説明

光吸収性介在物及びこれを含有する接着剤

【課題】溶着で溶着部分の強度低下をもたらさない光吸収性介在物、接着で接着構造体のそり変形や内部歪の発生を抑制する接着剤、それらを用いた溶着・接着方法、及び溶着・接着構造体を提供すること。
【解決手段】少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材21、22を重ね合わせた状態で、光透過性を有する樹脂部材21の表面からレーザ光3を照射して重ね合わせ部分を溶着させる際に、樹脂部材21、22の重ね合わせ部分に介在させる光吸収性介在物1である。光吸収性介在物1は、近赤外線レーザ光3を吸収して発熱する光吸収性物質と、光吸収性物質が発熱した際に帯電及び凝集することを防止する帯電・凝集防止物質とを含有している。光吸収性物質の含有量は質量比にて20%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線レーザ光による溶着あるいは接着に使用される、光吸収性介在物及び該光吸収性介在物を含有する接着剤、また、それらを用いた溶着・接着方法、該溶着・接着方法により作製される溶着・接着構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接合方法として、熱風炉等の熱源を用いて、接着剤を加熱硬化あるいは溶融固着させて接着する接着剤接合という技術が報告されている。この接着剤接合では、熱風炉等の熱源を用いるため、コストが高く、エネルギーの消費が大きくなる。
また、樹脂材料の接合に該接着剤接合を用いる場合には、対象物にそり変形や、内部歪が生じる等の問題がある。
【0003】
そこで、接着剤接合の代替接合手段として、樹脂部品のレーザ溶着技術が挙げられる。この技術は、低コスト、省エネルギーの観点から、優れた接合方法であり、近年、車載部品等の高信頼性を要求される接合にも適用されている。
しかしながら、従来のレーザ溶着技術は、樹脂材料の光透過・吸収特性に依存するため、溶着する樹脂材料の一方は光透過性を有し、もう一方は光透過性を有していないことが必須である。また、上記レーザ溶着技術は、異種材料溶着時の相溶性等に依存するため、生じる溶着部の機械的強度不足や樹脂部品の寸法公差や、そり変形で生じる継手部の隙間により溶着ができない場合が生じる。このように、レーザ溶着技術を適用する場合には、接着可能な樹脂材料の組み合わせ等に多くの制約があるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−250621号公報
【特許文献2】特開2005−187798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、溶着で溶着部分の強度低下をもたらさない光吸収性介在物、接着で接着構造体のそり変形や内部歪の発生を抑制する接着剤、それらを用いた溶着・接着方法、及び溶着・接着構造体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面からレーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させる際に、上記樹脂部材の重ね合わせ部分に介在させる光吸収性介在物であって、
該光吸収性介在物は、近赤外線レーザ光を吸収して発熱する光吸収性物質と、該光吸収性物質が発熱した際に帯電及び凝集することを防止する帯電・凝集防止物質とを含有しており、
上記光吸収性物質の含有量は質量比にて20%以上であることを特徴とする光吸収性介在物にある(請求項1)。
【0007】
上記光吸収性介在物は、まず、上記光吸収性物質を含有するため、近赤外線レーザ光を吸収すると発熱する。
そのため、少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を、上記光吸収性介在物を介在して重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面から近赤外線レーザ光を照射すると、重ね合わせ部分で上記光吸収性介在物が近赤外線レーザ光を吸収し発熱源として機能し、上記樹脂部材の溶着を誘発することができる。
また、上記光吸収性介在物は、上記帯電・凝集防止物質を含有する。これにより、上記光吸収性介在物は、樹脂材料の溶融層に分散固溶するため、樹脂溶着終了後に溶着部の強度に悪影響を与えない。
【0008】
また、上記光吸収性介在物は、上記光吸収性物質を質量比にて20%以上含有する。
