説明

光スキャナ

【課題】共振周波数の温度依存性を低減することが可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とを提供すること。
【解決手段】第1材料によって構成される平板状の構造体と、台座とを備える光スキャナである。構造体は、ミラー部分と、その一端がミラー部分の両側に連結される一対の捩れ梁部分と、一対の捩れ梁部分の他端に連結される本体部分とを有する。構造体には、ミラー部分を所定の共振周波数にて揺動可能な駆動部が設けられる。構造体は、本体部分の一部であって一対の捩れ梁部分及びミラー部分を挟んで対向する一対の被固定部分において、少なくとも台座に固定される。台座を構成する第2材料の線膨張係数は、第1材料の線膨張係数よりも大きな値であって、共振周波数の温度依存性の絶対値が、台座が第1材料によって構成された場合の共振周波数の温度依存性の絶対値よりも小さくなるような値に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ等の光を走査する光スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、振動するミラーによりレーザ光などの光を走査する光スキャナが知られている。例えば、特許文献1に記載の光スキャナは、捩れ梁部で揺動可能に支持されたミラーが、圧電素子などの駆動部によって共振状態にて揺動することにより、ミラーに入射する光を走査する。そして、ミラーを含む構造体(本体部)は、台座(ベース)に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−186652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光スキャナの共振周波数は、様々な要因によって変化する。例えば、光スキャナの共振周波数は、ミラーを含む構造体のヤング率に依存して変化する。この説明として、図1(後記)に示される光スキャナ100の形状において、構造体110を異なるヤング率(=剛性)の材料で形成した場合の、光スキャナ100の共振周波数の振る舞いを、図10に示す。図10では、横軸にヤング率の相対値が、縦軸に共振周波数の変動量が、それぞれ示される。なお、図10の横軸は、3点あるデータ点のうち、横軸において真ん中のデータ点のヤング率を基準とした相対値で示される。図10の縦軸は、3点あるデータ点のうち、縦軸において真ん中のデータ点の共振周波数を基準(100%)とて、その値からの変動量の割合が示される。図10から明らかに、ヤング率と共振周波数とは、正比例の関係にある。構造体110のヤング率は、基本的には、構造体110を構成する材料の種類によって決まる。しかし、材料のヤング率は、一般に温度依存性を有する。具体的には、同一種類の材料であっても、温度が高くなればヤング率が下がり、温度が低くなればヤング率が上がる。共振周波数はヤング率に依存するので、共振周波数も温度依存性を有する。従って、光スキャナが置かれる雰囲気温度の変化は、光スキャナの共振周波数に変化をもたらす。
【0005】
光スキャナが利用される装置としては、例えば、レーザープリンタや走査型画像表示装置などが考えられる。これらの装置では、走査速度の変化は出力の歪みとなるため、走査速度は一定であることが望まれる。即ち、共振状態で揺動される光スキャナが利用される場合、光スキャナの共振周波数は、所定の値に保たれることが要求される。しかし、前記したように、光スキャナが置かれる雰囲気温度が変化した場合、同一の光スキャナであっても、共振周波数が変化してしまう。従って、安定して駆動可能な光スキャナを得るためには、この共振周波数の温度依存性が低減される必要がある。そこで、本発明は、共振周波数の温度依存性を低減することが可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、光を反射する反射面を含み、第1軸線を中心として揺動可能に構成されるミラー部分と、その一端が前記ミラー部分の両側に連結され、前記第1軸線に平行に前記ミラー部分から延出する一対の捩れ梁部分と、前記一対の捩れ梁部分の他端に連結され、前記ミラー部分から離間し且つ前記第1軸線に交差する方向に延出する本体部分と、を有し、第1材料によって構成される平板状の構造体と、少なくとも前記構造体に設けられ、前記ミラー部分を所定の共振周波数にて前記第1軸線回りに揺動可能に構成される駆動部と、前記構造体が固定される台座とを備え、前記構造体は、前記本体部分の一部であって前記一対の捩れ梁部分及び前記ミラー部分を挟んで対向する一対の被固定部分において、少なくとも前記台座に固定され、前記台座は、前記第1材料と異なる線膨張係数を有する第2材料によって構成され、前記第2材料の線膨張係数は、前記第1材料の線膨張係数よりも大きく、且つ、前記共振周波数の温度依存性の絶対値が、前記台座が前記第1材料によって構成された場合の前記共振周波数の温度依存性の絶対値よりも小さくなる値に設定される、ことを特徴とする光スキャナである。
【0007】
これによれば、構造体は、一対の被固定部分において、少なくとも台座に固定される。そして、一対の被固定部分は、一対の捩れ梁部分及びミラー部分を挟んで対向する、本体部分の一部分である。換言すれば、一対の捩れ梁部分及びミラー部分を間に挟んだ本体部分の両側において、構造体と台座とが固定される。そして、台座を構成する第2材料の線膨張係数の値は、以下の2条件を満たすように設定される。(1)構造体を構成する第1材料の線膨張係数よりも大きな値、(2)共振周波数の温度依存性の絶対値が、台座が第1材料によって構成された場合の絶対値よりも小さくなる値。ここで、構造体よりも台座の線膨張係数が大きいので、温度変化によって構造体に熱応力が発生する。具体的には、温度が上昇すると、台座の方が構造体よりも多く膨張する。この膨張量の差は、台座と構造体との固定部分に挟まれた捩れ梁部分及びミラー部分に対して、捩れ梁の長手方向に張力を与える。捩れ梁に張力がかかると、見かけ上、捩れ梁の剛性が上昇する。そして、捩れ梁の剛性が高いほど、光スキャナの共振周波数は高くなる。一方、ヤング率は、温度が上昇するほど減少する。即ち、温度上昇に起因する第1材料のヤング率変化は、共振周波数を低くする方向に働く。しかし、第2材料の線膨張係数が第1材料の線膨張係数よりも大きいので、構造体に発生する熱応力は、温度上昇に伴い共振周波数を高くする方向に働く。従って、共振周波数の温度依存性が低減される。なお、温度が下降する場合は、台座の方が構造体よりも多く収縮するため、捩れ梁を長手方向に圧縮する力が働く。即ち、捩れ梁の見かけ上の剛性が低下し、共振周波数は低下する。従って、温度が下降する場合であっても同様に、構造体のヤング率変化に起因する共振周波数の変化(高くする方向に働く)は、台座と構造体との膨張量の差に起因する共振周波数の変化(低くする方向に働く)によって低減される。
