説明

光学ガラスの加工方法及び光学ガラスレンズの製造方法

【課題】難硝材により形成されるガラス成形体に対して球面創成加工を行う場合に、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させる。
【解決手段】光学ガラスである硝材である難硝材により形成されるガラス成形体に対し、回転駆動されるカップ砥石を当接させて、当該ガラス成形体の被加工面を球面形状に研削するカーブジェネレーティング工程と、前記カーブジェネレーティング工程の実行中に、前記カップ砥石と当該カップ砥石の対向電極との間に導電性研削液を供給しつつ電圧を印加して、前記カップ砥石に対する電解ドレッシングを行う電解インプロセスドレッシング工程と、を備えた硝材加工方法において、前記カーブジェネレーティング工程は、前記カップ砥石の回転数、または、前記カップ砥石の回転数および前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接圧可変方向における相対位置移動の送り速度とが、前記難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対して研削を行う場合よりも高く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスの加工方法及び光学ガラスレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスレンズの製造工程では、レンズ表面を球面形状に研削する際に、CG(カーブジェネレータ)加工を行うことが一般的である(例えば特許文献1参照)。CG加工は、被研削物であるガラス成形体の回転軸に対して、カップ状の砥石(以下「カップ砥石」という)を所望の球面形状が創成できるような角度に傾斜させて配置し、カップ砥石およびガラス成形体の両者を回転させながら球面形状を創成する、というものである。CG加工を行う際のカップ砥石の回転数については、例えば5000〜10000rpmの範囲内とすることが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
また、レンズ表面の球面創成加工にあたっては、ELID(電解インプロセスドレッシング)研削法による電解ドレッシングを、CG加工と併せて行うことも提案されている(例えば特許文献3参照)。ELID研削法は、導電性砥石とその対向電極との間に電圧を印加することで、加工中であっても砥石に対して自動的に目立て(電解ドレッシング)を行えるようにしたものである。CG加工+ELID研削の手法では、例えば、φ30mmのカップ砥石の線速度Vsを190m/min(およそ2000rpm相当)とし、被研削物であるガラス成形体とカップ砥石の当接圧可変方向における相対位置移動の送り速度fを40μm/sec(砥石番手#325の場合)、20μm/sec(砥石番手#600の場合)または2μm/sec(砥石番手#4000の場合)とすることが例示されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−132340号公報
【特許文献2】実用新案登録第2600063号公報
【特許文献3】特開2000−246613号公報
【非特許文献1】張 春河等、「カップ砥石による球面レンズのELID鏡面研削効果」、ELID研削研究会報VOL.25、日本国、ELID研削研究会、平成11年12月22日、P188〜189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、光学ガラスレンズの形成材料として、光学ガラスのガラス材料の一種である難硝材が用いられることがある。難硝材とは、レンズ製造工程におけるレンズ加工プロセス上で何らかの工夫を必要とするガラス材料であり、例えば難硝材以外のガラス材料に比べて柔らかく傷が付きやすい性質や硬すぎて加工が進み難い性質(すなわち加工困難性)を有するといったものである。
【0006】
ところが、特許文献1,2におけるCG加工は、難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体を被研削物として想定している。したがって、難硝材により形成されたガラス成形体に対して球面創成加工を行おうとしても、特許文献1,2に開示された加工条件では、難硝材特有の加工困難性に起因して、例えばレンズ表面に傷が深く入ってしまい、レンズに適した品質の加工面が得られないおそれがある。この点については、球面創成加工の後にレンズ表面の傷を除去する研磨処理を行うことも考えられる。しかし、レンズ表面に深く入った傷を除去するためには、研磨処理に多くの時間(例えば難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体に比べて2〜3倍の時間)を要してしまい、また熟練技能がないと適切な研磨処理に対応できないことも考えられ、その結果として難硝材により形成されたガラス成形体に対する加工コスト増大を招いてしまうおそれがある。
また、特許文献3においても難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体を被研削物として想定しているが、CG加工+ELID研削の手法を用いているため、被研削物が難硝材により形成されたガラス成形体の場合であっても良好な加工品質が得られると考えられる。しかし、非特許文献1に開示された加工条件では、#4000のみの送りでは送り速度fが遅いため、また、#325、#600、および、#4000を用いた場合には多段加工となるために、多くの加工時間を要してしまい、難硝材に対する加工コスト低減を実現することが非常に困難である。
つまり、上述した従来技術では、難硝材により形成されたガラス成形体に対して球面創成加工を行う場合、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることが非常に困難である。
【0007】
そこで、本発明は、難硝材により形成されたガラス成形体に対して球面創成加工を行う場合であっても、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることのできる光学ガラスの加工方法および光学ガラスレンズの製造方法を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記目的を達成するための検討を行った。具体的には、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させるために、先ず、加工面の品質確保という観点について検討した。
【0009】
本発明において、難硝材により形成されたガラス成形体を球面創成加工の被研削物とする。難硝材については、既に説明したように、例えば柔らかく傷が付きやすいという加工困難性を有しているため、難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体を想定した加工条件では加工面の品質確保ができないおそれがある。このような加工困難性を有した被研削物に対して、傷等が入るのを抑制して加工面の品質を確保するためには、加工速度(具体的には砥石の回転速度や送り速度等)を遅くすることが、研削を行う技術分野における一般的な対応策である。つまり、難硝材の加工困難性に対応するためには、難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体の場合に比べて加工速度を低速化することが技術常識である。しかしながら、加工速度を低速化すると、その分加工に多くの時間を要することになり、加工コストが増大してしまうことになる。したがって、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることができない。
【0010】
この点につき、本願発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、従来の技術常識とは全く逆の発想で、難硝材により形成されたガラス成形体に対する加工速度を難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体の場合に比べて高速化するという着想に至った。そして、その場合であっても、ELID研削法を利用することによって加工面の品質確保が可能であり、その結果として加工面の品質確保と加工コスト抑制との両立が実現可能であるとの見解を得た。
【0011】
つまり、本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、従来の技術常識にはない発想による上述の知見に基づき、以下に述べる課題解決手段に想到した。この知見に基づいてなされた本発明の態様は、以下のとおりである。
