減される。このような目的に使用される装置は、「微細構造転写装置」又は「インプリント装置」などと呼ばれている。
【0005】
ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術において、レジストとして熱可塑性樹脂を使用する場合、その材料のガラス転移温度(Tg)近傍又はそれ以上の温度に上げて加圧して転写する。この方式は熱転写方式と呼ばれる。熱転写方式は熱可塑性の樹脂であれば汎用の樹脂を広範に使用できる利点がある。これに対し、レジストとして感光性樹脂を使用する場合、紫外線などの光を曝露すると硬化する光硬化性樹脂により転写する。この方式は光転写方式と呼ばれる。
【0006】
光転写方式のナノインプリント加工法では、特殊な光硬化型の樹脂を用いる必要があるが、熱転写方式と比較して、転写印刷版や被印刷部材の熱膨張による完成品の寸法誤差を小さくできる利点がある。また、装置上では、加熱機構の装備や、昇温、温度制御、冷却などの付属装置が不要であること、更に、インプリント(微細構造転写)装置全体としても、断熱などの熱歪み対策のための設計的な配慮が不要となるなどの利点がある。
【0007】
光転写方式のインプリント(微細構造転写)装置の一例は特許文献2に記載されている。この装置は、紫外線を透過できるスタンパを光硬化性樹脂の塗布された被転写基板に押し当て、上部から紫外線を照射するように構成されている。スタンパの被転写基板押圧面には所定の微細構造パターンが形成されている。
【0008】
特許文献1及び特許文献2に示されるように、従来のインプリント装置では、主に被転写体の片面にのみ所定の微細構造パターンが形成されてきた。しかし、最近では、記録密度を更に増大させるために、ディスクリートトラックメディアのように、両面に微細構造パターンを形成することが強く求められるようになってきた。
【0009】
このような要望に応えるべく、本発明者らは特願2009−294119として両面インプリント装置を出願した。特願2009−294119の明細書に添付された図1〜図7にその装置の一例の概要断面図が示されている。本発明者らが発明した両面インプリント装置は、昇降機構17に支持された上面側スタンパ装置5と、ガイドレール11上に乗せられた移動テーブル9に固設された下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7とからなり、前記移動テーブル9は移動駆動機構15により前記ガイドレール11上を往復動することができ、これにより、前記上面側スタンパ装置5の位置を中心として、前記下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7とが前記上面側スタンパ装置5に対峙する位置に交互に移動することができる。本発明者らが発明した両面インプリント装置では、下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7とがガイドレール11上に乗せられた移動テーブル9に一体的に固設されているので、上面側スタンパ装置5の位置を中心として往復的に動くことができる。これにより、例えば、下面側スタンパ装置3に未硬化レジストが塗布されたディスクを載置する場合には、下面側スタンパ装置3を上面側スタンパ装置5の対峙位置からずらして、上面側スタンパ装置5に被転写体剥離装置7を対峙させる。下面側スタンパ装置3の下側スタンパ29上に未硬化レジスト塗布ディスク43が載置されたら下面側スタンパ装置3を上面側スタンパ装置5の対峙位置に移動させ、上面側スタンパ装置5を下降させて両面転写作業を実施し、次いで、上面側スタンパ装置を上昇させて転写済みディスク53を下面側スタンパ装置3から剥離する。その後、被転写体剥離装置7を上面側スタンパ装置5に対峙させ、転写済みディスク53を上面側スタンパ装置5から剥離する。この時、下面側スタンパ装置3に次の塗布ディスクを載置することもできる。最後に、被転写体剥離装置を上面側スタンパ装置の対峙位置からずらすことにより被転写体剥離装置に保持された転写済みディスク53を回収することができる。前記のように、下面側スタンパ装置3には次の塗布ディスク43が既に載置済みなので、上面側スタンパ装置5を下面側スタンパ装置3に向かって下降させれば両面転写作業を速やかに連続的に実施できる。このように、本発明の両面インプリント装置によれば、プレス機構一式で連続的かつ効率的に被転写体に両面インプリントすることが可能であり、装置構造の簡素化が図られ、スループットを著しく増大させることができる。
【0010】
前記のように、特願2009−294119における両面インプリント装置では、下面側スタンパ装置3の下側スタンパ29上に未硬化レジスト塗布ディスク43が載置されたら下面側スタンパ装置3を上面側スタンパ装置5の対峙位置に移動させ、上面側スタンパ装置5を下降させて両面転写作業を実施し、次いで、上面側スタンパ装置を上昇させて転写済みディスク53を下面側スタンパ装置3から剥離し、その後、被転写体剥離装置7を上面側スタンパ装置5に対峙させ、転写済みディスク53を上面側スタンパ装置5から剥離する。