そのため、近赤外線レーザ光の吸収による発熱を効率よく得ることができる。なお、上記光吸収性介在物の含有量の上限は、レーザ溶着部への分散性の確保という理由により60%以下とすることが好ましい。また、上記光吸収性介在物に含有させる帯電・凝集防止物質としては、上記光吸収性物質の含有量を確保できる範囲であれば特に問題はない。
【0009】
第2の発明は、少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面からレーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させる溶着方法において、
上記樹脂部材の重ね合わせ部分に、第1の発明の光吸収性介在物を介在させ、
光透過性を有する上記樹脂部材の表面から上記光吸収性介在物に近赤外線レーザ光の照射を行うことを特徴とする溶着方法にある(請求項5)。
【0010】
上記接着方法は、第1の発明の光吸収性介在物を用いたうえで上記近赤外線レーザ光を上記光吸収性介在物に照射することにより、少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を溶着することができる。
すなわち、上記溶着方法は、上記2つの樹脂部材を、上記光吸収性介在物を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面から近赤外線レーザ光の照射を行うと、上記重ね合わせ部分で、上記光吸収性介在物中の光吸収性物質が発熱を起こすため、上記樹脂部材を溶着することができる。
【0011】
また、上記光吸収性介在物は、上記のごとく、帯電・凝集防止物質を含有しているため、溶着時に樹脂材料の溶融層に分散固溶し、樹脂溶着終了後に溶着部の強度に影響を与えない。そのため、溶着部の強度を保つことができる溶着構造体を形成することができる。
また、上記接着方法は、光透過性を有する上記部材の表面から近赤外線レーザ光を上記光吸収性介在物に照射する。そのため、省エネルギーや、コストの観点から優れている。
【0012】
第3の発明は、少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面からレーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させてなる溶着部を有する溶着構造体において、
上記溶着部は、上記樹脂部材の重ね合わせ部分に、第1の発明の光吸収性介在物を介在させ、光透過性を有する上記樹脂部材の表面から上記光吸収性介在物に近赤外線レーザ光の照射を行うことにより形成してあることを特徴とする溶着構造体にある(請求項7)。
【0013】
上記溶着構造体は、少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を第1の発明の光吸収性介在物を介在させた状態で重ね合わせ、その後、光透過を有する上記樹脂部材の表面から近赤外線レーザ光の照射を行い、上記光吸収性介在物中の光吸収性物質を発熱源として重ね合わせ部分の溶着を誘起することで、上記樹脂材料を溶着して形成してある。
また、上記光吸収性介在物は、上記帯電・凝集防止物質を含有しているため、溶着時に樹脂材料の溶融層に分散固溶し、樹脂材料の溶着部の強度に影響を与えることがない。そのため、上記溶着構造体は、上記溶着部の強度を保つことができる。
【0014】
第4の発明は、ホットメルト型接着剤成分と、第1の発明の光吸収性介在物とを含有していることを特徴とする接着剤にある(請求項9)。
【0015】
上記接着剤は、ホットメルト型接着剤成分と、第1の発明の光吸収性介在物とを含有しているため、光を吸収すると、上記光吸収性介在物中の光吸収性物質が発熱し、その熱によってホットメルト型接着剤成分が溶融固化する。そのため、熱風炉などの熱源を用いなくても、近赤外線レーザ光の照射によって、上記接着剤の溶融固化を引き起こすことができる。
また、上記近赤外線レーザ光を用いて、局所的な加熱を行い、上記接着剤を溶融固化して接着層を形成することで、形成される接着構造体のそり変形や内部歪の発生を抑制し、2つの部材の接着を行うことができる。
【0016】
また、上記接着剤に含まれる上記光吸収性介在物には、上記帯電・凝集防止物質が含まれている。そのため、樹脂であるホットメルト型接着剤成分中において、上記光吸収性介在物が分散固溶するため、上記接着層の強度に影響を与えることがない。そのため、接着終了後に接着層の強度を保つことができる。
【0017】
第5の発明は、熱硬化型エポキシ接着剤成分と、第1の発明の光吸収性介在物とを含有していることを特徴とする接着剤にある(請求項11)。
【0018】
