説明

光学フィルムおよびこれを用いた発光デバイス

【目的】容易でかつ迅速な製造が可能であるために製造効率が高く、屈折率の高い発光体からの発光効率を向上させることができる光取り出し効率向上フィルムを提供することにある。
【構成】高分子材料を溶解した疎水性有機溶媒溶液を高湿度雰囲気下でキャストし、該キャスト液から該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させ、該結露により生じた微小液滴を蒸発させることで形成される多孔を備え、該多孔により可視光の散乱効果、回折効果またはフォトニック結晶効果を有することを特徴とする光取り出し効率向上フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELのような屈折率の高い発光体からの発光効率を向上させるために用いられるフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、電界を印加することにより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。C.W.Tangらによる積層型素子による低電圧駆動有機EL素子の報告(C.W.Tang、 S.A.VanSlyke、 Applied Physics Letters 51巻 913頁 1987年)がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL素子に関する研究が盛んに行われている。有機EL素子においては、発光自体は志向性がなく、発光した光は放射状に発光体の中を伝搬していく。その発光体と電界印加のための透明電極膜の屈折率の関係から、臨界角以上の出射角の光は全反射を起こし表示面方向に取り出すことはできない。このため、例えば発光体の屈折率が1.6、透明電極であるITOの屈折率を2.0とすると、発光量全体の20%程度しか有効に利用できない。また有機EL素子の発光効率は一重項生成確率を併せて全体で5%程度と低効率にならざるをえない(筒井哲夫「有機エレクトロルミネッセンスの現状と動向」、月刊ディスプレイ、vol.1、No.3、p11、1995年9月)。このように発光確率が低い有機EL素子においては、光取り出し効率が低いことは致命的ともいえる電気光変換効率の低下を招くことになる。
【0003】
この光の取り出し効率を向上させる手法としては、従来無機エレクトロルミネッセンス素子などの、同等な構造を持つ発光素子において検討されてきた。例えば、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特許文献1:特開昭63−314795)や、素子の側面等に反射面を形成する方法(特許文献2:特開平1−220394)が提案されている。しかしながら、これらの方法は、発光面積の微小な素子においては、集光性を持たせるレンズや側面の反射面の形成加工が困難である。更に有機エレクトロルミネッセンス素子においては発光層の膜厚が数μm以下となるためテーパー状の加工を施し素子側面に反射鏡を形成することは現在の微細加工技術では困難であり、大幅なコストアップをもたらす。
【0004】
また基板ガラスと発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法が特許文献3(特開昭62−172691号)に記載されているが、この方法は、前方への光の取り出し効率の改善効果はあるが、全方位での効率が向上しているわけではない。したがって、屈折率の大きな無機エレクトロルミネッセンスに対しては有効であっても、比較的低屈折率の発光体である有機エレクトロルミネッセンス素子に対しては大きな改善効果をあげることはできない。
【0005】
また、基板ガラスと発光体の間に回折格子又はゾーンプレートを構成要素として形成して、光の取り出し効率を向上させる方法が特許文献4(特許第2991183号)に記載されている。この方法は、発光層と基板との間に透過型又は反射型の回折格子又はゾーンプレートを設けることにより、該界面において低減された出射角をもち再び素子外部の界面に達し、結果的に光取り出し面に対する入射角を変化させる(低減させる)ことができるため、光取り出し面において全反射を起こすことなく外部に取り出されることをその原理とするものである。しかしながら、この方法によっても取り出し効率は十分ではなく、また、製造プロセスの大幅な変更が必要であり、コストアップをもたらすという問題があった。
【0006】
更に、基板ガラスと発光体の間に低屈折率を持つ平坦層を導入し、大気への取り出し効率を高くする方法が特許文献5(特開2001−202827号)に記載されているが、この方法でも製造プロセスの大幅な変更が必要であり、コストアップをもたらす。
【特許文献1】特開昭63−314795号公報
【特許文献2】特開平1−220394号公報
【特許文献3】特開昭62−172691号公報
【特許文献4】特許第2991183号
