説明

光子検出器、それを用いた量子暗号通信装置、及び、光子検出方法

【課題】デッドタイム終了直後に過剰なバイアス電圧が発生することを防止し、誤検出を回避することが可能にする。
【解決手段】光子を検出するためのAPDを備えた光子検出器であって、光子到着予定時刻に応じた周期的なゲートパルス3cと直流電圧源6からの直流電圧との和をAPDバイアス電圧7aとしてAPD8に印加するゲートパルス発生器2'およびバイアスティー5と、APD8が光子を検出した直後の所定時間の間、ゲートパルス3cの出力を抑制し、当該所定時間経過後にゲートパルス3cの出力を再開させるデッドタイム信号発生器13とを備えている。また、ゲートパルス3cは、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとが組み合わされた正負のゲートパルスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光子検出器、それを用いた量子暗号通信装置、及び、光子検出方法に関し、高感度な光受信方式、特に、単一光子レベルでの光子検出器、それを用いた量子暗号通信装置、及び、光子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単一光子検出器は、従来からの高感度光測定での使用に加え、量子暗号や量子計算などの量子情報処理の分野において必須の技術となることから、近年、急速にその需要が高まりつつある。特に、量子暗号通信などでは、通信速度の高速化と通信距離の延伸化のため、高速かつ高検出効率な光子受信装置が必要となっている。
【0003】
量子暗号通信で波長1.5μm帯の光子を用いる際には、高感度な光子検出を行うために、アバランシェフォトダイオード(以下、APD:Avalanche Photo Diodeとする。)が用いられるが、高速性と高検出効率を両立させるために種々の工夫が施される。
【0004】
バイアス電圧がブレークダウン電圧に満たない通常の動作状態のAPDは、単一光子を検出するには検出効率が不足する。そこで、ブレークダウン電圧(降伏電圧)よりも数V高いバイアス電圧に設定し、単一光子を検出できる高効率なガイガーモードで使用する。ただし、ガイガーモードは、光子検出後にダークカウントやアフターパルスと呼ばれる光子誤検出信号が生じて、伝送誤り率が増加するという課題がある。
【0005】
そこで、例えば下記の特許文献1に記載されているように、待機時はAPDバイアス電圧をブレークダウン電圧より低めに設定しておき、光子の到着予定時刻を含む短時間だけブレークダウン電圧を超えるように設定することで、誤検出を低減することができる。このような制御は、光子の送出クロックに同期した周期的なゲートパルスに基づいてバイアス電圧を制御することで可能である。ゲートパルスは、単一光子とは別の光ファイバで伝達するか、あるいは、同じ光ファイバ中に波長の異なる光で多重伝送するなどの方法で送信側から受信側に伝達すればよい。
【0006】
また、例えば特許文献2の段落[0010]〜[0011]などに記載されているように、光子の送出クロック周期を短くすると、誤検出信号の発生確率が高くなることから、送出クロックを単純に高速化することはできないという側面がある。ただ、単一光子源を用いた量子暗号通信では、伝送距離の長距離化に伴ってAPDへの光子到達確率が低くなり、まばらにしか検出されなくなる。そのため、光子検出後にゲートパルスを印加しないデッドタイムを一定時間設けて、アフターパルス計数率が十分低下した後に、ゲートパルスの印加を再開することで、誤検出の抑制と光子の送出クロックの高速化を両立する方法が考えられている。
【0007】
図1は、光子検出後にデッドタイムを一定時間設けることで、APDでの誤検出を抑制するようにした、従来の光子検出器の構成例である。図1において、1は同期信号源であり、光子の送出クロックに同期したクロック信号を生成する。2はゲートパルス発生器であり、光子の到達予定時刻を含む短時間のみにAPDに電圧を与えるようなゲートパルス3を生成する。ゲートパルス発生器2は、後述するデッドタイム信号発生器13からのデッドタイム信号14が入力されている間は、ゲートパルスを出力しない。5はバイアスティーであり、直流電圧源6の電圧とゲートパルス3の和電圧を生成して、APDバイアス電圧7aを出力する。一例としては、直流電圧源6は35V、ゲートパルス3は5V程度である。また、8は光子を検出するAPDである。9は、光子検出時のAPD8の出力電流を光子検出パルス10に変換する抵抗器である。パルス検出器11は光子検出パルス10を検出して、光子検出信号12を出力する。デッドタイム信号発生器13は、パルス検出器11から光子検出信号12が出力されると、ゲートパルス3を抑制するためのデッドタイム信号14を一定時間の間だけ出力する。
