説明

光制御型フェーズドアレーアンテナ装置

【課題】光パワーを有効に活用し、信号光の信号雑音比を向上し、アンテナから放射する通信信号の品質を向上する光制御型フェーズドアレーアンテナ装置を提供する。
【解決手段】光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、マイクロ波周波数の離調を保ったままローカル光と信号光との周波数を変化するレーザ光発生部と、第1の光分波部と空間光強度変調素子との間に、分波された信号光を周波数により分波する第2の光分波部および周波数により分波された信号光を周波数に対応する空間光強度変調素子の領域のエレメントに照射する光放射部とを備え、レーザ光発生部で発生する信号光の周波数を変えてアレーアンテナからの放射ビームの概略方向を制御し、空間光強度変調素子の、当該周波数の信号光が照射される領域の各エレメントによる反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、アレーアンテナからの放射ビームの詳細方向および形状を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号光とローカル光とを用い、これらの振幅と位相を制御して、アレーアンテナからの放射ビームを制御する光制御型フェーズドアレーアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置として、マイクロ波信号の周波数だけ周波数が異なる信号光ビームとローカル光ビームを空間に放射し、信号光ビームを、空間光強度変調素子とフーリエ変換レンズによりアレーアンテナからの放射ビームのパターンに対応した強度位相分布の信号光ビームに変換する。
また、ローカル光ビームを信号光ビームと空間的に重ね合わせ、重ね合わされた合成ビーム光を光ファイバアレーにより空間的にサンプリングし、そのサンプリング光を複数の光電変換器によるヘテロダイン検波により、複数のマイクロ波信号に変換した後、アレーアンテナを用いて空間に放射するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−347826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置において、通常必要となるペンシルビームを形成するには、空間光強度変調素子において、ビームの方向に対応するごく限られたエレメントのみを動作させ、信号光を反射させる必要がある。このため、空間光強度変調素子に照射した信号光のごく一部の光パワーだけがフーリエ変換レンズに入射し、他のほとんどの光パワーを捨ててしまうことになる。空間光強度変調素子に照射できる信号光の光パワーは限られているので、そのうちの微弱な光パワーしか活用できず、信号光の信号雑音比を低下する要因になっていた。
【0005】
この発明の目的は、光パワーを有効に活用し、信号光の信号雑音比を向上し、アンテナから放射する通信信号の品質を向上する光制御型フェーズドアレーアンテナ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、ローカル光および上記ローカル光と周波数がマイクロ波周波数だけ離調し且つ同一の偏波である信号光を発生するレーザ光発生部と、上記信号光と上記ローカル光とを分波する第1の光分波部と、上記分波された信号光を所望の空間強度分布で反射または透過するエレメントが複数の領域に設けられた空間光強度変調素子と、上記反射または透過された信号光をフーリエ変換するフーリエ変換レンズと、上記フーリエ変換された信号光と上記分波されたローカル光とを合成する光合成部と、上記合成された光を空間的にサンプリングする光ファイバアレーと、上記サンプリングされた光をマイクロ波信号に光電変換する複数の光電変換部と、上記マイクロ波信号を空間に放射するアレーアンテナと、を備え、上記反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、上記アレーアンテナからの放射ビームを制御する光制御型フェーズドアレーアンテナ装置において、上記レーザ光発生部は、マイクロ波周波数の離調を保ったまま上記ローカル光と上記信号光の周波数を変化し、上記第1の光分波部と上記空間光強度変調素子との間に、上記分波された信号光を周波数により分波する第2の光分波部および上記周波数により分波された信号光を周波数に対応する上記空間光強度変調素子の領域のエレメントに照射する光放射部を備え、上記レーザ光発生部で発生する信号光の周波数を変えて上記アレーアンテナからの放射ビームの概略方向を制御し、上記空間光強度変調素子の当該周波数の信号光が照射される領域のエレメントにより反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、上記アレーアンテナからの放射ビームの詳細方向および形状を制御する。