説明

光学ガラスの製造方法及び光学機器

【課題】低いアッベ数を有しながらも、着色が少ないガラスを得ることが可能な、光学ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】光学ガラスの製造方法は、P成分と、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上と、を必須成分として含有する光学ガラスを製造する方法であって、ガラス原料を溶解後に急冷してカレットを作成するカレット作製工程を含み、前記カレット作製工程における溶解炉内の温度を、生成されるガラスの液相温度よりも0〜200℃高い温度範囲に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスの製造方法及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズを使用する光学機器の高機能化が急速に進められており、これに伴って光学レンズに対する高精度化の要求が強まっている。これら高精度化に対する市場の要求としては、具体的にはガラス内部の均質性が高いこと、透過率が極めて高いこと、屈折率やアッベ数といった光学特性が一定であること等が挙げられるが、これらを実現するために種々の方法が公知である。
【0003】
かかる方法として、Pを含有するガラス原料を用い、このガラス原料を石英坩堝又は白金坩堝で約1000℃〜1200℃でガラス化させ、得られた粗ガラス(カレット)を白金坩堝で溶解、脱泡及び清澄させた後で降温し、これを流出パイプより流出させて成形型に鋳込む工程を有する方法が公知である(特許文献1参照)。
【0004】
また、Pを含有するガラス原料を石英坩堝又は白金坩堝に移し、1000〜1300℃で溶融したガラス原料を均質化した後、坩堝から流出させて金型に鋳込み、徐冷する工程を有する方法が公知である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−293572号公報
【特許文献2】特開平06−345481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された方法を用いて光学ガラスを作製した場合、得られるガラスは着色して光線透過率が低く、又は失透するため、可視光のうち特に短波長側の光を透過させる用途には用いることができない。
【0007】
特に、特許文献2に記載された方法では、冷却後に(ガラス転移温度−100℃)の温度以上に再昇温して熱処理することが必須となっている。しかしながら、特許文献2に記載された方法で形成される熱処理後のガラスであっても、光線透過率が十分に高くないため、可視光の特に短波長側の光を透過させる用途には用いることができない。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、P成分を含有するガラスにおいて、可視光に対する透過率が高く着色が少ないガラスを得ることが可能な、光学ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、原料ガラスにP成分と、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上と、を含有させた上で、形成されるガラスの液相温度より0〜200℃高い温度で原料ガラスを溶解した後に急冷するカレット作製工程を行うことで、高分散を有するガラスを作製することが可能であり、且つガラスの可視光に対する透過率が高いカレットが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) P成分と、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上と、を必須成分として含有する光学ガラスを製造する方法であって、
ガラス原料を溶解後に急冷してカレットを作成するカレット作製工程を含み、
前記カレット作製工程における溶解炉内の温度を、生成されるガラスの液相温度よりも0〜200℃高い温度範囲に保持する方法。
【0011】
(2) 前記ガラス原料として、正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上を含んだ原料を用いる(1)記載の方法。
【0012】
(3) 前記ガラス原料を溶解させる際に、正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上と、他原料と、を混合して前記溶解炉に供給する(2)記載の方法。
【0013】
(4) 正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上と、他原料と、を混合して粉粒体を形成させてから、前記粉粒体を液相温度よりも0〜200℃高い温度範囲に保持した溶解炉に分割して供給する(2)又は(3)記載の前記方法。
【0014】
(5) 前記粉粒体を前記溶解炉に分割して供給する際に、既に溶解された粉粒体の発泡が略完結した後に新たな粉粒体を供給する(4)の方法。
【0015】
(6) 前記溶解中の前記溶解炉内の酸素濃度を5%以上に保持する(1)から(5)いずれか記載の方法。
【0016】
(7) 前記溶解中の前記溶解炉内の温度を1300℃未満に調整する(1)から(6)いずれか記載の方法。
【0017】
(8) 酸化物基準の質量%で、Pを10.0〜40.0%、並びにNb、TiO及びWOからなる群より選択される1種以上を10.0〜70.0%含有する光学ガラスを製造する(1)から(7)いずれか記載の方法。
【0018】
(9) 酸化物基準の質量%で、Nb成分及びTiO成分からなる群より選択される1種以上を30.0%以上含有する光学ガラスを製造する(8)記載の方法。
【0019】
(10) 酸化物基準の質量%で、
Sb成分 0〜0.5%未満及び/又は
SnO成分 0〜1.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する(1)から(9)いずれか記載の方法。
【0020】
(11) 酸化物基準の質量和Sb+SnOが1.5%以下である光学ガラスを製造する(10)記載の方法。
【0021】
(12) 酸化物基準の質量%で、
LiO成分 0〜20.0%及び/又は
NaO成分 0〜35.0%及び/又は
O成分 0〜20.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する(1)から(11)いずれか記載の方法。
【0022】
(13) 酸化物基準の質量和LiO+NaO+KOが35.0%以下である光学ガラスを製造する(12)記載の方法。
【0023】
(14) 酸化物基準の質量%で、
MgO成分 0〜5.0%及び/又は
CaO成分 0〜10.0%及び/又は
SrO成分 0〜10.0%及び/又は
BaO成分 0〜30.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する(1)から(13)いずれか記載の方法。
【0024】
(15) 酸化物基準の質量和MgO+CaO+SrO+BaOが30.0%以下である光学ガラスを製造する(14)記載の方法。
【0025】
(16) 酸化物基準の質量%で、
成分 0〜10.0%及び/又は
La成分 0〜10.0%及び/又は
Gd成分 0〜10.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する(1)から(15)のいずれか記載の方法。
【0026】
(17) 酸化物基準の質量和Y+La+Gdが20.0%以下である光学ガラスを製造する(16)記載の方法。
【0027】
(18) 酸化物基準の質量%で、
SiO成分 0〜10.0%及び/又は
成分 0〜10.0%及び/又は
GeO成分 0〜10.0%及び/又は
Bi成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜10.0%及び/又は
ZnO成分 0〜10.0%及び/又は
Al成分 0〜10.0%及び/又は
Ta成分 0〜10.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する(1)から(17)のいずれか記載の方法。
【0028】
(19) 1.70以上2.20以下の屈折率(nd)を有し、10以上25以下のアッベ数(νd)を有する光学ガラスを製造する(1)から(18)のいずれか記載の方法。
【0029】
(20) アッベ数(νd)が19未満の光学ガラスを製造する(1)から(19)いずれか記載の方法。
【0030】
(21) 前記成形工程を行ったガラスを(Tg−200)℃以上(Tg+100)℃以下の再加熱温度に昇温させる再加熱試験の前後における、分光透過率が70%を示す波長(λ70)の差が500nm以下の光学ガラスを製造する(1)から(20)いずれか記載の方法。
【0031】