【0008】
図2は、ゲートパルス3の電圧、APDバイアス電圧7a、デッドタイム信号14の電圧を、それぞれ、時系列で模式的に示した例である。図中の(A)と(A')は、APDバイアス印加時間であり、光子の到着予定時刻に応じて周期的にAPDバイアス電圧が印加される時間である。(B)は光子を検出したタイミングであり、(C)は、(B)の光子検出の後にゲートパルス3の出力が抑制されているデッドタイムである。光子検出(B)の直後から一定時間、すなわち、デッドタイム(C)の間は、デッドタイム信号14が出力される。その結果、周期的に出力されていたゲートパルス3は、デッドタイム(C)の間は出力が抑制される。デッドタイム信号14が低電圧に復帰すると、ゲートパルス3の出力が再開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−114712号公報
【特許文献2】特開2004−264097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、デッドタイム(C)を設けて、APDバイアス電圧7aを制御すると、APDバイアス電圧7aは、デッドタイム開始時に平均電圧が一旦低下して、図2の(a)のように、徐々に電圧が上昇する変化をする。これは、バイアスティー5で、直流電圧源6の電圧と合成するゲートパルス3の平均電圧が変化することに起因する。その結果、図2の(b)に示すように、デッドタイム終了直後のゲートパルス3によってAPDバイアス電圧7aが過剰に高くなる。
【0011】
図3は、APDバイアス電圧7aの測定例であり、図3において、(A)は光子の到着予定時刻に応じて周期的にAPDバイアス電圧7aが印加される期間、(C)は光子検出後にゲートパルス3の出力が抑制されているデッドタイムである。デッドタイム(C)の終了直後の図3(b)に過剰なバイアス電圧が生じている。このような過剰なAPDバイアス電圧は、光子の誤検出信号の発生確率を大幅に増加させる。つまり、デッドタイ(C)ムの間の誤検出を抑制することができるものの、デッドタイム(C)の終了直後に誤検出を生じてしまうという問題点があった。
【0012】
本願発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、デッドタイム終了直後に過剰なバイアス電圧が発生することを防止し、誤検出を回避することが可能な、光子検出器、それを用いた量子暗号通信装置、および、光子検出方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、光子を検出するためのAPDを備えた光子検出器であって、光子到着予定時刻に応じた周期的なゲートパルスと直流電圧との和をバイアス電圧として前記APDに印加するバイアス電圧印加手段と、前記APDが光子を検出した直後の所定時間の間、前記ゲートパルスの出力を抑制し、当該所定時間経過後に前記ゲートパルスの出力を再開させるバイアス電圧制御手段とを備え、前記ゲートパルスが、正パルスと負パルスとが組み合わされた正負のゲートパルスであることを特徴とする光子検出器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、光子を検出するためのAPDを備えた光子検出器であって、光子到着予定時刻に応じた周期的なゲートパルスと直流電圧との和をバイアス電圧として前記APDに印加するバイアス電圧印加手段と、前記APDが光子を検出した直後の所定時間の間、前記ゲートパルスの出力を抑制し、当該所定時間経過後に前記ゲートパルスの出力を再開させるバイアス電圧制御手段とを備え、前記ゲートパルスが、正パルスと負パルスとが組み合わされた正負のゲートパルスであることを特徴とする光子検出器であるので、デッドタイム終了直後に過剰なバイアス電圧が発生することを防止し、誤検出を回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の光子検出器の構成を示した構成図である。
【図2】従来の光子検出器における各電圧値の変化をグラフで示した説明図である。
