説明

光ファイバ保護具,光ファイバ部品および光源モジュール

【課題】容易にクラッドモード光を除去して光ファイバを保護することができる光ファイバ保護具等を提供する。
【解決手段】光源モジュール1は、光ファイバ部品10および光源部30を備える。光ファイバ部品10は、第1キャピラリ11、第2キャピラリ12およびパイプ13を含む光ファイバ保護具と、光ファイバ20とを備える。光源部30は、筐体31、レーザダイオード32、レンズ33およびコネクタ・アダプタ34を備える。第1キャピラリ11は、外形が円柱形状であって、第1端11aと第2端11bとの間に軸方向に延在する貫通孔を有する。第1キャピラリ11は、第2端11bを含む軸方向の所定範囲において第2端11bに近いほど貫通孔の内径が大きいテーパ11cを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを保護するための光ファイバ保護具、この光ファイバ保護具と光ファイバとを備える光ファイバ部品、および、この光ファイバ部品と発光素子とを備える光源モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置において、レーザダイオード等の発光素子から出力されたレーザ光は、光ファイバにより導かれた後に加工対象物に照射される。発光素子から出力されるレーザ光は、一般に、高パワーであることが要求され、また、光ファイバのコアモード光に高効率に結合されることが要求される。
【0003】
しかし、発光素子から出力されるレーザ光が光ファイバのコアモード光に完全に結合されることは困難であり、発光素子から出力されるレーザ光の一部は光ファイバのクラッドモード光に結合される。クラッドの外側にある樹脂被覆層や接着剤にクラッドモード光が達すると、この樹脂被覆層等が光を吸収して焼損する場合がある。特に、光ファイバ端面へのレーザ光入射時のビーム径やNAが大きいときに、この問題は顕著である。
【0004】
このような問題を回避するための幾つかの技術が知られている。例えば、レーザ光が直接に接着剤に到達することがないように光ファイバの周囲のフェルールの構造を工夫するとともに該接着剤として高温耐性のものを用いる技術(以下「第1の従来技術」という。)、レーザ光が直接に接着剤に到達することがないように光ファイバの周囲のフェルールの構造を工夫するとともにサファイアチップによりクラッドモード光を除去する技術(以下「第2の従来技術」という。)、光ファイバをキャピラリに挿通して端面近傍を溶融接合した構造とすることでクラッドモード光を除去する技術(非特許文献1参照。以下「第3の従来技術」という。)、クラッドの周囲に直接に通水することにより冷却およびクラッドモード光除去を図る技術(特許文献1参照。以下「第4の従来技術」という。)、等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−526265号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】StuartCampbell, et al, "Comparison of small fiber connectors for high-powertransmission" (Proceedings Paper) Solid State Lasers XIX: Technology andDevices (Proceedings Volume), Proceedings of SPIE Volume: 7578(2010)75781R
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、第1の従来技術は、発熱し易い光ファイバ端面から離れた位置に高温耐性の接着剤が設けられるものの、クラッドモード光が接着剤に到達して該接着剤が発熱し焼損する可能性がある。第2の従来技術は、サファイアの熱伝導性および光透過性が優れているものの、光ファイバとサファイアチップとの光学接触(オプティカルコンタクト)をとるのが困難であることから、クラッドモード光を充分に除去することが困難である。第3の従来技術は、キャピラリ部分が長く、光ファイバとフェルールとの固定に不安がある。また、第4の従来技術は、冷却能が優れているものの、光ファイバのクラッドに直接に水が接することから、光ファイバを構成するガラスの水素脆化を招く危険を有しており、また、装置が大掛かりとなってしまう。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、容易にクラッドモード光を除去して光ファイバを保護することができる光ファイバ保護具、この光ファイバ保護具と光ファイバとを備える光ファイバ部品、および、この光ファイバ部品と発光素子とを備える光源モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ファイバ保護具は、(1) 第1端と第2端との間に延在し光ファイバが挿通される貫通孔を有し、第2端を含む軸方向の所定範囲において第2端に近いほど貫通孔の内径が大きい第1キャプラリと、(2) 第1端と第2端との間に延在し光ファイバが挿通される貫通孔を有する第2キャピラリと、(3) 第1キャピラリの第2端と第2キャピラリの第1端とを対向させ、第1キャピラリの貫通孔と第2キャピラリの貫通孔と同軸とした状態で、第1キャピラリおよび第2キャピラリを内部に有するパイプと、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の光ファイバ保護具では、少なくとも第1キャピラリの所定範囲においてパイプの外周面がフロスト加工されているのが好適である。また、第2キャプラリの第2端を含む軸方向の所定範囲において第2端に近いほど貫通孔の内径が大きいのが好適である。
