説明

光ファイバ母材および光ファイバの製造方法

【課題】より簡易かつ短時間に光ファイバ母材を製造することができる光ファイバ母材の製造方法およびこれを用いた光ファイバの製造方法を提供すること。
【解決手段】第1領域と該第1領域の外周に形成された第2領域とを有しガラス微粒子からなる多孔質体を形成し、フッ素ガスを含む雰囲気下で前記多孔質体を熱処理する第1の熱処理を行い、前記第1の熱処理を行った多孔質体を前記第1の熱処理よりも高い温度で熱処理する第2の熱処理を行って透明ガラス体とし、前記透明ガラス体の外周にクラッド部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材および光ファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中心コア部と、中心コア部の外周に形成された中心コア部よりも屈折率が低いディプレスト層と、ディプレスト層の外周に形成されたディプレスト層よりも屈折率が高いクラッド部とを備える、いわゆるW型の屈折率プロファイルを有する光ファイバが知られている。
【0003】
このような光ファイバを製造するための光ファイバ母材を製造する方法として以下の方法が知られている。はじめに、たとえばVAD(Vapor phase axial deposition)法によって、石英ガラス微粒子からなる多孔質体(スート)を形成する。この多孔質体は、中心コア部となる第1領域を形成するものであり、たとえば石英ガラスの屈折率を高めるドーパントであるゲルマニウム(Ge)が添加されている。つぎに、この多孔質体を脱水、焼結して、透明ガラス化し、透明ガラス体を形成する。得られた透明ガラス体の外周にOVD(Outer Vapor Deposition)法を用いて石英ガラス微粒子からなる多孔質層(スート)を形成し、これを再び焼結して、透明ガラス化し、透明ガラス体の外径を拡大する。この透明ガラス化の際に、石英ガラスの屈折率を低めるドーパントであるフッ素(F)を添加する。このようにして、中心コア部とディプレスト層とが形成された透明ガラス体が形成される。最後に、ガラス体にOVD法等を用いてクラッド部を形成し、光ファイバ母材とする。
また、これ以外にも、VAD法で中心コア部となる第1領域とディプレスト層となる第2領域を有する多孔質体を一括で合成し、透明ガラス化の際に、多孔質体の外周から第2領域に対して、石英ガラスの屈折率を低めるドーパントであるフッ素(F)を添加して、中心コア部とディプレスト層とが形成された透明ガラス体を形成する方法も知られている(たとえば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−182129号公報
【特許文献2】特開2000−159531号公報
【特許文献3】特開昭60−161347号公報
【特許文献4】特開昭61−31324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1〜4の方法は、脱水から焼結までの透明ガラス化のための熱処理として、フッ素を添加するための熱処理を含めた3段階の熱処理工程が必要であり、製造に時間を要するものであった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より簡易かつ短時間に光ファイバ母材を製造することができる光ファイバ母材の製造方法およびこれを用いた光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、第1領域と該第1領域の外周に形成された第2領域とを有しガラス微粒子からなる多孔質体を形成し、フッ素ガスを含む雰囲気下で前記多孔質体を熱処理する第1の熱処理を行い、前記第1の熱処理を行った多孔質体を前記第1の熱処理よりも高い温度で熱処理する第2の熱処理を行って透明ガラス体とし、前記透明ガラス体の外周にクラッド部を形成する。
【0008】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記多孔質体の第2領域のかさ密度は0.1g/cm〜0.4g/cmである。
【0009】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記第1領域の直径と前記第2領域の外径との比は1:1.5〜1:6.5である。
【0010】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記第1の熱処理を行う雰囲気におけるフッ素ガスの分圧は0.02%〜0.2%である。
【0011】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記第1の熱処理温度は800℃〜1250℃である。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記第2の熱処理温度は1300℃〜1450℃である。
【0013】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記第1の熱処理は、前記多孔質体を加熱領域に対して相対移動させることにより行い、前記多孔質体の加熱領域に対する相対移動速度は100mm/h〜400mm/hである。
【0014】
また、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法は、上記発明において、前記第1の熱処理を行う雰囲気は、塩素ガスを含み、前記雰囲気における塩素ガスの分圧は0.5%〜2.5%である。
【0015】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記発明の製造方法によって製造した光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造する。
【0016】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記発明において、前記光ファイバは、波長1550nmにおける伝送損失が0.185dB/km以下である。
