説明

光デバイスおよび光信号選択方法

【課題】複数の波長の光信号を取り扱うときに、フィルタの数の減少を図ることのできる光デバイスおよび光信号選択方法を得ること。
【解決手段】光導波路層102には、入射導波路1050と、第1および第2の出射導波路1051、1052が形成されている。入射導波路1050の傾斜導波路部分1120が多層膜フィルタ板104の面となす入射角と、第1および第2の出射導波路1051、1052の傾斜導波路部分1121、1122が多層膜フィルタ板104の面となす反射角は等しくなっている。また、傾斜導波路部分1120〜1122が多層膜フィルタ板104と接する位置がそれぞれ相違している。これにより、第1および第2の出射導波路1051、1052はそれぞれ異なる波長の光信号を入射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路を用いた光デバイスおよび光信号選択方法に係わり、特に分波特性や合波特性を有する合分波モジュールやトリプレクサなどの双方向光送受信モジュールに好適な光デバイスおよび光信号選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光デバイスの発展に伴って、光通信システムは飛躍的な伸びを見せている。このため、光ファイバの利用効率を高めることのできる高速化や多波長化に関する技術が特に注目されている。
【0003】
また一方では、最近のFTTH(Fiber To The Home)に関する技術の進展に伴って、高速化や多波長化といった技術以外に、低コスト化や小型化に関する技術の進展が重要になっている。更に最近では、通信用として送信側と受信側の波長を合分波するだけでなく、更にサービスを拡充するために、映像信号を別の波長で送信することも実現されている。このような状況の下で、本発明に関連する関連技術として、トリプレクサと呼ばれる双方向光送受信モジュールの開発も行われている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−165293号公報(第0018、第0019段落、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この関連技術では、図示しないが、光ファイバからプラットフォーム(基板)に入射した第1および第2の光信号を第1のフィルタに入射させて、このうちの第1の波長の光信号を反射させて第1の光受信機に受信させている。また、第1のフィルタを透過した第2の光信号を第2のフィルタに入射させて反射させ、第2の光受信機に受信させている。更に、第2のフィルタの背後から光送信機から出力される光信号を入射させて、第2のフィルタを透過したこの光信号を第1のフィルタも透過させて、前記した光ファイバに入射させている。
【0005】
このように、この関連技術によれば、各フィルタが単純に光の反射および透過を行うため、トリプレクサとして第1および第2のフィルタが必要になり、光デバイスの構造が複雑となり、装置の小型化や、低価格化が困難であるという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、複数の波長の光信号を取り扱うときに、フィルタの数の減少を図ることのできる光デバイスおよび光信号選択方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、(イ)基板と、(ロ)この基板の上面の所定位置から少なくとも所定長突出する形で前記した上面に対して垂設された多層膜フィルタと、(ハ)前記した基板の上面に積層する光導波路層中に形成され、前記した多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、(ニ)前記した光導波路層中に前記した入射用導波路とは独立に形成され、前記した入射位置とは異なる1または複数の位置で前記した多層膜フィルタから前記した所定の入射角と同一の反射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の反射型出射用導波路とを光デバイスに具備させる。
【0008】
また、本発明では、(イ)基板と、(ロ)この基板の上面に積層する光導波路層と、(ハ)この光導波路層を含む前記した基板の一端面にその入射面が平行となるように固設された多層膜フィルタと、(ニ)前記した光導波路層中に形成され、前記した多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、(ホ)前記した光導波路層中に前記した入射用導波路とは独立に形成され、前記した入射位置とは異なる1または複数の位置で前記した多層膜フィルタから前記した所定の入射角と同一の反射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の反射型出射用導波路とを光デバイスに具備させる。
【0009】