【0012】
本発明の第1の態様は、光学ガラスである難硝材により形成されたガラス成形体に対し、回転駆動されるカップ砥石を当接させて、当該ガラス成形体の被加工面を球面形状に研削するカーブジェネレーティング工程と、前記カーブジェネレーティング工程の実行中に、前記カップ砥石と当該カップ砥石の対向電極との間に導電性研削液を供給しつつ電圧を印加して、前記カップ砥石に対する電解ドレッシングを行う電解インプロセスドレッシング工程と、を備え、前記カーブジェネレーティング工程は、前記カップ砥石の回転数、または、前記カップ砥石の回転数および前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接圧可変方向における相対位置移動の送り速度の両方が、前記難硝材以外の硝材により形成されたガラス成形体に対して研削を行う場合よりも高く設定されていることを特徴とする光学ガラスの加工方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記難硝材は、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスのいずれか1つからなることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、前記難硝材は、摩耗度FAが45以上95以下である光学ガラス、または、160以上500以下となる光学ガラスの形成材料となるものであり、前記難硝材以外の硝材は、摩耗度FAが95超160未満となるガラスの形成材料となるものであることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1、第2または第3の態様に記載の発明において、前記カーブジェネレーティング工程における前記カップ砥石の回転数は18000rpm以上であり、かつ、前記難硝材により形成された前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接可変方向における相対位置移動の送り速度は1.0μm/sec以上で15.0μm/sec以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれか1項に記載の発明において、前記カップ砥石は、前記被研削面を研削する砥粒と、当該砥粒を結合するボンド材を含み、前記砥粒の粒度が#1500〜#4000であることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第1〜第5のいずれか1態様に記載の発明において、前記電解インプロセスドレッシング工程において印加する電圧は、30〜150Vであることを特徴とする。
本発明の第7の態様は、第5の態様に記載の発明において、前記ボンド材は、メタルボンド、または、レジンボンドからなることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、第1〜第7のいずれか1態様に記載の発明において、前記カーブジェネレーティング工程は、前記難硝材により形成された前記ガラス成形体が回転テーブルにチャックされた状態で行われ、前記回転テーブルの回転数が1rpm〜100rpmであることを特徴とする。
本発明の第9の態様は、第1〜第8のいずれか1態様に記載の光学ガラスの加工方法を用いて、前記難硝材により形成された前記ガラス成形体から光学ガラスレンズを製造する光学ガラスレンズの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、難硝材により形成されたガラス成形体に対して球面創成加工を行う場合であっても、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る光学ガラスの加工方法を実行する硝材加工装置の構成例を模式的に示す説明図である。
【図2】光学ガラスレンズの製造方法の製造手順の一例を示すフロー図である。
【図3】光学ガラスレンズの製造方法の製造手順の他の例を示すフロー図である。
【図4】ELID研削法による電解ドレッシングのメカニズムを示す説明図である。
【図5】本発明の実施例1〜実施例7における加工条件を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例8〜実施例10における加工条件を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例11〜実施例12における加工条件を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例13〜実施例15における加工条件を示す説明図である。
【図9】本発明の比較例1〜比較例3における加工条件を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、先ず、球面創成加工の被研削物である難硝材について説明し、次いで、難硝材により形成されたガラス成形体に対する球面創成加工(研削加工)を行う硝材加工装置の構成例、当該硝材加工装置の動作例(研削加工の手順)、および、本実施形態における効果について、順に説明する。
【0016】
<1.難硝材>
本実施形態において球面創成加工の被研削物を形成する難硝材は、光学ガラスのガラス材料の一種に相当するが、他種のガラス材料(すなわち難硝材以外)とは異なり、レンズ製造工程におけるレンズ加工プロセス上で何らかの工夫を必要とするガラス材料である。そのため、難硝材は、ガラス成形体を形成した場合に当該ガラス成形体に対する加工時に傷が発生しやすい性質、または、加工がし難い性質を有するガラス材料と捉えることができる。
【0017】
このような性質の難硝材は、例えば、後述する摩耗度(FA)を基準にすることで、難硝材以外の硝材と区分することができる。ここでは、一例として摩耗度(FA)を測定する際に日本光学硝子工業会により指定された標準試料(難硝材以外の硝材であり、摩耗度FA=100)を用いて摩耗度を測定した例を挙げる。
難硝材により形成される被研削物(ガラス成形体)は、難硝材以外の硝材により形成されるガラスに比べると、加工困難性を有している。ここでいう加工困難性には、柔らかく傷が付きやすいという性質(以下に記載するガラスのうち、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、および、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス)や、硬過ぎて加工が進み難い性質(以下に記載するガラスのうち、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラス)が含まれる。このような加工困難性を有していることから、難硝材により形成される被研削物(ガラス成形体)は、その加工困難性に対応するために何らかの工夫を必要とするのである。なお、硬過ぎて加工が進み難いガラスを加工する場合には、通常粗い砥石(例えば#270)を使う必要があり、かえって大きい傷の原因になる。
上述した説明では、難硝材以外の硝材に関し、日本光学硝子工業会により指定された標準試料を例に挙げて、ガラスの性質について説明した。ただし、本発明における「難硝材」は、これに限定されるものではなく、ガラス成形体となった場合に、摩耗度FAが45以上95以下である光学ガラス、または、160以上500以下となるものである。これに対して、難硝材以外の硝材とは、ガラス成形体となった場合に、摩耗度FAが95超160未満となるものを意味している。このような範囲の摩耗度FAとなるガラス成形体の形成材料に対して、本発明を適用することができる。
【0018】
このような難硝材からなるガラスの具体例としては、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスが挙げられる。つまり、ここで例に挙げたガラスの形成材料となるものを、本明細書では「難硝材」として定義する。本実施形態では、これらフツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスのいずれか一つのガラスにより形成されたものを、球面創成加工の被研削物とする。
【0019】