(22) (1)から(21)いずれか記載の方法で製造される光学ガラスを用いる光学機器。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、原料ガラスにP成分と、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上と、を含有させた上で、得られるガラスの液相温度より0〜200℃高い温度で原料ガラスを溶解した後に急冷するカレット作製工程を行うことで、高分散を有するガラスを作製することが可能であり、且つガラスの可視光に対する透過率が高いカレットが得られる。そのため、所望の光学特性、特に低いアッベ数を有しながらも、可視光に対する透過率が高く着色が少ないガラスを得ることが可能な、光学ガラスの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の光学ガラスの製造方法は、P成分と、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上と、を必須成分として含有する光学ガラスを製造する方法であって、ガラス原料を溶解後に急冷してカレットを作成するカレット作製工程を有し、前記カレット作製工程をガラスの液相温度より0〜200℃高い温度にて行う。これにより、Nb成分、TiO成分及びWO成分より選択される1種以上によって屈折率及び分散が高められながらも、所定温度でのカレット作製工程によって、形成されるカレットの可視光についての透過率が高められる。そのため、所望の光学特性を有しつつ、着色を少なくすることが可能なガラスを得ることができる。
【0034】
以下、本発明の光学ガラスの製造方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0035】
[ガラス原料]
まず、本発明の製造方法で用いられるガラス原料について説明する。本発明で用いられるガラス原料は、Pと、Nb、TiO及びWOからなる群より選択される1種以上と、を必須成分として含有し、且つガラスを形成可能な原料の中から適宜選択される。その中でも、以下に述べるようなガラス原料を用いることが好ましい。
【0036】
以下、本発明で用いられるガラス原料を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明でガラス原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶解時及び/又は溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス原料中に含有される各成分を表記した組成である。
【0037】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス形成成分であり、ガラスの溶解温度を下げる成分である。特に、P成分の含有率を10.0%以上にすることで、ガラスの可視域における透過率を高めつつ、ガラスの安定性を高めて耐失透性を高めることができる。一方、P成分の含有率を40.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するP成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは20.0%を下限とし、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。P成分は、正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上、例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス原料に含有できるが、正リン酸(HPO)を用いてガラス原料に含有することが好ましい。これにより、P成分を原料ガラスに含有したときに一緒に含有される、アルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分等が低減されるため、ガラスの屈折率の低下や液相温度の上昇を抑えることができ、ひいては所望の光学特性及び光線透過率を有する光学ガラスを得ることができる。また、P成分を原料ガラスに含有したときに一緒に含有される各成分が低減されることで、原料ガラスの組成の自由度が高められるため、よりアッベ数の低い光学ガラスを得ることができる。
【0038】
Nb成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、Nb成分の含有率を60.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めて耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは60.0%、より好ましくは58.0%、最も好ましくは56.0%を上限とする。なお、Nb成分は含有しなくとも技術的な不利益はないが、Nb成分の含有率を10.0%以上にすることで、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは30.0%を下限とする。Nb成分は、例えばNb等を用いてガラス原料に含有できる。
【0039】
TiO成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、TiO成分の含有率を30.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めて耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは30.0%、より好ましくは28.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。ここで、高い屈折率及び分散を得つつ、ガラスの可視光に対する透過率が特に高められる点では、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%を上限とし、最も好ましくは10.0%未満とする。なお、TiO成分は含有しなくとも技術的な不利益はないが、TiO成分を0.1%以上含有することで、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。ここで、ガラスの化学的耐久性をより高める観点で、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiOの含有率を、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、最も好ましくは14.0%以上にしてもよい。TiO成分は、例えばTiO等を用いてガラス原料に含有できる。
【0040】
WO成分は、ガラスの屈折率及び分散を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、WO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めるとともに、短波長の可視光に対するガラスの透過率の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、WO成分は含有しなくとも技術的な不利益はないが、WO成分を0.1%以上含有することで、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。WO成分は、例えばWO等を用いてガラス原料に含有できる。
【0041】
本発明で用いられるガラス原料は、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上を含有する。特に、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上の質量和を10.0%以上にすることにより、ガラスの屈折率及び分散が高められるため、所望の高屈折率及び高分散を有しつつ、ガラスから形成される光学素子を用いた光学系の小型化を図ることができる。一方で、これらの1種以上の質量和を70.0%以下にすることにより、ガラスの耐失透性が高められるため、所望の高い透過率を有するガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対する、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上の質量和は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは20.0%を下限とし、好ましくは70.0%、より好ましくは68.0%、最も好ましくは66.0%を上限とする。
【0042】
