説明

光学ピックアップ装置、光記録再生装置及びギャップの制御方法

【課題】近接場光を光記録媒体に照射する場合に、集光光学系と光記録媒体と間のギャップを精度良く制御することを目的とする。
【解決手段】光学レンズと光記録媒体との間の全反射戻り光量を検出して得られるギャップエラー信号GESに、全反射戻り光量の光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号Tppをフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号を得てギャップサーボを行い、プッシュプル信号Tppを所定量保存し、その後にチルトサーボを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光を用いる光記録媒体に適用される光学ピックアップ装置、光記録再生装置及びギャップの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクや光メモリーカード等の光記録媒体において、高記録密度及び高解像度を達成するために、物体同士の間隔がある距離以下となるときに界面から光が漏れ出す近接場(ニアフィールド)光(エバネッセント波ともいう)を用いた記録再生方式が注目されている。この近接場光記録再生方式においては、レンズ等の近接場光照射手段と光記録媒体の表面との間隙を、代表的には記録や再生に使用する光の波長の1/2〜1/5程度に非常に小さく制御する必要がある。
【0003】
近接場光を発生する集光光学系として、非球面レンズ等よりなる高開口数の対物レンズと、この対物レンズと光記録媒体との間にソリッドイマージョンレンズいわゆるSIL(Solid Immersion Lens、固浸レンズ)を介在させる集光光学系が挙げられる。このSILを用いる場合は、SILと光ディスク等の光記録媒体の表面との間の距離(ギャップ)を、近接場光が発生する距離、上述したように光の波長の1/2から1/5以下程度に維持する必要がある。そして更にこの場合、光記録媒体の面振れ、ディスク状の光記録媒体の場合はいわゆるディスク面振れに追従するように、SILの姿勢を制御することが必要となる。そのために、例えば全反射戻り光量を用いてギャップを検出し、所望のギャップに維持する制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
この制御方法においては、近接場光が発生する距離では全反射戻り光量とギャップが比例関係にあることを利用している。すなわち、全反射戻り光量をギャップエラー信号として、位相補償フィルターにてサーボループ系を安定化してフィードバックサーボループを構成し、ギャップを一定に保持する方法を採っている。
【0004】
一例として、近接場光が発生する距離に維持する目標値を例えば20nmとし、許容偏差を5nm、許容する面振れ量を40μm、光記録媒体がディスク状としてディスク回転数を3000rpm(回転数/分)とすると、必要帯域は8kHz以上必要となってくる。しかしながら、実際には、ディスク回転により生じる外乱は、回転同期成分が強く出て、8kHz以上の帯域を確保しても、精度良くギャップを制御するのは困難となる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−76358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題を解決するために、光記録媒体との相対的走行方向、すなわちディスク状の光記録媒体の場合はタンジェンシャル方向のプッシュプル信号を利用して、このプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップエラー信号の外乱成分を補償することが考えられる。
タンジェンシャルプッシュプル信号は、チルトサーボにおける制御信号としても利用される。この場合、ギャップ制御とチルト制御とを両立して行えなくなる恐れがある。
【0007】
以上の問題に鑑みて、本発明は、近接場光を光記録媒体に照射する場合に、集光光学系と光記録媒体と間のギャップを精度良く制御すると共に、チルト制御も可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による光学ピックアップ装置は、光源と、光記録媒体に近接場光を照射する集光光学系と、光記録媒体からの全反射戻り光量を検出する光検出部と、光検出部から得られる検出信号に基づいて制御信号を生成する制御部と、光記録媒体上の所定の位置に前記集光光学系を駆動する駆動部と、を有する。そして、制御部において、光検出部から得られるギャップエラー信号に、光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号が生成され、またプッシュプル信号を所定量保存される繰り返し制御器が設けられる。
【0009】
