説明

光学式ひずみゲージ

【課題】高い測定精度を有し、かつコンパクト化を図った、二軸方向のひずみを計測するための光学式ひずみゲージを提供すること。
【解決手段】光導波路7と、該光導波路から所定の角度をもって分岐されかつブラッグ回折格子5を備えた3つの光導波路分岐延長部2,3,4とから成り、該光導波路分岐延長部2,3,4が互いに所定の角度間隔19でベースプレート6上に設けられ、前記光導波路7から光が導入される、複数軸方向のひずみを測定するための光学式ひずみゲージにおいて、前記光導波路7及び前記光導波路分岐延長部2,3,4を前記ベースプレート6上に直線状に配置するとともに、前記光導波路7と前記光導波路分岐延長部2,3,4の間に光配分要素8を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路と、該光導波路から所定の角度をもって分岐されかつブラッグ回折格子を備えた少なくとも2つの光導波路分岐延長部とから成り、該光導波路分岐延長部が互いに所定の角度間隔でベースプレート上に設けられ、光導波路から光が導入される、複数軸方向のひずみを測定するための光学式ひずみゲージと、請求項11の上位概念による光学式ひずみゲージの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
力の解析あるいは部材に作用する機械的な負荷の検出には、電気抵抗式のひずみゲージが多く用いられている。この電気抵抗式ひずみゲージは、被測定部材である、力が負荷される部材のひずみを検出する。このような電気抵抗式のひずみゲージは、多くがフォトリソグラフィによって形成された電気抵抗を有する蛇行した形状の測定格子で構成されている。また、この電気抵抗式ひずみゲージは、合成樹脂製のベースプレート上に配置されるとともに、機械的な損傷から保護するために多くは更に保護フィルムを備えている。
【0003】
そして、この電気抵抗式ひずみゲージは、負荷に応じたひずみを検出するために被測定部材上に貼着され、ひずみを、測定格子の電気抵抗の変化によってひずみあるいは負荷に比例した電気信号に変換する。
【0004】
ここで、二軸方向のひずみを計測する場合には、いわゆるロゼット状のひずみゲージが用いられ、通常、互いに45°、60°又は90°の角度間隔で配置された2つ又は3つの計測格子がベースプレート上に形成される。このようなロゼット状のひずみゲージは、その多くが主軸方向及び主軸と直交する方向のひずみ若しくは力の大きさの計測又は主軸の調整のために用いられる。
【0005】
従来、T字型のロゼット状のひずみゲージが知られており、これは、2つの計測格子が互いに90°の角度をなすように配置されたものである。このロゼット状のひずみゲージは、特に、主軸方向が分かっている二軸応力状態で使用される。
【0006】
一方、3つの計測格子を備えたロゼット状のひずみゲージは、主応力方向が不明である場合の二軸応力状態を特定するために用いられる。この際、同位置における同様なひずみも検出することができるよう、各計測格子を互いにできる限り近づけて配置する必要がある。これにより、正確な計測が達成される。なお、上記理由により、この3つの計測格子を備えたロゼット状のひずみゲージでそのサイズが10mm×20mmを超えるものはほとんどない。
【0007】
また、このような電気抵抗式ひずみゲージは、電磁場あるいは高圧電流の影響を強く受けてしまう。さらに、このような電気抵抗式ひずみゲージは、急膨張するような箇所には使用できない。
【0008】
ところで、特許文献1には、二軸応力を高圧電流及び電磁場の影響を受けることなく検出し、ひずみを最適に測定可能なセンサが開示されている。このセンサは、更に光ファイバから成る光導波路を備えている。そして、この光ファイバには、ひずみに比例した反射波長を発生させるいわゆるブラッグ回折格子が形成されており、このブラッグ回折格子が形成された光ファイバは、エポキシ樹脂製のベースプレート内に埋設されるか、このベースプレート上に接着される。
【0009】
このベースプレートは、被測定部材上に貼着されつつ当該ベースプレートに生じるひずみをブラッグ回折格子へと伝達する。そして、生じるひずみに応じてブラッグ波長が変化し、これにより、ひずみが検出される。
【0010】
このような光学式ひずみゲージは、二軸応力を測定するためにロゼット状に形成されているとともに、互いに45°、60°又は90°の角度をなす2つ又は3つのブラッグ回折格子を有する光導波路で構成されており、電気抵抗式のものと同様に被測定部材のひずみを検出することできる。ここで、光導波路におけるブラッグ回折格子との接続部はアーチ状となっているが、その曲率半径は、反射ロスを少なくするために所定の値を下回ってはならない。
【0011】
一方、光導波路におけるブラッグ回折格子との接続部を極端な先細り状に形成することで反射ロスを低減し、上記曲率半径を小さくすることが提案されている。
