説明

光ファイバーの先端部の加工装置および光ファイバーの先端部の加工方法

【課題】光ファイバーの先端部が精度良く曲面加工できる加工装置を提供する。
【解決手段】加工装置10は、頂上14aに向かって凸である曲面を有するとともに、少なくとも頂上14aおよびその周囲にダイヤモンド砥石の被覆層14cを有する研磨部14と、頂上14aを通過する回転軸Aで研磨部14を回転させる回転部と、光ファイバー12の先端部12aを頂上14aに誘導するガイド部16とを備える。ガイド部16は、研磨部14と対向するように設けられ、光ファイバー12の外径の大きさとほぼ同じ大きさの内径を有する孔24aが形成された管部24を備える。さらに、ガイド部16は、研磨部14とは反対側で管部24に接続された光ファイバー12の導入部26を有し、導入部26はその中心に孔26aを備え、孔26aの内径の大きさは、管部24から離れるにつれて同じままであるか、大きくなっていく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーの先端部を精度良く曲面加工できる加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光を利用して皮膚や筋肉を切開するため、レーザーメスが使用されている。レーザーメスでは、その先端部から照射されるレーザー光が、皮膚表面で熱エネルギーに変換され、この熱エネルギーによって皮膚や筋肉が切開される。また、レーザーメスは、体内の患部を焼灼するときにも使用する。この場合も、レーザーメスの先端部から照射されたレーザー光が熱エネルギーに変換され、この熱エネルギーによって患部が焼灼される。
【0003】
レーザー光は直進性が強いため、レーザーメスの光照射部を構成する光ファイバーの先端部を曲面加工し、この先端部から出射するレーザー光を適度に散乱させて、皮膚や筋肉の切開および患部の焼灼に適した大きさの熱エネルギーを発生させている。
【0004】
光ファイバー等のレーザー導光体の先端部の曲面加工としては、レーザー導光体の先端部からレーザー光を出射させながら、レーザー導光体よりも融点が低いガラス粉とレーザー光を吸収して発熱する吸収粉とを含む混合粉体に、レーザー導光体の先端部を接触させて、吸収粉の混入した溶融ガラスをレーザー導光体の先端部外面に付着させ、冷却固化する方法がある(特許文献1)。
【0005】
上記方法によれば、レーザー導光体の先端部に、正球状または楕球状の付着物を付与できるが、この付着物の外径はレーザー導光体の外径より大きいため、レーザー導光体の細さを特徴とするレーザーメスには不向きである。また、正球状または楕球状の付着物をその都度作製するのは、実用的ではない。
【0006】
光ファイバーの先端部の外径を大きくしない加工法として研磨が挙げられる。光ファイバーの先端部を研磨して円錐形状に加工する方法もあるが(特許文献2)、この方法では、光ファイバーの先端部を精度良く曲面加工するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−61499号公報
【特許文献2】特開2005−134553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光ファイバーの先端部を精度良く曲面加工できる加工装置および加工方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の光ファイバーの先端部の加工装置は、頂上に向かって凸である曲面を有するとともに、少なくとも頂上およびその周囲にダイヤモンド砥石の被覆層を有する研磨部と、頂上を通過する回転軸で研磨部を回転させる回転部と、光ファイバーの先端部を頂上に誘導するガイド部と、を備える。
【0010】
本発明の加工装置において、ダイヤモンド砥石の粒度が#100〜#170の範囲であることが好ましい。また、本発明の加工装置において、ガイド部は、研磨部と対向するように設けられ、光ファイバーの外径の大きさとほぼ同じ大きさの内径を有する孔が形成された管部を備えていてもよい。また、本発明の加工装置において、ガイド部は、研磨部とは反対側で管部に接続された光ファイバーの導入部を有し、導入部はその中心に孔を備え、この孔の内径の大きさは、管部との接続部分で管部の孔の内径の大きさとほぼ同じであり、管部から離れるにつれて同じままであるか、大きくなっていくことが好ましい。
【0011】
本発明の光ファイバーの先端部の加工方法は、研磨部を回転させながら光ファイバーの先端部を接触させて先端部を曲面に加工する方法であって、研磨部は、頂上に向かって凸である曲面を有するとともに、少なくとも頂上およびその周囲にダイヤモンド砥石の被覆層を有し、頂上を通過する回転軸で研磨部を回転させ、光ファイバーの先端部の中心付近を頂上付近に接触させる。