【0008】
また、前記台座は、前記第2材料によって構成される第1層と、前記第1層と前記構造体との間に設けられ、前記第2材料とは異なる線膨張係数を有する第3材料によって構成される第2層とを有し、前記第2層は、前記構造体の前記被固定部分に固定され、前記第1層は、前記第2層に固定されてもよい。
【0009】
これによれば、台座が第1層と第2層とを有する。第1層と第2層は異なる線膨張係数を有する材料によって構成されるので、材料の組み合わせによって、より共振周波数の温度依存性を低減可能な台座の選択範囲が広がる。
【0010】
さらに、前記第2層は、前記第1層よりも厚みが薄くなるように構成されてもよい。
【0011】
これによれば、構造体に接する第2層は、第1層よりも厚みが薄い。従って。台座全体での線膨張係数は第1層によって大枠が決められ、第2層の材質を選択することで、細かな調整が可能となる。
【0012】
さらに、前記第1材料及び前記第2材料は、金属であってよい。
【0013】
これによれば、構造体及び台座が、ともに延性材料である金属から構成される。仮に、例えばシリコンなどの脆性材料で構造体や台座が構成された場合、材料の組み合わせによっては、熱応力が原因で、構造体や台座が破損する可能性がある。そのため、構造体及び台座が金属から構成されることで、材料の組み合わせの自由度が増す。また、プレスなどの機械加工による製造も可能となるため、低コストで光スキャナを提供できる。
【0014】
さらに、前記駆動部は、前記本体部分に設けられ、前記本体部分に板波を励起することで、前記本体部分及び前記一対の捩れ梁部分を介して前記ミラー部分を前記第1軸線回りに揺動させることが可能な圧電素子であってもよい。
【0015】
これにより、圧電素子によって励起された板波がミラーを揺動させる、いわゆる外部励振型の光スキャナが得られる。従って、大きな振れ角が得られる。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の他の側面は、前記した光スキャナの製造方法であって、前記構造体を構成する前記第1材料の線膨張係数よりも大きい値であって、互いに異なる線膨張係数の値を有する複数の材料を含む母集団から、前記台座を構成する前記第2材料としての候補となる材料である第2材料候補を決定する候補決定工程と、前記第2材料候補を前記第2材料として用いた場合における、前記光スキャナの共振周波数の温度依存性を決定する依存性決定工程と、前記依存性決定工程によって前記温度依存性が決定された2つ以上の前記第2材料候補の中から、前記温度依存性の絶対値が最小となった前記第2材料候補を、前記第2材料として決定する第2材料決定工程と、前記第2材料決定工程によって決定された前記第2材料を用いて、前記光スキャナを作成する作成工程と、有することを特徴とする光スキャナの製造方法である。
【0017】
これによれば、光スキャナの共振周波数の温度依存性が最小となる第2材料によって、台座が構成される。従って、共振周波数の温度依存性が低減された光スキャナが得られる。
【0018】
さらに、前記2つ以上の前記第2材料候補の線膨張係数を取得する取得工程と、前記2つ以上の前記第2材料候補の線膨張係数の値と、前記依存性決定工程によって決定された前記2つ以上の第2材料候補における前記温度依存性との相関関係を決定する関係決定工程をさらに備え、前記第2材料決定工程は、前記関係決定工程によって決定された前記相関関係に基づいて、前記2つ以上の前記第2材料候補に加えて、前記母集団の中から前記温度依存性の絶対値が最小に近い値に対応する線膨張係数を有する材料を、前記第2材料として決定してもよい。
【0019】
これによれば、線膨張係数と、共振周波数の温度依存性との相関関係に基づいて、温度依存性が最小となる第2材料が決定される。従って、全ての第2材料候補に対して共振周波数の温度依存性を決定しなくても、その線膨張係数の値に基づいて、第2材料としての決定が可能となる。
【0020】
さらに、前記第2材料決定工程によって決定された前記第2材料における前記温度依存性が、所定の範囲内に収まるか否かを判断する判断工程と、前記判断工程において前記温度依存性が所定の範囲内に収まらないと判断された場合に、前記母集団の中から、前記台座の前記第2層を構成する前記第3材料として用いる材料を決定する第3材料決定工程とをさらに有し、前記第3材料決定工程は、前記温度依存性が負の値の場合、前記第2材料よりも大きな線膨張係数を有する材料を前記第3材料として決定し、前記温度依存性が正の値の場合、前記第2材料よりも小さな線膨張係数を有する材料を前記第3材料として決定し、前記作成工程は、前記判断工程において前記温度依存性が所定の範囲内に収まらないと判断された場合に、前記第2材料を前記台座の前記第1層とし、前記第3材料を前記第2層とする前記台座を用いて、前記光スキャナを製造してもよい。
【0021】
これによれば、共振周波数の温度依存性が所定の範囲内に収まらない場合、第1層と第2層とを有する積層構造の台座が作成される。そして、第2材料のみで構成された台座の共振周波数の温度依存性が正の値の場合、換言すれば、温度上昇に伴い共振周波数も上昇する場合、第2材料よりも小さな線膨張係数を有する材料が、第2層を構成する第3材料として決定される。これにより、台座全体で見たときの線膨張係数を小さくすることができ、共振周波数の温度依存性を低減できる。一方、第2材料のみで構成された台座の共振周波数の温度依存性が負の値の場合、換言すれば、温度上昇に伴い共振周波数が低下する場合、第2材料よりも大きな線膨張係数を有する材料が、第2層を構成する第3材料として決定される。これにより、台座全体で見たときの線膨張係数を大きくすることができ、共振周波数の温度依存性を低減できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、共振周波数の温度依存性を低減することが可能な光スキャナと、その光スキャナの製造方法とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る、(A)光スキャナ100の斜視図、(B)光スキャナ100の平面図及びA−A断面図。