特に、本発明は、Nb成分及び/又はTiO成分を30.0%以上含有するガラス原料を用いる場合に有用である。本発明の方法によれば、所望の高屈折率及び高分散が得られながらも、以下に述べるSb成分及び/又はSnO成分を単に加えるだけでも低減することが困難な、Nb成分及び/又はTiO成分の還元によるガラスの着色が低減される。そのため、所望の光学特性を有しつつ、着色を少なくすることが可能な光学ガラスを得ることができる。従って、Nb成分及び/又はTiO成分の1種以上の含有率は、好ましくは30.0%、より好ましくは35.0%、最も好ましくは40.0%を下限とする。
【0043】
Sb成分は、短波長の可視光に対するガラスの透過率を高める成分であるとともに、ガラスを溶解及び溶融する際に脱泡効果を有する成分である。特に、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、Sb成分から放出される酸素による溶解設備(特にPt等の貴金属)のカレットへの溶存が低減されるため、ガラスの着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.6%を上限とする。ここで、ガラスの可視光に対する光線透過率をより高められる観点では、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.4%未満、最も好ましくは0.3%未満とする。Sb成分は、例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス原料に含有することができる。
【0044】
SnO成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であるとともに、短波長の可視光に対するガラスの透過率を高める成分である。特に、SnO成分の含有量を1.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.25%、最も好ましくは0.1%を上限とする。SnO成分は、例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラス原料に含有することができる。
【0045】
本発明で用いられるガラス原料は、Sb成分及びSnO成分からなる群より選択される1種以上を含有することが好ましい。これにより、ガラスを溶解及び溶融する際に、ガラス成分、特にNb成分、TiO成分及びWO成分の還元が低減される。そのため、Nb成分、TiO成分及びWO成分の還元によって低下しがちな、ガラスの可視光についての透過率を高めることが出来ることで、カレットの着色を低減することができ、ひいてはガラスの着色を低減することができる。特に、Sb成分及びSnO成分からなる群より選択される1種以上を含有する場合、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対する、Sb成分及びSnO成分からなる群より選択される1種以上の質量和は、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.005%、最も好ましくは0.010%を下限とする。一方で、Sb成分及びSnO成分からなる群より選択される1種以上の質量和を1.5%以下にすることで、Sb成分及びSnO成分から放出される酸素によるカレットへの溶解設備(特にPt等の貴金属)の溶存が低減されるため、ガラスの着色を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対する、Sb成分及びSnO成分からなる群より選択される1種以上の質量和は、好ましくは1.5%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは0.5%を上限とする。
【0046】
LiO成分は、ガラス転移点(Tg)を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、LiO成分の含有率を20.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得易くすることができ、ガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。なお、LiO成分は含有しなくとも所望の高分散及び高透過率を有する光学ガラスを得ることは可能であるが、LiO成分を0%より多く含有することで、ガラス転移点(Tg)が低くなるため、高い分散を有しつつ低い温度で軟化し易いガラスを得ることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.3%より多くし、最も好ましくは0.5%を下限とする。LiO成分は、例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0047】
NaO成分は、ガラス転移点(Tg)を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、NaO成分の含有率を35.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得易くすることができ、ガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは35.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。なお、NaO成分は含有しなくとも所望の特性を備えた光学ガラスを得ることができるが、NaO成分を0.1%以上含有することで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。NaO成分は、例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0048】
O成分は、ガラス転移点(Tg)を下げる成分であるとともに、ガラス形成時の耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、KO成分の含有率を20.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得易くすることができ、ガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、KO成分は含有しなくとも所望の特性を備えた光学ガラスを得ることができるが、KO成分を0.1%以上含有することで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全物質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.15%、最も好ましくは0.2%を下限とする。KO成分は、例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0049】
本発明では、LiO成分、NaO成分、及びKO成分の少なくともいずれかをガラス原料に含有することが好ましく、2種以上の成分を含有することがより好ましい。これにより、光学ガラスのガラス転移点(Tg)が低くなるため、プレス成形における成形温度を下げることができ、プレス成形を行った後における表面の凹凸や曇りを低減できる。また、光学ガラスの液相温度が低くなって耐失透性が高められるため、所望の光線透過率を有する光学ガラスをより安定的に作製できる。
【0050】
さらに、このガラス原料は、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和が、35.0%以下であることが好ましい。特に、RnO成分の含有率の質量和が35.0%以下であることにより、ガラスの屈折率の低下が抑えられるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。また、ガラスの安定性が高められるため、ガラスへの失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するRnO成分の含有率の質量和は、好ましくは35.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。なお、RnO成分は含有しなくとも所望の特性を備えた光学ガラスを得ることができるが、RnO成分の含有率の質量和が0.1%以上であることにより、ガラスの高分散化を図りつつ、ガラス転移点(Tg)を下げ、ガラスの耐水性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するRnO成分の含有率の質量和は、好ましくは0.1%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは7.0%を下限とする。
【0051】
