説明

光ファイバ製造方法

【課題】ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを高歩留りで安価に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明の光ファイバ製造方法は、ガラスロッド10を作成するガラスロッド作成工程と、ガラスロッド10をジャケット管20に挿入して光ファイバ母材を作成する母材作成工程と、光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する線引工程とを備える。母材作成工程において、ジャケット管20の内部にガラスロッド10を挿入し、第1端側41においてガラスロッド10とジャケット管20との間のジャケット管内空間21を封止し、第2端側42からジャケット管内空間21を減圧しながら第1端側41から第2端側42へ熱源を移動させることでジャケット管20を選択的にコラプスして、光ファイバ母材を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屈折率が高いガラスからなるコアと、屈折率が低いガラスからなりファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有するクラッドとを含む光ファイバ(HAF: Hole-AssistedFiber)が知られている(特許文献1参照)。この光ファイバは、コア領域,クラッド領域およびジャケット領域を備え、ファイバ軸方向に垂直な断面において複数の空孔がクラッド領域に円周上に配列されている。このような光ファイバは、特許文献2〜5に開示されている方法により製造され得る。
【0003】
特許文献2に開示された光ファイバ製造方法は、コア領域,クラッド領域およびジャケット領域を備える概略円柱形状のガラス体に対しクラッド領域に穿孔加工をしたものを光ファイバ母材とし、この光ファイバ母材を線引することで光ファイバを製造する。特許文献3に開示された光ファイバ製造方法は、ガラスロッドの周囲に複数のガラスパイプをスタックしたものをジャケット管に挿入して光ファイバ母材とし、この光ファイバ母材を線引することで光ファイバを製造する。
【0004】
特許文献4に開示された光ファイバ製造方法は、穿孔および延伸をしたガラスロッドの外周面上にジャケットスス付けを行って光ファイバ母材を作成して、この光ファイバ母材を線引することで光ファイバを製造する。或いは、穿孔および延伸をしたガラスロッドをジャケット管に挿入してロッドイン線引をすることで光ファイバを製造する。後者の場合、ガラスロッドとジャケット管との間のジャケット管内空間を減圧し、ガラスロッドの空孔内空間を圧力調整しながら、ロッドイン線引をする。
【0005】
特許文献5に開示された光ファイバ製造方法は、片端を封止した複数本のキャピラリおよび1本以上の中実棒をサポート管に詰め込み、封止された端の反対端においてキャピラリの空孔を潰さないようにキャピラリ間の隙間を一体化することで、サポート管内空間とキャピラリ空孔内空間とに分け、これを光ファイバ母材とする。そして、この光ファイバ母材を線引する際に、サポート管内空間を減圧し、キャピラリ空孔内空間を大気圧として、光ファイバを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2004/092793号
【特許文献2】特開2002−145634号公報
【特許文献3】特開2003−40637号公報
【特許文献4】特開2003−81656号公報
【特許文献5】特開2007−51024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているような複数の空孔を有する光ファイバは、軸方向に沿って特性が一定であるためには、軸方向に沿って空孔径が均一であることが重要である。また、その為には、光ファイバ母材においても、軸方向に沿って空孔径が均一であることが重要である。しかしながら、これらの光ファイバ製造方法は、製造歩留りおよび製造コストの点で充分ではない。具体的には以下のとおりである。
【0008】
特許文献2に開示された光ファイバ製造方法は、ガラス体に対し穿孔加工をしたものを光ファイバ母材とすることから、加工のコストが高い。また、軸方向に空孔を形成する穿孔加工は精度が悪化するので、長尺の光ファイバを製造することができず、生産性が悪い。
【0009】
特許文献3に開示された光ファイバ製造方法は、ガラスロッドの周囲に複数のガラスパイプをスタックすることから、配列崩れに因る構造バラツキが生じ易く、所望の光学特性を得ることが容易ではない。所望の光学特性を得るには、ガラスロッドおよびガラスパイプそれぞれの寸法精度を高くした上でスタックを確実に行う必要があるが、それには多くの手間を必要とする。多くのガラス表面を内部に取り込むことになるので、異物や気泡が混入し易く、線引工程での断線や外径異常が起き易い。また、OH基や不純物の混入によって伝送損失が悪化する問題がある。