【0017】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記発明において、前記光ファイバは、前記第1領域から形成される中心コア部の前記クラッド部に対する比屈折率が0.3%〜0.45%であり、前記第2領域から形成されるディプレスト層の前記クラッド部に対する比屈折率差が−0.2%〜−0.02%であり、前記中心コア部の直径が7.8μm〜18.0μmであり、前記中心コア部の直径と前記ディプレスト層の外径との比が1:1.5〜1:6.5であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜11.0μmであり、カットオフ波長が1550nm以下であり、ゼロ分散波長が1280nm〜1340nmである。
【0018】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記発明において、前記光ファイバは、前記第1領域から形成される中心コア部の前記クラッド部に対する比屈折率が0.4%以下であり、前記第2領域から形成されるディプレスト層の前記クラッド部に対する比屈折率差が−0.15%以上であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜10.1μmであり、カットオフ波長が1260nm以下であり、ゼロ分散波長が1300nm〜1324nmである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多孔質体の透明ガラス化のための熱処理工程を2段階で行うことができるので、より簡易かつ短時間に光ファイバ母材およびこれを用いた光ファイバを製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施の形態1に係る製造方法により製造する光ファイバ母材の模式的な断面と屈折率プロファイルとを示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る製造方法のフロー図である。
【図3】図3は、多孔質体形成工程を説明する図である。
【図4】図4は、第1の熱処理工程を説明する図である。
【図5】図5は、クラッド部形成工程を説明する図である。
【図6】図6は、比較例および実施例1−1、1−2の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。
【図7】図7は、比較例および実施例1−1、1−2の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。
【図8】図8は、比較例および実施例2−1〜2−3の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。
【図9】図9は、比較例および実施例2−1〜2−3の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。
【図10】図10は、比較例および実施例3−1−1、3−1−2の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。
【図11】図11は、比較例および実施例3−1−1〜3−2−2から製造した光ファイバの光ファイバ母材の特性を示す図である。
【図12】図12は、比較例および実施例4−1、4−2の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。
【図13】図13は、比較例および実施例4−1、4−2の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。
【図14】図14は、好ましい設計パラメータの例とそれによって実現される光ファイバの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバ母材および光ファイバの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、本明細書においては、カットオフ波長とは、ITU−T(国際電気通信連合)G.650.1で定義する22m法によるカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはITU−T G.650.1における定義、測定方法に従うものとする。
【0022】
(実施の形態)
本発明の実施の形態として、光ファイバ母材を製造し、さらにこれを用いて光ファイバを製造する場合について説明する。図1は、実施の形態1に係る製造方法により製造する光ファイバ母材の模式的な断面と屈折率プロファイルとを示す図である。図1に示すように、この光ファイバ母材10は、中心コア部11と、中心コア部11の外周に形成されたディプレスト層12と、ディプレスト層12の外周に形成されたクラッド部13とを備える。
【0023】
中心コア部11は、ゲルマニウムなどの屈折率を高めるドーパントを添加した石英ガラスからなる。ディプレスト層12は、フッ素を添加した石英ガラスからなる。クラッド部13は、屈折率を調整するためのドーパントを含まない純石英ガラスからなる。これによって、ディプレスト層12は中心コア部11よりも屈折率が低くなり、クラッド部13はディプレスト層12よりも屈折率が高くなるので、光ファイバ母材10はいわゆるW型の屈折率プロファイルを有する。
【0024】
また、屈折率プロファイルが示すように、中心コア部11のクラッド部13に対する比屈折率差をΔ1とし、ディプレスト層12のクラッド部13に対する比屈折率差をΔ2とする。また、中心コア部11の直径(コア径)aは、中心コア部11とディプレスト層12との境界において比屈折率差Δ1が0%となる位置での径とする。また、ディプレスト層12の外径bは、ディプレスト層12とクラッド部13との境界において、比屈折率差が比屈折率差Δ2の1/2の値となる位置での径とする。
