説明

光学フィルタの成膜方法、光学フィルタの製造装置及び光学フィルタ並びに撮像光量調整装置

【課題】チャンバ内で基板表面に複数の蒸着膜を形成する際に、膜層毎に異なる成膜パターンで膜形成することが可能な成膜方法及び装置を提供する。
【解決手段】基板を装着する基板装着体とマスク板装着体とを、互いの相対的位置が変更可能に構成し、この位置を変更するシフト手段を設ける。そしてこの基板装着体とマスク板装着体との位置移動によって特定の基板に対して第1のマスク開口を対向させて第1層を成膜し、第2のマスク開口を対向させて第2層を成膜する。上記シフト手段は例えば基板装着体を回転させながら小着被膜を形成する場合、その回転方向を正逆転させることによって特定の基板に対向するマスク開口が第1第2切換わるように構成する。そして第1のマスク開口では成膜パターンの上下又は左右端に膜厚さが漸減するグラデーション領域を形成し、第2のマスク開口ではパターン全体を均一な膜厚さに形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラその他の光学器機において光量調整或いは特定波長の光の通過量を調整する光学フィルタの成膜方法、装置及びこれを用いた光学フィルタに係わり、基板プレートに蒸着で光学膜を形成する際の成膜方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にこの種の光学フィルタは例えばNDフィルタ(Neutral Density Filter)として各種撮像装置に広く用いられている。このNDフィルタは樹脂或いはガラス製の基板に光吸収特性に優れた薄膜を形成している。そしてこのNDフィルタは全体が均一な単濃度の薄膜で成膜する場合と、濃度が連続的に変化(漸減)するグラデーション薄膜で成膜する場合が知られている。
【0003】
近年、撮像装置の高解像化が進むに従い、明るい被写体条件下で光量を絞ると回折光の影響による画像ボケなど画質の劣化が顕著に現れる傾向にある。そこで例えば特許文献1に開示されているように光量を調整する絞り羽根にNDフィルタを添着し、小絞り時に発生する回折現象を抑えることが提案されている。単一濃度のNDフィルタの場合、NDフィルタの端部と開口形状で形成される小絞りにより回折が発生し画質の劣化が現れる。その劣化を防止する為に開口径側に連続的に濃度が漸減するグラデーションフィルタが提案されている。
【0004】
従来このような光学フィルタを作成する成膜方法としては、マイクロ写真法(例えば特許第2754518号)で作成することも提案されているが、真空蒸着装置で作成することが広く用いられている。例えば特許文献1には蒸着膜で基板上に薄膜を形成し、この薄膜で光量を減衰することが開示されている。
【0005】
同文献1には基板上にチタン、クロメルなどの金属膜で光吸収層を形成し、この光吸収層の上に光の反射を抑制する誘電体膜を積層状に形成する多層構造の成膜方法が開示されている。そしてその製造装置は真空蒸着槽内に蒸着物質とドーム型の蒸着傘を配置し、この蒸着傘に基板プレートとマスク板を装着して回転させながら蒸着物質を加熱して基板上に成膜する装置が開示されている。
【0006】
一方、同様の成膜装置として例えば特許文献2には蒸着槽内に回転ドラムと蒸着物質(ターゲット)を設置し、槽内に動作ガス(不活性ガス)を導入してターゲットをスパッタリングするスパッタリング蒸着装置が開示されている。
【0007】
いずれの蒸着装置においても蒸着傘或いは回転ドラムに装着する基板プレートには間隔を隔ててマスク板が取り付けられ、このマスク板に形成されたマスク開口で所定パターンに成膜するようになっている。そして特許文献1の装置は蒸着傘に装着した基板を楕円軌跡で回転させることによって膜厚さが漸減するグラデーション膜を形成し、特許文献2の装置は回転ドラムに装着した基板とマスク板との間の間隙で回折するスパッタ粒子でグラデーション膜を形成している。
【特許文献1】特開2005−345746号公報
【特許文献2】特開2001−064772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように真空チャンバ内に配置した基板プレートに蒸着膜を複数層に積層形成する場合、マスク開口を成膜層毎に変更する場合がある。これは基板上に形成する第1層目の成膜パターンと第2層目の成膜パターンを異なる形状に成膜する場合、或いはグラデーション領域の膜厚さを第1層目と第2層目で異ならせる場合には第1層目のマスク開口と第2層目のマスク開口を異なった形状にする必要がある。