【特許文献1】欧州特許第1129327号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、それでも光導波路におけるブラッグ回折格子との接続部には約10mmの長さが必要であり、2つ又は3つのブラッグ格子を備えた光学式ひずみゲージは、電気抵抗式のものと同等の精度を得ようとすると、その貼着面積を電気抵抗式のものに比して大きくなってしまうという問題があった。
【0013】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、高い測定精度を有し、かつコンパクト化を図った、二軸方向のひずみを計測するための光学式ひずみゲージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、請求項1及び請求項11に記載の発明によって達成される。また、その他の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ブラッグ回折格子が形成された光導波路をベースプレートにおける溝に固定することによって、光学式ひずみゲージを非常に平らに形成することが可能である。特に、光配分要素を長い長さを占めることなくコンパクトにベースプレートに埋設できるため、電気抵抗式のものと同等のコンパクト化を図ることができる。
【0016】
また、光配分要素を用いることにより、すべての光導波路分岐延長部(ロゼット状部分)を直線状に形成することが可能である。すなわち、光配分要素は長い長さを占めないため、光導波路分岐延長部のサイズは主にブラッグ回折格子の長さのみによって決定される。その結果、貼着面積が非常に縮小された光学式ひずみゲージを得ることができる。
【0017】
さらに、光配分要素の断面積が光導波路より大きくなく非常に小さいため、薄いベースプレートにこの光配分要素を組み込むことも可能である。
【0018】
また、この光配分要素を用いることにより、光を導入する光導波路を各光導波路延長部に共通に1つのみ設ければ足り、特に、各測定位置と解析ユニットの間隔が離れている場合及び測定位置が多数ある場合には、かなりの接続用配線を省略することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、上記溝をフォトリソグラフィによる化学エッチングによって、又は機械的に精度よく形成することも可能であり、そのため、本発明による光学式ひずみゲージを、容易に被測定部材に貼着できるよう生産精度を良好に保ちつつ安価に大量生産することが可能である。
【0020】
また、上記のような非常に平らで小さな貼着面積を有する光学式ひずみゲージによれば、これを繊維複合材料の内部又は表面に固定することが可能であり、この際、この光学式ひずみゲージは繊維構造をほとんど損なうことがなく、この繊維構造は、繊維複合材料から成る被測定部材に通常生じることが予想される10%のひずみまで損傷することなく耐えることが可能である。
【0021】
しかして、本発明による光学式ひずみゲージによれば、電気抵抗式のひずみゲージに比して電磁場及び高圧電流の影響をほとんど受けないという効果が得られる。さらに、本発明による光学式ひずみゲージによれば、電流供給がなされないため、出力のその伝達過程における変動による影響を受けないという利点も得られ、更には急膨張するような箇所にも使用することが可能である。
【0022】
また、ブラッグ回折格子が溝内に固着されるとともに包囲されるようにベースプレートと接続されているため、力がブラッグ回折格子に正確に伝達される。すなわち、測定精度の向上及び特にヒステリシス現象の低減が達成される。
【0023】
ところで、本発明によれば、光導波路を完全に溝内に埋設しているため、光学式ひずみゲージを容易に製造することが可能である。また、このような光学式ひずみゲージをセラミックス又はガラス層並びにガラスから成る光導波路で構成することもできるため、この光学式ひずみゲージを高温下でも使用することが可能である。
【0024】
さらに、本発明によれば、温度を補償するための更なるブラッグ回折格子が設けられているため、温度に依存しないひずみの測定が可能であるとともに、温度のみを別に検出することも可能である。したがって、光学式ひずみゲージ及びこれに接する部材の熱的な負荷を検出することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、光学式ひずみゲージ1を示している。この光学式ひずみゲージ1は、二軸方向のひずみを測定するためロゼット状に形成されており、ブラッグ格子5が刻設された光導波路分岐延長部2,3,4から成っている。これら光導波路分岐延長部2,3,4は光導波路7から分岐して形成されており、光導波路7からの光信号は、光配分要素8を通って各光導波路分岐延長部2,3,4へ送出される。
【0027】
これら各光導波路分岐延長部2,3,4は、すべて直線状に形成されているとともに、支持層として形成されたベースプレート6に取り付けられている。また、光導波路7及び各光導波路分岐延長部2,3,4には、特にブラッグ回折格子5が刻設されている。
【0028】