また、本発明による光記録再生装置は、光源と、光記録媒体に近接場光を照射する集光光学系と、光記録媒体からの全反射戻り光量を検出する光検出部と、光検出部から得られる検出信号に基づいて制御信号を生成する制御部と、光記録媒体上の所定の位置に前記集光光学系を駆動する駆動部と、を備える光学ピックアップ装置と、光記録媒体の装着部と、光記録媒体の装着部を集光光学系と相対的に移動させる駆動部と、を有する。そして、制御部において、光検出部から得られるギャップエラー信号に、光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号を所定量保存してフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号が生成され、またプッシュプル信号を所定量保存される繰り返し制御器が設けられる。
【0010】
また、本発明によるギャップ制御方法は、光学レンズと光記録媒体との間の全反射戻り光量を検出して得られるギャップエラー信号に、全反射戻り光量の前記光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号を得てギャップサーボを行い、プッシュプル信号を所定量保存し、その後にチルトサーボを行う。
【0011】
上述したように、本発明においては、近接場光を照射する集光光学系のギャップの制御を行うにあたって、光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号、ディスク状の光記録媒体の場合は半径方向と直交するタンジェンシャル方向のプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号を生成する。このようにしてギャップサーボ信号を演算することで、ギャップサーボ系での残渣エラーを改善でき、繰り返しサーボと同様な効果が得られることが明らかになった。これは、後述するように、この光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号、ディスク状の光記録媒体にあってはタンジェンシャルプッシュプル信号が、ギャップエラー信号と同位相、且つ同様な信号であるためである。
【0012】
しかしながらこのように単にタンジェンシャルプッシュプル信号をフィードフォワードする場合、タンジェンシャルプッシュプル信号によりチルトサーボを行うと、タンジェンシャルチルトエラー信号がゼロとなってしまい、フィードフォワード信号がなくなってしまう。このため、チルトサーボを行うとギャップサーボが悪化してしまう恐れがある。
【0013】
これに対し本発明による場合は、光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号、光記録媒体がディスク状の場合はタンジェンシャルプッシュプル信号によるフィードフォワードサーボを開始する。そしてこの後、プッシュプル信号を繰り返し制御器にて所定量保存し、すなわちディスク状の光記録媒体の場合は1回転分保存し、その後にタンジェンシャルチルトサーボを行う。このような構成とすることで、タンジェンシャルプッシュプル信号によるフィードフォワードサーボとチルトサーボを両立させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、近接場光を光記録媒体に照射する場合に、集光光学系と光記録媒体と間のギャップを精度良く制御することとチルト制御との両立が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態による光学ピックアップ装置30を備える光記録再生装置100の概略構成図である。この例においては、集光光学系10に非球面レンズ等よりなる対物レンズである光学レンズ6と、半球状又は超半球状のソリッドイマージョンレンズ(SIL)7を有する場合を示す。図1においては超半球状のSILを示すが半球状のSILでもよい。この光学ピックアップ装置30は、パワー制御部1、レーザーダイオード等の光源2、コリメートレンズ3、ビームスプリッタ4、ミラー5、光学レンズ6及びSIL7を有する集光光学系10、ビームスプリッタ4の分岐光路上に配置される集光レンズ8、4分割フォトダイオード等の光検出部9を備える。更に、光検出部9による検出信号を演算して集光光学系10の駆動部11を制御する制御信号すなわちギャップエラー信号Sを生成する制御部15を有する。制御部15は、SIL7の光記録媒体20に対する傾き(チルト)を制御するチルトエラー信号Sを生成して駆動部11に出力する構成としてもよい。
【0017】
この光記録再生装置100には更に、ディスク状等の光記録媒体20を装着する装着部25と、この装着部25を例えば一点鎖線Csを回転軸として回転駆動する駆動部26とが設けられる。
【0018】
