説明

光半導体素子封止用樹脂組成物及び当該組成物で封止した光半導体装置

【課題】屈折率1.45〜1.55の硬化性シリコーン樹脂に、クリスタバライト粒粉を分散させることにより、封止樹脂からの放熱に優れ且つ硫化による銀の変色に伴う反射率低下からくる輝度低下、更に吸湿リフローや熱衝撃試験等の熱応力試験に耐えうる長期信頼性が確保できる硬化性シリコーン組成物及び発光ダイオードを得る。
【解決手段】封止樹脂との屈折率の差が±0.03であり、且つ熱伝導率が0.5W/m・K以上のシリカ系フィラーを含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子の封止用樹脂組成物に関し、詳しくは、透明性と熱伝導性が良好な光半導体素子封止用樹脂組成物及びこの樹脂組成物によって封止された光半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の光半導体素子の被覆保護用樹脂組成物としては、その硬化体が透明性を有することが要求されており、一般にビスフェノールA型エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤を用いて得られるものが用いられている(特許文献1:特許第3241338号公報及び特許文献2:特開平7−25987号公報参照)。
【0003】
しかし、かかる透明エポキシ樹脂においては、短波長の光に対する光線透過性が低いために耐光耐久性が低い、あるいは光劣化により着色するという欠点を有していた。そのため、炭素−炭素二重結合を一分子中に少なくとも2個含有するアルケニル基含有ケイ素化合物、及び一分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するケイ素化合物、ヒドロシリル化触媒からなる光半導体素子の被覆保護用樹脂組成物も提案されている(特許文献3:特開2001−002922号公報及び特許文献4:国際公開第2006/77667号パンフレット参照)。
【0004】
しかし、このようなシリコーン系の硬化物、特に屈折率1.45以下のシリコーン系の硬化物では、従来のエポキシ樹脂に比べ、ガス透過性が大きく、保管環境及び使用環境に存在する硫化ガスが透過してしまう欠点を有している。そのため、シリコーン硬化物を透過してきた硫化ガスとLEDパッケージの基板であるリードフレームの銀メッキ表面との硫化反応により、銀メッキが硫化銀に変化し、その結果、銀メッキ表面が黒化してしまうという問題が生じていた。
【0005】
一方、LEDの投入電流が増え明るくなる反面、チップからの発熱が非常に高くなり、リードフレームからの放熱だけではジャンクション温度が高く、封止樹脂の劣化やダイボンド樹脂の劣化によりLEDのライフ低下が発生している。
近年では、ガス透過性の比較的小さい屈折率1.45以上のシリコーン硬化物を使用することにより、前述の銀メッキ表面の硫化問題を解決することが提案されているが、前述の発光素子の発光効率向上や高発熱化により、この種のシリコーン硬化物でも変色する不具合が発生している。
【0006】
通常、例えば、白色LED等の発光半導体装置は、発光素子をリードフレームを有するリフレクターのダイパッド上に搭載し、蛍光体を含有するシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂で封止する。LEDなどの発光素子は強い光と高熱を発するが、熱は一般にリードフレームを介して外部に放熱されるものの、蛍光体が存在する素子表面では、特に、高輝度LEDなどでは光と熱により素子近傍の封止樹脂が劣化する現象が起こっている。これは素子表面に接した封止樹脂に素子からの最も強い光が照射される上、熱が蓄積することで樹脂が劣化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3241338号公報
【特許文献2】特開平7−25987号公報
【特許文献3】特開2001−002922号公報
【特許文献4】国際公開第2006/77667号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、発光素子からの発熱をリードフレームからの放熱以外に封止樹脂面からも熱を発散させることができ、熱伝導性を持ち、透明性の優れた硬化物を与える光半導体素子封止用樹脂組成物及びこの樹脂組成物で封止された信頼性に優れた光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、光半導体素子封止用樹脂組成物の充填材として、この充填材が配合される前の硬化性樹脂組成物の硬化物との屈折率の差が±0.03であり、熱伝導率が0.5W/m・K以上のシリカ系フィラーを用いることにより、上記目的が達成されることを知見し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は下記光半導体素子封止用樹脂組成物及び光半導体装置を提供する。
請求項1:
硬化性樹脂組成物に、この硬化性樹脂組成物の硬化物との屈折率の差が±0.03であり、且つ熱伝導率が0.5W/m・K以上のシリカ系フィラーを配合してなることを特徴とする光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項2:
更に、蛍光体を含有する請求項1記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項3:
シリカ系フィラーの含有量が、硬化性樹脂組成物100質量部に対して5〜150質量部である請求項1又は2記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項4:
シリカ系フィラーの屈折率が1.45〜1.55である請求項1〜3のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項5:
シリカ系フィラーがクリスタバライト構造を有する請求項1〜4のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項6:
クリスタバライト構造を有するシリカ系フィラーが粒度0.01〜75μm、球形度0.8〜1.0である請求項5記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項7:
硬化性樹脂組成物が硬化性シリコーンゴム組成物である請求項1〜6のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項8:
硬化性シリコーンゴム組成物が付加硬化型シリコーンゴム組成物である請求項7記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
請求項9:
請求項1〜8のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物の硬化物にて光半導体素子が封止された光半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、放熱に優れ且つ硫化による銀の変色に伴う反射率低下からくる輝度低下がなく、更に吸湿リフローや熱衝撃試験等の熱応力試験に耐えうる長期信頼性が確保できる硬化物を与える光半導体素子封止用樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るLED発光装置の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光半導体素子封止用樹脂組成物(以下、封止樹脂組成物と略す)は、硬化性樹脂組成物(以下、硬化性組成物と略す)に特定のシリカ系フィラーを配合したものである。
本発明に使用する硬化性組成物としては、脂環式エポキシ樹脂を主体とするエポキシ樹脂組成物やエポキシ樹脂とシリコーン樹脂の混成樹脂組成物、更には縮合硬化性や熱硬化性のシリコーンゴム組成物などが使用可能である。なかでも付加硬化型シリコーンゴム組成物が望ましいものである。付加硬化型シリコーンゴム組成物としては、(A)非共有結合性二重結合基を有する有機ケイ素化合物、特に一分子中に2個以上のアルケニル基を含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)白金系触媒、(D)反応抑制剤、及び(E)シランカップリング剤からなる付加硬化型シリコーンゴム組成物が好適に使用される。
【0014】
(A)成分:
(A)成分としては、下記一般式(1)
123SiO−(R45SiO)a−(R67SiO)b−SiR123 (1)
(式中、R1は非共有結合性二重結合基含有一価炭化水素基を示し、R2〜R7はそれぞれ同一又は異種の一価炭化水素基を示し、このうちR4〜R7は、好ましくは脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基を示し、また、R6及び/又はR7は好ましくは芳香族一価炭化水素基を示し、0≦a+b≦500、好ましくは10≦a+b≦500の整数であり、0≦a≦500、好ましくは10≦a≦500、0≦b≦250、好ましくは0≦b≦150の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサンを使用することができる。
【0015】
この場合、R1は炭素数2〜8、特に2〜6のアルケニル基で代表される脂肪族不飽和基が好ましい。R2〜R7は炭素数1〜20、特に1〜10の範囲にあるものが好適であり、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられるが、このうちR4〜R7は好適にはアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有さないアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。また、R6及び/又はR7はフェニル基やトリル基などの炭素数6〜12のアリール基等の芳香族一価炭化水素基であることが望ましいものである。