【0012】
本発明の加工方法において、ダイヤモンド砥石の粒度が#100〜#170の範囲であることが好ましい。また、本発明の加工方法において、光ファイバーの先端部を研磨部に断続的に接触させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光ファイバーの先端部を精度良く曲面加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバーの先端部の加工装置の断面模式図である。
【図2】光ファイバーの先端部と研磨部との接触状態を示す断面模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光ファイバーの先端部の加工方法を説明するために示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光ファイバーの先端部の加工装置(以下、単に「加工装置」という場合がある)および光ファイバーの先端部の加工方法(以下、単に「加工方法」という場合がある)について、実施形態に基づいて図面を参照しながら説明する。なお、図面は加工装置およびその部品等を模式的に表したものであり、これらの実際の寸法および寸法比は、図面上の寸法および寸法比と必ずしも一致していない。また、重複説明は適宜省略し、同一部品には同一符号を付与することがある。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る光ファイバーの先端部の加工装置10の断面を模式的に示す断面図である。なお、本願においては、コア、クラッド、およびこれらを覆う被覆材を備えるものと、これから被覆材を除いたものを、両方とも光ファイバーという。本実施形態の加工装置10の大きさは、作業者が一方の手(例えば、右利きの作業者ならば左手)で加工装置10を保持し、他方の手(例えば、右利きの作業者ならば右手)で光ファイバーを保持して動かしながら、光ファイバーの先端部を曲面加工できる程度である。このため、加工装置10の携帯と運搬が容易で、光ファイバーの先端部の加工作業の場所を選ばない。しかしながら、加工装置10の大きさはこれに限定されない。
【0017】
加工装置10は、光ファイバー12の先端部12aを研磨する研磨部14と、研磨部14を回転させる回転部と、光ファイバー12の先端部12aを研磨部14の頂上14aの方向に誘導するガイド部16と、回転部の少なくとも一部を覆うと共に、光ファイバー12の先端部12aを加工する作業者が保持する部位となる筐体18とを備える。
【0018】
研磨部14は、図1に示すように、円柱と、頂点を球体の一部に、錐面を波面にそれぞれ変更した円錐とを組み合わせたような形状を有する。すなわち、研磨部14は、頂上14aに向かって突出した曲面、換言すると、頂上14aに向かって凸である曲面を有している。研磨部14は、例えば金属製の研磨台14bと、少なくとも頂上14aおよびその周囲に形成されたダイヤモンド砥石の被覆層14cとを備える。
【0019】
本実施形態の研磨部14では、頂上14aの周囲の広範囲に渡って被覆層14cが形成されているが、被覆層14cは、光ファイバー12の先端部12aと研磨部14が加工時に接触する領域に少なくとも形成されていればよい。研磨台14bの表面にダイヤモンド砥石を被覆する方法は限定されないが、電着によって研磨台14bの表面に被覆層14cを形成するのが好ましい。
【0020】
ダイヤモンド砥石の粒度は、#100〜#170の範囲であることが好ましく、#140〜#170の範囲であることがより好ましく、#150であることが最も好ましい。ダイヤモンド砥石がこれらの粒度の場合、光ファイバー12の先端部12aを精度良く曲面加工することができるからである。光ファイバー12のコアとクラッドの材料としては、石英、ガラス、プラスチック、またはこれらの複合物等が挙げられるが、本実施形態の加工装置10は、ガラスファイバーの先端部の加工に優れている。
【0021】
回転部は、研磨部14の頂上14aと、研磨台14bの底面となる円の中心とを結ぶ回転軸Aで研磨部14を回転させる。回転部は、研磨部14を固定した例えば金属製のシャフト20と、筐体18内に設置され、シャフト20を回転させる駆動装置(不図示)を備える。駆動装置は、例えば、シャフト20に回転動力を与えるモーターと、このモーターに電力を供給する乾電池とを備える。
【0022】