BaO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、BaO成分の含有率を30.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得易くし、耐失透性や化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは30.0%、より好ましくは28.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。ここで、特に分散の大きい(アッベ数の小さい)ガラスが得られる点では、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは17.0%、より好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは7,0%未満、最も好ましくは4.5%未満とする。なお、BaO成分は含有しなくとも所望の高い分散と、可視光に対する高い透明性と、高い耐失透性とを備えた光学ガラスを得ることができるが、BaO成分を0.1%以上含有することで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。ここで、ガラスの液相温度をより低くしつつ、ガラスの耐洗剤性を高める観点で、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率を、好ましくは7.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは15.0%を下限としてもよい。BaO成分は、例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0052】
MgO成分は、ガラスの液相温度を下げることでガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、MgO成分の含有率を5.0%以下にすることで、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するMgO成分の含有率は、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。MgO成分は、例えばMgCO、MgF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0053】
CaO成分は、ガラスの液相温度を下げることでガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、CaO成分の含有率を10.0%以下にすることで、所望の高屈折率及び高分散を得易くし、耐失透性や化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するCaO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。CaO成分は、例えばCaCO、CaF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0054】
SrO成分は、ガラスの液相温度を下げることでガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、SrO成分の含有率を10.0%以下にすることで、所望の高屈折率及び高分散を得易くし、耐失透性や化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するSrO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。SrO成分は、例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0055】
このガラス原料は、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和が、30.0%以下であることが好ましい。これにより、RO成分による屈折率及び分散の低下が抑えられるため、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するRO成分の含有率の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。なお、RO成分はいずれも含有しなくとも所望の特性を備えた光学ガラスを得ることができるが、RO成分の少なくともいずれかを0.1%以上含有することで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの耐失透性をより高めることができる。従って、この場合における酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するRO成分の含有率の質量和は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。
【0056】
La成分、Gd成分及びY成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、Ln成分(式中、LnはY、La、Gdからなる群より選択される1種以上)の含有率を所定以下にすることで、Ln成分によるアッベ数の上昇が抑えられるため、所望の高分散を得易くすることができる。また、Ln成分の含有率を所定以下にすることにより、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの耐失透性を高めて光線透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するLn成分の各々の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。また、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するLn成分の合計の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。Ln成分は、例えばY、YF、La、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF等を用いてガラス原料に含有できる。
【0057】
SiO成分は、着色を低減して短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、ガラスの液相温度を低くしてガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、SiO成分の含有率を10.0%以下にすることで、SiO成分による屈折率の低下が抑えられるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とし、最も好ましくは2.0%未満とする。SiO成分は、例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス原料に含有できる。
【0058】
成分は、ガラスの液相温度を低くして耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、B成分の含有率を10.0%以下にすることで、B成分による屈折率の低下が抑えられるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料中の全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。B成分は、例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス原料に含有できる。
【0059】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの液相温度を低くしてガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、GeO成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するGeO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。GeO成分は、例えばGeO等を用いてガラス原料に含有できる。
【0060】
Bi成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラスの分散を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、Bi成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を低くして耐失透性の低下を抑えることができるため、ガラスの透過率の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するBi成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満とし、最も好ましくは5.0%未満とする。
【0061】
