説明

光ファイバ着色心線

【課題】水に浸漬した状態でも伝送ロスが増加しにくい光ファイバ着色心線を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る光ファイバ着色心線16は、ガラス光ファイバ11と、ガラス光ファイバ11を被覆する一次被覆層12と、一次被覆層12を被覆する二次被覆層13と、二次被覆層13を被覆する着色層15とを備える。二次被覆層13の熱膨張係数に対する、二次被覆層13と該二次被覆層13を被覆する着色層15とを有する積層体21の熱膨張係数の比が0.98以上1.03以下であり、かつ、二次被覆層13の−100℃〜150℃の温度範囲における動的粘弾性のガラス転移温度に対する、積層体21のガラス転移温度の比が0.96以上1.03以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブル内に収納される光ファイバ着色心線に関するものであり、具体的には、使用環境や経年劣化による光ファイバの伝送ロス増加を抑制した光ファイバ着色心線に関し、特に水浸漬においても長期にわたり伝送損失が増加しにくい光ファイバ着色心線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造に関しては石英ガラスの線引き工程において、光ファイバの強度低下を防ぐため、直ちにその外周に被覆樹脂が被覆され、識別のために着色層を設けている。光ファイバ用被覆樹脂としては、主に紫外線硬化樹脂が用いられている。紫外線硬化樹脂としてはウレタンアクリレートやエポキシアクリレートが用いられている。
【0003】
光ファイバは様々な外的応力やそれによって発生するマイクロベンドによって伝送ロス増が発生する。そのため、そのような外的応力から光ファイバを保護するために一般的に光ファイバ素線は軟質層と硬質層の2層構造からなる被覆が施されている。石英ガラスと接触する内層には比較的弾性率の低い軟質樹脂を用いることでバッファー層とし(以下プライマリ層)、外層には比較的ヤング率の高い硬質樹脂を用いることで保護層している(以下、セカンダリ層)。一般的にはプライマリ層の弾性率は3MPa以下、セカンダリ層は弾性率500MPa以上の樹脂が用いられている。
【0004】
光ファイバの製造方法では、石英ガラスを主成分とするプリフォームから線引き炉によって加熱溶融、線引きされた石英ガラス製光ファイバにコーティングダイスを用いて液状の紫外線硬化樹脂を塗布し、続いてこれに紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させる。このような方法により、プライマリ層とセカンダリ層とを光ファイバに被覆して光ファイバ素線が製造される。
さらに次工程において、得られた光ファイバ素線の外周に着色樹脂からなる被覆層を被覆することにより光ファイバ着色心線が製造される。
【0005】
本明細書においてはこのようにガラス光ファイバをプライマリ層及びセカンダリ層により被覆したものを光ファイバ素線と称し、光ファイバ素線の外周に着色樹脂からなる被覆層をさらに被覆してなるものを光ファイバ着色心線、さらに光ファイバ着色心線を複数本平面上に並べ、テープ樹脂により一括被覆したものを光ファイバテープ心線と称するものとする。
【0006】
さて、光ファイバ着色心線を60℃温水に浸漬した状態で使用しても伝送ロス増大を防いだ信頼性の高いファイバとするために、特許文献1では、着色層の弾性率をセカンダリ層の弾性率よりも高くすること、および着色層のガラス転移温度をセカンダリ層のガラス転移温度より高くすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−255590号公報
【特許文献2】特許2925099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年光ファイバの著しい普及によって、光ファイバケーブルは適用範囲が拡大しており、光ファイバケーブルの長期信頼性に対する要求は非常に厳しくなっている。そのため、水に浸漬した状態で使用した場合においてもよりいっそう伝送ロスが増加しにくい光ファイバ着色心線が求められている。
【0009】
しかしながら、各層界面の接着力のバランスを取りながら、上記問題を対処することには限界があり、引用文献1に記載の光ファイバ着色心線を用いてもその長期信頼性は十分ではなかった。