上記接着剤は、熱硬化型エポキシ接着剤成分と、第1の発明の光吸収性介在物とを含有しているため、光を吸収すると、上記光吸収性介在物中の上記光吸収性物質が近赤外線レーザ光を吸収して発熱し、その熱によって熱硬化型エポキシ接着剤成分が加熱硬化する。そのため、熱風炉などの熱源を用いなくても、近赤外線レーザ光の照射によって、上記接着剤の加熱硬化を引き起こすことができる。
また、上記近赤外線レーザ光を用いて、局所的な加熱を行い、上記接着剤を加熱硬化し、接着層を形成することで、上記2つの部材を、そり変形や内部歪の発生を抑制して接着することができる。
【0019】
また、上記接着剤に含まれる上記光吸収性介在物には、上記帯電・凝集防止物質が含まれている。そのため、樹脂である熱硬化型エポキシ接着剤成分中において、上記光吸収性介在物が分散固溶するため、上記接着層の強度に影響を与えることがない。そのため、接着終了後に接着層の強度を保つことができる。
【0020】
第6の発明は、少なくとも一方が光透過性を有する材料よりなる2つの部材を、接着剤を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記部材の表面からレーザ光を上記接着剤に照射して接着を接着方法において、
上記部材の重ね合わせ部分に、第4の発明又は第5の発明の接着剤を介在させ、
光透過性を有する上記部材の表面から上記接着剤に近赤外線レーザ光の照射を行うことを特徴とする接着方法にある(請求項13)。
【0021】
上記接着方法は、第4の発明又は第5の発明の接着剤を用いたうえで近赤外線レーザ光を照射することにより、少なくとも一方が光透過性を有する材料よりなる2つの部材を接着することができる。
すなわち、上記接着方法は、少なくとも一方が光透過性を有する材料よりなる2つの部材を、接着剤を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記部材の表面から近赤外線レーザ光の照射を行う。そのため、熱風炉などの熱源を用いることなく、上記接着剤を溶融固化あるいは加熱硬化し、接着層を形成することができるため、そり変形や内部歪の発生が抑制された接着構造体を形成することができる。また、上記近赤外線レーザ光の照射を用いるため、省エネルギーや、コストの観点から優れている。
【0022】
第7の発明は、少なくとも一方が光透過性を有する材料よりなる2つの部材を、接着剤を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記部材の表面からレーザ光を上記接着剤に照射して接着させてなる接着部を有する接着構造体において、
上記接着部は、上記部材の重ね合わせ部分に、第4の発明又は第5の発明の接着剤を介在させ、光透過性を有する上記部材の表面から上記接着剤に近赤外線レーザ光の照射を行うことにより形成してあることを特徴とする接着構造体にある(請求項15)。
【0023】
上記接着構造体は、上記2つの部材を、第4の発明又は第5の発明の接着剤を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記部材の表面から近赤外線レーザ光を照射することによって、上記接着剤が溶融固化あるいは加熱硬化して接着層を形成し、該接着層が上記2つの部材を接着することで形成される。
また、上記接着剤の溶融固化あるいは加熱硬化には、近赤外線レーザ光の照射が用いられ、局所的な加熱により接着層を形成できるため、上記接着構造体はそり変形や内部歪の発生がなく形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1の発明の光吸収性介在物中に含有される、上記光吸収性物質は、ニグロシン系化合物であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、近赤外線レーザ光の照射により、上記樹脂材料の溶着を誘発するという効果を得ることができる。ニグロシン系化合物としては、例えば、ニグロシンの硫酸、又は、リン酸による塩である水不溶性化合物等がある。
なお、上記光吸収性物質は、ニグロシン系化合物以外のものであってもよく、例えば、
カーボンブラック、黒色含金塗料、アジン系染料等が挙げられる。
【0025】
また、上記帯電・凝集防止物質は、アルキルエーテルであることが好ましい(請求項3)。
光吸収性介在物を部材の片方または両方の溶着界面に均一に塗布するため、溶媒を用いて液状化して塗布し、乾燥後、近赤外線レーザ光を用いて溶着することが望ましい。この場合には、液状であるアルキルエーテルを用いるため、上記光吸収性介在物中における光吸収性物質の分散性向上や、溶融固着部位への均一分散をもたらす効果を得ることができる。なお、上記帯電・凝集防止物質は、アルキルエーテル以外のものであってもよく、例えば、一般的な界面活性剤、スチレン−アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0026】
