説明

光信号対雑音比測定装置

【課題】従来の測定方法ではポラライザの偏光軸に直交する直線偏光を入力する必要があり、偏波コントローラの制御に時間を要し、短時間での測定が困難という課題がある。本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、偏波コントローラの調整が容易であり、高精度かつ高速にOSNRを測定できる光信号対雑音比測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、信号光がポラライザを通過した後に信号成分とASEノイズとの光強度差を小さくなるような偏光状態を偏波コントローラで作り出し、偏波スクランブラを介した後の光のストークスパラメータからASEノイズを算出することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光の光強度に対するノイズとなる光源の自然放出光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)の光強度の比率である光信号対雑音比(OSNR:Optical Signal−to−Noise Ratio)を測定する光信号対雑音比測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重(WDM)ネットワークでは、各チャネルのパワー、波長、およびOSNR等の特性に関し、光ネットワークの性能を維持することが必須である。特に、OSNRは、伝送信号品質の維持するために、極めて重要な測定項目である。しかし、ダイナミックな経路設定が可能なWDMネットワークでは、WDM信号は自由にAdd/Dropされて各チャネルの光信号は異なる経路および異なる光ファイバアンプ段数を通過するため、各チャネルにおけるASEの光強度も大きく異なることになる。以下、ASEの光強度をASEノイズと記載する。さらに、各チャネルの光信号は光フィルタでフィルタリングされ、ASEノイズはより複雑な波長特性を示す。
【0003】
従来、偏波ヌリング法でOSNR測定を行うことが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。偏波ヌリング法は、偏波コントローラとポラライザを用い、偏波コントローラで信号光を直線偏光としてポラライザの偏光軸に直交する直線偏光を入力することで信号光を除去し、ASEノイズを直接測定してOSNRを求める。
【特許文献1】米国特許 7106443号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載される測定方法ではポラライザの偏光軸に直交する直線偏光を入力する必要があり、偏波コントローラの制御に時間を要し、短時間での測定が困難という課題がある。これは、ポラライザの偏光軸と完全に直交しない直線偏光を入力すれば、信号光がASEノイズに含まれて測定誤差を生じてしまうためである。このため、高精度にOSNRを測定しようとすれば、例えば偏波コントローラの1/2波長板と1/4波長板を繰り返し設定しながらパワーをモニタしてポラライザの偏光軸と直交する直線偏光を作ることが必要となるからである。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、偏波コントローラの調整が容易であり、高精度かつ高速にOSNRを測定できる光信号対雑音比測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、信号光がポラライザを通過した後に信号成分とASEノイズとの光強度差が小さくなるような偏光状態を偏波コントローラで作り出し、偏波スクランブラを介した後の光のストークスパラメータからASEノイズを算出することとした。
【0007】
具体的には、本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、偏光した光からなる信号光と無偏光からなる自然放出光とを含む被測定光の偏光状態を制御する偏波コントローラと、前記偏波コントローラで偏光状態を制御された前記被測定光のうち特定の偏光方向の成分のみを透過させる主ポラライザと、前記主ポラライザを透過した前記特定の偏光方向の成分のうち前記自然放出光に相当する成分のみを無偏光状態にする偏光スクランブラと、前記偏光スクランブラから出射された光のストークスパラメータを測定するストークスパラメータモニタと、前記偏波コントローラに入射する被測定光の光強度を測定する被測定光受光部と、前記被測定光受光部で測定された前記被測定光の光強度と前記ストークスパラメータモニタで測定されたストークスパラメータとに基づいて前記被測定光の光信号対雑音比を算出する光信号対雑音比演算部と、を備える。
【0008】
ストークスパラメータモニタは、4つのストークスパラメータを測定することができる。この4つのストークスパラメータを後述する計算式のように計算することで、ASEノイズのみを算出することができる。このため、本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、偏波コントローラで信号光の偏波状態を高精度に調整することが不要である。さらに、本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、別途測定した被測定光の光強度と算出したASEノイズから高精度なOSNRを算出することができる。
【0009】
従って、本発明は、偏波コントローラの調整が容易であり、高精度かつ高速にOSNRを測定できる光信号対雑音比測定装置を提供することができる。
【0010】