【0009】
このような成膜層に応じてマスク開口を変更する必要は、例えばNDフィルタで基板上に金属膜層と誘電体膜層を積層状に形成する場合、膜厚さが等しい等濃度領域と膜厚さが直線的に漸減するグラデーション領域に成膜することがある。このときグラデーション領域の膜厚さを金属膜層は直線的に漸減させ、誘電体膜層は均一厚さに形成する場合がある。
【0010】
従来、このようなマスク開口の変更は、前掲特許文献1の物理蒸着装置においても、前掲特許文献2の反応性スパッタリング装置においても、成膜チャンバを開放して蒸着傘或いは回転ドラム(以下「基板装着体」という)にセットされたマスク板を交換している。従ってマスク開口の変更はその作業が繁雑で時間を要する問題と、チャンバ内の真空度、蒸着物質の飛散条件などがマスク板の交換の都度変化してしまう問題を抱えている。このため従来の光学フィルタでは金属膜層と誘電体膜層の膜厚さを異ならせた光学特性を得ようとしても、その製造が困難で安定した膜厚さで大量に生産することが出来ない欠点があった。
【0011】
そこで本発明者は、基板をセットする基板装着体に対して複数のマスク板を相対位置を変更することによって蒸着槽(チャンバ)を開放することなく、例えば基板装着体の回転方向を正逆変更することによって特定の基板に対向するマスク開口を第1、第2変更するとの着想に至った。
【0012】
本発明は、チャンバ内で基板表面に複数の蒸着膜を形成する際に、膜層毎に異なる成膜パターンで膜形成することが可能であり、この成膜パターンの変更を、チャンバを開放することなく同一バッチ内で切換えることが可能な成膜方法及び装置の提供をその主な課題としている。
更に本発明は基板とマスク板を装着する蒸着傘或いは回転ドラムの回転方向を正逆することによって簡単にマスク板の切換えが可能な成膜装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するため本発明は、基板を装着する基板装着体とマスク板装着体とを、互いの相対的位置が変更可能に構成し、この位置を変更するシフト手段を設ける。そしてこの基板装着体とマスク板装着体との位置移動によって特定の基板に対して第1のマスク開口を対向させて第1層を成膜し、第2のマスク開口を対向させて第2層を成膜するように構成することを特徴としている。
【0014】
基板上に少なくとも2層以上の蒸着膜を形成する方法であって、チャンバ内に配置した基板上に第1のマスク開口を介して第1膜層を形成する第1成膜工程と、この第1膜層の上に第2のマスク開口を介して第2膜層を形成する第2成膜工程とを有し、上記基板を装着する基板装着体はチャンバ内に配置した蒸着物質に対して所定の蒸着距離を隔てて回転するように構成する。上記第1、第2のマスク開口を形成するマスク板装着体と上記基板装着体とは、互いの相対的位置を変更可能に構成すると共に、このマスク板装着体と基板装着体の少なくとも一方にはシフト手段を設け、上記第1成膜工程と第2成膜工程とを順次繰り返して基板上に複数の膜層を形成する際に、上記シフト手段によって上記基板装着体に装着された基板に対して上記第1のマスク開口を対向させて第1膜層を形成し、次いでこの第1膜層の上に上記第2のマスク開口を対向させて第2膜層を形成する。
【0015】
前記基板装着体と前記マスク板装着体とは、基板装着体の正逆回転でマスク板装着体の対向位置を変更するように互いに連結し、前記シフト手段は、上記基板装着体の回転方向を正逆切り換えることによって前記基板装着体に装着された所定の基板に対して前記第1のマスク開口と前記第2のマスク開口を選択的に対向させる。
【0016】
前記第1膜層は金属膜で膜厚さが略々等しい単濃度領域と、膜厚さが直線的に漸減するグラデーション領域に形成する。また、前記第2膜層は誘電体膜で略々均一膜厚さに形成する。この場合、上記金属膜は金属物質を動作ガスでスパッタリングしてスパッタ粒子で成膜する際に上記グラデーション領域を前記第1マスク開口と基板との間に形成した成膜ギャップでスパッタ粒子の拡散で膜厚さを漸減させる。
【0017】
撮像光路に配置され、撮像光量を調整する絞り羽根と、上記絞り羽根に添着された光学フィルタとから構成した撮像光量調整装置であって、上記光学フィルタは上述の構成を備える。
【0018】