更に本発明では、(イ)基板と、(ロ)この基板の上面の所定位置から少なくとも所定長突出する形で前記した上面に対して垂設された多層膜フィルタと、(ハ)前記した基板の上面に積層する光導波路層中に形成され、前記した多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、(ニ)前記した光導波路層中に前記した入射用導波路とは独立に形成され、前記した多層膜フィルタの入射面と反対の出射面における1または複数の位置で前記した多層膜フィルタから前記した所定の入射角と同一の出射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の透過型出射用導波路とを光デバイスに具備させる。
【0010】
更にまた本発明では、(イ)基板と、(ロ)この基板の上面の所定位置から少なくとも所定長突出する形で前記した上面に対して垂設された多層膜フィルタと、(ハ)前記した基板の上面に積層する光導波路層中に形成され、前記した多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、(ニ)前記した光導波路層中に前記した入射用導波路とは独立に形成され、前記した入射位置とは異なる1または複数の位置で前記した多層膜フィルタから前記した所定の入射角と同一の反射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の反射型出射用導波路と、(ホ)前記した光導波路層中に前記した入射導波路とは独立に形成され、前記した多層膜フィルタの入射面と反対の出射面における1または複数の位置で前記した多層膜フィルタから前記した所定の入射角と同一の出射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の透過型出射用導波路とを光デバイスに具備させる。
【0011】
また、本発明では、光信号選択方法として、光導波路層中に形成された入射用導波路から90度以外の所定の入射角をもって多層膜フィルタに光信号を入射させた状態で、この多層膜フィルタの反射面で前記した入射角と等しい反射角で反射する反射光を入射位置とは異なる位置で位置の変化に応じた波長成分の光信号として取り出すことを特徴としている。
【0012】
また、本発明では、光信号選択方法として、光導波路層中に形成された入射用導波路から90度以外の所定の入射角をもって多層膜フィルタに光信号を入射させた状態で、この多層膜フィルタの透過後の出射面で前記した入射角と等しい反射角で出射する透過光をその出射する位置の変化に応じた波長成分の光信号として取り出すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、多層膜フィルタを使用して光信号が波長によって反射位置あるいは透過後の出射位置を変化させることに着目して、波長の選択を行うことにしたので、複数の波長の光信号の分波あるいは合波を従来よりも少ない数のフィルタを用いて実現することができる。したがって、フィルタ数の減少による光デバイスの小型化とコストダウンを図ることができるだけでなく、波長の変更にもフィルタを変更することなく対応が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1の実施の形態>
【0015】
次に本発明を第1の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施の形態による合分波モジュールを表わしたものであり、同図(A)はこれを上から見たものであり、同図(B)はA−A方向で切断した場合の断面構造を表わしたものである。合分波モジュール100は、直方体をした基板101上にコアおよびクラッドからなる光導波路層102を形成している。また、基板101はその長手方向と直交する方向に、光導波路層102のコアよりも十分深い所定の深さのスリット103が切られている。このスリット103の中に多層膜フィルタ板104がスリット側面の一方に沿うようにして位置決めされた状態で、透過性の図示しない接着剤を用いて貼り付けられている。多層膜フィルタ板104には誘電体多層膜フィルタが使用されている。
【0017】
光導波路層102のコアは、同図(A)に示すように入射導波路1050と、第1および第2の出射導波路1051、1052を形成している。多層膜フィルタ板104の表面における入射導波路1050を経た光の入射する位置と、同じく多層膜フィルタ板104の表面における第1および第2の出射導波路1051、1052の出射する位置はそれぞれ異なっている。
【0018】
このような合分波モジュール100で、基板101と光導波路層102の構成材料は、特に限定されるものではない。一例としては、基板101がSi(石英)基板であり、光導波路層102がこの石英基板上に形成された石英導波路であってもよい。また、ポリマを架橋したり、ポリマ構造中にポリマ導波路を光導波路層102として形成したり、基板101としてのニオブ酸リチウム基板に熱拡散等により形成されたTi拡散導波路を光導波路層102として形成したり、基板101としてのInP(燐化インジウム)基板に光半導体導波路を光導波路層102として形成してもよい。
【0019】