ZrO成分は、可視光に対する透過率を高めるとともに、ガラスの耐失透性を高めてガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有率を10.0%以下にすることで、ZrO成分による屈折率の低下が抑えられるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。ZrO成分は、例えばZrO、ZrF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0062】
ZnO成分は、ガラスの液相温度を下げることでガラスの耐失透性を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有率を10.0%以下にすることで、所望の高屈折率及び高分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。ZnO成分は、例えばZnO、ZnF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0063】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を向上し、ガラス溶解時及び溶融時の粘度を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、Al成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの溶解性及び溶融性を高めつつ、ガラスの失透傾向を弱めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するAl成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0064】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高める成分であり、ガラス原料中の任意成分である。特に、Ta成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス原料の全質量に対するTa成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは4.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス原料内に含有できる。
【0065】
<含有すべきでない成分について>
ガラス原料には、ガラスの特性を損なわない範囲で、他の成分を必要に応じて添加できる。しかしながら、Ti、Nb及びWを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、ガラスの着色を起こり易くして、本発明の光線透過率に関する効果を減殺する性質がある。従って、これらの遷移金属成分は、含有量を低減させることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0066】
また、PbO等の鉛化合物、及び、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄できる。
【0067】
[カレット作製工程]
カレット作製工程は、溶解炉に供給された上述のガラス原料の少なくとも一部を混合してなるバッチを溶解した後で冷却し、カレットを形成する工程である。カレット作製工程でTi,Nb,W等の遷移金属成分の還元による黒変の少ないカレットを形成することにより、カレットを溶融してガラスを作製するまでの遷移金属成分の還元が、ガラスに含まれるSb成分及び/又はSnO成分等の成分から放出される酸素によって消失できる程度に低減される。それとともに、カレット作製工程で溶解設備からの成分の溶出が少ないカレットを形成することにより、カレットから得られるガラスの着色も低減し易くなる。そのため、可視光の透過率の高い光学ガラスを得易くすることができる。また、ガラス原料のガラス化が複数回に分かれることで、ガラス原料のガラス化がより進められ易くなるため、耐失透性の高い光学ガラスを得ることができる。
【0068】
上述のガラス原料のうち、正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上を他の原料と混合して粉粒体を形成し、混合したガラス原料を溶解炉に供給することが好ましい。これにより、遅くともガラス原料が加熱されて正リン酸や複合塩の反応が始まるまでの間に、ガラス原料が液体状の正リン酸及びその複合塩によって湿潤し、ガラス原料に隣接していた雰囲気が排出されると推測される。そのため、正リン酸や複合塩が加熱により脱水する際や、加熱により脱水した正リン酸や複合塩と他の原料とが反応する際に発生する気体の量を低減でき、カレット作製時の原料ガラス内の伝熱性を高めることができると推測される。従って、カレット作製時の溶け残りを低減することができるため、所望の高分散を有し且つ均質な光学ガラスを得ることができる。ここで、正リン酸及びその複合塩は、加温された液体状のものを用いてもよく、冷却された粉末状のものを用いてもよい。特に、前者を用いることにより、原料ガラスの加熱前にガラス原料に隣接していた雰囲気が排出されると推測されるため、原料ガラスをより均等に加熱できる。一方で、後者を用いることにより、混合時に他の材料が正リン酸及びその複合塩によって濡れ難くなるため、正リン酸や複合塩と他の材料との混合を容易にできる。なお、本明細書における「溶融ガラス」は、ガラス化した後の溶融状態のガラス原料に加えて、ガラス化する前の溶解されたガラス原料をも含むものとする。
【0069】
このとき、正リン酸や複合塩と他原料とを混合して形成させた粉粒体は、後述のカレット形成温度に保持した溶解炉に分割して供給することが特に好ましい。特に、粉粒体を異なるタイミングに分割して供給することにより、粉粒体の加熱によって発生する気体が原料ガラスから複数回に分かれて排出されるため、原料ガラスからの単位時間当たりの気体発生量を低減できる。すなわち、原料ガラスをより均等に加熱することができ、原料ガラスの溶け残りを低減できる。一方、粉粒体を溶解炉内の異なる位置から分割して供給することにより、粉粒体の加熱によって発生する気体が原料ガラスから複数箇所に分かれて排出されるため、原料ガラスからの局所的な気体の発生を低減できる。すなわち、原料ガラスをより均等に加熱することができ、原料ガラスの溶け残りを低減できる。また、粉粒体を溶解炉内の異なるタイミング及び/又は異なる位置から分割して供給することにより、粉粒体による局所的な温度の低下が抑えられるため、粉粒体の加熱温度をカレット形成温度に保持し易くでき、ガラス成分の結晶化による失透を低減できる。
【0070】
粉粒体を異なるタイミングに分割して溶解炉に供給する場合、既に溶解された粉粒体の発泡が略完結した後に新たな粉粒体を供給することが好ましい。これにより、既に溶解された粉粒体からの発泡と新たな粉粒体からの発泡とが同時に起こらなくなるため、原料ガラスからの単位時間当たりの気体発生量をより低減でき、原料ガラスの溶け残りをより低減できる。ここで、粉粒体を供給してから粉粒体の発泡が略完結するまでの時間は、原料ガラスからの単位時間当たりの気体発生量を低減できる観点から、好ましくは30分、より好ましくは40分、最も好ましくは60分を下限とする。一方で、粉粒体を供給してから粉粒体の発泡が略完結するまでの時間は、溶解炉に含まれる成分の溶融ガラスへの溶出を低減できる観点から、好ましくは5時間、より好ましくは4時間、最も好ましくは3時間を上限とする。
【0071】
カレット作製工程で原料ガラスを溶解するカレット作製温度は、得られるガラスの液相温度との関係で、(液相温度+200℃)以下である。また、カレット作製温度は、(液相温度+180℃)以下であることがより好ましく、(液相温度+160℃)以下であることが最も好ましい。これにより、溶解した原料ガラスからの気体成分、特に酸素成分の過剰な蒸発が低減される。そのため、形成されるカレットに含まれる遷移金属成分、特に高分散をもたらすことが可能なNb成分、TiO成分及び/又はWO成分の還元によるカレットの着色が、ガラスに含まれるSb成分及び/又はSnO成分等の成分から放出される酸素によって消失できる程度に低減される。すなわち、所望の高分散を有しつつ、可視光についての透過率を高めることが可能な光学ガラスを得ることができる。また、このカレット作製温度は、1250℃未満が好ましく、1200℃未満がより好ましく、1180℃未満が最も好ましい。これにより、溶解炉に含まれる成分の溶融ガラスへの溶出が低減されるため、これらの成分によるカレットの着色を低減でき、且つ溶解炉の長寿命化を図ることができる。
【0072】