【図2】台座120の構成材料の線膨張係数に対して、共振周波数の温度依存性を、(A)シミュレーションによって求めた結果を示す図、(B)実測によって求めた結果を示す図。
【図3】図2の結果をグラフにプロットし、光スキャナ100の共振周波数の温度依存性と台座の線膨張係数との相関関係を示す図。
【図4】第2実施形態に係る、(A)光スキャナ200の斜視図、(B)光スキャナ200の平面図及びA−A断面図。
【図5】台座220を2層構造にした場合の、第1層221と第2層222との構成材料の線膨張係数と、その組み合わせにおける共振周波数の温度依存性との関係を示す図。
【図6】第3実施形態に係る、光スキャナ100及び200の製造工程を説明するフローチャート。
【図7】図6のフローチャートにおける、台座積層の検討工程を説明するフローチャート。
【図8】図6のフローチャートにおける、光スキャナの製造工程を説明するフローチャート。
【図9】台座220の第2層222の厚みが変化した場合における、共振周波数の温度依存性の変化を説明する図。
【図10】構造体110のヤング率と、光スキャナ100の共振周波数との相関関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下に図面を参照しつつ、本発明の一側面に係る実施の形態を示す。なお、本発明の一側面は以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に説明する各構成において、所定の構成を省略し、または他の構成などに置換してもよい。また、他の構成を含むようにしてもよい。
【0025】
[光スキャナ100の構成]
図1に示されるように、光スキャナ100は、構造体110と、台座120とを有する。構造体110のミラー部分111は、圧電素子114によって、第1軸線aを中心軸として揺動する。この揺動によって、ミラー部分111に入射した光は走査される。
【0026】
構造体110は、第1軸線aに平行な一対の短辺と、第1軸線aに直交する一対の長辺とから構成される、平面視矩形の板状構造である。構造体110は、ミラー部分111、一対の捩れ梁部分112、本体部分113を有する。本体部分113の一方の面(例えば、上面)には、圧電素子114が設けられる。構造体110は、例えば、金属である第1材料によって構成される。以下、構造体110の説明を行う。
【0027】
ミラー部分111は、レーザ等の光を反射する反射面を含む。ミラー部分111の形状は、本実施形態では、平面視において矩形である。しかし、ミラー部分111の形状は、これに限定されず、平面視において円形、楕円形、多角形など、任意の形状であっても差し支えない。反射面は、例えば、ミラー部分111の表面を鏡面研磨する、アルミニウムや銀などの金属薄膜が成膜されたサファイヤやダイヤモンドなどの誘電体をミラー部分111に貼り付ける、などの方法によって設けられる。
【0028】
一対の捩れ梁部分112の一端は、ミラー部分111の両側に連結される。一対の捻れ梁部分112は、ミラー部分111から離れる方向にそれぞれ延出する。本実施形態では、一対の捩れ梁部分112の延出方向は、第1軸線aに平行である。具体的には、第1軸線aは、一対の捩れ梁部分112の中心を通る。一対の捩れ梁部分112によって、ミラー部分111の両側が、第1軸線a回りに揺動可能に弾性的に支持される。つまり、一対の捩れ梁部分112は、ミラー部分111を第1軸線a回りに揺動可能に支持するトーションバーとしての役割を持っている。
【0029】
本体部分113は、一対の捩れ梁部112の他端に連結され、ミラー部分111から離間し、且つ第1軸線aに交差する方向に延出する。本実施形態では、本体部分113は、一対の捩れ梁部112との連結部分から、第1軸線aに直交する方向の両側へと延出する。本体部分113は、被固定部分113aと、節連結部分113bとを有する。被固定部分113aは、一対の捩れ梁部分112及びミラー部分111を挟んで、一対設けられる。本実施形態では、本体部分113の第1軸線a方向における端部に、第1軸線aに直交する長辺に沿って矩形の貫通孔が設けられる。第1軸線a方向において、この貫通孔よりもミラー部分111から遠い位置に存在する本体部分の領域が、被固定部分113aである。この被固定部分113aにおいて、構造体110と台座120とが固定される。節固定部分113bは、矩形の貫通孔の第1軸線aに直交する方向の中心部分に設けられる。節固定部分113bは、第1軸線a方向に伸長し、矩形の貫通孔よりもミラー部分113に近い本体部分113と、被固定部分113aとを連結する。より具体的には、節固定部分113bは、一対の捩れ梁部分112と同一直線状に位置する。これにより、構造体110と台座120との線膨張係数の差による熱応力は、節固定部分113bを介して、一対の捩れ梁部分112の引張/収縮に効率よく変換される。
【0030】
本体部分113の上面には、駆動部としての圧電素子114が設けられる。圧電素子114は、本体部分113の第1軸線a方向における中間位置であって、第1軸線aに直交する方向における両端部に、一対設けられる。圧電素子114は、例えば、厚さ30μm〜100μmの平板状に成形されたチタン酸ジルコン酸鉛などの圧電材料の両面に対して、電極層として金や白金等を0.2μm〜0.6μm積層することで形成される。圧電素子114と本体部分113とは、導電性接着剤で接着される。そして、圧電素子114の上面に、ワイヤボンディングなどで金などの金属細線(非図示)が接続される。
【0031】