ガイド部16は、例えばプラスチック製の基部22、管部24、および導入部26を備える。基部22は、シャフト20の側面ならびに研磨部14の側面および底面を囲んでいる。管部24は、研磨部14と対向するように基部22の内側に装着されている。導入部26は、研磨部14とは反対側で基部22および管部24に接続されている。
【0023】
管部24はその中心に孔24aを有し、孔24aの内径は光ファイバー12の外径とほぼ同じ大きさを有する。孔24aは、円錐台と円柱を同心上でつなげたような形状を有する。本実施形態では、管部24の孔24aの内径および光ファイバー12の外径はφ0.5mm〜φ1.2mmである。このような管部24を加工装置10に設けることによって、研磨部14に向けて光ファイバー12の先端部12aを管部24から押し込んだとき、先端部12aの中心付近を研磨部14の頂上14aに接触させることができる。
【0024】
導入部26はその中心に孔26aを有する。孔26aは、円錐台と円柱を同心上でつなげたような形状を有する。孔26aの内径は導入口26bの位置で最大であり、管部24に向かって途中までは、孔26aの内径が小さくなっていく。加工装置10に導入部26を設けることによって、管部24に光ファイバー12の先端部12aを容易に差し込める。本実施形態では、導入口26bの位置での孔26aの内径はφ2.0mm〜φ3.0mmであり、管部24に接続される部分の孔26aの内径は、管部24の孔24aの内径と同じφ0.5mm〜φ1.2mmである。
【0025】
なお、光ファイバー12の外径の大きさ、管部24の孔24aの内径の大きさ、および導入部26の孔26aの内径の大きさは、上記数値範囲に限定されない。また、研磨部14の頂上14a、管部24の孔24aの中心、および導入部26の孔26aの中心は、いずれも回転軸A上に配置されることが好ましく、本実施形態では、このように配置されている。このため、導入部26の孔26aに光ファイバー12の先端部12aを押し込めば、管部24の孔24aを経由して、自然と先端部12aの中心付近を研磨部14の頂上14aに接触させることができる。
【0026】
本実施形態では、導入部26が管部24に直接接続されているが、導入部26と管部24との間に、中心に孔が形成された介在部材を設けてもよい。また、本実施形態では、ガイド部16が3つの部品から構成されているが、ガイド部16は、2つ以下または4つ以上の部品から構成されてもよい。また、研磨台14b、シャフト20、基部22、管部24、および導入部26の材質は、本実施形態に限定されない。
【0027】
つぎに、本実施形態の加工装置10を用いて、光ファイバー12の先端部12aを加工する方法について説明する。まず、加工装置10のスイッチを入れて研磨部14を回転させる。このとき、ガイド部16も研磨部14と同期して回転する。ついで、平坦な面を有する光ファイバー12の先端部12aを導入口26bから差し込み、光ファイバー12を更に押して、研磨部14に光ファイバー12を近づける。なお、光ファイバー12が被覆材を有する場合、光ファイバー12の端部から3mm〜5mm程度、被覆材を予め取り除いておく。
【0028】
その後、研磨部14に近づけられた光ファイバー12の先端部12aが、研磨部14の頂上14a付近に接触したら、光ファイバー12を軽く押したり引いたりしながら、光ファイバー12の先端部12aを10秒程度研磨する。このとき、光ファイバー12の先端部12aの中心と研磨部14の頂上14aは、完全一致した状態で接触するのではなく、光ファイバー12の先端部12aの中心は、研磨部14の頂上14a付近で接触する。そして、導入口26bから光ファイバー12を引き抜き、加工装置10のスイッチを切る。こうして、先端部12aが滑らかな曲面となった光ファイバー12が得られる。
【0029】
図2は、光ファイバー12の先端部12aと研磨部14との接触状態を模式的に示す部分断面図である。加工装置10を用いて光ファイバー12の先端部12aを研磨すると、先端部12aが滑らかな曲面となるのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、図2に示すように、先端部12aの中心からほんの少しずれた位置で、光ファイバー12の先端部12aと研磨部14の頂上14a付近とが接触して、先端部12aの外側が削られる。そして、光ファイバー12を軽く押したり引いたりしながら、光ファイバー12の先端部12aを研磨部14に断続的に接触させることによって、先端部12aの外側が適度に研磨され、半球形状に近い滑らかな曲面となる。
【0030】
光ファイバー12の先端部12aが半球形状に近い滑らかな曲面となったことは、顕微鏡による観測、曲面測定装置による測定、または光ファイバー12に可視光を伝搬させたときに先端部12aから出射される光の拡散の観察によって確認できる。加工装置10を用いて光ファイバー12の先端部12aを研磨したら、先端部12aが半球形状に近い滑らかな曲面となっていたことが、これらの確認方法によって分かった。
