光変調器
【課題】光変調特性が高性能であるとともに、光の挿入損失について改善された光変調器を提供する。
【解決手段】光導波路と、高周波電気信号を印加するための進行波電極と、光にバイアス電圧を印加するためのバイアス電極と、進行波電極に高周波電気信号を印加することにより光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とを具備し、高周波電気信号用相互作用部とバイアス用相互作用部の両方にリッジ部を具備する光変調器において、バイアス用相互作用部に形成されたリッジ部の頂面における相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、高周波電気信号用相互作用部に形成されたリッジ部の頂面における相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きく形成され、バイアス用相互作用部における光の伝搬損失を低減する。
【解決手段】光導波路と、高周波電気信号を印加するための進行波電極と、光にバイアス電圧を印加するためのバイアス電極と、進行波電極に高周波電気信号を印加することにより光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とを具備し、高周波電気信号用相互作用部とバイアス用相互作用部の両方にリッジ部を具備する光変調器において、バイアス用相互作用部に形成されたリッジ部の頂面における相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、高周波電気信号用相互作用部に形成されたリッジ部の頂面における相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きく形成され、バイアス用相互作用部における光の伝搬損失を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用して、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射し、光の挿入損失が小さな光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成した、いわゆるリッジ型LN光変調器を第1の従来技術の光変調器として図9にその概略斜視図を示す。ここで、図10は図9の概略上面図であり、図11は図9と図10のA−A´線における概略断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3a、3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に導電層5を介して進行波電極4が形成されている。導電層5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いる。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は貴金属材料であるAuにより形成されている。中心導体4aは各種の値をとるが、多くの場合7μm程度であり、中心導体4aと接地導体4b、4cの間のギャップも各種の値をとるが、15μm程度であることが多い。なお、説明を簡単にするために、図9では図示した温度ドリフト抑圧のためのSi導電層5を図10や図11においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。6は高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の給電線であり、高周波コネクタやマイクロ波線路である。7は高周波電気信号の出力線路であり、通常電気的終端が使われるが、高周波コネクタやマイクロ波線路でも良い。
【0008】
また、図10のIとして示された領域では、中心導体4aと接地導体4b、4cとを伝搬する高周波電気信号と2本の相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが相互作用するので、高周波電気信号用相互作用部(あるいは簡単に相互作用部)と呼ばれる。
【0009】
この第1の従来技術では、z−カットLN基板1をエッチングなどで掘り込むことにより、凹部9a、9b、及び9c(あるいは、リッジ部8a、8bとも言える)を形成している。ここで、12はリッジ部(ここでは8a)の側壁である。
【0010】
このリッジ構造をとることにより、高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の実効屈折率(あるいは、マイクロ波実効屈折率)、特性インピーダンス、変調帯域、駆動電圧などにおいて優れた特性を実現することができる。なお、図11では凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)を強調して描いているが、実際には数μm程度の深さであり、中心導体4aや接地導体4b、4cの厚み数十μmに比較するとその値は小さい。
【0011】
次に、この第1の従来技術からなるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧と高周波電気信号とを印加する必要がある。
【0012】
図12に示す電圧−光出力特性はLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図12に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。この第1の従来技術では高周波電気信号と光とが相互作用する相互作用部IにDCバイアス電圧も印加するので、高周波電気信号の出力部に設ける不図示の電気的終端にコンデンサーを具備させることによりバイアスTの機能を持たせる必要があり、構造が複雑となってしまう。
【0013】
(第2の従来技術)
図13は第2の従来技術であり、第1の従来技術において必要であったバイアスTを無くすために、不図示の電気的終端を抵抗のみとし、DCバイアスを新たに設けたDCバイアス用相互作用部(あるいは簡単にDCバイアス部)IIに印加する構造とした、いわゆるバイアス分離構造のLN光変調器である。この構造では高周波電気信号が相互作用光導波路3a、3bと相互作用する高周波電気信号用相互作用部Iと、DCバイアス電圧が相互作用光導波路3a、3bに印加されるDCバイアス部IIを具備しており、バイアス分離型構造と呼ばれる。その一例が特許文献2に開示されている。