【0016】
上記一般式(1)のオルガノポリシロキサンは、例えば主鎖を構成する、環状ジフェニルポリシロキサン、環状メチルフェニルポリシロキサン等の環状ジオルガノポリシロキサンと、末端基を構成するジフェニルテトラビニルジシロキサン、ジビニルテトラフェニルジシロキサン等のジシロキサンとのアルカリ平衡化反応によって得ることができるが、この場合、通常、シラノール基及びクロル分は含有されない。
【0017】
上記一般式(1)のオルガノポリシロキサンとしては、具体的に下記のものが例示される。
【化1】


(式中、k,mは0≦k+m≦500を満足する整数であり、好ましくは5≦k+m≦250で、0≦m/(k+m)≦0.5を満足する整数である。)
【0018】
(A)成分には、上記一般式(1)の直鎖構造を有するオルガノポリシロキサンの他、必要に応じて、3官能性シロキサン単位、4官能性シロキサン単位等を含む三次元網目構造を有するオルガノポリシロキサンを併用することもできる。
【0019】
(A)成分中の非共有結合性二重結合基の含有量は、ケイ素原子に結合する全一価炭化水素基(式(1)におけるR1〜R7)の1〜50モル%、好ましくは2〜40モル%、より好ましくは5〜30モル%である。非共有結合性二重結合基の含有量が1モル%よりも少ないと硬化物が得られず、50モル%よりも多いと機械的特性が悪くなることがある。
【0020】
また、(A)成分中の芳香族基の含有量は、全一価炭化水素基(式(1)におけるR1〜R7)の0〜95モル%、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは20〜80モル%である。芳香族基は樹脂中に適量含まれた方が、機械的特性がよく、製造もし易いという利点がある。また、芳香族基の導入により屈折率を制御できることも利点として挙げられる。
【0021】
(B)成分:
(B)成分には、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが用いられる。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、架橋剤として作用するもので、該成分中のSiH基と(A)成分のビニル基等の非共有結合性二重結合基(典型的にはアルケニル基)とが付加反応することにより、硬化物を形成するものである。
【0022】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、芳香族炭化水素基を有することで、前記(A)成分の非共有結合性二重結合基を有する有機ケイ素化合物が高屈折率の場合に相溶性を高め、透明な硬化物を与えることができる。従って、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、芳香族一価炭化水素基を持ったオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分の一部又は全部として含ませることができる。
【0023】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記例示に限られるものではないが、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−グリシドキシプロピル−5−トリメトキシシリルエチル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、トリメトキシシラン重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0024】
また、下記構造で示される単位を使用して得られるオルガノハイドロジェンポリシロキサンも用いることができる。
【化2】

【0025】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は2個以上、好ましくは2〜1,000個、より好ましくは2〜300個程度のものを使用することができる。
【0026】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分の非共有結合性二重結合基(典型的にはアルケニル基)1個当たり、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)を0.7〜3.0個与えるに十分な量を含むことが好ましい。
【0027】
(C)成分:
(C)成分には、白金系触媒が用いられる。白金系触媒には塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、キレート構造を有する白金錯体等が挙げられる。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