また、上記光吸収性介在物は、上記光吸収性物質と、上記帯電・凝集防止物質とをイソプロピルアルコールにて希釈して液状としてあることが好ましい(請求項4)。
この場合には、液状であることの特性を生かして、均一な塗布を行うことができる。
【0027】
また、第2の発明又は第3の発明において、上記樹脂部材は、2つとも光透過性を有する樹脂材料であることが好ましい(請求項6、8)。
近赤外線レーザ光は光透過性を有する樹脂材料を透過するため、従来は、近赤外線レーザ光を用いて光透過性を有する樹脂材料同士を溶着することは困難であった。
これに対し、本発明では、樹脂材料が2つとも光透過性であっても、上記樹脂材料の重ね合わせ部分に上記光吸収性介在物を介在させることにより、近赤外線レーザ光を照射すると、上記光吸収性介在物がレーザ光を吸収することにより発熱し、光透過性の樹脂材料同士の溶着を誘発するため、溶着構造体を得ることができる。
具体的な樹脂材料としては、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ポリカーボネート、ポリアミド等が挙げられる。
【0028】
また、上記第4の発明の接着剤は、上述したごとく、ホットメルト型接着剤成分と、第1の発明の光吸収性介在物とを含有している。
そのため、上記接着剤に近赤外線レーザ光を照射すると、上記第1の発明の光吸収性介在物中の光吸収性物質が発熱することにより、上記接着剤が溶融固化し、接着層を形成することにより、部材を接着することができる。
上記ホットメルト型接着成分としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、スチレン系共重合体等が挙げられる。
【0029】
上記光吸収性介在物の含有量は、照射する近赤外線レーザ光のエネルギーが0.3〜0.8J/mm2の範囲にある場合に、上記ホットメルト型接着剤成分の溶融に必要な発熱量を確保しうる量とすることが好ましい(請求項10)。
この場合には、近赤外線レーザ光の照射により上記ホットメルト型接着剤成分の適正な溶融固化を得ることができる。
また、上記近赤外線レーザ光のエネルギーが0.3J/mm2未満の場合には、近赤外線レーザ光の発光源の出力制御性に由来した不安定な照射となる問題があり、一方、上記エネルギーが0.8J/mm2を超える場合には、部材への熱的影響、局所的な異常発熱によるホットメルトの変質という問題がある。
【0030】
また、第5の発明の上記接着剤は、上述したごとく、熱硬化型エポキシ接着剤成分と、第1の発明の光吸収性介在物とを含有している。
そのため、上記接着剤に近赤外線レーザ光を照射すると、上記第1の発明の光吸収性介在物中の光吸収性物質が発熱することにより、上記接着剤が加熱硬化し、接着層を形成することにより、上記部材を接着することができる。
また、上記熱硬化型エポキシ接着剤成分としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、可撓性エポキシ等が挙げられる。
【0031】
上記光吸収性介在物の含有量は、照射する近赤外線レーザ光のエネルギーが0.3〜0.8J/mm2の範囲にある場合に、上記熱硬化エポキシ接着剤成分の硬化に必要な発熱量を確保しうる量とすることが好ましい(請求項12)。
この場合には、近赤外線レーザ光の照射により上記熱硬化型エポキシ接着剤成分の適正な加熱硬化を得ることができる。
また、上記近赤外線レーザ光のエネルギーが0.3J/mm2未満の場合には、近赤外線レーザ光の発光源の出力制御性に由来した不安定な照射となる問題があり、一方、上記エネルギーが0.8J/mm2を超える場合には、部材への熱的影響、局所的な異常発熱によるエポキシの変質やボイド発生という問題がある。
【0032】
第6の発明又は第7の発明において、上記部材は、2つとも光透過性を有する材料よりなることが好ましい(請求項14、16)。
上記材料が2つとも光透過性である場合には、上記材料の重ね合わせ部分に上記接着剤を介在させることにより、近赤外線レーザ光を照射した際に、上記光吸収性介在物中の光吸収性物質がレーザ光を吸収することにより発熱し、上記接着剤が溶融固化あるいは加熱硬化し接着層を形成するため、接着構造体を得ることができる。
なお、上記第4、第5の発明における上記部材は、樹脂材料同士に限らず、異種材料同士でも良い。上記部材としては、樹脂材料以外では、例えば、ガラス等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
