説明

光スイッチング素子

【課題】 走査距離と消光比が大きい光走査型スイッチング素子を低コストで提供する。
【解決手段】 導波路103の壁をフォトニック結晶とした。これにより、θxを大きくした場合においても、反射率をほぼ100%にすることが可能になる。また、θxを大きく取ることができるため、壁との相互作用を大きくすることができる。これにより、小さな変調によっても、光への相互作用は大きくなる。すなわち、本発明によれば、伝播する光の光軸と導波方向とのなす角が0°<θx<90°とし、かつ導波路103の面をフォトニック結晶することで、変調材料と相互作用を高めることができる。これにより、高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光を任意の個所にのみ出力する走査型の光スイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
導波路と変調手段とを一体にし、光の出射位置を走査する素子がある。導波路と変調手段とを一体とすることで、偏向効率を上げることが可能となるが、偏向角が小さい。偏向角が小さいと走査距離を大きくするために、複雑な光学系が必要であり、コスト高になる。
図5(A)は光スイッチング素子の従来例を示す概念図であり、図5(B)は図5(A)の平面図である。
導波路2を伝播する光の光軸は、導波路2の導波方向に対して、ほぼ平行であり、伝播する光の光軸と導波路5の方向とがなす角θxは実質的には0°となっている。ここでの変調手段としてAO(音響光学)効果を利用しているが、この方式ではAO素子との相互作用が小さく、大きく偏向することができない(例えば、特許文献1参照)。
このように、光と変調手段との相互作用が小さく、消光比や偏向角が小さくなってしまう例は多い(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
図6は光スイッチング素子の他の従来例を示す概念図である。
同図に示す光スイッチング素子は、下層に導波路32を有し、下層の導波路32の上面に光スイッチ層36を有しており、光スイッチ層36の変調によって、光を立ち上げる(出射する)方式の素子である。導波路32の導波方向と伝播光とのなす角は0°では無いため、偏向角を非常大きく取れている。しかし、導波路32自体は屈折率分布によって光を閉じ込めているため、導波方向と伝播光とのなす角θxを大きく取ると漏れ光が増大し、消光比が低下する。消光比を大きくするには、光スイッチ層36の変調を大きくとる必要がある。変調方法として、屈折率変化や着色濃度変調、透過率変調などが考えられているが、大きな変調を作るには特殊な材料を必要とするのでコストが高くなる(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
また、導波路としてフォトニック結晶を利用したものが多くあり、本発明と同様に光スイッチとしての応用を検討している報告がある。
例えば、フォトニック結晶内に欠陥導波路を形成し、その欠陥導波路の近傍に点欠陥を形成する。その欠陥導波路を伝播する光と、点欠陥とが共鳴状態になった場合に、伝播光が点欠陥から欠陥導波路の導波方向に対し垂直に出射する。この素子を応用し、波長によって出射位置を走査させることができる。波長を任意にコントロールする事でこの素子を走査素子として利用することは可能である。しかし、伝播光の波長を任意にコントロールにはそれに対応した発光素子が必要となり、コストが高くなる(例えば、非特許文献1参照)。
また、フォトニック結晶の媒質として、非線型結晶を利用し、光の変調を行なう方法が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この文献では非常に大きい屈折率変化が必要であることが判る。
【特許文献1】特開2000−19570号公報
【特許文献2】特開平10−192710号公報
【特許文献3】特開2001−17197号公報
【非特許文献1】S.Noda, IEEE Journal of Quantum Electronics Vol.38 No7.JULY(2002)p.726-732
【非特許文献2】T.BaBa, Jpn.J.Appl.Phys.Vol.42(2003)p.1603-1608
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術では走査距離と消光比とが大きい光走査型スイッチング素子を低コストで提供することができなかった。
そこで、本発明の目的は、走査距離と消光比とが大きい光走査型スイッチング素子を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1記載の発明は、光導波路と、前記光導波路内を伝播する光の伝播経路を変調させることにより伝播方向を変化させる変調手段とからなり、その変調手段によって前記光導波路からの光の出射位置を走査させる光スイッチにおいて、前記導波路の導波方向zに対する前記導波路内を伝播する光の光軸のzx面上の角度θxが、以下の不等式0°<θx<90°(但し、x方向は前記導波路のフォトニック結晶を有する面の法線方向)を満たし、前記導波路における光を閉じ込める面がフォトニック結晶によって構成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記光導