一方、このカレット作製温度は、得られるガラスの液相温度以上、より好ましくは(液相温度+10℃)以上、最も好ましくは(液相温度+20℃)以上に設定する。これにより、溶解したガラス成分の結晶化が低減され、得られるカレットに失透が発生し難くなるため、安定性が高い光学ガラスを得ることができる。また、カレット作製工程における溶融ガラスのカレット作製温度は、1020℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましく、1080℃以上が最も好ましい。これにより、原料ガラスの溶け残り、特に高分散成分の溶け残りが生じ難くなるため、所望の高分散を有し且つ均質な光学ガラスを得ることができる。
【0073】
ここで、得られるガラスの液相温度は、原料ガラスと同じ組成を有するガラスから形成され、直径2mm程度の粒状に粉砕したガラス試料を白金板上に載せ、800℃から1220℃の温度傾斜のついた炉内で30分間保持した後取り出し、冷却後にガラス中の結晶の有無を倍率80倍の顕微鏡にて観察することで測定される、ガラス中に結晶が認められず失透が生じない最も低い温度から求められる。
【0074】
なお、本願明細書における「カレット作製温度」は、カレット作製工程において溶解炉に滞留する溶融ガラスの平均温度を用いることが好ましい。より具体的には、溶解炉の上部における溶融ガラスの温度と、溶解炉の下部における溶融ガラスの温度と、の平均を用いることが好ましい。これにより、特に溶融ガラスの内部で温度勾配が生じている場合であっても、溶融ガラスの黒変やガラス成分の結晶化が抑えられ易くなるため、可視光の透過率の高い光学ガラスを得易くすることができる。ここで、溶解炉の上部及び下部における溶融ガラスの温度は、例えば溶解炉の内部や壁面に設けられた熱電対を用いて求めることができる。また、溶解炉の上部における溶融ガラスの温度は、放射温度計を用いて求めることもできる。
【0075】
原料ガラスの溶解により得られる溶融ガラスを保持する時間は、溶解炉の形状や容量等によって適宜選択される。より具体的には、原料ガラスが供給された後で溶融ガラスを保持する時間は、0.5時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、5時間以上が最も好ましい。これにより、原料ガラスの溶け残り、特に高分散成分の溶け残りが生じ難くなるため、所望の高分散を有し且つ均質な光学ガラスを得ることができる。一方で、溶融ガラスを保持する時間は、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、8時間以下が最も好ましい。これにより、溶融ガラスと溶解炉との接触時間が短くなり、溶解炉に含まれる成分の溶融ガラスへの溶出が低減されるため、これらの成分によるガラスの着色を低減できる。
【0076】
なお、本願明細書において上述の溶融ガラスを保持する時間は、溶融ガラスが上述のカレット作製温度の範囲内で溶解炉に滞留する平均の時間を指す。例えば、原料ガラスの供給及び排出速度が一定の場合、ガラス原料の溶解炉への供給を開始する時点(原料ガラスの供給後に原料ガラスをカレット作製温度に加熱する場合は、供給されたガラス原料の温度が上述のカレット作製温度に達する時点)からガラス原料の溶解炉からの排出を開始する時点(又は、溶解炉の温度が上述のカレット作製温度以下に冷却される時点)までの時間をΔtab、ガラス原料の溶解炉への供給を終了する時点(原料ガラスの供給後に原料ガラスをカレット作製温度に加熱する場合は、供給されたガラス原料の温度が上述のカレット作製温度に達する時点)からガラス原料の溶解炉からの排出を終了する時点(又は、溶解炉の温度が上述のカレット作製温度以下に冷却される時点)までの時間をΔtcdとしたとき、溶融時間Δtは、以下の式(1)より求められる。
【数1】

【0077】
カレット作製工程で原料ガラスを溶解し、これを保持している間、溶解炉内の酸素濃度は、5%以上に保持することが好ましい。これは、バッチからカレットを作製するカレット作製工程での雰囲気調整が、遷移金属の酸化還元に非常に影響する為である。溶解炉内の酸素濃度を5%以上に保持して還元雰囲気が弱い状態を溶解炉内で形成することで、カレットに含まれるTi,Nb,W等の高分散をもたらす遷移金属成分の還元が低減される。そのため、400〜450nmと600〜700nm近辺の吸収が小さく、可視光に対する透明性を高くすることが可能な光学ガラスを得ることができる。ここで、溶解炉内の酸素濃度は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、最も好ましくは15%以上である。なお、本願明細書における「酸素濃度」は、溶解炉内における平均の酸素濃度を指す。一方で、溶解炉内の酸素濃度は、30%以下に保持することが好ましい。これにより、溶融ガラスへの酸素の過剰な溶け込みが低減されるため、溶解設備からの成分の溶出が少ないカレットを形成できる。ここで、溶解炉内の酸素濃度は、好ましくは30%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。
【0078】
溶融ガラスを所定時間にわたって保持した後、溶融ガラスを常温まで冷却してカレットを形成する。これにより、Ti,Nb,W等の高分散をもたらす遷移金属成分が含まれながらも、溶解設備からの成分の溶出が少なく、着色の少ないカレットが得られるため、アッベ数が小さく且つ可視光の透過率の高い光学ガラスを作製し易くすることができる。
【0079】
[光学ガラスの作製]
本発明の製造方法は、上述のカレット作製工程で作製されたカレットを用いて溶融槽に供給して光学ガラスを作製する。光学ガラスの作製手順は特に限定されないが、例えば、カレットから溶融ガラスを形成する溶融工程、溶融したガラス原料を所定時間にわたり滞留させて清澄させる清澄工程、清澄した溶融ガラスを攪拌して気泡を除去する攪拌工程、攪拌された溶融ガラスを攪拌槽から流出させる流出工程、及び、所定の流量で供給される溶融ガラスを成形する成形工程を行うことで、光学ガラスが作製される。
【0080】
本発明の製造方法では、溶融工程、清澄工程、攪拌工程、流出工程及び成形工程を通じて、溶融ガラスの温度を1300℃未満に調整することが好ましく、液相温度よりも250℃以上高くならないように調整することが好ましい。これにより、溶融ガラスからの酸素の過剰な蒸発が低減されて遷移金属成分の還元が低減され、且つ、溶融槽に含まれる成分の溶出が低減される。従って、可視光の透過率が高いカレットの特性を生かした光学ガラスを得ることができる。ここで、本発明の製造方法における溶融ガラスの温度は、好ましくは1300℃未満、より好ましくは1250℃未満、最も好ましくは1240℃未満になるように調整する。また、得られるガラスの液相温度に対する相対的な温度の観点では、本発明の製造方法における溶融ガラスの温度は、(液相温度+250℃)未満であることが好ましく、(液相温度+220℃)未満であることがより好ましく、(液相温度+200℃)未満であることが最も好ましい。
【0081】
また、本発明の製造方法では、溶融工程、清澄工程、攪拌工程及び流出工程に要する時間は、各工程による作用効果が得られる範囲内で短いことが好ましい。より具体的には、溶融工程、清澄工程、攪拌工程及び流出工程に要する合計の時間は、24時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましく、15時間以下が最も好ましい。これにより、溶融ガラスからの酸素の過剰な蒸発が低減されて遷移金属成分の還元が低減され、且つ、溶融槽に含まれる成分の溶出が低減される。従って、可視光の透過率が高いカレットの特性を生かした光学ガラスを得ることができる。一方、これら工程の合計時間の下限は特に限定されず、技術水準に応じて適宜決定されるものであるが、概ね3時間以上であることが多い。
【0082】
[光学ガラス]
本発明により作製される光学ガラスは、高い屈折率(n)を有するとともに、高い分散を有する必要がある。特に、光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.70、より好ましくは1.75、最も好ましくは1.80を下限とし、好ましくは2.20、より好ましくは2.15、最も好ましくは2.10を上限とする。また、光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは25、より好ましくは22、最も好ましくは19を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、更に素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。特に、本発明の方法は、アッベ数(νd)が19未満、より具体的には18.5未満、さらに具体的には18未満の高分散を有する光学ガラスを製造する際に有用である。本発明の方法によれば、高分散を有するガラスを形成する際に生じるガラスの着色が低減される。特に、原料ガラスにSb成分及び/又はSnO成分を用いる場合には、単にSb成分及び/又はSnO成分を加えるだけでは低減することが困難な、ガラスの着色すらも低減される。そのため、所望の高分散を有しつつ、着色を低減することが可能な光学ガラスを得ることができる。なお、光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されず、技術水準に応じて適宜決定されるものであるが、本発明によって得られる光学ガラスのアッベ数(ν)は、概ね10以上、具体的には12以上、さらに具体的には15以上であることが多い。