これらの触媒成分の配合量は、硬化有効量であり、所謂触媒量でよく、通常、前記(A)及び(B)成分の合計量100質量部当り、白金族金属の質量換算で0.1〜500ppm、特に0.5〜100ppmの範囲で使用される。
【0028】
(D)成分:
(D)成分は、本発明の組成物に必要な保存性を当該組成物に与える反応抑制剤(硬化制御剤)である。所望の硬化条件以外で本発明の組成物が硬化するのを抑制することができる限り、(D)成分の構造に特に制限はない。その具体例としては、アセチレンアルコール系化合物、トリアリルイソシアヌレート系化合物、ビニル基含有ポリシロキサン、アルキルマレエート類、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、本発明組成物の硬化性を損なうことなく、特に優れた保存性を本発明組成物に与えることができるので、アセチレンアルコール系化合物及びトリアリルイソシアヌレート系化合物が好ましい。
(D)成分の配合量は、付加硬化型シリコーンゴム組成物全体の1〜10,000ppm、特に5〜5,000ppmである。
【0029】
(E)成分:
(E)成分のシランカップリング剤は、接着性等の点で必要に応じて配合されるもので、シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等や、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン及びそのオリゴマー等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独でも2種以上混合して使用することも可能である。
シランカップリング剤の配合量は、付加硬化型シリコーンゴム組成物全体の10質量%以下(0〜10質量%)、特に5質量%以下(0〜5質量%)配合することが好ましい。なお、配合する場合は0.1質量%以上とすることが好ましい。
【0030】
(F)成分:
本発明の封止樹脂組成物は、上記硬化性組成物、特に上記(A)〜(E)成分からなる付加硬化型シリコーンゴム組成物に対し、この硬化性組成物、特に上記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物との屈折率の差が±0.03であり、且つ熱伝導率が0.5W/m・K以上、好ましくは0.5〜2.0W/m・Kのシリカ系フィラーを(F)成分として配合する。
【0031】
上記硬化性組成物、特に上記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物の屈折率は、一般的にケイ素原子に結合するメチル基等のアルキル基とフェニル基等のアリール基の比率によって変動し、約1.4〜1.6である。従って、シリカ系フィラーとしては、この屈折率との差が上記の通り±0.03であるものを用いるもので、特に1.45〜1.55のものを用いることが好ましい。
【0032】
シリカ系フィラーとしては、クリストバライト、トリジマイト、石英、キータイトなどのシリカ粉末やアルミノシリケートなどのケイ素とアルミニウムなどの金属の複合酸化物が挙げられる。粉体としては、粒度が0.01〜75μmで、平均粒径が1〜30μm、好ましくは0.5〜25μm、更に好ましくは1〜15μm程度のものがよい。粉体の形状は破砕状のものから球状のものまで使用することができるが、望ましくは球形度が0.8〜1.0の球状のものであり、更に望ましくは0.85〜1.0である。なお、粒度は、レーザー光回折法による粒度分布測定装置により測定した値であり、平均粒径はレーザー光回折法による粒度分布測定装置における累積重量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。また、球形度はSEM観察における粉体粒子の最長径に対する最短径の比率により測定した値である。
【0033】
上記した充填材の中でも、特に球状のクリストバライトが望ましいものである。クリストバライトは通常破砕状のものしか得られないが、球状の溶融シリカを使用し、特開2008−162849号公報に従い製造することができる。本方法によれば、原料の溶融シリカの形状、粒度分布を維持したままクリストバライト化できる。
【0034】
シリカ系フィラーの添加量は、上記硬化性組成物100質量部に対して5〜150質量部であることが望ましく、より望ましくは10〜100質量部である。5質量部未満では十分な放熱効果がなく、150質量部を超えると粘度が高くなり、作業しづらいものとなるおそれがある。
【0035】