上記ベースプレート6は、光導波路分岐延長部2,3,4を支持するため、例えばポリアミド系の堅固で弾性を有する薄い合成樹脂で構成されている。なお、このベースプレート6を、他の堅固で弾性を有する合成樹脂、ガラス、セラミックス又は金属で構成することも可能である。
【0029】
このベースプレート6は、あらかじめ製作された光学式ひずみゲージ1を被測定部材上に貼着するか、又は力が負荷されるこの被測定部材中の正確な位置に取り付けるために用いられる。また、このベースプレート6は、プラナーレンズとして形成されているとともに、0.55mmの厚さと正方形状又は長方形状の横断面を有して構成されている。ここで、このベースプレート6は、ブラッグ回折格子5を備えた光導波路分岐延長部2,3,4の長さ、配置角度及び個数に適合するよう設定されている。
【0030】
図示の実施形態では、それぞれ角度を変えて配置した3つのブラッグ回折格子5によって二軸方向のひずみを測定する光学式ひずみゲージ1が、18mm×20mmのベースプレート6上に設置されている。このようなサイズは、十分な信号対雑音比(SN比)における約10mmのブラッグ回折格子の長さから求められるものである。ここで、信号対雑音比を低減するか、又は解析ユニットを改良し光導波路分岐延長部2,3,4を短く設定することで、約9mm×10mmの更に小さな横断面を得ることが可能である。なお、この約9mm×10mmの横断面を有するものは、電気抵抗式ひずみゲージと同等の計測精度を有している。
【0031】
また、このベースプレート6には光導波路7及び光導波路分岐延長部2,3,4を固定するための溝11が刻設されており、該溝11の断面は、光導波路7及び光導波路分岐延長部2,3,4の断面に適合するよう設定されている。すなわち、光導波路7及び光導波路分岐延長部2,3,4は直径0.25mmのグラスファイバで形成されているので、溝11は少なくとも0.25mmの深さ及び幅で形成される必要がある。
【0032】
図2には図1の光導波路7におけるA−A断面が図示されており、光導波路7は、溝11に完全に埋設されているため、ベースプレート6内に完全に組み込まれている。なお、この溝11はフォトリソグラフィによる化学エッチングによって形成されるが、ベースプレート6の一部を除去することによって溝11を機械的又は熱的に精度よく形成することも可能である。
【0033】
ところで、光導波路7及び光導波路分岐延長部2,3,4は、ガラスファイバから成る、遠距離通信に用いられる特に波長(λ)が1550nmのシングルモード光ファイバである。光ファイバであるこれら光導波路7及び光導波路分岐延長部2,3,4は、コア15、クラッド16及び被覆層17(場合によっては省略可能)で構成されている。
【0034】
そして、光の導入は、光がベースプレート6のエッジ部14から光導波路7へ導入されることによってのみ行われる。また、光導波路7は、ベースプレート6のほぼ中央部から4mm程度このベースプレート6内へ軸方向に挿入され、そこで固定されている。さらに、この光導波路7の端部には、光配分要素8としてグレイデッド・インデックス・レンズ(GRINレンズ)9(以下「GRINレンズ」という。)及び透過型正弦波格子10が設けられている。このGRINレンズ9は、光のビーム径を150μmから500μmへ拡大する。
【0035】
そして、上記透過型正弦波格子10は、その屈折度が−1、0及び+1となるよう光波を屈折させる。これらの屈折度は、それぞれ−45°、0°及び+45°の角度19に相当する。そして、直線状の溝18は、それぞれ45°の角度19をなして光導波路分岐延長部2,3,4に向けてベースプレート6内へ延びている。この溝18はそれぞれ例えば10mmの長さを有しており、その横断面は0.125mm×0.125mmとなっている。なお、光導波路分岐延長部2,3,4は、コア15及びクラッド16から成る光ファイバのほか、合成樹脂製のフォトレジスト又はガラスで形成することも可能である。さらに、これら光導波路分岐延長部2,3,4の端部には、格子周期Λのいわゆるブラッグ回折格子5が刻設されている。
【0036】
ところで、光配分要素8は、GRINレンズ9のみで構成することもでき、この場合、光導波路分岐延長部2,3,4はGRINレンズ9と直接接続され、−45°〜+45°の間で複数の角度間隔をもって分岐部が形成される。この際、光導波路分岐延長部2,3,4は溝18内でベースプレート6に固定されている。この固定は、圧着又は接着、特に硬化性のエポキシ樹脂接着剤によりなされる。また、ベースプレート6における少なくとも溝10,18の範囲には、湿気の影響及び機械的な故障を防ぐ保護層としての保護フィルム12が被覆してあり、この保護フィルム12は、同一の素材によって0.05mmの厚さに形成されている。
【0037】
