説明

光ファイバ

【課題】従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる光ファイバを提供する。
【解決手段】コア部2と、前記コア部2を包囲し、前記コア部2の屈折率よりも低い屈折率のクラッド部3と、を備える光ファイバ1であって、前記クラッド部3は、内部に設けられる複数個の空孔部5が前記コア部2に対して周回状に形成された第1と第2の空孔部層51,52と、を備える。前記コア部2の実効屈折率分布が一番高く、前記第1の空孔部層51の実効屈折率分布が一番小さくなるように空孔部5を構成して、屈折率分布がW型分布となるように形成したので、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光ファイバに関する。さらに詳しくは、光伝送システムにおいて信号光を伝送する光伝送媒体に用いられる光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムでは光ファイバの波長分散や非線形効果が伝送特性を制限するので、かかる光ファイバの波長分散や非線形効果を低減するために、種々の構造の光ファイバが開発され、広く用いられている。
【0003】
近年、光ファイバの内部に空孔を有する空孔構造光ファイバが、従来の充実型光ファイバでは実現できない様々な特性を有することから、新しい光伝送媒体として高い関心を集めている。光伝送システムでは入力パワーが大きくなると非線形効果による伝送品質の劣化があるため、入力光パワーが制限され、伝送容量の大容量化や中継間隔の長距離化の妨げとなっている。
【0004】
ここで、非線形効果の発生は光ファイバ中における入力パワーの密度に反比例するため、光波が伝搬する面積である光ファイバの実効断面積(Aeff)を大きくして、光ファイバ内のパワー密度があまり高くならないようにすることが非線形効果の抑制に効果がある。
【0005】
これに対して、前記した空孔構造光ファイバは、低非線形光伝送路を実現するために、実効断面積の拡大が期待できる。そのため、実効断面積の拡大を検討した種々の空孔構造光ファイバが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.Matsui,et al., “Applicability of Photonic Crystal Fiber With Uniform Air−Hole Structure to High−Speed and Wide−Band Transmission Over Conventional Telecommunication Bands,”J.Lightwave Technol. 27,5410−5416,2009.
【非特許文献2】K.Mukasa,et al., “Comparisons of merits on wide−band transmission systems between using extremely improved solid SMFs with Aeff of 160μm2 and loss of 0.175dB/km and using large−Aeff holey fibers enabling transmission over 600nm bandwidth,”the Proceedings of OFC2008,OthR1,Feb.2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の充実型の光ファイバや均一構造のフォトニック結晶ファイバでは、実効断面積は160μm以下に制限されてしまっていたのが実情であった。
【0008】
本願発明の目的は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる光ファイバを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明の光ファイバは、コア部と、クラッド部内でコア部に対して周回状に形成される空孔部層を少なくとも2層以上有することを特徴とする。
【0010】
具体的には、本願発明の光ファイバは、コア部と、前記コア部を包囲し、前記コア部の屈折率よりも低い屈折率のクラッド部と、前記クラッド部の内部で、光ファイバ軸方向に連続的且つ光ファイバ軸方向に直交する断面で離散的に設けられる複数個の空孔部が前記コア部に対して周回状に形成された2層以上の空孔部層と、を備える。
【0011】
本願発明の光ファイバは、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる
【0012】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層が、前記コア部に最も近い空孔部層の外側にある空孔部層より実効屈折率分布が小さいことが好ましい。
【0013】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層が、前記コア部に最も近い空孔部層の外側にある空孔部層より実効屈折率分布が小さいことによって、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【0014】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層が、前記外側にある空孔部層より空孔部占有率が大きいことが好ましい。