基板上に誘電体膜層と金属膜層を積層状に成膜する光学フィルタの製造装置であって、複数の成膜エリアに区割されたチャンバと、上記成膜エリアに配置された第1、第2、少なくとも2つのターゲットと、上記チャンバ内に配置され外周に基板を装着する円筒形状の回転ドラムと、上記回転ドラムに装備されたマスク板装着体と、上記成膜エリアに供給され上記ターゲットをスパッタリングして上記基板上に膜形成する動作ガスとを備える。上記回転ドラムは、外周に複数の基板を装着して回転しながら上記成膜エリアでそれぞれの基板に膜形成するように構成し、上記マスク板装着体は、上記回転ドラムに対して周方向前後又は軸方向上下に位置移動可能に配置されると共に、周方向前後又は上下方向に並列に配置された第1のマスク開口と第2のマスク開口を有するマスク板を装着し、上記マスク板装着体は、上記回転ドラムに装着された所定の基板に対して、この回転ドラムの正逆回転方向に従動して上記第1のマスク開口を対向させて成膜するか、上記第2のマスク開口を対向させて成膜するか選択可能に構成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、チャンバ内で基板表面に複数の蒸着膜を形成する際に、互いに相対的位置を変更可能に構成した基板装着体とマスク板装着体とを、シフト手段で位置移動することによって第1第2のマスク開口を切換えるようにしたものであるから次の効果を奏する。
【0020】
基板装着体に装着された基板に対してマスク板装着体を位置移動することによって積層状に形成する蒸着膜の成膜パターンを変更することが可能となり、第1の蒸着膜層と第2の蒸着膜層の成膜形状を大小異ならせることができる。これによって例えばグラデーション領域を形成する場合に膜厚さが漸減する膜層と、膜厚さが均一な膜層を積層形成することが可能となる。
【0021】
シフト手段を例えば基板装着体の回転方向を正逆変更することによって特定の基板に対向するマスク開口を第1開口から第2開口に切換えるように構成することによってマスク交換の為に真空チャンバを開放する必要がない。このため第1開口で形成する膜層と第2開口で形成する膜層を連続的に同一バッチ内で効率的に成膜することが出来る。これと共にマスク交換の際に蒸着条件、例えば真空度、蒸着物質の飛散環境などが変化することがなく安定した均質な成膜を得ることが出来るなど、本発明は顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図示の好適な実施の態様に基づいて本発明を詳述する。図1は本発明に係わる光学フィルタの構成を示し、(a)は基板上に形成された薄膜層の層構造を示し、(b)はその薄膜層とマスク開口との関係を示す説明図である。図3は蒸着装置の構造を示す説明図であり、図4は基板上に薄膜層を形成する原理構成の説明図である。
【0023】
[光学フィルタの構成]
まず、本発明に係わる光学フィルタの膜層構造について説明する。本発明の光学フィルタ(NDフィルタ)43は、図1(a)に示すように透明又は半透明の基板プレート(成膜ベース基材)10に減光特性を有する薄膜層20を形成する。この薄膜層20は光吸収層21と中間層22とで積層状に構成され、用途に応じて複数段(図示のものは6層構成)に形成される。光吸収層21(21a、21b、21c)は光吸収特性に富んだ金属膜で構成され、基板プレート10上に濃度を有する半透明層しとして形成される。中間層22(22a、22b、22c)は誘電体で構成され、光吸収層21の上に成膜され光の反射特性を改善する透明層として形成される。
【0024】
図示の薄膜層20は、均一厚さで均一な透光率を有する単濃度領域20aと膜厚さが漸減するグラデーション領域20bとに形成されている。また、最上層の誘電体膜層(中間層)22cの上には後述するコーティング層23が形成されている。これらの金属膜層(光吸収層)21、誘電体膜層(中間層)22、コーティング層23の成膜物質については後述する。
【0025】
図1(a)に示す光学フィルタ(NDフィルタ)43は上記金属膜層(光吸収層)21を蒸着金属(図示のものはNb)で成膜し、誘電体膜層(中間層)22を酸化ケイ素(Si)で構成する場合を示している。以下各膜層の素材について説明する。
【0026】
[基板材質]
上述の基板プレート10は透明又は半透明の合成樹脂板で構成する。素材としては例えばポリエチレンフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ノルボルネン系樹脂などを使用する。この他基板材質は用途に応じて好適な素材を選択する。
【0027】
[金属物質]
上述の金属膜層(光吸収層)21は、クロメル(ニッケルークロム合金)、ニオブ(Nb)チタン(Ti)などでの光吸収性に富んだ金属酸化物を使用する。