【0010】
本発明の目的は、水に浸漬した状態でも伝送ロスが増加しにくい光ファイバ着色心線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明は、光ファイバ着色心線であって、ガラス光ファイバと、前記ガラス光ファイバを被覆する一次被覆層と、前記一次被覆層を被覆する二次被覆層と、前記二次被覆層を被覆する着色層とを備え、前記二次被覆層の熱膨張係数に対する、前記二次被覆層と該二次被覆層を被覆する前記着色層とを有する積層体の熱膨張係数の比が0.98以上1.03以下であり、かつ、前記二次被覆層の−100℃〜150℃の温度範囲における動的粘弾性のガラス転移温度に対する、前記積層体のガラス転移温度の比が0.96以上1.03以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水に浸漬した状態で使用しても伝送ロスが増加しにくい光ファイバ着色心線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ファイバ素線の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光ファイバ着色心線の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る光ファイバテープ心線の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るチューブ被覆サンプルの線膨張率の温度依存性を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るファイバサンプルの線膨張率の温度依存性を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るガラス転移温度の求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
水浸漬状態に曝された光ファイバ心線の伝送ロスが増大する原因を鋭意研究した結果、伝送ロスが増大した光ファイバ心線は、ガラス光ファイバ/プライマリ界面における剥離、すなわちデラミネーションが観察されることを見出した。さらには、セカンダリ/着色層界面や着色/テープ層界面における剥離も観察されることを見出している。
ガラス光ファイバと被覆層界面において被覆層を引き剥がそうとする力が、ガラス光ファイバと被覆層界面の接着力を超えた時にデラミネーションが発生する。そしてガラス光ファイバに不均一な力が加わることで伝送ロスが発生する。
【0015】
本発明を実施するための形態としては、ガラス光ファイバにプライマリ層、セカンダリ層を被覆した光ファイバ素線を作製し、当該光ファイバ素線に着色層を被覆することにより光ファイバ着色心線を作製する。各被覆層に用いられる樹脂は紫外線硬化樹脂を用いる。さらにこの光ファイバ着色心線を複数本平面上に並行に並べ、紫外線硬化樹脂からなるテープ樹脂で一括被覆することで光ファイバテープ心線とすることができる。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る光ファイバ素線14の断面図であり、図2は、本発明の一実施形態に係る光ファイバ着色心線16の断面図であり、図3は、本発明の一実施形態に係る光ファイバテープ心線18の断面図である。
【0017】
図1において、光ファイバ素線14は、ガラス光ファイバ11と、該ガラス光ファイバ11を被覆する被覆層20とを備える。該被覆層20は、ガラス光ファイバ11を被覆するプライマリ層(以降、“一次被覆層”とも呼ぶ)12と、該一次被覆層12を被覆するセカンダリ層(以降、“二次被覆層”とも呼ぶ)13とを有する。上記一次被覆層12は軟質樹脂であるので比較的弾性率が低い。一方、二次被覆層13は硬質樹脂であるので、一次被覆層12よりも弾性率が高い。なお、一次被覆層12上に二次被覆層13が形成されているので、被覆層20は、一次被覆層12と二次被覆層13とをこの順番で円筒状に積層させた積層体と言える。
【0018】