【0015】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層が、前記外側にある空孔部層より空孔部占有率が大きいことによって、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【0016】
本願発明の光ファイバは、前記空孔部は前記光ファイバ軸方向に直交する断面形状が円形であり、前記コア部に最も近い空孔部層を構成する前記空孔部の直径が、前記外側にある空孔部層を構成する前記空孔部の直径より大きいことが好ましい。
【0017】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層を構成する前記空孔部の直径が、前記外側にある空孔部層を構成する前記空孔部の直径より大きいことによって、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【0018】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層が、前記外側にある空孔部層より空孔部分布密度が大きいことが好ましい。
【0019】
本願発明の光ファイバは、前記コア部に最も近い空孔部層が、前記外側にある空孔部層より空孔部分布密度が大きいことによって、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【0020】
本願発明の光ファイバは、前記空孔部が、前記コア部を中心として円環状または正多角形状に配置されて形成されることが好ましい。
【0021】
本願発明の光ファイバは、前記空孔部が、前記コア部を中心として円環状または正多角形状に配置されて形成されることによって、設計が容易となる。
【0022】
本願発明の光ファイバは、光が伝搬する面積である光ファイバの実効断面積が160μm以上、210μm以下であることが好ましい。
【0023】
本願発明の光ファイバは、遮断波長が1450nm以下であることが好ましい。
【0024】
本願発明の光ファイバは、1450nm以上1625nm以下の波長の光に対して、曲げ半径30mmにおける曲げ損失が0.5dB/100turns以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本願発明に係る光ファイバは、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明の第1実施形態に係る光ファイバの断面構造を示す概略図である。
【図2】本願発明の第1実施形態に係る光ファイバの断面構造を示す概略図である。
【図3】図1及び図2の構造の光ファイバにおいて、コア部の半径aに対して得られる最大実効断面積を示した図である。
【図4】図1の構造の光ファイバにおいて、最適構造時の基本モードの曲げ損失の波長依存性を示した図である。
【図5】図2の構造の光ファイバにおいて、最適設計時の基本モードの曲げ損失の波長依存性を示した図である。
【図6】図1及び図2の構造の光ファイバにおいて、コア部の半径aに対して得られる最大実効断面積の変化を示した図である。
【図7】図1及び図2の構造の光ファイバにおいて、比屈折率差Δに対して得られる最大実効断面積を示す図である。
【図8】図1の構造の光ファイバにおいて、実効断面積を最大化する構造を示した図である。
【図9】図2の構造の光ファイバにおいて、実効断面積を最大化する構造を示した図である。
【図10】図1の構造の光ファイバにおいて、曲げ半径と曲げ損失との関係を示した図である。
【図11】図2の構造の光ファイバにおいて、曲げ半径と曲げ損失との関係を示した図である。
【図12】本願発明の第2実施形態に係る光ファイバの断面構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本願発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本願発明の実施の例であり、本願発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0028】
(第1実施形態)
(1)光ファイバ1の構造
図1及び図2は本願発明の第1実施形態に係る光ファイバ1の断面構造を示す概略図である。ここで、図1及び図2において、1は光ファイバ、2はコア部、3はクラッド部、4は空孔部、5は空孔部層(第1の層51,第2の層52)である。
【0029】
図1に示した断面構造の光ファイバ1は、光ファイバ軸方向(図1の紙面に対して直交する方向であり、いわゆる長手方向と同意。以下図2及び図12について同じ。)に連続して均一な外径の断面視円形状のコア部2と、かかるコア部2の周囲を包囲する、断面視円形状のクラッド部3とを有する。また、コア部2の屈折率nがクラッド部3の屈折率nよりも高く(n>n)形成されている。
【0030】