波路の光の出射位置はフォトニック結晶面であることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記フォトニック結晶は誘電体多層膜で構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記変調手段としてフォトリフラクティブ結晶における屈折率変化を利用することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記変調手段として過飽和吸収材料における吸収係数変化を利用したことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記変調手段として電気光学結晶における屈折率変化を利用したことを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記変調手段として熱によって屈折率が変化する材料を利用したことを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記変調手段としてフランツケルディッシュ効果を利用したことを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の発明は、請求項1から3、6から8のいずれか1項記載の発明において、前記フォトニック結晶の表面に電極を配置したことを特徴とする。
【0015】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、前記変調手段は、電気によって駆動する材料を用いた第1の変調部と、第1の変調部の影響を受けて作用する第2の変調部とで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1の目的)
導波路の導波方向とは、図4に示すz方向とする。
図4は導波路の導波方向と伝播光の光軸との関係を示す図である。
伝播光の光軸401−1〜401−6は図4に示すように、反射する毎に変化する。伝播光の反射は入射角によって決定させるため、伝播光の光軸401−1〜401−6も導波路103に入射する際の角度によって一意に決定される。伝播光の光軸401−1〜401−6と導波路103の導波方向400とのなす角θxを0°<θxとすると、伝播光は導波路103の側壁に鋭利な角度で入射することになる。一般的な導波路構造はコアの屈折率とクラッドの屈折率との差で光を反射させて閉じ込めるが、この反射率には入射角依存性があり、高い反射率(全反射に近い反射率)を得るには、できるだけ浅い臨界角に近い角度で入射する必要がある。入射角が大きいと導波路103から漏れる光が多くなる。しかし、入射角が浅いと変調による偏向作用が起こしにくい。
以上のように“偏向作用の大きさ”と“導波路から光が漏れる量”との間には入射角に依存するトレードオフが存在する。このため、走査距離と消光比とが大きい光走査型スイッチング素子を低コストで提供する必要がある。なお、図中、101、102は誘電体多層膜であり、402は基板である。
【0017】
(請求項1の効果)
請求項1記載の発明は、光導波路と、前記光導波路内を伝播する光の伝播経路を変調させることにより伝播方向を変化させる変調手段とからなり、その変調手段によって前記光導波路からの光の出射位置を走査させる光スイッチにおいて、前記導波路の導波方向zに対する前記導波路内を伝播する光の光軸のzx面上の角度θxが、以下の不等式0°<θx<90°(但し、x方向は前記導波路のフォトニック結晶を有する面の法線方向)を満たし、前記導波路における光を閉じ込める面がフォトニック結晶によって構成されている。
本発明では導波路の壁をフォトニック結晶とした。これにより、θxを大きくした場合においても、反射率をほぼ100%にすることが可能になる。また、θxを大きく取ることができるため、壁との相互作用を大きくすることができる。これにより、小さな変調によっても、光への相互作用は大きくなる。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、伝播する光の光軸と導波方向とのなす角が0°<θx<90°とし、かつ導波路の面をフォトニック結晶することで、変調材料と相互作用を高めることができる。これにより、高い消光比を示す光スイッチを低コストで提供できる。
【0018】
(請求項2の目的)
特許文献3で見られるように、屈折率差のみを利用した導波路では、光スイッチ層との相互作用が小さく、高い消光比が取れない。このため、消光比が大きい光走査型スイッチング素子を提供する必要がある。
【0019】
(請求項2の効果)
請求項1の光スイッチング素子において、出射位置はフォトニック結晶面であることを特徴とする。フォトニック結晶にすることで、先に述べたように入射角θxが大きくても導波路から漏れる光が少なく、入射角θxを大きくすることで、フォトニック結晶における屈折率変化に対し、入射光の相互作用が大きい。フォトニック結晶による光との相互作用を増強する作用については、様々な研究成果が出されている。例えば、井上英幸氏他、光学、第30巻、第2号(2001年)p.92などに記載されているように、フォトニック結晶ではその内部に入射光の共鳴状態を形成することができる。この共鳴状態において屈折率を変化させることで、光に対し強い相互作用を与えることができる。これにより、光のスイッチングを行なうことができる。
