説明

光ファイバケーブル及びその布設方法

【課題】既に電線等が配線されて布設された電線管内に、通線工具を用いることなく、新たな光ファイバケーブルを容易に効率よく通線する。
【解決手段】光ファイバケーブル1は、1以上の光ファイバ素線又は光ファイバ心線、あるいは光ファイバテープ心線からなる光ファイバ3と、この光ファイバ3を挟んでその幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体5と、前記光ファイバ3と一対の抗張力体5との外周上を被覆した外被7と、から長尺の光エレメント部15を構成する。しかも、前記外被7は、摩擦係数が0.20以下で、且つショアD硬度が60以上を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既に電線等が配線されて布設された電線管内に、新たな光ファイバケーブルを通線するための光ファイバケーブル及びその布設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FTTH(Fiber to the Home)すなわち家庭またはオフィスでも超高速データ等の高速広帯域情報を送受できるようにするために、電話局から延線されたアクセス系の光ファイバケーブルから、ビルあるいは一般住宅などの加入者宅へ光ファイバ素線、光ファイバ心線又は光ファイバテープ心線からなる光ファイバが引き落とされて、これを配線するためにドロップ用の光ファイバケーブルが用いられている。つまり、ドロップ用の光ファイバケーブルは電柱上の幹線ケーブルの分岐クロージャから家庭内へ光ファイバを引き込む際に用いられ、主に、光ファイバドロップケーブル(屋外線)や、より長い布設径間長に適用するために支持線サイズをUPした少心光架空ケーブルが使用されている。また、インドアドロップケーブルは、家庭あるいはオフィスビル内の各部屋に光ファイバを引き込む際に用いられるドロップ用の光ファイバケーブルである。
【0003】
図6を参照するに、従来のインドアドロップケーブル101は、光ファイバ素線、光ファイバ心線又は光ファイバテープ心線からなる光ファイバ103と、この光ファイバ103を挟んで前記光ファイバ103の幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体105と、前記光ファイバ103と一対の抗張力体105との外周上を被覆した断面形状が矩形形状で樹脂からなり、前記光ファイバ103の幅方向を長辺とし、前記光ファイバ103の幅方向に直交した厚さ方向を短辺とした外被107と、前記光ファイバ103と一対の抗張力体105の中心線である中心軸を通るX軸109と垂直で、かつ前記光ファイバ103の中心線である中心軸を通るY軸111の両側の離れた前記外被107の表面に形成されたノッチ113と、から長尺の光エレメント部115を構成している。
【0004】
一般的に、抗張力体としては、直径がφ0.4mmの鋼線であり、外被109の外被材には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)やエチレン−エチルアクリレート(EEA)などをベースポリマーとし、ノンハロゲン難燃剤として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを配合したものが一般的に用いられている。外被の外径は、2.0×3.0mm程度である。
【0005】
既に配線されている電線管等の配管内に、光ファイバケーブルを通線することを効果的に行うために、光ファイバケーブルの曲げ剛性を規程して配管内への通線性を向上させる工夫がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1では、空気圧送用光ファイバケーブルがあり、そのケーブル曲げ剛性が300N・mm〜400N・mmとされている。
【0007】
また、特許文献2では、光ファイバケーブル自体が通線工具と同じ機能を持つようにしており、曲げ剛性が0.06N・mm〜0.12N・mmと設定されている。
【0008】
また、特許文献3では、曲げ剛性80〜500N・mmの光ファイバドロップケーブルがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3077729号公報
【特許文献2】特開2006−163209号公報