【0025】
つぎに、本実施の形態1に係る製造方法について説明する。図2は、本実施の形態1に係る製造方法のフロー図である。本実施の形態1では、はじめに、中心コア部11とディプレスト層12とを形成するための多孔質体を形成する(ステップS101)。つぎに、多孔質体を熱処理(第1の熱処理)するとともに外周からフッ素を添加する(ステップS102)。つぎに、加熱した多孔質体をステップS102よりも高い温度で熱処理(第2の熱処理)する(ステップS103)。これによって、多孔質体が透明ガラス化され、透明ガラス体となる。つぎに、透明ガラス体にクラッド部13を形成する(ステップS104)。これによって、所望の光ファイバ母材10が形成される。その後、光ファイバ母材10を線引きして光ファイバを製造する(ステップS105)。
【0026】
本実施の形態1に係る製造方法では、2段階の熱処理工程で多孔質体に適切にフッ素を添加するとともに、脱水と焼結を行うことができる。
【0027】
つぎに、各工程について具体的に説明する。図3は、ステップS101の多孔質体形成工程を説明する図である。図3に示すVAD装置100は、出発材1を保持し、回転させながら引き上げる図示しない引上機構と、出発材1に石英ガラス微粒子を堆積させるための同心円状の多重管バーナ101、102とを備えている。
【0028】
多孔質体形成工程においては、石英ガラスからなる出発材1を引上機構にセットして、出発材1を回転させながら引き上げる。このとき、多重管バーナ101、102に所定のガスを供給しながら、出発材1の下部に炎を吹き付ける。ここで、多重管バーナ102には主原料ガスである四塩化珪素(SiCl4)ガス、ドープガスである四塩化ゲルマニウム(GeCl)ガス、可燃ガスである水素(H)ガス、支燃ガスである酸素(O)ガス及び緩衝ガスである不活性ガスを供給する。これらのガスの火炎中の加水分解反応によって、ゲルマニウムが添加された合成石英ガラス微粒子が出発材1に吹き付けられて堆積し、第1領域2が形成される。同様に、多重管バーナ103にはSiClガス、Hガス、Oガス及び不活性ガスを供給することによって、多孔質部2の外周に合成石英ガラス微粒子からなる第2領域3が形成される。これによって、第1領域2と第2領域3とを有する多孔質体4が形成される。
【0029】
つぎに、ステップS102の第1の熱処理工程について説明する。図4は、第1の熱処理工程を説明する図である。図4に示すゾーン加熱装置200は、多孔質体4を回転させながら昇降させることができる図示しない昇降機構と、石英ガラスからなる炉心管201と、炉心管201の長手方向の一部において周囲を取り囲むように形成された環状のヒータ202とを備えている。炉心管201はガス導入口201aとガス排出口201bとを有する。
【0030】
第1の熱処理工程においては、多孔質体4に取り付けられた出発材1を昇降機構にセットする。そして、多孔質体4を回転降下させながら、ヒータ202によって、多孔質体4を所定の温度に加熱する。多孔質体4は降下に伴ってヒータ202によってゾーン加熱され、脱水が行われる。なお、加熱の際には、ガス導入口201aから炉心管201内にガスG1を供給し、ガス排出口201bからガスG2を排出する。
【0031】
ここで、本実施の形態では、ガスG1として、公知の脱水工程で使用されるガスであるヘリウム(He)ガス、脱水作用のある塩素(Cl)ガス、Oガスを供給するとともに、フッ素(F)ガスを供給し、多孔質体4を、フッ素ガスを含む雰囲気下に置く。これによって、多孔質体4に含まれる水分およびOH基を除去するとともに、第2領域3にフッ素を添加する。
【0032】
つぎに、ステップS103の第2の熱処理工程については、供給するガスG1をHeガスおよびClガスとし、ヒータ202による多孔質体4の加熱温度を第1の熱処理工程時よりも高く設定する以外は、ゾーン加熱装置200を用いて第1の熱処理工程と同様に行うことができる。なお、Clガスは必ずしも供給しなくてもよい。これによって、多孔質体4は焼結し、透明ガラス化して透明ガラス体となる。その結果、第1領域2から中心コア部11が形成され、第2領域3からディプレスト層12が形成される。
【0033】
つぎに、ステップS104のクラッド部形成工程について説明する。図5は、クラッド部形成工程を説明する図である。図5に示すOVD装置300は、延伸された透明ガラス体5を回転させながら昇降させる図示しない昇降機構と、中心コア部11とディプレスト層12とが形成された透明ガラス体5に石英ガラス微粒子を堆積させるための多重管バーナ301とを備えている。
【0034】
クラッド部形成工程においては、まず、延伸された透明ガラス体5を昇降機構によって回転昇降させながら、多重管バーナ102と同じ原料ガス等を供給された多重管バーナ301から透明ガラス体5に火炎を吹き付ける。これによって、多重管バーナ301は透明ガラス体5の長手方向に沿って相対的に往復移動しながら表面に石英ガラス微粒子を堆積させる。その結果、透明ガラス体5の外周に合成石英ガラス微粒子からなる第3領域6が形成される。つぎに、この第3領域6が形成された透明ガラス体5を図4に示すゾーン加熱装置200を用いて加熱することによって第3領域6が透明ガラス化し、クラッド部13となる。これによって、光ファイバ母材10が製造される。
【0035】
その後、ステップS105において、光ファイバ母材10を周知の方法で線引きすることによって、光ファイバ母材10と略同じ屈折率プロファイルを有する光ファイバを製造することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態に係る製造方法では、第1の熱処理工程においてフッ素を添加することによって、透明ガラス化のための熱処理工程を2段階で行うことができる。したがって、より簡易かつ短時間に光ファイバ母材を製造でき、さらに光ファイバ母材を用いた光ファイバを製造することができる。
【0037】
つぎに、好適な光ファイバ母材の構造および製造条件について説明する。