【0028】
[誘電体物質]
上述の誘電体膜層(中間層)22は、ケイ素或いはアルミ合金などの酸化物、窒化物、フッ化物で構成する。このため後述するターゲット32はSi(ケイ素)、Al(アルミ)の板状素材を使用する。
【0029】
[コーティング層]
上述のコーティング層23としてはフッ化マグネシウムなどの硬質性或いは撥水性に富んだ材料を使用する。この場合にはターゲット32としてMgO(マグネシウム酸化物)を使用する。
【0030】
[蒸着装置の構成]
次に図1に基づいて説明した基板プレート10上に薄膜層20を形成する蒸着装置について図3に従って説明する。図3は反応性スパッタリング装置を示し、図はその成膜原理を示す。まず図3の装置は、チャンバ30を形成する外筐ケース30aと、このチャンバ30内に回転自在に内蔵された円筒形状の回転ドラム31と、この回転ドラム31に距離を隔てて配置されたスパッタ電極35とで構成されている。
【0031】
上記チャンバ30内は略々真空に形成され、このため図示しない真空ポンプが備えられている。そしてチャンバ30内は複数のエリア36a〜36dに遮蔽板37で区割されている。図示のものは金属膜層(光吸収層)21を成膜する第1のターゲット(以下「金属ターゲット」という)32aをスパッタリングする第1エリア36aと、誘電体膜層(中間層)22を成膜する第2のターゲット(以下「誘電体ターゲット」という)32bをスパッタリングする第2エリア36bと、コーティング層23を成膜する第3のターゲット(以下「コート層ターゲット」という)32cをスパッタリングする第3エリア36cと、活性ガスを照射する第4エリア36dとに区割されている。そして第1、第2、第3エリア36a〜36cには一対のスパッタ電極35a、35bがそれぞれ内蔵されている。
【0032】
この一対のスパッタ電極35a、35bは交流電源に連結され、一方がカソード、他方がアノードとなるように配置されている。各スパッタ電極35a、35bは電源コイル35cに結線され、交流電圧が印加されるように構成されている。上記第1、第2、第3エリア36a〜36cの各スパッタ電極35a、35bにはターゲット32(32a〜32c)が装着されている。このターゲット32は板状材料で構成され、面状蒸着源を構成する。また上記第1、第2、第3エリア36a〜36cにはコントローラ38を介してアルゴンなどの不活性ガス(動作ガス)が導入されるようになっている。図示38gはアルゴンガスの供給ボンベである。
【0033】
第4エリア36dには反応性ガス発生室39が設けられ、コントローラ39cを介して活性ガス(酸素ガス、窒素ガス、フッ素ガスなど)が供給ボンベ39gから供給されるようになっている。そして供給ボンベ39gからのガスをプラズマ化して第4エリア36d内に照射するように構成されている。
【0034】
このような装置構成で回転ドラム31を所定速度で回転し、第1エリア36aの金属ターゲット32aをスパッタリングして金属膜(例えばNb)を基板プレート10上に付膜する。そして回転ドラム31に装着した所定の基板プレート10が第2、第3、第4エリア36b〜36dを通過して第1エリア36aに位置したとき同様に金属ターゲット32aをスパッタリングして先に成膜した蒸着皮膜の上に被膜形成する。この被膜形成を繰り返して所定厚さの金属膜層(光吸収層)21が形成される。
【0035】
上述のように基板プレート10上に所定厚さの金属膜層(光吸収層)21が被膜形成された後、次いで第2エリア36bの誘導体ターゲット32bをスパッタリングして誘電体膜層(例えばSi)を基板プレート10上に付膜する。そして回転ドラム31が第4エリア36dに位置したとき活性ガス(例えばO)を基板上に照射する。すると基板プレート上の誘電体膜層22は酸化され酸化物(例えばSiO)の被膜を生成する。
【0036】
このように金属膜層(光吸収層)21と誘電体膜層(中間層)22とを複数層に積層した後、最後の誘電体膜層(中間層)22cの上に第3エリア36cのコート層ターゲット32cをスパッタリングする。これによって最上層にコーティング層23が付膜される。
【0037】
[グラデーション領域の成膜]