本発明の光吸収性介在物及びこれを用いた溶着方法並びに溶着構造体にかかる実施例について、図1、図2を用いて説明する。
本例の光吸収性介在物は、光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材21、22を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材21の表面から近赤外線レーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させる際に、上記樹脂部材の重ね合わせ部分に介在させる光吸収性介在物である。
光吸収性介在物1は、近赤外線レーザ光を吸収して発熱する光吸収性物質と、該光吸収性物質が発熱した際に帯電及び凝集することを防止する帯電・凝集防止物質とを含有しており、上記光吸収性物質の含有量は質量比にて20%以上である。
以下、これを詳説する。
【0034】
光吸収性介在物1は、上記光吸収性物質として、ニグロシン系化合物の1種であるニグロシンの硫酸塩を含有していると共に、上記帯電・凝集防止物質として、アルキルエステル系化合物の1種であるポリエチレングリコールアルキルエーテルを含有している。これらの含有量は、光吸収性物質と、帯電・凝集防止物質との合計量を100%(質量%、以下同様)として、光吸収性物質が50%、残部の50%が帯電・凝集防止物質等である。なお、光吸収性物質の配合比は、20%〜60%の範囲で変更することが可能である。
このような光吸収性物質と帯電・凝集防止物質とを混合して含有している光吸収性介在物1を実際に使用するに当たって、本例ではイソプロピルアルコールで希釈し、液体化したものを用いた。希釈の割合は、20〜30重量%とした。なお、希釈の割合は、適度に液体化する程度でよく、特に限定されるものではない。
【0035】
次に、希釈した光吸収性介在物を用いて、上記2つの樹脂部材21、22の溶着を行った。
図1に示すように、光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材21、22を重ね合わせた状態で、上記2つの樹脂部材21、22の重ね合わせ部分に光吸収性介在物を介在させ、上記樹脂部材21の表面から近赤外線レーザ光3を上記光吸収性介在物1に照射して重ね合わせ部分の溶着をおこなった。
【0036】
上記樹脂部材21としては、光透過率27%のPPS樹脂(ポリプラ製1160A)、幅10mm、長さ100mm、厚さ1mmの光透過性試験片を用いた。また、上記樹脂部材22としては、上記樹脂部材21と同一の材料を用いた。
上記樹脂部材21及び上記樹脂部材22の接合すべき接合面に、上記光吸収性介在物1を刷毛又はディスペンサにより幅5mm、厚さ10〜40μm塗布し、自然乾燥した。その後、上記樹脂部材21と上記樹脂部材22とを、上記光吸収性介在物1が塗布された接合面が対面するように重ね合わせた。図1においては、両者の間の隙間を強調して示している(以下、図4〜6においても同様である)。
【0037】
この状態において、上記樹脂部材21の表面側からこれを透過するように、レーザヘッド31から近赤外線レーザ光3を照射した。近赤外線レーザ光3は、波長920nm、レーザ出力70mW、ビーム速度10mm/sとした。近赤外線レーザ光3の照射により、上記光吸収性介在物1が発熱し、その熱によって、上記樹脂部材21と上記樹脂部材22とが溶着接合した。
【0038】
図2に示すごとく、得られた溶着構造体20は、光吸収性介在物を介在させていた位置に溶着部25が形成され、強固な接合状態が得られた。また、上記光吸収性介在物1には、上記帯電・凝集防止物質が含有されているので、光吸収性物質が凝集して偏った状態になることを防ぎ、健全な溶着部25が形成されていた。
【0039】
(実施例2)
本例は、本発明のホットメルト型の接着剤及びこれを用いた接着方法並びに接着構造体にかかる実施例について、図3を用いて説明する。
本例の接着剤11は、ホットメルト型接着剤成分と、光吸収性介在物とを含有している。
以下、これを詳説する。
【0040】
接着剤11は、上記ホットメルト型接着剤成分として、スチレン系ホットメルト材料であるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有していると共に、上記光吸収性介在物として、上記実施例1と同一の光吸収性介在物1を含有している。