すなわち、出射位置にフォトニック結晶を配置することで、フォトニック結晶における屈折率変化との相互作用を大きくすることができ、低コストの光スイッチング素子を提供することができる。
【0020】
(請求項3の目的)
請求項3の光スイッチング素子において、フォトニック結晶はその屈折率分布を波長オーダーとする事で、フォトニックバンドギャップを形成する材料である。しかし、屈折率分布を波長オーダーで加工する事は困難であり、製造コストを押し上げる原因となる。このため、製造コストの低い光スイッチング素子を提供する必要がある。
【0021】
(請求項3の効果)
請求項1または2記載の光スイッチング素子において、フォトニック結晶は誘電体多層膜で構成されていることを特徴とする。導波路の導波方向を基板に対し平行にすることで、導波路の壁面は基板に平行な面を2面有することになる。導波方向が基板と平行な面であれば、スパッタやCVDなどの半導体プロセスにおける成膜方法を用いて、屈折率異なる複数の層を積層することは容易であり、低コストの製造方法を利用する事ができる。
すなわち、フォトニック結晶を誘電体多層膜で作製することで、低コストプロセスを利用することができ、光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【0022】
(請求項4〜8の目的)
従来、変調手段としてAO素子が用いられていた。AO素子は高周波の弾性波を回折格子として利用するため、微細な領域に限定することはできない。AO素子は高い周波数の信号を出力するドライバやドライバのコントローラなど、複雑で高価な装置が必要である。また、高い周波数の信号を出力するために発熱などの問題がある。他の変調手段として、非線型結晶を利用したものがある。導波路に非線型結晶のプリズムを挿入したものであるが、偏向角が小さい(例えば、特許文献2参照)。また、フォトニック結晶によって加工されたスラブ式の導波路を用いた方式もある。この場合には、屈折率を1.1から2.3程度まで変化させて、バンドギャップを変調している。スラブ式導波路では大きな屈折率変化が必要であり、一般的な電気駆動による電気光学結晶を利用した方法は不可能である。このため、低コストの光スイッチング素子を提供する必要がある。
【0023】
(請求項4の効果)
請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子において、変調手段としてフォトリフラクティブ結晶における屈折率変化を利用することを特徴とする。フォトリフラクティブ結晶を用いて誘電体多層膜を作製することで、信号光の光によって屈折率を変化させることができる。屈折率を変えることで、誘電体多層膜は反射率を変える。これによって、透過光も制御することが可能になる。
すなわち、請求項4記載の発明によれば、変調手段として、フォトリフラクティブ結晶を利用することで、高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【0024】
(請求項5の効果)
請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子において、変調手段として過飽和吸収材料における吸収係数変化を利用することを特徴とする。過飽和吸収体を用いて誘電体多層膜を作製することで、信号光の光によって、透過量を変化させることができる。これによって、透過光も制御することが可能になる。
すなわち、請求項5記載の発明によれば、変調手段として、過飽和吸収体を利用することで、高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【0025】
(請求項6の効果)
請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子において、変調手段として電気光学材料における屈折率変化を利用することを特徴とする。電気光学結晶を用いて誘電体多層膜を作製することで、電圧を印加することによって、屈折率を変化させることができる。屈折率を変えることで、誘電体多層膜は反射率を変える。これによって、透過光も制御することが可能になる。
すなわち、請求項6記載の発明によれば、変調手段として、電気光学結晶を利用することで、高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【0026】
(請求項7の効果)
請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子において、変調手段として熱によって屈折率が変化する材料を利用したことを特徴とした光スイッチング素子とした。熱によって屈折率が変化する材料を用いて誘電体多層膜を作製する。電圧印加により発熱を起こし、材料の屈折率を変化させることができる。屈折率を変えることで、誘電体多層膜は反射率を変える。この反射率の変化によって、透過光も制御することが可能になる。また、熱を供給する手段として、光によって行なうこともできる。
すなわち、請求項7記載の発明によれば、変調手段として、変調手段として熱によって屈折率が変化する材料を利用することで、高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【0027】
(請求項8の効果)