【0011】
特願2009−294119に記載された両面インプリント装置では、上面用と下面用の2つのスタンパ間で双方に固着した状態で保持されているディスクを、一方のスタンパ(例えば、下面用スタンパ)を湾曲させることにより固着力を減じ、選択的に当該スタンパから剥離し、他方のスタンパ面(例えば、上面用スタンパ)にディスクを固着したまま保持させることが可能である。
【0012】
特願2009−294119に記載された両面インプリント装置における好ましい実施態様では、上面側スタンパに固着された状態を維持しながら、先に下面側スタンパからディスクが剥離され、次いで、上面側スタンパに固着したディスクを被転写体剥離装置により剥離する。しかし、固着力のバラツキが大きいときには、湾曲させないスタンパからも剥離が進行し、選択的剥離ができない場合がある。固着力の均一化、すなわちスタンパを湾曲しないときの固着力が湾曲したときに減ずる値にまで至らないことが固着面全体において必要となる。また、ディスクの剥離のためにスタンパを湾曲させることは、スタンパに変形応力を強いることとなり、スタンパを損傷したり、あるいはスタンパの機械的寿命を減じたりする恐れがあるので、可能であれば、スタンパを湾曲させることなく、ディスクを選択的に剥離できる光インプリント方法の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5772905号公報(US005772905A)
【特許文献2】特開2008−12844号公報(P2008−12844A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、両面インプリント装置においてディスクを選択的に剥離できる光インプリント方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、昇降機構に支持された上面側スタンパ装置と、ガイドレール上に乗せられた移動テーブルに固設された下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とからなり、前記移動テーブルは移動駆動機構により前記ガイドレール上を往復動することができ、これにより、前記上面側スタンパ装置の位置を中心として、前記下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とが前記上面側スタンパ装置に対峙する位置に交互に移動することができる両面インプリント装置において、下面側スタンパ装置を上面側スタンパ装置に対峙させた後、下面側スタンパ装置に載置された、両面にレジストが塗布された被転写体に上面側スタンパ装置を押圧しながら、前記被転写体のレジストに下面側スタンパ装置のUV光源及び上面側スタンパ装置のUV光源から紫外線を照射して前記レジストを硬化させ、硬化レジストに前記スタンパのパターンを転写することからなる光インプリント方法であって、
下面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間が上面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間よりも短い、
ことを特徴とする光インプリント方法により解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、上下のスタンパ装置のUV光源の照射時間を異ならせることにより、下面側スタンパ装置と被転写体との剥離力及び上面側スタンパ装置と被転写体との剥離力に差を発生させることができる。その結果、一方のスタンパ装置から被転写体を選択的に剥離させることが可能になった。本発明者らの研究によれば、UV光源の照射時間の短い方が、UV光源の照射時間の長い方に比べて、小さな剥離力でスタンパ装置から被転写体を剥離させることができることが発見された。従って、特願2009−294119に記載された両面インプリント装置では、下面側スタンパ装置からのUV光源照射時間を短くし、上面側スタンパ装置からのUV光源照射時間を長くすれば、露光後に下面側スタンパ装置から被転写体を選択的に剥離させ、その後、被転写体を上面側スタンパ装置に保持させたまま被転写体剥離装置と前記上面側スタンパ装置を対峙させることができる。このように、被転写体の剥離作業が円滑化されることにより、両面光インプリント作業の効率を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の光インプリント方法が実施される両面インプリント装置の一例の概要断面図である。
【図2】図1に示された両面インプリント装置を用いて本発明の光インプリント方法に従って両面インプリント作業を行う際の一工程を説明する概要断面図である。