フツリン酸ガラスは、低屈折率低分散ガラスであり、以下のような構成を有している。フツリン酸ガラスは、必須カチオン成分としてP5+、Al3+およびアルカリ土類金属イオンを含むとともに、必須アニオン成分としてFおよびO2−を含む光学ガラスであって、屈折率(nd)が1.45以上で、アッベ数(νd)が65以上という光学特性を有する光学ガラスである。特に、P5+は3〜50カチオン%、Al3+は3〜40カチオン%を含むことが好ましい。また、Fは20〜95アニオン%を含み、O2−は5〜80アニオン%とすることが好ましく、FとO2−の合計含有量が100アニオン%とすることが好ましい。また、アルカリ土類金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。さらに、フツリン酸塩ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制する上から、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上にすることが望ましい。
具体的には、フツリン酸ガラスとして、カチオン%表示にて、P5+;3〜50%、Al3+;5〜40%、Mg2+;0〜10%、Ca2+;0〜30%、Sr2+;0〜30%、Ba2+;0〜40%、Li;0〜30%、Y3+;0〜10%、La3+;0〜10%、を含有し、アニオン%表示にて、F;20〜95%、O2−;5〜80%を含有する光学ガラスが挙げられる。また、フツリン酸ガラスにおける摩耗度(FA)は、380〜500を有することが好ましく、より好ましくは400〜460とするのがよい。
【0020】
リン酸ガラスは、低分散ガラスであり、以下のような構成を有している。リン酸ガラスは、必須成分としてP、B、LiO、MgO、CaOおよびBaOを含み、屈折率(nd)が1.50〜1.70、アッベ数(νd)が60〜70という光学特性を有する光学ガラスである。
具体的には、リン酸ガラスとして、質量%表示で、P;18〜70%、B;1〜35%、Al;0〜8%、LiO;0〜20%(ただし、0%を除く)、NaO;0〜18%、KO;0〜15%、MgO;1〜25%、CaO;0〜18%(ただし、MgO+CaO>4%)、SrO;0〜20%、BaO;1〜40%、ZnO;0〜14%、Gd;0〜18%、Sb;0〜1%を含有する光学ガラスが挙げられる。また、リン酸ガラスにおける摩耗度(FA)は、250〜350を有することが好ましく、より好ましくは270〜310とするのがよい。
【0021】
リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスは、W、Ti、BiおよびNbからなる易還元成分を少なくとも一種含有する光学ガラスからなり、これらの易還元成分の含有量の合計が5〜60モル%であり、屈折率(nd)が1.80以上で、アッベ数(νd)が30以下という光学特性を有する光学ガラスである。
具体的には、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスとして、モル%表示で、P;10〜45%、Nb;3〜35%、LiO;2〜35%、TiO;0〜25%、WO;0〜20%、Bi;0〜40%、B;0〜20%、BaO;0〜25%、ZnO;0〜25%、NaO;0〜50%、KO;0〜20%、Al;0〜15%、SiO;0〜15%、(ただし、WO、TiO、BiおよびNbの合計量が10%以上65%未満)を含有する光学ガラスが挙げられる。また、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスにおける摩耗度(FA)は、150〜300を有することが好ましく、より好ましくは160〜290とするのがよい。
【0022】
ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスは、W、Ti、Bi、Nbからなる易還元成分を少なくとも一種含有するほか、必須成分としてB、La、ZnOを含む光学ガラスであって、屈折率(nd)が1.8以上、アッベ数(νd)が25〜50という光学特性を有する光学ガラスである。この光学ガラスにおいて、Bはガラスのネットワーク構成のために必須の成分であり、Laは高屈折率、低分散特性を付与するために必須の成分であって、両成分が共存することにより、ガラスの安定性がより一層向上する。
具体的には、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスとして、モル%表示で、SiO;0〜50%、B;5〜70%、LiO;0〜20%、NaO;0〜10%、KO;0〜10%、ZnO;1〜50%、CaO:0〜10%、BaO:0〜10%、SrO:0〜10%、MgO:0〜10%、La;5〜50%、Gd;0〜22%、Yb;0〜10%、Nb;0〜15%、WO;0〜20%、TiO;0〜40%、Bi;0〜20%、ZrO;0〜15%、Ta;0〜20%、GeO;0〜10%を含有する光学ガラスが挙げられる。また、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスにおける摩耗度(FA)は、45〜95を有することが好ましく、より好ましくは50〜80とするのがよい。
【0023】
このような難硝材からなるガラスのうち、フツリン酸ガラスについては、その具体例としてFCD1(HOYA株式会社製、nd=1.49700、νd=81.61)が挙げられる。ここで例に挙げたFCD1は、例えばヌープ硬さHk≦350N/mmで磨耗度FA≧400という機械的性質を有している。したがって、難硝材以外の硝材により形成される光学ガラス(例えばHk≧500N/mm、FA≦200)に比べると柔らかく加工の際に傷が付きやすいという特徴がある。
また、リン酸ガラスについては、その具体例としてPCD4(HOYA株式会社製、nd=1.61800、νd=63.40)、および、PCD51(HOYA株式会社製、nd=1.59349、νd=67.00)が挙げられる。
また、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラスについては、その具体例として、E-FDS1(HOYA株式会社製、nd=1.92286、νd=20.88)、FDS18(HOYA株式会社製、nd=1.94595、νd=17.98)、FDS90(HOYA株式会社製、nd=1.84666、νd=23.78)が挙げられる。
また、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスについては、その具体例として、TAFD25(HOYA株式会社製、nd=1.90366、νd=31.32)、TAFD35(HOYA株式会社製、nd=1.91082、νd=35.25)、TAFD40(HOYA株式会社製、nd=2.00069、νd=25.46)が挙げられる。
【0024】
なお、上述の摩耗度(FA)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS-10に基づいて測定している。その測定方法は、測定面積が9cmの試料を、水平に毎分60回転する鋳鉄製平面皿の中心より80mmの定位置に保持し、平均粒径20μmのアルミナ砥粒10gに水20mlを添加したラップ駅を5分間一様に供給し、9.807Nの荷重をかけてラップする。ラップ前後の試料質量を秤量して摩耗質量mを求める。同様にして、日本光学硝子工業会で指定された標準試料の摩耗質量mを測定し、次式により摩耗度(FA)を算出した。
摩耗度(FA)=(m/d)/(m/d)×100 ・・・(1)式
ここで、dは試料の比重であり、d0は標準試料の比重である。
【0025】
<2.硝材加工装置の構成例>
次に、難硝材により形成されたガラス成形体に対して球面創成加工を行う硝材加工装置の構成例を説明する。
図1は、硝材加工装置の構成例を模式的に示す説明図である。
【0026】
図例のように、本実施形態で説明する硝材加工装置1は、回転テーブル2と、カップ砥石3と、電極4と、研削液供給部5と、電圧印加部6と、動作コントローラ7とを備えている。
【0027】
回転テーブル2は、被研削物である難硝材製のプレス品10(詳細は後述する)を保持するチャック部2aを有しており、チャック部2aがプレス品10を保持した状態で図示せぬ駆動源により回転駆動されるように構成されている。チャック部2aによるプレス品10の保持は、真空吸着または固定治具利用等の公知技術を用いて行えばよい。また、回転テーブル2を回転駆動する駆動源についても、電動モータ等といった公知のものを用いればよい。
【0028】