【0010】
特許文献4に開示された光ファイバ製造方法、すなわち、穿孔および延伸をしたガラスロッドをジャケット管に挿入してロッドイン線引をする方法は、上記のような問題点を解消することができる。しかしながら、この製造方法は、特許文献4,5に記載されているように、線引時に、ガラスロッドとジャケット管との間のジャケット管内空間を減圧する一方で、ガラスロッドの空孔内空間を加圧する必要があり、2種類の圧力を使用することから、線引装置の構成が複雑となる。
【0011】
穿孔および延伸をしたガラスロッドに対しジャケットコラプスを行った後に空孔内空間を加圧しながら線引を行う方法が有効と考えられる。しかし、この場合、コラプス工程において軸方向の空孔径変動が生じ易いという問題がある。母材段階での軸方向の空孔径変動を線引工程の加圧制御により解消することは不可能ではないが、線引歩留まりが低下したり、或いは、専用の制御系を設けるため設備コストが高くなったりするなどの問題がある。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを高歩留りで安価に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光ファイバ製造方法は、コア領域,クラッド領域およびジャケット領域を備え、ファイバ軸方向に垂直な断面においてクラッド領域に円周上に配列されファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを製造する方法であって、(1) コア領域およびクラッド領域となるべきガラス体に対しクラッド領域となるべき部分に穿孔加工を行って加熱延伸し一端側を封止してガラスロッドを作成するガラスロッド作成工程と、(2) ジャケット領域となるべきジャケット管の内部にガラスロッドを挿入し、ガラスロッドの一端側とは反対の第1端側においてガラスロッドとジャケット管とを互いに溶着してガラスロッドとジャケット管との間のジャケット管内空間を封止し、第2端側からジャケット管内空間を減圧しながら第1端側から第2端側へ熱源を移動させることでジャケット管を選択的にコラプスして、光ファイバ母材を作成する母材作成工程と、(3) 第1端側からガラスロッドの空孔内空間を加圧しながら第2端側から光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する線引工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の光ファイバ製造方法は、母材作成工程において、ジャケット管内空間の内圧を1kPa以下とするのが好ましい。また、母材作成工程において、ジャケット管の内径とガラスロッドの外径との差を3mm以下とするのも好ましい。
【0015】
本発明の光ファイバ製造方法は、母材形成工程において、ジャケット管を選択的にコラプスしながらジャケット管およびガラスロッドを延伸するのが好適である。このとき、ジャケット管の延伸前の内径IDj1,ジャケット管の延伸前の外径ODj1,ジャケット管の延伸後の外径ODj2 および ガラスロッドの延伸前の外径ODr1 の間に IDj1×ODj2/ODj1−ODr2≦3mm なる関係を満たすのが好ましい。
【0016】
本発明の光ファイバ製造方法は、ガラスロッド作成工程において、クラッド領域となるべき部分に穿孔加工を行って複数の空孔を形成する際に、円周上に配列された複数の空孔の外接円の半径Rcと加熱延伸前のガラスロッドの外径Dとの間に2Rc≦0.9D なる関係を満たすように複数の空孔を形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを高歩留りで安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コラプス工程を説明する図である。
【図2】コラプス工程を説明する図である。
【図3】ガラスロッド10の断面図である。
【図4】第1実施形態の光ファイバ製造方法の母材作成工程を説明する図である。
【図5】第1実施形態の光ファイバ製造方法の母材作成工程を説明する図である。
【図6】第2実施形態の光ファイバ製造方法の母材作成工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