【図3】図1に示された両面インプリント装置を用いて本発明の光インプリント方法に従って両面インプリント作業を行う際の一工程を説明する概要断面図である。
【図4】図1に示された両面インプリント装置を用いて本発明の光インプリント方法に従って両面インプリント作業を行う際の一工程を説明する概要断面図である。
【図5】図1に示された両面インプリント装置において、上面側スタンパ装置を上昇させて転写済みディスクを下面側スタンパ装置から剥離する状態を説明する部分概要断面図である。
【図6】図1に示された両面インプリント装置を用いて本発明の光インプリント方法に従って両面インプリント作業を行う際の一工程を説明する概要断面図である。
【図7】図1に示された両面インプリント装置において、被転写体剥離装置により上面側スタンパ装置から転写済みディスクを剥離する状態を説明する部分概要断面図である。
【図8】図1に示された両面インプリント装置を用いて本発明の光インプリント方法に従って両面インプリント作業を行う際の一工程を説明する概要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の光インプリント方法の好ましい実施態様について詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の光インプリント方法が実施される両面インプリント装置1の概要断面図である。前記のように、図1に示される装置自体は特願2009−294119に記載された両面インプリント装置と略同一である。図1の両面インプリント装置1は基本的に下面側スタンパ装置3と、上面側スタンパ装置5と、被転写体剥離装置7とからなる。下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7は移動テーブル9の上面に固設されており、移動テーブル9は、台座11の上面に配設されたガイドレール13に乗せられている。移動テーブル9は、例えば、ステッピングモータ、リニアモータ、ボールスクリューなど公知慣用の移動駆動機構15によりガイドレール13に沿って左右に一体的に移動可能に構成されている。上面側スタンパ装置5は昇降機構17により昇降可能に構成されている。移動駆動機構15及び昇降機構17の動作は制御部19により制御される。必要に応じてガイドレール11の両端部にストッパ41a,41bを配設することもできる。
【0020】
下面側スタンパ装置3はXYステージ21とアライメントカメラ23とUV光源25と、スタンパ載置テーブル27と、下側スタンパ29とスタンパクランプ31a,31bとからなる。スタンパ載置テーブル27及び下側スタンパ29は光透過性素材から形成されており、UV光源25から照射されるUV光を透過させることができる。アライメントカメラ23は下側スタンパ29の上面に被転写体のディスク(図示されていない)を載置するときに、下側スタンパ29とディスクを位置合わせさせるために使用される。実際にはアライメントカメラ23の検出情報に基づき、XYステージ21をX方向及び/又はY方向に移動させて、下側スタンパ29とディスクを位置合わせさせる。下側スタンパ29は、その周縁端部がクランプ31a,31bによりスタンパ載置テーブル27に締着されている。下記で詳細に説明するが、クランプ31a又は31bの一方は上下方向へ僅かに動くことができるように構成されていて、下側スタンパ29の一方の端部のスタンパ載置テーブル27への締着を解放することができる。これは被転写体のディスクを下側スタンパ29から剥離させるために採用された工夫である。
【0021】
上面側スタンパ装置5は、スタンパ支持テーブル33と、この支持テーブル33の下面側に配置された上側スタンパ35と、UV光源37とからなる。スタンパ支持テーブル33及び上側スタンパ35は光透過性素材から形成されており、UV光源37から照射されるUV光を透過させることができる。上側スタンパ35はクランプ39a,39bによりスタンパ支持テーブル33に締着されている。下記で詳細に説明するが、クランプ39a又は39bの一方は上下方向へ僅かに動くことができるように構成されていて、上側スタンパ35の一方の端部のスタンパ支持テーブル33への締着を解放することができる。これは被転写体のディスクを上側スタンパ35から剥離させるために採用された工夫である。
【0022】
下記で詳細に説明するが、両面インプリント装置1で被転写体のディスクに両面インプリント処理を行うと、ディスクは下面側スタンパ装置3の下側スタンパ29からは剥離させることができるが、上面側スタンパ装置5の上側スタンパ35に密着されたままの状態になる。従って、被転写体剥離装置7は上面側スタンパ装置5の上側スタンパ35からディスクを剥離させるために使用される。
【0023】