台座120は、平面視矩形の形状を示す。台座120は、矩形に刳り抜かれた矩形孔を、その中央部分に有する。この矩形孔の長手方向に沿って、構造体110の被固定部分113aは、台座120の矩形孔の隣接部分に固定される。台座120の厚みは、構造体110の厚みに比べて十分に大きい。そのため、構造体110が揺動しても、台座120は、殆ど変形しない。台座120は、第1層121のみで構成される、単一の層構造を示す。第1層121を構成する第2材料は、例えば、構造体110を構成する第1材料とは異なる線膨張係数を有する金属である。より具体的には、第2材料の線膨張係数の値は、以下の2条件を満たすように設定される。(1)第1材料の線膨張係数よりも大きな値、(2)共振周波数の温度依存性の絶対値が、台座120が構造体110と同じ第1材料によって構成された場合の共振周波数の温度依存性の絶対値よりも小さくなる値。
【0032】
構造体110は金属で形成されるので、構造体110と圧電素子114の上面の電極層との間に電圧を印加することで、圧電素子114を変形させることが可能となる。第1軸線aに対して一方の側に設けられる圧電素子114と、他方の側に設けられる圧電素子114とには、逆位相となるように交流電圧がそれぞれ印加される。この交流電圧の周波数が、光スキャナ100の共振周波数に相当する場合、圧電素子114の変形に伴い、本体部分114に板波が励起される。この板波が、本体部分113及び一対の捩れ梁部分112を介してミラー部分111に伝達されることで、ミラー部分111は、所定の共振周波数において第1軸線a回りに揺動する。ここで、構造体110は、被固定部分113aにおいて台座120に固定され、被固定部分113aに挟まれる本体部分113は、台座120によって宙に浮いた状態となっている。そのため、光スキャナ100の駆動時に、本体部分113は上下方向に変位する。しかし、捩れ梁部分112は、本体部分113の振動の節となる位置に設けられるので、本体部分113が上下に変位しても、捩れ梁部分112は、上下に変位しない。さらに、捩れ梁部分112と同一直線上に設けられた節固定部分113bが、被固定部分113aと捩れ梁部分112とを接続する。そのため、捩れ梁部分112は、上下方向の変位がより抑制される。そのため、ミラー部分111は第1軸線a回りに揺動される際に、上下方向の変位が抑制される。従って、ミラー部分111に入射する光は、常にミラー部分111上の同じ位置に入射するので、安定した光走査が可能になる。
【0033】
[台座120の構成材料の検討]
図2に示されるように、異なる線膨張係数を有する材料が台座120に用いられることによって、光スキャナ100の共振周波数の温度依存性は変化する。本実施形態では、構造体110の材料として、SUS430が利用される。SUS430の線膨張係数αは、10.4×10−6[/℃]である。SUS430の構造体110に対して、台座120の構成材料は、SUS420(α=10.3×10−6[/℃])、SECC(α=11.7×10−6[/℃])、SUS309(α=14.5×10−6[/℃])、SUS316(α=16.5×10−6[/℃])、SUS304(α=17.3×10−6[/℃])の5種類の金属を含む母集団の中から選定される。なお、図2において、共振周波数の温度依存性は、1℃の温度上昇に対する共振周波数の変化量(Hz/℃)の単位で示される。
【0034】
図2(A)には、図1に示される光スキャナ100において、SUS430によって構造体110を形成し、台座120の材料(=線膨張係数)を変化させた場合の、共振周波数の温度依存性をシミュレーションによって求めた結果が示される。図2(B)には、図1に示される光スキャナ100において、SUS430によって構造体110を形成し、台座120の材料(=線膨張係数)を変化させた場合の、共振周波数の温度依存性を実際に光スキャナ100を製造した上での実測によって求めた結果が示される。図2(A)と図2(B)との間では、台座120と構造体110との接着条件や、製造上のサイズばらつきなどの様々な不定性により、同一材料であっても、温度依存性の絶対値は異なる。しかし、どちらの結果であっても、台座120の材料の線膨張係数が大きいほど、共振周波数の温度依存性も大きくなるという傾向は一致した。より具体的には、SUS420で台座120が構成される場合、共振周波数の温度依存性は、シミュレーション、実測どちらも−0.5〜−0.6[Hz/℃]であった。SUS420の線膨張係数(α=10.3×10−6[/℃])は、構造体110の構成材料であるSUS430の線膨張係数(α=10.4×10−6[/℃])とほぼ等しい。即ち、SUS420で台座120が形成される場合の共振周波数の温度依存性は、構造体110と台座120との線膨張係数がほぼ同じ場合の値と見なせる。ヤング率は温度上昇に伴い低下するため、構造体110と台座120との線膨張係数がほぼ同じ場合、共振周波数の温度依存性は負の値を示す(温度が上昇するほど、共振周波数が下がる)。そして、台座120の線膨張係数が、構造体110よりも大きくなると、共振周波数の温度依存性は緩和される。これは、前記したように、構造体110と台座120との線膨張係数の差に起因して構造体110に働く熱応力によって、一対の捩れ梁部分112が引っ張られ、見かけ上、一対の捩れ梁部分112の剛性が上昇するためである。図2の結果に従えば、SECC及びSUS309が台座120に用いられる場合、構造体110と同一材料にて台座120が構成される場合と比較して、共振周波数の温度依存性は緩和される。なお、共振周波数の温度依存性は低減されるほど望ましいので、この結果から、共振周波数の温度依存性の絶対値が最小となる材料が、台座120の構成材料として決定されてよい。例えば、図2(A)の結果に従えば、SECCを用いて台座120が形成される。また、図2(B)の結果に従えば、SECC又はSUS309を用いて台座120が形成される。
【0035】
