説明

光学スキャナ

互いに間隔を開けて配置され、強磁性的に互いに結合する固定子38,40と、磁石9であって、磁石9によって生成される磁界の対称軸が前記固定子38,40から実質的に等距離で、かつその間を通るように前記固定子38,40に対して配置される磁石9と、フレクシャ素子11であって、フレクシャ素子11の中心点が磁石9の磁界の対称軸を実質的に横切るように、固定子38,40および磁石9に対して配置されるフレクシャ素子11とを備え、フレクシャ素子11は固定子38,40または磁石9のどちらとも物理的に接触しない、光学スキャナ100である。
光学スキャナのフレクシャ素子を振動させる方法において、2つの固定子38,40の間であって、フレクシャ素子11の下に配置された磁石9を用いて、おおむね対称で、互いに同一平面をなす第1および第2磁気回路30,31を作るステップであって、回路の一部は磁石9をとおる共通磁路を共有し、固定子38,40をとおる回路30,31の残りの非共有磁路は互いに反対向きであるステップと、電気コイル5,6を介して回路30,31の一方または両方に電磁束を印加して、ある回路30,31をとおる磁束を強化し、他の回路30,31をとおる磁束を妨げ、磁石9をとおる固定子誘導の磁束ベクトルを変化させないようにするステップと、フレクシャ素子11を振動させるために、固定子誘導の電磁束の極性を規則的な周波数で反転させるステップとを有する、方法である。

【発明の詳細な説明】
【出願日の利益の主張】
【0001】
本出願は、2004年6月29日に出願された、米国仮出願第60/583,959号の出願日の利益を主張する。当該仮出願はそのまま本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は静止(stationary)磁石および静止駆動コイルの両方を持つ、光スキャナに関連する。
【背景技術】
【0003】
一般に、光学共振スキャナが知られているが、それらは10kHzを大きく超える周波数においては持続的に動作することは不可能であり、それは大きな口径のミラー(鏡)、大きなスキャン角度、および/または厚い材料からなるミラー(動的な平面度を維持するために)が含まれているときに顕著である。磁気的に駆動される既知の共振スキャナのほとんどは、フレクシャ要素の振動動作を生成し、維持するための電磁気回路の構成部品として可動磁石または可動コイルを含む。これらのスキャナの多くはフレクシャ素子の関連する大きな回転慣性を有する。その理由は、電磁気駆動部品が当該素子になんらかの形で物理的に結合されているためである。したがって、多くの技術的用途において求められる高い共振周波数は、この大きな回転慣性のために達成困難である。
【0004】
振動動作を生成し、維持するために、可動磁石も可動コイルも使わない光学共振スキャナの別の設計型が存在する。この設計型の例は、米国特許第5,557,444(444設計)に一般的に具現化されている。
【0005】
この444設計は、一つのミラーを駆動するのに二つの永久磁石を使用する。これらの永久磁石は強磁性体フレクシャ(flexure)と物理的に接触している。この永久磁石の磁路は二つの磁石のそれぞれから、フレクシャの長さを通り、強磁性体の固定子(ステータ)を通って、強磁性体の基材を介して磁石に戻る。この長い磁束通路が渦電流を生じさせ、強磁性材料の加熱による駆動効率ロスを生み出す実質的な原因となっている。
【発明の開示】
【0006】
本発明は従来の共振光学スキャナの幾つかの欠点を解消する。本発明の光学スキャナは、非常に低い周波数から非常に高い周波数(例、10kHz超)の範囲にわたる設計周波数において、またはその近くで動作可能である。本発明の光学スキャナは、従来の共振光学スキャナと比較して、過剰な熱を生成することなしに、より高い駆動効率をもたらす。本発明の光学スキャナは、大きなスキャン角度にわたって、比較的大きな口径の反射ミラーまたは他のペイロードを動かすことができる。また、本発明の光学スキャナは、高い動的平面度を維持するために厚い材料から作られたミラーを動かすことができる。本発明のスキャナは、数々の異なった用途、例えばプロジェクションディスプレイ、印刷、光学的目標捕捉および測距、部分照明、ラスタイメージデータ取得、バーコードリーダー、およびその他の医学的、軍事的、コンシューマ用途を持つ。本発明の利点および特徴を以下で説明する。
【0007】