また、溝状のスリット103については、ダイシングにより形成することが一般的であるが、ドライエッチングにより形成することも可能である。
【0020】
ところで、入射導波路1050と、第1および第2の出射導波路1051、1052は、それぞれ基板101の表面の長手方向に平行な平行導波路部分1110〜1112と、これらの平行導波路部分の多層膜フィルタ板104側の端部からスリット103における多層膜フィルタ板104の接する側の面まで折れ曲がった傾斜導波路部分(入力ポートあるいは出力ポートに相当。)1120〜1122とによって構成されている。そして、入射導波路1050の傾斜導波路部分1120が多層膜フィルタ板104の面となす角度(入射角)と、第1および第2の出射導波路1051、1052の傾斜導波路部分1121、1122が多層膜フィルタ板104の面となす角度(反射角)は、多層膜フィルタ板104の入射面と直交する図示しない法線に対して対称となっている。
【0021】
このように本実施の形態では、傾斜導波路部分1120〜1122が多層膜フィルタ板104と接する位置がそれぞれ相違している。そして、これにより、第1の出射導波路1051の傾斜導波路部分1121からは第1の波長λ1を、また、第2の出射導波路1052の傾斜導波路部分1122からは第2の波長λ2を選択的に出射させることができる。
【0022】
この原理を理解するために、次に、多層膜フィルタ板104に代表されるフィルタの群遅延とフィルタ特性の関係について説明する。
【0023】
一般的に波長の合分波に用いられている多層膜フィルタは、設計により、所望の波長を透過あるいは反射させることができる。屈折率の高い層と低い層が交互に積み重ねられた多層膜の中で、波長ごとに異なる位置で反射が発生すると、これらが多重に干渉する。この結果として、ある波長は透過し、他の波長は反射するといったフィルタ特性が得られる。
【0024】
フィルタの特性は各波長に対する透過損失で定義されるのが通常である。これ以外に、フィルタを示す特性として、フィルタを透過あるいは反射する際に発生する群遅延と呼ばれる特性がある。群遅延はフィルタの中での多重反射の量(あるいは回数)に相当する。群遅延が大きいということは、フィルタに入射してから出射するまでに時間が掛かることを意味する。たとえばフィルタの反射特性を例にとると、群遅延が大きい場合は、等価的にフィルタの表面よりも奥で光線が反射されていることになる。
【0025】
入射光がフィルタに対して垂直に入射する場合を考えると、群遅延の違いは時間の違いのみにしか影響しない。これに対して、図1の傾斜導波路部分1120で示されるように入射光が多層膜フィルタ板104に対して斜めに入射すると、群遅延の違いにより、等価的に多層膜フィルタ板104の表面における反射位置が変わる。このため、第1の出射導波路1051の傾斜導波路部分1121と、第2の出射導波路1052の傾斜導波路部分1122とが多層膜フィルタ板104と接する位置としての出射位置が互いに異なることになる。
【0026】
本実施の形態では、この現象を用いている。すなわち、多層膜フィルタ板104の群遅延特性を波長により変化させることで、傾斜導波路部分1120から多層膜フィルタ板104に対して斜めに入射した光信号は、それぞれの波長が持つ群遅延量を原因として、出射される場所が変化することになる。この結果、多層膜フィルタ板104の表面からの出射される光信号の波長の位置に応じて、出射ポートの導波路の配置を選択する。これにより、1枚の多層膜フィルタ板104を使用しても、光信号の入射される側の面で反射光を複数の波長に分波することができる。これを更に具体的に説明する。
【0027】
図2は、多層膜フィルタから反射された光信号の群遅延量の波長依存性の例を示したものである。この例では、点の集合した帯状部分として図示した第1の波長λ1に対して群遅延は小さく、同じく点の集合した帯状部分として図示した第2の波長λ2に対して群遅延は大きな値となっている。すなわち、第2の波長λ2の光信号は、第1の波長λ1の光信号よりも、図1に示した多層膜フィルタ板104の入射面からより深い位置で反射されることになる。
【0028】
図3は、光信号が波長によって多層膜フィルタのより深い位置で反射されることを模式的に示したものである。図1にも示した入射導波路1050の傾斜導波路部分1120から第1および第2の波長λ1、λ2の光信号を多層膜フィルタ板104に入射させる。すると、第1の波長λ1の光信号は多層膜フィルタ板104の比較的浅い位置で反射して、第1の出射導波路1051の傾斜導波路部分1121に入射する。この図では、第1の波長λ1の光信号が多層膜フィルタ板104の表面近くで反射する場合を示している。したがって、傾斜導波路部分1120が多層膜フィルタ板104の表面と接する位置P0と、傾斜導波路部分1121が多層膜フィルタ板104の表面と接する位置P1とは近接している。
【0029】