また、図2において、光ファイバ着色心線16は、ガラス光ファイバ11と、該ガラス光ファイバ11を被覆する被覆層22とを備える。該被覆層22は、上記一次被覆層12と、上記二次被覆層13と、該二次被覆層13を被覆する着色層15とを有する。すなわち、光ファイバ着色心線16は、着色層15により光ファイバ素線14を被覆した構造を有する。なお、一次被覆層12上に二次被覆層13が形成され、さらに該二次被覆層13上に着色層15が形成されているので、被覆層22は、一次被覆層12と二次被覆層13と着色層15とをこの順番で円筒状に積層させた積層体と言える。また、図2において、符号21は、二次被覆層13と該二次被覆層13を被覆するように形成された着色層15との積層体である。
【0019】
さらに、図3において、光ファイバテープ心線18は、平面状に並べられた複数の光ファイバ着色心線16と、平面状に並べられた複数の光ファイバ着色心線16を被覆するテープ樹脂17とを備える。
【0020】
なお、光ファイバ素線14の一次被覆層12および二次被覆層13の原材料となる被覆樹脂や、光ファイバ着色心線16の着色層15の原材料となる着色樹脂として用いる紫外線硬化樹脂は、例えば、主なるものとして、オリゴマー、希釈モノマー、光開始剤、シランカップリング剤、増感剤、顔料、各種添加剤を含む。オリゴマーとしては、ポリエーテル系ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、シリコーンアクリレートなどが主に用いられる。希釈モノマーとして単官能モノマーもしくは、多官能モノマーが用いられる。
【0021】
本発明の特徴の1つは、ガラス光ファイバ11と、該ガラス光ファイバ11上に形成された、一次被覆層12および二次被覆層13とを備える光ファイバ素線14の外周に着色層15を有する光ファイバ着色心線16において、二次被覆層13の熱膨張係数に対する、二次被覆層13と着色層15の積層体21の熱膨張係数の比が0.98以上1.03以下であることである。
【0022】
また、本発明の他の特徴は、二次被覆層13の−100℃〜150℃の温度範囲における動的粘弾性のガラス転移温度Tgに対する、二次被覆層13と着色層15の積層体21のガラス転移温度Tgの比が0.96以上1.03以下であることである。
【0023】
本発明では、上記2つの特徴によって水浸漬したときのセカンダリ層としての二次被覆層と着色層との間の内部歪を抑えることができる。
すなわち、本発明の光ファイバ着色心線によれば、上記第1の特徴により、温度変化や光ファイバ着色心線16を温水浸漬した場合、二次被覆層13と着色層15とを同じように膨張、収縮させることができ、二次被覆層13と着色層15との間の内部歪を小さくすることができる。これにより、二次被覆層13と着色層15の接合面のずれを低減することができる。従って、伝送ロスの増加に寄与するガラス光ファイバ11と一次被覆層12との界面などのガラス光ファイバ11と被覆樹脂との界面へのダメージを減少させることができ、ロス増の原因であるデラミネーションを抑制することができる。
【0024】
また、上記第2の特徴によっても、温度変化や光ファイバ着色心線16を温水浸漬した場合、二次被覆層13および着色層15の両者が同じように膨張、収縮することで、二次被覆層13と着色層15との間の内部歪を小さくすることができる。従って、ガラス光ファイバ11とプライマリ層としての一次被覆層12との界面において、ガラス光ファイバ11から一次被覆層12を引き剥がそうとする力を抑えることができる。
【0025】
また、光ファイバ着色心線16を水に浸漬したとき、水が着色層15を通過して二次被覆層13と一次被覆層12中に侵入し、ガラス光ファイバ11と一次被覆層12との界面の密着力が弱い部分が剥がれデラミネーションを起こすことがある。このようにデラミネーションが生じると、浸透圧の影響によりデラミネーションした部分に濃度を薄めようと浸透圧が発生し、たくさんの水を取り込もうとするが、二次被覆層13と着色層15とのガラス転移温度や熱膨張係数を合わせることにより、光ファイバ着色心線16内に水が溜め込まれないようにすることができる。
【0026】
例えば、特許文献1では、プライマリ層、セカンダリ層、および着色層の弾性率およびガラス転移温度を内側から外側に向かって高くなるように配列することにより、各被覆層の歪などに起因する内部応力の不均一な伝達を緩和し、各層間の密着力の弱い部分の剥離やブリスタの発生を抑えることができる、としている。しかしながら、セカンダリ層より着色層の弾性率が高く、またセカンダリ層より着色層のガラス転移温度が高くなるように配列することによって、セカンダリ層と着色層界面には内部歪が発生しやすくなる。