この構成において、光源2から出射された光は、コリメートレンズ3により平行光とされてビームスプリッタ4を透過し、ミラー5に反射されて集光光学系10に入射する。なお、パワー制御部1は例えば記録の際に図示しない情報記憶部からの記録情報に対応して光源2の出力を制御する。再生時はパワー制御部1からの出力制御を省略して、光源2の出力を一定としてもよい。集光光学系10により光記録媒体20の情報が記録される記録面に近接場光として照射される。光記録媒体20から反射された戻り光は、ミラー5により反射され、ビームスプリッタ4で反射されて集光レンズ8により光検出部9に集光される。
【0019】
光検出部9により検出された光の一部は、再生時には光記録媒体20の記録情報に対応するRF(高周波)信号SRFとして出力される。一方、全反射戻り光量は、集光光学系10を駆動する駆動部11を制御する信号を生成する制御部15に入力される。制御部15において後述するフィードフォワードにより生成されたギャップ制御信号Sや、チルト制御信号Sが駆動部11に出力される。駆動部11は例えばボイスコイルモーターを含む2軸アクチュエーターや3軸アクチュエーター等より構成される。なお、ギャップ制御用の駆動部と、チルト制御用の駆動部とを別々に設け、各駆動部に制御信号をそれぞれ入力する構成としてもよい。また更に、この光学ピックアップ装置30には、図1に示す構成の他、収差補正用等の種々の光学素子を付加的に配置することが可能である。
【0020】
この光記録再生装置100においては、光記録媒体20が上述した回転駆動する駆動部26に装着されると共に、例えば光学ピックアップ装置30が光記録媒体20の記録面に沿って平行移動する水平移動機構(図示せず)に搭載される。そしてこの水平移動機構と駆動部26との連動によって、集光光学系10から照射される近接場光が光記録媒体20の盤面の記録トラックに沿って例えばスパイラル状、または同心円状に走査される構成とする。
【0021】
図2においては、近接場光を用いた光学ピックアップ装置30における、ギャップに対する全反射戻り光量の関係を模式的に示す。図2Aにおいては、光学レンズ6及びSIL7より成る集光光学系10の、SIL7の端面と光記録媒体20と間のギャップを模式的に示す。図2Bに、このギャップに対する全反射戻り光量の関係を示す。全反射戻り光量はこの場合、SIL7の光記録媒体と対向する端面に全反射する角度で入射した光(開口率≧1の成分)の戻り光量である。
【0022】
図2Bに示すように、近接場状態でない領域であるファーフィールド領域Ffは、一般にギャップが入射レーザー光の波長の1/2〜1/5以上の範囲に相当する。このファーフィールド領域Ffでは、SIL端面で全て光が全反射されるため、全反射戻り光量は一定となる。一方、一般に入射レーザー光の波長の1/2〜1/5以下のギャップでは、近接場状態すなわちニアフィールド領域Fnとなる。なお、図2Bに示す例においては、一例として入射光の波長が405nmの場合において、70nm以下で全反射戻り光量が減少している例を示す。ニアフィールド領域となるギャップと波長との関係は一律ではなく、波長や、光記録媒体やSILの材料構成等によって、上述したように1/2〜1/5程度の範囲で変化する。
【0023】
ニアフィールド領域Fnでは、SIL端面と光記録媒体の表面とでエバネセント結合が生じ、全反射戻り光の一部が、SIL端面を突き抜けて光記録媒体側に透過する。このため全反射戻り光量は減少する。そして、SILが光記録媒体に完全に接触すると、全ての全反射戻り光が光記録媒体側に透過するため、全反射戻り光量はゼロとなる。したがって、SIL端面と光記録媒体との間のギャップと全反射戻り光量との関係は図2Bに示すように、ファーフィールドFfで一定であった全反射戻り光量がニアフィールド領域Fnで徐々に減少し、ギャップがゼロのときゼロとなる。そして全反射戻り光量が減少する領域では、ギャップと全反射戻り光量との関係が破線lで囲んで示すように線形関係になる領域がある。したがってこの線形の範囲においては、全反射戻り光量をギャップエラーとしてフィードバックループを形成することで、ギャップを一定に保持することが可能となる。すなわち、目標とするギャップが図2Bに示すgの場合、全反射戻り光量がrとなるように制御を行えばよい。
【0024】
図3に、比較例として、通常のフィードバックループによりギャップ制御を行う場合のサーボループの一例を示す。この場合は、減算器141、位相補償フィルターやリードラグフィルター等より成るサーボフィルター143、制御対象144、加算器145、GES演算部146より構成される。また図3において、r1はギャップ目標値(図2Bに示す全反射戻り光量の目標値)、d1はディスク面ぶれによる外乱、e1は、目標値とギャップエラー信号(GES)との差であり、e1=y1−r1となる。制御対象144はSILが設置されるアクチュエーター自体であり、図1における駆動部11である。GES演算部146は、図1における光検出部9、及びアナログ/デジタル変換器やアンプなどで構成される。