台座120の材料の線膨張係数を横軸に、共振周波数の温度依存性を縦軸に取ることで、両者の相関関係を調べる。図3から明らかに、台座120の構成材料の線膨張係数と、共振周波数の温度依存性との間には、正の相関、より具体的には一次比例の関係がある。なお、シミュレーションと実測とにおける共振周波数の温度依存性の差は、比例係数の違いとして図3には表れている。この一次比例の関係(相関関係)を用いて、例えば、共振周波数の温度依存性の絶対値が最小となる材料を、台座120の材料として選定できる。さらに言えば、例えば、母集団の中から少なくとも2つの材料に対する共振周波数の温度依存性を決定すれば、線膨張係数と共振周波数の温度依存性との比例係数が決定できる。即ち、この比例係数を利用すれば、共振周波数の温度依存性を決定していない材料に対しても、その線膨張係数の値のみに基いて、共振周波数の温度依存性が最小となる材料の選定が可能になる。
【0036】
<第2実施形態>
図4を用いて、本発明の好ましい他の実施の形態を示す。図4に示されるように、光スキャナ200は、構造体210と、台座220とを有する。光スキャナ200は、台座220の構成において、前記した光スキャナ100と相違する。
【0037】
[光スキャナ200の構成]
構造体210は、ミラー部分211、一対の捩れ梁部分212、本体部分213を有する。本体部分213の上面には、圧電素子214が設けられる。構造体210が有するこれらの構成は、前記した構造体110が有する構成と同様である。そのため、構造体210の詳細な説明は省略される。
【0038】
台座220は、第1層221と第2層222とを有する。第1層221の構成材料と、第2層222の構成材料とは、線膨張係数が互いに異なる金属である。第2層222は、平面視矩形に構成され、矩形に刳り抜かれた矩形孔をその中心部分に有する。第2層222は、前記した実施形態における第1層121と同様に、構造体210の被固定部分213aに固定される。第1層221は、平面視において、第2層222と同一に形成される。第1層221は、第2層222の下面に固定される。即ち、第2層222は、その一方の面(上面)が構造体210に固定され、その他方の面(下面)が第1層221に固定される。なお、第2層222の厚さは、第1層221の厚さよりも薄い。一例として、第1層221の厚さが2mm程度の場合、第2層222の厚さは、0.4mm程度に設定される。なお、構造体210の厚さは、例えば、0.1mm程度である。
【0039】
[台座220の構成材料の検討]
前記した第1実施形態では、台座120の構成材料を変化させ、その線膨張係数を調整することで、共振周波数の温度依存性が調整可能なことを示した。ここでは、さらに、線膨張係数が異なる金属材料の積層によって、台座220を構成することで、共振周波数の温度依存性をさらに微調整できることを示す。
【0040】
図5は、図4に示される光スキャナ200において、第1層221の材料に対して、第2層222の材料を組み合わせた場合における、共振周波数の温度依存性をシミュレーションで求めた結果を示す図である。一例として、第1層221の材料としては、SUS420(α=10.3×10−6[/℃])、SECC(α=11.7×10−6[/℃])、SUS304(α=17.3×10−6[/℃])が検討される。また、第2層222の材料としては、SUS430(α=10.4×10−6[/℃])、高機能バネ鋼(α=14.0×10−6[/℃])、SUS304(α=17.3×10−6[/℃])が検討される。なお、構造体210は、光スキャナ100の場合と同様に、SUS430によって構成される。また、高機能バネ鋼としては、例えば、日新製鋼(株)製のHT2000などが利用可能である。
【0041】
図5より、第1層221の材料を固定して、第2層222の材料を変化させた場合、共振周波数の温度依存性が変化していることが分かる。例えば、第2層222にSUS430とSUS304とが使われる場合を比較すると、第1層221の材料に関らず、両者の共振周波数の温度依存性は、約0.2[Hz/℃]程度の差がある。そして、線膨張係数が大きい材料が第2層222に利用されるほど、共振周波数の温度依存性は大きくなる傾向にある。一方、第1層221にSUS420とSUS304とが使われる場合を比較すると、第2層222の材料に関らず、両者の共振周波数の温度依存性は、約0.5〜0.8[Hz/℃]程度の差がある。即ち、台座220全体での線膨張係数は、厚みが大きい第1層221によって大枠が決められ、第2層222の材質を選択することで、細かな調整が可能となる。この性質を利用して、第1層221の材料を共振周波数の温度依存性の絶対値が最小となるものを選択した上で、第2層222の材質を選択することで、共振周波数の温度依存性をより0に近づけることが可能となる。例えば、SUS420で第1層221を構成した場合に、共振周波数の温度依存性が負の値であるので、第1層221よりも大きな線膨張係数を有する材料で第2層222を構成することによって、共振周波数の温度依存性をより低減できる。一方、例えば、SUS304で第1層221を構成した場合に、共振周波数の温度依存性が正の値であるので、第1層221よりも小さな線膨張係数を有する材料で第2層222を構成することによって、共振周波数の温度依存性をより低減できる。
【0042】
<第3実施形態>
以上得られた知見に基づいて、共振周波数の温度依存性が緩和された光スキャナの製造が可能となる。ここでは、その工程について図6〜図8を用いて説明する。
【0043】
先ず、工程S1において、光スキャナの構造体(前記した実施形態の構造体110又は構造体210)を構成する第1材料の、線膨張係数が取得される。なお、構造体を構成する材料は、例えば光スキャナの共振周波数の設計値などに従って、予め選定されている。線膨張係数は、材料を直接測定することによって取得されてもよいし、データシートなどの既存の値を利用することによって取得されてもよい。
【0044】
次に、工程S2において、構造体を構成する材料のヤング率の、温度依存性が取得される。前記したように、構造体のヤング率は、光スキャナの共振周波数に影響を与える。ヤング率が高いほど、共振周波数も高くなる。そのため、ヤング率の温度依存性を取得することで、構造体のみに起因する、光スキャナの共振周波数の温度依存性が分かる。なお、ヤング率の温度依存性は、データシートなどの既存の値を係数に利用した数式の適用や、実測など、任意の方法で取得されてよい。
【0045】