【図3】従来の光子検出器におけるAPDバイアス電圧の測定例をグラフで示した説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る光子検出器の構成を示した構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る光子検出器における各電圧値の変化をグラフで示した説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る光子検出器におけるAPDバイアス電圧の測定例をグラフで示した説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る量子暗号通信装置の構成を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図4は、本発明の実施の形態1に係る光子検出器の構成図である。各部の機能、動作、役割を説明する。
【0017】
図4において、1は同期信号源であり、光子の送出クロックに同期したクロック信号を生成する。2aは正のゲートパルス発生器であり、同期信号源1からのクロック信号を受けて、光子の到達予定時刻を含む短時間の範囲内に正のゲートパルス3aを出力する。2bは負のゲートパルス発生器であり、同じく同期信号源1からのクロック信号を受けて、光子の到達予定時刻に近い時間帯に負のゲートパルス3bを出力する。4は、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとを合成して、正負のゲートパルス3cを生成する合成器である。正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとは予め設定された所定の時間差を持たせてあり、正負のゲートパルス3cは、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとが組み合わさった波形となっている。ここでは、図5に示すように、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとが交互になっており、その時間的順序は正のゲートパルス3aが先の例を説明するが、その場合に限らず、逆の順序でもよい。
【0018】
正のゲートパルス発生器2aおよび負のゲートパルス発生器2bは、同期信号源1からのクロック信号を受信するとともに、さらに、後述するデッドタイム信号発生器13からのデッドタイム信号14も入力される。正のゲートパルス発生器2aおよび負のゲートパルス発生器2bは、当該デッドタイム信号14が入力されている間は、ゲートパルス3a,3bを出力しない。このように、以上説明したように、正のゲートパルス発生器2a、負のゲートパルス発生器2b、および、合成器4は、正負のゲートパルス3cを生成するゲートパルス発生器2'を構成している。また、本発明はこの例に限定されるものではなく、この例と異なる構成で同様の機能を実現することも可能である。
【0019】
5はバイアスティーであり、それに接続されている直流電圧源6の直流電圧と正負のゲートパルス3cとが入力されて、それらの和電圧を生成して、APDバイアス電圧7bとして出力する。一例としては、直流電圧源6の直流電圧は35V、正負のゲートパルス3cは±5V程度である。このように、同期信号源1と、ゲートパルス発生器2'と、直流電圧源6と、バイアスティー5とは、APD8にAPDバイアス電圧7bを印加するバイアス電圧印加手段を構成している。
【0020】
8は、APDバイアス電圧7bが印加されて、光子を検出するAPDである。9は、光子検出時のAPD8からの出力電流を光子検出パルス10に変換する抵抗器である。光子検出パルス10は、パルス検出器11で検出されて、光子検出信号12として出力される。デッドタイム信号発生器13は、光子検出信号12がパルス検出器11から出力されると、それを受けて、予め設定された所定の一定時間が経過するまでの間、ゲートパルスを抑制するためのデッドタイム信号14を出力する。このように、デッドタイム信号発生器13は、APD8の光子検出後の所定時間の間、ゲートパルス3cの出力を抑制するためのデッドタイム信号14を出力するとともに、所定時間経過後にデッドタイム信号14の発生を停止し、ゲートパルス3cの出力を再開させるバイアス電圧制御手段を構成している。
【0021】
図5は、正、負、及び、正負のゲートパルス電圧3a,3b,3cと、APDバイアス電圧7aと、デッドタイム信号14の、それぞれの電圧を時系列で模式的に示した例である。図中の(A)と(A')は、APDバイアス電圧印加時間であり、光子の到着予定時刻に応じて周期的にAPDバイアス電圧7bが印加される時間である。(B)は、光子を検出したタイミングであり、当該タイミングの直後から一定時間の間は(C)のデッドタイム期間で、デッドタイム信号14が出力される。その結果、周期的に出力されていた正、負、及び、正負のゲートパルス3a,3b,3cは、デッドタイム期間の一定時間だけ出力が抑制される。一定時間経過後、デッドタイム信号14が低電圧に復帰すると、正、負、及び、正負のゲートパルス3a,3b,3cの出力が再開される。正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとは時間差を持たせてあり、図5に示すように、合成したゲートパルス3cは正のパルスと負のパルスが組み合わさった波形となっている。
