説明

光学センサおよび光学センサに用いられるチップ構造体

【課題】検出領域における特定物質の検出時の反応ムラの発生を抑制し、均一で高感度に特定物質の検出を行うことのできるチップ構造体およびこのチップ構造体を用いた光学センサを提供すること。
【解決手段】面状に形成された検出領域に試料溶液を供給するとともに前記試料溶液中の特定物質を検出領域で捕捉し、この捕捉された特定物質を光学的に検出する光学センサに用いられるチップ構造体であって、前記チップ構造体が、前記試料溶液中の特定物質を捕捉するための前記検出領域と、前記検出領域が形成された面に対して、所定の角度を持って形成された縦形流路と、前記縦形流路に前記試料溶液を供給するための供給路と、前記縦形流路を介して検出領域に供給された試料溶液を排出するための排出路と、を有する反応層を少なくとも備え、これにより前記面状に形成された検出領域に対し、前記縦形流路を介して縦方向より試料溶液が供給されるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出領域に試料溶液を供給することで試料溶液中の特定物質を検出領域で捕捉し、この捕捉された特定物質を光学的に検出する光学センサおよび光学センサに用いられるチップ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、極微少な特定物質の検出を行う場合において、物質の物理的現象を応用することで、この特定物質を光学的に検出するようにした光学センサが用いられている。
【0003】
このような光学センサの一つとして、ナノメートルレベルなどの微細領域中で電子と光とが共鳴することにより、高い光出力を得る現象(表面プラズモン共鳴(SPR;Surface Plasmon Resonance)現象)を応用し、例えば生体内の極微少な特定物質の検出を行う
ようにした表面プラズモン共鳴装置(以下SPR装置とする)が挙げられる。
【0004】
また、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を応用した表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS;Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)の原理に基づき、SPR装置よりもさらに高精度に特定物質の検出を行えるようにした表面プラズモン増強蛍光測定装置(以下、SPFS装置とする)も、光学センサの一つである。
【0005】
このような光学センサでは、まず検出対象となる特定物質を含有した試料溶液を予め用意しておき、これをチップ構造体の検出領域に送液する。検出領域には予め検出対象となる特定物質を捕捉するためのリガンドが設けられており、試料溶液がここを通過すると、リガンドに特定物質が捕捉されるようになっている。
【0006】
この検出領域で捕捉された特定物質を光学的に検出することで、特定物質の有無などを知ることができる。
【0007】
ところで、検出領域に試料溶液を供給する場合、試料溶液を貯留する方法(例えば特許文献1,2)や、検出領域に横形の流路を形成し試料溶液を送液する方法などが用いられている。
【0008】
試料溶液を貯留する方法の例として図7に示したチップ構造体100では、誘電体部材102に凹部110を形成するとともに、この凹部110の底面を検出領域106に設定し、この凹部110内に試料溶液108を貯留するようになっている。
【0009】
そして、この状態で光源112より集光部材114で集光しながら金属薄膜104に光を照射し、金属薄膜104に反射した光を受光手段116で受光した際に、試料溶液108内に特定の物質が有るか否かで生ずる信号の変化により、試料溶液108中の特定物質の有無の判定がなされている。
【0010】
また、図8に示したチップ構造体200では、試料溶液保持部210を形成し、この試料溶液保持部210内に試料溶液208を貯留することで、検出領域206での特定物質の検出ができるようになっている。
【0011】
なおここでは、誘電体部材202を介して金属薄膜204に光源212より特定波長の光を照射した際に生ずる現象により、検出領域206で捕捉された特定物質に標識された蛍光が増強され、この蛍光を光検出手段214で検出することで、特定物質の検出ができ
るようになっている。
【0012】
一方、横形流路312を形成して検出領域306に試料溶液308を送液する方法の例として図9に示したチップ構造体300では、チップ構造体300の反応層310に形成された検出領域306に横形流路312を形成しておき、この状態で横形流路312内に試料溶液308を流すことで、検出領域306に横方向から試料溶液308が供給され、これにより検出領域306で試料溶液中の特定物質が捕捉されるようになっている。
【0013】
そして、この状態で上記したのと同様、誘電体部材302を介して金属薄膜304に光源(図示せず)より特定波長の光を照射した際に生ずる現象により、検出領域306で捕捉された特定物質に標識された蛍光が増強され、この蛍光を光検出手段(図示せず)で検出することで、試料溶液308中の特定物質の検出ができるようになっている。