クラッド部3の内部におけるコア部2の周囲には、光ファイバ軸方向に連続的にかつ光ファイバ軸方向に直交する断面を有する複数個の空孔部4が配設されている、かかる空孔部4は、断面視円形状で、光ファイバ軸心となるコア部2を中心として周回状に空孔部層5を形成しており、本実施形態にあっては、コア部2に最も近い空孔部層51(第1の層51)と、コア部2から離れる方向(光ファイバ1の外周方向。以下同じ。)に、空孔部層51(第1の層51)の外側に隣接して、かかる空孔部層51の外側にある空孔部層52(第2の層52)という2つの層が、いずれも正六角形状に形成されている態様を示している。クラッド部3の内部に配設された断面視円形状の複数の空孔部4はいずれも、光ファイバ1の光ファイバ軸方向には一様な大きさの直径dで一定とされており、また、同じ層(第1の層51,第2の層52)における隣り合う空孔部4の中心間の距離も一定とされている。
【0031】
また、図2に示した断面構造の光ファイバ1も、図1に示した断面構造の光ファイバ1と同様に、断面視円形状のコア部2と、かかるコア部2の周囲を包囲する、断面視円形状のクラッド部3とを有し、コア部2の屈折率nがクラッド部3の屈折率nよりも高い。また、クラッド部3の内部におけるコア部2の周囲には、図1の光ファイバ1と同様に、複数個の空孔部4が配設されており、かかる空孔部4は、断面視円形状で、コア部2を中心として周回状に空孔部層5を形成している。
【0032】
空孔部層5は、コア部2に最も近い空孔部層51(第1の層51)と、コア部2から離れる方向に、空孔部層51(第1の層51)の外側に隣接して、かかる空孔部層51の外側にある空孔部層52(第2の層52)という2つの層が、いずれも正六角形状に形成されている。クラッド部3の内部に配設された複数の空孔部4は、同じ層(第1の層51,第2の層52)における隣り合う空孔部4の中心間の距離も一定とされている。
【0033】
そして、図2に示す構造の光ファイバ1は、第1の層51、第2の層52のうちコア部2に近い側の層(第1の層51)を構成する空孔部4の直径dが、第2の層52を構成する空孔部4の直径dより大きく形成されている。相対的に直径が大きい空孔部4が存在している領域である第1の層51は、相対的に直径が小さい空孔部4が存在している領域である第2の層52より相対的に空孔部占有率が大きく、空孔部占有率が大きい第1の層51の実効的な屈折率分布(実効屈折率分布)は、相対的に空孔部占有率が小さい第2の層52の実効屈折率分布より小さくなる。
【0034】
コア部2の屈折率はクラッド部3の屈折率より高いことから、コア部2の実効屈折率分布、第1の層51の実効屈折率分布、第2の層51の実効屈折率分布を比較すると、コア部2の実効屈折率分布が一番高く、コア部2と第2の層52に挟まれた第1の層51の屈折率分布が一番小さくなる、いわゆるW型分布となる(コア部2の実効屈折率分布>第2の層52の実効屈折率分布>第1の層51の実効屈折率分布)。屈折率分布がW型分布となる光ファイバ1は、大きな実効断面積が期待でき、本実施形態の光ファイバ1は、空孔部4の構造を屈折率分布がW型分布となるように形成したので、従来の光ファイバ1よりも大きな実効断面積を実現できることになる。
【0035】
なお、空孔部4により形成される空孔部層5の数は、図1及び図2では2層として表記しているが、これには限定されず、3層以上としてもよい。空孔部層5の数を3以上とする場合は、x層の空孔部4の直径を、それを取り囲むy層(ただし、x、yは正の整数でx+y=N)の空孔部4の直径より大きくすることでも実効的に同様な屈折率分布の関係が得られる。
【0036】
また、図1及び図2では空孔部層5の配置を、コア部2の周囲に空孔部4が正六角形状に周回して形成される態様を示しているが、コア部2を中心とする正六角形以外の他の正多角形状、またはコア部2を中心とする円環状となるように形成してもよい。
【0037】
本願発明に係る光ファイバ1の構成材料としては、光ファイバ軸方向に均一な材料で形成され、主成分として石英を使用することができる。本願発明に係る光ファイバ1において、コア部2の屈折率nをクラッド部3の屈折率nより高いように(n>n)するためには、例えば、コア部2の構成材料をゲルマニウム(Ge)やアルミニウム(Al)等の屈折率を増加させる不純物を添加した石英を用い、クラッド部3の材料を不純物のない純石英とすることで実現できる。また、他の手段としては、コア部2の構成材料を不純物のない純石英として、クラッド部3の構成材料をフッ素(F)やボロン(B)等の屈折率を低減させる不純物を添加した石英を用いることで実現できる。さらに、コア部2の構成材料を前記した屈折率が増加されたゲルマニウム(Ge)やアルミニウム(Al)等の屈折率を増加させる不純物を添加した石英として、クラッド部3の構成材料を前記したフッ素(F)やボロン(B)等の屈折率を低減させる不純物を添加した石英を用いるようにしてもよい。
【0038】