一方、第2の波長λ2の光信号は多層膜フィルタ板104の比較的深い位置で反射する。このため、第2の出射導波路1052の傾斜導波路部分1122が多層膜フィルタ板104の表面と接する位置P2は、位置P0および位置P1から比較的大きく離れた位置となる。したがって、傾斜導波路部分1121と傾斜導波路部分1122のそれぞれの端部を、多層膜フィルタ板104の表面のそれぞれ所定の位置に予め配置するようにしておくことで、傾斜導波路部分1120を通過する光信号の中から所望の波長成分の光信号を選択して取得することができる。
【0030】
図4は、群遅延量と、最適な入射側と出射導波路の間隔を示したものである。ここでは、入射側の光導波路121と出射側の光導波路122がフィルタ123の表面と接する位置の間隔をdとし、それぞれの光導波路121、122の入射角および反射角θを共に等しい10度として計算している。
【0031】
図2を参照すると、第1の波長λ1の光信号は群遅延が0.01ps(ピコセカンド)程度であり、第2の波長λ2の光信号は群遅延が0.5ps程度である。これを図4に当てはめると、第1および第2の波長λ1、λ2の光信号に対する最適な入射側と出射導波路の間隔d1、d2は、それぞれ0.3um(マイクロメートル)、14.5um程度となる。
【0032】
以上の結果から、図2に示したフィルタ特性の場合は、図3に示した入射導波路1050の位置P0に対して、第1の出射導波路1051の位置P1を0.3um程度離し、第2の出射導波路1052の位置P2を位置P0に対して同一方向に14.5um程度離せば、第1および第2の波長λ1、λ2に対して、低損失な特性を得ることができることになる。もちろん、入射角および反射角θは、10度に限定されるものではない。
【0033】
<第1の実施の形態の変形例>
【0034】
図5は、以上説明した第1の実施の形態の変形の可能性の一例を示すものである。図5で図1と同一部分には同一の符号を付しており、これらの説明を適宜省略する。
【0035】
図5に示した合分波モジュール100Aで、光導波路層102Aは、図1に示した光導波路層102におけるスリット103が切られた部分よりも図で左側の領域のみから構成されている。合分波モジュール100Aの図で右側の端面には、多層膜フィルタ板104が貼り付けられている。このような構成の合分波モジュール100Aは、図1に示した合分波モジュール100と全く同一の光学的な振る舞いを行うことになる。
【0036】
なお、第1の実施の形態で示した合分波モジュール100の場合には、スリット103と多層膜フィルタ板104の幅を調整することで、多層膜フィルタ板104をスリット103に貼り付けることなく両者の光学的な結合を図ることができる。図1に示した第1の実施の形態の多層膜フィルタ板104や、図5に示した第1の実施の形態の変形例の多層膜フィルタ板104のように光導波路層102、102Aに貼り付けるような場合には、光学的に損失の少ない接着剤を用いることが望ましい。
【0037】
<第2の実施の形態>
【0038】
図6は、本発明の第2の実施の形態による合分波モジュールを表わしたものである。合分波モジュール200は、図1に示した第1の実施の形態による合分波モジュール100と同様に基板上に光導波路層202を積層したものである。光導波路層202には、コアとして入射導波路2050と、第1および第2の出射導波路2051、2052が形成されている。また、入射導波路2050の図で右端側と、第1および第2の出射導波路2051、2052の図で左端側の境界位置には、スリット203が切られている。スリット203における入射導波路2050と接する側面には、多層膜フィルタ板204が接着されている。スリット203の底部は、光導波路層202を構成するクラッドの位置よりも深くなっており、基板201にまで到達している(図1参照)。
【0039】
入射導波路2050は、全体として長方形をした光導波路層202の長手方向に平行な平行導波路部分2110と、この平行導波路部分2110におけるスリット203が配置された側の端部と連続し、かつ多層膜フィルタ板204に対して直角以外の角度で光信号が入射するようにその進行方向を変更した傾斜導波路部分2120から構成されている。また、第1の出射導波路2051は、平行導波路部分2110と平行な平行導波路部分2111と、この平行導波路部分2111におけるスリット203が配置された側の端部と連続し、かつ傾斜導波路部分2120と平行な傾斜導波路部分2121から構成されている。傾斜導波路部分2121の図で左端部分はスリット203の図で右端側の側面に接し、あるいは面している。第2の出射導波路2052も、平行導波路部分2110と平行な平行導波路部分2112と、この平行導波路部分2112におけるスリット203が配置された側の端部と連続し、かつ傾斜導波路部分2120と平行な傾斜導波路部分2122から構成されている。傾斜導波路部分2122の図で左端部分はスリット203の図で右端側の側面に同様に接し、あるいは面している。
【0040】
このように本実施の形態の合分波モジュール200は、第1の実施の形態の合分波モジュール100と比較すると、導波路の配置が異なるのみとなっている。ただし、本実施の形態の場合には、多層膜フィルタ板204の厚さが厚くなる程、スリット203の幅を広くする必要がある。これにより、入射導波路2050から第1および第2の出射導波路2051、2052へ結合する際に、結合損失が大きくなってしまう。この結合損失をできるだけ減少させるためには、多層膜フィルタ板204を可能な限り薄くすることが望ましい。