次に、工程S3において、台座を構成する第2材料の候補が決定され、その線膨張係数が取得される。先ず、互いに異なる線膨張係数の値を有する複数の材料(例えば、図2に第2材料として示される5種類の材料)が、第2材料としての候補の母集団として存在する。この母集団には、構造体を構成する第1材料の線膨張係数よりも、大きな線膨張係数を有する材料が含まれている。なお、第1材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数を有する材料が、この母集団に含まれていても差し支えない。そして、この母集団から、1つの材料(例えば、SUS420)が、第2材料の候補として決定される。その上で、この第2材料候補の線膨張係数が取得される。なお、線膨張係数の取得は、実測やデータシートの値を利用など、任意の方法で達成されてよい。
【0046】
次に、工程S4において、工程S3にて決定された第2材料候補のヤング率の温度依存性が取得される。ここでも、ヤング率の温度依存性は、データシートなどの既存の値を係数利用した数式や、実測など、任意の方法で取得されてよい。
【0047】
次に、工程S5において、第2材料候補が台座に用いられる光スキャナにおける、共振周波数の温度依存性が決定される。この工程は、例えば、実際に光スキャナを作成した上で、光スキャナの置かれる雰囲気温度を変化させながら、光スキャナの共振周波数を測定することで達成される。共振周波数は、例えば、光スキャナが走査する光が入射する位置に光センサを配置し、その光センサが検出する走査光のタイミングから決定されてよい。勿論、実際の測定でなくても、シミュレーションを用いて光スキャナの共振周波数の温度依存性が取得されても差し支えない。或いは、共振周波数の温度依存性が、2つ以上の第2材料候補に対して得られている場合であれば、前記した共振周波数の温度依存性と材料の線膨張係数との相関関係に基づいて、線膨張係数の値から共振周波数の温度依存性を取得することも可能である。例えば、図2において、SUS420とSUS304とで台座が構成された場合における、共振周波数の温度依存性が、実測によってそれぞれ得られていたとする。この場合、工程S3で得られたSUS420とSUS304との線膨張係数を用いて、線膨張係数と共振周波数の温度依存性との間の比例係数が決定される。この比例係数を用いれば、例えば実測をしていないSECC、SUS309及びSUS316で台座が構成された場合の、共振周波数の温度依存性が決定可能となる。即ち、一旦比例係数さえ定まれば、その材料が台座に用いられた場合における共振周波数の温度依存性が、その材料の線膨張係数の値にのみ基づいて決定できる。なお、さらに拡張するのであれば、例え第2材料の候補として母集団に含まれない材料(例えば、図2に記載されていない材料)であっても、その材料の線膨張係数の値にのみ基づいて、共振周波数の温度依存性が決定できる。
【0048】
次に、工程S6において、工程S3にて決定された第2材料候補の共振周波数の温度依存性の絶対値が、最小であるか否かが判断される。そして、第2材料候補の共振周波数の温度依存性の絶対値が最小である場合(S6:Y)、工程S7において、その第2材料候補が台座を構成する第2材料として決定された後で、工程S8に移行する。一方、第2材料候補の共振周波数の温度依存性の絶対値が最小でない場合(S6:N)、工程S8に移行する。例えば、図2においてSUS420が最初に第2材料候補として決定された場合であれば、それより前に決定された第2材料候補が無いため、SUS420の共振周波数の温度依存性の絶対値が最小となる(工程S6:Y)。そのため、SUS420が、台座を構成する第2材料として決定される(S7)。一方、SUS420の次に、SECCが第2材料候補として決定された場合であれば、SECCの共振周波数の温度依存性の絶対値は、SUS420の共振周波数の温度依存性の絶対値よりも小さい。そのため、SECCの共振周波数の温度依存性の絶対値が最小となる(工程S6:Y)。従って、SUS420に代わって、SECCが、台座を構成する第2材料として決定される(S7)。一方、SECCの次に、SUS309が第2材料候補として決定された場合であれば、SUS309の共振周波数の温度依存性の絶対値は、SECCの共振周波数の温度依存性の絶対値よりも大きい。そのため、SECCの共振周波数の温度依存性の絶対値が最小のままである(工程S6:N)。この場合、工程S7は実行されないので、台座を構成する第2材料は、SECCのままである。
【0049】
次に、工程S8において、他の第2材料候補が、まだ母集団に残っているか否かが判断される。まだ他の第2材料候補が残っている場合(S8:Y)、工程S3に戻り、他の第2材料候補に対して工程S3〜S7が実行される。一方、他の第2材料候補が残っていない場合、換言すれば、母集団に含まれる全ての第2材料候補に対する検討が終了した場合(S8:N)、工程S9に移行する。
【0050】
次に、工程S9において、工程S7において決定された台座材料を用いた場合の共振周波数の温度依存性が、仕様の範囲内に収まるか否かが判断される。この仕様の範囲は、光スキャナを利用するプリンタや走査型画像表示装置などの装置性能に基づいて決定されてよい。或いは、光スキャナ単体の性能として、所定の値に定められてよい。共振周波数の温度依存性が仕様の範囲内に収まる場合(S9:Y)、その台座材料を用いて、光スキャナが作成される(S11)。即ち、この場合、台座が単一の層からなる、前記した光スキャナ100が作成される。一方、共振周波数の温度依存性が仕様の範囲内に収まらない場合(S9:N)、前記した光スキャナ200のように、台座を積層構造にすることで共振周波数の温度依存性をより低減する検討がなされる(S10)。
【0051】
工程S10の詳細は、図7に示される。先ず、工程S100において、工程S7で決定された第2材料の共振周波数の温度依存性(工程S5にて取得)が、正の値か否かが判断される。例えば、図2に示される場合であれば、SECCが第2材料として決定されている。台座がSECCから構成された場合、共振周波数の温度依存性は負(シミュレーションで−0.162[Hz/℃]、実測で−0.323[Hz/℃])であるため、工程S110の判断は否定される(S100:N)。この場合、工程S102が実行される。一方、共振周波数の温度依存性が正の値であれば、工程S110の判断は肯定される(S100:Y)。この場合、工程S101が実行される。