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、信号光の光パワーを有効に活用でき、信号雑音比の高い通信を可能にするという効果を奏する。また、簡易な構成でマルチビームを形成できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置について図1から図3までを参照しながら説明する。図1は、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示す図である。
【0009】
この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、図1に示すように、マイクロ波入力端子11から入力したマイクロ波周波数(周波数|f−f|)で離調した周波数fの信号光と、周波数fのローカル光を出力するレーザ光発生部1と、光ファイバ12と、信号光とローカル光とを分波する第1の光分波部21と、第1の光分波部21で分波された信号光を、その周波数によって分波する第2の光分波部22と、その周波数によって分波された信号光を周波数に対応する反射型の空間光強度変調素子4の領域にある反射鏡に照射する光放射部3と、エレメントである複数の反射鏡を有するとともにこの反射鏡によって信号光の一部を反射する反射型の空間光強度変調素子4と、フーリエ変換レンズ5とを備える。
【0010】
また、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、分波されたローカル光を平行光線に拡げて光合成部6に入射するレンズ61、信号光とローカル光とを合成する光合成部6と、光合成部6から出力された合成光を空間的にサンプリングする光ファイバアレー7と、光ファイバアレー7の出力をヘテロダイン検波することによりマイクロ波信号に光電変換する光電変換部8と、光電変換部8により発生したマイクロ波信号をマイクロ波ビーム91として空間に放射するアレーアンテナ9とを備える。
【0011】
レーザ光発生部1には、マイクロ波入力端子11からマイクロ波周波数(|f−f|)のマイクロ波および図示しない端子からローカル光の周波数を可変する信号が入力される。
レーザ光発生部1は、等間隔に並んだ周波数f(i=1〜M×N、MとNは2以上の整数)のいずれかに周波数fの値が可変されるローカル光およびローカル光からマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調する周波数fの信号光が出力される。このローカル光と信号光の偏波は同一である。
レーザ光発生部1は、例えば、外部の信号により出力光の周波数を飛び飛びの値に可変できる周波数可変レーザ光源と光変調器とにより実現できる。なお、レーザの温度などを制御することでも実現できる。
【0012】
図2は、この発明に係る実施の形態1による第1の光分波部21の部分を詳細に示した図である。図3は、この発明に係る実施の形態1によるエタロンの透過強度の光周波数依存性を示すグラフである。
第1の光分波部21は、図2に示すように、入力ポートに信号光とローカル光とが入力され、第1の出力ポートにローカル光が出力され、第2の出力ポートに信号光が出力される。
第1の光分波部21は、例えば、エタロン211とサーキュレータ212とにより実現できる。エタロン211は、図3に示すように、透過強度が所定の値以上を示す透過周波数帯域が光周波数に対して等間隔に並んでおり、透過周波数帯域の周波数はfである。エタロン211は、透過周波数帯域の周波数の光だけを透過し、他の周波数帯域の周波数の光を反射する。すなわち、周波数fのローカル光は透過周波数帯域の周波数fに合わされているのでエタロン211を透過し、周波数fの信号光は透過周波数帯域の周波数fからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調しているのでエタロン211で反射される。
第1の光分波部21では、エタロン211を透過したローカル光は第1の出力ポートに出力され、エタロン211で反射された信号光はサーキュレータ212を通過し第2の出力ポートに出力される。
【0013】
第2の光分波部22は、信号光の異なる周波数f、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調している周波数の信号光が異なる出力ポートに出力する。