【0011】
本発明の光ファイバ部品は、(1) 上記の本発明の光ファイバ保護具と、(2) 光ファイバ保護具の第1キャピラリおよび第2キャピラリそれぞれの貫通孔に、樹脂層が除去されて最外層がガラスとされた状態で挿通された光ファイバと、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の光源モジュールは、(1) 上記の本発明の光ファイバ保護具と、(2) 光ファイバ保護具の第1キャピラリおよび第2キャピラリそれぞれの貫通孔に、樹脂層が除去されて最外層がガラスとされた状態で挿通された光ファイバと、(3) 光を出力する発光素子と、(4) 発光素子から出力される光を第1キャピラリの第1端側における光ファイバの端面に入射させる光学系と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容易にクラッドモード光を除去して光ファイバを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の光源モジュール1の構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態の光源モジュール1に含まれる光ファイバ部品10の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態の光源モジュール1の構成を示す断面図である。図2は、本実施形態の光源モジュール1に含まれる光ファイバ部品10の構成を示す断面図である。光源モジュール1は、光ファイバ部品10および光源部30を備える。光ファイバ部品10は、第1キャピラリ11、第2キャピラリ12、パイプ13および光ファイバ20を備え、更に、鍔15、ヒートシンク16および嵌合用ナット17をも備える。また、光源部30は、筐体31、レーザダイオード32、レンズ33およびコネクタ・アダプタ34を備える。
【0017】
第1キャピラリ11は、外形が円柱形状であって、第1端11aと第2端11bとの間に軸方向に延在する貫通孔を有する。第1キャピラリ11は、第2端11bを含む軸方向の所定範囲において第2端11bに近いほど貫通孔の内径が大きいテーパ11cを有する。軸方向に対するテーパ11cの角度は10度〜15度である。
【0018】
第2キャピラリ12は、外形が円柱形状であって、第1端12aと第2端12bとの間に軸方向に延在する貫通孔を有する。第2キャピラリ12は、第2端12bを含む軸方向の所定範囲において第2端12bに近いほど貫通孔の内径が大きいテーパ12cを有する。軸方向に対するテーパ12cの角度は10度〜15度である。
【0019】
パイプ13は、第1キャピラリ11の第2端11bと第2キャピラリ12の第1端12aとを対向させ、第1キャピラリ11の貫通孔と第2キャピラリ12の貫通孔と同軸とした状態で、第1キャピラリ11および第2キャピラリ12を内部に有する。第1キャピラリ11の第2端11bと第2キャピラリ12の第1端12aとの間に、間隔0.5μm〜100μmの空隙が設けられている。パイプ13の外周面は、少なくとも第1キャピラリ11の上記所定範囲においてフロスト加工されたフロスト加工部13aとされている。そのフロスト加工の粗さは3μm以上である。
【0020】
光ファイバ20は、第1キャピラリ11および第2キャピラリ12それぞれの貫通孔に、樹脂層が除去されて最外層がガラスとされた状態で挿通されている。光ファイバ20の端面位置は、第1キャピラリ11の第1端11aの位置に等しい。第1キャピラリ11、第2キャピラリ12およびパイプ13は、光ファイバ20を保護する光ファイバ保護具を構成している。ガスバーナーによる加熱により、第1キャピラリ11、第2キャピラリ12、パイプ13および光ファイバ20は互いに固定されている。
【0021】
第1キャピラリ11、第2キャピラリ12、パイプ13および光ファイバ20それぞれは、同じ材料からなるのが好適であり、例えば石英ガラス(屈折率1.46)またはホウ珪酸ガラス(屈折率1.49)からなる。第1キャピラリ11のテーパ11cの内側の媒質18は空気等の気体(屈折率1)である。第2キャピラリ12のテーパ12cの内側には接着剤19が充填されている。
【0022】
パイプ13の外周に鍔15が設けられ、この鍔15にヒートシンク16が設けられている。また、嵌合用ナット17は、パイプ13がコネクタ・アダプタ34に挿入された状態で、鍔15とコネクタ・アダプタ34とを互いに固定することができる。
【0023】
コネクタ・アダプタ34は筐体31に固定されている。レーザダイオード32およびレンズ33は筐体31内に配置されている。発光素子であるレーザダイオード32はレーザ光を出力する。レンズ33は、レーザダイオード32から出力される発散光を収斂させ、その収斂させた光を第1キャピラリ11の第1端側11aにおける光ファイバ20の端面に入射させることができる。