【0052】
工程S101では、台座220の第2層222の材料として、第1層221の材料よりも線膨張係数が小さい材料が選択される。これによって、台座220全体での実質的な線膨張係数を下げることができ、共振周波数の温度依存性を0に近づけることができる。例えば、SUS304が第1層221の材料として決定されている場合であれば、SUS304よりも線膨張係数の小さな材料である、高機能バネ鋼やSUS430が、第2層222の材料として決定される(図5参照)。その後、台座の積層構造の検討は終了し、工程S11に移行する。
【0053】
工程S102では、台座220の第2層222の材料として、第1層221の材料よりも線膨張係数が大きい材料が選択される。これによって、台座220全体での実質的な線膨張係数を上げることができ、共振周波数の温度依存性を0に近づけることができる。例えば、SECCが第1層221の材料として決定されている場合であれば、SECCよりも線膨張係数の大きな材料である、高機能バネ鋼やSUS304が、第2層222の材料として決定される。その後、台座の積層構造の検討は終了し、工程S11に移行する。
【0054】
図6の工程S11において、光スキャナが作成される。ここで、工程S9の判断が肯定(S9:Y)の場合は、単一層からなる台座120を備える光スキャナ100が形成される。一方、工程S9の判断が否定(S9:N)の場合は、第1層221及び第2層222を有する台座220を備える光スキャナ200が形成される。なお、工程S11の詳細は、図8に示される。
【0055】
先ず、工程S110において、構造体が形成される。構造体を構成する金属板(例えば、SUS430)が、構造体の外形と等しい大きさに分割される。そして、分割された金属板の、ミラー部分、捩れ梁部分、本体部分に対応する位置に、マスキングのためのレジスト膜が形成される。その後、ウェットエッチングによって構造体の外形が形成された後に、レジスト膜が除去される。なお、構造体の外形に比して十分大きな金属板に複数の構造体の外形が形成された後に、個々の構造体に分割される多数個取りが実行されても差し支えない。または、ウェットエッチングでなく、プレス加工などの機械的な加工によって構造体が形成されても差し支えない。
【0056】
次に、工程S111において、予め圧電素子の両面に電極層を備えたバルクの圧電材料が、構造体に実装される。この実装は、例えば、エポキシ系、アクリル系、シリコン系等の合成樹脂材料に金属フィラーなどの導電材を含有する導電性接着剤を用いて行われる。具体的には、構造体の本体部分に塗布された導電性接着剤の上に、バルクの圧電材料が設置される。圧電材料の設置後、100〜200℃の雰囲気に保たれた加熱炉内に構造体が30〜60分間装入されることによって、導電性接着剤が硬化する。以上で、圧電素子の実装が完了する。
【0057】
次に、工程S112において、台座が作成される。台座の外形は、構造体の場合と同様に、台座の構成材料となる金属板に対して、エッチングやプレスなどの除去加工を施すことで得られる。なお、台座が第1層と第2層との積層構造の場合、第1層を構成するための金属板と、第2層を構成するための金属板とに対して、それぞれ除去加工が施される。なお、第1層及び第2層の厚みは、対応する厚みを有する金属板を加工することで、自動的に設定される。その後、第1層と第2層とが、接着や溶着などによって固定される。
【0058】
次に、工程S113において、台座と構造体とが固定される。この固定は、例えば、レーザ溶接などによって、構造体の被固定部と台座とが溶着されることで行われる。ただし、熱硬化接着剤を利用した接着など、他の固定方法によって、構造体と台座とが固定されても差し支えない。
【0059】
そして、工程S114において、圧電素子と構造体とに対して、ワイヤボンディングによって信号線が接続される。この信号線は、非図示の交流電源に接続される。構造体と圧電素子とは導電性接着剤によって接着されているので、この信号線を介して圧電素子と構造体との間に電圧が印加される。以上で、光スキャナの製造工程が終了する。
【0060】
本発明は、今までに述べた実施形態に限定されることは無く、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形・変更が可能である。以下にその一例を述べる。
【0061】
前記した光スキャナ200において、台座220は、第1層221と第2層222とを有する。しかし、この実施例は、台座が3層以上の積層構造を有する構成を排除するものではない。台座が3層以上の積層構造で形成される場合、前記したように第1層及び第2層の材料が決定された上で、第3層以降の材料が決定されればよい。
【0062】
前記した光スキャナ200において、第2層222の材料は、構成材料の種類、より具体的には構成材料の線膨張係数を変数として、共振周波数の温度依存性を低減するものに決定された。しかし、共振周波数の温度依存性を低減するために、第2層222の構造を決定する他の変数がさらに導入されても差し支えない。例えば、図9に示されるように、第2層222の厚みが変化すると、共振周波数の温度依存性も変化する。なお、図9に示される例は、構造体210がSUS430で、台座220の第1層221がSECCで、第2層222がSUS304で、それぞれ構成される。また、構造体210の厚みは100μmに、第1層221の厚みは2000μmに、それぞれ設定される。図9から明らかに、第2層222が厚くなるに従って、共振周波数の温度依存性が上昇する。即ち、例えば図7に示される工程S101又は工程S102の後で、第2層222の厚みを決定する工程が実行されても差し支えない。これによって、線膨張係数という変数に加えて、台座の厚みという変数を用いて、共振周波数の温度依存性の絶対値がさらに小さくなるように、台座の構造を決定することが可能になる。
【0063】