第2の光分波部22は、例えば、Arrayed Waveguide Grating(以下、「AWG」と称す)により実現できる。このAWGの各出力ポートの周波数間隔は、エタロン211の透過周波数帯域間隔と同じ間隔としている。従って、レーザ光発生部1で発生した信号光の周波数fによって出力ポートが決定される。
【0014】
光放射部3は、(M×N)個の光ファイバを有し、各光ファイバの光入射端子は第2の光分波部22の出力ポートに接続され、各光ファイバの光放射端子はM×Nの格子状に配列されている。第2の光分波部22の出力ポートに出力された信号光は、その出力ポートに接続された光ファイバを通過して光放射端子から空間に放射される。従って、信号光の周波数f、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調している周波数に対応する光放射端子から空間に放射される。
【0015】
反射型空間光強度変調素子4は、M×N個の領域に区切られており、各領域には反射鏡が設けられ、各反射鏡には外部から制御信号が入力される。また、各反射鏡には光放射部3の各光放射端子が対応し、各光放射端子から放射された信号光は対応する反射鏡に入射され反射される。各反射鏡に入射された信号光は、制御信号が入力されたとき反射鏡が可動してフーリエ変換レンズ5に入射し、制御信号が入力されないとき反射鏡が可動せずにフーリエ変換レンズ5に入射しない。従って、反射型空間光強度変調素子4の反射鏡を適宜制御することにより、信号光に空間的な強度分布をつけることができる。
【0016】
フーリエ変換レンズ5は、入射する信号光の空間的な強度分布をレンズのフーリエ変換作用によりフーリエ変換し、光合成部6に入射する。
光合成部6は、フーリエ変換された信号光とレンズ61を透過したローカル光を空間的に重ね合わされて、合成光として光ファイバアレー7に入射する。
【0017】
光ファイバアレー7は、入射される合成光を空間的にサンプリングする。
光ファイバアレー7は、所定の間隔に配置され、長手方向が平行になるように並置された複数本の光ファイバから構成される。各ファイバの入射面は、フーリエ変換レンズ5の後側焦点面となるように配置される。
なお、光ファイバアレー7の入射端に、各光ファイバへの合成光の結合効率を高めるために、レンズアレーを備えても良い。
【0018】
光電変換部8は、光ファイバでサンプリングされた合成光をヘテロダイン検波によりマイクロ波信号に光電変換する。
アレーアンテナ9は、複数のアンテナ素子を備え、入力されるマイクロ波信号は、図示しないマイクロ波増幅器により増幅されアンテナ素子からマイクロ波ビーム91として空間に放射される。
【0019】
次に、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
レーザ光発生部1からは、周波数fのいずれかの周波数fのローカル光と、マイクロ波入力端子11から入力されたマイクロ波のマイクロ波周波数(|f−f|)だけローカル光から離調した周波数fの信号光と、が出力される。
レーザ光発生部1から出力された信号光とローカル光は、光ファイバ12により伝送され、第1の光分波部21に入力される。
【0020】
第1の光分波部21の入力ポートから入力された信号光とローカル光とは、サーキュレータ212を通過しエタロン211に入射する。そして、入射した光のうち、飛び飛びの周波数の周波数fのいずれかの周波数fのローカル光だけが透過し第1の出力ポートに出力される。一方、周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調した周波数fの信号光は、反射され、再びサーキュレータ212を通過し第2の出力ポートに出力される。
【0021】
第1の光分波部21で分波されたローカル光は、レンズ61により平行光線に変換され光合成部6に入射される。
第1の光分波部21で分波された信号光は、第2の光分波部22に入力される。第2の光分波部22に入力された信号光は、信号光の周波数f、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調した周波数に従って決まる出力ポートに分波される。
第2の光分波部22の出力ポートに分波された信号光は、光放射部3の信号光の周波数f、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調している周波数に対応する光放射端子から放射される。
光放射端子から放射された信号光は、反射型空間光強度変調素子4の信号光の周波数f、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|f−f|)だけ離調している周波数に対応する反射鏡に入射し反射される。
反射鏡により反射された信号光は、空間的な強度分布が付けられてフーリエ変換レンズ5に入射される。