【0014】
なお、このように横形流路312を用いて試料溶液308を送液した場合、検出対象となる特定物質が極微量であると、試料溶液308が少量しか用意できず、一回の送液では検出領域306において特定物質が確実に捕捉されない場合がある。
【0015】
このような場合には、検出領域306内へ試料溶液308を送液する横形流路312に循環送液ポンプ(図示せず)を設け、検出領域306へ試料溶液308が循環して供給されるようにしたり、また往復送液ポンプ(図示せず)を設け、検出領域306を試料溶液308が往復して供給されるようにしたりすることで、検出領域306における特定物質の検出精度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−172743号公報
【特許文献2】特開2008−102117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述したような試料溶液を貯留する従来のチップ構造体は、試料溶液の流れが生じ難く、検出対象となる特定物質が極微量の場合、特定物質が確実に検出領域で捕捉されない場合があり、このようなチップ構造体を用いて特定物質の検出を行った際、検出精度が十分ではなかった。
【0018】
一方、横形流路を形成して検出領域に試料溶液を送液するようにした従来のチップ構造体は、試料溶液が検出領域の一方側端部から他方側端部に向かって順番に流れ込むようになっているため、検出領域の一方側端部(上流側)からリガンドに特定物質が捕捉されることとなり、どうしても他方側端部(下流側)では特定物質の検出反応が生じ難くなり、検出領域で反応ムラが生ずる場合があった。
【0019】
なお、このようなチップ構造体の横形流路に往復送液ポンプを設ければ、検出領域の一方側端部から他方側端部に向かって、また他方側端部から一方側端部に向かって試料溶液を往復させることができるため、検出領域の一方側端部と他方側端部のいずれにおいても特定物質の反応を生じさせることができる。
【0020】
しかしながら、この場合においても、検出領域の一方側端部と他方側端部に特定物質の検出時の反応が集中し、それ以外の部分では反応が生じ難く、反応ムラが生じているのが現状である。
【0021】
本発明はこのような現状に鑑みなされたものであって、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラの発生を抑制し、均一で高感度に特定物質の検出を行うことのできるチップ構造体およびこのチップ構造体を用いた光学センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、前述したような従来技術における問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明のチップ構造体は、
面状に形成された検出領域に試料溶液を供給するとともに前記試料溶液中の特定物質を検出領域で捕捉し、この捕捉された特定物質を光学的に検出する光学センサに用いられるチップ構造体であって、
前記チップ構造体が、
前記試料溶液中の特定物質を捕捉するための前記検出領域と、
前記検出領域が形成された面に対して、所定の角度を持って形成された縦形流路と、
前記縦形流路に前記試料溶液を供給するための供給路と、
前記縦形流路を介して検出領域に供給された試料溶液を排出するための排出路と、
を有する反応層を少なくとも備え、
これにより前記面状に形成された検出領域に対し、前記縦形流路を介して縦方向より試料溶液が供給されるよう構成されていることを特徴とする。
【0023】
このように試料溶液を供給するための縦形流路が、検出領域が形成された面に対して角度を持って形成されていれば、検出領域に対して面方向から試料溶液を一定の濃度で供給することができる。
【0024】
このため、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラの発生を抑制し、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができる。
【0025】
また、縦形流路に供給路と排出路がそれぞれに設けられていれば、縦形流路への試料溶液の供給および試料溶液の検出領域からの排出を容易に行うことができる。
【0026】
さらに、供給路と排出路とを縦形流路の同側面に設置すれば、チップ構造体の大きさを小さくまとめることができ好ましい。
【0027】
また、本発明のチップ構造体は、
前記縦形流路が、
前記検出領域が形成された面に対し、30〜90度の範囲の角度を有して形成されていることを特徴とする。
【0028】
このような角度範囲で縦形流路が形成されていれば、確実に試料溶液を検出領域に対して一定の濃度で供給することができ、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラを生ずることがなく、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができる。
【0029】
また、本発明のチップ構造体は、