本発明は光学スキャナを提供し、当該光学スキャナは、互いに間隔を開けて配置され、強磁性的に互いに結合する第1および第2固定子と、磁石によって生成される磁界の対称軸が固定子から実質的に等距離で、かるその間を通るように固定子に対して配置される磁石と、フレクシャであって、その中心点が磁石の磁界の対称軸を実質的に横切るように固定子および磁石に対して配置されるフレクシャとを備え、フレクシャは固定子または磁石のどちらとも物理的に接触していない。
【0008】
本発明はさらに、強磁性基材であって、その上に形成され、互いに実質的に平行な第1固定子柱と第2固定子柱とを持つ強磁性基材と、第1固定子柱の回りに第1方向に巻かれた第1電気コイルと、第2固定子柱の回りに第1方向とは反対の第2方向に巻かれた第2電気コイルと、強磁性基材のうえであって、固定子柱の間、それらから等距離に配置された磁石と、第1および第2支持土台にそれぞれマウントされる第1および第2支持部と、前記固定子柱および前記磁石の上方に配置される中央部分とを有し、前記中央部分の重心は前記磁石および前記固定子柱から等距離にある回転軸の真上に位置する、フレクシャと、前記第1および第2支持土台は非強磁性材料から構成され、スキャナに対する一体的な支持構造を提供するように、前記強磁性土台の外側に対称的に配置され、前記強磁性土台に取り付けられており、前記フレクシャの前記中央部分上に取付けられ、またはそれから直接作られるフレクシャ素子とを備える光学スキャナを提供し、前記フレクシャ素子は、前記第1および第2電気コイルに交流の駆動信号が結合されたとき、前記回転軸のまわりに振動する。
【0009】
本発明はまた、光学スキャナのフレクシャ素子を振動させる方法を提供し、本方法は、2つの固定子の間であって、前記フレクシャ素子の下に配置された磁石を用いて、おおむね対称で、互いに同一平面をなす第1および第2磁気回路を作るステップと、前記回路の一部は前記磁石をとおる共通磁路を共有し、前記固定子をとおる前記回路の残りの非共有磁路は互いに反対向きであり、固定子電気コイルを介して前記回路の一方または両方に電磁束を印加して、前記第1回路をとおる磁束を強化し、前記第2回路をとおる磁束を妨げ、前記磁石をとおる固定子誘導の磁束ベクトルを変化させないようにするステップと、前記フレクシャ素子を振動させるために、前記固定子誘導の電磁束の極性を規則的な周波数で反転させるステップとを有する。
【0010】
本発明のこれらの、およびその他の目的、利点、新規の特徴は、本発明の例証としての実施形態の詳細とともに、以下の説明および図面からよりよく理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<スキャナ>
図1から4に、本発明の共振光学スキャナ100を示す。図1,2を参照して、スキャナは、既知の手段(例えば、図2に示すボルト)互いに接続される基材板1,2を含み、スキャナ100の機械的土台を提供する。基材板1,2の両端には端部マウント3,4が取り付けられている。端部マウント3,4もまた、既知の手段(例えば、図1,2に示すネジ16および凹部22)によって基材板1,2に接続されている。あるいは、基材板1,2および端部マウント3,4はワンピースに(一体的に)形成することもできるし、複数の材料の2ピース(つまり、基材板1と端部マウント3が1つのピースを形成し、基材板2と端部マウント4が他のピースを形成する)に形成することもできる。
【0012】
図2を参照して、スキャナ100は端部マウント3,4に接続されたフレクシャ(flexure)32を含む。このフレクシャは、磁気を帯びており、スキャナ100の回転または振動素子として働くフレクシャ素子11を含む。このフレクシャ素子11は、光反射要素、発光要素または光検出要素を含む。そのような要素は、適切な既知の方法によって作ることができる。例えば、研磨によって形成することができ、金属を蒸着したフィルム、多層の薄膜反射板、回折格子、ミラーまたは反射表面、1以上の発光素子、および/または1以上の光検出素子を配置することにより作ることができる。フレクシャ素子11はフレクシャ32の中心部またはその近辺に配置するのが望ましい。さらに、フレクシャ素子11を含むフレクシャ32の中心部は、フレクシャ32の長さ方向軸に対して横方向に外向きに突き出て、平面状におおよそ楕円形状または円形状を作るようにするのが望ましい。
【0013】