本願発明に係る光ファイバ1を製造するには、特に制限はない。前記した構成材料等、屈折率がn>nとなるように調整されたコア部2とクラッド部3が形成された石英ロッドのコア部2の周囲に、ドリルや超音波加工法によって空孔部4を機械的に空けて製造する研削法や、コア部2の構成材料からなる中実の石英棒の周りにクラッド部3の構成材料からなる石英管によって形成された適当数のキャピラリー管を束ね、この束ねた石英棒とキャピラリー管とを石英ジャケット管に挿入して製造するキャピラリー法等を用いて空孔構造が形成された光ファイバ母材が得られる。空孔構造が形成された光ファイバ母材を加熱するとともに光ファイバ軸方向に線引きすることにより光ファイバ1を簡便に得ることができる。
【0039】
(2)第1実施形態に係る光ファイバ1の諸特性:
次に、図1及び図2に示した本願発明に係る光ファイバ1の諸特性の一例について説明する。
【0040】
図3は、図1及び図2に示した構造の光ファイバ1において、コア領域の比屈折率差Δを0.1%とした場合における、コア部2の半径aに対して得られる最大実効断面積(Aeff)の変化を示した図である。ここで、図1及び図2に示すように、Rはコア部2の中心から空孔部4までの最短距離を示す。
【0041】
また、コア領域の比屈折率差Δ(%)は下記式(I)により算出される。式(I)中、nはコア部2の屈折率、nはクラッド部3の屈折率、をそれぞれ示す。
Δ(%)=(n−n2)/(2×n) ……(I)
なお、式(I)における計算では、国際標準であるITU−T G.656で推奨される曲げ損失及び遮断波長の条件を満たすよう設計されている。つまり、かかるITU−T G.656に準拠して、遮断波長を1450nm以下とし、基本モードの曲げ損失を、曲げ半径30mmにおいて0.5dB/100turns(ターンズ:巻き数)以下としている。なお、遮断波長は、前記した非特許文献1に記載される条件である、光ファイバ1を敷設した時の実効的な曲げ半径と考えられる140mmの曲げ半径に対して第1高次モードの損失が1dB/mとなる波長としている。
【0042】
図3に示すように、図1及び図2に示す構造の光ファイバ1は、コア部2の半径aが5〜7μmの範囲で、実効断面積160μm以上を実現することができる。また、図3からは、図1の構造であれば、コア部2の半径aが約6.0μmで実効断面積が最大になり、図2の構造であれば、コア部2の半径aが約6.5μmで実効断面積が最大になることが確認できる。
【0043】
図4は、図1の構造の光ファイバ1において、コア領域の比屈折率差が0.1%、コア部2の半径aが6.0μmである場合における最適構造時の基本モードの曲げ損失の波長依存性(曲げ半径と曲げ損失の関係)を示した図であり、図5は、図2の構造の光ファイバ1において、コア領域の比屈折率差が0.1%、コア部2の半径aが6.5μmである場合における最適設計時の基本モードの曲げ損失の波長依存性(曲げ半径と曲げ損失の関係)を示した図である。
【0044】
なお、d(図1の構造における全ての空孔部4の直径。以下、図8について同じ。)とコア部2の直径2aの関係(d/2a)、Rとaの関係については図4、d(図2の構造における第1の層51を構成する空孔部4の直径。以下、図8及び図9について同じ。)とコア部2の直径2aとの関係(d/2a)、Rとaの関係、及びdとd(第2の層52を構成する空孔部4の直径。)の関係(d/d)については、図5に示したとおりである。
【0045】
前記した非特許文献1に記載の遮断波長の条件より、光ファイバ1を敷設した時の実効的な曲げ半径を140mmとみなすと、図4に示すように、図1の構造の光ファイバ1では材料固有の損失を除く導波構造に起因する損失が1450〜1625nmで0.2dB/km以下に抑えられている。また、図5に示すように、図2の構造の光ファイバ1では、図1の構造と比較して1450nm〜1625nmの波長帯域において0.05dB/km以下に抑えられており、図1の構造と比較して低い曲げ損失を実現することが可能となる。
【0046】
図6は、図1及び図2の構造の光ファイバ1において、コア領域の比屈折率差Δを0.08%とした場合における、コア部2の半径aに対して得られる最大実効断面積(Aeff)の変化を示した図である。なお、図6にあっては、図3で示した結果と同様に、国際標準であるITU−T G.656で推奨される曲げ損失及び遮断波長の条件を満たすよう設計している。図6に示すように、図1及び図2に示す構造の光ファイバ1は、コア部2の半径aが5〜7μmの範囲で実効断面積160μm2以上を実現できることが確認できる。実行断面積の上限としては210μm2程度である。
【0047】
図7は、図1及び図2の構造の光ファイバ1において、式(I)で算出される比屈折率差Δに対して得られる最大実効断面積(Aeff)を示す図である。図7に示すように、図1及び図2に示す構造とも、比屈折率Δが0.08%の場合に実効断面積が最大となっていることがわかる。また、図7からは、図2に示した構造の光ファイバは、図1に示した構造の光ファイバ1に対して、より大きな実効断面積が実現できることが確認できる。
【0048】
図8は、図1の構造の光ファイバ1において、比屈折率Δを0.08、0.1及び0.12%とした場合の実効断面積を最大化する構造を示した図である。図9は、図2の構造の光ファイバ1において、比屈折率Δを同様とした場合における実効断面積を最大化する構造を示した図である。なお、図8及び図9では、フォトニック結晶ファイバ構造(Δ=0%)を仮定したときも合わせて記載しており、Λは空孔部4間の距離を示す。図8に示すように、図1及び図2に示す構造の光ファイバ1にあっては、0.08〜0.12%の範囲における比屈折率Δにおいて、160μm以上の実効断面積が得られていることが確認できる。