カップ砥石3は、カップ状(開放端を有する円筒状)に形成されており、開放端が回転テーブル2のチャック部2aと対向するように配されるとともに、チャック部2aと対向する側の端面付近に砥粒部3aが設けられている。つまり、カップ砥石3は、回転テーブル2のチャック部2aに保持された難硝材製のプレス品10に対して、砥粒部3aを当接させ得るように構成されている。砥粒部3aは、ダイヤモンド砥粒を鋳鉄や青銅等の金属材料からなる結合材(ボンド材)で固めたものである。結合材として金属材料を用いることで、カップ砥石3は、導電性を有したメタルボンド砥石として機能するようになっている。ただし、導電性を有していれば、レジンボンド砥石であってもよい。
また、カップ砥石3は、電動モータ等の図示せぬ駆動源により回転駆動されるように構成されている。カップ砥石3の回転軸は、回転テーブル2の回転軸に対して角度αをなす線上に位置している。この角度αは作製する球面レンズの曲率によって1対1で決まるものであり、レンズの曲率に合わせて角度αを決めた後、原則的にはその角度αを維持したまま連続加工される。複数のレンズ形状に対応可能なように、角度αについては、図示せぬ揺動機構により、所定の範囲(例えば0°〜60°)で可変させ得るようになっている。
さらに、カップ砥石3は、図示せぬ移動機構により、当該カップ砥石3の送り方向に沿って、回転テーブル2との相対位置を可変させ得るように構成されている。「送り方向」とは、難硝材製のプレス品10と砥粒部3aとの当接圧を可変させる方向のことをいう。送り方向の相対位置可変のための移動機構は、電動モータや送りねじ等の公知技術を利用して構成すればよい。なお、移動機構は、回転テーブル2とカップ砥石3との相対位置を可変させ得るものであれば、カップ砥石3ではなく回転テーブル2を移動させるものであってもよい。
【0029】
電極4は、カップ砥石3の砥粒部3aと所定の隙間(例えば0.1〜0.3mm、好ましくは0.2mm程度)を隔てて対向するように配されたものである。
【0030】
研削液供給部5は、カップ砥石3の砥粒部3aと電極4との間、および、カップ砥石3の砥粒部3aと被研削物である難硝材製のプレス品10との間に、導電性研削液を供給するものである。導電性研削液は、砥粒部3aと電極4との間の電気抵抗を低減させる機能を有するものであればよい。具体的には、導電性研削液として、ある程度の電気伝導度(例えば1300〜1800μS/cm、好ましくは1500〜1600μS/cm程度)を有したELID研削用の水溶性研削液を用いることが考えられる。
【0031】
電圧印加部6は、メタルボンド砥石であるカップ砥石3を陽極(プラス)とし、これに対向する電極4を陰極(マイナス)として、これらの極間に直流パルス電圧を印加するものである。そのために、電圧印加部6は、所定の直流パルス電圧を発生させるELID電源6aと、カップ砥石3の回転軸に摺動しながら接触する給電ブラシ6bと、ELID電源6aと給電ブラシ6bとの間およびELID電源6aと電極4との間を接続する電流供給ライン6cとを備えて構成されている。
【0032】
動作コントローラ7は、上述した各部2〜6の動作を制御するものである。この動作コントローラ7の制御によって、少なくとも、カップ砥石3の回転数と、回転テーブル2とカップ砥石3の送り方向における相対位置移動の送り速度とが、詳細を後述するように設定されるようになっている。
【0033】
<3.硝材加工装置の動作例>
次に、上述した構成の硝材加工装置1の動作例を説明する。
ここでは、光学ガラスレンズの製造方法に、上述した構成の硝材加工装置1を用いる場合を例に挙げる。
【0034】
(光学ガラスレンズの製造方法の概要)
ここで、上述した構成の硝材加工装置1の動作例の説明に先立ち、光学ガラスレンズの製造方法の概要について簡単に説明する。
【0035】
光学ガラスレンズは、様々な手法によって製造され得るが、研削加工、研磨加工による減少分をなるべく少なくし加工時間の短縮によるコスト削減を図るために、最終的なレンズ形状に近似させた形状を有するプレス品を用いることが多い。難硝材により形成されたプレス品は、プレス品を成形するためのガラス素材を加熱、軟化させ金型内でプレスすることで得られるリヒートプレス(Reheat Press、以下「RP」と略す。)品と、熔融ガラス塊を下型上に供給して上型と下型を用いてプレスすることにより得られるダイレクトプレス(Direct Press、以下「DP」と略す。)品とがある。RP品は、製品の屈折率を測定してから再加熱し、軟化させてプレスするため屈折率の正確性に優れている。一方、DP品は、バッチなどのガラス材料を熔融し、清澄、均質化させた熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、熔融ガラス塊が高温で軟らかいうちに、そのまま上下の成形型でプレスしたもので、外形、肉厚などの寸法精度に優れている。なお、このようにして成形されるプレス品は、RP品とDP品のいずれについても、その表面粗さRzが2.0μm以下になる。
【0036】
(製造手順の一例)
このようなプレス品を利用する場合には、以下に述べるような手順で、光学ガラスレンズの製造が行われる。
図2は、光学ガラスレンズの製造方法の製造手順の一例を示すフロー図である。
【0037】
(S1;バッチの調整・混合)
光学ガラスレンズの製造にあたっては、先ず、所望の光学特性を有した光学ガラスが得られるように、当該光学ガラスを構成する上述の組成物を、上述した所定割合で調合して、当該光学ガラスの基になるガラス材料(すなわち難硝材)を得る(S1)。ここでいうガラス材料とは、バッチと呼ばれる金属酸化物や無機酸化物などからなる粉体、および/又は、バッチを一度粗熔解して冷却することにより得られるカレットを意味し、多くの場合はバッチを指す。
【0038】
(S2;ガラスの溶融・清澄)
その後は、上述したステップS1で得られたガラス材料を、熔融炉内に投入して熔融(熔解)し、清澄(脱泡含む)して、均質化された熔融ガラス(すなわち、バッチが熔融した状態のガラス)をガラス流出パイプの流出口から流出する。
【0039】
(S3;ガラスの成形〜S5A;RP品)
そして、例えばRP品を用いる場合であれば、パイプから流出した熔融ガラスを鋳型上で水平方向へ取り出す。鋳型から取り出した熔融ガラスは、連続式アニール炉内へと水平移動し、炉内でアニールされる。これは、冷却後のガラスに歪等が残らないように窒素などの不活性ガス雰囲気中で徐冷する工程である。これにより、熔融ガラスを成形したガラス成形体が得られる(S3)。アニール後、所望の長さでガラス成形体から分離されたものが、所定形状のEバー(板状のガラス体)となる(S4A)。その後は、連続するガラス成形体から分離したEバー(板状のガラス)を、カットピースと呼ばれる例えば立方体状の複数のガラス片に分割し、研削あるいは研磨などの冷間加工を行う(立方体の面取りや重量バラツキを整える)工程があり、その工程を経て所定形状・所定体積にすることで、リヒートプレス成形用のガラス素材を得る。このようにして得られたリヒートプレス成形用ガラス素材を加熱して軟化した状態で成形型を用いてプレス成形することにより、光学ガラスレンズの製造するための素材となるRP品を得る(S5A)。このとき、リヒートプレス成形用ガラス素材は、予め加熱したものを成形型に供給してもよく(非等温プレス成形)、また、成形型に供給した後、成形型と共に加熱してプレスしてもよい(等温プレス成形)。
【0040】
(S3;ガラスの成形〜S5B;DP品)
一方、例えばDP品を用いる場合であれば、熔融ガラス塊を回転テーブルに配置された下型上に供給し、上型と下型により熔融ガラス塊を所望の形状となるようにプレス成形する(S3,S4B,S5B)。このとき、下型上に供給(キャスト)される熔融ガラス塊が下型との接触により急激に冷却されてプレス成形不能にならないように下型の温度は調整されている。下型温度は熔融ガラスの温度よりも低いので、キャストからプレス成形、そして成形されたガラス成形体(DP品、レンズブランク)がプレス成形型から取り出される(テイクアウト)まで、ガラスと下型の接触面からガラス成形品のもつ熱量が奪われて行く。さらに、プレス成形時においても、上型の温度は調整されているものの、一般に熔融ガラスの温度よりも低いので、上型が熔融ガラス塊あるいはプレス成形品に触れている間は、上型によっても、熔融ガラス塊およびガラス成形品のもつ熱量が奪われていく。なお、熔融ガラス流から熔融ガラス塊を分離する際には、得ようとするガラス塊の重量により自然滴下してもよく、或いは熱融着しないように冷却された一対のシアブレードを用いて熔融ガラスを挟んで切断し、熔融ガラス塊を得ることができる。この他に熔融ガラスの切断方法として、下型をガラス流出パイプの流出口の下方に上昇させて熔融ガラスを受け、所定重量に達した後、下型を熔融ガラスの流下速度より速い速度で降下させることにより熔融ガラスを切断する降下切断法を採用してもよい。このDP品に関する説明において、熔融ガラスはバッチが熔融した状態のガラスの呼称であり、熔融ガラス流はパイプから流下する熔融ガラスであり、熔融ガラス塊は熔融ガラス流から分離(滴下または切断)したガラスの塊であり、ガラス成形体はプレス後のガラス品(すなわちDP品)を意味している。なお、上述の説明においては、下型上に熔融ガラス塊を供給し、熔融ガラス塊と下型とが接触する例について説明したが、下型に熔融ガラス塊を浮上させるためのガス孔が形成された浮上成形型を採用し、熔融ガラス塊を浮上した状態でプレス成形することができる。