図1を参照して、フレクシャ32の好適実施例は、回転軸に沿って、2つの部材18,19を介して外向きに延びる中心部を有する。部材18,19は一般的に薄く、長方形であることが望ましい。これらの部材18,19それぞれの端部は、取付けタブ(12,13)で終わる。この取付けタブ12,13は、適切な既知の手段によって端部マウント3,4に取り付けられる。例えば、取付けタブ12,13は、取付けタブ12,13に固定するための支持部材(図示せず)を提供することによって、端部マウント3,4内に位置する抱き(reveal)14,15で捕らえることができる。または、取付けタブ12,13を端部マウント3,4に溶接またはネジ留めすることもできる。上記の取付け手段は、回転動作中のフレクシャ32のいずれの要素(例えば、フレクシャ素子11)にも束縛する力を与えることなしに、フレクシャ32が端部マウント3,4に堅く取り付けられるような設計になっていることが望ましい。
【0014】
図1から4に戻って、フレクシャ素子11の下に、フレクシャ32の下面からエアギャップだけ離れて磁石9が配置される。この磁石は、永久磁石、電磁石などの既知の磁石でよい。磁石9はフレクシャ素子11の直下に、図4に示すように磁石9の一端25がフレクシャ32の下面に向くように、配置されるのが望ましい。また、フレクシャ32と磁石9の間のエアギャップは、磁石9からの磁束がエアギャップを通ってフレクシャ32に効率よく結合することができるように、比較的小さいことが望ましい。磁石9は当該技術分野で既知の任意の適切な形状とすることができる。磁石9は全体として円筒形であることが望ましい。
【0015】
磁石9の両側には、第1固定子柱7と第2固定子柱8とが配置されている。固定子電気コイル5,6がそれぞれ対応する固定子柱7,8のまわりに、反対の極性を持つように巻き付けられて2つの固定子38,40を形成する。それらは互いに間隔を置いて配置される。磁石9は、磁石9が生成する磁場の対称軸が固定子38,40の端部(つまり、固定子柱7,8の先端部20,21)から実質的に等距離に、かつその間を通るように、固定子38,40に対して配置される。固定子柱7,8は、フレクシャ32の長辺(または縦)方向軸に概ね直交し、磁石9およびフレクシャ32の両方からほぼ等距離に配置される。固定子柱7,8は、フレクシャ32のフレクシャ素子11がある位置における端部26,27からちょっと離れたところで終わるので、固定子柱7,8とフレクシャ32の間にはエアギャップが存在する。先端部21は斜めにカットされるか、またはそれらとフレクシャ32の端部26,27との間に延長された重なりができるような形をとることが望ましい。フレクシャ32の縦方向の軸に沿ってフレクシャ素子11を回転させるために、それぞれのエアギャップを横切って流れる磁界の相等しいまたは反対の摂動がフレクシャ素子11にねじれ力を働かすために使われる。フレクシャ素子11は、その中心点が磁石9の磁界の対称軸に実質的に交差するように、さらにフレクシャ素子11が磁石9の固定子38,40のどちらとも物理的に接触しないように、固定子38,40および磁石9に対して配置される。
【0016】
磁束戻しバー10は基材板1,2の間に、好適にはそれらの間に固定され、または挟まれる形で、配置される。固定子柱7,8は磁束戻しバー10に取り付けられ固定子38,40の間に磁気回路を形成する。この設計によって、図4に示すように、固定子38,40を互いに離して配置しながら、互いに強磁性的に結合することが可能となる。図1から4では、磁界戻しバー10および固定子柱7,8をそれぞれ独立した部品として示している。本発明の別実施形態では、磁束戻しバー10と固定子柱8,9とは1ピースの材料で一体的に形成される。
【0017】
磁石9は、既知の手段で、磁束戻しバー10に取り付けられる。例えば、図3を参照して、磁石9を取り付けるために、凹部または穴23を磁束戻しバー10に形成する。もしくは、磁石9と磁束戻しバー10とを1ピースの材料で一体的に形成する。必要に応じて、この一体形成された部品は、固定子柱7,8を含んでいてもよい。
【0018】
スキャナ100はフレクシャ素子11の振動を検出するための適切な既知の検出手段(図示せず)を選択的に含んでいてもよい。例えば、この検出手段は、光線がフレクシャ32の下面に交差するように設けられ、その光線がフレクシャ32で反射して、フレクシャ素子11の回転角に比例する光線の変調を検出することができる光検出器にあたるような、光学システムでもよい。
【0019】