前記縦形流路の断面が、略円形状であることを特徴とする。
【0030】
このように縦形流路断面が略円形状であれば、例えば透明な部材にレーザで穴を形成したり、筒状体で縦形流路を簡単に構成できるため、部品点数が少なくてすみ製造コストを抑えることができる。
【0031】
また、本発明のチップ構造体は、
前記断面略円形状の縦形流路の直径が、φ5〜10mmの範囲内であることを特徴とする。
【0032】
このような太さの縦形流路であれば、確実に試料溶液を検出領域に対して一定の濃度で供給することができ、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラを生ずることがなく、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができる。
【0033】
また、本発明のチップ構造体は、
前記縦形流路の断面形状が、前記検出領域の形状と略同形状となるように設定されていることを特徴とする。
【0034】
このように縦形流路の断面形状が検出領域の形状と略同形状であれば、検出領域の全面に一定の濃度で試料溶液を供給できる。
【0035】
また、本発明のチップ構造体は、
前記縦形流路の一方側端部から他方側端部までの流路長が、10〜20mmの範囲内であることを特徴とする。
【0036】
このような流路長を有する縦形流路であれば、確実に試料溶液を検出領域に対して一定の濃度で供給することができ、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラを生ずることがなく、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができる。
【0037】
また、本発明のチップ構造体は、
前記供給路の断面が略円形状であって、
前記略円形状の直径がφ0.5〜1.0mmの範囲内であることを特徴とする。
【0038】
このような供給路であれば、縦形流路に試料溶液を供給する際に、試料溶液を安定して供給することができる。
【0039】
また、本発明のチップ構造体は、
前記排出路の断面が略円形状であって、
前記略円形状の直径がφ0.5〜1.0mmの範囲内であることを特徴とする。
【0040】
このような排出路であれば、縦形流路に供給された試料溶液を排出する際に、試料溶液を安定して排出することができる。
【0041】
また、本発明のチップ構造体は、
前記縦形流路内に供給される試料溶液の流量が、200〜500μl/minの範囲内であることを特徴とする。
【0042】
このような流量で縦形流路内に試料溶液を供給すれば、縦形流路の構造で生じ易い試料溶液内への気泡混入を効果的に防止することができる。
【0043】
また、本発明のチップ構造体は、
前記チップ構造体が、
誘電体部材と、
前記誘電体部材の上面に形成された金属薄膜と、
前記金属薄膜の上面に形成された前記反応層と、
を有することを特徴とする。
【0044】
このようなチップ構造体であれば、誘電体部材に光源より光を照射し、金属薄膜上の反応層の検出領域で試料溶液中の特定物質を光学的に検出するようにした光学センサに好適である。
【0045】
また、本発明の光学センサは、
上記いずれかに記載のチップ構造体と、
前記チップ構造体の検出領域に供給された試料溶液中の特定物質を光学的に検出する光検出手段と、
を少なくとも有することを特徴とする。
【0046】
このような光学センサであれば、上記した縦形流路が形成されたチップ構造体を用いているため、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラの発生を抑制し、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができる。
【0047】
また、本発明の光学センサは、
前記反応層の縦形流路内に供給される試料溶液を、
前記供給路,縦形流路,排出路の順で送液し、再び前記供給路へ還流させる循環送液ポンプを有することを特徴とする。
【0048】
このように循環送液ポンプを設ければ、検出領域に対して試料溶液を繰り返し循環して供給できるため、特定物質の検出精度をさらに向上させることができる。
【0049】
また、本発明の光学センサは、
前記反応層の縦形流路内に供給される試料溶液を、
前記供給路,縦形流路,排出路の順で送液するとともに、さらに排出路,縦形流路,供給路の順で送液する往復送液ポンプを有することを特徴とする。
【0050】
このように往復送液ポンプを設ければ、検出領域に対して試料溶液を繰り返し往復して供給できるため、特定物質の検出精度をさらに向上させることができる。
【0051】
また、本発明の光学センサは、
前記光学センサが、
表面プラズモン共鳴装置(SPR装置)または表面プラズモン増強蛍光測定装置(SPFS装置)であることを特徴とする。
【0052】