図2は図1に示された両面インプリント装置1を用いて両面インプリント作業を行う際の、下面側スタンパ装置3の下側スタンパ29にディスク43を載置する状態を説明する概要断面図である。両面に光硬化性レジストが塗布されたディスク43は、ディスクハンドリングアーム45の先端に取り付けられたディスクチャック47により搬送される。ディスク43は外周縁までレジスト49a,49bが塗布されているので、ディスク外周縁をチャックする形式では搬送できないが、ディスク43の中央の貫通孔周辺部にはレジスト49a,49bが塗布されない領域51があるので、このレジスト非塗布領域51をディスクチャック47により真空吸着して搬送することが好ましい。ディスクハンドリングアーム45は昇降可能かつ進退又は回転可能に構成されていることが好ましい。ディスクハンドリングアーム45によりディスク43が下側スタンパ29の直上に搬送されてきたら、下面側スタンパ装置3のアライメントカメラ23がディスク43の内径中心と下側スタンパ29の中心のアライメントマークとを検出し、その検出信号に基づき、XYステージ21を駆動させ、ディスク43と下側スタンパ29とを位置合わせさせる。ディスク43と下側スタンパ29とが位置合わせされたら、ディスクハンドリングアーム45を下降させ、ディスク43を下側スタンパ29の表面に載置し、ディスクチャック47の真空吸着を解除した後、ディスクハンドリングアーム45を待避させる。ディスク43の両面にレジスト49a,49bを塗布する方法は、例えば、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、インクジェットなどの公知慣用の方法を使用することができる。ディスクへのレジストの両面スピンコートに関しては、東京都板橋区に所在する株式会社ナノテックから両面スピンコーターが市販されている。両面エアースプレーコーター、静電スプレーコーター、ロールコータは東京都目黒区に所在するファイコーポレーションから市販されている。ディスクの両面にレジストをインクジェット塗布する装置に関しては本願出願人による特願2009−161494の明細書に開示されている。
【0024】
ディスク43は例えば、HDD、CD又はDVDなどのような中心に貫通穴が形成されたドーナツ形の円盤状ディスク基板などである。ディスク43の表面には必要に応じて、金属層、樹脂層、酸化膜層などの常用の薄膜を形成し、多層構造体とすることもできる。レジスト49a,49bは例えば、合成樹脂材料に感光性物質を添加したものを使用することができる。合成樹脂材料としては例えば、主成分がシクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレンポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール(PVA)などが使用できる。感光性物質は例えば、過酸化物、アゾ化合物類(例えば、アゾビスイソブチロニトリルなど)、ケトン類(例えば、ベンゾイン、アセトンなど)、ジアゾアミノベンゼン、金属系錯塩類、染料類などが挙げられる。
【0025】
図3は図1に示された両面インプリント装置1による両面インプリント作業の一工程を示す概要断面図である。図2で説明したように、両面にレジスト49a,49bが塗布されたディスク43が下側スタンパ29の上面に載置されたら、下面側スタンパ装置3及び被転写体剥離装置7は、移動駆動機構15により移動テーブル9がガイドレール11に沿って移動され、下面側スタンパ装置3が上面側スタンパ装置5に対峙する位置にまで移動されたら、その位置で停止される。必要に応じて、下面側スタンパ装置3のアライメントカメラ23により、下側スタンパ29のアライメントマークと上側スタンパ35のアライメントマークとを検出し、その検出信号に基づき、XYステージ21を駆動させ、下側スタンパ29と上側スタンパ35とを位置合わせさせる。下側スタンパ29と上側スタンパ35とが位置合わせされたら、昇降機構17により上面側スタンパ装置5を下降させて、ディスク43に所定の圧力で押圧し、当接させる。
【0026】
図4は図1に示された両面インプリント装置1による両面インプリント作業の一工程を示す概要断面図である。昇降機構17により上面側スタンパ装置5が下降され、ディスク43に所定の圧力で押圧し、当接されたら、次いで、下面側スタンパ装置3のUV光源25及び上面側スタンパ装置5のUV光源37からUV光を照射し、レジスト49a,49bを硬化させる。これにより、ディスク43の下面側レジスト49bに下側スタンパ29のパターンが転写され、上面側レジスト49aに上側スタンパ35のパターンが転写される。
【0027】
