説明

光モジュールの調心方法

【課題】光電変換素子を内蔵する光モジュール本体と、光コネクタを保持するスリーブ部材と、これらを連結するJスリーブから成る光モジュールの調心方法であって、光電変換素子と光コネクタの光ファイバとを光学的に結合させるために調心を行う際に、Jスリーブが、光軸と交わる平面内において、回転することのない方法の提供。
【解決手段】光軸と交わる方向の調心の粗調心の際、スリーブ部材を、同心で互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡T1〜T4が描かれるように、Jスリーブ上を摺動させ、環状の軌跡の描く方向を所定のタイミングで切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を送信及び/または受信する光通信用の光モジュールの調心方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信用の光モジュールは、例えば、図5の参照符号1で例示するように、光コネクタのフェルールをガイドし後述の光モジュール本体3に対して上記フェルールを整列させるスリーブ部材2と、電気信号を光信号に変換しスリーブ部材2に挿入される上記フェルール内の光ファイバへ送信する光モジュール本体3と、スリーブ部材2と光モジュール本体3を連結するジョイントスリーブ(Jスリーブ)4を備える。光モジュール1は、いわゆる光送信サブアセンブリである。
【0003】
スリーブ部材2は、整列スリーブ2a、スタブ2b、スタブホルダ2c、スリーブカバー2d、を有し、例えば、スタブ2bとスタブホルダ2cとを圧入固定し、スタブ2bに整列スリーブ2aを嵌合保持さえた後、スリーブカバー2dとスタブホルダ2cとを圧入固定することにより作製される。
【0004】
整列スリーブ2aは、光コネクタのフェルールを光学的に結合させるためのガイドの役割を果たすものであり、フェルールが嵌合する形状の内側壁を有する。スタブ2bは、光コネクタのフェルールと基本的に同一構造であって、ジルコニアなどのセラミックス部品の中央部に設けられた微小孔にシングルモード光ファイバ(SMF)などの短尺の光ファイバ2eを装着した構造を有する。スタブホルダ2cは、スタブ2bを保持すると共に光軸上に光ファイバ2eを固定するためのものである。スリーブカバー2dは、整列スリーブ2aを保護すると共に、整列スリーブ2aへフェルールをガイドし、また、スタブホルダ2cを保持する。
【0005】
光モジュール本体3は、例えば、ステム3a、レンズキャップ3b、レーザダイオード(LD:Laser Diode)3cを有する。ステム3aは、レンズキャップ3bと共にCANパッケージを構成しており、LD3cを搭載する台座部3dと、後述のリードピン3eと、これらリードピン3eを支持するベース3fとを有する。リードピン3eは、光モジュール1が搭載される光データリンクの回路基板と電気的に接続されるもので、該回路基板からLD3cに電気信号を供給したりする。
【0006】
レンズキャップ3bは、LD3cからの光をスタブ2bの光ファイバ2eに集光するレンズ3gと、レンズ3gを保持する円筒状のキャップシェル3hを有する。LD3cは、レンズ3gを介して外部に光信号を送信するものである。
Jスリーブ4には、LD3cからのレーザ光を光モジュール本体3側からスリーブ部材2へ通過させるための孔4aを有し、該孔4aに対して、LD3cへの反射戻り光を防ぐための光アイソレータ5が取り付けられる。
【0007】
光モジュール1は、上述の部材からなり、リードピン3eからの電気信号に基づいて、LD3cからの光信号を、レンズ3g及び光ファイバ2eを介して、スリーブ部材2に装着された光コネクタの光ファイバに送出する。
光ファイバ2eとLD3cとの光学的結合効率は、部品の機械精度だけでは所望の値を実現できないので、以下のような、相対的な位置の調整作業(調心作業)を行う必要がある。
【0008】
調心は、光軸方向(図のZ方向)の調心と、光軸と交わる面(例えば、図のZ方向に垂直なXY平面)内での調心に分けられる。
【0009】
(Z軸方向の調心)
Jスリーブ4は、その一方の端面4bに、スタブ2bすなわち光ファイバ2eが後述のようにX−Y平面内において調心され固定されるようになっており、他方に、光モジュール本体3が挿入される孔4cが形成されている。該孔4cは、光モジュール本体3のレンズキャップ3bに対応した円筒形状を有し、その内径はレンズキャップ3bの外径よりもわずかに大きく形成されている。該孔4cに、光モジュール本体3をレンズ3g側から挿入し、挿入深さを調整することにより、Z方向の調心を行う。なお、調心後、光モジュール本体3とJスリーブ4とは固定される。