請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子において、変調手段としてフランツケルディッシュ効果を利用したことを特徴とした光スイッチング素子とした。フランツケルディッシュ効果を用い、電圧を印加した領域のみに光吸収の変化を起こすことができる。これは電圧を印加することでエネルギーバンド端が見かけ上傾き、バンドギャップが小さくなることによっている。また、励起子吸収が起きる波長の変化などを利用することで、この効果の効率を上昇させることもできる。従来利用されてきたフランツケルディッシュ効果を利用した平面型のスイッチング素子としては、GaAsの超格子を利用したものがある。また、この効果によって、見かけ上屈折率も変化することになる。フランツケルディッシュ効果によって屈折率が変化する材料を用いて誘電体多層膜を作製する。電圧印加によりフランツケルディッシュ効果を起こし、材料の屈折率を変化させることができる。屈折率を変えることで、誘電体多層膜は反射率を変える。これによって、透過光も制御することが可能になる。
すなわち、請求項8記載の発明によれば、変調手段として、変調手段としてフランツケルディッシュ効果を利用することで、高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【0028】
(請求項9の目的)
光を出射する位置を光によって選択する方法では、光をそれぞれ位置に伝播させる方法が必要である。導波路によって光を伝播させる方法では、急峻な曲げができないなど、加工が難しく、加工する上でのコストがかかる。このため、低コストの光スイッチング素子を提供する必要がある。
【0029】
(請求項9の効果)
請求項1から3、6から8のいずれか1項記載の光スイッチング素子において、フォトニック結晶の表面に電極を配置したことを特徴とする。電気配線を行なったことで電気による変調が可能になる。電極配線は曲げなどに強く微細な配線が可能なり、狭ピッチでの配線が可能なる。
すなわち、請求項9記載の発明によれば、電気配線により信号を送ることにより、構造が単純化し低コストの光スイッチング素子を提供できる。
【0030】
(請求項10の目的)
従来はスイッチング素子の材料として、フォトリフラクティブ材料、過飽和吸収体、電気光学材料、熱光学材料、フランツケルディッシュ効果を利用した材料などを単独で利用してきた。それぞれの材料を利用することで、本発明の目的である低コスト化は実現できる。しかし、更なる低コスト化を目指した場合には、以下に示す問題が残されている。
1.フォトリフラクティブ材料:フォトリフラクティブ材料とは光を照射して、その照射光によって屈折率が変化する特性を示す材料のことである。フォトリフラクティブ材料は光を照射させることにより駆動するため、光をそれぞれの出射位置に誘導する必要があり、その光を誘導する導波路を微細加工することは製造コストを上昇させる。
2. 過飽和吸収体:過飽和吸収体は光吸収係数が光強度によって変化する材料を指す。光を照射させて駆動するため、光をそれぞれの出射位置に誘導する必要があり、その光を誘導する導波路を微細加工することは製造コストを上昇させる。
3.電気光学材料:電気光学材料とは、電圧を印加し、その電圧によって屈折率が変化する材料を指す。電気駆動ができるため電気配線が容易であるが、電圧印加による屈折率変化が小さいため、高い消光比が取れない。屈折率変化を大きくするために、複雑な構成をとる必要があり、その製造コストが高くなる。
4.熱光学材料:熱光学材料とは材料に熱を加え、熱によって屈折率を変化させる材料を指す。電気駆動ができるため電気配線が容易であるが、熱の反応速度が遅い。また、光によって加熱を行なう光駆動も可能ではあるが、フォトリフラクティブ材料と同様、光の誘導に必要な導波路加工がコストを上昇させる。
5.フランツケルディッシュ効果:フランツケルディッシュ材料とは電圧を印加し、材料のエネルギーバンドを擬似的に変調することで、光吸収係数、見かけの屈折率を変化させる材料を指す。電気駆動ができるため電気配線が容易であるが、屈折率変化が小さいため、高い消光比が取れない。消光比を取るためには複雑な構成が必要であり、コストを上昇させる。
このような問題があるために、更なる低コスト化を阻害する。このため、低コストの光スイッチング素子を提供する必要がある。
【0031】
(請求項10の効果)
請求項9記載の光スイッチング素子において、第1の変調手段として電気によって駆動する材料を用い、その影響を受けて第2の変調手段が作用することを特徴とした光スイッチング素子とした。第1の変調手段としては、電気光学材料による屈折率変調やフランツケルディッシュ効果、過飽和吸収材料、熱による屈折率変化などを利用ことができる。
第1の変調の手段としては、電圧による駆動などのように微小変調を起こすものを利用する。第2の変調手段として、フォトリフラクティブ材料や過飽和吸収材料などを利用する。第2の変調手段としては、光による変調が可能な材料を採用する。本発明では、第1の変調材料によって、光の透過量を微小に制御し、その透過光が第2の変調手段の駆動光源となる。これにより、第1の変調手段での消光比が小さくても、この光によって駆動される第2の変調手段によって、トータルの変調としては大きな消光比となる。また、第1の変調手段は電気のよる駆動が可能であるため、請求項9に記載の低コストプロセスを利用できる。