これらの配合比は、ホットメルト型接着剤成分と光吸収性介在物1との合計量を100%とすると、上記ホットメルト型接着剤が95%、残部の5%が光吸収性介在物1とした。なお、光吸収性介在物の含有量は1〜10%の範囲で増減させることができる。
【0041】
次に、上記接着剤11を用いて、光透過性を有する樹脂材料よりなる回路保護用のラミネートフィルム51と上記電子回路基板52との接着を行った。
即ち、図3に示すように、上記ラミネートフィルム51と電子回路基板52との重ね合わせ部分に上記接着剤11を介在させ、上記ラミネートフィルム51の表面から近赤外線レーザ光3を上記接着剤11に照射して重ね合わせ部分の接着を行った。
【0042】
上記ラミネートフィルム51としては、PET(ポリエチレンテレフタレート、東レ製ルミラー)を用いた。
また、上記電子回路基板52は、基材としてフレキシブルフィルムを用いた。
上記ラミネートフィルム51と上記電子回路基板52とを重ね合わせ、接合すべき接合部分53内に、上記接着剤11を差し込んだ。
【0043】
この状態において、光透過性を有する樹脂材料よりなる上記ラミネートフィルム51の表面側から、これを透過するように、レーザヘッド31から近赤外線レーザ光3を照射した。該近赤外線レーザ光は、上記実施例1と同一のものを使用した。この場合の近赤外線レーザ光のエネルギーは0.3J/mm2である。
近赤外線レーザ光3の照射により、上記光吸収性介在物が発熱し、その熱によって上記接着剤11が溶融固化して接着層を形成し、ラミネートフィルム51と電子回路基板52とが接着した。
【0044】
得られた接着構造体は、接着剤11を介在させていた位置に接着層が形成され、強固な接合状態が得られた。また、上記接着剤11中に含有される光吸収性介在物1には、帯電・凝集防止物質が含有されているので、光吸収性物質が偏った状態になることを防ぎ、健全な接着層が形成されていた。
【0045】
(実施例3)
本例は、本発明の熱硬化型の接着剤及びこれを用いた接着方法並びに接着構造体にかかる実施例について、図4を用いて説明する。
本例の接着剤12は、熱硬化型エポキシ接着剤成分と、光吸収性介在物とを含有している。
以下、これを詳説する。
【0046】
接着剤11は、熱硬化型エポキシ接着剤成分として、ビスフェノールAを含有していると共に、光吸収性介在物として上記実施例1と同一の光吸収性介在物1を含有している。
これらの配合比は、熱硬化型エポキシ接着剤成分と光吸収性介在物1との合計量を100%とすると、上記熱硬化型エポキシ接着剤が95%、残部の上記接着剤において、上記光吸収性介在物1の含有量は5%である。なお、光吸収性介在物1の含有量は0.5〜10%の範囲で増減させることができる。
【0047】
次に、上記接着剤12を用いて、サイトガラス61と金属容器62との接着を行った。
即ち、図4に示すように、サイトガラス61と金属容器62とを、上記接着剤12を介在させて重ね合わせた状態で、上記サイトガラス61の表面から近赤外線レーザ光3を上記接着剤12に照射して重ね合わせ部分の接着を行った。
【0048】
上記サイトガラス61としては、硼珪酸ガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)を用いた。
また、上記金属容器62は、42アロイを用いた。該金属容器は円筒状、または矩形筒状金属容器の底面中央部を窓あけしてある。
金属容器62のサイトガラス61と接合すべき接合面に、ディスペンサを用いて上記接着剤12を塗布し、サイトガラス61を載置した。
【0049】
この状態において、上記光透過性を有するサイトガラス61の表面側から、これを透過するように、レーザヘッド31から近赤外線レーザ光3を照射した。該近赤外線レーザ光は、上記実施例1と同一のものを使用した。この場合の近赤外線レーザ光のエネルギーは
0.6J/mm2である。
近赤外線レーザ光3の照射により、上記光吸収性介在物1中の光吸収性物質が発熱し、その熱によって上記接着剤12が加熱硬化して接着層を形成し、サイトガラス61と金属容器62とが接着した。
【0050】
得られた接着構造体は、接着剤12を介在させていた位置に接着層が形成され、強固な接合状態が得られた。また、上記接着剤12中に含有される光吸収性介在物1には、帯電・凝集防止物質が含有されているので、光吸収性物質が偏った状態になることを防ぎ、健全な接着層が形成されていた。
【0051】
(実施例4)
本例は、本発明の熱硬化型の接着剤及びこれを用いた接着方法並びに接着構造体にかかる実施例について、図5を用いて説明する。
本例の接着剤12としては、上記実施例3と同一のものを用いる。
【0052】
次に、上記接着剤12を用いて、上記光透過樹脂71と上記樹脂容器72との接着を行った。