【0049】
図10は、図1の構造の光ファイバ1において、比屈折率Δを0.06%、0.08%、0.1%及び0.12%とした場合における曲げ半径と曲げ損失との関係を示した図である。図11は、図2の構造の光ファイバ1において、比屈折率Δを同様とした場合における曲げ半径と曲げ損失との関係を示した図である。
【0050】
図10及び図11に示すように、比屈折率Δ=0%(フォトニック結晶ファイバ構造)の場合には、曲げ半径が大きくなっても曲げ損失が大幅に低下することはなく、1dB/km以上の値に収束しているため、光ファイバ1の敷設時には曲げ損失が1dB/km以上となってしまう。一方、図1に示す構造では、比屈折率Δを増加させることで曲げ損失半径を大幅に改善でき、Δを0.1%以上とすることで光ファイバ1を敷設した時の実効的な曲げ半径と考えられる140mmにおける曲げ半径を0.1dB/km以下に抑えることができる。図2に示す構造では、図1に示す構造より、曲げ損失をさらに小さくすることができる。
【0051】
このように、図1及び図2の構造の光ファイバにあっては、コア部2の屈折率をクラッド部3の屈折率より大きくし、図2に構造にあっては、第1の層51を構成する空孔部4の直径を、第2の層52を構成する空孔部4の直径より大きく形成しているので、外側の層ほど実効屈折率分布が大きくなり、曲げ半径を140mmとした場合における曲げ損失を0.1dB/km以下とすることができる。
【0052】
(3)第1実施形態の効果
以上説明したように、本実施形態に係る光ファイバ1は、空孔構造を有する光ファイバ1において、コア部2の屈折率がクラッド部3の屈折率より高く、クラッド部3に形成される空孔部層5が2層以上形成されている。よって、本実施形態の光ファイバは、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【0053】
また、コア部2に最も近い空孔部層51(第1の層51)の空孔部4の直径が、かかる空孔部層51の外側にある空孔部層52(第2の層52)の空孔部4の直径より大きく形成されている。よって、空孔部占有率が大きい第1の層51の実効的な屈折率分布が、相対的に空孔部占有率が小さい第2の層52の屈折率分布より小さくなる構成となる。そして、かかる構成により、本実施形態に係る光ファイバ1は、屈折率分布がいわゆるW型分布となり、単一モード光ファイバと同等の曲げ損失等の諸特性を維持しつつ、従来の光ファイバ1よりも大きな実効断面積、例えば160μmを超える実効断面積が実現でき、光伝送システムにおける入力パワーの制限の緩和が可能となり、光ファイバ1の非線形効果を抑制できる。
【0054】
(第2実施形態)
(1)光ファイバ1の構造
図12は、第2実施形態に係る光ファイバ1の断面構造を示した概略図である。
なお、以下の説明では、すでに第1実施形態で説明した部分と同一あるいは略同一である部分等は、共通する符号を付して説明を省略する。また、空孔部4の外径の大きさの範囲、空孔部層5の配置、光ファイバ1の構成材料や製造方法等についても、第1実施形態と共通するので、説明を省略する。
【0055】
図12に示した断面構造の光ファイバ1は、前記した図1及び図2に示した構造の光ファイバ1と同様、光ファイバ軸方向に連続して均一な外径の断面視円形状のコア部2と、かかるコア部2の周囲を包囲する、断面視円形状のクラッド部3とを有し、コア部2の屈折率がクラッド部3の屈折率よりも高くされている。
【0056】
また、クラッド部3の内部におけるコア部2の周囲には、光ファイバ軸方向に連続的にかつ光ファイバ軸方向に直交する断面を有する複数個の空孔部4が配設されている。かかる空孔部4は、断面視円形状で、コア部2を中心として周回状に空孔部層5を形成しており、本実施形態にあっては、コア部2に最も近い空孔部層51(第1の層51)と、コア部2から離れる方向に第1の層51に隣接して、空孔部層51(第1の層51)の外側にある空孔部層52(第2の層52)と、空孔部層52(第2の層52)に隣接して外側に空孔部層53(第3の層53)という3つの層が形成されており、クラッド部3の内部に配設された断面視円形状の複数の空孔部4はいずれも、光ファイバ1の光ファイバ軸方向には一様な大きさの直径dで一定とされており、また、同じ層(第1の層51,第2の層52,第3の層53)における隣り合う空孔部4の中心間の距離も一定とされている。
【0057】
一方、本実施形態にあっては、第2の層52及び第3の層53についてはいずれも正六角形状に形成されているが、第1の層51については、第2の層52及び第3の層53と比較して空孔部4の分布密度が大きくなる正八角形状に形成されている。よって、第1の層51は、第2の層52や第3の層53より空孔部分布密度が大きく、単位面積当たりの空孔部4の占有率も大きくなるため、第1の層51における空孔部占有率が第2の層52及び第3の層53における空孔部占有率より大きくなるような構成とされている。
【0058】