【0041】
図7は、図3に対応したもので、光信号が波長に応じて多層膜フィルタの内部で多重に反射されることを模式的に示したものである。図6にも示した入射導波路2050の傾斜導波路部分2120から第1および第2の波長λ1、λ2の光信号を多層膜フィルタ板204に入射させる。すると、第1の波長λ1の光信号は多層膜フィルタ板204の内部で比較的軽微に反射する。この結果、傾斜導波路部分2120から出た光信号がそのまま多層膜フィルタ板204を直進して出射する位置Q0からわずかに離れた位置Q1から第1の波長λ1の光信号が出射し、この位置に一端を配置した第1の出射導波路2051の傾斜導波路部分2121に入射する。これに対して、第2の波長λ2の光信号は、多層膜フィルタ板204の内部で比較的多く反射する。この結果、位置Q0から比較的遠く離れた位置Q2から第2の波長λ2の光信号が出射することになり、この位置に一端を配置した第2の出射導波路2052の傾斜導波路部分2122に入射することになる。
【0042】
このように第2の実施の形態の場合にも、多層膜フィルタを透過する光信号の群遅延量の波長依存性を測定しておき、これに応じて多層膜フィルタを透過した光信号の出射面における光信号の取り出し位置を設定することにより、これらの位置から所望の波長の光信号を分離して取り出すことができる。しかも、合分波モジュール200として低損失な特性を得ることができる。
【0043】
なお、第1の実施の形態のように多層膜フィルタを反射フィルタとして使用する場合には、選択的に取得しようとする光信号の波長は多層膜フィルタで光が透過しない波長域を使用する必要がある。これに対して、第2の実施の形態のように多層膜フィルタを透過フィルタとして使用する場合には、選択的に取得しようとする光信号の波長は多層膜フィルタで光が透過する波長域を使用する必要がある。
【0044】
<第3の実施の形態>
【0045】
図8は、本発明の第3の実施の形態による合分波モジュールを表わしたものである。この合分波モジュール300は、図1に示した第1の実施の形態による合分波モジュール100と同様に基板上に光導波路層302を形成したものである。光導波路層302には、コアとして第1〜第4の導波路3051〜3054が形成されている。このうち、第1〜第3の導波路3051〜3053における図で右端側と、第4の導波路3054の図で左端側の間には、全体として長方形をした光導波路層302の短手方向にスリット303が切られている。このスリット303の底部は、光導波路層302を構成するクラッドの位置よりも深くなっており、基板301にまで到達している(図1参照)。
【0046】
スリット303の内部には、多層膜フィルタ板304が配置されており、第1〜第3の導波路3051〜3053における図で右側の端面にそれぞれ接着されている。第1の導波路3051の図で左側の端面は、光ファイバ321と光学的に接続されている。第2の導波路3052の図で左側の端面は、デジタルデータ信号を受信する第1の受光素子322と光学的に接続されている。第3の導波路3053の図で左側の端面は、第2の受光素子323と光学的に接続されている。第4の導波路3054の図で右端側は、基板301上に形成された発光素子324と光学的に接続されている。
【0047】
第1〜第4の導波路3051〜3054は、それぞれ多層膜フィルタ板304と光学的に一端を接続する第1〜第4の傾斜導波路部分3121〜3124を備えている。ここで、第1〜第3の傾斜導波路部分3121〜3123の傾斜角および多層膜フィルタ板304の表面との位置関係は、図1に示した傾斜導波路部分1120〜1122および多層膜フィルタ板104の関係と同様である。また、第1の傾斜導波路部分3121と第4の傾斜導波路部分3124の傾斜角および多層膜フィルタ板304の表面との位置関係は、図6に示した傾斜導波路部分2120と傾斜導波路部分2121の関係と同様である。
【0048】
この第3の実施の形態の合分波モジュール300は、FTTH用トリプレクサとして用いられる。トリプレクサで使用される波長は国際的な標準化委員会で規定されている。発光素子324は1260〜1360nm(ナノメートル)の波長で光信号のデジタルデータ信号を光ファイバ321から送信するための送信機を構成している。第1の受光素子322は、光ファイバ321から入射した1480〜1500nmのデジタルデータ信号を受信するようになっている。第2の受光素子323は、光ファイバ321から入射した1550nm〜1560nmの映像信号を受信するようになっている。
【0049】
先の本発明の関連技術では、FTTH用トリプレクサに2枚のフィルタを使用したが、本実施の形態の合分波モジュール300によれば多層膜フィルタ板304を1枚使用するだけでよい。本実施の形態では、第1の受光素子322で使用される光信号の波長と第2の受光素子323で使用される光信号の波長の間で群遅延に差を持たせればよい。発光素子324については、その波長が多層膜フィルタ板304の透過特性において群遅延を小さくすればよい。