本発明は、以下のような本発明者の知見に基づくものである。軸方向に延在する複数の空孔を有するガラスロッドに対してジャケットを付与する工程を公知のロッドインコラプス法で行って光ファイバ母材を作成し更に光ファイバを製造すると、光ファイバ母材および光ファイバにおいて軸方向の空孔径変動が生じる場合がある。この現象について更に調査を進めたところ、コラプスが進行していくプロセスにおける以下の相違に因り軸方向の空孔径変動の大きさが異なることが判った。
【0021】
図1および図2は、コラプス工程を説明する図である。各図(a)は、コラプス工程途中の或る時刻におけるガラスロッド10およびジャケット20の断面を示す図である。各図(b)は、同時刻における長手方向の温度分布を示す図である。ガラスロッド10とジャケット管20との間のジャケット管内空間21を圧力Pに減圧し、ガラスロッド10の空孔11内の空間を圧力Pに加圧しながら、各図において熱源を右から左へ移動させてコラプスを行うものとする。本発明者が行った実験によれば、図1に示されるように、ジャケット管20がコラプスされる前にガラスロッド10が高温にさらされる場合には、光ファイバ母材における軸方向の空孔径変動が大きかった。逆に、図2に示されるように、ジャケット管20がコラプスされた後にガラスロッド10が高温にさらされる場合には、光ファイバ母材における軸方向の空孔径変動が小さかった。
【0022】
本発明者が行った様々な実験によると、光ファイバ母材における軸方向の空孔径変動を小さく抑制するには、(a) ジャケット管内空間21の圧力Pを空孔11内の空間の圧力Pより充分に小さくするとともに、空孔11内の空間の圧力Pをジャケット管20の外部の圧力と同程度にすること、(b) ジャケット管20の内径とガラスロッド10の外径との間の初期クリアランスを小さくすること、(c) ガラスロッド10に設ける空孔の径方向位置をコラプス界面から遠ざけること、(d) 熱源の移動速度を遅くすること、および、(e) 熱源の温度を下げること、が有効であることが判った。
【0023】
ただし、上記のうち、熱源の移動速度を遅くすることは生産性の低下を招き、熱源の温度を下げることはコラプス界面に気泡が残り易くなり、何れも問題がある。本発明は、以上のような本発明者の知見および考察に基づいて為されたものである。以下、本発明の光ファイバ製造方法の実施形態について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
【0025】
第1実施形態の光ファイバ製造方法は、コア領域,クラッド領域およびジャケット領域を備え、ファイバ軸方向に垂直な断面においてクラッド領域に円周上に配列されファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを製造する方法である。第1実施形態の光ファイバ製造方法は、ガラスロッド10を作成するガラスロッド作成工程と、ガラスロッド10をジャケット管20に挿入して光ファイバ母材を作成する母材作成工程と、光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する線引工程とを備える。
【0026】
ガラスロッド作成工程において、以下のようにしてガラスロッドを作成する。GeOが添加されている石英ガラスのコア(光ファイバのコア領域となるべき部分)およびGeOが添加されていない石英ガラスの光学クラッド(光ファイバのクラッド領域となるべき部分)を含むガラス体を、公知のVAD法などを用い焼結してガラス化することで作成する。次に、当該ガラス体を延伸したり外周研削加工したりして、適切な形状を有するガラスロッドとし、このガラスロッドに対して穿孔加工を行う。例えば、ガラスロッドの外径を50mmΦとし、ガラスロッドの長さを300mmとする。また、コア領域の半径を5mmとし、コアと光学クラッドとの比屈折率差を0.35%とする。
【0027】
次にこのガラスロッドに対して穿孔加工を行う。図3に穿孔加工後のガラスロッド10の断面図を示す。dは空孔直径、aはコア半径、Rは空孔の内接円半径、Dはガラスロッド直径を示す。穿孔加工でのdおよびRは所望の光学特性を実現するための光ファイバ断面構造設計から求められる。例えば、ITU−T勧告G.657A1、A2、B2、B3の光学特性を全て満足する光ファイバを実現するには、クラッド領域3に対するコア領域2の比屈折率差を0.35%とし、光ファイバの断面において d=3.6μm、a=3.6μm、R=10.4μm 程度で設計すればよく、したがって本実施例の穿孔加工ではd=5mm、R=14.5mmとすればよい。
【0028】