【0041】
(S6;RP品・DP品研削)
以上のような手順を経てRP品またはDP品を得た後は、RP品またはDP品に対して、所望形状のレンズ表面を得るための研削加工を行う(S6)。研削加工は、例えば、粗研削を行う粗研削工程(S6a)と、精研削を行う精研削工程(S6b)とを、順に経て行う。粗研削工程(S6a)は、表面粗さ等の研削面の品位よりも加工能率を優先して実行する研削工程であり、例えば砥石の粒度表示の番手が#600未満、さらに具体的には#325程度のカップ砥石を用いて実行する研削工程である。一方、精研削工程(S6b)は、主として形状精度と表面状態を整えるために実行する研削工程であり、例えば砥石の粒度表示の番手が#600以上、さらに具体的には#1500〜#4000程度のカップ砥石を用いて実行する研削工程である。
【0042】
(S7;研削品を研磨)
研削工程(S6,S6a,S6b)を経てRP品またはDP品のレンズ表面となる部分を球面形状に研削した後は、その研削品に対して、研削加工後のレンズ表面の傷を除去する、または、レンズ表面の表面粗さをより小さくする研磨処理を行う(S7)。以上のような一連の手順を経て、レンズ表面が球面形状に加工された光学ガラスレンズ(球面レンズ)が製造されるのである(S8)。
【0043】
上述した一連の手順においては、粗研削工程(S6a)において、または粗研削工程(S6a)と精研削工程(S6b)との両方において、本実施形態における硝材加工装置1を用いる。
【0044】
(製造手順の他の例)
ところで、本実施形態においては、上述した手順とは異なり、以下に述べるような手順で、光学ガラスレンズの製造を行うことも考えられる。
図3は、光学ガラスレンズの製造方法の製造手順の他の例を示すフロー図である。
【0045】
図3に示す製造手順は、RP品またはDP品に対する研削加工(S6)が、上述した製造手順の場合とは異なる。上述した図2に示す製造手順の場合は、粗研削工程(S6a)と精研削工程(S6b)とを段階的に行っている。これに対して、図3に示す製造手順の場合は、粗研削工程(S6a)を経ずに、いきなり精研削工程(S6b)を行っている。つまり、研削加工(S6)において、粗研削工程(S6a)を省いている。これは、本実施形態で説明する硝材加工装置1によれば、詳細を後述するように、ELID研削法による電解ドレッシングを行うため、CG加工を実行しながらカップ砥石3に対する目立てを行うことができ、効率的に研削加工を行うことができるからである。さらには、本実施形態で説明する硝材加工装置1によれば、後述するように加工面の品質確保と加工コスト抑制との両立が実現可能であり、粗研削前の硝材成形品に対して短い研削時間で精研削後の加工品質が得られるようになるからである。
【0046】
(硝材加工装置の動作例の詳細)
続いて、硝材加工装置1における動作例を説明する。
硝材加工装置1は、上述した研削加工(S6)を行う際に、被研削物である難硝材製のプレス品(RP品またはDP品)10に対して球面創成加工を行う。
【0047】
硝材加工装置1が行う球面創成加工には、カーブジェネレーティング工程(以下「CG加工工程」という)と、電解インプロセスドレッシング工程(以下「ELID工程」という)とが含まれる。以下、これらの各工程について順に説明する。
【0048】
(CG加工工程)
CG加工工程は、難硝材製のプレス品10に対してCG加工を行って、当該プレス品10の被加工面(すなわちレンズ表面となる部分)を球面形状に研削する工程である。
【0049】
そのために、CG加工工程では、先ず、被研削物である難硝材製のプレス品10を、回転テーブル2のチャック部2aに保持させる。次いで、動作コントローラ7からの制御指示により揺動機構を動作させて、カップ砥石3の回転軸を、研削するレンズ表面の曲率に対応した角度αを有し、かつ、砥粒部3aとレンズ表面との接触箇所がレンズ光軸上に存在することになる位置に固定する。その状態で、動作コントローラ7からの制御指示により、回転テーブル2を所定回転数で回転させるとともに、カップ砥石3を回転テーブル2とは別の所定回転数で回転させる。そして、動作コントローラ7からの制御指示により移動機構を動作させて、回転テーブル2のチャック部2aに保持された難硝材製のプレス品10に対してカップ砥石3の砥粒部3aを当接させるとともに、回転テーブル2とカップ砥石3との送り方向における相対位置を所定の送り速度で可変させる。
【0050】
以上の動作を行うことで、CG加工工程では、回転テーブル2の回転によるカップ砥石3の公転と、カップ砥石3の回転による当該カップ砥石3の自転とにより、難硝材製のプレス品10に対するCG加工を行うのである。つまり、難硝材製のプレス品10におけるレンズ表面となる部分に対し、回転駆動されるカップ砥石3を当接させて、当該レンズ表面となる部分(すなわち難硝材の被加工面)を球面形状に研削する。
【0051】
(ELID工程)
ELID工程は、CG加工工程の実行中に、カップ砥石3に対してELID研削法による電解ドレッシングを行う工程である。
【0052】
そのために、ELID工程では、少なくとも難硝材製のプレス品10へのカップ砥石3の当接開始から当該カップ砥石3による研削終了までの間、動作コントローラ7が研削液供給部5および電圧印加部6に対して以下のような制御指示を与える。すなわち、研削液供給部5は、動作コントローラ7からの制御指示に従い、カップ砥石3の砥粒部3aと電極4との間、および、カップ砥石3の砥粒部3aと被研削物である難硝材製のプレス品10との間に、導電性研削液を供給する。また、電圧印加部6は、動作コントローラ7からの制御指示に従い、ELID電源6aに所定の直流パルス電圧を発生させる。
【0053】
以上の動作を行うことで、ELID工程では、電圧印加部6の電流供給ライン6cおよび給電ブラシ6bを通じて、カップ砥石3と電極4との間に直流パルス電圧を印加することになり、これによりカップ砥石3の砥粒部3aに対して自動的に目立て(電解ドレッシング)を行うのである。つまり、CG加工工程の実行中に、カップ砥石3と電極4との間に導電性研削液を供給しつつ電圧を印加して、カップ砥石3に対する電解ドレッシングを行う。
【0054】
図4は、ELID研削法による電解ドレッシングのメカニズムを示す説明図である。
ELID研削法では、電圧印加によって、先ず、砥粒部3aの結合材3bが電解され、適度なダイヤモンド砥粒3cの突出が得られる(図4(a)参照)。この間に、電解溶出した結合材3bが一部不導体化されて砥石端面に堆積して不導体被膜3dを形成するため、電解電流が自動的に低下する。このときが初期ドレッシング完了となる(図4(b)参照)。この状態で実際に研削を実行すると、砥石端面の不導体被膜3dが被研削物の表面(すなわち難硝材製の被加工面)と接触して摩擦により剥離除去されていき、またこれと同時にダイヤモンド砥粒3cが被研削物を研削し始めて砥粒摩耗が生じる(図4(c)参照)。すると、砥石端面の絶縁性が低下して、電解電流が回復する。これにより、摩耗したダイヤモンド砥粒3c間の不導体被膜3dが薄くなった部分から電解溶出が再開され(図4(d)参照)、再びダイヤモンド砥粒3cの突出が得られることになる(図4(b)参照)。
【0055】
(本実施形態における加工条件)
次に、硝材加工装置1が上述したCG加工工程およびELID工程を実行する際の加工条件について説明する。
【0056】
硝材加工装置1は、加工困難性を有した難硝材により形成されるガラス成形体を球面創成加工の被研削物とする。したがって、既に説明したように、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体を想定した加工条件では、加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることが非常に困難である。そこで、硝材加工装置1は、以下に述べる加工条件で、難硝材により形成されるガラス成形体に対する球面創成加工、すなわち上述したCG加工工程およびELID工程を実行する。かかる加工条件は、従来の技術常識にはない発想による本願発明者らの知見に基づくものである。
【0057】