【特許文献3】特開2003−90942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来の光ファイバケーブル101においては、居室内に光ファイバケーブル用ステップルを用いた露出配線やワイヤプロテクタを被せた配線形態が一般的である。合成樹脂可とう管などの電線管内に新たな光ファイバケーブル101を通線して布設するためには、電線管内に通線ロッド(通線工具)を押し込み、通線ロッドで光ファイバケーブル101を引き込む必要があった。また、電線管に曲がり部が多い場合には、光ファイバケーブル101の外被107の材料の摩擦係数が高いために、光ファイバケーブル101に通線潤滑剤を塗布して引き込む必要があった。また、外被107の材料が柔らかいために、電線管との擦れにより外被に外傷が発生し易いという問題があった。
【0011】
一方、マンションなどの集合住宅では、MDF(MainDistributionFrame)から各戸まで光ファイバケーブル101を布設するが、この部分の配線は、線路の安全性、信頼性の観点から電線管等の配管内に収納することが望ましい。
【0012】
最近の新築マンションでは建設時に光ファイバケーブル布設用の配管が設置される例が増えているが、既築マンションなどの集合住宅においては、このような新たに光ファイバケーブル101を配線できる電線管が無い場合が多く、マンション内の各戸まで光ファイバ網を構築するには新たに電線管を設置する必要があり、コストがかかるという問題があった。
【0013】
また、マンションにはメタル電話線を布設している電線管があり、この配管内の空隙に細径の光ファイバケーブル101を布設する方法が考えられる。しかし、その配管内に従来の光ファイバケーブル101を追加布設しようとすると、前述したように配管引き込みに多くの問題があり、これに加えて、既存の電線管には既にメタル電話線があるために通線ロッドが通り難く、通線が困難である。電線管の曲がり部の数が多い等の状況によっては、通線ロッドが押し込めない。或いは通線ロッドを押し込む手間がかかるという問題があった。
【0014】
また、従来の光ファイバケーブル101の外径が2.0×3.0mmである場合は、その外径が太いために電線管内の布設可能な本数が少なくなり、多条の光ファイバケーブル101を布設するには適さないものであった。
【0015】
また、特許文献1では、光ファイバケーブルのユニットを単独で押し込むには曲げ剛性が不足し、空気によって圧送しなければ通線することができない。
【0016】
また、特許文献2は、曲げ剛性が高すぎて小径に曲げて収納することが困難であるという問題がある。また、これらはいずれも丸形の光ファイバケーブルに関するものであって、平形の光ファイバケーブルで長径方向の曲げ剛性と短径方向の曲げ剛性が異なる場合の解析はされていない。
【0017】
また、特許文献3は、ケーブルの剛性が低いため、クロージャ等への収納性は良いが、電線管内へ押し込むことができないという問題があった。
【0018】
この発明は、既に電線等が配線されて布設された電線管内に、通線工具を用いることなく、新たな光ファイバケーブルを容易に効率よく通線することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するために、この発明の光ファイバケーブルは、1以上の光ファイバ素線又は光ファイバ心線、あるいは光ファイバテープ心線からなる光ファイバと、この光ファイバを挟んで前記光ファイバの幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体と、前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を被覆した前記光ファイバの幅方向を長辺とし、前記光ファイバの幅方向に直交した厚さ方向を短辺とした矩形状からなる
外被と、から長尺の光エレメント部を構成する光ファイバケーブルであって、
前記外被は、摩擦係数が0.20以下で、且つショアD硬度が60以上を有することを特徴とするものである。
【0020】
また、この発明の光ファイバケーブルは、前記光ファイバケーブルにおいて、前記外被の短辺方向の曲げ剛性が1.3×10−3N・m以上であることが好ましい。
【0021】
また、この発明の光ファイバケーブルは、前記光ファイバケーブルにおいて、前記外被の短辺方向の曲げ剛性が1.5×10−3N・m以上で、且つ5.0×10−3N・m以下であることが好ましい。
【0022】
この発明の光ファイバケーブルの布設方法は、光ファイバケーブルを押し込んで通線する光ファイバケーブルの布設方法であって、