穿孔加工の後に、その加工の際に付着した不純物をHF洗浄などによって除去し、ガラスロッドを所定の外径に加熱延伸する。ここで、ガラスロッドの延伸後サイズは、外径を17mmΦとし、長さを600mmとする。この延伸工程においては、空孔径が長手方向で変動しないことが重要である。そのための条件として、ガラスロッド10の外周面と10個の空孔11の外接円とにより囲まれる領域の厚みが大きい方が好適である。具体的には、10個の空孔11の外接円の半径Rcと加熱延伸前のガラスロッドの外径Dとの間に2Rc≦0.9D なる関係を満たすのが望ましい。これにより、延伸後のガラスロッド10における空孔径の長手変動を3%以下に抑圧することができる。
【0029】
また、ガラスロッド10の一端側を封止し、他端側を開放のままとする。一端側の封止は、加熱延伸後に封止したい特定箇所を加熱しながら引きちぎるなどの処理で容易に行える。
【0030】
ガラスロッド作成工程に続く母材作成工程において、ガラスロッド10をジャケット管20に挿入して以下のようにして光ファイバ母材を作成する。図4および図5は、第1実施形態の光ファイバ製造方法の母材作成工程を説明する図である。
【0031】
所定の外径/内径/長さ(例えば、外径60mmΦ、内径18mmΦ、長さ500mm)を有するジャケット管20を用意する。ジャケット管20は、光ファイバのジャケット領域となるべきものである。第1端側41においてジャケット管20の端部に石英ガラスのダミーパイプ31を接続するとともに、第2端側42においてジャケット管20の端部に石英ガラスのダミーパイプ32を接続する。その後、ジャケット20の内面に対して気相エッチングを行って不純物付着層を除去する。この気相エッチングは、ジャケット管20の内部にSFガスを流しながら外部から1800℃以上に加熱することで行われる。また、ジャケット管20の内部に同時に塩素を含むガスを流すことで、不純物の除去を行うことも可能である。例えば、ジャケット管20内にSFガス(100sccm)およびClガス(50sccm)を流した状態で温度2000℃の熱源をトラバースさせ、ジャケット管20の内面を厚み1mm程度エッチングする。
【0032】
ガラスロッド10をジャケット管20に挿入する(図4(a))。このとき、ガラスロッド10の封止した一端側を第2端側42とし、ガラスロッド10の開放した他端側を第1端側41とする。次に、ジャケット管内空間21および空孔11内の空間に塩素を含むガスを流しながら、外部から温度1000℃以上に加熱することにより、空孔内表面およびジャケット界面の表層に付着している不純物をさらに除去する。例えば、ジャケット管20内にClガス(500sccm)を流した状態で温度1900℃の熱源をトラバースさせる。
【0033】
次に、第1端側41において溶着封止を行う(図4(b))。このとき、ジャケット管内空間21および空孔11内の空間を大気圧未満に減圧し、第1端側41において外部から熱源61,62により加熱することで、ガラスロッド10の空孔11を潰すことなく、ジャケット管内空間21のみを潰して封止する。ガラスを外部から加熱するのでジャケット界面の溶着が先に進むことを利用すれば、このような加工は可能である。また、熱源に酸水素バーナを用いることでより容易に行うことができる。これにより、ジャケット管内空間21と空孔11内の空間とを互いに仕切ることができ、ジャケット管内空間21および空孔11内の空間それぞれに互いに異なる圧力を付与することが可能となる。
【0034】
次に、真空ポンプなどにより第2端側42からジャケット管内空間21を1kPa以下に減圧する。また、第1端側41からガラスロッド10の空孔11内の空間を大気開放するか、空孔11内の空間に清浄な不活性ガスをパージするなどして、空孔11内の空間を大気圧以上に維持する。そして、この状態で第1端側41から第2端側42へ熱源61,62を移動させることで、ジャケットコラプスを行う(図4(c))。
【0035】
空孔径の変動を防ぐため、コラプス前におけるコアロッド10とジャケット管20との間のクリアランスを管理する。具体的には、ジャケット管20の内径(直径)とガラスロッド10の外径(直径)との差を有効部において3mm以下とする。例えば、ガラスロッド10の外径が17mmφであるとき、ジャケット管20の内径を20mmφ以下とする。
【0036】
その条件下で、ジャケット管内空間21を1kPa以下に減圧し、熱源温度1900〜2100℃、熱源トラバース速度10mm/分でコラプスを実施した。このとき、空孔10に対しては開放している側をほぼ大気圧とした。また、コラプス中は空孔10の開放端に対しては清浄なNガスをパージガスとして流し続けた。コラプス工程後の有効部における長手方向の空孔径変動を確認したところ、元々存在していたガラスロッド延伸体の変動を含めて5%であった。
【0037】