本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、光路の切り替えにより、前記被測定光を前記偏波コントローラ又は前記被測定光受光部に結合する光スイッチをさらに備える。光分岐器より損失が少ないため、OSNRを高精度に測定することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光信号対雑音比測定装置を用いれば、光強度を実測する際に信号光の光強度とASEノイズとの強度差を小さくして測定することができるため、測定精度や演算時の誤差の影響を小さくすることができる。さらに、信号光の偏光方向と主ポラライザが透過する光の偏光方向とを高精度に設定することが不要であるため、偏波コントローラの設定時間も大幅に短縮でき、短時間での測定が可能となる。従って、本発明は、偏波コントローラの調整が容易であり、高精度かつ高速にOSNRを測定できる光信号対雑音比測定装置を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
図1に本実施形態の光信号対雑音比測定装置の構成を説明するブロック図を示す。図1の光信号対雑音比測定装置は、偏光した光からなる信号光と無偏光からなる自然放出光とを含む被測定光の偏光状態を制御する偏波コントローラ20と、偏波コントローラ20で偏光状態を制御された前記被測定光のうち特定の偏光方向の成分のみを透過させる主ポラライザ13と、主ポラライザ13を透過した前記特定の偏光方向の成分のうち前記自然放出光に相当する成分のみを無偏光状態にする偏光スクランブラ14と、偏光スクランブラ14から出射された光ストークスパラメータを測定するストークスパラメータモニタ50と、偏波コントローラ20に入射する被測定光の光強度を測定する被測定光受光部15と、被測定光受光部15で測定された前記被測定光の光強度とストークスパラメータモニタ50で測定されたストークスパラメータとに基づいて前記被測定光の光信号対雑音比を算出する光信号対雑音比演算部16と、を備える。例えば、被測定光はWDM信号光である。
【0014】
また、図1の光信号対雑音比測定装置は、無偏光からなる自然放出光と波長の異なる偏光した光からなる複数の信号光とを有する波長多重信号から、前記複数の信号光のうち一つの信号光の属する任意の波長帯を透過させて偏波コントローラ20に前記被測定光として出力する波長可変バンドパスフィルタ11をさらに備える。波長可変バンドパスフィルタ11は制御部17で制御されており、制御部17が指示した波長の信号光を含む波長範囲の光を透過させる。入力された被測定光は、波長可変バンドパスフィルタ11で測定対象となる波長(チャネル)が抽出される。また、本実施例では、制御部17が波長可変バンドパスフィルタ11を制御するように説明するが、作業者が波長可変バンドパスフィルタ11を直接調整し、被測定光から測定対象となる波長を抽出してもよい。
【0015】
さらに、図1の光信号対雑音比測定装置は、波長可変バンドパスフィルタ11からの光を分岐して被測定光受光部15に結合する光分岐手段12を備える。光分岐手段12は波長可変バンドパスフィルタ11からの光を2光束に分岐する。光分岐手段12は、入力される光の一部を分岐する光分岐器であってもよいし、光路の切り替えにより、前記被測定光を偏波コントローラ20又は被測定光受光部15に結合する光スイッチでもよい。例えば、光分岐手段12は無偏光ビームスプリッタである。分岐された光束の一方は偏波コントローラ20に、もう一方は被測定光受光部15に入力される。光分岐手段12が光スイッチである場合、光スイッチを偏波コントローラ20に接続してストークスパラメータモニタ50で4つのストークスパラメータを測定した後、光スイッチを被測定光受光部15へ切り替えて被測定光の光強度を測定する。例えば、被測定光受光部15はフォトダイオードを有する。
【0016】
偏波コントローラ20は、前記被測定光が連続して透過するコントローラ用1/4波長板21及びコントローラ用1/2波長板22を有し、コントローラ用1/4波長板21及びコントローラ用1/2波長板22の光学軸の回転角度を組み合わることにより被測定光の偏波状態を制御する。コントローラ用1/4波長板21及びコントローラ用1/2波長板22は制御部17で制御されており、制御部17が指示した偏光状態となるようにコントローラ用1/4波長板21及びコントローラ用1/2波長板22の光学軸を回転させる。偏波コントローラ20から出力される光の偏光状態は、直線偏光、円偏光又は楕円偏光のいずれでもよい。また、本実施例では、制御部17が偏波コントローラ20を制御するように説明するが、作業者が偏波コントローラ20を直接調整し、被測定光の偏波状態を調整してもよい。
【0017】
主ポラライザ13は、偏波コントローラ20で任意の偏光状態とした信号光が入力され、信号光とASEのうち特定方向の偏光成分のみを透過させる。主ポラライザ13が透過させる光の偏光方向は特定方向に固定されており、この特定方向以外の偏光方向の光は透過されない。このため、偏波コントローラ20は、コントローラ用1/4波長板21及びコントローラ用1/2波長板22の光学軸を回転させて信号光の偏光方向を主ポラライザ13の特定方向とずらすことで、主ポラライザ13を透過した光に含まれる信号光の成分を小さくすることができる。一方、ASEは非偏光であるため、ASEノイズは主ポラライザ13を透過すると1/2となる。
【0018】
偏光スクランブラ14は、主ポラライザ13を通過した光、すなわち信号光の一部とASEの1/2の光が入射され、ASEを非偏光化する。例えば、偏光スクランブラ14は偏波保存光ファイバを有している。偏光スクランブラ14は、主ポラライザ13の出力偏光を任意長の偏波保存光ファイバのFast軸(Y軸)またはSlow軸(x軸)に対して45度の角度に入射した後通常の光ファイバに接続して複数ポイントでランダムな応力を加える等によりASEを非偏光化する。
【0019】
偏波保存光ファイバは、X、Y各偏波モードで伝搬定数(βx,βy)が異なり、その伝搬定数の差(Δβ)によって各偏波モード間に遅延を生じさせる。複屈折率をB、波長をλ、波長可変バンドパスフィルタ11の波長分解能幅をΔλとすると、各偏波モードの位相差が2πとなる偏波保存光ファイバ長L2πは、数式(1)で表される。
【数1】