本発明の光インプリント方法によれば、下面側スタンパ装置3のUV光源25の照射時間は、上面側スタンパ装置5のUV光源37の照射時間よりも短くする。一例として、下面側スタンパ装置3のUV光源25の照射時間は、2秒間〜4秒間の範囲内であり、上面側スタンパ装置5のUV光源37の照射時間は5秒間〜12秒間の範囲内であることが好ましい。下面側スタンパ装置3のUV光源25の照射時間が2秒間未満の場合、被転写体の下面側に塗布されたレジストの硬化が不十分となる可能性がある。一方、下面側スタンパ装置3のUV光源25の照射時間が4秒間超の場合、下面側スタンパ装置と被転写体との固着力が強くなり過ぎ、上面側スタンパ装置と被転写体との固着力の差が小さくなりすぎて選択的剥離が困難になる可能性がある。上面側スタンパ装置5のUV光源37の照射時間が5秒間未満の場合、下面側スタンパ装置と被転写体との固着力に対して上面側スタンパ装置と被転写体との固着力の差が小さすぎて選択的剥離が困難になる可能性がある。一方、上面側スタンパ装置5のUV光源37の照射時間が12秒間超の場合、上面側スタンパ装置と被転写体との固着力が飽和し、作業時間が徒に長くなり不経済となるだけである。本発明者らの実験によれば、スタンパを、レジストが100nmの厚さで塗布されたφ65mm、厚さ0.635mmのシリコン製ディスクに100Nの押圧力で押し付け、スタンパ上面からUV光を所定時間照射してレジストを硬化させ、ディスク端から約30mmの位置でスタンパを引き上げたときの、UV光照射時間と剥離力の関係として、UV光照射時間が3秒間のときの剥離力は6Nであり、UV光照射時間が10秒間のときの剥離力は10Nであった。しかし、処理条件(例えば、ディスクサイズ、レジスト塗布厚、スタンパ押圧力等)が異なれば、同じUV光照射時間であっても剥離力は異なることもある。具体的な処理条件が決まれば、実験を繰り返すことにより、当該処理条件におけるUV光照射時間と剥離力の関係を予め突き止めることができる。一般的に、本発明の光プリント方法を実施する場合、被転写体の選択的剥離を可能にするためには、下面側スタンパ装置と被転写体との固着力に対して、上面側スタンパ装置と被転写体との固着力が1.5倍〜2倍程度高いことが好ましい。固着力の差が1.5倍未満では被転写体の選択的剥離が困難になる可能性がある。一方、固着力の差が2倍超の場合、被転写体の選択的剥離にとって必要十分過ぎるだけで無駄である。
【0028】
UV光源25及びUV光源37としては公知慣用のUV光源を使用することができる。例えば、水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀水銀ランプ、キセノンランプ又はUV−LED光源などを適宜選択して使用することができる。特に、UV−LED光源が好ましい。UV−LED光源は水銀ランプに比べて大幅に小型化され、紫外線波長が365nmのため熱の発生が大幅に抑えられるので、照射物への悪影響又はダメージが無い。更に低消費電力で環境に優しく、長寿命(10000〜20000時間)なのでランプ交換によるライン停止時間を短くすることができるなどの利点がある。
【0029】
図5は図1に示された両面インプリント装置1による両面インプリント作業の一工程を示す部分概要断面図である。図4で説明したように、ディスク43の両面へのパターン転写が完了したら、次に転写済みディスク53を回収する。その際、図5に示されるように、上面側スタンパ装置5のクランプ39a及び39bで上側スタンパ35を締着し、かつ、下面側スタンパ装置3のクランプ31a及び31bで下側スタンパ29を締着しながら、上面側スタンパ装置5を上昇させる。すると、上側スタンパ35と転写済みディスク53との固着力の方が、下側スタンパ29と転写済みディスク53との固着力よりも大きいので、転写済みディスク53は上側スタンパ35に固着保持されたまま、下側スタンパ29から選択的に剥離される。転写済みディスク53の剥離は、上面側スタンパ装置5の上昇に連れて、下側スタンパ29の周縁部から中央部に向かって進むものと思われる。
この固着力の差を利用することにより、クランプ39a及び39bで上側スタンパ35を締着し、かつ、クランプ31a及び31bで下側スタンパ29を締着させたまま上面側スタンパ装置5を上昇させても、転写済みディスク53を損傷することなく、下面側スタンパ装置3から転写済みディスク53を選択的に剥離させることができる。図1の両面インプリント装置では、転写済みディスク53を下側スタンパ29から剥離させるが、上側スタンパ35には密着させたままの状態に維持しないと後のディスク回収工程に進むことができない。従って、本発明の光インプリント方法による被転写体の選択的剥離効果はスループットの向上にとって極めて重要である。
【0030】
転写済みディスク53が下側スタンパ29から剥離されたら、図6に示されるように、移動テーブル9の上面に固設された下面側スタンパ装置3及び被転写体剥離装置7を、移動駆動機構15によりガイドレール11に沿って移動する。被転写体剥離装置7が上面側スタンパ装置5に対峙する位置にまで移動されたら、その位置で停止させる。その後、昇降機構17により上面側スタンパ装置5を下降させて、転写済みディスク53を被転写体剥離装置7に係合させる。この際、図2に示されるように、下面側スタンパ装置3に次の塗布ディスク43を載置することもできる。