入力端子140から入力された目標信号r1は、後述のGES演算部146から出力された検出信号y1と共に減算器141に供給され、e1(=y1−r1)が出力される。サーボフィルター143で処理された信号e1は制御対象144に入力される。制御対象144の移動によって反映された検出信号に外乱d1が加算器145で加算されて、GES演算部146においてGESすなわちy1が出力される。
図3に示すように、この場合はギャップエラー信号GESであるy1をフィードバックする構成となっている。
【0025】
しかしながらこのように、GESをフィードバックすることでギャップを制御しようとする場合は、光記録媒体の回転数が高く(光記録媒体との相対的移動速度が速く)なると、光記録媒体の面ぶれに追従することが難しくなる。このため、図4に示すように、ギャップエラー信号に回転成分の残渣エラーが重畳してしまう。図4においては矢印に挟まれた部分が1回転分のGESを示す。回転に同期した成分すなわち残渣エラーが見られることが分かる。
本発明によれば、この回転同期成分の残渣エラーを軽減することが可能となる。次に、本発明により制御を行う場合について説明する。
【0026】
図5は、本発明の参考例に係る光学ピックアップ装置における制御部のサーボループの構成図である。図5に示すように、この場合、減算器71、加算器72、メインループ内のサーボフィルター73、制御対象74、加算器75、GES演算部76、フィードフォワード信号用のサーボフィルター70を有する構成とされる。サーボフィルター80としてはローパスフィルター等を利用することができる。
入力端子70から入力される目標値rは、減算器71及び加算器72、更にサーボフィルター73を介して制御対象74、この場合図1に示す駆動部11に入力される。制御対象74の移動により変化する出力に外乱dが加算器75で加算されて、全反射戻り光量がGES演算部76で検出される。
【0027】
図6は、図5におけるGES演算部76の一例の構成図である。GES演算部76では、図1に示す集光光学系10におけるこの場合SIL7の端面からの全反射戻り光量をGES検出部76Aにて検出する。GES検出部76Aでは、4分割ディテクタにて光記録媒体との相対的走行方向及びこれとは直交する方向、すなわちディスク状光記録媒体の場合はタンジェンシャル方向及びラジアル方向に4分割した全反射戻り光量を検出し、全反射戻り光量の総量はGES(y)として出力端子77から出力され、また減算器71にフィードバックされる。
【0028】
一方分割された光量に基づき、Tpp・Rpp演算部76Bにおいて光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号、この場合タンジェンシャルプッシュプル信号Tppが演算されて出力される。なお、同じ4分割した全反射戻り光量から、ラジアル方向のプッシュプル信号Rppを演算してもよい。
得られたTppは出力端子78から出力されると共に、サーボフィルター80を介して加算器72に加算される。これにより、Tppをフィードフォワードする構成となる。
【0029】
図7Aに示すように、SIL7の光記録媒体20と対向する端面7Tが面振れ等によって傾きが生じている場合、検出される全反射戻り光量は、図7Bに光量を明暗で模式的に示すように、端面7Tが光記録媒体20の表面から離間している部分すなわちファーフィールド領域となる部分で、ギャップに対応する光量の戻り光が検出される。図7Cに矢印tとrでそれぞれタンジェンシャル方向及びラジアル方向を示し、これらの方向に4分割された光検出部9における検出領域をそれぞれ9A、9B、9C及び9Dとして示す。図7Cにおいて破線で示すように、光記録媒体20とSIL7との傾きが生じると、タンジェンシャル方向、もしくはラジアル方向に戻り光量の強度差、すなわちGESの強弱の差が生じる。
【0030】
ここで、領域9A〜9Dからの信号をそれぞれA〜Dと表し、タンジェンシャル方向のエラー信号をTpp、ラジアル方向のエラー信号をRppとすると、以下のように定義される。
Tpp=(A+D)−(B+C) ・・・(1)
Rpp=(A+B)−(C+D) ・・・(2)
【0031】
Tppはギャップエラーから計算されるため、ギャップエラーのタンジェンシャル方向の傾きの度合いをα、βとすると下記の式(3)のように表現できる。
GES=A+D+B+C=(α+β)・{D/(1+CP)}・・・(3)
【0032】
ただし、
α+β=1 ・・・(4)
とする。傾きの度合いの差α−βがチルト角となる。上記式(3)は、以下の考察から導き出すことができる。
【0033】
図3におけるe,r,dのそれぞれのラプラス変換をE,R,Dと表すと、図3から、
E=Y−R ・・・(5)
−ECP+D=Y ・・・(6)
となる。なお、C及びPはそれぞれサーボフィルター及び制御対象の出力を示し、CPは制御部のゲインを示す。
【0034】