【0010】
(XY平面内での調心)
スタブホルダ2cのJスリーブ4側の端面2fと、Jスリーブ4のスタブホルダ2c側の端面4bとは共に、XY平面内において平坦に形成されており、上記端面2fと端面4bとが接する形態でスリーブ部材2をJスリーブ4上を摺動させ、互いの位置を調整することにより調心を行う。なお、調心後、スリーブ部材2とJスリーブ4とは溶接固定される。
【0011】
また、この調心では、光モジュール1の製造リードタイムを短縮し生産効率を向上させるために、まず、例えば、所定の領域内において広い間隔でJスリーブ4上をスリーブ部材2を摺動させ、光モジュール1からの光出力のモニタ結果に基づいて最適位置のおおよそのあたりを付ける(粗調心)。そして、その位置から狭い間隔でJスリーブ4上をスリーブ部材2を摺動させ、最適位置にスリーブ部材2を調整する(微調心)。
【0012】
調心に要する時間で支配的なのは、粗調心に要する時間であり、粗調心の方法としては、スパイラル調心が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。スパイラル調心では、例えば、図6に示すように、最も確からしいと思われる点Pを開始点として、所定の割合で段階的に大きくなる同心の正方形が描かれるようにスリーブ部材2を反時計回りに動かし、動かしている間、光モジュール1からの光出力をモニタし、そのモニタ結果に基づいて、最適位置すなわち微調心の開始位置を推定しなおす。
【0013】
なお、送信用の光モジュール1においては、X−Y方向に比べ、Z方向のトレランスが大きいため、通常、X−Y方向の調心後に、Z方向の調心を行うことが一般的である。すなわち、光モジュール本体3とJスリーブ4との固定前に、上述の粗調心を行うことが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−264754号公報
【特許文献2】特開平9−61752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、光モジュール本体3とJスリーブ4との固定前に、スパイラル調心で粗調心を行うと、Jスリーブ4が光モジュール本体3に対して回転してしまい、アイソレータ5などの角度依存性がある光学部品がJスリーブ4に設けられている場合に、この回転が、光モジュールの特性の悪化を招いてしまったり、回転方向の追加の調心作業を必要としてしまったりする。
【0016】
本発明は、上述のごとき実情を鑑み、光電変換素子を内蔵する光モジュール本体と、光コネクタを保持するスリーブ部材と、これらを連結するJスリーブから成る光モジュールの調心方法であって、光電変換素子と光コネクタの光ファイバとを光学的に結合させるために調心を行う際に、Jスリーブが、光軸と交わる平面内において、回転することのない方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の光モジュールの調心方法は、光電変換素子を内蔵する光モジュール本体と、光コネクタを保持するスリーブ部材と、光モジュール本体が挿入され固定される孔、及び、スリーブ部材が固定される端面を有するジョイントスリーブと、を備え、光モジュール本体のジョイントスリーブの孔への挿入深さが調整されることにより、光軸方向の調心がなされ、スリーブ部材がジョイントスリーブの端面上を摺動され相対的な位置調整がなされることにより、光軸と交わる方向の調心がなされる光モジュールのものであって、光軸と交わる方向の調心の粗調心の際、スリーブ部材を、同心で互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡が描かれるように、ジョイントスリーブ上を摺動させ、環状の軌跡の描く方向を所定のタイミングで切り替えることを特徴とする。
【0018】
なお、スリーブ部材とジョイントスリーブ部材とは、光軸と交わる方向の調心の際、例えば、磁力により当接するようになっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光軸と交わる方向の粗調心の際、同心の互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡が描かれるようにジョイントスリーブ上をスリーブ部材が摺動され、軌跡の描く方向が所定のタイミングで切り替えられるので、ジョイントスリーブが光モジュール本体に対して回転することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】光モジュールの外観を示す図である。