即ち、図5に示すように、上記光透過樹脂71と上記樹脂容器72とを、上記接着剤12を介在させて重ね合わせた状態で、上記光透過樹脂71の表面から近赤外線レーザ光3を上記接着剤12に照射して重ね合わせ部分の接着を行った。
【0053】
上記光透過樹脂71としては、PPSを用いた。
また、上記樹脂容器72は、PPSを用いた。
上記樹脂容器72の上記光透過樹脂71と接合すべき部分に、ディスペンサを用いて上記接着剤12を塗布し、上記光透過樹脂71を載置した。
【0054】
この状態において、上記光透過樹脂71の表面側から、これを透過するように、レーザヘッド31から近赤外線レーザ光3を照射した。該近赤外線レーザ光は、上記実施例1と同一のものを使用した。この場合の近赤外線レーザ光のエネルギーは0.6J/mm2である。
近赤外線レーザ光3の照射により、上記光吸収性介在物1中の光吸収性物質が発熱し、その熱によって上記接着剤12が加熱硬化して接着層を形成し、上記光透過樹脂71と上記樹脂容器72とが接着した。
【0055】
得られた接着構造体は、上記実施例3と同様に、接着剤12を介在させていた位置に健全な接着層が形成され、強固な接合状態が得られた。
本例で得られる接着構造体は、例えば半導体部品などを収容する密封構造の樹脂容器として用いられる。熱硬化型の接着剤封じを行う場合には、接着剤の加熱硬化時に、内圧上昇によって接着層の穴あき等、封止不良を引き起こす場合がある。そのため、従来は、ふたに通気穴を設けることにより内圧上昇を回避し、接着剤の加熱硬化後に、局所過熱を行って通気穴を閉じる必要があった。本例では、レーザ光の使用により通気穴を設けることなく内圧上昇を回避できるため、工程の簡略化ができた。
【0056】
(実施例5)
本例は、図6に示すように、上記実施例2と同様の接着剤11を用いて、電解コンデンサ等のディスクリート電子部品81を、車載用電子部品の回路基板82に固定する例である。
はんだ付け部83にはんだ付けを施して、上記ディスクリート電子部品81と上記回路基板82とを固定した状態で、上記ディスクリート電子部品81と上記回路基板82との隙間を埋めるように上記接着剤11を介在させた。そして、赤外線レーザ光3を接着剤11に照射して、上記ディスクリート電子部品81と回路基板82とを接着することにより固定した。
【0057】
上記ディスクリート電子部品81の外周部を構成する材料は、エポキシモールド樹脂
である。
また、上記回路基板82を構成する材料は、ガラスエポキシである。
【0058】
上記接着剤11の表面側から、レーザヘッド31から照射した近赤外線レーザ光3は、上記実施例1と同一のものを使用した。この場合の近赤外線レーザ光のエネルギーは0.5J/mm2である。
近赤外線レーザ光3の照射により、上記光吸収性介在物1中の光吸収性物質が発熱し、その熱によって上記接着剤11が加熱硬化して接着層を形成し、上記ディスクリート電子部品81と回路基板82とが接着し、固着固定できた。
【0059】
得られた接着構造体は、上記実施例2と同様に、接着剤11を介在させていた位置に健全な接着層が形成され、強固な接合状態が得られた。
本例では、重ね合わせ接合でなく、微小部位の固着固定を行う例であるが、これを高精度に行うことが可能であり、高品質の部品を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1における溶着方法を示す説明図。
【図2】実施例1においる溶着構造体を示す説明図。
【図3】実施例2における接着方法を示す説明図。
【図4】実施例3における接着方法を示す説明図。
【図5】実施例4における接着方法を示す説明図。
【図6】実施例5における接着方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0061】
1 光吸収性介在物
21 樹脂部材
22 樹脂部材
3 近赤外線レーザ光
31 レーザヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面からレーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させる際に、上記樹脂部材の重ね合わせ部分に介在させる光吸収性介在物であって、
該光吸収性介在物は、近赤外線レーザ光を吸収して発熱する光吸収性物質と、該光吸収性物質が発熱した際に帯電及び凝集することを防止する帯電・凝集防止物質とを含有しており、
上記光吸収性物質の含有量は質量比にて20%以上であることを特徴とする光吸収性介在物。
【請求項2】