【0027】
また、弾性率が高いと熱膨張係数が小さくなる傾向にある。これにより、特許文献1に開示された光ファイバ着色心線を温水浸漬した場合、セカンダリ層と着色層界面には内部歪が発生し、該内部歪によってガラス光ファイバとプライマリ層界面の密着力が弱い部分が剥がれデラミネーションを起こすことがある。そのデラミネーションした部分に溶出成分が溜まると特許文献2で述べているように濃度を薄めようと浸透圧が発生し、たくさんの水を取り込もうとする。しかし、特許文献1に開示された光ファイバ着色心線では、弾性率の高い着色層があるために、光ファイバ着色心線内に溜め込まれた水が該光ファイバ着色心線外に出られない状態が生じると推定できる。
【0028】
従来では、着色層の架橋密度が高くセカンダリ層の架橋密度が低いので、着色層を通過して内部に水が浸入すると、該内部に侵入した水は架橋密度が高い着色層にせき止められ、着色層から外部へと出づらい。すなわち、従来では、光ファイバ着色心線に水は浸入するが、浸入した水は外部に出にくい。これに対して、本発明では、二次被覆層13と着色層15とのガラス転移温度および熱膨張係数を同程度にすることにより、着色層15を通過して光ファイバ着色心線16内部に水が浸入しても、該浸入した水が着色層15を通過し易くなる。すなわち、着色層15において水が出入りできるようになるので、光ファイバ着色心線16内部に不意に水が浸入しても、該浸入した水を外部へと排出するのが容易となり、光ファイバ着色心線16内に浸透圧を発生し難くすることができる。
【0029】
このように、本発明では、二次被覆層13と着色層15とを温度変化によって同様に膨張、収縮させることが重要であり、このために、二次被覆層13と着色層15との熱膨張係数およびガラス転移温度を同じ、ないしは略同じにしている。本発明では、これを実現するために、二次被覆層13と積層体21とに着目し、二次被覆層13と着色層15の熱膨張係数およびガラス転移温度を同程度にする指標として、上記第1および第2の特徴を採用している。
【0030】
本発明において、二次被覆層13と、該二次被覆層13と着色層15の積層体21とにおいて、着色層15と二次被覆層13の熱膨張係数やガラス転移温度に大きな差があれば、二次被覆層13と積層体21とにおける熱膨張係数およびガラス転移温度も大きな差が生じる。一方、着色層15と二次被覆層13の熱膨張係数およびガラス転移温度が同程度であれば、二次被覆層13と積層体21とにおける熱膨張係数およびガラス転移温度も同程度になるはずである。本発明では、二次被覆層13と着色層15の両者を同様に膨張、収縮させることが重要であり、二次被覆層13と着色層15との熱膨張係数およびガラス転移温度を同程度にすることが重要なのである。上述のように、二次被覆層13と積層体21との熱膨張係数およびガラス転移温度が、二次被覆層13と着色層15との熱膨張係数およびガラス転移温度に連動しているので、本発明では、二次被覆層13の熱膨張係数およびガラス転移温度が着色層15の熱膨張係数およびガラス転移温度と同程度であるかについて、二次被覆層13および積層体21の熱膨張係数およびガラス転移温度を指標に間接的に決定しているのである。
【0031】
(実施例)
本実施例として、図1の石英ガラスからなるガラス光ファイバ11を、一次被覆層12、二次被覆層13の2層を有する被覆樹脂層(被覆層20)により被覆した光ファイバ素線14を作製した。各樹脂として紫外線硬化樹脂を用いた。紫外線硬化樹脂は、オリゴマー、希釈モノマー、光開始剤、連鎖移動剤、添加剤を含み、構成材を変えることで数種の光ファイバ素線14を得た。また、光ファイバ着色心線16は、図2に示すように、石英ガラスからなるガラス光ファイバ11の外径を125μm、一次被覆層12の外径を183μm及び196μm、二次被覆層13の外径を245μmとした光ファイバ14を作製した後、別工程にて着色層15を被覆して外径255μmの光ファイバ着色心線16を得た。なお、光ファイバ素線14としての特性を維持するために、通常、ガラス光ファイバ11の外径は80μm〜125μm、一次被覆層12の外径は120μm〜200μm、二次被覆層13の外径は165μm〜245μm、着色層15(光ファイバ着色心線16)の外径は135μm〜255μmが採用される。さらに、得られた光ファイバ着色心線16を図3に示すように、4本平面状に並行に並べ、紫外線硬化樹脂からなるテープ樹脂17で一括被覆して光ファイバテープ心線18とした。