前記光ファイバケーブルは、1以上の光ファイバ素線又は光ファイバ心線、あるいは光ファイバテープ心線からなる光ファイバと、この光ファイバを挟んで前記光ファイバの幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体と、前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を被覆した前記光ファイバの幅方向を長辺とし、前記光ファイバの幅方向に直交した厚さ方向を短辺とした矩形状からなる外被と、から長尺の光エレメント部を構成すると共に、前記外被は、摩擦係数が0.20以下で、且つショアD硬度が60以上を有することを特徴とするものである。
【0023】
また、この発明の光ファイバケーブルの布設方法は、前記光ファイバケーブルの布設方法において、前記光ファイバケーブルの先端部を折り曲げた状態で前記電線管内に通線することが好ましい。
【0024】
また、この発明の光ファイバケーブルの布設方法は、前記光ファイバケーブルの布設方法において、前記先端部を折り曲げた光ファイバケーブルと共に他の光ファイバケーブルを添えて固定部材で少なくとも2本以上の光ファイバケーブルを一束化して前記電線管内に通線することが好ましい。
【0025】
また、この発明の光ファイバケーブルの布設方法は、前記光ファイバケーブルの布設方法において、複数本の前記光ファイバケーブルを予め共巻きにしておき、この複数本の光ファイバケーブルを同時に前記電線管内に通線することが好ましい。
【0026】
また、この発明の光ファイバケーブルの布設方法は、前記光ファイバケーブルの布設方法において、前記光ファイバケーブルの外被の短辺方向の曲げ剛性が1.3×10−3N・m以上であることが好ましい。
【0027】
また、この発明の光ファイバケーブルの布設方法は、前記光ファイバケーブルの布設方法において、前記光ファイバケーブルの外被の短辺方向の曲げ剛性が1.5×10−3N・m以上で、且つ5.0×10−3N・m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
以上のごとき課題を解決するための手段から理解されるように、この発明の光ファイバケーブル及びその布設方法によれば、摩擦係数が0.2以下で、ショアD硬度が60以上の外被を用いることで、電線管への通線性を向上させ、通線潤滑剤を使用することなく、曲がり部が多い電線管へ通線することができる。また、既に電線等が配線されて布設された電線管内の限られた隙間に、通線工具を用いることなく、直接、剛性を持たせた新たな光ファイバケーブルを押し込むことにより容易に効率よく通線することができる。しかも、布設後の光ファイバケーブルにうねりや傷を与える可能性を確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態の光ファイバケーブルを示す断面図である。
【図2】図1の光ファイバケーブルの先端部を折り曲げた状態の斜視図である。
【図3】図1の光ファイバケーブルの先端部にカバーを被せた状態の斜視図である。
【図4】図1の複数条の光ファイバケーブルを共巻きにしてリールに巻いた状態の斜視図である。
【図5】複数条の光ファイバケーブルのうちのいく本かの先端部を折り曲げて全体の光ファイバケーブルを一束化した状態の斜視図である。
【図6】従来の光ファイバケーブルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0031】
図1を参照するに、この実施の形態に係る光ファイバケーブル1としての例えば光ファイバインドアケーブルを例にとって説明する。この光ファイバケーブル1は、複数の光ファイバ素線又は光ファイバ心線、あるいは光ファイバテープ心線を一列に並列して配置してなる光ファイバ3と、この光ファイバ3を挟んで前記光ファイバ3の幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体5と、前記光ファイバ3と一対の抗張力体5との外周上を被覆した前記光ファイバの幅方向を長辺とし、前記光ファイバの幅方向に直交した厚さ方向を短辺とした断面形状が矩形形状で樹脂からなる外被7と、前記光ファイバ3と一対の抗張力体5の中心線である中心軸を通るX軸9と垂直で、かつ前記光ファイバ3の中心線である中心軸を通るY軸11の両側の離れた前記外被7の表面に形成されたノッチ13と、から長尺の光エレメント部15を構成している。しかも、上記の外被7は、摩擦係数が0.20以下で、且つショアD硬度が60以上を有することを特徴とする。
【0032】