図1に示す光学フィルタ(NDフィルタ)43は前述したように単濃度領域20aとグラデーション領域20bを形成する場合を示している。このグラデーション領域20bの成膜は図2に示すマスク板34によって成膜する。同図において回転ドラム31に基板プレート10を装着する際にマスク板34を組み合わせてセットする。このマスク板34を介して基板プレート10に対して平行な面状蒸着源(上述の各ターゲット)から膜成分のスパッタ粒子を飛翔させて成膜する。このときマスク板34と基板プレート10との間には所定間隔の成膜ギャップd(図2(b)参照)が形成されている。従ってマスク板34のマスク開口33に対応する基板プレート10には単濃度領域20aと、マスク開口33の上端縁33aと下端縁33bの周辺には膜厚さが直線的に漸減するグラデーション領域20bが形成される。
【0038】
[マスキング方法及びマスク板構造]
そこで本発明は上述のような基板プレート10上に光学特性を有する薄膜層20を形成する場合に第1の膜層(例えば上述の金属膜層21a)と第2の膜層(例えば誘電体膜層22a)を形成する場合に成膜パターン(図1(b)に示すma、mb)を異ならせる必要がある。この成膜パターンはマスク板34に形成したマスク開口33によって形成される。つまり基板プレート10に対して成膜キャップdを隔てて対向配置されているマスク板34の開口形状を異ならせる必要がある。
【0039】
このように成膜パターンを異ならせる必要は、例えばグラデーション領域を形成する場合に光吸収特性を有する金属膜層21(21a、21b、21c)は膜厚さ(Δt)を直線的に漸減させて濃度を変化させる必要がある。これに対し誘電体膜層22(22a、22b、22c)及びコーティング層23はグラデーション領域20bであっても均一の膜厚さ、若しくは膜厚さを金属膜層21より緩やかに漸減させることが好ましい。これは誘電体膜層22は光の反射率を抑えてゴースト現象を防止する特性を有するが、グラデーション領域20bの膜厚を金属膜層21と同様に薄くするとその成膜厚さがバラツキ易く、膜厚変化により反射率特性がバラツク問題が生ずる。従って金属膜層21と誘電体膜層22の成膜厚さを異ならせるためにはマスク開口33を膜層毎に異ならせる必要がある。
【0040】
本発明は基板プレート10上に薄膜層20を複数層形成する際に、膜層毎にマスク開口を切換える成膜方法及び成膜装置を特徴としている。以下図4の装置で成膜する場合について説明する。前述の回転ドラム31(基板装着体;以下同様)はチャンバ30内に設けられた回転軸25(図5(a)に示す)に固定され、この回転軸25を中心に回転自在に構成されている。この回転ドラム31とは別にマスク板装着体26(以下「マスクドラム」という)が設けられている。このマスクドラム26は、回転ドラム31に装着される基板プレート10に対応するマスク板34を装着する円筒形状に構成されている。
【0041】
上記マスクドラム26は回転ドラム31若しくは回転軸25に固定され、回転ドラム31に対して相対的に位置移動可能に構成されている。図示のマスクドラム26は回転軸25にベアリング27(図5(a)参照)を介して回転自在に支持されている。従って回転軸25の回転で回転ドラム31は一体に回転するがマスクドラム26はベアリングで回転しないように軸支持されている。
【0042】
マスクドラム26には回転ドラム31に装着された基板プレート10に対応するマスク板34を着脱自在に装着するチャツキング機構(不図示)が設けられている。そしてマスク板34には図4に示すように第1マスク開口33Aと第2マスク開口33Bが回転軸25の回転周方向(Y−Y方向)に第1マスク開口33A、第2マスク開口33Bの順に配列されている。この第1マスク開口33Aは成膜パターンma(金属膜層)を形成するように、第2マスク開口3Bは成膜パターンmb(誘電体膜層)を形成する形状に構成されている。この基板プレート10と第1マスク開口33A、第2マスク開口33Bとの関係を図6に示す。基板プレート10の横方向(回転方向;y)、縦方向(軸方向;x)とするとき、基板の成膜パターン10pの横長さyk、縦長さxkに対して第1マスク開口33Aの横長さyaは等しく(ya=yk)、縦長さxaは小さく(xk<xk)なっている。これに対して第2マスク開口33Bの横長さybと縦長さxbは成膜パターンと等しく(yb=yk、xb=xk)形成されている。
【0043】
上述の第1、第2マスク開口33A、33Bと基板プレート10との間には前述したギャップdが形成されている。このため基板プレート10に、第1マスク開口33Aを対向させて成膜すると開口上端縁と下端縁にはグラデーション領域20bが形成され、第2マスク開口33Bを対向させて成膜するとグラデーション領域20bは形成されず均一膜厚の単濃度領域20aが形成されることとなる。