なお、本発明で用いる光ファイバ素線14のガラス光ファイバ11と一次被覆層12の密着力は5N〜20Nである。ここで密着力の測定方法は、48th International Wire and Cable Symposium “Polymer coatings For Optical fibers“のPullout forceを使用している。速度は5mm/minを採用した。
【0032】
着色層15は、二次被覆層13に使用した被覆樹脂と同等の組成物で構成することによって、二次被覆層13と熱膨張係数をほぼ同じにすることができる。この場合、着色層15に用いる紫外線硬化型樹脂の硬化度の低下が懸念されるが、これは、光開始剤の種類を変えることや、添加量を増量することで調整可能である。本実施例では、着色層に用いる紫外線硬化樹脂の光開始剤としてはアルキルフェノン系光重合開始剤やアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を添加している。また、イソボルニルアクリレートのような単官能モノマーを使用することによりガラス転移温度を上昇させずに弾性率を上げることが可能である。
【0033】
(熱膨張係数測定方法)
熱膨張係数(体積膨張係数)を求める方法を説明する。光ファイバ素線14の二次被覆層13および光ファイバ着色心線16の積層体21の熱膨張係数を測定するために、二次被覆層13、積層体21のそれぞれに対して、2種類の被覆サンプルを作製した。1つは、ガラス光ファイバ上に被覆層(被覆層20または被覆層22)を被覆したファイバサンプル(光ファイバ素線14または光ファイバ着色心線16)である。また、もう1つは、ファイバサンプル(光ファイバ素線14または光ファイバ着色心線16)からガラス光ファイバを抜いた被覆層(被覆層20または被覆層22)のみからなるチューブ被覆サンプルである。熱膨張係数測定にはTMA熱機械分析(Mettler Toledo TMA-40)を用いて長手方向と外径方向の測定を行った。測定条件は、印加荷重0荷重、温度範囲−100℃〜100℃、昇温速度10℃/minであり、長手方向については引張モードによりチューブ被覆サンプルを用いて測定を行い、外径方向についてはファイバサンプルを用いてガラス光ファイバが入った状態で圧縮モードにより測定を行った。被覆層の線膨張係数は、被覆層のガラス転移点近傍で大きく変化ため、測定する温度範囲は全ての被覆層のガラス転移点を含む範囲に設定することが好ましい。
測定された長手方向の温度と線膨張率の関係を図4に、外径方向の温度と線膨張率の関係を図5に示す。それぞれの線膨張係数は測定結果が直線的に変化する範囲、すなわち−50〜25℃の温度範囲の傾きから求めた。
【0034】
通常、一次被覆層12(プライマリ層)のガラス転移温度は−50℃程度と低い。ガラス転移温度以上の温度範囲においてはチューブ被覆サンプルの一次被覆層12(プライマリ層)は、弾性率が二次被覆層13(セカンダリ層)や着色層15に比べて著しく小さいことから、被覆層20における二次被覆層13、ならびに被覆層22における二次被覆層13および着色層15は自由に伸縮することができる。
すなわち、被覆層20の体積膨張係数は二次被覆層13の体積膨張係数とほぼ同じであると言え、また、被覆層22の体積膨張係数は、二次被覆層13と着色層15の積層体21の体積膨張係数とほぼ同じであると言える。
したがって、二次被覆層13、および積層体21の線膨張係数からそれぞれの体積熱膨張係数を式1)を用いて求めることができる。
βs=αSL+2×αSR 1)
βs:二次被覆層13、積層体21の体積膨張係数
αSL:二次被覆層13、積層体21の長手方向の線膨張係数
αSR:二次被覆層13、積層体21の外径方向の線膨張係数
【0035】
このようにして算出された体積膨張係数について、表1では、各実施例において、二次被覆層13についての体積膨張係数を「二次被覆層の体積膨張係数」欄に記載し、積層体21についての体積膨張係数を「積層体の体積膨張係数」欄に記載する。
【0036】
(二次被覆層13及び積層体21のガラス転移温度測定方法)