フーリエ変換レンズ5に入射された信号光は、レンズのフーリエ変換作用によって、信号光の空間光振幅分布をフーリエ変換され、光合成部6に入射される。
【0022】
フーリエ変換された信号光とレンズ61を透過したローカル光は、光合成部6により空間的に重ね合わされて、合成光となる。
合成光は、光ファイバアレー7の各光ファイバに入射し、空間的にサンプルリングされる。
【0023】
空間的にサンプリングされた合成光は、光ファイバを伝搬後、各光ファイバの出射端側に接続した各光電変換部8に入力され、ヘテロダイン検波によりマイクロ波信号に変換される。
マイクロ波信号は、マイクロ波増幅器により増幅されて、アレーアンテナ9の各アンテナ素子に給電され、マイクロ波ビーム91として空間に放射される。
【0024】
上述のように、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、反射型空間光強度変調素子4によって作られた信号光の空間振幅分布をフーリエ変換した空間振幅位相分布をもって、アレーアンテナ9の各アンテナ素子を励振し、マイクロ波ビーム91を放射する。マイクロ波ビーム91の遠方界分布はアレーアンテナ9の各アンテナ素子の振幅位相分布をフーリエ変換したものになることが知られているので、遠方界分布は反射型空間光強度変調素子4の空間振幅分布と同様になる。すなわち、反射型空間光強度変調素子4の動作させる反射鏡の位置により、マイクロ波ビーム91の方向を制御することができる。
【0025】
また、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、レーザ光発生部1で発生する信号光の周波数により、反射型空間光強度変調素子4に照射する信号光の位置を変えることができるので、信号光の周波数を変えることにより、マイクロ波ビーム91の概略方向を制御することができる。
また、反射型空間光強度変調素子4の光が照射している反射鏡を制御することによって、より細かい、ビーム方向とビーム形状の制御をすることができる。
【0026】
そして、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、信号光を反射型空間光強度変調素子4中のM×N個の領域のいずれか1つに照射するので、光パワーを有効に活用し、信号光の信号雑音比を高め、アンテナから放射する通信信号の品質を向上できる効果を有する。
【0027】
一般に、レーザ光発生部1で発生できる光パワーや、光ファイバ12で増幅したり伝送したりできる光パワーは限られている。また、光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、通常、マイクロ波ビーム91を特定の方向に放射する用途が大半である。このため、従来の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置のように、発生、増幅、伝送した信号光を反射型空間光強度変調素子4の全ての領域に照射してしまうと、動作する反射鏡の数が非常に少ないため、ごく一部の信号光のみをフーリエ変換レンズ5に入射することになり、大半の光パワーを捨ててしまうことになる。このため、光パワーを有効に活用することができず、フーリエ変換レンズ5に入射する光パワーが小さくなり、結果的に信号光に雑音が多く含まれてしまい、通信信号の信号雑音比を劣化させてしまう。
【0028】
一方、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、限られた信号光の光パワーを、反射型空間光強度変調素子4の1/(M×N)の領域のみに照射する。このため、同じ幅のマイクロ波ビーム91を形成する場合でも、フーリエ変換レンズ5に、従来の(M×N)倍の光パワーを入射することができ、従来に比べ信号光強度を(M×N)倍に大きくすることができる。したがって、本装置を伝送する信号の信号雑音比(S/N比)を高めることができる。
【0029】
このように、この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、限られた光パワーを有効に活用し、信号光の信号雑音比を高め、アンテナから放射する通信信号の品質を向上できる。
【0030】
なお、実施の形態1においては、空間光強度変調素子4に、エレメントとして多数の反射鏡を用いる場合について示したが、本発明はこれに限らず、空間光強度変調素子4に透過型の空間光強度変調素子4を用いても構わない。
また、信号光に空間的な強度変調をかけることができるあらゆる空間光強度変調素子4を用いることができ、同様に本発明による効果を得ることができる。
【0031】
実施の形態2.