【0022】
次に、本実施の形態1に係る光子検出器の動作について説明する。光子検出器においては、図5の(A)のAPDバイアス印加時間の間は、まず、同期信号源1が、図示しない光子出力光源からの光子の送出クロック(光子出力時刻)に同期した周期的なクロック信号を出力する。正のゲートパルス発生器2aは、同期信号源1からのクロック信号が入力され、当該クロック信号によって検出対象の光子の到達予定時刻(光子の受信予定時刻)を検出することができるので、光子の到達予定時刻を含む時間範囲に正のゲートパルス3aを出力する。同様に、負のゲートパルス発生器2bも、同期信号源1からのクロック信号が入力されるので、それに応じて、正のゲートパルス3aよりも所定時間差だけ遅れて負のゲートパルス3bを出力する。合成器4は、これらの正および負のゲートパルス3a,3bが入力されて、これらを組み合わせた正負のゲートパルス3cを出力する。バイアスティー5は、正負のゲートパルス3cと直流電圧源6からの直流電圧との和をAPDバイアス電圧7bとしてAPD8に印加する。これにより、APD8は検出対象の光子を検出する。光子検出時のAPD8の出力電流は、抵抗器9により、光子検出パルス電圧10に変換される。光子検出パルス電圧10は、パルス検出器11で検出され、光子検出信号12が出力される。当該光子検出信号12は光子検出器全体からの出力となり、光子検出信号12により、検出対象の光子の有無や種別等を判別することができる。以上が、図5の(A)のAPDバイアス印加時間の動作である。
【0023】
次に、図5の(C)のデッドタイム期間の動作について説明する。図5の(A)のAPDバイアス印加時間における光子検出信号12は、上記のように外部に出力されるとともに、デッドタイム信号発生器13にも入力される。デッドタイム信号発生器13は、光子検出信号12を受信することにより、APD8による光子検出のタイミングを検出することができるので、当該光子検出のタイミングの直後からの所定時間(図5の(C)のデッドタイム期間)の間だけデッドタイム信号14を出力する。デッドタイム信号14は正のゲートパルス発生器2aおよび負のゲートパルス発生器2bに入力され、正のゲートパルス発生器2aおよび負のゲートパルス発生器2bは当該デッドタイム信号14を受信する間はゲートパルス3a,3bの出力をそれぞれ中止する。従って、合成器4からの出力も中止される。こうして、周期的に出力されていたゲートパルス3a,3b,3cは、光子検出のタイミングの直後からの所定時間(図5の(C)のデッドタイム期間)の間だけ出力が抑制される。所定時間が経過すると、デッドタイム信号発生器13はデッドタイム信号14の出力を停止する。これにより、正のゲートパルス発生器2aおよび負のゲートパルス発生器2bは、ゲートパルス3a,3bの出力をそれぞれ再開する。これにより、合成器4からの出力も再開される。このように、デッドタイム期間においては、正のゲートパルス発生器2aおよび負のゲートパルス発生器2bが、ゲートパルス3a,3bの出力をそれぞれ抑制するため、光子の検出は行わない。以上が、図5の(C)のデッドタイム期間の動作の説明であり、図5の(C)のデッドタイム期間終了後は、上述した図5の(A)のAPDバイアス印加時間の動作に戻る。
【0024】
このように、本発明においては、ゲートパルスを正負のゲートパルス3cとし、光子検出後の所定時間の間にデッドタイムを設けてAPDバイアス電圧を制御するようにしたので、APDバイアス電圧は、図5に示すAPDバイアス電圧7bのように、デッドタイム期間中の電圧が変化することなく安定する。これは、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとを組み合わせた正負のゲートパルス3cを印加することにより、デッドタイム開始後にAPDバイアス電圧の平均電圧が変化しないためである。
【0025】
図6は、APDバイアス電圧の測定例である。図6の(A)は光子の到着予定時刻に応じて周期的にAPDバイアス電圧7bが印加される期間、(C)は、光子検出後にゲートパルス3a,3b,3cの出力が抑制されているデッドタイムである。APDバイアス電圧7bが安定化するために、デッドタイムの終了直後に過剰なAPDバイアス電圧が発生することがなくなり、誤検出を回避することができていることが分かる。