上記式(5)及び(6)からeを消去すると、GESすなわちYは、以下の式(7)に示すようになる。
Y=(CP・R)/(1+CP)+D/(1+CP) ・・・(7)
【0035】
上記式(7)において、第2項は外乱dに起因する外乱項である。従って、GESを目標値Rに完全に追従させるには、下記の式(8)に示す外乱項をキャンセルすればよいこととなる。
D/(1+CP) ・・・(8)
【0036】
言い換えると、上記式(7)中の第1項、すなわち下記の式(9)において、Rつまり目標値は一定、つまりDC成分である。
(CP・R)/(1+CP) ・・・(9)
【0037】
一般に、目標値追従系サーボの場合のCPのDCゲインは1より十分に大きく、すなわち、
1<<CP ・・・(10)
である。従って、上記式(9)は、下記の式(11)と表現できる。
{CP/(1+CP)}・R≒(CP/CP)・R=R ・・・(11)
【0038】
つまり、ギャップエラー(目標値との誤差は)は、上記式(7)の第2項そのものとなる。従って、ギャップエラー信号GESは、下記の式(12)で表すことができる。
GES=D/(1+CP) ・・・(12)
【0039】
プッシュプル信号Tppは、チルト角(α−β)に上記式(8)で示す外乱項を乗じたものと表されるので、以下の式(13)のように表現できる。
Tpp=(α−β)・{D/(1+CP)}=(α−β)・GES・・・(13)
【0040】
上記式(13)より、プッシュプル信号Tppは、GESの影響を強く受けるため、Tppに対するGESの影響を排除するには、TppをGESで規格化する(GESで除算する)か、GESを一定にすればよいことがわかる。
GESで規格化する手法については、TppのGESの影響を排除することで、Tppを用いてチルトサーボを正しく行うことはできるが、このままでは、もちろんギャップサーボの精度を上げることはできず、別途ギャップサーボ精度を上げる必要がある。
【0041】
ところが、GESを予め一定にしておけば、ギャップ精度は既に保証される上に、上記式(13)において、GES=c(一定)となる。つまり、
Tpp=(α―β)・c≒α−β ・・・(14)
となり、GESに影響されない正しいチルトエラーを得ることができる。
【0042】
以上の結果から、本発明では、ギャップ精度を上げるためにTppエラーを用いるものとする。TppとGESが同相であることは以下の考察により理解できる。
【0043】
まず、サーボが外乱に追従して、GESが一定である場合を考える。この時、GES=c(一定)より、上記式(14)に示す状態となる。この場合は、既に、GESが小さいので、フィードフォワードは必要ない。
【0044】
次に、サーボが外乱に追従しなくなってくる場合を考える。この場合、チルト角は物理的に面振れ信号Dの傾きすなわち微分に相当するので、
α−β≒s・D ・・・(15)
となる。また、上記式(13)のGESは、下記の式(16)のように表される。
【0045】
D/(1+CP)≒D/(K/s)=K´・s・D ・・・(16)
【0046】
ただし、上記式(15)及び(16)において、sはラプラス変換の演算子で微分を意味し、Kはゲインを示し、K´=1/Kである。
【0047】
一般に、光学ピックアップ装置におけるアクチュエーターの伝達関数を示すボード線図は図8のように表される。図8において、横軸は周波数、縦軸はゲインである。エラー率はゲインに反比例するので、破線F1で示す比較的低い周波数領域ではブーストによりゲインを上げ、破線F2で示す周波数領域では傾きが急だと不安定なので、−20dB/dec程度になだらかになるように補償がなされる。破線F3で示すより高い周波数領域では2次、3次の共振が発生する。このため、単純にサーボ帯域を上げるとこのような共振が発生してしまうことが分かる。
【0048】
また、特に近接場光を照射する光学系においては、制御する距離が極めて小さいので、DC分の取れ残り偏差Δeが少しでも残ると精度よく制御することができない。このため、サーボフィルターに積分器を入れることが一般的となっている。取れ残り偏差Δeは、
Δe=D/K ・・・(17)
であるので、積分器を入れるとK→∞となり、Δe→0とすることができるためである。
【0049】
上記式(16)について説明すると、サーボが外乱に追従しなくなってくる回転周波数帯域内でのCPの伝達関数は、ほぼ積分1/sとなることから導き出せる。つまり、制御対象であるアクチュエーターの1次共振、一般的に100Hz以下では、そのゲインは一定である。一方、サーボフィルターの同周波数内のゲインは、上述したようにDC分の残渣エラーを除去するために、積分器1/sを入れている。このことから、
1+CP≒CP≒K/s ・・・(18)
となり、上記式(16)が導き出される。
【0050】