このようにSPR装置またはSPFS装置であれば、特に極微少な特定物質の検出に好適であり、試料溶液の液量が限られる場合であっても、本発明の縦形流路が設けられたチップ構造体を用いることで、検出領域において均一に特定物質を捕捉することができ、これにより精度良く特定物質の検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、反応層の検出領域の直上に縦形流路を形成することで、検出領域の全面に対して一定の濃度で試料溶液を供給することができるとともに、特定物質の検出時の反応ムラの発生を抑制し、均一で高感度に特定物質の検出を行うことのできるチップ構造体およびこのチップ構造体を用いた光学センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明のチップ構造体を説明するための概略図である。
【図2】図2は、チップ構造体の縦形流路を説明するための概略図である。
【図3】図3は、チップ構造体の縦形流路,供給路,排出路を円筒部,供給部,排出部で形成した場合について説明するための概略図である。
【図4】図4は、本チップ構造体の供給路,排出路を複数設けた場合について説明するための概略図である。
【図5】図5は、本発明のチップ構造体を用いた光学センサを説明するための概略図である。
【図6】図6は、本発明のチップ構造体と従来のチップ構造体との検出領域におけるシグナルの違いを説明するためのグラフである。
【図7】図7は、従来のチップ構造体を説明するための概略図である。
【図8】図8は、従来のチップ構造体を説明するための概略図である。
【図9】図9は、従来のチップ構造体を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明のチップ構造体およびこのチップ構造体を用いた光学センサの実施形態について、図面に基づいてより詳細に説明する。
【0056】
図1は、本発明のチップ構造体を説明するための概略図、図2は、チップ構造体の縦形流路を説明するための概略図、図3は、チップ構造体の縦形流路,供給路,排出路を円筒部,供給部,排出部で形成した場合について説明するための概略図、図4は、本チップ構造体の供給路,排出路を複数設けた場合について説明するための概略図、図5は、本発明のチップ構造体を用いた光学センサを説明するための概略図、図6は、本発明のチップ構造体と従来のチップ構造体との検出領域におけるシグナルの違いを説明するためのグラフである。
【0057】
本発明のチップ構造体およびこのチップ構造体を用いた光学センサは、反応層の検出領域の直上に縦形流路を形成することで、検出領域の全面に対して一定の濃度で試料溶液を供給することができるとともに、特定物質の検出時に反応ムラを生ずることがなく、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができるものである。
【0058】
<チップ構造体10>
本発明のチップ構造体10の一実施例では、図1に示したように、誘電体部材12と、この誘電体部材12の上面に形成された金属薄膜14と、さらにこの金属薄膜14の上面に形成された反応層18と、から構成されている。
【0059】
そして、反応層18は、金属薄膜14上の一部に検出領域16が設けられ、この検出領域16に対して特定の角度を持って縦形流路20が形成されている。
【0060】
この縦形流路20は、検出領域16に対して試料溶液30を供給するためのものであり、試料溶液30中には検出対象となる特定物質が含有され、この特定物質が検出領域16に達すると、検出領域16に予め設けられたリガンドに捕捉されることとなる。
【0061】
なお、図1に示したチップ構造体10では、検出領域16の直上に、略垂直に縦形流路20が形成されているが、例えば図2に示したように縦形流路20が傾斜していても構わない。
【0062】
要は検出領域16が形成された面に対して、横方向からではなく、縦方向から試料溶液30が供給されるように構成された縦形流路20であれば如何なる角度θであっても良いものである。この角度θは30〜90度の範囲内であることが好ましく、70〜90度の範囲内であることがより好ましい。
【0063】
このような縦形流路20は直径D1がφ1〜2mmの範囲内に設定されることが好まし
い。また縦形流路20の流路長L1は、10〜20mmの範囲内に設定されることが好ましい。
【0064】
縦形流路20の直径D1がφ1mm以上で、流路長L1が10mm以上とした場合には、試料溶液30の充分な流れを確保して検出領域16での反応を良好に行う上で好ましい。
【0065】
一方、縦形流路20の直径D1がφ2mm以下で、流路長L1が20mm以下とした場合には、チップ構造体10自体を小型化できる上で好ましい。
【0066】
さらに、検出領域16の直径D2は、縦形流路20の直径D1と略同径とすることが好ましい。このようにしておけば、検出領域16の大きさを限定することができ、特定物質の検出時におけるS/N比を向上させることができる。
【0067】
また、縦形流路20の一方側端部には、試料溶液30を供給するための供給路24が設けられ、他方側端部には、検出領域16に供給された試料溶液30を排出するための排出路26が設けられている。
【0068】
ここで供給路24の直径d1は、φ0.5〜2.0mmの範囲内であることが好ましく、より好ましくはφ0.5〜1.0mmの範囲内である。また、排出路26の直径d2は、φ0.5〜2.0mmの範囲内であることが好ましく、より好ましくはφ0.5〜1.0mmの範囲内である。