【0014】
図13のB−B´とC−C´における断面図を各々図14(a)と(b)に示す。ここで、4a´は中心導体、4b´と4c´は接地導体である。9a´、9b´、及び9c´はDCバイアス部の凹部であり、リッジ部8a´、8b´を形成している。11aと11bはDCバイアス電極である。
【0015】
ここで、図13、図14に示した第2の従来技術の問題点について考察する。図14(a)のIII及び図14(b)のIVとして示した領域の拡大図を各々図15(a)と(b)に示す。但し、議論をわかり易くするためにSiO2バッファ層2、中心導体4a´、及びバイアス電極11a、11bは図示を省力した。また、12は高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用相互作用部Iにおけるリッジ部8aの側壁であり、12´はDCバイアス部IIにおけるリッジ部8a´の側壁を表している。
【0016】
図15(a)においてUは相互作用部Iにおける相互作用光導波路3bの端とリッジ部の側壁12との距離(リッジ部8aの頂面13における相互作用光導波路3bの端から頂面の端までの距離)を、またVはDCバイアス電圧が印加されるDCバイアス部IIにおける相互作用光導波路3bの端とリッジ部の側壁12´との距離(リッジ部8a´の頂面13´における相互作用光導波路3bの端から頂面の端までの距離)を表している。また、W1とW2は各々リッジ部8aと8a´の頂面13と13´の幅である。また、図16(a)と(b)には相互作用光導波路3bを伝搬する光の界分布をリッジ部8aとリッジ部8a´に対して各々14、14´として示している(図15と同一断面)。
【0017】
この図16に示す第2の従来技術においては、相互作用部Iの頂面13の幅W1とDCバイアス部IIの頂面13´の幅W2は等しく、そのため相互作用部IにおけるUと相互作用部IIにおけるVとは互いに等しい。一般に、高周波電気信号の実効屈折率を光の等価屈折率に近づけるには、相互作用部Iにおけるリッジ部8aの頂面13の幅W1は狭い方が望ましい。上述のようにこれまでの従来技術ではDCバイアス部IIのリッジ部8a´のW2幅も狭くしていた(あるいは、UとVがほぼ等しく、かつ小さい)ので、リッジ部8a´の側壁12´が有する表面ラフネスのために光が散乱され、その結果光の挿入損失が増加する要因の一つとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開2008−122786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のように、DCバイアス部のリッジ部の側壁に起因する光の挿入損失の増加を低減した光変調器の開発が急務となっている。
【0020】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、光変調特性が高性能であるとともに、光の挿入損失について改善された光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴としている。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の前記頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴としている。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の光変調器は、請求項1または2に記載の光変調器において、前記相互作用光導波路の全てが、光の導波方向に沿う方向の両側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴としている。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光変調器は、請求項1または2に記載の光変調器において、前記相互作用光導波路の少なくとも1つが、光の導波方向に沿う方向の一方側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴としている。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の請求項5に記載の光変調器は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光変調器において、前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る光変調器では、DCバイアス部における光導波路とリッジ部の側壁との距離を高周波電気信号用相互作用部における光導波路とリッジ部の側壁との距離よりも広くする、あるいは、DCバイアス部におけるリッジ部の頂面の幅を高周波電気信号と光が相互作用する高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部の頂面の幅よりも広くすることにより、DCバイアス部における光の伝搬損失を低減し、ひいては光変調器としての光の挿入損失を小さくするという優れた利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図2】(a)図1のD−D´における断面図、(b)図1のE−E´における断面図
【図3】(a)図2(a)に伝搬する光の界分布を加えた図、(b)図2(b)に伝搬する光の界分布を加えた図
【図4】本発明の原理を説明する図
【図5】リッジ部の部分拡大図
【図6】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器のDCバイアス部の断面図
【図7】本発明の第2の実施形態に係わる光変調器のDCバイアス部の断面図
【図8】本発明の第3の実施形態に係わる光変調器のDCバイアス部の断面図
【図9】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図10】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図11】図9のA−A´における断面図