前記した実施形態において、構造体及び台座は金属で構成される。しかし、本発明は、構造体と台座との線膨張係数を異ならせることで、共振周波数の温度依存性を緩和することに特徴がある。そのため、台座や構造体が例えばシリコンなどの非金属で構成されても、本発明の範囲に含まれる。同様に、構造体や台座の形状も、前記した実施例には限定されない。ミラー部分と捩れ梁部分と本体部分を有する平板状の構造体が、台座に対して固定されるタイプの光スキャナは、全て本発明の範囲に含まれる。また、前記した実施形態では、駆動部として圧電素子が利用される。しかし、磁石とコイルパターンとの組み合わせによる電磁駆動方式や、極板間に働く静電気力による静電駆動方式など、他の駆動方式を採用した光スキャナであっても、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
100,200 光スキャナ
110,210 構造体
111,211 ミラー部分
112,212 捩れ梁分
113,213 本体部分
113a,213a 被固定部分
113b,213b 節連結部分
114,214 圧電素子
120,220 台座
121,221 第1層
222 第2層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する反射面を含み、第1軸線を中心として揺動可能に構成されるミラー部分と、
その一端が前記ミラー部分の両側に連結され、前記第1軸線に平行に前記ミラー部分から延出する一対の捩れ梁部分と、
前記一対の捩れ梁部分の他端に連結され、前記ミラー部分から離間し且つ前記第1軸線に交差する方向に延出する本体部分と、
を有し、第1材料によって構成される平板状の構造体と、
少なくとも前記構造体に設けられ、前記ミラー部分を所定の共振周波数にて前記第1軸線回りに揺動可能に構成される駆動部と、
前記構造体が固定される台座とを備え、
前記構造体は、前記本体部分の一部であって前記一対の捩れ梁部分及び前記ミラー部分を挟んで対向する一対の被固定部分において、少なくとも前記台座に固定され、
前記台座は、前記第1材料と異なる線膨張係数を有する第2材料によって構成され、
前記第2材料の線膨張係数は、前記第1材料の線膨張係数よりも大きく、且つ、前記共振周波数の温度依存性の絶対値が、前記台座が前記第1材料によって構成された場合の前記共振周波数の温度依存性の絶対値よりも小さくなる値に設定される、
ことを特徴とする光スキャナ。
【請求項2】
前記台座は、
前記第2材料によって構成される第1層と、
前記第1層と前記構造体との間に設けられ、前記第2材料とは異なる線膨張係数を有する第3材料によって構成される第2層とを有し、
前記第2層は、前記構造体の前記被固定部分に固定され、
前記第1層は、前記第2層に固定される、
請求項1に記載の光スキャナ。
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層よりも厚みが薄くなるように構成される、
請求項2に記載の光スキャナ。
【請求項4】
前記第1材料及び前記第2材料は、金属である、
請求項1〜3の何れか1項に記載の光スキャナ。
【請求項5】
前記駆動部は、
前記本体部分に設けられ、
前記本体部分に板波を励起することで、前記本体部分及び前記一対の捩れ梁部分を介して前記ミラー部分を前記第1軸線回りに揺動させることが可能な圧電素子である、
請求項4に記載の光スキャナ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の光スキャナの製造方法であって、
前記構造体を構成する前記第1材料の線膨張係数よりも大きい値であって、互いに異なる線膨張係数の値を有する複数の材料を含む母集団から、前記台座を構成する前記第2材料としての候補となる材料である第2材料候補を決定する候補決定工程と、
前記第2材料候補を前記第2材料として用いた場合における、前記光スキャナの共振周波数の温度依存性を決定する依存性決定工程と、
前記依存性決定工程によって前記温度依存性が決定された2つ以上の前記第2材料候補の中から、前記温度依存性の絶対値が最小となった前記第2材料候補を、前記第2材料として決定する第2材料決定工程と、
前記第2材料決定工程によって決定された前記第2材料を用いて、前記光スキャナを作成する作成工程と、
を有することを特徴とする光スキャナの製造方法。
【請求項7】
前記2つ以上の前記第2材料候補の線膨張係数を取得する取得工程と、
前記2つ以上の前記第2材料候補の線膨張係数の値と、前記依存性決定工程によって決定された前記2つ以上の第2材料候補における前記温度依存性との相関関係を決定する関係決定工程をさらに備え、
前記第2材料決定工程は、前記関係決定工程によって決定された前記相関関係に基づいて、前記2つ以上の前記第2材料候補に加えて、前記母集団の中から前記温度依存性の絶対値が最小に近い値に対応する線膨張係数を有する材料を、前記第2材料として決定する、
請求項6に記載の光スキャナの製造方法。
【請求項8】
前記第2材料決定工程によって決定された前記第2材料における前記温度依存性が、所定の範囲内に収まるか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程において前記温度依存性が所定の範囲内に収まらないと判断された場合に、前記母集団の中から、前記台座の前記第2層を構成する前記第3材料として用いる材料を決定する第3材料決定工程とをさらに有し、
前記第3材料決定工程は、
前記温度依存性が負の値の場合、前記第2材料よりも大きな線膨張係数を有する材料を前記第3材料として決定し、
前記温度依存性が正の値の場合、前記第2材料よりも小さな線膨張係数を有する材料を前記第3材料として決定し、
前記作成工程は、前記判断工程において前記温度依存性が所定の範囲内に収まらないと判断された場合に、前記第2材料を前記台座の前記第1層とし、前記第3材料を前記第2層とする前記台座を用いて、前記光スキャナを製造する、
請求項6又は7に記載の光スキャナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−212022(P2012−212022A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77585(P2011−77585)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】