まず、最初に形成する多孔質体のかさ密度については、多孔質体の第2領域のかさ密度が0.1g/cm〜0.4g/cmであることが好ましい。かさ密度が0.1g/cm以上であれば多孔質体が自重で変形することなく、全体の形状を維持するのに好ましい密度であり、0.4g/cm以下であれば表面からのフッ素の添加を容易かつ十分にするのに好ましい。なお、第1領域のかさ密度については特に限定されないが、たとえば第2領域と同様に0.1g/cm〜0.4g/cmとしてもよい。
【0038】
また、第1領域の直径と第2領域の外径との比は1:1.5〜1:6.5であることが好ましい。当該比が1:1.5以上であれば、製造した光ファイバにおいて、ディプレスト層の効果によって曲げ損失が低減され、これによって伝送損失も低減される。また、当該比が1:6.5以下であれば、フッ素を第2領域に十分に添加することができ、第1領域と第2領域との境界にフッ素が添加されない領域が形成されることが防止される。したがって、より確実に屈折率プロファイルを所望の形状にすることができ、より確実に曲げ損失低減効果が得られる。なお、当該比が1:6以下であれば、製造がより容易になるのでより好ましい。
【0039】
また、第1の熱処理工程の雰囲気におけるフッ素ガスの分圧は0.02%〜0.2%が好ましい。なお、分圧は、ゾーン加熱炉内の全圧力を100%とした場合のフッ素ガスの圧力である。0.02%以上であれば、フッ素を第2領域に十分に添加することができる。これによって、第1領域と第2領域との境界にフッ素が添加されない領域が形成されることが防止され、より確実に屈折率プロファイルを所望の形状にすることができ、より確実に曲げ損失低減効果が得られる。また、0.2%以下であれば、フッ素が過剰に添加されることがなく、ディプレスト層の比屈折率差Δ2が設計値よりも大きくなりすぎたり、さらにはフッ素が第1領域にまで達して中心コア部の比屈折率差Δ1が小さくなったりすることが防止される。なお、中心コア部にフッ素が添加されると、中心コア部はゲルマニウムとフッ素が共添加された状態となってレーリー散乱損失が増加する場合がある。
【0040】
また、第1の熱処理工程の熱処理温度は800℃〜1250℃が好ましい。800℃以上であれば多孔質体内部の不純物が十分に除去され、かつ脱水に要する時間も長くはならない。また、1250℃以下であれば、かさ密度が低い場合でも多孔質体の収縮が抑制されるので、かさ密度はフッ素を十分に添加することができる程度の密度に維持される。
【0041】
また、第2の熱処理工程の熱処理温度は1300℃〜1450℃が好ましい。1300℃以上であれば多孔質体内部まで十分に熱が伝わるので、十分にガラス化を行うことができる。また、1450℃以下であれば、多孔質体が溶解して形状が変化したり、多孔質体表面が先に透明化して内部に気泡が残ったりするおそれがなくなる。なお、光ファイバ母材の内部に気泡が残っていると、光ファイバの製造に使用できる良品部分が少なくなったり、光ファイバの伝送損失が増加したりするなどのおそれがある。
【0042】
また、第1の熱処理工程における多孔質体の降下速度(ヒータに対する相対移動速度)はたとえば100mm/h〜400mm/hとすることが好ましい。降下速度を好ましい降下速度に調整することによって、第1領域と第2領域との境界にフッ素が添加されない領域が形成されることが防止され、より確実に屈折率プロファイルを所望の形状にすることができ、より確実に曲げ損失低減効果が得られる。また、フッ素が過剰に添加されることがなく、ディプレスト層の比屈折率差Δ2が設計値よりも大きくなりすぎたり、さらにはフッ素が第1領域にまで達して中心コア部の比屈折率差Δ1が小さくなったりすることが防止される。また、第1の熱処理工程の熱処理時間が長くなりすぎずに最適になるので製造性が高くなる。また、第2の熱処理工程における多孔質体の降下速度については、たとえば第1の熱処理工程における降下速度と同じ設定にしてもよい。降下速度は、フッ素ガスの分圧や、第1および第2の熱処理工程の加熱温度に応じて適宜調整することが好ましい。
【0043】
また、第1の熱処理工程の雰囲気における塩素ガスの分圧は0.5%〜2.5%が好ましい。なお、分圧は、ゾーン加熱炉内の全圧力を100%とした場合の塩素ガスの圧力である。0.5%以上であれば、塩素ガスの脱水効果によって水分およびOH基が十分に除去されるため、OH基に起因する波長1380nm付近にピークを有する光吸収が抑制される。その結果、波長1550nmにおいても伝送損失が低減される。また、2.5%以下であれば、第1領域に添加したゲルマニウムが塩素ガスによって揮散することがないので、中心コア部の比屈折率差Δ1が設計よりも小さくなることが防止される。なお、第2の熱処理工程における塩素ガスの分圧についても、0.5%〜2.5%が好ましい。
【0044】
(実施例、比較例)
本発明の実施例として、上記の実施の形態に係る製造方法において、様々に製造条件を変更して光ファイバ母材および光ファイバを製造した。また、比較例として、第1の熱処理工程の際にフッ素の添加を行わない以外は実施例と同様にして、光ファイバ母材および光ファイバを製造した。なお、実施例において、光ファイバ母材の中心コア部の比屈折率差Δ1が0.3%、ディプレスト層の比屈折率差Δ2が−0.1%になるように設計した。
【0045】
まず、実施例1−1として、多孔質体の第2領域のかさ密度を0.2g/cmとし、第1領域の直径に対する第2領域の外径の比を5とし、第1の熱処理工程におけるフッ素ガスの分圧を0.2%とし、第1および第2の熱処理工程における多孔質体の降下速度を250mm/hとして、光ファイバ母材を製造した。その後、製造した光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造した。なお、光ファイバ母材の製造条件において、第1および第2の熱処理工程における熱処理温度はそれぞれ1000℃、1320℃とし、塩素ガスの分圧は、上述した好ましい範囲の値とした。また、実施例1−2として、多孔質体の第2領域のかさ密度を約0.6g/cmとした以外は実施例1−1と同じ条件で光ファイバ母材を製造した。