【0044】
上記回転ドラム31とマスクドラム26は、回転ドラム31の回転をマスクドラム26に伝達するように回転ドラム31側に伝動ピン28が植設してあり、マスクドラム26にはこの伝動ピン28に係合するカム溝29が形成してある。このカム溝29は回転ドラム31が図4時計方向回転のときには基板プレート10aに対して第1マスク開口33Aが対向し、反時計方向回転のときには第2マスク開口33Bが対向するように構成されている。
【0045】
従って回転ドラム31とマスクドラム26とは相対的に位置移動可能に構成され、第1、第2マスク開口33A、33Bが回転軸25の回転方向によって特定の基板プレート10aに対向するように切換えられる。この回転軸25の回転方向を設定する制御手段(不図示)がシフト手段を構成することとなる。
【0046】
[シフト手段の異なる態様]
上述の装置は、マスクドラム26の回転周方向に第1マスク開口33Aと第2マスク開口33Bを隣設配置する場合を示したが、この第1、第2マスク開口33A、33Bを回転軸方向上下に隣接配置しても良い。図5(b)に示すように回転軸方向(X−X方向)に第1マスク開口33A、第2マスク開口33Bの順に配置し、前述のカム溝29を図示のように傾斜溝で構成する。そして回転ドラム31とマスクドラム26を伝動ピン28で連結する。すると回転軸25を時計方向に回転するときには基板プレート10aに対して第1マスク開口33Aが対向し、反時計方向に回転するときには第2マスク開口33Bが対向することとなる。
【0047】
[成膜方法の説明]
本発明の成膜方法を、上述の基板プレート10上に金属膜層(光吸収層)21と誘電体膜層(中間層)22を蒸着膜で形成する場合について説明する。この場合、金属膜層21は均一厚さ領域(単濃度領域20a)と漸減厚さ領域(グラデーション領域20b)に形成し、誘電体膜層22は均一厚さ領域で形成する(図1参照)。
【0048】
「第1膜層(金属膜)成膜」
図3の装置に於いて第1エリア36aには金属ターゲット32a(Nb、Tiなど)がセットされている。そこでこの第1エリア36a内に動作ガス(アルゴンなどの不活性ガス)を導入し回転ドラム31を所定速度で回転する。すると金属ターゲット32aは動作ガスでスパッタリングされスパッタ粒子が基板プレート10上に被膜を形成する。このとき回転ドラム31の回転方向を図3時計方向に回転する。すると図4に示すように回転ドラム31の伝動ピン28はマスクドラム26を従動回転させる。このとき回転ドラム31に装着された基板プレート10に対してマスク板34の第1マスク開口33Aが対向する。そこで基板プレート10に形成される被膜はマスク開口33Aによって均一厚さ領域と厚さが漸減する不均一領域に形成され、均一厚さ領域は単濃度領域20aを、不均一領域はグラデーション領域20bを形成する。そこで基板プレート10上に所定厚さの被膜が形成されると回転軸25を停止し、金属ターゲット32aへのスパッタリングを停止する。
【0049】
「第2膜層(誘電体膜)成膜」
次に、第2エリア36bにセットされている誘電体ターゲット(Si、Alなど)に高周波電圧を印加し、第2エリア36bに動作ガスを導入する。そこで回転ドラム31の回転方向を反時計方向に逆転させる。すると図4に示すように回転ドラム31の伝動ピン28はマスクドラム26を従動回転させ、このとき回転ドラム31に装着された基板プレート10に対してマスク板34の第2マスク開口33Bが対向する。そこで基板プレート10には第2マスク開口33Bによって被膜が形成され、この被膜は基板プレート10の成膜パターンの全域で均一の厚さに成膜される。
【0050】
この第2エリア36bでの基板プレート10上に形成された被膜に、第4エリア36dに活性ガス(酸素ガス、窒素ガス、フッ素ガス)を導入して照射する。すると基板上には酸化、窒化或いはフッ化された化合物の被膜が生成される。このような被膜生成と活性化反応を繰り返して基板プレート10上に所定厚さの誘電体膜層22を形成する。そして、基板プレート10上に所定数の金属膜層21(21a、21b、21c)と誘電体膜層22(22a、22b、22c)を形成する。
【0051】
「オーバコート成膜」
上述の膜層形成の後、最後の誘電体膜層22cの上に第3エリア36cのコート層ターゲット32cをスパッタリングする。この場合、回転ドラム31の回転方向は図3反時計方向に回転する。すると回転ドラム31に装着した基板プレート10に対してマスクドラム26の第2マスク開口33Bが対向する。これによってコーティング層23が均一厚さに形成される。