【0026】
以上のように、本発明の実施の形態1によれば、光子到着予定時刻に応じた周期的なゲートパルス3cを発生し、当該ゲートパルス3cと直流電圧源6からの直流電圧との和を、APDバイアス電圧7bとして、APD8に印加するための、同期信号源1、ゲートパルス発生器2'、バイアスティー5、および、直流電圧源6と、APD8による光子検出の結果を示すパルス検出器11からの信号に応じて、APD8が光子を検出した後の所定時間はゲートパルス3cの出力を抑制し、当該所定時間経過後にゲートパルス3cの出力を再開させるデッドタイム信号発生器13とを備えるとともに、ゲートパルス3cを、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bとが組み合わされた正負のゲートパルスであるようにしたため、デッドタイム期間中の電圧が変化することなく安定するので、デッドタイム終了直後に過剰なバイアス電圧が発生することを防止し、誤検出を回避することができ、高速化と高検出効率化とを両立させることができる。
【0027】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2に係る量子暗号通信装置の構成である。図7において、101は量子暗号の送信装置であり、信号源100からの信号を変調する変調器103と、光子を出力する単一光子光源102とで構成される。変調器103は、光の位相を変調するもの、偏波状態を変調するものなどが用いられる。単一光子光源102から出力された光子は変調器103で変調されて、光ファイバ104を経て、受信装置105に到達する。
【0028】
受信装置105は、変調信号に応じて光路を振り分ける干渉計106と、振り分けられた出力を受信する光子検出器107a,107bとを備えている。光子検出器107a,107bは、図4に示したような本発明の光子検出器であり、光子を検出して、光子検出信号を出力する。光子検出器107a,107bの出力が受信器108に入力されて、到達光子の有無と受信信号が判定される。このように、本発明による高速化と高検出効率化を両立した光子検出器107a,107bを用いることで、単一光子光源102を用いた高速な量子暗号通信装置が提供される。
【0029】
以上のように、本実施の形態2に係る量子暗号通信装置によれば、光子を出力する単一光子光源102と光子を変調する変調器103とを備える送信装置101と、送信装置101から出力された光子を伝送する光ファイバ104と、光ファイバ104を介して伝送された光子を受信して検出する実施の形態1で示した光子検出器107a,107bを備えた受信装置105とを備えるようにしたので、上述の実施の形態1と同様の効果が得られ、高速化と高検出効率化を両立した量子暗号通信装置を得ることができる。
【0030】
なお、実施の形態1および実施の形態2に係る、以上の説明において、ゲートパルス3a,3b,3cは矩形波形を例にあげて説明しているが、その場合に限らず、本発明において、正弦波などの異なる波形を用いてもよく、その場合も同様な効果が得られることは明白であり、そのような形態も本発明の範疇であることは言うまでもない。
【0031】
また、実施の形態1および実施の形態2に係る、以上の説明において、正のゲートパルス3aを発生する正のゲートパルス発生器2aと負のゲートパルス3bを発生する負のゲートパルス発生器2bとは、それぞれが独立して、ゲートパルスを生成するブロック構成の例を挙げて説明しているが、その場合に限らず、例えば、本発明において、負のゲートパルス発生器2bを設けずに、正のゲートパルス発生器2aの出力を遅延および反転させて負のゲートパルス3bを発生させることも可能であり、そのような別の形態で、負のゲートパルス発生器2bを実現してもよく、その場合も同様な効果が得られることは明白であり、そのような形態も本発明の範疇であることは言うまでもない。
【0032】
さらに、実施の形態1および実施の形態2に係る、以上の説明において、正のゲートパルス3aと負のゲートパルス3bが、デッドタイム信号発生器13からの出力に応じて、それぞれのゲートパルス3a,3bの出力を抑制するという例を示しているが、その場合に限らず、本発明において、正負のゲートパルス発生器を別の形態で構成してもよく、その場合も同様な効果が得られることは明白であり、そのような形態も本発明の範疇であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0033】