【0046】
図6は、比較例および実施例1−1、1−2の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。なお、図6、および後述する図8、10、12では、中心コア部の中心軸に対して片側の屈折率プロファイルのみを示している。
【0047】
図6において、領域A11は多孔質体形成工程にてVAD法によって一括して形成した領域、領域A12はクラッド部形成工程にてOVD法によって形成した領域をそれぞれ示している。また、屈折率プロファイルP11、P12、Pはそれぞれ実施例1−1、1−2、比較例の光ファイバ母材の屈折率プロファイルを示している。
【0048】
また、Δ1は各屈折率プロファイルP11、P12、Pの比屈折率差Δ1を示し、Δ211は実施例1−1の屈折率プロファイルP11の比屈折率差Δ2を示し、Δ212は実施例1−2の屈折率プロファイルP12の比屈折率差Δ2を示し、a11は実施例1−1のコア径、a12は実施例1−2のコア径を示し、bは実施例1−1、1−2、比較例のディプレスト層外径をそれぞれ示している。
【0049】
また、r11、r12は、実施例1−1、1−2の第1の熱処理工程における、多孔質体表面からのフッ素ガスの浸透深さをそれぞれ示している。なお、浸透深さは、[(ディプレスト層外径)−(コア径)]/2として定義している。
【0050】
図6に示すように、各屈折率プロファイルP11、P12、Pの比屈折率差Δ1はΔ1でいずれもほほ等しく、その値は約0.3%であった。しかしながら、実施例1−1、1−2では、Δ211、Δ212はそれぞれ−0.1%、−0.07%であり、かさ密度が大きいほど大きい値であった。また、フッ素ガスの浸透深さについても、bを基準として表すと、r11は0.7×b/2、r12は0.4×b/2であった。
【0051】
つぎに、図7は、比較例および実施例1−1、1−2の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。なお、「MFD」は波長1310nmにおけるモードフィールド径を示している。伝送損失は波長1550nmでの値である。また、曲げ損失は光ファイバを直径20mmで巻いた場合の波長1625nmにおける値である。
【0052】
図7において、比較例の光ファイバの曲げ損失は大きすぎて測定不可能であった。これに対して、実施例1−1、1−2の光ファイバは、曲げ損失が低く、特に実施例1−1では1.1dB/mと低い値であった。また、伝送損失については、実施例1−1、1−2のいずれも、ITU−T G.652に準拠するシングルモード光ファイバの波長1550nmにおける典型的な伝送損失である0.19dB/kmよりも小さい値であり、特に実施例1−1の場合は0.179dB/kmであり、0.180dB/km以下の非常に小さい値であった。また、実施例1−2は、ITU−T G.652の規定に準拠する値のモードフィールド径、カットオフ波長、およびゼロ分散波長であった。また、実施例1−1、1−2のいずれも、熱処理工程が第1の熱処理および第2の熱処理の2段階であり、従来よりも簡易かつ時間が短縮された製造工程で製造することができた。
【0053】
なお、ITU−T G.652においては、光ファイバの特性として、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜10.1μm、カットオフ波長が1260nm以下、ゼロ分散波長が1300nm〜1324nmと規定されている。
【0054】
つぎに、実施例2−1として、多孔質体の第2領域のかさ密度を0.2g/cmとし、第1領域の直径に対する第2領域の外径の比を5とし、第1の熱処理工程におけるフッ素ガスの分圧を0.2%とし、第1および第2の熱処理工程における多孔質体の降下速度を250mm/hとして、光ファイバ母材を製造した。その後、製造した光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造した。なお、光ファイバ母材の製造条件において、第1および第2の熱処理工程における熱処理温度はそれぞれ1000℃、1320℃とし、塩素ガスの分圧は、上述した好ましい範囲の値とした。また、実施例2−2、2−3として、第1の熱処理工程におけるフッ素ガスの分圧をそれぞれ0.02%、0.5%とした以外は実施例2−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。
【0055】
図8は、比較例および実施例2−1〜2−3の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。図8において、領域A21は多孔質体形成工程にてVAD法によって一括して形成した領域、領域A22はクラッド部形成工程にてOVD法によって形成した領域をそれぞれ示している。また、屈折率プロファイルP21、P22、P23、Pはそれぞれ実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3、比較例の光ファイバ母材の屈折率プロファイルを示している。
【0056】
また、Δ121は各屈折率プロファイルP21、P22、Pの比屈折率差Δ1を示し、Δ123は屈折率プロファイルP23の比屈折率差Δ1を示し、Δ221、Δ222、Δ223はそれぞれ屈折率プロファイルP21、P22、P23の比屈折率差Δ2を示し、a11、a12、a13はそれぞれ実施例2−1、2−2、2−3のコア径を示し、bは実施例2−1〜2−3、比較例のディプレスト層外径を示している。
【0057】
また、r21、r22、r22は、実施例2−1、2−2、2−3の第1の熱処理工程における、多孔質体表面からのフッ素ガスの浸透深さをそれぞれ示している。
【0058】