すなわち、請求項10記載の発明によれば、変調手段を、電気によって駆動する材料を用いた第1の変調部と、第1の変調部の影響を受けて作用する第2の変調部とで構成することで、低コストの電気配線で駆動でき、かつ光の変調による大きな消光比がとれる変調手段を採用できる。これにより高い消光比を示す光スイッチング素子を低コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(実施形態1)
<構成>
図1に本発明の光スイッチング素子の一実施の形態の概要図を示す。
光スイッチング素子100において、導波路103の導波路方向はz軸方向にあり、y方向は屈折率による光閉じこめ方向であり、x方向は誘電体多層膜101、102による光閉じ込めがなされている。誘電体多層膜101、102は周期的に屈折率の異なる材質を積層しており、この構造により反射率を非常に高めることができる。これは一般的に言われているフォトニック結晶におけるフォトニックバンドギャップに起因する。誘電体多層膜101、102は光によって屈折率を変化させるフォトリフラクティブ材料が用いられている。フォトリフラクティブ材料として、コバルト酸化物(Co34)を利用し、誘電体多層膜101、102はコバルト酸化物とSiO2との積層、導波路にはSiO2を用いた。フォトリフラクティブ材料として用いているコバルト酸化物はナノガラスと言われるナノオーダーの多結晶である。このコバルト酸化物は非常に大きなフォトリフラクティブ効果を起こし、屈折率変化量にしてΔn=0.8程度(屈折率n=1.9:波長405nm)である(MICROOPTICAL NEWS(2003)Vol.21,No2.p25)。
また、フォトリフラクティブ材料として、LinbO3、BaTiO3、Bi12SiO20などを用いてもよい。また、過飽和吸収体を利用しても同様な動作を起こすことができる。過飽和吸収体としては、GaAs系のナノサイズ結晶やカーボンナノチューブ、Cr:YAGなどが利用できる。信号光107はy方向から入射し、光源にはEL素子(図示せず)をアレー状に並べ、それぞれの出射位置104−1〜104−4に配置してある。これにより、任意の個所に信号光107を入射することが可能になる。
【0033】
<動作>
入射光105はz方向に向け、y方向には角度は0°、x方向には20°程度傾けた(xz平面上でx軸側に20°傾けた)。入射光105は誘電体多層膜101の導波路側103側の面に対し、高い反射率で反射する。入射光105は導波路103の端部で偏向されるが、請求項1に示した0°<θx<90°を満足する。その反射光は誘電体多層膜102に入射し、同様に反射する。入射光105はこの導波路103内で反射を繰り返しながらz方向に伝播する。誘電多層膜101、102の対向面ともに高い反射率を保つように設計されており、伝播する際の光の減衰は少ない。
スイッチングには信号光をy方向から入射し、誘電体多層膜102、103のフォトリフラクティブ材料に照射され、その部分での屈折率を変化させる。変化した誘電体多層膜102、103はその反射率を著しく低下させる。誘電体多層膜102、103は入射光によって、もともと屈折率を変化させてはいるが、その変化は導波路103に近い1〜2層であり、それより外側の層は入射光の影響を受けていない。その状態で、誘電体多層膜全体に信号光を入射することで、全体の屈折率が変化し反射率が低下する。一度反射率が低下すると、入射光も誘電体多層膜の導波路から離れた層に入射することになり、なだれ的に反射率が低下する。結果的には信号光がトリガーになり、誘電体多層膜の反射率が一気に低下し、誘電体多層膜から垂直に入射光が出射する。
【0034】
(実施形態2)
<構成>
図2に本発明の光スイッチング素子の他の実施の形態の概要を示す。図3に図2に示したスイッチング素子の断面を示す。
図2に示す光スイッチング素子200において、上面の誘電体多層膜101の上に複数(図では8枚であるが限定されない)の電極201a、201b、202a、203a、203b、204a、204bを配置しており、誘電体多層膜101に電圧を印加できるようになっている。
誘電体多層膜101と導波路103との境界に電気光学材料層300を備えている(図3参照)。電気光学材料層300にはPLZTを用いた。電気光学材料層300は電極201a、201b、202a、203a、203b、204a、204bに印加された電圧によって、電気光学効果によって屈折率変化を起こすようになっている。誘電体多層膜101、102はSiO2とフォトリフラクティブ材料であるコバルト酸化物を利用した。ここでは電圧を印加して変調する材料として、電気光学結晶を利用したが、熱によって屈折率が変わる材料(3,3'-diethyloxadicarbocyanine iodide (DODCI)など:Chemistry Letters, vol.1993, No.10, 1791-1794, '93)や、フランツケルディッシュ効果のある材料(GaAs系の超格子を利用したもの:詳細は電子情報通信学会論文誌C-I,volJ82―C-I,No4,p.226)を用いても、ほぼ同様な構成で動作することができる。電気光学材料にはPLZTに限らず、LiNbO3やPZT、SrBaNbO、BaTiO3、SrTiO3などの強誘電体材料などが利用できる。
【0035】
<動作>