フレクシャ素子11、固定子柱7,8、磁石9および磁束戻しバー10は、好適には強磁性材料で作られる。さらに、フレクシャ素子11、部材18,19および取付けタブ18,19を含むフレクシャ32は、強磁性材料の単一部品として作られるのが望ましい。しかしながら、本発明は、フレクシャ32のすべての要素が強磁性体から作られる、および/または磁性を持つことを要求するものではない。実際、フレクシャ素子11またはフレクシャ素子11の下のフレクシャ32の中央部分のみが強磁性材料から作られていることが必要である。
【0020】
スキャナ100の上述の部品および/または要素の製造には、当該技術分野で既知の任意の適切な強磁性材料を用いることができる。それにもかかわらず、ステンレス鋼、ニッケル、コバルト、鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された強磁性材料が望ましい。さらに、強磁性材料としてバネ鋼が望ましい。例えば、好適実施形態では、フレクシャ32はバネ鋼から作られ、その長さ、幅および厚さから決まるバネ定数を持つねじり型のバネである。一方、固定子柱7,8および磁束戻しバー10は、軟鉄または焼結フェライトパウダー、積層強磁性材料(例えば、絶縁材料を間にはさんだ強磁性材料の複数の薄い積層体)などから作られる。
【0021】
強磁性材料の層状配列を用いる場合、層の厚さは、一層あたり約0.001インチから約0.006インチの範囲で、全体の厚さが約0.1インチから約1インチであることが望ましい。さらに、個々の層板は他の層板から適切な既知の絶縁材料(例えば、ワニスなど)の非常に薄い層によって分離されているのが望ましい。強磁性材料の層板の配列は渦電流の生成を最小化し、高い飽和磁束密度を実現する。
【0022】
スキャナ100の残りの部品は、それらが相当の電磁気束または渦電流を維持し、または伝えることが要求されないかぎり、非強磁性材料で作ることができる。基材板1,2および端部マウント3,4はフレクシャ32を強固に支持することができる任意の適切な既知の材料で作ることができる。
【0023】
<スキャナの動作>
以下で説明するように、本発明は共振光学スキャナのフレクシャ素子を振動させる方法であり、当該方法は、2つの固定子の間、フレクシャ素子の下に配置され、概ね対称で、互いに同一平面上にある第1および第2磁気回路を作るための磁石を用いるステップであって、当該回路の一部は磁石を通る共通の磁路を共有し、固定子を通る当該回路の残りの非共通の磁路は互いに逆方向を向くステップと、固定子の電気コイルを介して磁気回路の一つまたは両方に対して電磁束を加えることによって、第1回路を通る束を強化する一方で第2回路を通る束を抑制し、磁石を通る固定子誘導の磁束ベクトルを変化させないようにするステップと、フレクシャ素子を振動させるために規則正しい周波数で固定子誘導の電磁気束の極性を反転させるステップとを含む。
【0024】
固定子5,6への駆動信号が存在しない状況下では、磁石9による磁束は、磁石9の円筒部によって決定される方向に生成される。磁石9が永久磁石なら、生成される磁束は不変である。磁石9が電磁石なら、第1および第2磁気回路を通る静的(DC)磁束は思いのままに変更可能である。したがって、スキャン角度の範囲は固定子コイルドライブ5,6を変更することなしに変えられる。正(+)が上向きになるように磁石9の極性が整列させられていると仮定すると、磁石9によって生成される磁束はフレクシャ32の下に位置するエアギャップを横切って垂直上方に進み、フレクシャ素子11に入る。図4に戻って、磁束は2つの概ね対称な、同一平面をなす、永久磁石回路30,31に分かれて入り、それぞれの回路(30,31)はフレクシャ32の長さ方向軸に対して互いに反対の横方向に描かれる。磁石9によって定義される共通磁路、およびある程度において、磁石9のすぐ上または直下のスキャナの構造体のごく一部分を除いては、回路30,31を通る永久磁石磁束の方向は逆方向または逆回転である。回路30は、磁石9の頂部極25からフレクシャ素子11の概ね重心、横向きにフレクシャ素子11の端部29、エアギャップを横切って、固定子柱8を通って延び、次に磁束戻しバー10の交互の半分を通り、磁石9の底部極24に戻る。回路31は、磁石9の上部極25からフレクシャ素子11の概ね重心、横向きにフレクシャ素子11の端部28、エアギャップを横切って、固定子柱7を通って延び、次に磁束戻しバー10の半分を通り、磁石9の底部極24に戻る。従って、回路30,31は磁束戻しバー10を介して磁石9の底部にともに収束する。