本発明の組成物は、LED素子封止用、特に青色LED、白色LED、紫外LED等の素子封止用として有用なものである。そのため、青色LEDを用いて白色化するために各種公知の蛍光体粉末を添加することができる。代表的な黄色蛍光体として、一般式A35012:M(式中、成分Aは、Y,Gd,Tb,La,Lu,Se及びSmからなるグループの少なくとも1つの元素を有し、成分Bは、Al,Ga及びInからなるグループの少なくとも一つの元素を有し、成分MはCe,Pr,Eu,Cr,Nd及びErからなるグループの少なくとも一つの元素を有する。)のガーネットのグループからなる蛍光体粒子を含有するのが特に有利である。青色光を放射する発光ダイオードチップを備えた白色光を放射する発光ダイオード素子用に蛍光体として、Y3Al512:Ce蛍光体及び/又は(Y,Gd,Tb)3(Al,Ga)512:Ce蛍光体が適している。その他の蛍光体として、例えば、CaGa24:Ce3+及びSrGa24:Ce3+、YAlO3:Ce3+、YGaO3:Ce3+、Y(Al,Ga)O3:Ce3+、Y2SiO5:Ce3+等が挙げられる。また、混合色光を作製するためには、これらの蛍光体の他に希土類でドープされたアルミン酸塩や希土類でドープされたオルトケイ酸塩などが適している。本発明の組成物にこの種の蛍光体を硬化性組成物100質量部に対して1〜50質量部配合することで青色を白色に変換できる。
【0036】
また、本発明に使用する封止樹脂組成物には、光半導体装置の性能を悪化させない範囲で、必要に応じて、例えば酸化防止剤としてBHT、ビタミンB等、公知の変色防止剤、例えば有機リン系変色防止剤等、ヒンダードアミンのような光劣化防止剤等、反応性希釈剤としてビニルエーテル類、ビニルアミド類、エポキシ樹脂、オキセタン類、アリルフタレート類、アジピン酸ビニル等、ヒュームドシリカや沈降性シリカ等の補強性充填材、難燃性向上剤、蛍光体、有機溶剤等を添加して封止樹脂組成物としてもよい。また、着色成分により着色しても構わない。
【0037】
本発明の封止樹脂組成物は、上述した各成分を均一に混合することによって調製されるが、通常は、硬化が進行しないように二液に分けて保存され、使用時に二液を混合して硬化を行う。もちろん、アセチレンアルコール等の反応抑制剤を添加して一液として用いることもできる。また、二液混合タイプでは(B)成分と(C)成分の同一配合は脱水素反応の危険性から避けることが好ましい。
【0038】
本発明の封止樹脂組成物は、光半導体素子の封止に用いられるもので、光半導体としては、これに限定されないが、例えば、発光ダイオード、フォトトランジスタ、フォトダイオード、CCD、太陽電池モジュール、EPROM、フォトカプラなどが挙げられ、特に発光ダイオードが有効に用いられる。
この場合、封止方法としては、光半導体の種類に応じた常法が採用されるが、本発明の封止樹脂組成物の硬化条件は、室温から200℃程度までの温度範囲で、数十秒から数日間程度の時間範囲とすることができるが、好ましくは80〜180℃の温度範囲で1分程度から10時間程度であることが好ましい。
【0039】
図1は、本発明の封止樹脂組成物で封止されたLED発光装置の一例を示し、1はLEDチップ、2は導電性ワイヤー、3は銀メッキリードフレーム、4は封止樹脂組成物の硬化物で、5はモールドパッケージ、6はシリカ系フィラー、7は蛍光体を示す。
【0040】
本発明の封止樹脂組成物の硬化物で光半導体素子が被覆保護された光半導体装置は、装置の耐熱、耐湿、耐光性に優れ、外部環境の影響により基板表面を変色することなく、その結果、信頼性に優れる光半導体装置を提供することが可能となり、産業上のメリットは多大である。
【実施例】
【0041】
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、各物性の測定法は下記の通りである。
粘度 :JIS K 6249に準じて測定した。
屈折率:Siウエハー上にシリコーン組成物をスピンコートして膜厚約10μmの皮膜を
作製し、150℃/4時間で硬化させた。この皮膜をメトリコン社製モデル名2
010プリズムカプラーにて屈折率を測定した。
【0042】
[調製例]
シリコーン組成物として、下記式(I)
【化3】

で表される末端ビニルジメチルジフェニルポリシロキサン(粘度3Pa・s)100質量部、及び下記式(II)
【化4】

で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(粘度15mPa・s)2.5質量部、塩化白金酸2−エチルヘキシルアルコール変性溶液(Pt濃度2質量%)0.03質量部、エチニルシクロヘキシルアルコール0.05質量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン7質量部をよく撹拌してシリコーン組成物を調製した。
このシリコーン組成物の硬化物の屈折率は1.51であった。
【0043】
[実施例1,2]
前記シリコーン組成物100質量部に、屈折率1.53のクリスタバライト粉(平均粒径5μm)30質量部とYAG(蛍光体)5質量部を分散させ、図1に示すLEDパッケージに封止したものを実施例1とした。同様に前記シリコーン組成物に前記クリスタバライト粉50質量部とYAG5質量部を分散させ、LEDパッケージに封止したものを実施例2とした。
【0044】
[実施例3,4]