【0031】
図7に示されるように、被転写体剥離装置7のディスク支持軸55の上端部の凸部が転写済みディスク53の中央部の貫通孔内に挿入され、転写済みディスク53の周縁部は真空チャック部57の上端寄り内壁面に係止される。真空チャック部57の内壁面は上端方向に向かって拡開するように構成されていることが好ましい。真空チャック部57の底部には真空吸引口59が配設されており、この真空吸引口59に真空ポンプなどの公知慣用の手段を接続することにより転写済みディスク53を真空チャックすることができる。ディスク支持軸55は昇降可能に構成されている。これは、後の工程で転写済みディスク53を別のアンローダに引き渡すために必要な機構である。従って、ディスク支持軸55と真空チャック部57との摺接界面には真空を維持するためのO−リング61を配設することが好ましい。
【0032】
図7に示されるように、真空吸着により転写済みディスク53を被転写体剥離装置7に係合させたままの状態で、上面側スタンパ装置5のクランプ39a及びクランプ39bで上側スタンパ35を締着しながら、上面側スタンパ装置5を上昇させる。この際、重要なことは、被転写体剥離装置7による転写済みディスク53の吸着力の方が、上側スタンパ35と転写済みディスク53との固着力よりも大きくなければならない。上側スタンパ35と転写済みディスク53との固着力の方が被転写体剥離装置7による転写済みディスク53の吸着力よりも大きいと、転写済みディスク53を上側スタンパ35から剥離させることが困難であるばかりか、最悪の場合には転写済みディスク53を損傷してしまうことがある。被転写体剥離装置7による転写済みディスク53の吸着力の方が、上側スタンパ35と転写済みディスク53との固着力よりも大きいと、上面側スタンパ装置5の上昇に連れて、転写済みディスク53は被転写体剥離装置7に保持された状態で上側スタンパ35から徐々に剥離されていき、最後には、転写済みディスク53は上側スタンパ35から完全に剥離され、被転写体剥離装置7に真空吸着されたまま保持される。
【0033】
図8は図1に示された両面インプリント装置1による両面インプリント作業の最終工程を示す部分概要断面図である。転写済みディスク53が上側スタンパ35から剥離されたら、移動テーブル9に固設された下面側スタンパ装置3及び被転写体剥離装置7を、ガイドレール11に沿って移動し、下面側スタンパ装置3が上面側スタンパ装置5に対峙する位置にまで移動したら、その位置で停止させる。被転写体剥離装置7の真空チャック部57による真空チャックを停止し、ディスク支持軸55を上昇させる。ディスク支持軸55の上端部に支持された転写済みディスク53をアンローダ63により回収し、製品カセット(図示されていない)に収納する。アンローダ63にはXYZ方向に動くことができる真空チャック式の機構を使用することが好ましい。このようなアンローダ機構は当業者に公知である。前記のように、下面側スタンパ装置3に次の塗布ディスク43が既に載置されている場合には、転写済みディスク53のアンローダ作業と同時に、上面側スタンパ装置5を下降させ、転写作業を実施する。これにより、図1の両面インプリント装置において本発明の光インプリント方法を実施すれば、連続的かつ効率的に被転写体を両面インプリントすることが可能になり、スループットを飛躍的に増大させることができる。
【実施例1】
【0034】
図1に示されるような両面インプリント装置を用いて本発明の光インプリント方法による選択的剥離効果を実験した。
φ65mm、厚さ0.635mmのシリコン製ディスク43の上面側及び下面側に、市販の光硬化性アクリル系レジストをスピンコート法により厚さ100nmの膜厚で塗布した。このディスク43を下側スタンパ29の上面に、アライメントカメラ23により位置決めして載置した。その後、下面側スタンパ装置3を上面側スタンパ装置5の直下に移動させ、停止させた。この位置で、アライメントカメラ23によりディスク43の内径中心を検出し、ディスク43の位置ずれが無いことを確認した。上面側スタンパ装置5を下降させ、上側スタンパ35を下側スタンパ29の上面のディスク43に100Nの押圧力で当接させた。次いで、下面側スタンパ装置3のUV光源(UV−LED光源)25から3秒間、及び同時に、上面側スタンパ装置5のUV光源(UV−LED光源)37から10秒間UV光を照射し、レジストを硬化させた。
上面側スタンパ装置5を上昇させた。その結果、ディスク43は下側スタンパ29から剥離されたが、上側スタンパ35からは全く剥離されなかった。
その後、被転写体剥離装置7を上面側スタンパ装置5の直下に移動させ、昇降機構17により上面側スタンパ装置5を下降させて、真空吸着により転写済みディスク53を被転写体剥離装置7に係合させた。この状態を維持しながら、昇降機構17により上面側スタンパ装置5を上昇させた。その結果、転写済みディスク53は上側スタンパ35から剥離され、被転写体剥離装置7に保持された。