【特許文献5】特開2001−202827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような発光効率の低下に対しては、発光デバイスの表面に直接凹凸を形成して光取り出し効率を向上させる、フォトポリマー等を用いて周期的凹凸構造を設けたフィルムを発光素子に貼り付ける等、光の回折現象を利用した手段により光取り出し効率の向上が図られてきた。しかしながら、このような周期的な凹凸構造をもったフィルムを製造する場合、前者は、押し出し成型等の物理的に凹凸構造を形成する手段が必要となるため塗布のような流れ作業が困難であった。また、後者の場合は、フォトポリマーを露光・現像することによって周期的凹凸構造を形成するが、フォトポリマーの光感度が低いため製造時間が掛かっていた。従って、本発明の目的は、容易でかつ迅速な製造が可能であるために製造効率が高く、屈折率の高い発光体からの発光効率を向上させることができる光取り出し効率向上フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上述の課題、問題点を考慮し、鋭意検討した結果、疎水性有機溶媒に可溶な高分子材料と両親媒性高分子とを適当な割合で組み合わせることで、経済的に安価な製造が可能であり、自立性があり、物理構造的にも安定な多孔体薄膜からなる光学フィルムを与えることを見出した。すなわち、本発明は以下によって達成される。
【0009】
本発明は、高分子材料を溶解した疎水性有機溶媒溶液を高湿度雰囲気下でキャストし、該キャスト液から該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させ、該結露により生じた微小液滴を蒸発させることで形成される多孔を備え、該多孔により可視光の散乱効果、回折効果またはフォトニック結晶効果を有することを特徴とする光取り出し効率向上フィルムである。
本発明において、該多孔による周期的な凹凸構造を有することが好ましい。
また本発明は、該多孔が均一な孔径分布を有する空孔からなる凹凸構造を有することが好ましい。
また本発明は,以上の光取り出し効率向上フィルム、透明電極層及び発光体層を積層してなる発光デバイスである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便なキャスト法により効率の高い光取り出し効率向上フィルムを得ることが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
疎水性有機溶媒に可溶な高分子材料および両親媒性高分子および疎水性有機溶媒からなる疎水性有機溶媒溶液を、相対湿度50%以上の大気下にてキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることで製造される多孔体膜からなる光取り出し効率向上フィルムである。
【0012】
本発明に用いる高分子材料は、疎水性有機溶剤に可溶であれば特に制限を受けるものではないが、好ましくは、水には不溶もしくは難溶であることが好ましい。このような高分子材料として、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリエート等の汎用樹脂、ポリカーボネート、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチック、ポリブタジエン等のエラストマー樹脂、ポリ乳酸、ポイヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン等の生分解性高分子、ポリイミド樹脂、シクロオレフィン共重合体樹脂等を例示することができる。特に光学フィルムに適用するに際しては、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート樹脂やシクロオレフィン共重合体樹脂等の透明に優れる樹脂が好適な材料である。
【0013】
本発明においては、多孔体膜を構成する高分子材料の疎水性有機溶剤溶液中に両親媒性物質が共存してもよい。多孔体膜を製造するに際して共存しても良い両親媒性物質は特に限定されるものではなく、低分子物質、高分子物質のいずれも利用することができる。例えば、ドデシルベンゼンスルホンナトリウムやジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリム等の低分子物質や、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミドを主骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基あるいはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性高分子、あるいはヘパリンやデキストラン硫酸、DNAやRNAの核酸などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水基とした両親媒性高分子を例示することができる。
【0014】
本発明で用いる疎水性有機溶剤は特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン系有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの非水溶性ケトン系溶剤、二硫化炭素などが挙げられる。疎水性有機溶剤は単独で使用しても、又、複数の疎水性有機溶剤を組み合わせて混合溶媒として使用してもよい。
【0015】
高分子材料及び必要な場合は両親媒性物質を疎水性有機溶剤に溶解する際の合計量は、疎水性有機溶剤溶液の濃度が、好ましくは0.01〜10wt%、より好ましくは0.05wt%〜5wt%となる範囲の重量である。溶液濃度が低すぎると、溶媒の蒸散時間が短くなるため、結露した水滴が最密充填構造を形成するに至らず、規則配列構造を形成することができない。一方、溶液濃度が高すぎると結露した水滴の凝集が生じ、水滴の最密充填構造が失われ、規則配列構造を形成することができない。
【0016】
本発明において、該疎水性有機溶剤溶液を基板あるいは基材上にキャストし多孔体膜を作製する。基材としては、ガラス、金属、シリコンウェハー等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等の耐有機溶剤性に優れた高分子からなる有機材料、また基材としては水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等の液体が使用できる。