従って、偏波保存ファイバ長Lは、数式(2)で表される。
【数2】

λ=1550nm、Δλ=1nm、B=3×10−4の場合には数式(3)のように8m以上、λ=1550nm、Δλ=0.11nm、B=3×10−4の場合には80m以上の偏波保存光ファイバを用いれば実現可能である。
【数3】

【0020】
ストークスパラメータモニタ50は、偏光スクランブラ14から出射された光のストークスパラメータを測定する。
【0021】
ストークスパラメータモニタ50について説明する。入射した光は4分岐され、1つ目の光はそのままSOP受光器57aで受光される。2つ目の光は主ポラライザ13の偏光方向と同じ偏光方向のSOPポラライザ51を介してSOP受光器57bで受光される。3つ目の光はSOPポラライザ51の偏光方向に対して45度の偏光方向をもつSOPポラライザ52を介してSOP受光器57cで受光される。4つ目の光はSOP1/4波長板53とSOPポラライザ51の偏光方向に対して45度の偏光方向をもつSOPポラライザ54を介してSOP受光器57dで受光される。SOP受光器57aからSOP受光器57dは、例えば、フォトダイオードである。
【0022】
ストークスパラメータモニタ50に入射した光は完全偏光である信号光と非完全偏光であるASEを含んでいる。ストークスパラメータモニタ50に入射した光のうち信号光の光強度をP’signal、ASEノイズをP’aseとし、SOPポラライザ51を透過した後の信号光の光強度をP’signal0、SOPポラライザ52を透過したした後の信号光の光強度をP’signal45、SOP1/4波長板53とSOPポラライザ54を透過した後の信号光の光強度をP’signalq45とすると、それぞれのSOP受光器で測定した光の光強度は数式4で表される。なお、4分岐したことによる1/4の係数は省く。
【数4】