【0083】
また、本発明により作製される光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明により作製される光学ガラスは、(Tg−200)℃以上(Tg+100)℃以下の再加熱温度に昇温させる再加熱試験の後において、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が500nm以下であり、より好ましくは480nm以下であり、最も好ましくは450nm以下である。ガラスに対して再加熱を行うことで、ガラス中への不純物の溶存が抑えられつつ、ガラスが除歪される。特に、原料ガラスにSb成分及び/又はSnO成分を用いる場合には、ガラスに還元された状態で含まれていた遷移金属成分がSb成分及び/又はSnO成分によって酸化されて、着色が低減される。以上のことから、得られるガラスの吸収端を紫外領域の近傍に位置することができ、可視域におけるガラスの透明性を高められる。従って、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として用いることができる。
【0084】
また、本発明により作製される光学ガラスは、再加熱した際に色の変化が少ないことがより好ましい。特に、本発明により作製される光学ガラスは、(Tg−200)℃以上(Tg+100)℃以下の再加熱温度に昇温させる再加熱試験の前後において、分光透過率が70%を示す波長(λ70)の差が500nm以下であり、より好ましくは300nm未満であり、さらに好ましくは200nm未満、最も好ましくは100nm未満である。このようなガラスは、再加熱試験を行う前の時点で既に光線透過率が高められているため、ガラスを再加熱する再加熱工程に要する時間を短縮し、又は再加熱工程を実質的に有しなくとも、可視域におけるガラスの透明性を高めることができる。なお、本発明により作製される光学ガラスは、少なくとも再加熱後に所望の透明性を有していればよいため、再加熱前の光学ガラスの分光透過率70%を示す波長(λ70)が測定できなくてもよい。
【0085】
ここで、本発明により作製される光学ガラスは、上述の再加熱温度への昇温を行う際に、例えば精密アニールやプレス成形を同時に行ってもよい。これにより、所望の形状に成型され又は機械的な衝撃への耐性が強化されながらも、ガラスの再加熱が行われるため、所望の形状や機械的特性を有しながらも、高い分光透過率を有する光学ガラスを得ることができる。なお、本発明により作製される光学ガラスの用途は、再加熱温度への昇温を要する用途に限定されない。
【0086】
また、本発明により作製される光学ガラスは、耐失透性が高いことが好ましい。特に、本発明により作製される光学ガラスは、1200℃以下の低い液相温度を有することが好ましい。より具体的には、本発明により作製される光学ガラスの液相温度は、好ましくは1200℃、より好ましくは1150℃、最も好ましくは1100℃を上限とする。これにより、溶解した原料ガラスの温度を低下させてもガラスの結晶化が低減されるため、カレット作製工程における酸素成分の必要以上の蒸発や、溶解設備に含まれる成分の溶出をより抑え、ガラスの透過率をより高めることができる。また、このようなガラスはガラス化が進められ易いため、カレット作製工程に要する時間を短縮でき、より短時間で高品質なカレットを作製できる。一方、本発明により作製される光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、概ね500℃以上、具体的には550℃以上、さらに具体的には600℃以上であることが多い。
【0087】
また、本発明により作製される光学ガラスは、低いガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。特に、本発明により作製される光学ガラスは、700℃以下のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形できる。また、プレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明により作製される光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは700℃、より好ましくは670℃、最も好ましくは650℃を上限とする。なお、本発明により作製される光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0088】
[光学素子の作製]
本発明により作製される光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用なレンズやプリズム等の光学素子を作製することができる。そして、これらの光学素子は、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いることが好ましい。これにより、光学素子による光の吸収が低減されて光の透過率が高められるため、高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例】
【0089】
表1に、光学ガラスの作製に用いられる原料ガラスの組成と、カレット作製工程における溶解炉内の温度及び酸素濃度、並びに溶解炉内での溶融ガラスを保持する時間を示す。また、作製される光学ガラスの液相温度、屈折率(n)、アッベ数(ν)、ガラス転移点(Tg)、並びに、再加熱試験の前後における分光透過率が70%を示す波長(λ70)も表1に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0090】
本発明の実施例(No.1〜No.4)及び参考例(No.1〜No.2)では、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定した。このうち、P成分の原料として正リン酸を選定した。これらを表1に示した各実施例及び参考例の組成の割合になるように秤量し、正リン酸以外の原料を均一に混合した後で、液体状態の正リン酸を加えて均一に混合して粉粒体を作製した。
【0091】
ここで、原料ガラスと同じ組成から作られるガラスについて、液相温度を求めた。液相温度は、直径2mm程度の粒状に粉砕したガラス試料を10mm間隔で白金板上に載せ、これを800℃から1200℃の温度傾斜のついた炉内で30分間保持した後で取り出し、冷却後にガラス試料中の結晶の有無を倍率80倍の顕微鏡にて観察することで測定した。測定される液相温度の値に基づき、表1に示すように、カレット作製工程における溶解炉内の温度を決定した。
【0092】
ガラス原料からなる粉粒体は、表1のカレット形成温度に保持した溶解炉に1〜50回に分けて供給し、粉粒体を溶解させた。粉粒体の供給は、0.5〜3時間ごとに行うようにして、既に溶解された粉粒体の発泡が略完結した後に新たな粉粒体が供給されるようにした。粉粒体が全て供給されてから0.5〜5時間にわたり溶融ガラスを保持した後、溶融ガラスを常温まで冷却してカレットを形成した。
【0093】
形成されたカレットは、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000〜1300℃の温度範囲で2〜10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0094】
ここで、実施例(No.1〜No.4)及び参考例(No.1〜No.2)で得られるガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)については、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスとして、アニール条件は徐冷降下速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0095】
また、実施例(No.1〜No.4)及び参考例(No.1〜No.2)で得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、横型膨張測定器を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプルはφ4.5mm、長さ5mmのものを使用し、昇温速度4℃/minとした。
【0096】