【0050】
<第3の実施の形態の変形例>
【0051】
図9および図10は、本発明の第3の実施の形態に対する各種の変形例を示したものである。これら図9および図10で図8と同一部分には同一の符号を付しており、これらの説明を適宜省略する。
【0052】
図9に示した合分波モジュール300Aも、図10に示した合分波モジュール300Bも、光ファイバ321と、これに光学的に結合した第1の導波路3051の配置自体は、図8に示した実施の形態と同一である。図9に示した合分波モジュール300Aの場合には、多層膜フィルタ板304Aを境として発光素子324が光導波路層302Aの光ファイバ321を取り付けた側に配置されている。そして、多層膜フィルタ板304Aのこれと反対側に第1の受光素子322と第2の受光素子323が配置されている。
【0053】
この図9に示す変形例の場合には、発光素子324から出力されるデジタルデータ信号が多層膜フィルタ板304Aによって反射されて第1の導波路3051に入射し、光ファイバ321に送出される。光ファイバ321から第1の導波路3051に送られてきたデジタルデータ信号は、多層膜フィルタ板304Aを透過して、第2の導波路3052Aに入射して第1の受光素子322で受信される。また、光ファイバ321から第1の導波路3051に送られてきた映像信号は、多層膜フィルタ板304Aを透過して、第3の導波路3053Aに入射して第2の受光素子323で受信される。
【0054】
一方、図10に示した合分波モジュール300Bの場合にも、多層膜フィルタ板304Bを境として発光素子324が光導波路層302Bの光ファイバ321を取り付けた側に配置されている。ただし、図9に示した合分波モジュール300Aと異なり、第2の受光素子323は光導波路層302Bの光ファイバ321を取り付けた側に配置されている。
【0055】
図10に示した合分波モジュール300Bの場合には、光ファイバ321から第1の導波路3051に送られてきた映像信号は、多層膜フィルタ板304Bを反射して第3の導波路3053Bに入射し、その他端に配置された第2の受光素子323に入射することになる。
【0056】
この図9および図10に示した変形例以外にも、各種の変形が可能なことはいうまでもない。また、以上説明した本発明の合分波モジュールは、FTTHに用途を限定されるものでないことも当然である。
【0057】
なお、各実施の形態およびこれらの変形例では異なる波長の光信号を分波する場合を中心に説明したが、異なる波長の光信号を本発明によって合波することも可能であることはいうまでもない。また、各実施の形態およびこれらの変形例では号分波モジュールを例に挙げて説明したが、合波のみ、あるいは分波のみの光デバイスあるいはモジュール構造を持たない光デバイスにも本発明を同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施の形態による合分波モジュールの模式的な図であり、同図(A)は平面図、同図(B)はA−A断面図である。
【図2】多層膜フィルタから反射された光信号の群遅延量の波長依存性の一例を示した特性図である。
【図3】第1の実施の形態で光信号が波長によって多層膜フィルタのより深い位置で反射されることを模式的に示した説明図である。
【図4】第1の実施の形態における群遅延量と最適な入射側と出射導波路の間隔を示した説明図である。
【図5】第1の実施の形態の変形例における合分波モジュールの模式的な平面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態による合分波モジュールの模式的な平面図である。
【図7】第2の実施の形態で光信号が波長に応じて多層膜フィルタの内部で多重に反射されることを模式的に示した説明図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態による合分波モジュールの模式的な平面図である。
【図9】第3の実施の形態に対する合分波モジュールの第1の変形を示す模式的な平面図である。
【図10】第3の実施の形態に対する合分波モジュールの第2の変形を示す模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0059】
100、100A、200、300、300A、300B 合分波モジュール
101、201、301 基板
102、102A、202、302 光導波路層
103、203、303 スリット
104、204、304、304A、304B 多層膜フィルタ板
1050、2050 入射導波路
1051、2051 第1の出射導波路
1052、2052 第2の出射導波路
112、212、312 傾斜導波路部分(光信号の入力ポートあるいは出力ポート)
3051 第1の導波路
3052 第2の導波路
3053 第3の導波路
3054 第4の導波路
321 光ファイバ
322 第1の受光素子
323 第2の受光素子