【0025】
上記の磁束配置は、磁石9の頂点極25とフレクシャ素子11の間に正味の引力を生じさせ、通常、フレクシャ32を水平位置に安定させるのに役立つ。それはさらに、2つの対称的な磁気回路30,31を生じさせ、それらは通常は平衡であるが、駆動信号をコイル5,6に印加すると不平衡にすることが可能である。
【0026】
周期的な駆動信号、例えば方形波などをコイル5,6に印加すると、交互の磁界が発生して、フレクシャ素子11を回転軸A−Aのまわりに前後に振動させる。通常、コイル5,6は対称的に巻かれ、対称的に駆動される。しかしながら、それらの極性は動作中に相互に反転され、それぞれが対応する磁気回路に及ぼす電磁気的影響は異なる。さらに詳細には、コイル6は、図4に小さな矢印34で示すように、回路30内の磁気誘導束のいくらかを妨げ、または相殺する電磁束を生成する。反対に、コイル5は、方形波が正の最大振幅に達するときに、小さな矢印36で示すように、回路31内の磁石誘導束に加えられる、等しいが、反対方向の電磁束を印加する。方形波が正の最大振幅に向かって変化するときに、固定子柱7内に生成される磁界は先端部20に集中し、介在するエアギャップを横切って、フレクシャ素子の端部28に流れ込む。この磁界は、端部28に存在する磁石9によって生成された静磁束を強化する傾向がある。この強化された磁束密度は端部28と先端部20の間の既存の引力を増加させる。同時に、コイル6は、固定子柱8内に逆極性の磁界を生成し、それによって、先端部21とフレクシャ素子11の端部29との間の引力を減少させる。結果として生じる、フレクシャ素子11と先端部20,21との間の磁力の不均衡が中心線A−Aのまわりのモーメントを生み出し、フレクシャ素子11はA−Aのまわりをトルクベクトルの方向に回転する。方形波が正の最大振幅から負の最大振幅に向かって遷移するとき、コイル5,6および固定子柱7,8によって生成された電磁界はその極性を反転させ(つまり、矢印34,36の向きが逆になる)、それによってフレクシャ素子11に反対の符号のトルクを生じさせる。従って、A−Aのまわりに、以前の場合とは反対方向に、フレクシャ素子11が回転する。この回転の周波数は、コイル5,6に印加される方形波の周波数と関係する。
【0027】
上述のとおり、固定子38,40に関連する磁気回路は磁石9を通る共通の磁路を共有する。磁石9から得られるフレクシャ素子11における静磁束に対する固定子38,40からの寄与は同じ強度で、反対の符号なので、固定子38,40からの正味の磁束の寄与は磁石9内で互いに相殺する。磁石9内には実効的に磁束の交互の成分が存在しないために、磁石9内には実質的に渦電流が流れない。高周波動作については、コイル5,6の電気インピーダンスが動作周波数とともに増加するために、コイル5,6のそれぞれのワイヤ巻き数を減らす必要があることに注意すべきである。
【0028】
渦電流損失は、回路30,31を形成するのに用いられる材料の体積抵抗率に逆比例する。従って、固定子柱7,8、フレクシャ素子11および磁束戻しバー10の体積抵抗率を下げることによって、高い動作周波数における渦電流損失を減らすことができる。体積抵抗率は、例えば、部品7,8,10および/または11を形成するのに、強磁性材料の積層または焼結パウダーを用いることで、減少させることができる。
【0029】
磁石9を通る共通磁路を除く、固定子柱7,8を通る磁気回路のすべての部分において、コイル5,6の生成する電磁束の強度および方向に比例して、磁束の強度が増加したり、減少したりする。しかしながら、磁石9によって生成され、そのなかを流れる磁束は変化しない。その理由は、固定子柱7,8からの磁束の寄与は大きさが等しく、符号が反対であるため、磁石9内でお互いに相殺しあうためである。従って、磁石9の固有保磁力は影響をうけることなく、磁石9の減磁(demagnetization)カーブ上の動作点は固定されている。磁石9の永久磁石であるか、固有磁界強度を調整可能な電磁石であるかにかかわらず、これはあてはまる。
【0030】