前記シリコーン組成物100質量部に、屈折率1.53のクリスタバライト粉10質量部とYAG5質量部を分散させ、LEDパッケージに封止したものを実施例3とした。同様に前記シリコーン組成物に前記クリスタバライト粉80質量部とYAG5質量部を分散させ、LEDパッケージに封止したものを実施例4とした。
【0045】
[比較例1]
前記シリコーン組成物のみでLEDパッケージに封止したものを比較例1とした。
【0046】
[比較例2,3]
前記シリコーン組成物100質量部に、YAG5質量部と屈折率1.46の球状シリカフィラー10質量部、50質量部を分散させ、LEDパッケージに封止したものを比較例2,3とした。
【0047】
前記液状シリコーン組成物で封止したLEDパッケージを150℃×4時間の条件で本硬化させて、評価用発光ダイオードを作製した。この評価サンプルを85℃/60%RHの高温高湿下に168時間放置した後、260℃IRリフローに3回通して、硬化樹脂の剥離、割れ等の不良発生を顕微鏡観察した。更にこの中より剥離やクラックのない10個につき120mA通電試験による点灯試験を実施した。一般にLEDの発熱と放熱を測定する方法としてLEDチップPNジャンクションの温度Tjが製品の特性として規定されている。この温度が低いほど放熱が優れていることが確認できる。そこで通電時のジャンクションの温度TjをLED熱抵抗測定装置((株)日立ハイテク製)にて測定した。続いて点灯試験後のLEDに−40℃/30分〜120℃/30分の熱衝撃試験500サイクルを実施し、前述と同様に樹脂の剥離、割れ等の不良発生を顕微鏡観察した。更に2%硫化水素中雰囲気に48時間放置し、パッケージの銀メッキ部分の変色を顕微鏡にて確認した。
表面埃付着の評価法(表面のタック感):
上記のように硬化させた硬化物表面のタック性を指触にて確認した。更に、市販の銀粉(平均粒径5μm)中に硬化物を置き、取り出し後、エアーを吹き付けて表面に埃のように付着した銀粉が取れるか試験した。
【0048】
実施例1〜4では、吸湿リフロー試験及び熱衝撃試験において樹脂の剥離、割れ等の不良は全く無く、LEDの不点灯不良も発生しなかった。しかし、比較例1では吸湿リフロー試験において、樹脂の割れが発生してしまった。比較例2,3の場合では、樹脂の割れは発生しなかったが、樹脂の剥離が発生してしまった。その結果、一部のLEDで不点灯不良が発生した。
【0049】
【表1】

【符号の説明】
【0050】
1 LEDチップ
2 導電性ワイヤー
3 銀メッキリードフレーム
4 封止樹脂組成物の硬化物
5 モールドパッケージ
6 シリカ系フィラー
7 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂組成物に、この硬化性樹脂組成物の硬化物との屈折率の差が±0.03であり、且つ熱伝導率が0.5W/m・K以上のシリカ系フィラーを配合してなることを特徴とする光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項2】
更に、蛍光体を含有する請求項1記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項3】
シリカ系フィラーの含有量が、硬化性樹脂組成物100質量部に対して5〜150質量部である請求項1又は2記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項4】
シリカ系フィラーの屈折率が1.45〜1.55である請求項1〜3のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項5】
シリカ系フィラーがクリスタバライト構造を有する請求項1〜4のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項6】
クリスタバライト構造を有するシリカ系フィラーが粒度0.01〜75μm、球形度0.8〜1.0である請求項5記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項7】
硬化性樹脂組成物が硬化性シリコーンゴム組成物である請求項1〜6のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項8】
硬化性シリコーンゴム組成物が付加硬化型シリコーンゴム組成物である請求項7記載の光半導体素子封止用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の光半導体素子封止用樹脂組成物の硬化物にて光半導体素子が封止された光半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−144360(P2011−144360A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273206(P2010−273206)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】