このような構成により、相対的に空孔部占有率が大きい第1の層51の実効屈折率分布は、相対的に空孔部占有率が小さい第2の層52、第3の層53の実効屈折率分布より小さくなるため、光ファイバ1の屈折率分布も、いわゆるW型分布となり、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現できることになる。
【0059】
本実施形態に係る光ファイバ1にあっては、コア部2に最も近い空孔部層5(本実施形態にあっては第1の層51)における空孔部の分布密度をかかる空孔部層の外側の空孔部層5(本実施形態にあっては第2の層52及び第2の層53)の空孔部分布密度より大きくするには、空孔部4が同じ大きさ(直径が同じ)の場合には、図12に示す構成のように、第1の層51を正八角形状、かかる層の外側にある第2の空孔部層52、第3の層53を正六角形状にする等、コア部2に最も近い空孔部層5(第1の層51)を、かかる空孔部層の外側の空孔部層(第2の層52及び第2の層53)より角の数が多い正多角形とする等、空孔部層5を空孔部4の分布密度を大きい状態にすればよい。
【0060】
(2)第2実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態に係る光ファイバ1は、空孔構造を有する光ファイバ1において、コア部2の屈折率がクラッド部3の屈折率より高く、また、クラッド部3に形成される空孔部層5が2層以上形成されている。よって、本実施形態の光ファイバは、従来の光ファイバよりも大きな実効断面積を実現することができる。
【0061】
また、コア部2に最も近い空孔部層51(第1の層51)の空孔部密度分布が、かかる層の外側にある空孔部層52、53(第2の層52及び第3の層53)の空孔部密度分布より大きくなるように形成されている。よって、図2に示した構造の光ファイバ1と同様、第1の層51の空孔部占有率が相対的に大きくなり、空孔部占有率が大きい第1の層51の実効的な屈折率分布が、相対的に空孔部占有率が小さい第2の層52及び第3の層53の屈折率分布より小さく、屈折率分布がいわゆるW型分布となるため、前記した第1実施形態の奏する効果を享受することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本願発明は、光伝送システムにおける伝送媒体として利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1: 光ファイバ
2: コア部
3: クラッド部
4: 空孔部
5: 空孔部層
51:空孔部層(第1の層)
52:空孔部層(第2の層)
53:空孔部層(第3の層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、
前記コア部を包囲し、前記コア部の屈折率よりも低い屈折率のクラッド部と、
前記クラッド部の内部で、光ファイバ軸方向に連続的且つ光ファイバ軸方向に直交する断面で離散的に設けられる複数個の空孔部が前記コア部に対して周回状に形成された2層以上の空孔部層と、
を備える光ファイバ。
【請求項2】
前記コア部に最も近い空孔部層が、前記コア部に最も近い空孔部層の外側にある空孔部層より実効屈折率分布が小さいことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記コア部に最も近い空孔部層が、前記外側にある空孔部層より空孔部占有率が大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記空孔部が前記光ファイバ軸方向に直交する断面形状が円形であり、
前記コア部に最も近い空孔部層を構成する前記空孔部の直径が、前記外側にある空孔部層を構成する前記空孔部の直径より大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コア部に最も近い空孔部層が、前記外側にある空孔部層より空孔部分布密度が大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記空孔部が、前記コア部を中心として円環状または正多角形状に配置されて形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項7】
光が伝搬する面積である光ファイバの実効断面積160μm以上、210μm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項8】
遮断波長が、1450nm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光ファイバ。
【請求項9】
1450nm以上1625nm以下の波長の光に対して、曲げ半径30mmにおける曲げ損失が0.5dB/100turns以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−168448(P2012−168448A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30942(P2011−30942)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】