本発明は、磁石ベースのトルク発生器に関する最適な駆動原理を提供し、それを従来技術から差別化する。例えば、444設計では、フレクシャ素子を駆動するのに2つの永久磁石が用いられ、それらは2つともフレクシャの各端部と物理的に接触している。この永久磁石の磁束通路は2つの磁石のそれぞれから、フレクシャの長さをとおり、固定子を通り、スキャナの強磁性土台を介して対応する磁石に戻る。この長い磁束通路によって、渦電流が発生する可能性を実質的に増やし、強磁性材料の加熱による駆動効率の損失が生じる。444設計に開示された固定子コイルを電気エネルギーが流れるとき、逆巻きのコイルから生成された磁束は、永久磁石を減磁し、または再磁化することで、永久磁石によって生成された磁束に対抗し、または増加させる。その結果、フレクシャに正味のトルクが生じるものの、スキャナの周波数において磁石の動作点が繰り返し移動し、発熱、駆動効率の損失、磁石の保持力の潜在的な不可逆消失が生じる。
【0031】
本発明では、444設計とは異なり、スキャナ100は、フレクシャ32の長軸を横断し、おおむね各固定子柱(7または8)の重心とフレクシャ素子11の間に存在する非常に短い距離(好適には、フレクシャ32の重心付近に配置される)をわたって延びる静的な(DC)磁束を有する。さらに、444設計とは異なり、フレクシャ32の磁束を担う素子はフレクシャ素子11のみであり、基材板1,2は強磁性材料から構成される必要はない。この短い磁束の通路、およびそれらの通路の平面性は、渦電流の生成、磁束短絡通路(magnetic flux shorting path)を最小化するように働く。さもなければ、これらは強磁性材料の発熱およびフレクシャ素子11に磁力によって加えられるねじり力の減少により、駆動効率を制限するように働く。本発明では、固定子コイル5,6に供給される電力に比例する力とともに、フレクシャ32にトルクが生じる。固定子コイルの電力を振動させることによって振動動作を生み出す。電力振動の周波数がフレクシャ32の固有振動数に合致したとき、比較的低いレベルの駆動電力で、比較的大きな角度振動を生み出すことができる。上記の図示された形態を持つフレクシャは2以上のモードで振動しうるので、フレクシャの振動の性質は複雑なものになりうる。高次のモードとともに、基本モードの高調波も存在しうる。それでも、適切な数学的手法を用いて、一つまたはその他の高調波モード、または複数のモードの組み合わせが生じやすくなるように、フレクシャを設計することができる。ラインスキャナの場合、1次のねじりモードが好ましく、1次のねじりモードの振幅がすべての他のモードよりも少なくとも一桁大きくなるように、フレクシャを設計することができる。
【0032】
上記の駆動方法を用いて、1以上の所望のモードについて所望の基礎周波数を持つように、共振フレクシャを設計することは可能であるが、フレクシャを精密にその周波数で電磁的に駆動することはできない。これは、駆動電力の一部は熱として、主に装置の磁束を担う強磁性部品内で渦電流の生成を介して、失われるという事実に起因する。渦電流の生成率は、駆動周波数の2乗に比例し、標準的なフェライト材料については、渦電流発熱として失われる駆動電力の割合は、10から15kHzの領域において、急峻に上昇し始め、有効な仕事につながる電力はある限界に漸近する。
【0033】
さらに、たとえ共振フレクシャは設計周波数で駆動可能だとしても、フェライト材料内の磁束密度が飽和限界(標準の鉄で約18kガウス)に近づくと、その周波数で十分な振幅を得ることはできないであろう。そのポイントにおいて、すべての単位磁気モーメントが一方向に配向し、コイルを駆動する電流を増やしても誘導は少ししか、または全く増えず、それゆえ振動の駆動は少ししか、または全く増えない。
【0034】
最後に、たとえ共振設計フレクシャを適切な駆動振幅で、適切な周波数で駆動できたとしても、そのようなパラメータで動作する十分な寿命(故障までの平均時間)を持つことができない。これは選択された強磁性材料の疲労寿命に起因する。ほとんどの強磁性材料は結晶質であり、たとえその弾性限界内であっても、繰り返し変形させられると、微少割れが生じ、それが伝搬して、破壊的故障につながる。
【0035】
上記の問題に対処するために、スキャナ100は、可変磁束を担う通路の製造において、むく(ソリッド)のフェライトまたは結晶性材料ではなく、強磁性材料の層状配列を用いる、渦電流の発生を最小化するための手段を含む。強磁性材料の層状の特性は、電気的に連続した長さを短い距離の単位に区切ることで、渦電流の生成を最小化する。
【0036】
さらに、スキャナ100は、利用可能な駆動電力波形を最大化するために、磁気飽和の発現を最小化する手段を含む。可変磁束通路を作るのに用いられる個々の層は、非常に高い浸透率を持つ強磁性材料から作られ、それゆえに高い飽和磁束密度を持つ。
【0037】