図8に示すように、各屈折率プロファイルP11、P12、Pの比屈折率差Δ1はΔ121でいずれもほほ等しく、その値は約0.3%であった。しかしながら、フッ素の分圧が大きい実施例2−3の屈折率プロファイルP23の比屈折率差Δ1はΔ123であり、Δ121よりも小さく、その値は約0.25%であった。また、Δ221、Δ222、Δ223はそれぞれ−0.1%、−0.07%、−0.14%であり、フッ素ガスの分圧が大きいほど小さい値であった。また、フッ素ガスの浸透深さについても、bを基準として表すと、r21は0.7×b/2、r22は0.5×b/2、r23は0.75×b/2であった。
【0059】
つぎに、図9は、比較例および実施例2−1〜2−3の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。図9において、実施例2−1〜2−3の光ファイバは曲げ損失が低く、特に実施例2−3では0.1dB/mと低い値であった。また、伝送損失については、実施例2−1〜2−3のいずれも、0.19dB/kmよりも小さい値であった。なお、実施例2−1、2−2のように、フッ素ガスの分圧が0.02%〜0.2%の場合の伝送損失が低く、より好ましかった。また、実施例2−1〜2−3のいずれも、熱処理工程が第1の熱処理および第2の熱処理の2段階であり、従来よりも簡易かつ時間が短縮された製造工程で製造することができた。
【0060】
つぎに、実施例3−1−1として、多孔質体の第2領域のかさ密度を0.2g/cmとし、第1領域の直径に対する第2領域の外径の比を5とし、第1の熱処理工程におけるフッ素ガスの分圧を0.02%とし、第1および第2の熱処理工程における多孔質体の降下速度をそれぞれ150mm/h、250mm/hとして、光ファイバ母材を製造した。その後、製造した光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造した。なお、光ファイバ母材の製造条件において、第1および第2の熱処理工程における熱処理温度はそれぞれ1000℃、1320℃とし、塩素ガスの分圧は、上述した好ましい範囲の値とした。
【0061】
また、実施例3−1−2として、第1の熱処理における多孔質体の降下速度を250mm/hとした以外は実施例3−1−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。また、実施例3−2−1として、第1の熱処理工程におけるフッ素ガスの分圧を0.2%とした以外は実施例3−1−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。また、実施例3−2−2として、第1の熱処理工程における多孔質体の降下速度を300mm/hとした以外は実施例3−2−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。また、実施例3−2−3として、第1の熱処理工程における熱処理温度を800℃とした以外は実施例3−2−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。また、実施例3−2−4として、第1の熱処理工程における多孔質体の降下速度を250mm/h、熱処理温度を1220℃とした以外は実施例3−2−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。また、実施例3−2−5として、第1の熱処理工程における熱処理温度を1100℃とした以外は実施例3−2−4と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。
【0062】
図10は、比較例および実施例3−1−1、3−1−2の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。図10において、領域A31は多孔質体形成工程にてVAD法によって一括して形成した領域、領域A32はクラッド部形成工程にてOVD法によって形成した領域をそれぞれ示している。また、屈折率プロファイルP31、P32、Pはそれぞれ実施例3−1−1、3−1−2、比較例の光ファイバ母材の屈折率プロファイルを示している。
【0063】
また、Δ1は各屈折率プロファイルP31、P32、Pの比屈折率差Δ1を示し、Δ231、Δ232はそれぞれ屈折率プロファイルP31、P32の比屈折率差Δ2を示し、a31、a32はそれぞれ実施例3−1−1、3−1−2のコア径を示し、bは実施例3−1−1、3−1−2、比較例のディプレスト層外径をそれぞれ示している。
【0064】
また、r31、r32は、実施例3−1−1、3−1−2の第1の熱処理工程における、多孔質体表面からのフッ素ガスの浸透深さをそれぞれ示している。
【0065】
図10に示すように、各屈折率プロファイルP31、P32、Pの比屈折率差Δ1はΔ1でいずれもほほ等しく、その値は約0.3%であった。しかしながら、Δ231、Δ232はそれぞれ−0.1%、−0.07%であり、降下速度が大きいほど大きい値であった。また、フッ素ガスの浸透深さについても、bを基準として表すと、r31は0.7×b/2、r32は0.5×b/2であった。
【0066】
つぎに、図11は、比較例および実施例3−1−1〜3−2−5の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。図11において、実施例3−1−1〜3−2−2の光ファイバは曲げ損失が低い値であった。また、伝送損失についても、実施例3−1−1〜3−2−5のいずれも、0.19dB/kmよりも小さい値であり、特に、実施例3−1−1、3−2−1、3−2−2、3−2−3、3−2−5は0.18dB/kmよりも小さい値であった。また、実施例3−2−3〜3−2−5は、ITU−T G.652の規定に準拠する値のモードフィールド径、カットオフ波長、およびゼロ分散波長であった。また、実施例3−1−1〜3−2−5のいずれも、熱処理工程が第1の熱処理および第2の熱処理の2段階であり、従来よりも簡易かつ時間が短縮された製造工程で製造することができた。また、実施例3−2−2の場合は、実施例3−1−1の場合よりもフッ素ガスの分圧を高くしたため、降下速度を比較的速くしても、低い伝送損失を実現することができた。