【0024】
このような光源モジュール1では、レーザダイオード32から出力されたレーザ光は、レンズ33により収斂されて光ファイバ20の端面に入射される。光ファイバ20の端面に入射されたレーザ光の一部は光ファイバ20のコアモード光に結合され、残部は光ファイバ20のクラッドモード光に結合される。このクラッドモード光は、光ファイバ20,第1第1キャピラリ11およびパイプ13により、第1キャピラリ11の第1端11a側から第2端11b側へ導かれる。
【0025】
そして、クラッドモード光は、第1キャピラリ11の第2端11b側に設けられたテーパ部11cに達すると、これ以降の軸方向への伝搬が抑制される。また、第1キャピラリ11から第2キャピラリ12へ導かれたクラッドモード光は、第2キャピラリ12の第2端12b側に設けられたテーパ部12cに達すると、これ以降の軸方向への伝搬が抑制される。テーパ部11c,12cで反射された光は、パイプ13の外周に形成されたフロスト加工部13に到達すると、これ以降の軸方向への伝搬が更に抑制される。
【0026】
本実施形態では、クラッドモード光を除去する位置は、レーザ光が集光され発熱し易く損傷し易い光ファイバ10の端面付近ではなく、テーパ11c,12cが形成されている領域である。また、テーパ11c,12cが軸方向に或る範囲に亘って存在することから、その範囲に亘ってクラッドモード光を徐々に除去することができ、その広い範囲において発熱させることができて、熱発生の集中化を抑制することができる。また、ヒートシンク16が設けられていることからも、熱集中を抑制することができる。さらに、光ファイバ20の把持は、光学接着剤を使用せずに、キャピラリ11,12の熱収縮により光学コンタクトでできることから、発熱に対しても強い構造となる。
【0027】
このように、本実施形態では、容易にクラッドモード光を除去することができ、光ファイバ10の端面の損傷を抑制することができ、また、第2キャピラリ12以降において光ファイバ10の外周に設けられる樹脂被覆層の損傷を抑制することができる。したがって、光ファイバ部品10や光源モジュール1の信頼性は高い。
【符号の説明】
【0028】
1…光源モジュール、10…光ファイバ部品、11…第1キャピラリ、12…第2キャピラリ、13…パイプ、13a…フロスト加工部、15…鍔、16…ヒートシンク、17…嵌合用ナット、18…テーパ内媒質、19…接着剤、20…光ファイバ、30…光源部、31…筐体、32…レーザダイオード、33…レンズ、34…コネクタ・アダプタ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端と第2端との間に延在し光ファイバが挿通される貫通孔を有し、前記第2端を含む軸方向の所定範囲において前記第2端に近いほど前記貫通孔の内径が大きい第1キャプラリと、
第1端と第2端との間に延在し光ファイバが挿通される貫通孔を有する第2キャピラリと、
前記第1キャピラリの前記第2端と前記第2キャピラリの前記第1端とを対向させ、前記第1キャピラリの前記貫通孔と前記第2キャピラリの前記貫通孔と同軸とした状態で、前記第1キャピラリおよび前記第2キャピラリを内部に有するパイプと、
を備えることを特徴とする光ファイバ保護具。
【請求項2】
少なくとも前記第1キャピラリの前記所定範囲において前記パイプの外周面がフロスト加工されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ保護具。
【請求項3】
前記第2キャプラリの前記第2端を含む軸方向の所定範囲において前記第2端に近いほど前記貫通孔の内径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ保護具。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の光ファイバ保護具と、
前記光ファイバ保護具の前記第1キャピラリおよび前記第2キャピラリそれぞれの貫通孔に、樹脂層が除去されて最外層がガラスとされた状態で挿通された光ファイバと、
を備えることを特徴とする光ファイバ部品。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の光ファイバ保護具と、
前記光ファイバ保護具の前記第1キャピラリおよび前記第2キャピラリそれぞれの貫通孔に、樹脂層が除去されて最外層がガラスとされた状態で挿通された光ファイバと、
光を出力する発光素子と、
前記発光素子から出力される光を前記第1キャピラリの前記第1端側における前記光ファイバの端面に入射させる光学系と、
を備えることを特徴とする光源モジュール。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−181235(P2012−181235A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42141(P2011−42141)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、高出力多波長複合レーザー加工基盤技術開発プロジェクト/次世代レーザー加工技術の研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】