最後に、スキャナ100は末端効果に関連する不所望な磁束漏れ通路を最小化するように、構造的に設計される。特に、固定子の先端部20,21は、先端部20,21と磁石9の上部極25との直接の間、または先端部20,21と構造体のその他のどこかとの間ではなく、エアギャップおよびフレクシャ素子11を通る磁束の透過を最大化するように非常に注意深く設計される。単一の磁石9および固定子柱7,8の両方は互いに接近して、フレクシャ32の長辺軸と交差する実質的な単一平面に配置され、非常に短い磁束通路を提供するので、磁束漏れおよび渦電流生成の可能性を最小化する。
【0038】
上記の設計進歩に従って、本発明に従って作られるスキャナは非常に高い性能を発揮すると考える。例えば、直径5mmミラーを持つスキャナは、10ワット未満の駆動電力で、16kHzで22度(光学走査角)よりも大きな角度において、光線をスキャンすることができる。本設計では、上述の設計パラメータを実質的に変更することなしに、24kHz超まで周波数をあげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の光学共振スキャナの第1実施形態の斜視図。
【図2】明確化のためフレクシャマウントを省略した、図1の光学スキャナの分解斜視図。
【図3】図1の光学スキャナの電磁駆動部品の分解斜視図。
【図4】図1の光学スキャナの電磁駆動部品の端面図であって、中央に配置された磁石から出た静的(DC)磁束線の方向を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を開けて配置され、強磁性的に互いに結合する第1および第2固定子と、
磁石であって、前記磁石によって生成される磁界の対称軸が前記固定子から実質的に等距離で、かつその間を通るように前記固定子に対して配置される磁石と、
フレクシャ素子であって、前記フレクシャ素子の中心点が前記磁石の磁界の対称軸を実質的に横切るように、前記固定子および前記磁石に対して配置されるフレクシャ素子とを備え、前記フレクシャ素子は前記固定子または前記磁石のどちらとも物理的に接触しない、光学スキャナ。
【請求項2】
前記フレクシャ素子は、研磨された表面、金属の蒸着膜、多層薄膜反射器、回折格子、鏡、一以上の発光素子、一以上の光検出素子、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された要素を含む、請求項1記載の光学スキャナ。
【請求項3】
前記フレクシャ素子に含まれる前記要素は、前記フレクシャ内に一体的に形成される、請求項1または2記載の光学スキャナ。
【請求項4】
10kHzを超える周波数で動作可能である、請求項1,2または3記載の光学スキャナ。
【請求項5】
前記第1固定子が、第1固定子柱と、第1固定子電気コイルとを備え、
前記第2固定子が、第2固定子柱と、第2固定子電気コイルとを備え、
前記固定子は、前記固定子と前記磁石との間に接続される磁束戻しバーを介して、強磁性的に互いに結合されている、
請求項1乃至4いずれか1項記載の光学スキャナ。
【請求項6】
前記フレクシャ素子、前記固定子柱および前記磁束戻しバーは強磁性材料から作られる、請求項5記載の光学スキャナ。
【請求項7】
前記強磁性材料は、ステンレス鋼、バネ鋼、ニッケル、コバルト、鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6記載の光学スキャナ。
【請求項8】
前記固定子柱および前記磁束戻しバーは、強磁性材料の層状配列、焼結フェライトパウダー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される強磁性材料から作られる、請求項5記載の光学スキャナ。
【請求項9】
前記磁束戻しバーに取り付けられた第1および第2支持土台と、
前記第1支持土台に取り付けられる第1部材、および前記第2支持土台に取り付けられる第2部材を有するフレクシャとをさらに備え、
前記フレクシャのほぼ中心点には前記フレクシャ素子が設けられ、交流駆動信号が前記固定子電気コイルに結合されたときに、前記フレクシャ素子は前記固定子から等距離にある回転軸のまわりで振動する、請求項5記載の光学スキャナ。
【請求項10】
前記フレクシャ素子の振動は検出手段によって検出される、請求項9記載の光学スキャナ。
【請求項11】