難硝材により形成されるガラス成形体に対する加工条件は、CG加工工程において、カップ砥石3の回転数と、回転テーブル2とカップ砥石3との送り方向における相対位置移動の送り速度とが、難硝材以外の硝材により形成される光学ガラスに対して研削を行う場合よりも高く設定されている、というものである。これらの加工条件は、動作コントローラ7からの制御指示として、カップ砥石3の回転駆動源や移動機構等に対して与えられる。
【0058】
具体的には、カップ砥石3の回転数については、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体の場合の回転数である10000rpm以下(例えば特許文献2参照)という条件に対して、これよりも高回転数である18000rpm以上という条件に設定する。回転数の上限値は、カップ砥石3の回転軸受部の許容回転数内(すなわち装置の機械的仕様の範囲内)であればよい。ただし、ELID工程の際に供給する導電性研削液の膜切れが生じてしまうのを回避すべく、例えば40000rpm程度を上限とすることも考えられる。つまり、カップ砥石3の回転数は、18000rpm以上、好ましくは20000rpm〜30000rpm程度に設定する。
【0059】
また、回転テーブル2とカップ砥石3との相対位置移動の送り速度については、1.0μm/sec以上15.0μm/sec以下であればよく、好ましくは2.0μm/sec以上15.0μm/sec以下という条件に設定する。つまり、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体の場合の送り速度である2μm/sec(砥石番手#4000の場合)という条件(例えば非特許文献1参照)に比べて、これと同等か、これよりも高速に設定する。
【0060】
他の加工条件については、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対して研削を行う場合と同様で構わない。例えば、回転テーブル2の回転数であれば、1〜100rpmという条件であればよく、好ましくは50rpm程度という条件に設定することが考えられる。また、例えば、電圧印加部6による印加電圧については、30〜150Vという条件であればよく、好ましくは150V程度という条件に設定することが考えられる。
【0061】
なお、本実施形態では、以上に説明した加工条件を採用しつつ、CG加工工程の実行中にELID工程を実行し、カップ砥石3の砥粒部3aに対して自動的に目立て(電解ドレッシング)を行う。したがって、本実施形態では、カップ砥石3の砥粒部3aの砥石番手について、粗いものから細かいものへ段階的に遷移させるといった一般的な手法ではなく、はじめから細かいもの(例えば、砥粒の粒度の番手が#1500〜#4000であればよく、好ましくは#2000程度)を用いて研削加工を行うといったこと、すなわち研削加工(S6)において、粗研削工程(S6a)を経ずに、いきなり精研削工程(S6b)を行うことも実現可能である。つまり、粗研削工程と精研削工程とを纏めた一つの研削工程において、はじめから細かい砥石番手のカップ砥石3を用いて研削加工を行うのである。このように、細かい砥石番手のカップ砥石3を用いれば、粗い砥石番手の場合に比べて、研削加工を行う際の被研削物(ガラス成形体)に対する切り込み量が小さくなる。そのため、脆性材料である難硝材により形成されるガラス成形体に対して研削加工を行う場合であっても、小さく切り込むことで延性モードと同等の研削加工を行うことが可能となり、その結果として加工面の品質確保を実現する上で非常に好適なものとなる。
【0062】
<4.本実施形態の効果>
本実施形態で説明した硝材加工装置1、当該硝材加工装置1が実行する光学ガラスの加工方法、および、当該光学ガラスの加工方法を用いて行う光学ガラスレンズの製造方法によれば、以下に述べる効果が得られる。
【0063】
本実施形態によれば、難硝材により形成されるガラス成形体に対して球面創成加工を行う場合に、CG加工工程の実行中にELID工程を実行しつつ、カップ砥石3の回転数、または、回転数および送り速度の両方が、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対する場合よりも高く設定されているという加工条件で当該CG加工工程を実行する。したがって、難硝材により形成されるガラス成形体を被研削物とする場合であっても、従来技術による難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体を被研削物として想定した加工条件では実現することが困難であった加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立させることができる。つまり、難硝材により形成されるガラス成形体を被研削物とする場合であっても、レンズ表面に傷が深く入ってしまうのを抑制することができ、レンズに適した品質の加工面が確実に得られるようになる。ここで、レンズに適した品質とは、研削加工後かつ研磨処理前の状態において、例えば加工面の表面粗さRzが1μm以下であることをいう。表面粗さRzが1μm以下であれば、その後に行う研磨処理を、高い精度で、かつ、効率的に行うことができるからである。また、レンズ表面の傷を抑制できるので、必要以上に研磨処理に多くの時間や熟練技能等を要することがなく、さらには送り速度等の高速化によりCG加工工程の迅速化(加工時間短縮)も図れるので、その結果として難硝材に対する加工コストが増大してしまうのを抑えることができる。
【0064】
これらのことは、以下に述べる理由によるものと推測される。
本実施形態では、CG加工工程の実行中にELID工程を実行する。そのため、ELID工程による目立て(電解ドレッシング)の作用により、カップ砥石3の砥粒部3aは、ダイヤモンド砥粒が結合材から突出した状態を十分に維持し得るもの、すなわちいわゆる刃が立ったものとなる。しかも、カップ砥石3は、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体の場合よりも高速で回転駆動されている。したがって、難硝材により形成されるガラス成形体の被加工面(すなわちレンズ表面となる部分)からみれば、ELID作用により刃が立った状態のダイヤモンド砥粒が、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対する加工条件の場合よりも単位時間当たり多く擦り付けられることになる。これにより、難硝材により形成されるガラス成形体の被加工面は、削り残しがなく良好に削られた状態となる。また、削り残しが生じないことから、カップ砥石3による研削加工の際の抵抗を低減させることにもなる。これらのことが相俟って、すなわちELID工程を実行しつつカップ砥石3を高速回転させることで、難硝材により形成されるガラス成形体の被加工面は、当該難硝材により形成されるガラス成形体が柔らかく傷が付きやすいという加工困難性を有していても、レンズに適した品質の加工面となる。
さらに、本実施形態では、回転テーブル2とカップ砥石3との送り方向における相対位置移動の送り速度が、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対する場合よりも高く設定されている。つまり、単位時間当たりの相対位置移動の送り量が、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対する場合よりも大きい。一般的には、送り量が大きいと、加工面に傷が入り易くなる。ところが、本実施形態では、カップ砥石3を高速で回転駆動している。したがって、相対位置移動の送り量を大きくすることが可能となり、また送り量を大きくした場合であっても難硝材により形成されるガラス成形体の加工面に傷が入るのを抑制できるのである。このように、単位時間当たりの相対位置移動の送り量を大きくすれば、研削加工に要する時間の短縮が実現可能となり、これに伴って難硝材により形成されるガラス成形体に対する研削加工の効率も向上させることができる。故に、難硝材により形成されるガラス成形体に対する加工コスト増大の抑制が実現可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、カップ砥石3の回転数および送り速度の両方について、難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対する場合よりも高く設定する。したがって、加工面の品質確保と加工コスト抑制との両立が確実なものとなる。例えば、回転数のみを高速化して加工面の品質確保を実現しても、送り速度を高速化しなければ研削加工の効率向上が図れず、必ずしも加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立できるとはいえない。一方、送り速度のみを高速化しても、回転数を高速化しなければ、送りによって加工面に傷が入る可能性が非常に高くなり、この場合も加工面の品質確保と加工コスト抑制とを両立できるとはいえない。つまり、回転数および送り速度の両方の高速化によって、加工面の品質確保と加工コスト抑制との両立が実現可能となるのである。