324 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板の上面の所定位置から少なくとも所定長突出する形で前記上面に対して垂設された多層膜フィルタと、
前記基板の上面に積層する光導波路層中に形成され、前記多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、
前記光導波路層中に前記入射用導波路とは独立に形成され、前記入射位置とは異なる1または複数の位置で前記多層膜フィルタから前記所定の入射角と同一の反射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の反射型出射用導波路
とを具備することを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
基板と、
この基板の上面に積層する光導波路層と、
この光導波路層を含む前記基板の一端面にその入射面が平行となるように固設された多層膜フィルタと、
前記光導波路層中に形成され、前記多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、
前記光導波路層中に前記入射用導波路とは独立に形成され、前記入射位置とは異なる1または複数の位置で前記多層膜フィルタから前記所定の入射角と同一の反射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の反射型出射用導波路
とを具備することを特徴とする光デバイス。
【請求項3】
基板と、
この基板の上面の所定位置から少なくとも所定長突出する形で前記上面に対して垂設された多層膜フィルタと、
前記基板の上面に積層する光導波路層中に形成され、前記多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、
前記光導波路層中に前記入射用導波路とは独立に形成され、前記多層膜フィルタの入射面と反対の出射面における1または複数の位置で前記多層膜フィルタから前記所定の入射角と同一の出射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の透過型出射用導波路
とを具備することを特徴とする光デバイス。
【請求項4】
基板と、
この基板の上面の所定位置から少なくとも所定長突出する形で前記上面に対して垂設された多層膜フィルタと、
前記基板の上面に積層する光導波路層中に形成され、前記多層膜フィルタの入射位置から90度以外の所定の入射角をもってこの多層膜フィルタに光信号を入射させる入射用導波路と、
前記光導波路層中に前記入射用導波路とは独立に形成され、前記入射位置とは異なる1または複数の位置で前記多層膜フィルタから前記所定の入射角と同一の反射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の反射型出射用導波路と、
前記光導波路層中に前記入射導波路とは独立に形成され、前記多層膜フィルタの入射面と反対の出射面における1または複数の位置で前記多層膜フィルタから前記所定の入射角と同一の出射角で出射する光信号をそれぞれ個別に受け入れる1または複数の透過型出射用導波路
とを具備することを特徴とする光デバイス。
【請求項5】
前記多層膜フィルタを透過または反射して光信号を前記入射用導波路に送出する光信号送出手段を具備することを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかに記載の光デバイス。
【請求項6】
前記多層膜フィルタは、誘電体多層膜フィルタであり、反射時あるいは透過時の群遅延量が波長によって異なっていることを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかに記載の光デバイス。
【請求項7】
前記多層膜フィルタは、前記基板の上面に積層する光導波路層を所定幅で切断したスリットに嵌入されたフィルタ板であることを特徴とする請求項1、請求項3または請求項4いずれかに記載の光デバイス。
【請求項8】
光導波路層中に形成された入射用導波路から90度以外の所定の入射角をもって多層膜フィルタに光信号を入射させた状態で、この多層膜フィルタの反射面で前記入射角と等しい反射角で反射する反射光を入射位置とは異なる位置で位置の変化に応じた波長成分の光信号として取り出すことを特徴とする光信号選択方法。
【請求項9】
光導波路層中に形成された入射用導波路から90度以外の所定の入射角をもって多層膜フィルタに光信号を入射させた状態で、この多層膜フィルタの透過後の出射面で前記入射角と等しい反射角で出射する透過光をその出射する位置の変化に応じた波長成分の光信号として取り出すことを特徴とする光信号選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−60653(P2010−60653A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223848(P2008−223848)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】