ここで、上記式(15)はチルトエラーであるから符号をもち、上記式(16)はギャップエラーGES(全反射戻り光量値)でプラスである。結局、上記式(13)は、符号はチルトエラー信号に従い、振幅が増幅されて観察されることになる。つまり、サーボが外乱に追従して、GESが一定である場合と比較して、振幅が大きくなる。
【0051】
但し、位相関係をみると、上記式(15)、式(16)より、共に面ぶれ信号Dに対して微分すなわち位相が90度進みの関係であり、TppもGESも同位相となることが分かる。
【0052】
最後に、完全に、サーボが外乱に追従しなくなってくる場合については、下記の式(19)及び式(20)で表される。
α−β≒s・D ・・・(19)
D/(1+CP)≒D/1=D ・・・(20)
【0053】
上記式(19)は、上記式(15)と同様である。
上記式(20)は、サーボが完全に外乱に追従しないこと、つまり図8における高周波数の帯域であることから、ゲインは小さくCP<<1となることによって導き出せる。位相関係については、上記式(19)及び(20)より、TppとGESは面ぶれ信号Dとは同位相となることが明らかである。
【0054】
以上の結果より、TppとGESは同位相、かつ同様な信号となることが分かる。この様子を図9〜図11に示す。各例共に、使用する光の波長は405nm、集光光学系の開口数NAは1.84、ギャップの目標値は25nmとする例を示す。図9においてはギャップが完全に面ぶれに追従する場合、図10においてはギャップが面ぶれに追従しなくなってくる場合、図11においてはギャップが完全に面ぶれに追従しない場合を示す。それぞれGES、Tpp、面ぶれDを示し、図9においてはTppの積分も示す。図9〜図11より、GESとTppが互いに同様な信号であり、すなわち相関関係があることが分かる。
【0055】
また、図12に、GES、Tpp及びGESの繰り返し成分を示す。図12から、GESの繰り返し成分がTppと同様であることがわかる。従って、Tpp信号を用いてフィードフォワードすることで、繰り返しサーボと同様な補償が可能であることが分かる。
【0056】
図13に、Tppを用いてフィードフォワードサーボを行った結果を示す。フィードフォワード方法としては、図5に示すように、Tpp信号をローパスフィルター等のサーボフィルター80に通したあと、エラー信号eに加えることで行う。光記録媒体はディスク状とし、その回転数を3000rpmとして測定した結果を示す。図13Aはフィードフォワード前、図13Bはフィードフォワード後の状態を示す。
これらの結果から、タンジェンシャルプッシュプルTpp、すなわち光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号により、ギャップエラー信号の繰り返しが抑制されていることがわかる。すなわちこのようにTppを用いてフィードフォワードサーボを行うことにより、光記録媒体の回転数が3000rpm以上であっても、良好にギャップ制御を行うことができることが分かる。また、適用前後で、ギャップの追従性が良くなることから、Tpp信号の波形形状は不変であるものの、振幅が小さくなっていることも確認できる。
【0057】
この後に、Tpp信号を用いてチルトサーボを行うと、上記のようにGESが一定に保持されており、Tpp信号は正しくチルト量を反映しているため、チルトサーボを正しく行うことができる。この様子を図14に示す。なお、Tpp及びRppを用いてチルトサーボを行う方法については、例えば特開2006−344351号公報に提案されている方法を利用することができる。
【0058】
図14に示すように、チルトサーボを動作させると、チルトエラーがゼロとなり、当然のことながら、図5に示すフィードフォワード信号がなくなってしまう。このため、チルトサーボを動作させるとギャップサーボが変動してしまい、結果的に、チルトエラー信号も正しくなくなり、チルトサーボも動作不良となる。
【0059】
この問題を回避するために、本発明では、図15に示すように、Tpp信号を繰り返しサーボと同様に1回転分メモリに保存しておく。
この例においては、減算器41、加算器42、メインループ内のサーボフィルター43、制御対象44、加算器45、GES演算部46、減算器61及び加算器62、チルト制御信号用のサーボフィルター63、制御対象64、繰り返し制御器50より構成される。繰り返し制御器50は、デジタル/アナログ(D/A)変換器51、ローパスフィルター等のサーボフィルター52、ディレイライン53(Nは1回転分のエラー信号についてのサンプル数を示す)、係数乗算器54、アナログ/デジタル(A/D)変換器55を有する構成とされる。なお、ディレイライン53に代えて1回転分のメモリを用いてもよい。
【0060】
図15において、制御対象64からGES演算部46へは破線で結線されているが、実際には、チルトサーボを動作させても、結局は、チルトエラーはギャップエラーから算出されることになるので、実際には結線はされていない。
【0061】