図2において、入射光205はz方向に向け、y方向には角度は0°、x方向には20°程度傾けた(xz平面上でx軸側に20°傾けた)。入射光205は誘電体多層膜101、102の対向面に対し、高い反射率で反射する。入射光205は導波路103の端部で偏向されるが、請求項1に示した0°<θx<90°を満足する。その反射光は下面の誘電体多層膜102に入射し、同様に反射する。この反射を導波路103内で繰り返しながら、z方向に入射光105は伝播する。誘電体多層膜101、102の対向面はともに高い反射率を保つように設計されており、伝播する際の光の減衰は少ない。
スイッチング動作には電極201a、201b、202a、203a、203b、204a、204bに電圧を印加する。電圧は電気光学材料がある部分に大きな電界を生じさせ、その部分での屈折率を変化させる。電圧印加により変化した誘電体多層膜101、102はその反射率を著しく低下させる。誘電体多層膜101、102は伝播光によって、もともと屈折率を変化させてはいるが、その変化は導波路103に近い1〜2層であり、それより外側の層は入射光205の影響を受けていない。その状態で、電気光学材料の屈折率が変化することで、伝播光も誘電体多層膜101、102の導波路103から離れた層に入射することになり、なだれ的に反射率が低下する。
すなわち、結果的には電圧印加がトリガーになり、誘電体多層膜101、102の反射率が一気に低下し、誘電体多層膜101、102から出射光207が出射する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は光書き込みを必要とする画像成装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の光スイッチング素子の一実施の形態の概要を示す図である。
【図2】本発明の光スイッチング素子の他の実施の形態の概要を示す図である。
【図3】図2に示したスイッチング素子の断面を示す図である。
【図4】導波路の導波方向と伝播光の光軸との関係を示す図である。
【図5】(A)は光スイッチング素子の従来例を示す概念図であり、(B)は(A)の平面図である。
【図6】光スイッチング素子の他の従来例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0038】
100 光スイッチング素子
101、102 誘電体多層膜
103 導波路
104−1〜104−4 電極
105 入射光
106 伝播光
107 信号光
108 出射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路と、前記光導波路内を伝播する光の伝播経路を変調させることにより伝播方向を変化させる変調手段とからなり、その変調手段によって前記光導波路からの光の出射位置を走査させる光スイッチにおいて、
前記導波路の導波方向zに対する前記導波路内を伝播する光の光軸のzx面上の角度θxが、以下の不等式
0°<θx<90°
(但し、x方向は前記導波路のフォトニック結晶を有する面の法線方向)
を満たし、前記導波路における光を閉じ込める面がフォトニック結晶によって構成されていることを特徴とする光スイッチング素子。
【請求項2】
前記光導波路の光の出射位置はフォトニック結晶面であることを特徴とする請求項1記載の光スイッチング素子。
【請求項3】
前記フォトニック結晶は誘電体多層膜で構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の光スイッチング素子。
【請求項4】
前記変調手段としてフォトリフラクティブ結晶における屈折率変化を利用することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子。
【請求項5】
前記変調手段として過飽和吸収材料における吸収係数変化を利用したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子。
【請求項6】
前記変調手段として電気光学結晶における屈折率変化を利用したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子。
【請求項7】
前記変調手段として熱によって屈折率が変化する材料を利用したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子。
【請求項8】
前記変調手段としてフランツケルディッシュ効果を利用したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の光スイッチング素子。
【請求項9】
前記フォトニック結晶の表面に電極を配置したことを特徴とする請求項1から3、6から8のいずれか1項記載の光スイッチング素子。
【請求項10】
前記変調手段は、電気によって駆動する材料を用いた第1の変調部と、第1の変調部の影響を受けて作用する第2の変調部とで構成されていることを特徴とする請求項9記載の光スイッチング素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−65206(P2006−65206A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250314(P2004−250314)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】