【図12】光変調器の動作原理を説明する図
【図13】第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図14】(a)図13のB−B´における断面図、(b)図13のC−C´における断面図
【図15】(a)図14のIIIについての拡大図、(b)図14のIVについての拡大図
【図16】(a)図15(a)に伝搬する光の界分布を加えた図、(b)図15(b)に伝搬する光の界分布を加えた図、
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図9から図16に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は本発明における第1の実施形態の上面図である。図1のD−D´とE−E´における断面図を各々図2(a)、(b)に示す。なお、図2(a)、(b)は図15(a)、(b)と同様に相互作用光導波路3bにおける断面図を示したものである。高周波電気信号用相互作用部Iに対応する図2(a)からわかるように第1の従来技術や第2の従来技術と同様に、中心導体4a´と接地導体4b´、4c´とからなる進行波電極を伝搬する高周波電気信号の実効屈折率が高周波電気信号用相互作用光導波路3bを伝搬する光の等価屈折率に近くなるように、リッジ部8aの頂面13の幅W1を細くしている。これにより、従来技術と同じく高速光変調が可能となる。
【0030】
一方、DCバイアス部IIに対応する図2(b)の相互作用光導波路3bとリッジ部8a´の側壁12´との距離V´を、高周波電気信号用相互作用部Iに対応する図2(a)の相互作用光導波路3bとリッジ部8aの側壁12との距離Uよりも充分広くしている。あるいは、DCバイアス部IIにおけるリッジ部8a´の頂面13´の幅W2´を相互作用部Iにおけるリッジ部8aの頂面13の幅W1よりも充分広くしている(W1<W2´)。
【0031】
図3(a)、(b)は各々図2(a)、(b)に対応しており、各々伝搬する光の界分布14、14´を示している。図3(b)からわかるように、本実施形態ではリッジ部8a´の頂面13´の幅W2´がDCバイアス部における光導波路3bを伝搬する光の界分布14´よりも充分広い。
【0032】
図4には相互作用光導波路3bとリッジ部8a´の側壁12´との距離V´を変数とした場合における相互作用光導波路3bでの光の伝搬損失を表わす(点は第2の従来技術の同特性)。この図からわかるように、この第1の実施形態では、相互作用光導波路3bとリッジ部8a´の側壁12´との距離V´を充分大きくすることができるので、リッジ部の側壁12´のラスネスによる光の挿入損失の増加を小さくすることができる。好適にはV´として1μmは必要であり、2μm以上あると特性的に著しく改善され、3μm以上あると最も好適である。
【0033】
なお、図6は本発明の第1の実施形態におけるDCバイアス部の断面図(図1のE−E´断面)である。上記説明はリッジ部8a´を用いて説明してきたが、リッジ部8b´にも本構成を適用できることは言うまでも無く、図6はそれを示した態様である。
【0034】
なお、以上の説明はリッジ部の側壁と頂面とが平坦な面同士で交わる構成として説明してきたが、これに限られるものではない。図5のリッジ部の部分拡大図に示すように、側壁と頂面との交わり部がR状になっていてもよい。この場合には、頂面の端は、頂面を延長した面と頂面近傍の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まる。
【0035】
(第2の実施形態)
図7は本発明の第2の実施形態におけるDCバイアス部の断面図(図1のE−E´断面に相当)である。本実施形態では相互作用光導波路3bについては8a´のように両側に凹部が形成された完全なリッジ構造であるが、相互作用光導波路3aは8b´´のように一方側のみに凹部が形成されており、完全なリッジ構造とはなっていない。
【0036】
このように完全なリッジ構造となっていなくても、リッジ部8b´´における(凹部9b´側の)距離V´を設定することで本発明を適用可能である。
【0037】
(第3の実施形態)
図8は本発明の第3の実施形態におけるDCバイアス部の断面図(図1のE−E´断面に相当)である。本実施形態では相互作用光導波路3a、3bが形成されたリッジ部8a´´、8b´´はともに完全なリッジ構造となっていない。
【0038】
本実施形態においても第2の実施形態と同様に、(凹部9b´側の)距離V´を設定することで本発明を適用可能である。
【0039】
(各実施形態)
本発明の特徴は高周波電気信号用相互作用部とDCバイアス部における光導波路からリッジの側壁までの距離(換言すると、光導波路を伝搬する光からリッジ部の側壁までの距離)を異ならしめることが特徴であり、高周波電気信号用相互作用部とDCバイアス部においてリッジ部の頂面の幅を各々異ならしめる構造が好適である。
【0040】
なお、実際にはリッジ部の側壁のラフネスによる挿入損失の増加は、相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離により決定されるが、上記では説明を簡単にするために、「相互作用部IとDCバイアス部IIにおける相互作用光導波路の端とリッジの側壁との距離についての大小関係」と「相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離についての大小関係」とが同じであると仮定して議論してきた。従って、本発明においては、相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離を、相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離で置き換えてもよい。
【0041】
また、相互作用部IとDCバイアス部IIでの光導波路の幅は等しいとして議論してきたが、これらを異ならしめた態様としてもよく、その場合には、相互作用光導波路とリッジ部側壁との距離あるいはリッジ部の頂面の幅を所定値に設定することで本発明を適用することが可能となる。
【0042】