ガラス転移温度Tgを求める方法を説明する。二次被覆層13、積層体21のガラス転移温度Tg測定は、DMA動的粘弾性試験(TA社 RSA3)を用いて、図6に示すようにtanδの最大値が現れる温度をガラス転移温度とし、上記チューブ被覆サンプルを用いて引張法にて標線間20mm,周波数1Hz,昇温速度2℃/minの条件で測定を行った。なお、−100℃〜150℃の温度範囲で、チューブ被覆サンプルを測定すると、tanδピークは低温側と高温側に2つ現れる。低温側が一次被覆層12(プライマリ層)のガラス転移温度を示すものであり、高温側が二次被覆層13、着色層15のガラス転移温度を示すものである。
【0037】
このようにして得られたガラス転移温度について、表1では、各実施例において、二次被覆層13についてのガラス転移温度を「二次被覆層のガラス転移温度」欄に記載し、積層体21についての体積膨張係数を「積層体の被覆層のガラス転移温度」欄に記載する。
【0038】
(伝送損失の測定方法)
製造された光ファイバ素線14及び光ファイバ着色心線16を用いて、長さ約1kmの光ファイバ素線あるいは着色心線を60℃温水に浸漬し、該浸漬後の伝送損失を測定した。伝送損失の測定は、アンリツ(株)製 光パルス試験器 MW9076Bを用い、光後方散乱損失係数(OTDR)により、波長1.55μmの伝送ロスを長手方向に測定することにより行った。そして、水温を60℃まで上昇させ、90日浸漬した後、伝送ロスが0.1dB/km以上増加していると認められた場合には、使用環境に対する耐性がないと判断し、表1には×印で記した。
【0039】
【表1】

【0040】
以上の説明から明らかなように、本発明の光ファイバ着色心線は、プライマリ層としての一次被覆層とセカンダリ層としての二次被覆層との2層の被覆層により被覆されたガラス光ファイバを備える光ファイバ素線に、着色樹脂からなる被覆層よりさらに被覆してなる光ファイバ着色心線であって、二次被覆層13と、積層体21(二次被覆層13+着色層15)との熱膨張係数の比が0.98以上1.03以下、かつ、上記二次被覆層13と積層体21(二次被覆層13+着色層15)の−100℃〜150℃の温度範囲における動的粘弾性のガラス転移温度 Tgの比が0.96以上1.03以下である光ファイバ着色心線である。よって、表1に示されるように、本実施例では、60℃の温水に30日間浸漬しても伝送ロスが増大せず、さらには60℃の温水に90日間浸漬しても伝送ロスが増大しない、という効果を得ることができた。
【0041】
以上の結果から二次被覆層と着色層との間に熱膨張に差がある場合、温度変化が加わると二次被覆層と着色層との界面に歪が発生し、被覆層に不均一な力が発生することでガラス光ファイバと一次被覆層とに不均一な力が加わり界面が剥離してロス増を及ぼす。そのため、積層体21(二次被覆層13+着色層15)と二次被覆層13との熱膨張係数およびガラス転移温度は等しい、ないしは略等しいことが望ましい。
【符号の説明】
【0042】
11 ガラス光ファイバ
12 一次被覆層
13 二次被覆層
14 光ファイバ素線
15 着色層
16 光ファイバ着色心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス光ファイバと、
前記ガラス光ファイバを被覆する一次被覆層と、
前記一次被覆層を被覆する二次被覆層と、
前記二次被覆層を被覆する着色層とを備え、
前記二次被覆層の熱膨張係数に対する、前記二次被覆層と該二次被覆層を被覆する前記着色層とを有する積層体の熱膨張係数の比が0.98以上1.03以下であり、かつ、
前記二次被覆層の−100℃〜150℃の温度範囲における動的粘弾性のガラス転移温度に対する、前記積層体のガラス転移温度の比が0.96以上1.03以下であることを特徴とする光ファイバ着色心線。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ着色心線を複数本並べ、テープ樹脂で一括化したことを特徴とする光ファイバテープ心線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−113091(P2012−113091A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261209(P2010−261209)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】