ジャケットコラプス後の光ファイバ母材の空孔11は、第1端側41で開放され、第2端側42で閉塞している。必要に応じて、コラプス用のダミーパイプ31,32を取り外し(図5(a))、線引用のダミーパイプ33へ付け替える(図5(b))。さらに火炎研磨などによって表面を清浄化する。尚、火炎研磨などによる光ファイバ母材を再加熱する工程においては、ジャケット界面の潰れ際を起点とするクラックが発生することを避けるため、徐々に加熱することが望ましい。例えば、酸水素バーナの火力を必要条件まで5分以上かけて徐々に増加させるなどの工夫により、割れを回避することができる。このようにして光ファイバ母材を作成する。
【0038】
最後に、線引工程では、ダミーパイプ33を通して第1端側41からガラスロッド10の空孔11内の空間を加圧しながら、第2端側42から光ファイバ母材を線引して、光ファイバを製造する。或いは、必要に応じて、第2端側42においてガラスロッド10を一旦開放し、空孔11の内面の清浄化工程(空孔11の内面のHF洗浄や塩素を含むガスを流しながらの加熱処理)などを追加してから、火研、線引することも可能である。
【0039】
本実施形態の光ファイバ製造方法によれば、ジャケットコラプスの際に、ジャケット管内空間21の圧力を1kPa以下とする一方、コアロッド10の空孔11内の圧力を大気圧レベルとすることができる。
【0040】
本実施形態によれば、空孔11が付与されたガラスロッド10に対しジャケットコラプスを行いつつも、光ファイバ母材の長手方向の空孔径変動を5%以下に抑制することができる。実際に上記で例示した条件の下で空孔11内の空間を一定値で加圧して光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造したところ、光ファイバの空孔径の長手方向変動は0.5μm以下であった。このレベルの変動であれば光ファイバの光学特性の変動は小さく、ほぼ全長において所望の光学特性を持つ空孔付き光ファイバが得られた。また、本実施形態では、ジャケット界面を全長に亘って完全にコラプスするので、光ファイバ母材割れのリスクを回避できるメリットがある。
【0041】
本実施形態の光ファイバ製造方法は、光ファイバ母材に対して直接に穿孔する方法に比べ、低コスト化を実現することができる。本実施形態の光ファイバ製造方法は、スタック法に比べ、構造ばらつきが小さく、不純物の混入が少ない。線引しながら空孔内空間を加圧する一方でジャケット管内空間を減圧する方法に比べ、本実施形態の光ファイバ製造方法は、線引時に空孔内空間を加圧するのみでよいので、設備を簡素化でき、設備コストを下げることができる。また、本実施形態の光ファイバ製造方法は、ジャケット界面を全長に亘って完全にコラプスするので、光ファイバ母材の火炎研磨工程などにおいて母材割れのリスクを回避できる。
【0042】
(第2実施形態)
【0043】
第2実施形態の光ファイバ製造方法も、コア領域,クラッド領域およびジャケット領域を備え、ファイバ軸方向に垂直な断面においてクラッド領域に円周上に配列されファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを製造する方法である。第2実施形態の光ファイバ製造方法も、ガラスロッド10を作成するガラスロッド作成工程と、ガラスロッド10をジャケット管20に挿入して光ファイバ母材を作成する母材作成工程と、光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する線引工程とを備える。
【0044】
第2実施形態におけるガラスロッド作成工程は、第1実施形態におけるガラスロッド作成工程と同様である。
【0045】
図6は、第2実施形態の光ファイバ製造方法の母材作成工程を説明する図である。第2実施形態における母材作成工程は、第1実施形態における母材作成工程と略同様であるが、ジャケットコラプス時に僅かに延伸を行う点で相違する。同図に示されるように、真空ポンプなどにより第2端側42からジャケット管内空間21を1kPa以下に減圧する。また、第1端側41からガラスロッド10の空孔11内の空間を大気開放するか、空孔11内の空間に清浄な不活性ガスをパージするなどして、空孔11内の空間を大気圧以上に維持する。そして、この状態で第1端側41から第2端側42へ熱源61,62を移動させることでジャケットコラプスを行うと同時に、ダミーパイプ31を保持するテールチャックを移動させることでダミーパイプ31とダミーパイプ32との距離を次第に大きくしていき延伸を行う。
【0046】
例えば、ガラスロッド10の外径を17mmφ、コラプス前のジャケット管20の内径を21mmφとして、このときのクリアランスを4mmとした。この条件において、コラプス時の熱源のトラバース速度を10mm/分とし、テールチャックのトラバース速度を1.9mm/分として、延伸しながらコラプスした。このとき、光ファイバ母材の仕上がり外径は55mmφ程度であった。コラプスの潰れ状況を観察すると、潰れ界面と熱源温度分布との位置関係は図1に示される関係を維持できていた。