【0066】
さらに、本実施形態では、上述したように加工面の品質確保と加工コスト抑制との両立が実現可能である。このことは、粗研削前のプレス品(ガラス成形体)に対して短い研削時間で精研削後の加工品質が得られることを意味する。したがって、本実施形態によれば、粗研削工程と精研削工程とを段階的に行うのではなく、これらを一つの研削工程として纏め、当該一つの研削工程において、はじめから細かい砥石番手(例えば#1500〜#4000、好ましくは#2000程度)を用いて研削加工を行うといったことも可能となる。
【0067】
なお、本実施形態は、本発明の好適な実施の一態様を示すものである。すなわち、本発明は、本実施形態の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、本実施形態では、RP品またはDP品といったプレス品10に対して、研削加工(S6)において球面創成加工を行う場合を例に挙げて説明したが、本発明は、「バッチ(ガラス原料)」である「難硝材」を、熔融し、清澄、均質化させ、冷却または成形して得られる「ガラス成形体」であれば、Eバー(板状のガラス体)や浮上成形により成形されたガラス素材(ゴブやプリフォーム)等といったプレス品10以外のものであっても、これらを被研削物として適用することが可能である。なお、ゴブやプリフォームを成形する際、プレス成形を行うことにより製造したガラス成形体を被研削物としてもよい。
【実施例】
【0068】
次に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明が、以下の実施例に限定されないことは勿論である。
図5〜図8は、本発明の実施例1〜実施例15における加工条件を示す説明図である。また、図9は、本発明の比較例1〜比較例3における加工条件を示す説明図である。
【0069】
<実施例1>
実施例1では、難硝材であるFCD1(HOYA株式会社製、nd=1.49700、νd=81.61)により形成されたプレス品に対して球面創成加工を行い、レンズ径35.8mm、表面曲率半径44.72mmの光学ガラスレンズ(球面レンズ)を製造した。球面創成加工は、粗研削工程と精研削工程とを纏めた一つの研削工程において、CG加工工程の実行中にELID工程を実行することによって行った。CG加工工程は、カップ径40mm、砥石番手#2000のカップ砥石3を用い、カップ砥石3の回転軸をα=14°傾けた状態で、以下に述べる加工条件で行った。すなわち、カップ砥石3の回転数を20000rpm、送り速度を2μm/secとした。なお、回転テーブル2の回転数は50rpm、電圧印加部6による印加電圧は150Vとした。また、研削液供給部5が供給する導電性研削液としては、シミロンCG−7(大同化学工業株式会社製)を用いた。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.18μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、50秒であった。
【0070】
<実施例2>
実施例2では、上述した実施例1の場合とは、カップ砥石3の回転数および送り速度が異なる。実施例2では、カップ砥石3の回転数を30000rpm、送り速度を5μm/secとした。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.20μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0071】
<実施例3>
実施例3では、上述した実施例1の場合とは、カップ砥石3の送り速度が異なる。実施例3では、カップ砥石3の送り速度を1μm/secとした。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.60μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、90秒であった。
【0072】
<実施例4>
実施例4では、上述した実施例1の場合とは、カップ砥石3の送り速度および砥石番手が異なる。実施例4では、カップ砥石3の送り速度を10μm/sec、砥石番手を#1500とした。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.22μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0073】
<実施例5>
実施例5では、上述した実施例4の場合とは、カップ砥石3の送り速度が異なる。実施例5では、カップ砥石3の送り速度を15μm/secとした。他の条件は、実施例4の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.27μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0074】
<実施例6>
実施例6では、上述した実施例4の場合とは、カップ砥石3の送り速度およびボンド材の材質が異なる。実施例6では、カップ砥石3の送り速度を2μm/sec、ボンド材の材質をメタルボンドではなくレジンボンドとした。他の条件は、実施例4の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.16μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、50秒であった。
【0075】
<実施例7>
実施例7では、上述した実施例3の場合とは、カップ砥石3の回転数が異なる。実施例2では、カップ砥石3の回転数を18000rpmとした。他の条件は、実施例3の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.87μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、90秒であった。
【0076】
<実施例8>
実施例8では、上述した実施例4の場合とは、難硝材の種類およびカップ砥石3の送り速度が異なる。実施例8では、研削対象物をE-FDS1(HOYA株式会社製、nd=1.92286、νd=20.88)、カップ砥石3の送り速度を5μm/secとした。他の条件は、実施例4の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.08μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0077】
<実施例9>
実施例9では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例9では、研削対象物をFDS18(HOYA株式会社製、nd=1.94595、νd=17.98)とした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.05μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0078】
<実施例10>
実施例10では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例10では、研削対象物をFDS90(HOYA株式会社製、nd=1.84666、νd=23.78)とした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.50μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、25秒であった。
【0079】
<実施例11>
実施例11では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類およびカップ砥石3の送り速度が異なる。実施例11では、研削対象物をPCD4(HOYA株式会社製、nd=1.61800、νd=63.40)、カップ砥石3の送り速度を4μm/secとした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.56μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、30秒であった。