【0067】
つぎに、実施例4−1として、多孔質体の第2領域のかさ密度を0.2g/cmとし、第1領域の直径に対する第2領域の外径の比を5とし、第1の熱処理工程におけるフッ素ガスの分圧を0.2%とし、第1の熱処理および第2の熱処理における多孔質体の降下速度を250mm/hとして、光ファイバ母材を製造した。その後、製造した光ファイバ母材を線引きして光ファイバを製造した。なお、光ファイバ母材の製造条件において、第1の熱処理および第2の熱処理における熱処理温度はそれぞれ1000℃、1320℃とし、塩素ガスの分圧は、上述した好ましい範囲の値とした。また、実施例4−2として、第1領域の直径に対する第2領域の外径の比を6とした以外は実施例4−1と同じ条件で光ファイバ母材および光ファイバを製造した。
【0068】
図12は、比較例および実施例4−1、4−2の光ファイバ母材の屈折率プロファイルの模式図である。図12において、領域A41、A43はそれぞれ実施例4−1、4−2において多孔質体形成工程にてVAD法によって一括して形成した領域を示している。また、領域A42、A44はそれぞれ実施例4−1、4−2においてクラッド部形成工程にてOVD法によって形成した領域を示している。また、屈折率プロファイルP41、P42、Pは実施例4−1、4−2、比較例の光ファイバ母材の屈折率プロファイルをそれぞれ示している。
【0069】
また、Δ1は各屈折率プロファイルP41、P42、Pの比屈折率差Δ1を示し、Δ2は屈折率プロファイルP41、P42の比屈折率差Δ2を示し、a41、a42はそれぞれ実施例4−1、4−2のコア径を示し、b41、b42はそれぞれ実施例4−1、4−2のディプレスト層外径を示している。
【0070】
また、r41、r42は、実施例4−1、4−2の第1の熱処理工程における、多孔質体表面からのフッ素ガスの浸透深さをそれぞれ示している。
【0071】
図12に示すように、各屈折率プロファイルP41、P42、Pの比屈折率差Δ1、Δ2は、それぞれΔ1、Δ2でほほ等しく、その値はそれぞれ約0.3%、約−0.1%であった。また、フッ素ガスの浸透深さについても、r41、r42は同じ大きさであった。しかしながら、実施例4−2の方が、多孔質体の第2領域の外径が大きいため、第2領域の全体までフッ素ガスが浸透しなかった。その結果、実施例4−2のコア径a42は実施例4−1ではコア径a41の1.6倍と大きかった。
【0072】
つぎに、図13は、比較例および実施例4−1、4−2の光ファイバ母材から製造した光ファイバの特性を示す図である。図13において、実施例4−1、4−2の光ファイバは曲げ損失が低い値であった。また、伝送損失についても、実施例4−1、4−2のいずれも、0.19dB/kmよりも小さい値であった。また、実施例4−1、4−2のいずれも、熱処理工程が第1の熱処理および第2の熱処理の2段階であり、従来よりも簡易かつ時間が短縮された製造工程で製造することができた。
【0073】
なお、上記の実施例では、中心コア部の比屈折率差Δ1を、ITU−T G.652に準拠するステップインデックス型屈折率プロファイルのシングルモード光ファイバの比屈折率差Δ1よりも小さい0.3%としている。これによって、中心コア部に含まれるゲルマニウムの量を減少させてレーリー散乱による光損失を抑制し、波長1550nmにおける伝送損失を低減し、たとえば0.185dB/km以下、またはより好ましい0.18dB/km以下になるようにしている。このように実施例の光ファイバ母材および光ファイバではΔ1を小さくしているが、ディプレスト層を形成してW型の屈折率プロファイルにすることによって、曲げ損失の増大は抑制される。また、Δ1とΔ2との関係は、絶対値の比として、|Δ1|:|Δ2|=3:1となることが、中心コア部とディプレスト層との界面でのガラス材料の粘度整合の条件から好ましいので、上記実施例のようにΔ1=0.3%、Δ2=−0.1%とすることが好ましい。なお、Δ2は−0.05%としてもよい。また、中心コア部のコア径は10μmとしてもよい。中心コア部の直径とディプレスト層の外径との比は1:4〜1:5とすることが好ましい。また、W型の屈折率プロファイルにすることによってモードフィールド径が拡大するので、融着接続損失が低減されるとともに、光ファイバの光学非線形性も低減される。また、カットオフ波長については、ディプレスト層の外径および比屈折率差を調整することによって、ITU−T G.652に準拠する値にすることができる。
【0074】
ただし、設計パラメータである比屈折率差Δ1、Δ2、およびコア径、ディプレスト層外径については、上記実施例の値に限られず、所望の光学特性を実現するために適宜設定することができる。
【0075】
図14は、本発明に係る製造方法によって製造される光ファイバの好ましい設計パラメータの例とそれによって実現される光ファイバの特性を示す図である。なお、「b/a」は(ディプレスト層外径)/(コア径)を意味する。項目「特性」における記号「○」は、波長1550nmにおける伝送損失が0.185dB/km以下であることを意味する。また、記号「◎」は、モードフィールド径が8.6μm〜10.1μm、カットオフ波長が1260nm以下、ゼロ分散波長が1300nm〜1324nmであることを意味する。
【0076】
図14に示すように、本発明に係る製造方法によって製造される光ファイバによれば、波長1550nmにおける伝送損失を0.185dB/km以下とすることができる。また、Δ1が0.3%〜0.45%であり、Δ2が−0.2%〜−0.02%であり、コア径が7.8μm〜18.0μmであり、コア径とディプレスト層外径との比が1:1.5〜1:6.5である場合に、光ファイバのモードフィールド径を8.6μm〜11.0μm、カットオフ波長を1550nm以下、ゼロ分散波長を1280nm〜1340nmとすることができ、ITU−T G.652に準拠するSMF(シングルモード光ファイバ)とほぼ同様の使い方が可能である。また、上記設計パラメータの設定において、さらにΔ1が0.4%以下であり、Δ2が−0.15%以上である場合に、光ファイバのモードフィールド径を8.6μm〜10.1μm、カットオフ波長を1260nm以下、ゼロ分散波長を1300nm〜1324nmとすることができ、ITU−T G.652に準拠する値にすることができる。また、図14に示すいずれの設計パラメータについても、光ファイバを直径20mmで巻いた場合の波長1625nmにおける曲げ損失の値は30dB/m以下であった。