分岐光導波路の例としてマッハツェンダ光導波路を用いたが、方向性結合器などその他の分岐合波型の光導波路にも本発明を適用可能であることは言うまでもなく、本発明の思想は3本以上の光導波路にも適用可能である。また光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できるし、バッファ層としてAl2O3等のSiO2以外の各種材料も適用できる。
【0043】
また、本発明はDCバイアス部の電極構造に依存せず、CPW構造や非対称コプレーナストリップ(ACPS)構造、あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)構造など、各種の電極構造について成り立つことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0044】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
4:進行波電極
4a、4a´:中心導体
4b、4b´、4c、4c´:接地導体
5:Si導電層
6:高周波電気信号給電線
7:高周波電気信号出力線
8a、8b:相互作用部Iにおけるリッジ部
8a´、8a´´、8b´、8b´´:DCバイアス部IIにおけるリッジ部
9a、9b、9c:相互作用部Iにおける凹部
9a´、9b´、9c´:DCバイアス部IIにおける凹部
11a、11b:DCバイアス電極
12、12´:リッジ部の側壁
13、13´:リッジ部の頂面
14、14´:光の電界分布
I:高周波電気信号用相互作用部(相互作用部)
II:DCバイアス用相互作用部(DCバイアス部)
U、U´、V、V´:相互作用光導波路とリッジ部側壁との距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用して、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射し、光の挿入損失が小さな光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成した、いわゆるリッジ型LN光変調器を第1の従来技術の光変調器として図9にその概略斜視図を示す。ここで、図10は図9の概略上面図であり、図11は図9と図10のA−A´線における概略断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3a、3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に導電層5を介して進行波電極4が形成されている。導電層5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いる。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は貴金属材料であるAuにより形成されている。中心導体4aは各種の値をとるが、多くの場合7μm程度であり、中心導体4aと接地導体4b、4cの間のギャップも各種の値をとるが、15μm程度であることが多い。なお、説明を簡単にするために、図9では図示した温度ドリフト抑圧のためのSi導電層5を図10や図11においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。6は高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の給電線であり、高周波コネクタやマイクロ波線路である。7は高周波電気信号の出力線路であり、通常電気的終端が使われるが、高周波コネクタやマイクロ波線路でも良い。
【0008】
また、図10のIとして示された領域では、中心導体4aと接地導体4b、4cとを伝搬する高周波電気信号と2本の相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが相互作用するので、高周波電気信号用相互作用部(あるいは簡単に相互作用部)と呼ばれる。
【0009】
この第1の従来技術では、z−カットLN基板1をエッチングなどで掘り込むことにより、凹部9a、9b、及び9c(あるいは、リッジ部8a、8bとも言える)を形成している。ここで、12はリッジ部(ここでは8a)の側壁である。
【0010】
このリッジ構造をとることにより、高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の実効屈折率(あるいは、マイクロ波実効屈折率)、特性インピーダンス、変調帯域、駆動電圧などにおいて優れた特性を実現することができる。なお、図11では凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)を強調して描いているが、実際には数μm程度の深さであり、中心導体4aや接地導体4b、4cの厚み数十μmに比較するとその値は小さい。
【0011】
次に、この第1の従来技術からなるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧と高周波電気信号とを印加する必要がある。
【0012】
図12に示す電圧−光出力特性はLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図12に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。この第1の従来技術では高周波電気信号と光とが相互作用する相互作用部IにDCバイアス電圧も印加するので、高周波電気信号の出力部に設ける不図示の電気的終端にコンデンサーを具備させることによりバイアスTの機能を持たせる必要があり、構造が複雑となってしまう。
【0013】
(第2の従来技術)
図13は第2の従来技術であり、第1の従来技術において必要であったバイアスTを無くすために、不図示の電気的終端を抵抗のみとし、DCバイアスを新たに設けたDCバイアス用相互作用部(あるいは簡単にDCバイアス部)IIに印加する構造とした、いわゆるバイアス分離構造のLN光変調器である。この構造では高周波電気信号が相互作用光導波路3a、3bと相互作用する高周波電気信号用相互作用部Iと、DCバイアス電圧が相互作用光導波路3a、3bに印加されるDCバイアス部IIを具備しており、バイアス分離型構造と呼ばれる。その一例が特許文献2に開示されている。