【0017】
多孔体膜が形成される機構は次のように考えられる。疎水性有機溶剤が蒸発するとき、潜熱を奪うために、キャストフィルム表面の温度が下がり、微小な水の液滴が高分子溶液表面に凝集、付着する。キャストした溶液中の両親媒性物質の作用によって水滴が安定化される。溶剤が蒸発していくに伴い、ヘキサゴナルの形をした液滴が最密充填した形に並んでいき、最後に水が除去される。その結果、液滴が最密充填した形に並んだパターンが保存され、液滴が蒸発したあとが空孔となった多孔体高分子膜が得られる。従って、該多孔体膜を作製する環境としては、疎水性有機溶剤溶液を基材上にキャストし、高湿度空気を吹き付けることで該有機溶剤を蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させる方法、並びに、疎水性有機溶剤溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板あるいは基材上にキャストし、該有機溶剤を蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を同時に蒸発させる方法等が好ましい。また、キャストに際して用いた基材は、多孔体膜形成後に剥離することも可能である。
【0018】
このようにして得られる高分子フィルム内の多孔は、1つの孔の大きさが、0.01μm〜100μm、孔の最短周期の方向の周期は0.01μm〜100μmであった。これら孔の大きさや周期は、疎水性有機溶剤溶液のキャスト量、湿度の条件を変えることにより制御できる。高分子フィルムの厚さは0.1μm〜100μmが好ましい。ヘキサゴナルは一辺が0.02〜200μmの正六角形でが好ましい。
【0019】
散乱効果を得る多孔体の周期は1〜100μmが好ましく、回折効果を得る多孔体の周期は0.3〜1μmが好ましく、フォトニックバンドギャップ効果を得る多孔体の周期構造は0.01〜0.3μmが好ましい。
【0020】
次に、本発明の光取り出し効率向上フィルムを有機エレクトロルミネッセンディスプレイなどの発光素子に応用する場合、発光素子の発光面側に貼り付けることにより、その光取り出し効率を向上させることができる。本発明の光取り出し効率向上フィルムを適用することができる素子としては、発光部の屈折率が空気の屈折率よりも高い素子が好ましい。また、本発明の光取り出し効率向上フィルムを有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面に貼り付ける方法としては、粘着層や接着層を介して行うことができるが、本発明の光学フィルムを貼り付ける部分の屈折率と本光学フィルムの屈折率が同等の場合は、必ずしも粘着層や接着層は使用しなくても良い。
【0021】
(実施例1)自己支持性多孔体高分子膜の作製および高分子膜の輝度向上効果:
シクロオレフィン共重合体樹脂であるアペル(登録商標)8008Tと化式1に示す両親媒性高分子を重量比で10:1で混合したクロロホルム溶液(2.5g/L)4mLを、直径9cmのシャーレにキャストした。その後直ちに湿度70%の空気を流量5L/分で吹き付けて多孔体高分子膜を得た。さらにエタノールに浸漬し剥離して自己支持性多孔体高分子膜とした。得られた多孔体高分子膜をSEMで観察したところ、孔径が2μm、周期が3μmの二次元規則構造を確認した。
【0022】
【化1】

【0023】
得られた多孔体高分子膜を、有機EL素子のガラス基板にガラス基板とほぼ同じ屈折率を有する粘着シートで貼り付けて輝度を測定した。貼り付け前の輝度は2400cd/mであったのに対して、貼り付け後は2800cd/mに向上した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
発光体で発光した光の多くを表示部に集光させるために、EL素子などの発光体前面に設けることで発光体の効率向上に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係わる多孔部のSEM写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を溶解した疎水性有機溶媒溶液を高湿度雰囲気下でキャストし、該キャスト液から該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させ、該結露により生じた微小液滴を蒸発させることで形成される多孔を備え、該多孔により可視光の散乱効果、回折効果またはフォトニック結晶効果を有することを特徴とする光取り出し効率向上フィルム。
【請求項2】
該多孔による周期的な凹凸構造を有することを特徴とする請求項1記載の光取り出し効率向上フィルム。
【請求項3】
該多孔が均一な孔径分布を有する空孔からなる凹凸構造を有することを特徴とする請求項1または2記載の光取り出し効率向上フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の光取り出し効率向上フィルム、透明電極層及び発光体層を積層してなる発光デバイス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−41074(P2007−41074A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222181(P2005−222181)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】