図4は、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示す図である。
この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、図4に示すように、マイクロ波入力端子11から入力したK個(Kは2以上の整数)のマイクロ波のマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)(jは2以上、K以下の整数)で離調した周波数fSjのK個の信号光と、周波数fLjのK個のローカル光を出力するレーザ光発生部1Bと、光ファイバ12と、信号光とローカル光とを分波する第1の光分波部21と、第1の光分波部21で分波された信号光を、その周波数によって分波する第2の光分波部22と、この分波された信号光を周波数に対応する反射型空間光強度変調素子4の領域にある反射鏡に照射する光放射部3と、エレメントである複数の反射鏡を有するとともにこの反射鏡によって信号光の一部を反射する反射型の空間光強度変調素子4と、フーリエ変換レンズ5とを備える。
【0032】
また、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、ローカル光を平行光線に拡げて光合成部6に入力するレンズ61、信号光とローカル光とを合成する光合成部6と、光合成部6から出力された合成光を空間的にサンプリングする光ファイバアレー7と、光ファイバアレー7の出力をヘテロダイン検波することによりマイクロ波信号に変換する光電変換部8と、光電変換部8により発生したマイクロ波信号をK個のマイクロ波ビーム91として空間に放射するアレーアンテナ9とを備える。
【0033】
レーザ光発生部1Bには、マイクロ波入力端子11Bからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)のK個のマイクロ波および図示しない端子からローカル光の周波数を可変するK個の信号が入力される。
レーザ光発生部1Bは、等間隔に並んだ周波数f(i=1〜M×N、MとNは2以上の整数)のいずれかの周波数fLjに可変されるK個のローカル光およびK個のローカル光からそれぞれマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調する周波数fSjのK個の信号光が出力される。なお、添字jが同じ周波数fSjの信号光と周波数fLjのローカル光は、偏波が同一であり、添字jが異なる周波数fSjの信号光と周波数fLjのローカル光は、偏波が異なる。
レーザ光発生部1Bは、例えば、外部の信号により出力光の周波数を飛び飛びの値に可変できるK個の周波数可変レーザ光源と光変調器とにより実現できる。なお、K個のレーザの温度などを制御することでも実現できる。
【0034】
第1の光分波部21は、入力ポートにK個の信号光とK個のローカル光とが入力され、第1の出力ポートにK個のローカル光が出力され、第2の出力ポートにK個の信号光が出力される。
第1の光分波部21は、例えば図2に示すように、エタロン211とサーキュレータ212とにより実現できる。エタロン211は、図3に示すように、透過強度が所定の値以上を示す透過周波数帯域が光周波数に対して等間隔に並んでおり、透過周波数帯域の周波数はfである。エタロン211は、透過周波数帯域の周波数の光だけを透過し、他の周波数帯域の周波数の光を反射する。すなわち、周波数fLjのローカル光は透過周波数帯域の周波数fに合わされているのでエタロン211を透過し、周波数fSjの信号光は透過周波数帯域の周波数fからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調しているのでエタロン211で反射される。
第1の光分波部21では、エタロン211を透過したK個のローカル光は第1の出力ポートに出力され、エタロン211で反射されたK個の信号光はサーキュレータ212を通過し第2の出力ポートに出力される。
【0035】
第2の光分波部22は、K個の信号光を周波数fSj、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調している周波数に対応する出力ポートに出力する。
第2の光分波部22は、例えば、Arrayed Waveguide Grating(以下、「AWG」と称す)により実現できる。このAWGの各出力ポートの周波数間隔は、エタロン211の透過周波数帯域間隔と同じ間隔としている。従って、レーザ光発生部1Bで発生したK個の信号光の周波数fSjによって出力ポートが決定される。
【0036】
光放射部3は、(M×N)個の光ファイバを有し、各光ファイバの光入射端子は第2の光分波部22の出力ポートに接続され、各光ファイバの光放射端子はM×Nの格子状に配列されている。第2の光分波部22の出力ポートに出力されたK個の信号光は、それぞれその出力ポートに接続された光ファイバを通過して光放射端子から空間に放射される。従って、各信号光の周波数fSj、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調している周波数に対応する光放射端子から空間に放射される。