【0014】
図13のB−B´とC−C´における断面図を各々図14(a)と(b)に示す。ここで、4a´は中心導体、4b´と4c´は接地導体である。9a´、9b´、及び9c´はDCバイアス部の凹部であり、リッジ部8a´、8b´を形成している。11aと11bはDCバイアス電極である。
【0015】
ここで、図13、図14に示した第2の従来技術の問題点について考察する。図14(a)のIII及び図14(b)のIVとして示した領域の拡大図を各々図15(a)と(b)に示す。但し、議論をわかり易くするためにSiO2バッファ層2、中心導体4a´、及びバイアス電極11a、11bは図示を省力した。また、12は高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用相互作用部Iにおけるリッジ部8aの側壁であり、12´はDCバイアス部IIにおけるリッジ部8a´の側壁を表している。
【0016】
図15(a)においてUは相互作用部Iにおける相互作用光導波路3bの端とリッジ部の側壁12との距離(リッジ部8aの頂面13における相互作用光導波路3bの端から頂面の端までの距離)を、またVはDCバイアス電圧が印加されるDCバイアス部IIにおける相互作用光導波路3bの端とリッジ部の側壁12´との距離(リッジ部8a´の頂面13´における相互作用光導波路3bの端から頂面の端までの距離)を表している。また、W1とW2は各々リッジ部8aと8a´の頂面13と13´の幅である。また、図16(a)と(b)には相互作用光導波路3bを伝搬する光の界分布をリッジ部8aとリッジ部8a´に対して各々14、14´として示している(図15と同一断面)。
【0017】
この図16に示す第2の従来技術においては、相互作用部Iの頂面13の幅W1とDCバイアス部IIの頂面13´の幅W2は等しく、そのため相互作用部IにおけるUと相互作用部IIにおけるVとは互いに等しい。一般に、高周波電気信号の実効屈折率を光の等価屈折率に近づけるには、相互作用部Iにおけるリッジ部8aの頂面13の幅W1は狭い方が望ましい。上述のようにこれまでの従来技術ではDCバイアス部IIのリッジ部8a´のW2幅も狭くしていた(あるいは、UとVがほぼ等しく、かつ小さい)ので、リッジ部8a´の側壁12´が有する表面ラフネスのために光が散乱され、その結果光の挿入損失が増加する要因の一つとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開2008−122786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のように、DCバイアス部のリッジ部の側壁に起因する光の挿入損失の増加を低減した光変調器の開発が急務となっている。
【0020】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、光変調特性が高性能であるとともに、光の挿入損失について改善された光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴としている。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の前記頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴としている。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の光変調器は、請求項1または2に記載の光変調器において、前記相互作用光導波路の全てが、光の導波方向に沿う方向の両側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴としている。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光変調器は、請求項1または2に記載の光変調器において、前記相互作用光導波路の少なくとも1つが、光の導波方向に沿う方向の一方側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴としている。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の請求項5に記載の光変調器は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光変調器において、前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る光変調器では、DCバイアス部における光導波路とリッジ部の側壁との距離を高周波電気信号用相互作用部における光導波路とリッジ部の側壁との距離よりも広くする、あるいは、DCバイアス部におけるリッジ部の頂面の幅を高周波電気信号と光が相互作用する高周波電気信号用相互作用部におけるリッジ部の頂面の幅よりも広くすることにより、DCバイアス部における光の伝搬損失を低減し、ひいては光変調器としての光の挿入損失を小さくするという優れた利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図2】(a)図1のD−D´における断面図、(b)図1のE−E´における断面図
【図3】(a)図2(a)に伝搬する光の界分布を加えた図、(b)図2(b)に伝搬する光の界分布を加えた図
【図4】本発明の原理を説明する図
【図5】リッジ部の部分拡大図
【図6】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器のDCバイアス部の断面図
【図7】本発明の第2の実施形態に係わる光変調器のDCバイアス部の断面図
【図8】本発明の第3の実施形態に係わる光変調器のDCバイアス部の断面図
【図9】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図10】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図11】図9のA−A´における断面図
【図12】光変調器の動作原理を説明する図