入力端子40から入力されるギャップ制御の目標値rは、減算器41及び加算器42、更にサーボフィルター43を介して制御対象44、この場合図1に示す駆動部11のギャップ方向のアクチュエーターに入力される。制御対象44の移動により変化する出力に外乱dが加算器45で加算されて、全反射戻り光量がGES演算部46で検出される。
【0062】
GES演算部46は図6に示す例と同様の構成とされる。光記録媒体との相対的走行方向とこれとは直交する方向、すなわちディスク状の光記録媒体の場合タンジェンシャル方向及びラジアル方向に分割された4分割ディテクタからの検出量に基づいて、GES、Tpp及びRppが演算により求められる。
【0063】
得られたTppは加算器61でタンジェンシャルチルトの目標値r´(この場合ゼロ)に加算され、加算器62を経て加算器42及び繰り返し制御器50に入力されると共に、サーボフィルター63を介して制御対象64、すなわちチルト制御用のアクチュエーターに入力される。
【0064】
繰り返し制御器50に入力されたTppはD/A変換器51に入力される。そしてローパスフィルター等のサーボフィルター52を介してディレイライン53に入力され、例えばディスク状の光記録媒体20の場合1回転分遅延される。更に係数乗算器54において適当なゲインとされた後、A/D変換器55を介して、加算器42に入力される。以上の繰り返し制御器50の作用により、Tpp信号が所定量、この場合1回転分保存される。なお、繰り返し制御器50の構成は図5に示す例に限定されることなく、例えば上述したようにディレイラインではなくメモリを設けるなど、種々の変更が可能である。
【0065】
すなわちこの例においては、まず、Tppサーボによるフィードフォワード動作をし、ギャップを安定化させる。このもとで、Tpp信号を1回転分保存する。その後で、チルトサーボを動作させる。このようにすれば、チルトサーボが動作してチルトエラーがゼロになっても、フィードフォワード信号としては、現状のチルトエラー(ゼロ)とチルトサーボ動作前のチルトエラーとの和信号が印加されることになるため、フィードフォワードサーボとチルトサーボを同時に動作させることが可能となる。
【0066】
図15に示す例では、Tppによるチルト制御をフィードフォワードしている場合を示すが、Tppサーボ系では通常のフィードバックをする構成としてもよい。この場合の制御部のサーボループの一例を図16に示す。図16において、図15と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
図16に示す例では、GES演算部46において得られたTppは目標値r´に加算されてそのままサーボフィルター63を介して制御対象64に入力される。
この場合においても、ギャップサーボのフィードフォワードとしては、現状のチルトエラーとチルトサーボ動作前のチルトエラーとの和信号が印加されるので、フィードフォワードとチルトサーボを同時に動作させることが可能となる。
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、近接場光を用いた光記録媒体において、光記録媒体との相対的走行方向、ディスク状の光記録媒体の場合はタンジェンシャル方向のプッシュプル信号を、フィードフォワード信号としてギャップエラー信号を得ることにより、回転数が高く(光記録媒体との相対的移動速度が速く)なっても、精度よくギャップの制御を行うことができる。同時に、このギャップ制御とプッシュプル信号によるチルト制御とを両立動作させることが可能となる。
【0068】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係る光学ピックアップ装置を含む光記録再生装置の概略構成図である。
【図2】A及びBは全反射戻り光量の説明図である。
【図3】比較例によるサーボループを示す構成図である。
【図4】比較例により得られるギャップエラー信号の波形を示す図である。
【図5】参考例による光学ピックアップ装置の制御部のサーボループを示す構成図である。
【図6】図5に示す制御部におけるGES演算部の一例の構成図である。
【図7】AはSILと光記録媒体との傾きを示す断面図、Bは全反射戻り光量の一例を示す図、Cは光検出部の構成図である。
【図8】一般的な光学ピックアップ装置における制御系の伝達関数のボード線図を示す図である。
【図9】ギャップが面ぶれに追従する場合の信号波形を示す図である。
【図10】ギャップが面ぶれに追従しなくなってくる場合の信号波形を示す図である。
【図11】ギャップが完全に面ぶれに追従しない場合の信号波形を示す図である。
【図12】GES、TPP及びGESの繰り返し信号波形を示す図である。
【図13】A及びBはプッシュプル信号をフィードフォワードする前及び後のギャップエラー信号及びタンジェンシャルプッシュプル信号の波形を示す図である。
【図14】タンジェンシャルプッシュプル信号のチルトサーボ前後の波形を示す図である。