【0037】
反射型空間光強度変調素子4は、M×N個の領域に区切られており、各領域には反射鏡が設けられ、各反射鏡には外部から制御信号が入力される。また、各反射鏡には光放射部3の各光放射端子が対応し、各光放射端子から放射される信号光は各反射鏡に入射され反射される。各反射鏡に入射された信号光は、制御信号が入力されたとき反射鏡が可動してフーリエ変換レンズ5に入射し、制御信号が入力されないとき反射鏡が可動せずにフーリエ変換レンズ5に入射しない。従って、反射型空間光強度変調素子4の複数の反射鏡を制御することにより、K個の信号光にそれぞれ空間的な強度分布をつけることができる。
【0038】
フーリエ変換レンズ5は、入射するK個の信号光の空間的な強度分布をレンズのフーリエ変換作用によりフーリエ変換し、光合成部6に入射する。
光合成部6は、偏波が同一同士の信号光とローカル光とを空間的に重ね合わされて、K個の合成光として光ファイバアレー7に入射する。
【0039】
光ファイバアレー7は、入射されるK個の合成光を空間的にサンプリングする。
光ファイバアレー7は、所定の間隔に配置され、長手方向が平行になるように並置された複数本の光ファイバから構成される。各ファイバの入射面は、フーリエ変換レンズ5の後側焦点面となるように配置される。
なお、光ファイバアレー7の入射端に、各光ファイバへの合成光の結合効率を高めるために、レンズアレーを備えても良い。
【0040】
光電変換部8は、光ファイバでサンプリングされたK個の合成光をヘテロダイン検波によりK個のマイクロ波信号に光電変換する。
アレーアンテナ9は、複数のアンテナ素子を備え、入力されるK個のマイクロ波信号は、図示しないマイクロ波増幅器により増幅されアンテナ素子からK個のマイクロ波ビーム91として空間に放射される。
【0041】
次に、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
レーザ光発生部1Bからは、周波数fのいずれかの周波数fLjのK個のローカル光と、マイクロ波入力端子11から入力されたK個のマイクロ波のマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけローカル光の周波数fLjから離調した周波数fSjのK個の信号光と、が出力される。
レーザ光発生部1Bから出力されたK個の信号光とK個のローカル光は、光ファイバ12により伝送され、第1の光分波部21に入力される。
【0042】
第1の光分波部21の入力ポートから入力したK個の信号光とK個のローカル光は、サーキュレータ212を通過しエタロン211に入射する。そして、入射した光のうち、飛び飛びの周波数fのいずれかである周波数fLjのK個のローカル光だけが透過し第1の出力ポートに出力される。一方、周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけそれぞれ離調した周波数fSjのK個の信号光は、反射され、再びサーキュレータ212を通過し第2の出力ポートに出力される。
【0043】
第1の光分波部21で分波されたK個のローカル光は、それぞれレンズ61により平行光線に変換され光合成部6に入力される。
第1の光分波部21で分波されたK個の信号光は、第2の光分波部22に入力される。第2の光分波部22に入力されたK個の信号光は、それぞれ信号光の周波数fSj、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調した周波数に従って決まる出力ポートに分波される。
第2の光分波部22の出力ポートに分波されたK個の信号光は、それぞれ光放射部3の信号光の周波数fSj、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調している周波数に対応する光放射端子から放射される。
光放射端子から放射されたK個の信号光は、反射型空間光強度変調素子4の信号光の周波数fSj、すなわち周波数fのいずれかからマイクロ波周波数(|fSj−fLj|)だけ離調している周波数に対応する反射鏡に入射し反射される。
反射鏡により反射されたK個の信号光は、それぞれ空間的な強度分布が付けられてフーリエ変換レンズ5に入射される。
フーリエ変換レンズ5に入射されたK個の信号光は、それぞれレンズのフーリエ変換作用によって、空間光振幅分布をフーリエ変換され、光合成部6に入射される。
【0044】
同一偏波同士のフーリエ変換された周波数fSjの信号光とレンズ61を透過した周波数fLjのローカル光とは、光合成部6により空間的に重ね合わされて、K個の合成光となる。
K個の合成光は、光ファイバアレー7の光ファイバに入射し、空間的にサンプルリングされる。
【0045】