【図13】第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図14】(a)図13のB−B´における断面図、(b)図13のC−C´における断面図
【図15】(a)図14のIIIについての拡大図、(b)図14のIVについての拡大図
【図16】(a)図15(a)に伝搬する光の界分布を加えた図、(b)図15(b)に伝搬する光の界分布を加えた図、
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図9から図16に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は本発明における第1の実施形態の上面図である。図1のD−D´とE−E´における断面図を各々図2(a)、(b)に示す。なお、図2(a)、(b)は図15(a)、(b)と同様に相互作用光導波路3bにおける断面図を示したものである。高周波電気信号用相互作用部Iに対応する図2(a)からわかるように第1の従来技術や第2の従来技術と同様に、中心導体4a´と接地導体4b´、4c´とからなる進行波電極を伝搬する高周波電気信号の実効屈折率が高周波電気信号用相互作用光導波路3bを伝搬する光の等価屈折率に近くなるように、リッジ部8aの頂面13の幅W1を細くしている。これにより、従来技術と同じく高速光変調が可能となる。
【0030】
一方、DCバイアス部IIに対応する図2(b)の相互作用光導波路3bとリッジ部8a´の側壁12´との距離V´を、高周波電気信号用相互作用部Iに対応する図2(a)の相互作用光導波路3bとリッジ部8aの側壁12との距離Uよりも充分広くしている。あるいは、DCバイアス部IIにおけるリッジ部8a´の頂面13´の幅W2´を相互作用部Iにおけるリッジ部8aの頂面13の幅W1よりも充分広くしている(W1<W2´)。
【0031】
図3(a)、(b)は各々図2(a)、(b)に対応しており、各々伝搬する光の界分布14、14´を示している。図3(b)からわかるように、本実施形態ではリッジ部8a´の頂面13´の幅W2´がDCバイアス部における光導波路3bを伝搬する光の界分布14´よりも充分広い。
【0032】
図4には相互作用光導波路3bとリッジ部8a´の側壁12´との距離V´を変数とした場合における相互作用光導波路3bでの光の伝搬損失を表わす(点は第2の従来技術の同特性)。この図からわかるように、この第1の実施形態では、相互作用光導波路3bとリッジ部8a´の側壁12´との距離V´を充分大きくすることができるので、リッジ部の側壁12´のラスネスによる光の挿入損失の増加を小さくすることができる。好適にはV´として1μmは必要であり、2μm以上あると特性的に著しく改善され、3μm以上あると最も好適である。
【0033】
なお、図6は本発明の第1の実施形態におけるDCバイアス部の断面図(図1のE−E´断面)である。上記説明はリッジ部8a´を用いて説明してきたが、リッジ部8b´にも本構成を適用できることは言うまでも無く、図6はそれを示した態様である。
【0034】
なお、以上の説明はリッジ部の側壁と頂面とが平坦な面同士で交わる構成として説明してきたが、これに限られるものではない。図5のリッジ部の部分拡大図に示すように、側壁と頂面との交わり部がR状になっていてもよい。この場合には、頂面の端は、頂面を延長した面と頂面近傍の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まる。
【0035】
(第2の実施形態)
図7は本発明の第2の実施形態におけるDCバイアス部の断面図(図1のE−E´断面に相当)である。本実施形態では相互作用光導波路3bについては8a´のように両側に凹部が形成された完全なリッジ構造であるが、相互作用光導波路3aは8b´´のように一方側のみに凹部が形成されており、完全なリッジ構造とはなっていない。
【0036】
このように完全なリッジ構造となっていなくても、リッジ部8b´´における(凹部9b´側の)距離V´を設定することで本発明を適用可能である。
【0037】
(第3の実施形態)
図8は本発明の第3の実施形態におけるDCバイアス部の断面図(図1のE−E´断面に相当)である。本実施形態では相互作用光導波路3a、3bが形成されたリッジ部8a´´、8b´´はともに完全なリッジ構造となっていない。
【0038】
本実施形態においても第2の実施形態と同様に、(凹部9b´側の)距離V´を設定することで本発明を適用可能である。
【0039】
(各実施形態)
本発明の特徴は高周波電気信号用相互作用部とDCバイアス部における光導波路からリッジの側壁までの距離(換言すると、光導波路を伝搬する光からリッジ部の側壁までの距離)を異ならしめることが特徴であり、高周波電気信号用相互作用部とDCバイアス部においてリッジ部の頂面の幅を各々異ならしめる構造が好適である。
【0040】
なお、実際にはリッジ部の側壁のラフネスによる挿入損失の増加は、相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離により決定されるが、上記では説明を簡単にするために、「相互作用部IとDCバイアス部IIにおける相互作用光導波路の端とリッジの側壁との距離についての大小関係」と「相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離についての大小関係」とが同じであると仮定して議論してきた。従って、本発明においては、相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離を、相互作用光導波路を伝搬する光の界分布のエッジとリッジ部の側壁との距離で置き換えてもよい。
【0041】
また、相互作用部IとDCバイアス部IIでの光導波路の幅は等しいとして議論してきたが、これらを異ならしめた態様としてもよく、その場合には、相互作用光導波路とリッジ部側壁との距離あるいはリッジ部の頂面の幅を所定値に設定することで本発明を適用することが可能となる。
【0042】
分岐光導波路の例としてマッハツェンダ光導波路を用いたが、方向性結合器などその他の分岐合波型の光導波路にも本発明を適用可能であることは言うまでもなく、本発明の思想は3本以上の光導波路にも適用可能である。また光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できるし、バッファ層としてAl2O3等のSiO2以外の各種材料も適用できる。