【図2】図1の光モジュールの作製方法の一例を説明する図である。
【図3】本発明の粗調心方法を説明する図である。
【図4】本発明の粗調心方法を用いた場合と、従来の粗調心方法を用いた場合の、Jスリーブの光モジュール本体に対する回転度合いを示す表である。
【図5】一般的な光モジュールを説明する図である。
【図6】従来の粗調心方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を用いて、本発明に関わる光モジュールの構成部材を説明する。本発明に関わる光モジュールは、調心方法に特徴があるものであり、その構成部材は、例えば、前述の図5の光モジュール1と同様である。したがって、図1では、図5の参照符号と同じものを用いることにより、各構成部材の詳細な説明は省略する。
【0022】
図1の光モジュール1は、例えば、光電変換素子としてのLD3c(図5参照)を内蔵する光モジュール本体3と、図示しない光コネクタを保持するスリーブ部材2と、光モジュール本体3が挿入され固定される孔4c(図5参照)、及び、スリーブ部材2が固定される端面4bを有するJスリーブ4と、を備える。この光モジュール1では、図5で説明したのと同様に、光モジュール本体3のJスリーブ4の上記孔4cへの挿入深さが調整されることにより、光軸方向(図のZ方向)の調心がなされ、スリーブ部材2がJスリーブ4の端面4b上を摺動されて相対的な位置調整がされることにより、光軸と交わる方向(例えば、図のXY方向)の調心がなされる。
【0023】
図2は、図1の光モジュール1の作製方法の一例を説明する図である。光モジュール1の作製には調心装置が用いられる。調心装置は、例えば、図示するように、光モジュール本体3が設置されるマウント11、光モジュール本体3をマウント11上に保持するための本体用チャック12、XYZの3方向に移動可能でありスリーブ部材4を保持するスリーブ用チャック13、一端が図示しない光パワーメータに光接続され他端が調心用の光コネクタ14で終端された光ケーブル等から成る。
【0024】
光モジュール1の作製の際、まず、例えば、光モジュール本体3をマウント11上に設置し本体用チャック12で保持する。この光モジュール本体3に、当該光モジュール本体3がJスリーブ4の孔4cに挿入されるように、Jスリーブ4を被せる。このとき、光りアイソレータ5(図5参照)が光モジュール3に対して好適な角度となるようにJスリーブ4を被せる。
【0025】
続いて、光コネクタ14をスリーブ部材2に挿入し、スリーブ用チャック13でスリーブ部材2を保持し、スリーブ用チャック13を動かし、スリーブ部材2をJスリーブ4に近づけてゆく。ある程度まで近づけると、Jスリーブ4は、スリーブ用チャック13を介してスリーブ部材2に加えた磁力によりJスリーブ4が持ち上げられ、スタブホルダ2cのJスリーブ4側の端面2fと、Jスリーブ4のスタブホルダ2c側の端面4bとが当接する。その状態になるまで、スリーブ部材2をJスリーブ4に近付ける。
【0026】
スリーブ部材2とJスリーブ4とが当接したら、次に以下のXY平面における粗調心を行う。すなわち、同心で互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡が描かれるようにJスリーブ4上をスリーブ部材3を摺動させる。このとき、環状の軌跡の描く方向が所定のタイミングで切り替えられるようにスリーブ用チャック13を動かす。そして、最も高光出力が得られた点を微調心の開始点とする。
【0027】
より具体的には、図3に示すように、スリーブ用チャック13を動かし、ある点Pを粗調心の開始点として、一辺の長さがL1の正方形の環状の軌跡T1が描かれるように、スリーブ部材2を反時計回りでJスリーブ4上を摺動させる。
その後、軌跡T1の正方形と同心で且つ該正方形より大きい(一辺の長さがL1+2A)正方形の軌跡T2が描かれるように、軌跡T1の時とは異なり、スリーブ部材2を時計回りでJスリーブ4上を摺動させる。
【0028】
続いて、軌跡T1,T2の正方形と同心で且つ該正方形より大きい(一辺の長さがL1+4A)正方形の軌跡T3が描かれるように、スリーブ部材2を反時計回りでJスリーブ4上を摺動させる。これを所定の粗調心範囲内の調心が終了するまで繰り返す。