【0077】
なお、上記実施の形態では、クラッド部を形成する際にOVD法を用いているが、クラッド部を形成すべき石英ガラス管を準備し、これに透明ガラス体を挿入し一体化することによって、クラッド部の形成を行ってもよい。また、多孔質体を形成する方法についても、VAD法に限らず、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法などの他の公知の方法を用いてもよい。また、多孔質体の第1領域にはゲルマニウムとともに、またはゲルマニウムに換えて、リン(P)などの他の屈折率調整用のドーパントを添加しても良いし、屈折率調整用のドーパントを添加しなくてもよい。
【0078】
また、上記の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
10 光ファイバ母材
11 中心コア部
12 ディプレスト層
13 クラッド部
100 VAD装置
101、102、301 多重管バーナ
200 ゾーン加熱装置
201 炉心管
201a ガス導入口
201b ガス排出口
202 ヒータ
300 OVD装置
G1、G2 ガス
S101〜S105 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1領域と該第1領域の外周に形成された第2領域とを有しガラス微粒子からなる多孔質体を形成し、
フッ素ガスを含む雰囲気下で前記多孔質体を熱処理する第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理を行った多孔質体を前記第1の熱処理よりも高い温度で熱処理する第2の熱処理を行って透明ガラス体とし、
前記透明ガラス体の外周にクラッド部を形成する、
ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質体の第2領域のかさ密度は0.1g/cm〜0.4g/cmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記第1領域の直径と前記第2領域の外径との比は1:1.5〜1:6.5であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記第1の熱処理を行う雰囲気におけるフッ素ガスの分圧は0.02%〜0.2%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記第1の熱処理温度は800℃〜1250℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
前記第2の熱処理温度は1300℃〜1450℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記第1の熱処理は、前記多孔質体を加熱領域に対して相対移動させることにより行い、前記多孔質体の加熱領域に対する相対移動速度は100mm/h〜400mm/hであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記第1の熱処理を行う雰囲気は、塩素ガスを含み、前記雰囲気における塩素ガスの分圧は0.5%〜2.5%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の製造方法によって製造した光ファイバ母材を用いて光ファイバを製造することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項10】
前記光ファイバは、波長1550nmにおける伝送損失が0.185dB/km以下であることを特徴とする請求項9に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項11】
前記光ファイバは、前記第1領域から形成される中心コア部の前記クラッド部に対する比屈折率が0.3%〜0.45%であり、前記第2領域から形成されるディプレスト層の前記クラッド部に対する比屈折率差が−0.2%〜−0.02%であり、前記中心コア部の直径が7.8μm〜18.0μmであり、前記中心コア部の直径と前記ディプレスト層の外径との比が1:1.5〜1:6.5であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜11.0μmであり、カットオフ波長が1550nm以下であり、ゼロ分散波長が1280nm〜1340nmであることを特徴とする請求項9または10に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項12】
前記光ファイバは、前記第1領域から形成される中心コア部の前記クラッド部に対する比屈折率が0.4%以下であり、前記第2領域から形成されるディプレスト層の前記クラッド部に対する比屈折率差が−0.15%以上であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜10.1μmであり、カットオフ波長が1260nm以下であり、ゼロ分散波長が1300nm〜1324nmであることを特徴とする請求項9または10に記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−35722(P2013−35722A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174172(P2011−174172)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】