【0069】
供給路24および排出路26の直径d1,d2がφ0.5mm以上である場合には、試料溶液30の流れの際に抵抗が高くなりすぎず、液漏れや圧力欠損による流量低下などを生ずるおそれが防止できるため、好ましい。
【0070】
一方、供給路24および排出路26の直径d1,d2がφ2.0mm以下である場合には、試料溶液30の一部が検出領域16に触れることなく排出路26へ戻ってしまうおそれが防止でき、特定物質の検出精度が向上するため、好ましい。
【0071】
なお、本実施例におけるチップ構造体10では、反応層18における縦形流路20,供給路24,排出路26の形成は、ソリッド状の部材にこれら縦形流路20,供給路24,排出路26となる穴および溝を加工形成しておき、これを金属薄膜14の上面に配設することで排出路26が形成される。
【0072】
さらに、穴および溝が形成されたソリッド状の部材の上面に、今度は透明天板22を配設することで、縦形流路20および供給路24が形成されるようになっている。
【0073】
上記した反応層18における縦形流路20,供給路24,排出路26の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えばソリッド状の部材に縦形流路20,供給路24,排出路26用の3つの穴を形成すれば、透明天板22を用いなくとも形成可能である。
【0074】
また、図3に示したように、円筒部32に供給部34と排出部36とを接続させ、円筒部32の天面を透明天板22で塞ぐことで、縦形流路20,供給路24,排出路26を形成しても良い。
【0075】
さらに、図4に示したように、供給路24と排出路26とを複数設け、試料溶液30を複数の箇所から縦形流路20へ送るようにしても良いものである。
【0076】
このように本発明のチップ構造体10は、検出領域16の形成された面に対して所定の角度を持って縦形流路20が形成されているので、試料溶液30が検出領域16に一定の濃度で供給可能となる。
【0077】
このため、検出領域における特定物質の検出時の反応ムラを生ずることがなく、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができる。
【0078】
<光学センサ80>
次いで図5に示した本発明の光学センサ80は、光学センサ80の一例である表面プラズモン増強蛍光測定装置(SPFS装置)であり、上記のチップ構造体10を備えたものである。
【0079】
このような光学センサ80では、チップ構造体10の供給路24と排出路26には、それぞれチューブ68,68が接続され、このチューブ68,68がポンプ70に接続されている。
【0080】
ここでチューブ68の材質は特に限定されるものではないが、送液精度を出す点、また内容物を目視できる点などから、空気圧による変形をし難い硬い材質からなる樹脂製透明チューブが好ましい。
【0081】
また、試料溶液30は試料溶液収容器72に貯留されており、この試料溶液収容器72内の試料溶液30は、ポンプ70の駆動によりポンプ70内へ送液されるようになっている。
【0082】
なお、ここで用いられるポンプ70は、ペリスタポンプ,シリンジポンプ,ピエゾポンプなど如何なるポンプであっても良いが、中でもペリスタポンプはポンプ内に空気を取り入れないで済むため好ましい。
【0083】
また、このポンプ70は、試料溶液30を還流させる循環送液ポンプであっても往復動させる往復送液ポンプであっても良いが、本実施例では循環送液ポンプを用いている。また、本実施例にように単一のポンプを用いる場合に限らず、複数のポンプを用いてもよく、順方向に送液するためのポンプと逆方向に送液するためのポンプで往復送液ポンプを構成してもよく、或いは試料溶液30を最初に供給するためのポンプと循環送液するためのポンプで循環送液ポンプを構成してもよい。
【0084】
さらにチップ構造体10の誘電体部材12側には、誘電体部材12内に入射され、金属薄膜14に向かって励起光52を照射する光源50を備え、さらに光源50から照射され金属薄膜14に反射した金属薄膜反射光54を受光する受光手段56が備えられている。
【0085】
光源50から照射される励起光52としてはレーザ光が好ましく、波長200〜900nm、0.001〜1,000mWのLDレーザ、または波長230〜800nm、0.01〜100mWの半導体レーザが好適である。
【0086】
一方、チップ構造体10の反応層18側には、反応層18で生じた蛍光60を受光する光検出手段62が設けられている。
【0087】
光検出手段62としては、超高感度の光電子増倍管、または多点計測が可能なCCDイメージセンサを用いることが好ましい。
【0088】
なお、本実施例における光学センサ80では、チップ構造体10の反応層18と光検出
手段62との間に、集光部材64および蛍光選択部材66が配設されている。
【0089】
集光部材64は、蛍光60を集光するものであり、蛍光選択部材66は、特定波長の蛍光のみを選択して透過させ、この蛍光60を全反射条件で光検出手段62に到達させるように構成されたものである。
【0090】