請求項1において、上記光吸収性物質は、ニグロシン系化合物であることを特徴とする光吸収性介在物。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記帯電・凝集防止物質は、アルキルエーテルであることを特徴とする光吸収性介在物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記光吸収性介在物は、上記光吸収性物質と、上記帯電・凝集防止物質とをイソプロピルアルコールにて希釈して液状としてあることを特徴とする光吸収性介在物。
【請求項5】
少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面からレーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させる溶着方法において、
上記樹脂部材の重ね合わせ部分に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光吸収性介在物を介在させ、
光透過性を有する上記樹脂部材の表面から上記光吸収性介在物に近赤外線レーザ光の照射を行うことを特徴とする溶着方法。
【請求項6】
請求項5において、上記樹脂部材は、2つとも光透過性を有する樹脂材料よりなることを特徴とする溶着方法。
【請求項7】
少なくとも一方が光透過性を有する樹脂材料よりなる2つの樹脂部材を重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記樹脂部材の表面からレーザ光を照射して重ね合わせ部分を溶着させてなる溶着部を有する溶着構造体において、
上記溶着部は、上記樹脂部材の重ね合わせ部分に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光吸収性介在物を介在させ、光透過性を有する上記樹脂部材の表面から上記光吸収性介在物に近赤外線レーザ光の照射を行うことにより形成してあることを特徴とする溶着構造体。
【請求項8】
請求項7において、上記樹脂部材は、2つとも光透過性を有する樹脂材料よりなることを特徴とする溶着構造体。
【請求項9】
ホットメルト型接着剤成分と、請求項1〜4に記載の光吸収性介在物とを含有していることを特徴とする接着剤。
【請求項10】
請求項9において、上記光吸収性介在物の含有量は、照射する近赤外線レーザ光のエネルギーが0.3〜0.8J/mm2の範囲にある場合に、上記ホットメルト型接着剤成分の溶融に必要な発熱量を確保しうる量とすることを特徴とする接着剤。
【請求項11】
熱硬化型エポキシ接着剤成分と、請求項1〜4に記載の光吸収性介在物とを含有していることを特徴とする接着剤。
【請求項12】
請求項11において、上記光吸収性介在物の含有量は、照射する近赤外線レーザ光のエネルギーが0.3〜0.8J/mm2の範囲にある場合に、上記熱硬化型エポキシ接着剤成分の硬化に必要な発熱量を確保しうる量とすることを特徴とする接着剤。
【請求項13】
少なくとも一方が光透過性を有する材料よりなる2つの部材を、接着剤を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記部材の表面からレーザ光を上記接着剤に照射して接着を行う接着方法において、
上記部材の重ね合わせ部分に、請求項9〜12のいずれか1項に記載の接着剤を介在させ、
光透過性を有する上記部材の表面から上記接着剤に近赤外線レーザ光の照射を行うことを特徴とする接着方法。
【請求項14】
請求項13において、上記部材は、2つとも光透過性を有する材料よりなることを特徴とする接着方法。
【請求項15】
少なくとも一方が光透過性を有する材料よりなる2つの部材を、接着剤を介在させて重ね合わせた状態で、光透過性を有する上記部材の表面からレーザ光を上記接着剤に照射して接着させてなる接着部を有する接着構造体において、
上記接着部は、上記部材の重ね合わせ部分に、請求項9〜12のいずれか1項に記載の接着剤を介在させ、光透過性を有する上記部材の表面から上記接着剤に近赤外線レーザ光の照射を行うことにより形成してあることを特徴とする接着構造体。
【請求項16】
請求項15において、上記部材は、2つとも光透過性を有する樹脂材料よりなることを特徴とする接着構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−231088(P2007−231088A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52589(P2006−52589)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】