【0080】
<実施例12>
実施例12では、上述した実施例11の場合とは、カップ砥石3の送り速度および砥石番手が異なる。実施例12では、カップ砥石3の送り速度を3μm/sec、石番手を#2000とした。他の条件は、実施例11の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.30μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、40秒であった。
【0081】
<実施例13>
実施例13では、上述した実施例8の場合とは、難硝材の種類およびカップ砥石3の送り速度が異なる。実施例13では、研削対象物をTAFD25(HOYA株式会社製、nd=1.90366、νd=31.32)、カップ砥石3の送り速度を8μm/secとした。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.40μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0082】
<実施例14>
実施例14では、上述した実施例13の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例14では、研削対象物をTAFD35(HOYA株式会社製、nd=1.91082、νd=35.25)とした。他の条件は、実施例13の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.19μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0083】
<実施例15>
実施例15では、上述した実施例13の場合とは、難硝材の種類が異なる。実施例15では、研削対象物をTAFD40(HOYA株式会社製、nd=2.00069、νd=25.46)とした。他の条件は、実施例13の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが0.49μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、20秒であった。
【0084】
<比較例1>
比較例1では、上述した実施例3の場合とは、カップ砥石3の回転数が異なる。比較例1では、カップ砥石3の回転数を15000rpmとした。他の条件は、実施例3の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが1.34μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、90秒であった。
【0085】
<比較例2>
比較例2では、上述した実施例3の場合とは、カップ砥石3の回転数が異なる。比較例2では、カップ砥石3の回転数を6000rpmとした。他の条件は、実施例3の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが2.1μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、90秒であった。
【0086】
<比較例3>
比較例3では、上述した実施例3の場合とは、カップ砥石3の回転数および送り速度が異なる。比較例3では、カップ砥石3の回転数を6000rpm、送り速度を0.5μm/secとした。他の条件は、実施例3の場合と同様である。
以上の加工条件で球面創成加工を行った結果、加工後における難硝材により形成されたレンズのレンズ表面は、表面粗さRzが1.3μmであった。また、削り代を80μmとした場合の加工時間は、170秒であった。
【0087】
<まとめ>
以上に挙げた実施例1〜15および比較例1〜3の結果を勘案すると、研削加工後に加工面の表面粗さRzを1μm以下とするためには、難硝材により形成されたガラス成形体に対する加工条件につき、カップ砥石3の回転数を18000rpm以上、送り速度を1.0μm/sec以上15.0μm/sec以下、砥粒の粒度の番手を#1500〜#4000、印加電圧を30〜150V、ボンド材をメタルボンドまたはレジンボンドのいずれか、回転テーブルの回転数を1rpm〜100rpmとすればよいことがわかる。
【符号の説明】
【0088】
1…硝材加工装置
2…回転テーブル
2a…チャック部
3…カップ砥石
3a…砥粒部
3b…結合材
3c…ダイヤモンド砥粒
3d…不導体被膜
4…電極
5…研削液供給部
6…電圧印加部
7…動作コントローラ
10…難硝材のプレス品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラスである難硝材により形成されるガラス成形体に対し、回転駆動されるカップ砥石を当接させて、当該ガラス成形体の被加工面を球面形状に研削するカーブジェネレーティング工程と、
前記カーブジェネレーティング工程の実行中に、前記カップ砥石と当該カップ砥石の対向電極との間に導電性研削液を供給しつつ電圧を印加して、前記カップ砥石に対する電解ドレッシングを行う電解インプロセスドレッシング工程と、を備え、
前記カーブジェネレーティング工程は、前記カップ砥石の回転数、または、前記カップ砥石の回転数および前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接圧可変方向における相対位置移動の送り速度の両方が、前記難硝材以外の硝材により形成されるガラス成形体に対して研削を行う場合よりも高く設定されている
ことを特徴とする光学ガラスの加工方法。
【請求項2】
前記難硝材は、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸ニオブ含有の高屈折率高分散ガラス、または、ホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラスのいずれか1つの形成材料となるものである
ことを特徴とする請求項1記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項3】
前記難硝材は、摩耗度FAが45以上95以下である光学ガラス、または、160以上500以下となる光学ガラスの形成材料となるものであり、
前記難硝材以外の硝材は、摩耗度FAが95超160未満となるガラスの形成材料となるものである
ことを特徴とする請求項1または2記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項4】
前記カーブジェネレーティング工程における前記カップ砥石の回転数は18000rpm以上であり、かつ、前記難硝材により形成される前記ガラス成形体と前記カップ砥石の当接可変方向における相対位置移動の送り速度は1.0μm/sec以上で15.0μm/sec以下である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項5】
前記カップ砥石は、前記被研削面を研削する砥粒と、当該砥粒を結合するボンド材を含み、
前記砥粒の粒度が#1500〜#4000である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項6】
前記電解インプロセスドレッシング工程において印加する電圧は、30〜150Vである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項7】
前記ボンド材は、メタルボンド、または、レジンボンドからなる
ことを特徴とする請求項5記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項8】
前記カーブジェネレーティング工程は、前記難硝材により形成される前記ガラス成形体が回転テーブルにチャックされた状態で行われ、前記回転テーブルの回転数が1rpm〜100rpmである
ことを特徴とする請求項1〜7記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学ガラスの加工方法を用いて、前記難硝材により形成される前記ガラス成形体から光学ガラスレンズを製造する光学ガラスレンズの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−210699(P2012−210699A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53774(P2012−53774)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】