これらの結果から明らかなように、上面側スタンパ装置5のUV光源37からのUV光照射時間よりも下面側スタンパ装置3のUV光源25からのUV光照射時間を短くすることにより、転写済みディスク53を下側スタンパ29から選択的に剥離させることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上、本発明の光インプリント方法の好ましい実施態様について説明してきたが、本発明は例示された実施態様に限定されず、様々な変更を為すことが可能である。例えば、図1に示されるような両面インプリント装置以外の両面インプリント装置であって、転写済みディスクの選択的剥離が必要な場合には、本発明の光インプリント方法を好適に実施できる。
【符号の説明】
【0036】
1 本発明の光インプリント方法を実施する両面インプリント装置
3 下面側スタンパ装置
5 上面側スタンパ装置
7 被転写体剥離装置
9 移動テーブル
11 台座
13 ガイドレール
15 移動駆動機構
17 昇降機構
19 制御部
21 XYステージ
23 アライメントカメラ
25 UV光源
27 スタンパ載置テーブル
29 下側スタンパ
31a,31b スタンパクランプ
33 スタンパ支持テーブル
35 上側スタンパ
37 UV光源
39a,39b スタンパクランプ
41a,41b ストッパ
43 ディスク
45 ディスクハンドリングアーム
47 ディスクチャック
49a 上側未硬化レジスト
49b 下側未硬化レジスト
51 未硬化レジスト非塗布領域
53 転写済みディスク
55 ディスク支持軸
57 真空チャック部
59 真空吸引口
61 O−リング
63 アンローダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機構に支持された上面側スタンパ装置と、ガイドレール上に乗せられた移動テーブルに固設された下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とからなり、前記移動テーブルは移動駆動機構により前記ガイドレール上を往復動することができ、これにより、前記上面側スタンパ装置の位置を中心として、前記下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とが前記上面側スタンパ装置に対峙する位置に交互に移動することができる両面インプリント装置において、下面側スタンパ装置を上面側スタンパ装置に対峙させた後、下面側スタンパ装置に載置された、両面にレジストが塗布された被転写体に上面側スタンパ装置を押圧しながら、前記被転写体のレジストに下面側スタンパ装置のUV光源及び上面側スタンパ装置のUV光源から紫外線を照射して前記レジストを硬化させ、硬化レジストに前記スタンパのパターンを転写することからなる光インプリント方法であって、
UV光源から紫外線を照射するステップにおいて、下面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間が上面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間よりも短い、
ことを特徴とする光インプリント方法。
【請求項2】
下面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間が2秒間〜4秒間の範囲内であり、上面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射時間が5秒間〜12秒間の範囲内である請求項1記載の光インプリント方法。
【請求項3】
下面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射により形成される下面側スタンパ装置と被転写体との固着力に対して、上面側スタンパ装置に配設されたUV光源の照射により形成される上面側スタンパ装置と被転写体との固着力が1.5倍〜2倍程度高い請求項1又は2記載の光インプリント方法。
【請求項4】
下面側スタンパ装置と被転写体との固着力と、上面側スタンパ装置と被転写体との固着力の差を利用し、被転写体を下面側スタンパ装置から選択的に剥離するステップを更に有する請求項1〜3の何れかに記載の光インプリント方法。
【請求項5】
UV光源はUV−LED光源である請求項1〜3の何れかに記載の光インプリント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−99197(P2012−99197A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248350(P2010−248350)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】