そして、このような光学センサ80の使用においては、ポンプ70の駆動により、試料溶液収容器72内の試料溶液30がチューブ68を介して供給路24へ送られ、さらに縦形流路20を通じて検出領域16に試料溶液30が供給される。
【0091】
検出領域16では、試料溶液30中のアナライトがリガンドに捕捉され、さらにアナライトに蛍光物質を標識させる。
【0092】
そしてリガンドにアナライトが捕捉されなかった残りの試料溶液30は、排出路26を介してポンプ70に戻り、再び供給路24,縦形流路20を介して検出領域16に循環して供給される。
【0093】
その後、光源50より誘電体部材12内に励起光52を照射し、この励起光52が特定の角度(共鳴角58)で金属薄膜14に入射することで、金属薄膜14上に粗密波(表面プラズモン)を生ずるようにすることができる。
【0094】
なお、金属薄膜14上に粗密波(表面プラズモン)が生ずる際には、励起光52と金属薄膜14中の電子振動とがカップリングし、金属薄膜反射光54のシグナルが変化(光量が減少)することとなるため、受光手段56で受光される金属薄膜反射光54のシグナルが変化(光量が減少)する地点を見つければ良い。
【0095】
そして、この粗密波(表面プラズモン)により、金属薄膜14上の検出領域16の蛍光物質を標識したアナライトの蛍光物質が効率良く励起され、これにより蛍光物質が発する蛍光60の光量が増大し、この蛍光60を、集光部材64を介して光検出手段62で収集することで、極微量および/または極低濃度のアナライトを検出することができる。
【0096】
なお、チップ構造体10の金属薄膜14の材質としては、好ましくは金,銀,アルミニウム,銅,および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、より好ましくは金からなり、さらにこれら金属の合金からなることである。
【0097】
このような金属は、酸化に対して安定であり、かつ粗密波(表面プラズモン)による電場増強が大きくなることから金属薄膜14に好適である。
【0098】
また、金属薄膜14の形成方法としては、例えばスパッタリング法,蒸着法(抵抗加熱蒸着法,電子線蒸着法等),電解メッキ,無電解メッキ法などが挙げられる。中でもスパッタリング法,蒸着法は、薄膜形成条件の調整が容易であるため好ましい。
【0099】
さらに金属薄膜14の厚さとしては、金:5〜500nm、銀:5〜500nm、アルミニウム:5〜500nm、銅:5〜500nm、白金:5〜500nm、およびそれらの合金:5〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0100】
電場増強効果の観点からは、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmの範囲内であることがより好ましい。
【0101】
金属薄膜14の厚さが上記範囲内であれば、粗密波(表面プラズモン)が発生し易く好適である。また、このような厚さを有する金属薄膜14であれば、大きさ(縦×横)は特に限定されないものである。
【0102】
なお、試料溶液30としては、血液,血清,血漿,尿,鼻孔液,唾液,便,体腔液(髄液,腹水,胸水等)またはこれらを水溶したものなどが挙げられる。
【0103】
また、試料溶液30中に含有されるアナライトは、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA,RNA,ポリヌクレオチド,オリゴヌクレオチド,PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド,ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子),タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等),アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。),糖質(オリゴ糖,多糖類,糖鎖等),脂質,またはこれらの修飾分子,複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー,シグナル伝達物質,ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0104】
さらに蛍光物質としては、所定の励起光52を照射するか、または電界効果を利用することで励起し、蛍光60を発する物質であれば特に限定されないものである。なお本明細書でいう蛍光60とは、燐光など各種の発光も含まれるものである。
【0105】
また、誘電体部材12としては、光学的に透明な各種の無機物,天然ポリマー,合成ポリマーを用いることができ、化学的安定性,製造安定性および光学的透明性の観点から、二酸化ケイ素(SiO2)または二酸化チタン(TiO2)を含むことが好ましい。
【0106】
本実施例における誘電体部材12は、プリズム形状を有する1部材からなっているが、他にもプリズム形状のものと、板状の誘電体部材を張り合わせた2部材からなるものであっても良く、特に構成は限定されないものである。