1 同期信号源、2,2',2a,2b ゲートパルス発生器、3,3a,3b,3c ゲートパルス、5 バイアスティー、6 直流電圧源、7a APDバイアス電圧、8 APD、9 抵抗器、10 光子検出パルス、11 パルス検出器、12 光子検出信号、13 デッドタイム信号発生器、100 信号源、101 送信装置、102 単一光子光源、103 変調器、104 光ファイバ、105 受信装置、106 干渉計、107a,107b 光子検出器、108 受信器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子を検出するためのAPDを備えた光子検出器であって、
光子到着予定時刻に応じた周期的なゲートパルスと直流電圧との和をバイアス電圧として前記APDに印加するバイアス電圧印加手段と、
前記APDが光子を検出した直後の所定時間の間、前記ゲートパルスの出力を抑制し、当該所定時間経過後に前記ゲートパルスの出力を再開させるバイアス電圧制御手段と
を備え、
前記ゲートパルスが、正パルスと負パルスとが組み合わされた正負のゲートパルスである
ことを特徴とする光子検出器。
【請求項2】
前記バイアス電圧印加手段は、
前記光子を出力する出力源の光子出力時刻に同期した周期的な同期信号を供給する同期信号源と、
前記同期信号源からの前記同期信号に応じて、前記正負のゲートパルスを発生するゲートパルス発生器と、
直流電圧を出力する直流電圧源と、
前記ゲートパルス発生器から出力される前記正負のゲートパルスと前記直流電圧源の直流電圧とを合成した電圧を生成し、前記APDに前記バイアス電圧として印加するバイアスティーと
を備え、
前記バイアス電圧制御手段は、
前記APDが光子を検出したときに、当該検出時直後からの所定時間の間だけ、前記ゲートパルスの出力を抑制するためのデッドタイム信号を出力するデッドタイム信号発生器
を備え、
前記ゲートパルス発生器が、前記デッドタイム信号に応じて、前記APDによる光子検出時直後からの所定時間の間は前記正負のゲートパルスの出力を抑制し、当該所定時間経過後に前記正負のゲートパルスの出力を再開する
ことを特徴とする請求項1に記載の光子検出器。
【請求項3】
前記ゲートパルス発生器は、
正のゲートパルスを発生する正のゲートパルス発生器と、
負のゲートパルスを発生する負のゲートパルス発生器と、
前記正のゲートパルス発生器の出力と前記負のゲートパルス発生器の出力とを合成して正負のゲートパルスを生成する合成器と
から構成されており、
前記正のゲートパルスと前記負のゲートパルスとの間には、所定の時間差が設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の光子検出器。
【請求項4】
光子を出力する単一光子光源と前記光子を変調する変調器とを備える送信装置と、
前記送信装置から出力された光子を伝送する光ファイバと、
前記光ファイバを介して伝送された光子を受信して前記光子を検出する光子検出器を備えた受信装置と
を備えた量子暗号通信装置であって、
前記受信装置の前記光子検出器が請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光子検出器である
ことを特徴とする量子暗号通信装置。
【請求項5】
APDで光子を検出する光子検出方法であって、
光子到着予定時刻に応じた周期的なゲートパルスを出力させるステップと、
前記ゲートパルスと直流電圧との和をバイアス電圧として前記APDに印加するステップと、
前記バイアス電圧の印加を受けて、前記APDが検出対象の光子を検出するステップと、
前記APDが光子を検出したときに、当該検出の直後の所定時間の間、前記ゲートパルスの出力を抑制するステップと、
前記所定時間の経過後に前記ゲートパルスの出力を再開させるステップと
を備え、
前記ゲートパルスが、正パルスと負パルスとが組み合わされた正負のゲートパルスである
ことを特徴とする光子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−283266(P2010−283266A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137161(P2009−137161)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人情報通信研究機構、「量子暗号の実用化のための研究開発 課題(イ)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】