【0052】
[光量調整装置]
本発明に係わる光量調整装置Eは図7に示すように、基板40と、この基板40に形成された光路開口41に1枚若しくは複数枚の光量調整羽根42を開閉自在に配置する。そしてこの光量調整羽根42で光路開口41を通過する光量を大小調節する。図示のものは一対の羽根42a、42bで光量調整するように構成され、ぞれぞれの羽根には小絞り状態に光量調整するように狭窄部42x、42yが形成してある。そして一方の光量調整羽根42aには狭窄部42xにフィルタ43fが添着してある。このフィルタ43fは前述した基板プレート10上に成膜した単濃度領域20aとグラデーション領域20bをカットして形成されている。そして光路中心に向かうに従って光の透過率が高くなるように光量調整羽根42aに添着されている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係わる光学フィルタの構成を示し、(a)は基板上に形成された薄膜層の層構造を示し、(b)はその薄膜層とマスク開口との関係を示す説明図
【図2】本発明に係わる成膜方法の概念説明図であり、(a)はターゲットから蒸着成分を飛翔させるモデル図、(b)は要部拡大図。
【図3】本発明に係わる蒸着装置の構造を示す説明図。
【図4】基板上に薄膜層を形成する原理構成の説明図。
【図5】(a)は図4の装置に於けるドラムの構成を示す断面図であり、(b)は図4の装置と異なる実施形態を示す。
【図6】マスク開口と基板との関係を示す模式図。
【図7】図1の光学フィルタを用いた撮像光量調整装置の構成を示す斜視説明図。
【符号の説明】
【0054】
E 光量調整装置
d 成膜ギャップ
10 基板プレート(成膜ベース基材)
20 薄膜層
20a 単濃度領域
20b グラデーション領域
21 光吸収層(金属膜層)(21a、21b、21c)
22 中間層(誘電体膜層)(22a、22b、22c)
23 コーティング層
25 回転軸
26 マスク板装着板(マスクドラム)
27 ベアリング
28 伝動ピン
29 カム溝
30 チャンバ
31 基板装着体(回転ドラム)
32 ターゲット
32a 第1のターゲット(金属ターゲット)
32b 第2のターゲット(誘導体ターゲット)
32c 第3のターゲット(コート層ターゲット)
33 マスク開口
33A 第1マスク開口
33B 第2マスク開口
34 マスク板
35 スパッタ電極(35a、35b)
36a 第1エリア
36b 第2エリア
36c 第3エリア
36d 第4エリア
39 反応性ガス発生室
40 基板
41 光路開口
42 光量調整羽根(42a、42b)
43 NDフィルタ(光学フィルタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも2層以上の蒸着膜を形成する方法であって、
チャンバ内に配置した基板上に第1のマスク開口を介して第1膜層を形成する第1成膜工程と、
この第1膜層の上に第2のマスク開口を介して第2膜層を形成する第2成膜工程とを有し、
上記基板を装着する基板装着体はチャンバ内に配置された蒸着物質に対して所定の蒸着距離を隔てて回転するように構成され、
上記第1、第2のマスク開口を形成するマスク板装着体と上記基板装着体とは、互いの相対的位置が変更可能に構成されると共に、
このマスク板装着体と基板装着体の少なくとも一方にはシフト手段が設けられ、
上記第1成膜工程と第2成膜工程とを順次繰り返して基板上に複数の膜層を形成する際に、上記シフト手段によって上記基板装着体に装着された基板に対して上記第1のマスク開口を対向させて第1膜層を形成し、次いでこの第1膜層の上に上記第2のマスク開口を対向させて第2膜層を形成することを特徴とする光学フィルタの成膜方法。
【請求項2】
前記基板装着体は、外周に複数の基板を装着して回転しながら前記第1膜層と第2膜層とをそれぞれの基板に形成するように構成され、
前記マスク板装着体は、上記基板装着体の回転方向に対して周方向前後又は軸方向上下に前記第1のマスク開口次いで前記第2のマスク開口の順に配置され、
このマスク板装着体は、上記基板装着体の外周に配置されると共にこのマスク板装着体と基板装着体とは周方向前後又は軸方向上下に相対的に位置変更可能に構成され、
前記シフト手段は、上記基板装着体に装着された所定の基板に対して上記基板装着体を正方向に回転するときは上記第1のマスク開口が対向し、逆方向に回転するときは上記第2のマスク開口が対向するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタの成膜方法。