【0043】
また、本発明はDCバイアス部の電極構造に依存せず、CPW構造や非対称コプレーナストリップ(ACPS)構造、あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)構造など、各種の電極構造について成り立つことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0044】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
4:進行波電極
4a、4a´:中心導体
4b、4b´、4c、4c´:接地導体
5:Si導電層
6:高周波電気信号給電線
7:高周波電気信号出力線
8a、8b:相互作用部Iにおけるリッジ部
8a´、8a´´、8b´、8b´´:DCバイアス部IIにおけるリッジ部
9a、9b、9c:相互作用部Iにおける凹部
9a´、9b´、9c´:DCバイアス部IIにおける凹部
11a、11b:DCバイアス電極
12、12´:リッジ部の側壁
13、13´:リッジ部の頂面
14、14´:光の電界分布
I:高周波電気信号用相互作用部(相互作用部)
II:DCバイアス用相互作用部(DCバイアス部)
U、U´、V、V´:相互作用光導波路とリッジ部側壁との距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、
前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、
前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、
前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、
前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、
前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、
前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、
前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、
前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の前記頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴とする光変調器。
【請求項3】
前記相互作用光導波路の全てが、光の導波方向に沿う方向の両側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記相互作用光導波路の少なくとも1つが、光の導波方向に沿う方向の一方側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項5】
前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、
前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、
前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、
前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光を変調する高周波電気信号を印加するための高周波電気信号用の中心導体及び接地導体からなる進行波電極と、前記光にバイアス電圧を印加するための中心導体及び接地導体からなるバイアス電極とを有し、
前記光導波路には前記進行波電極に前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための高周波電気信号用相互作用部と、前記バイアス電極にバイアス電圧を印加することにより前記光の位相を調整するためのバイアス用相互作用部とが具備され、
前記高周波電気信号用相互作用部と前記バイアス用相互作用部の両方に前記基板の少なくとも一部を掘り下げることにより形成した凹部により構成されるリッジ部を具備する光変調器において、
前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、
前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面の端は、前記リッジ部の前記頂面を延長した面と前記頂面近傍の前記リッジ部の側壁面を延長した面とが交わる位置で定まり、
前記バイアス用相互作用部に形成された前記リッジ部の前記頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離が、前記高周波電気信号用相互作用部に形成された前記リッジ部の頂面における前記相互作用光導波路の端から当該頂面の端までの距離よりも大きいことを特徴とする光変調器。
【請求項3】
前記相互作用光導波路の全てが、光の導波方向に沿う方向の両側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記相互作用光導波路の少なくとも1つが、光の導波方向に沿う方向の一方側に前記凹部を持つ前記リッジ部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項5】
前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光変調器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−118384(P2012−118384A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269286(P2010−269286)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
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