前記検出手段は、光線が前記フレクシャの下面に交差するように設けられ、その光線が前記下面で反射して、前記フレクシャ素子の回転角に比例する前記光線の変調を検出することができる光検出器にあたるような、光学システムから構成される、請求項10記載の光学スキャナ。
【請求項12】
強磁性基材であって、その上に形成され、互いに実質的に平行な第1固定子柱と第2固定子柱とを持つ強磁性基材と、
前記第1固定子柱の回りに第1方向に巻かれた第1電気コイルと、
前記第2固定子柱の回りに前記第1方向とは反対の第2方向に巻かれた第2電気コイルと、
前記強磁性基材のうえであって、前記固定子柱の間、それらから等距離に配置された磁石と、
第1および第2支持土台にそれぞれマウントされる第1および第2支持部と、前記固定子柱および前記磁石の上方に配置される中央部分とを有し、前記中央部分の重心は前記磁石とおよび前記固定子柱から等距離にある回転軸の真上に位置する、フレクシャと、
前記フレクシャの前記中央部分上に取付けられ、またはそれから直接作られるフレクシャ素子とを備える光学スキャナであって、
前記第1および第2支持土台は非強磁性材料から構成され、スキャナに対する一体的な支持構造を提供するように、前記強磁性土台の外側に対称的に配置され、前記強磁性土台に取り付けられており、
前記フレクシャ素子は、前記第1および第2電気コイルに交流の駆動信号が結合されたとき、前記回転軸のまわりに振動する光学スキャナ。
【請求項13】
前記磁石と前記フレクシャ素子との間にエアギャップが存在する、請求項12記載の光学スキャナ。
【請求項14】
前記フレクシャ素子と前記第1固定子柱との間にエアギャップが存在し、前記フレクシャ素子と前記第2固定子柱との間にエアギャップが存在する、請求項12または13記載の光学スキャナ。
【請求項15】
前記フレクシャ素子および前記固定子柱は強磁性材料から作られる、請求項12、13または14記載の光学スキャナ。
【請求項16】
前記強磁性材料は、ステンレス鋼、バネ鋼、ニッケル、コバルト、鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15記載の光学スキャナ。
【請求項17】
前記フレクシャ素子は、研磨された表面、金属の蒸着膜、多層薄膜反射器、回折格子、鏡、一以上の発光素子、一以上の光検出素子、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された要素を含む、請求項12乃至16いずれか1項記載の光学スキャナ。
【請求項18】
前記フレクシャ素子の振動は検出手段によって検出される、請求項12乃至18いずれか1項記載の光学スキャナ。
【請求項19】
前記検出手段は、光線が前記フレクシャの下面に交差するように設けられ、その光線が前記下面で反射して、前記フレクシャ素子の回転角に比例する前記光線の変調を検出することができる光検出器にあたるような、光学システムから構成される、請求項18記載の光学スキャナ。
【請求項20】
光学スキャナのフレクシャ素子を振動させる方法において、
2つの固定子の間であって、前記フレクシャ素子の下に配置された磁石を用いて、おおむね対称で、互いに同一平面をなす第1および第2磁気回路を作るステップであって、前記回路の一部は前記磁石をとおる共通磁路を共有し、前記固定子をとおる前記回路の残りの非共有磁路は互いに反対向きであるステップと、
電気コイルを介して前記回路の一方または両方に電磁束を印加して、前記第1回路をとおる磁束を強化し、前記第2回路をとおる磁束を妨げ、前記磁石をとおる固定子誘導の磁束ベクトルを変化させないようにするステップと、
前記フレクシャ素子を振動させるために、前記固定子誘導の電磁束の極性を規則的な周波数で反転させるステップとを有する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−505359(P2008−505359A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519328(P2007−519328)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/022694
【国際公開番号】WO2006/004644
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507001760)
【出願人】(507001771)
【出願人】(507001782)
【出願人】(507001793)
【Fターム(参考)】