すなわち、この実施の形態の光ファイバケーブル1は、外形寸法を細径化し、外被7を高硬度化、低摩擦化するとともに、外被7の材料及び抗張力体5によってケーブルの短辺方向の曲げ剛性を上げることにより、図示しない電線管内に通線ロッド等の通線工具を用いずに、ケーブルを押し込むことによって通線可能とするものである。
【0033】
これによって、通線作業工数を削減し、メタル電話線が布設されている既設の電線管の隙間を有効利用し、既設マンション内の光ファイバ網を効率的かつ経済的に構築することができる。
【0034】
次に、この実施の形態の光ファイバケーブル1について実施例をあげて詳しく説明する。
【0035】
この実施例では、配管長20mで90°曲がり×5箇所の配管モデルを使用して光ファイバケーブル1の通線性の検証を行なった。これを配管モデルとした理由は、(株)オプトロニクス社の「光通信時代を支えるFTTH施工技術」では、「電線管の通線点間は90度曲げが2つ以下であることが望ましい」とされているが、明確な指針が無く、既築マンションでは前記曲げ部の数を超える電線管も多数存在すると考えられるからである。
【0036】
また、電線管には内径φ22mmのCD管(配管機材)を使用した。既設メタルケーブルとしては30対のメタル電話線(外径が約9mm)を予め電線管に通線した。上記のようにメタル電話線が引き込まれている30戸に、新たに光ファイバケーブル1を引き込むことを想定した。そこで、前述したメタル電話線が通線してある電線管に、30条の光ファイバケーブル1の引き込みを実施した。
【0037】
光ファイバケーブル1の外径は、電線管内の隙間を有効利用するためには細径であるほど望ましいが、その一方で、ケーブル部での端末口出し作業性を考慮すると、細すぎると作業性が悪くなるという問題がある。
【0038】
そこで、前述した配管モデルにおいては、先端が直径φ9mmの標準的な市販の通線ロッドを用いる場合、光ファイバケーブル1の断面積が2.0mm以上で、かつ4.0mmであれば、端末口出し作業性が良好で通線可能なケーブルサイズとなることが判明した。
【0039】
すなわち、断面積が2.0mm以下であると、細すぎるために口出し作業が困難となり、また、光ファイバケーブル1の断面積が4.0mmを超えると、30条の光ファイバケーブル1と通線ロッドを合わせた占積率が60%を超えるために通線が非常に困難であった。
【0040】
使用した光ファイバケーブル1は図1の構造であって、外被7には、ショアD硬度が60以上で、摩擦係数が0.2以下の難燃高硬度低摩擦の材料を用いた。抗張力体5にはφ0.5mmの鋼線を用いた。外被7の外径は約1.6×2.0mmとして、その曲げ剛性は短辺方向の曲げに対して1.5×10−3N・m以上で、長辺方向の曲げに対して10×10−3N・m以上としている。
【0041】
また、難燃高硬度低摩擦の外被7は、高密度ポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびエチレンエチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種類の樹脂を加えたベース樹脂100重量部に対し、無機リン酸塊25〜90重量部、ならびにシリコーン分散ポリエチレン、もしくはシリコーングラフトポリエチレン0.75〜15重量部を含有する樹脂組成物を被覆した。本発明ケーブルの特性を確認したところ、波長1.55μmにおける光伝送損失は0.25dB/km以下、損失温度特性(−10°C〜+40°C)は損失変動0.03dB/km以下と良好であり、従来ケーブルと同等の性能を有することを確認した。光ファイバケーブル1の短辺方向と長辺方向の曲げ剛性をそれぞれ限定することで、電線管への通線性とキャビネット等への収納性を両立することができる。
【0042】
その他に、強度に優れ、表面が滑らかな樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリプロピレン等が用いられる。また、被覆樹脂に滑剤としてステアリン酸アミド等の脂肪族アミドを添加して、その表面の潤滑性を改善することにより、延線用ロープと既存のケーブルとの摩擦抵抗や、延線用ロープと管路との摩擦抵抗をより一層低減することができる。
【0043】
また、摩擦抵抗の軽減効果を得るためには、滑剤を添加して潤滑性樹脂被覆とすることができる。滑剤としては、通常、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスアミド、エルシン酸アミド等の脂肪酸アミドが用いられるが、特に好ましくはステアリン酸アミド、エルシン酸アミドが用いられる。このような滑剤は1種単独あるいは2種以上を混合して用いてもよく、ポリエチレン100重量部に対して、通常、0.01〜1重量部添加される。