【請求項3】
前記基板装着体と前記マスク板装着体とは、基板装着体の正逆回転でマスク板装着体の対向位置を変更するように互いに連結され、
前記シフト手段は、上記基板装着体の回転方向を正逆切り換えることによって前記基板装着体に装着された所定の基板に対して前記第1のマスク開口と前記第2のマスク開口を選択的に対向させることを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタの成膜方法。
【請求項4】
前記第1膜層と第2膜層は、同一バッチ内で連続的に形成されることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタの成膜方法。
【請求項5】
前記第1膜層は金属膜で膜厚さが略々等しい単濃度領域と、膜厚さが直線的に漸減するグラデーション領域に形成され、
前記第2膜層は誘電体膜で略々均一膜厚さに形成され、
この場合、上記金属膜は金属物質を動作ガスでスパッタリングしてスパッタ粒子で成膜する際に上記グラデーション領域を前記第1マスク開口と基板との間に形成した成膜ギャップでスパッタ粒子の拡散で膜厚さを漸減させることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタの成膜方法。
【請求項6】
前記チャンバは、光学特性の異なる物質から成る少なくとも第1第2のターゲットを動作ガスでスパッタリングして前記第1第2の膜層を形成するように構成され、
前記基板装着体は軸中心に回転する回転ドラムで構成され、
前記マスク板装着体は、上記回転ドラムの外周に配置され、この回転ドラムと周方向に相対的位置を変更可能なマスク板装着ドラムで構成され、
上記マスク板装着ドラムには周方向に前記第1マスク開口と第2のマスク開口を有するマスク板が形成され、
形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタの成膜方法。
【請求項7】
基板と、
上記基板に積層状に形成された誘電体膜層と金属膜層とから構成され、
上記誘電体膜層は、誘電性物質からなるターゲットを動作ガスでスパッタリングして被膜形成した後、反応性ガスを照射して成膜され、
上記金属膜層は、金属物質からなるターゲットを動作ガスでスパッタリングして成膜され、
上記誘電体膜層と金属膜層とは請求項1に記載の成膜方法で形成されることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項8】
撮像光路に配置され、撮像光量を調整する絞り羽根と、
上記絞り羽根に添着された光学フィルタと、
から構成され、
上記光学フィルタは請求項6に記載の構成を備えていることを特徴とする撮像光量調整装置。
【請求項9】
基板上に誘電体膜層と金属膜層を積層状に成膜する光学フィルタの製造装置であって、
複数の成膜エリアに区割されたチャンバと、
上記成膜エリアに配置された第1、第2、少なくとも2つのターゲットと、
上記チャンバ内に配置され外周に基板を装着する円筒形状の回転ドラムと、
上記回転ドラムに装備されたマスク板装着体と、
上記成膜エリアに供給され上記ターゲットをスパッタリングして上記基板上に膜形成する動作ガスと、
を備え、
上記回転ドラムは、外周に複数の基板を装着して回転しながら上記成膜エリアでそれぞれの基板に膜形成するように構成され、
上記マスク板装着体は、上記回転ドラムに対して周方向前後又は軸方向上下に位置移動可能に配置されると共に、周方向前後又は上下方向に並列に配置された第1のマスク開口と第2のマスク開口を有するマスク板が装着され、
上記マスク板装着体は、上記回転ドラムに装着された所定の基板に対して、
この回転ドラムの正逆回転方向に従動して上記第1のマスク開口を対向させて成膜するか、上記第2のマスク開口を対向させて成膜するか選択可能に構成されていることを特徴とする光学フィルタの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−102718(P2009−102718A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277306(P2007−277306)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000231589)ニスカ株式会社 (568)
【Fターム(参考)】