【0107】
さらに、このような光学センサ80は、光源50から金属薄膜14に照射される励起光52による表面プラズモン共鳴の最適角(共鳴角58)を調整するため、角度可変部(図示せず)や、受光手段56および/または光検出手段62に入力された情報を処理するためのコンピュータ(図示せず)などを有しても良いものである。
【0108】
ここで、角度可変部(図示せず)は、サーボモータで全反射減衰(ATR)条件を求めるために受光手段56と光源50とを同期し、45〜85°の角度変更を可能とし、分解能が0.01°以上であることが好ましい。
【0109】
このような構成を有する本発明の光学センサ80は、上記した縦形流路20が形成されたチップ構造体10を用いるため、検出領域16における検出時の反応ムラを生ずることがなく、均一で高感度に特定物質の検出を行うことができるようになっている。
【0110】
また上記した光学センサ80は、SPFS装置を想定して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば表面プラズモン共鳴装置(SPR装置),共焦点光学系装置,吸光光度計など如何なる光学センサ80であっても良いものである。
【0111】
さらに上記説明では循環送液ポンプを用いて説明したが、試料溶液30が少ない場合には往復送液ポンプを用いることが好ましく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【0112】
なお、本明細書における各種の数値範囲は、その数値自体も当該数値範囲に含むものである。例えば、30〜90度の範囲の角度とは、30度以上90度以下の角度を意味する
ものである。
【実施例】
【0113】
(実施例1)
図5に示した光学センサ80のポンプを往復送液ポンプとしたこと以外は、基本的に同様の構成を有するSPFS装置において、図1および図2に示した本発明のチップ構造体10を用いて特定物質の検出を行った。
【0114】
ここでは、検出領域16に面する縦形流路20の角度θを30,45,70,90度に設定したチップ構造体10をそれぞれ用いた。
【0115】
なお、検出領域16として、金製の金属薄膜14上にカルボキシル末端のSAM膜を介してAFP1次抗体を10μg/mlを添加し、固相化したものを用意した。
【0116】
そして、往復送液ポンプにより濃度が1.0ng/mlの試料溶液30を流速500μl/minで、角度θ30,45,70,90度のそれぞれの縦形流路20へ25min還流送液した。
【0117】
次にTBST溶液を流速500μl/minでそれぞれの縦型流路20へ5min送液
した。そして、Alexa647標識AFP2次抗体2.5μg/mlを流速500μl/minでそれぞれの縦型流路20へ20min還流供給し、再びTBST溶液で10min洗浄した。
【0118】
その後、SPFS装置の光検出手段62により、角度θ30,45,70,90度のいずれの縦形流路20が形成された検出領域16からSPFSシグナルを検出した。
【0119】
また、図6に示したグラフから明らかなように、実施例1における縦形流路20が形成されたチップ構造体10では、検出領域16に対する縦形流路20の角度θが30度から90度に近づくほど、検出領域16のシグナルが増加するとともに、検出領域16の両端部と中心部とでシグナルの差が少なく安定していることが確認できた。
【0120】
(比較例1)
図9に示した従来の横形流路312が形成されたチップ構造体300を用いたこと以外は、実施例1と同様にして特定物質の検出を行った。
【0121】
光検出手段により、横形流路312が形成された検出領域306からSPFSシグナルを検出した。この比較例1における特定物質のシグナルは、実施例1でθ=90度のチップ構造体10におけるシグナルの半分程度であった。
【0122】
なお、図6に示したグラフから明らかなように、比較例1における横形流路312が形成されたチップ構造体300では、試料溶液がはじめに到達する検出領域306の両端部においてシグナルが最も高く、その後は中心部に向かってシグナルが大幅に減少しており、検出領域306において反応ムラが生じていることが確認できた。
【0123】
したがって、本発明の縦形流路20を形成したチップ構造体10を用いた場合の方が、従来の横形流路312を形成したチップ構造体300を用いた場合よりも特定物質の検出を高精度,高感度で行うことが確認できた。
【符号の説明】
【0124】
10・・・チップ構造体
12・・・誘電体部材
14・・・金属薄膜
16・・・検出領域
18・・・反応層
20・・・縦形流路
22・・・透明天板
24・・・供給路
26・・・排出路
30・・・試料溶液
32・・・円筒部
34・・・供給部
36・・・排出部
50・・・光源
52・・・励起光
54・・・金属薄膜反射光
56・・・受光手段
58・・・共鳴角
60・・・蛍光
62・・・光検出手段
64・・・集光部材
66・・・蛍光選択部材
68・・・チューブ
70・・・ポンプ
72・・・試料溶液収容器
80・・・光学センサ
D1・・縦形流路の直径
D2・・検出領域の直径
d1・・供給路の直径
d2・・排出路の直径