【0044】
また、上記の滑剤を添加しなくても既存のケーブルとの摩擦や管路との摩擦をより低減することができる潤滑性樹脂を使用することもできる。潤滑性樹脂としては、上述したシリコーン分散ポリエチレン、シリコーングラフトポリエチレンの他に、フッ素樹脂分散ポリエチレン、フッ素樹脂コーティングポリエチレン等が使用される。
【0045】
ちなみに、従来の光ファイバケーブル1で一般的に用いられているエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)やエチレン−エチルアクリレート(EEA)などをベースポリマーとし、ノンハロゲン難燃剤として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を配合した外被7の材料では、電線管に通線する場合に必要となる低摩擦性や耐外傷性(ケーブル同士およびケーブルと電線管内壁との擦れによる外傷に対する外被7の強度)、ケーブルの曲げ剛性を得ることは困難である。
【0046】
次に、上記の図1の実施例における外被7の摩擦係数、硬度と電線管への通線性について説明する。
【0047】
外被7の摩擦係数が0.7、0.25、0.18、0.20の4種類の光ファイバケーブル1の試作(1)〜(4)を作製し、前述した配管モデルの電線管への通線性の実験を行なった。
【0048】
ここで、試作(1)および試作(3)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)をベースポリマーとして、ノンハロゲン系難燃剤、低摩擦化添加剤を配合したものを外被7としており、ショアD硬度はそれぞれ、ショアD56、ショアD52である。
【0049】
試作(2)および試作(4)は、ベースポリマーに高密度ポリエチレン(HDPE)を用いて、ノンハロゲン系難燃剤、低摩擦化添加剤を配合したものを外被7とし、ショアD硬度は、それぞれショアD63、ショアD60と高硬度化したものである。通線は、通線ロッドを用いて行なった。通線性は、通線可能本数と通線後の外傷の有無で判断した。その結果は表1に示されている通りである。
【表1】

【0050】
表1から分かるように、外被7の摩擦係数が0.20以下であれば30条の光ファイバケーブル1の布設が可能である。また、ショアD56以下では布設後の光ファイバケーブル1にうねりや傷が発生している。これは、通線ロッドを押し込んだ時に、先に通線した光ファイバケーブル1に押し痕を与えてしまったもの、あるいは、ケーブル相互の擦れによって外傷を与えてしまったものである。
【0051】
以上のことから、光ファイバケーブル1にうねりや傷を与えずに電線管内に通線するためには、外被7の硬度は高いほうが望ましく、電線管内への通線に適したケーブルとしては、摩擦係数が0.20以下で、ショアD硬度が60以上とすることが必要である。
【0052】
次に、上記の図1の実施例におけるケーブル外径、曲げ剛性と電線管への押し込み通線性について説明する。
【0053】
光ファイバケーブル1の短辺方向の曲げ剛性とケーブル外径を変えて試作(5)〜(8)を作成し、前述した配管モデルの電線管に対する各試作(5)〜(8)の押し込み通線性、つまり通線ロッドを使わずに光ファイバケーブル1を直接押し込むときの通線性を確認した。なお、各試作(5)〜(8)の外被7には、前述した試作(4)と同様に、摩擦係数が0.2で、ショアD硬度60の材料を用いている。押し込み通線性は、通線可能本数と通線後の外傷の有無で判断した。その結果は表2に示されている通りである。
【表2】

【0054】
表2から分かるように、試作(6)〜(8)のように短辺方向の曲げ剛性を1.3× 10−3N・m以上とすることで、電線管への押し込み通線が可能となる。好適には、試作(7)、(8)のように曲げ剛性を1.5× 10−3N・m以上とすることで、さらに多数の光ファイバケーブル1を押し込み法により通線可能となる。
【0055】
また、曲げ剛性は高いほど押し込み通線性が良好であるが、実際の布設作業においては、光ファイバケーブル1をキャビネットに収納するなどのように小径に巻く場合、曲げ剛性が高すぎるとケーブルが硬くなって小径に巻きにくくなり作業性を劣化させるという問題が発生する。作業性を考慮すると、好適には、試作(7)、(8)のように1.5× 10−3N・m以上で、かつ5.0×10−3N・m以下であることが望ましい。