【図15】本発明の一実施の形態に係る光学ピックアップ装置の制御部のサーボループを示す構成図である。
【図16】本発明の一実施の形態に係る光学ピックアップ装置の制御部のサーボループを示す構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1.パワー制御部、2.光源、3.コリメートレンズ、4.ビームスプリッタ、5.ミラー、6.光学レンズ、7.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)、8.集光レンズ、9.光検出部、10.制御部、11.駆動部、20.光記録媒体、25.搭載部、26.駆動部、40.入力端子、41.減算器、42.加算器、43.サーボフィルター、44.制御対象、45.加算器、46.ギャップエラー信号演算部、46A.ギャップエラー信号検出部、46B.プッシュプル信号演算部、47、48.出力端子、50.繰り返し制御器、51.デジタル/アナログ変換器、52.サーボフィルター、53.ディレイライン、54.係数乗算器、55.アナログ/デジタル変換器、61.減算器、62.加算器、63.サーボフィルター、64.制御対象、100.光記録再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
光記録媒体に近接場光を照射する集光光学系と、
前記光記録媒体からの全反射戻り光量を検出する光検出部と、
前記光検出部から得られる検出信号に基づいて制御信号を生成する制御部と、
前記光記録媒体上の所定の位置に前記集光光学系を駆動する駆動部と、を有し、
前記制御部において、前記光検出部から得られるギャップエラー信号に、前記光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号が生成され、
前記プッシュプル信号を所定量保存される繰り返し制御器が設けられる
ことを特徴とする光学ピックアップ装置。
【請求項2】
前記集光光学系は、光学レンズと、ソリッドイマージョンレンズとを有することを特徴とする請求項1記載の光学ピックアップ装置。
【請求項3】
前記光記録媒体がディスク状の光記録媒体であり、
前記繰り返し制御器において保存するプッシュプル信号は、1回転分の信号であることを特徴とする請求項1記載の光学ピックアップ装置。
【請求項4】
前記プッシュプル信号が、前記光記録媒体の半径方向と直交するタンジェンシャル方向のプッシュプル信号であることを特徴とする請求項3記載の光学ピックアップ装置。
【請求項5】
前記光記録媒体の記録及び/又は再生時の回転数が3000回転/分以上とされることを特徴とする請求項3記載の光学ピックアップ装置。
【請求項6】
光源と、光記録媒体に近接場光を照射する集光光学系と、前記光記録媒体からの全反射戻り光量を検出する光検出部と、前記光検出部から得られる検出信号に基づいて制御信号を生成する制御部と、前記光記録媒体上の所定の位置に前記集光光学系を駆動する駆動部と、を備える光学ピックアップ装置と、
前記光記録媒体の装着部と、
前記光記録媒体の装着部を前記集光光学系と相対的に移動させる駆動部と、を有し、
前記制御部において、前記光検出部から得られるギャップエラー信号に、前記光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号が生成され、
前記プッシュプル信号を所定量保存する繰り返し制御器が設けられる
ことを特徴とする光記録再生装置。
【請求項7】
前記集光光学系は、光学レンズと、ソリッドイマージョンレンズとを有することを特徴とする請求項6記載の光記録再生装置。
【請求項8】
前記光記録媒体がディスク状の光記録媒体であり、
前記繰り返し制御器において保存するプッシュプル信号は、1回転分の信号であることを特徴とする請求項6記載の光記録再生装置。
【請求項9】
光学レンズと光記録媒体との間の全反射戻り光量を検出して得られるギャップエラー信号に、前記全反射戻り光量の前記光記録媒体との相対的走行方向のプッシュプル信号をフィードフォワードすることにより、ギャップサーボ信号を得てギャップサーボを行い、
前記プッシュプル信号を所定量保存し、その後にチルトサーボを行う
ことを特徴とするギャップ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図15】
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【図16】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−70466(P2009−70466A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237136(P2007−237136)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】