【0047】
本実施形態では、延伸しながらコラプスを行うので、コラプス直前のクリアランスが実質的に狭くなり、コラプスの潰れ界面が熱源の温度ピークより前に進みやすい。よって、第1実施形態のように初期クリアランスを3mm以下とせずとも、空孔径変動を抑えたコラプスを実現することができる。本実施例形態の初期クリアランスについて、具体的に検討した結果、ジャケット管の延伸前の内径IDj1,ジャケット管の延伸前の外径ODj1,ジャケット管の延伸後の外径ODj2 および ガラスロッドの延伸前の外径ODr1 の間に IDj1×ODj2/ODj1−ODr2≦3mm なる関係を満たせば、第1実施形態と同様レベルで空孔径変動を抑圧できることが判った。
【符号の説明】
【0048】
10…ガラスロッド、11…空孔、12…コア、13…光学クラッド、20…ジャケット管、21…ジャケット管内空間、31,32,33…ダミーパイプ、41…第1端側、42…第2端側、61.62…熱源。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア領域,クラッド領域およびジャケット領域を備え、ファイバ軸方向に垂直な断面において前記クラッド領域に円周上に配列されファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを製造する方法であって、
前記コア領域および前記クラッド領域となるべきガラス体に対し前記クラッド領域となるべき部分に穿孔加工を行って加熱延伸し一端側を封止してガラスロッドを作成するガラスロッド作成工程と、
前記ジャケット領域となるべきジャケット管の内部に前記ガラスロッドを挿入し、前記ガラスロッドの前記一端側とは反対の第1端側において前記ガラスロッドと前記ジャケット管とを互いに溶着して前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間のジャケット管内空間を封止し、第2端側から前記ジャケット管内空間を減圧しながら前記第1端側から前記第2端側へ熱源を移動させることで前記ジャケット管を選択的にコラプスして、光ファイバ母材を作成する母材作成工程と、
前記第1端側から前記ガラスロッドの空孔内空間を加圧しながら前記第2端側から前記光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する線引工程と、
を備えることを特徴とする光ファイバ製造方法。
【請求項2】
前記母材作成工程において、前記ジャケット管内空間の内圧を1kPa以下とする、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項3】
前記母材作成工程において、前記ジャケット管の内径と前記ガラスロッドの外径との差を3mm以下とする、ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項4】
前記母材形成工程において、前記ジャケット管を選択的にコラプスしながら前記ジャケット管および前記ガラスロッドを延伸する、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項5】
前記母材作成工程において、前記ジャケット管の延伸前の内径IDj1,前記ジャケット管の延伸前の外径ODj1,前記ジャケット管の延伸後の外径ODj2 および 前記ガラスロッドの延伸前の外径ODr1 の間に IDj1×ODj2/ODj1−ODr2≦3mm なる関係を満たす、ことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項6】
前記ガラスロッド作成工程において、前記クラッド領域となるべき部分に穿孔加工を行って複数の空孔を形成する際に、円周上に配列された前記複数の空孔の外接円の半径Rcと加熱延伸前の前記ガラスロッドの外径Dとの間に2Rc≦0.9D なる関係を満たすように前記複数の空孔を形成する、ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光ファイバ製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−1629(P2013−1629A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137490(P2011−137490)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】