【0056】
次に、上記の押し込み通線の光ファイバケーブル1を用いて、より一層効果的に押し込み通線を行う方法について説明する。
【0057】
押し込み通線を行う際に、図2に示されているように、光ファイバケーブル1の先端の約10mmを約180° 折り返し加工した折り曲げ部17を形成することが望ましい。
【0058】
ちなみに、光ファイバケーブル1の先端をニッパ等の切断工具で切断しただけでは、切断面の角部が、電線管内の曲がり部で既に布設されているケーブルや電線管の内壁に引っ掛かり、所定の押し込み通線性が得られない。また、切断面における抗張力体5(鋼線)のバリにより、既に布設されているケーブルの外被に外傷を与えることがある。
【0059】
また、光ファイバケーブル1の先端に、図3に示されているようなキャップ状のカバー19を被せることで、光ファイバケーブル1の先端の引っ掛かりを防ぐことが可能であるが、布設中の光ファイバケーブル1を引き戻す作業が発生した場合は、先端のカバー19を電線管内に落としてしまい、カバー19の回収が不可能となる場合がある。しかも、電線管内に残置されたカバー19が、次の光ファイバケーブル1を布設する際の障害になる可能性があり、また、保守などを目的として、電線管内の光ファイバケーブル1を引き抜く際にもカバー19により、電線管内の他のケーブルの外被に外傷を与える恐れがある。
【0060】
一方、この実施の形態の光ファイバケーブル1を用いて、その先端部に折り曲げ部17を形成してから通線する方法は、布設現場で容易に折り曲げ加工することができ、光ファイバケーブル1の先端が電線管内の曲がり部で既に布設されているケーブルや電線管の内壁に引っ掛かることや、光ファイバケーブル1の先端の切断面の抗張力体5(鋼線)のバリ等により電線管内のケーブルに外傷を与えることがなく、さらに電線管内にカバー19などの異物を残してしまうことが無いという効果を奏する。
【0061】
次に、電線管内に多条の光ファイバケーブル1をより一層効率的に布設する方法について説明する。
【0062】
図4を参照するに、前述した図1の実施の形態の光ファイバケーブル1の複数条をまとめて、1個のリール21に予め共巻きして例えば段ボール箱等の収納箱23に収納しておく。共巻きした複数条の光ファイバケーブル1は収納箱23に設けた取出し口25より引き出される。なお、このときの光ファイバケーブル1は、外被7にショアD硬度が60以上の難燃高硬度低摩擦の材料が用いられており、抗張力体5には直径φ0.5mmの鋼線が用いられ、ケーブル1の外径が約1.6×2.0mmとして、短辺方向の曲げ剛性が1.5×10−3N・mである。
【0063】
上記のように共巻きした全条数の光ファイバケーブル1は、図5に示されるように、その先端部で粘着テープ等の固定用テープ27により一束化される。そのうちの1本あるいは数本が図2と同様に約180°折り返されて折り曲げ部17が形成される。このとき、折り曲げ部17の径が、全条数を一束化した径より細いことが望ましい。これを一括して電線管内に押し込むことにより、1条ずつ押し込む場合に比べて、通線する回数を低減することができ、作業の大幅な効率化を図ることができる。
【0064】
例えば、上記の方法で5条の光ファイバケーブル1を束ねたものを電線管内に押し込むようにし、これを6回繰り返すことで、合計30条を配管モデルの電線管に通線したところ、その所要時間が約30分であった。一方、光ファイバケーブル1を1条ずつ電線管内に押し込むようにし、これを30回繰り返すことで、合計30条を通線したところ、その所要時間が約90分であった。
【0065】
以上のように、この実施の形態の光ファイバケーブル1では、下記の効果を奏する。
【0066】
(1)摩擦係数が0.2以下で、ショアD硬度が60以上の難燃高硬度低摩擦外被を外被7の材料に用いることで、電線管への通線性を向上させ、通線潤滑剤を使用することなく、曲がり部が多い電線管へ通線することを可能とする。また、既設ケーブルがある電線管内に複数条の光ファイバケーブル1を通線して布設する場合においても、布設後の光ファイバケーブル1にうねりや傷を与える可能性を確実に低減することができる。
【0067】
(2)光ファイバケーブル1の短辺方向の曲げ剛性を1.3×10−3N・m以上とすることで、通線ロッドなどの通線工具を使用することなく、押し込み通線の方法で電線管内に通線することができる。これにより、通線作業工数を削減することができる。
【0068】