【0029】
上述のようにスリーブ部材2を動かしてX−Y方向の粗調心を終えた後は、該粗調心で最も高い光出力が得られた点を開始点としてスリーブ用チャック13を動かしてX−Y方向の微調心を行い、その後、スリーブ部材2のスタブホルダ2cとJスリーブ4とを抵抗溶接等により固定する。
該固定後は、スリーブ用チャック13をZ方向に動かすことにより、スリーブ部材2が固定されたJスリーブ4をZ方向に移動させ、光モジュール本体3のJスリーブ4の上記孔4cへの挿入深さ調節し、Z方向すなわち光軸方向の調心を行う。該調心後に、光モジュール本体3のキャップシェル3hと、Jスリーブ4とを抵抗溶接等により固定することにより光モジュール1は完成する。
【0030】
上述のように、光モジュール1では、粗調心の際、同心で互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡が描かれるようにJスリーブ4上をスリーブ部材3を摺動させており、環状の軌跡を描く方向を所定のタイミング(本例では環状の軌跡を切り替えるタイミング)で切り替えているため、Jスリーブ4が光モジュール3に対して回転することを防ぐことができる。
【0031】
図4は、本発明の粗調心方法の効果を説明する表である。試料1〜5は、従来の粗調心方法、すなわち、前述の図6のように同心で互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡が描かれるようにJスリーブ4上をスリーブ部材3を摺動させるが、環状の軌跡を描く方向が一定で反時計回りである粗調心方法を用いたものである。一方、試料6〜10は、本発明の方法を採用したものである。なお、試料1〜10の粗調心ピッチA(図3及び図6参照)は全て20μmであり、また、粗調心範囲B(図3及び図6参照)も全て500μmである。
【0032】
図4に示すように、粗調心方法として従来の方法を採用した場合、調心前後の光モジュール本体3に対するJスリーブ4の回転方向のズレは約11〜14度である。それに対し、粗調心方法として本発明の方法を採用した場合、上記回転方向のズレは、約1〜2度であり、これからも、本発明により、Jスリーブ4が光モジュール3に対して回転することを防ぐことができることがわかる。
【0033】
なお、以上では、Jスリーブに1つの送信用の光モジュール本体が取り付けられた構成を例に説明したが、本発明は、Jスリーブに複数の送信用の光モジュール本体が取り付けられる構成や、1または複数の受信用の光モジュール本体が取り付けられた構成、送信用の光モジュール本体及び受信用の光モジュール本体が取り付けられた構成にも適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1…光モジュール、2…スリーブ部材、3…光モジュール本体、4…Jスリーブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子を内蔵する光モジュール本体と、光コネクタを保持するスリーブ部材と、前記光モジュール本体が挿入され固定される孔、及び、前記スリーブ部材が固定される端面を有するジョイントスリーブと、を備え、前記光モジュール本体の前記ジョイントスリーブの孔への挿入深さが調整されることにより、光軸方向の調心がなされ、前記スリーブ部材が前記ジョイントスリーブの端面上を摺動され相対的な位置調整がなされることにより、光軸と交わる方向の調心がなされる光モジュールの調心方法であって、
前記光軸と交わる方向の調心の粗調心の際、前記スリーブ部材を、同心で互いに異なる大きさの複数の環状の軌跡が描かれるように、前記ジョイントスリーブ上を摺動させ、前記環状の軌跡の描く方向を所定のタイミングで切り替えることを特徴とする光モジュールの調心方法。
【請求項2】
前記スリーブ部材と前記ジョイントスリーブ部材とは、前記光軸と交わる方向の調心の際、磁力により当接することを特徴とする請求項1に記載の光モジュールの調心方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127996(P2012−127996A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276740(P2010−276740)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000154325)住友電工デバイス・イノベーション株式会社 (291)
【Fターム(参考)】