【0031】
以上、本発明の光ファイバーの先端部の加工装置を実施形態に基づいて説明した。しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0032】
図3は、本発明の光ファイバーの先端部の加工方法を説明するための模式断面図である。本発明の加工方法では、図3に示すように、加工装置10にガイド部16を設けず、目視等によって光ファイバー12の先端部12aの中心付近を頂上14aに接触させる。光ファイバー12の先端部12aの中心と頂上14aを接触させるのは事実上不可能であるため、先端部12a外側が削られ、半球形状に近い滑らかな曲面を有する先端部12aを得ることが可能である。
【0033】
すなわち、本発明の光ファイバーの先端部の加工方法は、研磨部14を回転させながら光ファイバー12の先端部12aを接触させて先端部12aを曲面に加工する方法であって、研磨部14は、頂上14aに向かって凸である曲面を有するとともに、少なくとも頂上14aおよびその周囲にダイヤモンド砥石の被覆層14cを有し、頂上14aを通過する回転軸Aで研磨部14を回転させ、光ファイバー12の先端部12aの中心付近を頂上または頂上付近に接触させる。必要に応じて光ファイバー12の先端部12aを研磨部14に断続的に接触させれば、曲面加工の精度がより向上する。
【符号の説明】
【0034】
10 加工装置
12 光ファイバー
12a 先端部
14 研磨部
14a 頂上
14b 研磨台
14c 被覆層
16 ガイド部
18 筐体
20 シャフト
22 基部
24 管部
24a 孔
26 導入部
26a 孔
26b 導入口
A 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂上に向かって凸である曲面を有するとともに、少なくとも前記頂上およびその周囲にダイヤモンド砥石の被覆層を有する研磨部と、
前記頂上を通過する回転軸で前記研磨部を回転させる回転部と、
光ファイバーの先端部を前記頂上に誘導するガイド部と、
を備える光ファイバーの先端部の加工装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ダイヤモンド砥石の粒度が#100〜#170の範囲である光ファイバーの先端部の加工装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ガイド部は、前記研磨部と対向するように設けられ、前記光ファイバーの外径の大きさとほぼ同じ大きさの内径を有する孔が形成された管部を備える光ファイバーの先端部の加工装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ガイド部は、前記研磨部とは反対側で前記管部に接続された光ファイバーの導入部を有し、
前記導入部はその中心に孔を備え、この孔の内径の大きさは、前記管部との接続部分で前記管部の孔の内径の大きさとほぼ同じであり、前記管部から離れるにつれて同じままであるか、大きくなっていく光ファイバーの先端部の加工装置。
【請求項5】
研磨部を回転させながら光ファイバーの先端部を接触させて前記先端部を曲面に加工する光ファイバーの先端部の加工方法であって、
前記研磨部は、頂上に向かって凸である曲面を有するとともに、少なくとも前記頂上およびその周囲にダイヤモンド砥石の被覆層を有し、
前記頂上を通過する回転軸で前記研磨部を回転させ、
前記光ファイバーの先端部の中心付近を前記頂上付近に接触させる光ファイバーの先端部の加工方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記ダイヤモンド砥石の粒度が#100〜#170の範囲である光ファイバーの先端部の加工方法。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記光ファイバーの先端部を前記研磨部に断続的に接触させる光ファイバーの先端部の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−125867(P2012−125867A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278854(P2010−278854)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(503461157)株式会社富士エス・エル・アイ (1)
【Fターム(参考)】