空間的にサンプリングされたK個の合成光は、光ファイバを伝搬後、各光ファイバの出射端側に接続された光電変換部8に入力され、ヘテロダイン検波によりK個のマイクロ波信号に光電変換される。
K個のマイクロ波信号は、図示しないマイクロ波増幅器により増幅されて、アレーアンテナ9のアンテナ素子に給電され、K個のマイクロ波ビーム91として空間に放射される。
【0046】
上述のように、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、反射型空間光強度変調素子4によって作られた信号光の空間振幅分布をフーリエ変換した空間振幅位相分布をもって、アレーアンテナ9の各アンテナ素子を励振し、マイクロ波ビーム91を放射する。マイクロ波ビーム91の遠方界分布はアレーアンテナ9の各アンテナ素子の振幅位相分布をフーリエ変換したものになることが知られているので、遠方界分布は反射型空間光強度変調素子4の空間振幅分布と同様になる。すなわち、反射型空間光強度変調素子4の動作させる反射鏡の位置により、マイクロ波ビーム91の方向を制御することができる。
【0047】
また、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、レーザ光発生部1で発生する複数の光の周波数により、反射型空間光強度変調素子4に照射する信号光の位置を変えることができるので、それぞれの光の周波数を変えることにより、マイクロ波ビーム91の概略方向を複数同時に制御することができる。
また、反射型空間光強度変調素子4の光が照射している反射鏡を制御することによって、K個のそれぞれのマイクロ波ビーム91のより細かいビーム方向とビーム形状とを制御することができる。
【0048】
そして、この発明に係る実施の形態2による本光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、信号光を反射型空間光強度変調素子4中のM×N個のうちのK個の領域のみに照射するので、光パワーを有効に活用し、信号光の信号雑音比を高め、アンテナから放射する通信信号の品質を向上できる効果を有する。
【0049】
一般に、レーザ光発生部1Bで発生できる光パワーや、光ファイバ12で増幅したり伝送したりできる光パワーは限られている。また、光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、通常、マイクロ波ビーム91を特定の方向に放射する用途が大半である。このため、従来の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置のように、発生、増幅、伝送した信号光を反射型空間光強度変調素子4の全ての領域に照射してしまうと、動作する反射鏡の数が非常に少ないため、ごく一部の信号光のみをフーリエ変換レンズ5に入射することになり、大半の光パワーを捨ててしまうことになる。このため、光パワーを有効に活用することができず、フーリエ変換レンズ5に入射する光パワーが小さくなり、結果的に信号光に雑音が多く含まれてしまい、通信信号の信号雑音比を劣化させてしまう。
【0050】
一方、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、限られた信号光の光パワーを、反射型空間光強度変調素子4のK/(M×N)の領域のみに照射する。このため、同じ幅のマイクロ波ビーム91をK個形成する場合でも、フーリエ変換レンズ5に、従来の(M×N)/K倍の光パワーを入射することができ、従来に比べ信号光強度を(M×N)/K倍に大きくすることができる。したがって、本装置を伝送する信号の信号雑音比(S/N比)を高めることができる。
【0051】
このように、この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、限られた光パワーを有効に活用し、信号光の信号雑音比を高め、アンテナから放射する通信信号の品質を向上できる。
【0052】
なお、実施の形態2において、レーザ光発生部1Bの複数のマイクロ波入力端子11から入力するマイクロ波は、全く同じ信号でも良いし、異なる情報を有する信号でも良い。マイクロ波の周波数も、同じでも良いし、異なっても良い。これらは本装置を用いる用途、目的によって、自由に選択することができる。
【0053】
また、実施の形態2においては、空間光強度変調素子4に、エレメントとして多数の反射鏡を用いる場合について示したが、本発明はこれに限らず、空間光強度変調素子4に透過型の空間光強度変調素子4を用いても構わない。
また、信号光に空間的な強度変調をかけることができるあらゆる空間光強度変調素子4を用いることができ、同様に本発明による効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明に係る実施の形態1による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による第1の光分波部の構成を示す図である。