L1・・縦形流路の流路長
θ・・・縦形流路の角度
100・・・チップ構造体
102・・・誘電体部材
104・・・金属薄膜
106・・・検出領域
108・・・試料溶液
110・・・凹部
112・・・光源
114・・・集光部材
116・・・受光手段
200・・・チップ構造体
202・・・誘電体部材
204・・・金属薄膜
206・・・検出領域
208・・・試料溶液
210・・・試料溶液保持部
212・・・光源
214・・・光検出手段
300・・・チップ構造体
302・・・誘電体部材
304・・・金属薄膜
306・・・検出領域
308・・・試料溶液
310・・・反応層
312・・・横形流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状に形成された検出領域に試料溶液を供給するとともに前記試料溶液中の特定物質を検出領域で捕捉し、この捕捉された特定物質を光学的に検出する光学センサに用いられるチップ構造体であって、
前記チップ構造体が、
前記試料溶液中の特定物質を捕捉するための前記検出領域と、
前記検出領域が形成された面に対して、所定の角度を持って形成された縦形流路と、
前記縦形流路に前記試料溶液を供給するための供給路と、
前記縦形流路を介して検出領域に供給された試料溶液を排出するための排出路と、
を有する反応層を少なくとも備え、
これにより前記面状に形成された検出領域に対し、前記縦形流路を介して縦方向より試料溶液が供給されるよう構成されていることを特徴とするチップ構造体。
【請求項2】
前記縦形流路が、
前記検出領域が形成された面に対し、30〜90度の範囲の角度を有して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチップ構造体。
【請求項3】
前記縦形流路の断面が、略円形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のチップ構造体。
【請求項4】
前記断面略円形状の縦形流路の直径が、φ5〜10mmの範囲内であることを特徴とする請求項3に記載のチップ構造体。
【請求項5】
前記縦形流路の断面形状が、前記検出領域の形状と略同形状となるように設定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のチップ構造体。
【請求項6】
前記縦形流路の一方側端部から他方側端部までの流路長が、10〜20mmの範囲内であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のチップ構造体。
【請求項7】
前記供給路の断面が略円形状であって、
前記略円形状の直径がφ0.5〜1.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のチップ構造体。
【請求項8】
前記排出路の断面が略円形状であって、
前記略円形状の直径がφ0.5〜1.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のチップ構造体。
【請求項9】
前記縦形流路内に供給される試料溶液の流量が、200〜500μl/minの範囲内であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のチップ構造体。
【請求項10】
前記チップ構造体が、
誘電体部材と、
前記誘電体部材の上面に形成された金属薄膜と、
前記金属薄膜の上面に形成された前記反応層と、
を有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のチップ構造体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のチップ構造体と、
前記チップ構造体の検出領域に供給された試料溶液中の特定物質を光学的に検出する光検出手段と、
を少なくとも有することを特徴とする光学センサ。
【請求項12】
前記反応層の縦形流路内に供給される試料溶液を、
前記供給路,縦形流路,排出路の順で送液し、再び前記供給路へ還流させる循環送液ポンプを有することを特徴とする請求項11に記載の光学センサ。
【請求項13】
前記反応層の縦形流路内に供給される試料溶液を、
前記供給路,縦形流路,排出路の順で送液するとともに、さらに排出路,縦形流路,供給路の順で送液する往復送液ポンプを有することを特徴とする請求項11に記載の光学センサ。
【請求項14】
前記光学センサが、
表面プラズモン共鳴装置(SPR装置)または表面プラズモン増強蛍光測定装置(SPFS装置)であることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の光学センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−257266(P2011−257266A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131969(P2010−131969)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】