【0023】
ストークスパラメータモニタ50が測定するストークスパラメータ(S,S,S,S)はそれぞれ下記の意味を持つ。
:全光量
;S=<|Ex|>+<|Ey|
:x偏光とy偏光の光量差
;S=<|Ex|>−<|Ey|
:45°偏光と135°偏光の光量差
;S=2Re(Ex・Ey)=<2Ex・Ey・cosδ>
:右円偏光と左円偏光の光量差
;S=2Im(Ex・Ey)=<2Ex・Ey・sinδ>
ここで、|Ex|:x偏光の光量、|Ey|:y偏光の光量、両偏光間の位相差:δ=δx−δyを示す。また、複素数zの複素共役をZで表す。
このように、ストークスパラメータS,S,Sは信号光の偏波を表し、Sは信号光の光強度とASEノイズの和を表している。
【0024】
ストークスパラメータモニタ50は、演算部58でそれぞれのSOP受光器で測定した光の光強度から次の計算を行い、それぞれのストークスパラメータを算出する。
【数5】

【0025】
光信号対雑音比演算部16は、ストークスパラメータモニタ50からストークスパラメータ(S,S,S,S)を受信してストークスパラメータモニタ50に入射する光のうち、信号光の光強度(P’signal)とASEノイズ(P’ase)を数式6のように計算する。
【数6】

【0026】
また、光信号対雑音比演算部16は、数式6で計算されるASEノイズ(P’ase)から、被測定光に含まれるASEノイズ(Pase)を数式7のように計算する。このとき、光信号対雑音比演算部16は、予め測定しておいた波長可変バンドパスフィルタ11や光分岐手段12等の損失分(Loss)を使用し、主ポラライザ13でASEノイズが1/2になることを考慮する。
【数7】

【0027】
さらに、光信号対雑音比演算部16は、数式7で計算したASEノイズ(Pase)と被測定光受光部15が測定した被測定光の光強度Ptotalとから、数式8のようにOSNRを算出する。
【数8】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る光信号対雑音比測定装置は、高密度波長分割多重方式(DWDM;Dense Wavelength Division Multiplexing)や低密度波長多重(CWDM;Coarse Wave Division Multiplexing)にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態の光信号対雑音比測定装置の構成を説明するブロック図である。
【符号の説明】
【0030】
11:波長可変バンドパスフィルタ
12:光分岐手段
13:主ポラライザ
14:偏光スクランブラ
15:被測定光受光部
16:光信号対雑音比演算部
17:制御部
20:偏波コントローラ
21:コントローラ用1/4波長板
22:コントローラ用1/2波長板
50:ストークスパラメータモニタ
51、52、54:SOPポラライザ
53:SOP1/4波長板
57a、57b、57c、57d:SOP受光器
58:演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光した光からなる信号光と無偏光からなる自然放出光とを含む被測定光の偏光状態を制御する偏波コントローラと、
前記偏波コントローラで偏光状態を制御された前記被測定光のうち特定の偏光方向の成分のみを透過させる主ポラライザと、
前記主ポラライザを透過した前記特定の偏光方向の成分のうち前記自然放出光に相当する成分のみを無偏光状態にする偏光スクランブラと、
前記偏光スクランブラから出射された光のストークスパラメータを測定するストークスパラメータモニタと、
前記偏波コントローラに入射する被測定光の光強度を測定する被測定光受光部と、
前記被測定光受光部で測定された前記被測定光の光強度と前記ストークスパラメータモニタで測定されたストークスパラメータとに基づいて前記被測定光の光信号対雑音比を算出する光信号対雑音比演算部と、
を備えることを特徴とする光信号対雑音比測定装置。
【請求項2】
光路の切り替えにより、前記被測定光を前記偏波コントローラ又は前記被測定光受光部に結合する光スイッチをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の光信号対雑音比測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−300363(P2009−300363A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157795(P2008−157795)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】