【図3】この発明に係る実施の形態1によるエタロンの透過強度の光周波数依存性を示すグラフである。
【図4】この発明に係る実施の形態2による光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1、1B レーザ光発生部、3 光放射部、4 空間光強度変調素子、5 フーリエ変換レンズ、6 光合成部、7 光ファイバアレー、8 光電変換部、9 アレーアンテナ、11、11B マイクロ波入力端子、12 光ファイバ、21 第1の光分波部、22 第2の光分波部、61 レンズ、91 マイクロ波ビーム、211 エタロン、212 サーキュレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローカル光および上記ローカル光と周波数がマイクロ波周波数だけ離調し且つ同一の偏波である信号光を発生するレーザ光発生部と、
上記信号光と上記ローカル光とを分波する第1の光分波部と、
上記分波された信号光を所望の空間強度分布で反射または透過するエレメントが複数の領域に設けられた空間光強度変調素子と、
上記反射または透過された信号光をフーリエ変換するフーリエ変換レンズと、
上記フーリエ変換された信号光と上記分波されたローカル光とを合成する光合成部と、
上記合成された光を空間的にサンプリングする光ファイバアレーと、
上記サンプリングされた光をマイクロ波信号に光電変換する複数の光電変換部と、
上記マイクロ波信号を空間に放射するアレーアンテナと、
を備え、
上記反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、上記アレーアンテナからの放射ビームを制御する光制御型フェーズドアレーアンテナ装置において、
上記レーザ光発生部は、マイクロ波周波数の離調を保ったまま上記ローカル光と上記信号光の周波数を変化し、
上記第1の光分波部と上記空間光強度変調素子との間に、上記分波された信号光を周波数により分波する第2の光分波部および上記周波数により分波された信号光を周波数に対応する上記空間光強度変調素子の領域のエレメントに照射する光放射部を備え、
上記レーザ光発生部で発生する信号光の周波数を変えて上記アレーアンテナからの放射ビームの概略方向を制御し、
上記空間光強度変調素子の当該周波数の信号光が照射される領域のエレメントにより反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、上記アレーアンテナからの放射ビームの詳細方向および形状を制御することを特徴とする光制御型フェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項2】
複数のローカル光および上記各ローカル光と周波数がマイクロ波周波数だけ離調し且つ同一の偏波である複数の信号光を発生するレーザ光発生部と、
上記信号光と上記ローカル光とを分波する第1の光分波部と、
上記分波された信号光を所望の空間強度分布で反射または透過するエレメントが複数の領域に設けられた空間光強度変調素子と、
上記反射または透過された信号光をフーリエ変換するフーリエ変換レンズと、
同一偏波同士の上記フーリエ変換された信号光と上記分波されたローカル光とを合成する光合成部と、
上記合成された光を空間的にサンプリングする光ファイバアレーと、
上記サンプリングされた光をマイクロ波信号に光電変換する複数の光電変換部と、
上記マイクロ波信号を空間に放射するアレーアンテナと、
を備え、
上記反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、上記アレーアンテナからの放射ビームを制御する光制御型フェーズドアレーアンテナ装置において、
上記レーザ光発生部は、マイクロ波周波数の離調を保ったまま同一偏波同士の上記ローカル光と上記信号光の周波数を変化し、
上記第1の光分波部と上記空間光強度変調素子との間に、上記分波された信号光を周波数により分波する第2の光分波部および上記周波数により分波された信号光を周波数に対応する上記空間光強度変調素子の領域のエレメントに照射する光放射部を備え、
上記レーザ光発生部で発生する各信号光の周波数を変えて上記アレーアンテナからの各放射ビームの概略方向を制御し、
上記空間光強度変調素子の当該各周波数の信号光が照射される領域のエレメントにより反射または透過された信号光の空間強度分布を制御して、上記アレーアンテナからの各放射ビームの詳細方向および形状を制御することを特徴とする光制御型フェーズドアレーアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−271090(P2008−271090A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110269(P2007−110269)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】