(3)光ファイバケーブル1の短辺方向の曲げ剛性を1.3×10−3N・m以上で、かつ5.0×10−3N・m以下にすることで、さらに、押し込み通線性を向上させ、且つ、ケーブル収納などにおいて作業性に優れた光ファイバケーブル1を提供することができる。
【0069】
(4)光ファイバケーブル1を押し込み通線することで、通線ロッドを押し込む手間が無いため、通線作業を効率化することができる。
【0070】
(5)複数条の光ファイバケーブル1をリール21に共巻きしておき、その複数条を同時に通線することで、従来のように1条ずつ通線して布設する場合に比べて、大幅に作業時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 光ファイバケーブル
3 光ファイバ
5 抗張力体
7 外被
9 X軸
11 Y軸
13 ノッチ
15 光エレメント部
17 折り曲げ部
19 カバー
21 リール
23 収納箱
25 取出し口
27 固定用テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の光ファイバ素線又は光ファイバ心線、あるいは光ファイバテープ心線からなる光ファイバと、この光ファイバを挟んで前記光ファイバの幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体と、前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を被覆した前記光ファイバの幅方向を長辺とし、前記光ファイバの幅方向と直交する厚さ方向を短辺とした矩形状からなる外被と、から長尺の光エレメント部を構成する光ファイバケーブルであって、
前記外被は、摩擦係数が0.20以下で、且つショアD硬度が60以上を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記外被の短辺方向の曲げ剛性が1.3×10−3N・m以上であることを特徴する請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記外被の短辺径方向の曲げ剛性が1.5×10−3N・m以上で、且つ5.0×10−3N・m以下であることを特徴する請求項2記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
光ファイバケーブルを押し込んで通線する光ファイバケーブルの布設方法であって、
前記光ファイバケーブルは、1以上の光ファイバ素線又は光ファイバ心線、あるいは光ファイバテープ心線からなる光ファイバと、この光ファイバを挟んで前記光ファイバの幅方向の両側に平行に配置された少なくとも一対の抗張力体と、前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を被覆した前記光ファイバの幅方向を長辺とし、前記光ファイバの幅方向と直交する厚さ方向を短辺とした矩形状からなる外被と、から長尺の光エレメント部を構成すると共に、前記外被は、摩擦係数が0.20以下で、且つショアD硬度が60以上を有することを特徴とする光ファイバケーブルの布設方法。
【請求項5】
前記光ファイバケーブルの先端部を折り曲げた状態で前記電線管内に通線することを特徴とする請求項4記載の光ファイバケーブルの布設方法。
【請求項6】
前記先端部を折り曲げた光ファイバケーブルと共に他の光ファイバケーブルを添えて固定部材で少なくとも2本以上の光ファイバケーブルを一束化して前記電線管内に通線することを特徴とする請求項5記載の光ファイバケーブルの布設方法。
【請求項7】
複数本の前記光ファイバケーブルを予め共巻きにしておき、この複数本の光ファイバケーブルを同時に前記電線管内に通線することを特徴とする請求項4又は6記載の光ファイバケーブルの布設方法。
【請求項8】
前記光ファイバケーブルの外被の短辺方向の曲げ剛性が1.3×10−3N・m以上であることを特徴する請求項4、5、6又は7記載の光ファイバケーブルの布設方法。
【請求項9】
前記光ファイバケーブルの外被の短辺方向の曲げ剛性が1.5×10−3N・m以上で、且つ5.0×10−3N・m以下であることを特徴する請求項8記載の光ファイバケーブルの布設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−175706(P2010−175706A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16628(P2009−16628)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】