また、実施例(No.1〜No.4)及び参考例(No.1〜No.2)で得られるガラスの透過率については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定してλ70(透過率70%時の波長)を求め、ガラスの着色の有無と程度を求めた。本実施例では、ガラスの透過率の測定は、精密アニールやプレス成形を想定した再加熱試験を行う前のもの、及び再加熱試験を行った後のものについて行った。ここで、ガラスの再加熱試験は、実施例及び参考例で得られるガラスから作製される15mm×15mm×30mmの角柱状のガラス試料を耐火物上に載せて電気炉に入れ、150分で常温からガラス試料のガラス転移点(Tg)より−200〜+100℃高い温度まで昇温し、30分間保温することで行った。再加熱試験を行った後のガラスは、常温まで冷却して炉外に取り出した後、対向する2面を厚み10mm±0.1mmに研磨し、上述と同様の方法でλ70を測定した。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に表されるように、本発明の実施例で得られる光学ガラスは、いずれも再加熱試験後のλ70(透過率70%時の波長)が500nm以下、より詳細には450nm以下であった。一方で、参考例1で得られるガラスは、再加熱試験後のλ70が450nmより大きかった。このため、本発明の実施例により得られる光学ガラスは、参考例1で得られるガラスに比べて着色し難いことが明らかになった。特に、本発明の実施例1で得られる光学ガラスのλ70は、再加熱試験の前後における変動が50nm以下、より詳細には10nm以下に抑えられた。
【0099】
また、本発明の実施例で得られる光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.70以上、より詳細には1.80以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には2.00以下であり、所望の範囲内であった。
【0100】
また、本発明の実施例で得られる光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が10以上、より詳細には16以上であるとともに、このアッベ数(ν)は25以下、より詳細には24.5以下であり、所望の範囲内であった。
【0101】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が1200℃以下、より詳細には1100℃以下であるとともに、この液相温度は500℃以上であり、所望の範囲内であった。
【0102】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が700℃以下、より詳細には680℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0103】
従って、本発明の実施例で得られる光学ガラスは、屈折率(n)が所望の範囲内にありながら、高い分散(低いアッベ数ν)を有し、特に再加熱後における可視領域の波長の光に対する透明性が高く、ガラス形成時における耐失透性が高く、且つ、プレス成形を行い易いことが明らかになった。
【0104】
また、本発明の実施例2のカレットを用いて作製されるガラスを所定の形状に成形し、この成形体を630℃に48時間加熱して精密アニールしたところ、精密アニール後の成形体のλ70は441nmであった。
【0105】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分と、Nb成分、TiO成分及びWO成分からなる群より選択される1種以上をと、必須成分として含有する光学ガラスを製造する方法であって、
ガラス原料を溶解後に急冷してカレットを作成するカレット作製工程を含み、
前記カレット作製工程における溶解炉内の温度を、生成されるガラスの液相温度よりも0〜200℃高い温度範囲に保持する方法。
【請求項2】
前記ガラス原料として、正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上を含んだ原料を用いる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガラス原料を溶解させる際に、正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上と、他原料と、を混合して前記溶解炉に供給する請求項2記載の方法。
【請求項4】
正リン酸及びその複合塩からなる群より選択される1種以上と、他原料と、を混合して粉粒体を形成させてから、前記粉粒体を液相温度よりも0〜200℃高い温度範囲に保持した溶解炉に分割して供給する請求項2から3いずれか記載の前記方法。
【請求項5】
前記粉粒体を前記溶解炉に分割して供給する際に、既に溶解された粉粒体の発泡が略完結した後に新たな粉粒体を供給する請求項4の方法。
【請求項6】
前記溶解中の前記溶解炉内の酸素濃度を5%以上に保持する請求項1から5いずれか記載の方法。
【請求項7】
前記溶解中の前記溶解炉内の温度を1300℃未満に調整する請求項1から6いずれか記載の方法。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で、Pを10.0〜40.0%、並びにNb、TiO及びWOからなる群より選択される1種以上を10.0〜70.0%含有する光学ガラスを製造する請求項1から7いずれか記載の方法。
【請求項9】
酸化物基準の質量%で、Nb成分及びTiO成分からなる群より選択される1種以上を30.0%以上含有する光学ガラスを製造する請求項8記載の方法。
【請求項10】
酸化物基準の質量%で、
Sb成分 0〜0.5%未満及び/又は
SnO成分 0〜1.5%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する請求項1から9いずれか記載の方法。
【請求項11】
酸化物基準の質量和Sb+SnOが1.5%以下である光学ガラスを製造する請求項10記載の方法。
【請求項12】
酸化物基準の質量%で、
LiO成分 0〜20.0%及び/又は
NaO成分 0〜35.0%及び/又は
O成分 0〜20.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する請求項1から11いずれか記載の方法。
【請求項13】
酸化物基準の質量和LiO+NaO+KOが35.0%以下である光学ガラスを製造する請求項12記載の方法。
【請求項14】
酸化物基準の質量%で、
MgO成分 0〜5.0%及び/又は
CaO成分 0〜10.0%及び/又は
SrO成分 0〜10.0%及び/又は
BaO成分 0〜30.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する請求項1から13いずれか記載の方法。
【請求項15】
酸化物基準の質量和MgO+CaO+SrO+BaOが30.0%以下である光学ガラスを製造する請求項14記載の方法。
【請求項16】
酸化物基準の質量%で、
成分 0〜10.0%及び/又は
La成分 0〜10.0%及び/又は
Gd成分 0〜10.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する請求項1から15のいずれか記載の方法。
【請求項17】
酸化物基準の質量和Y+La+Gdが20.0%以下である光学ガラスを製造する請求項16記載の方法。
【請求項18】
酸化物基準の質量%で、
SiO成分 0〜10.0%及び/又は
成分 0〜10.0%及び/又は
GeO成分 0〜10.0%及び/又は
Bi成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜10.0%及び/又は
ZnO成分 0〜10.0%及び/又は
Al成分 0〜10.0%及び/又は
Ta成分 0〜10.0%
の各成分を含有する光学ガラスを製造する請求項1から17のいずれか記載の方法。
【請求項19】
1.70以上2.20以下の屈折率(nd)を有し、10以上25以下のアッベ数(νd)を有する光学ガラスを製造する請求項1から18のいずれか記載の方法。
【請求項20】
アッベ数(νd)が19未満の光学ガラスを製造する請求項1から19いずれか記載の方法。
【請求項21】
前記成形工程を行ったガラスを(Tg−200)℃以上(Tg+100)℃以下の再加熱温度に昇温させる再加熱試験の前後における、分光透過率が70%を示す波長(λ70)の差が500nm以下の光学ガラスを製造する請求項1から20いずれか記載の方法。
【請求項22】
請求項1から21いずれか記載の方法で製造される光学ガラスを用いる光学機器。

【公開番号】特開2011−136884(P2011−136884A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298974(P2009−298974)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】