ところで、本発明の一実施例として、光導波路分岐延長部2,3,4を溝18内に埋め込まれたプラナー導波路とすることも可能である。この場合、溝18内には、通常のベースプレート6よりも屈折率の大きい例えば合成樹脂製のベースプレート6、光伝導性の良好なポリマー基層又は他のいわゆるフォトレジストが収容される。これにより屈折率の急激な変化が生じ、光伝導性が良好な合成樹脂としてのポリマー基層は光導波路のように機能する。このとき、結局のところ、ポリマー基層はコアとして機能し、ベースプレート6は低い屈折率を有するクラッドとして機能する。特に、正方形状又は長方形状の溝18は、光伝導性の良好なポリマー基層を収容することにより、グラスファイバのような所定の波長の光の導波に適したマイクロストリップを容易に形成することが可能である。
【0038】
このような実施例においては、光伝導性が良好な基層を溝18に収容する前に、ブラッグ回折格子5として機能する帯状の凹部が間隔Λをもって刻設される。すなわち、くし状に凹凸が形成され、このくし状の凹凸が、所定の波長λBで入射してくる光を反射する3mm〜10mmの長さLのブラッグ回折格子5を形成する。また、光導波路分岐延長部2,3,4がベースプレート6の溝18内に埋設されつつ固定されているため、ベースプレート6に生じるすべてのひずみを正確に検出することが可能である。
【0039】
さらに、光導波路分岐延長部2,3,4として溝18内に取り付けられた光導電性が良好な基層を用いる上記のような実施例において、ベースプレート6として耐熱性のガラス層又はセラミックス層を用いることができ、これに設けられた溝18内には、クォーツガラスコーティング層を備えたフォトニック結晶が取り付けられている。そして、このフォトニック結晶によってブラッグ回折格子が形成され、ひずみの検出が可能となる。なお、溝は電場(磁場)の下でのイオン交換により形成することも可能であり、ブラッグ回折格子は外部から化学エッチングによって溝内に形成される。このような実施例におけるひずみゲージは、900℃までの温度下で使用することが可能である。
【0040】
ところで、光導波路7におけるベースプレート6の外方部分には、温度を補償するための4つ目のブラッグ回折格子13が刻設されており、その格子周期はΛTに設定されている。また、光の進入及びブラッグ回折格子5で反射する光信号の検出のために、光導波路7は不図示の解析ユニットに接続されており、この解析ユニットは、スペクトロメータ及び同調可能で高分解能のファブリペローフィルタを含んで構成されている。
【0041】
しかして、上記光学式ひずみゲージ1は、従来の電気抵抗式ひずみゲージと同様に金属製の被測定部材上に貼着されるか、繊維複合材料中に設置されるか、繊維複合材料上に貼着されるかのうち少なくともいずれかで使用される。このような上記光学式ひずみゲージ1によれば、温度変化によるひずみも検出することができるため、ひずみから力だけでなく温度も計測することが可能である。
【0042】
このような光学式ひずみゲージ1を力が負荷される被測定部材に貼着すれば、後述するように力及びひずみを計測することが可能である。すなわち、被測定部材に作用する力による該被測定部材の表面のひずみが、この表面に貼着されたベースプレート6を介して光導波路分岐延長部2,3,4へ伝達される。このため、ブラッグ回折格子5が光導波路分岐延長部2,3,4のコア15で形成されていることにより、ブラッグ回折格子5の長さ変化が生じる。なお、コア15は、該コア15よりも屈折率が小さいクラッド16で包囲されている。
【0043】
これら光導波路分岐延長部2,3,4はシングルモード光ファイバで形成されている。そして、そのコア15の直径は、特に赤外線源からの光を単一モードでコア15に沿って導入できるよう、十分小さく9μmに設定されている。この単一モードの光は、コア15とクラッド16の境界で伝導される。ブラッグ回折格子5におけるライン20は、コア15の有効屈折率nを変化させる等間隔に配置された変化部である。また、ブラッグ回折格子5は、光導波路分岐延長部2,3,4の長さL=10mmに沿って延設されている。なお、この長さLは1mm〜20mmに設定可能である。
【0044】
ところで、ブラッグ回折格子5の製造方法には様々なものがあり、これらのうちの1つによれば、光導波路分岐延長部2,3,4を位相マスクでマスキングするとともに、この光導波路分岐延長部2,3,4に強力な紫外線を照射することでコア15における屈折率nの変化部が形成される。
【0045】
また、他の方法によれば、屈折率nの変化部は、光導波路分岐延長部2,3,4を、紫外線レーザを二分する位置で生じる干渉縞にさらすことで形成される。屈折率nの変化部の互いの間隔Λは、紫外線レーザを二分する角度によって決定される。なお、この方法により生じる屈折率nの変化は、通常、1/1000オーダー以下のレベルである。
【0046】
ブラッグ回折格子5が加工される光導波路分岐延長部2,3,4は、通常、クラッド16の外側に被覆層17を備えている。この被覆層17は、特にポリマーから成り、光の導波には何ら影響を与えない。さらに、この被覆層17は、光導波路分岐延長部2,3,4が紫外線にさらされてブラッグ回折格子5の形成がなされる前に取り除かれる。そして、光を導入させた後、光導波路7における取り除かれた部分は、耐久性を再び持たせるために、4つ目のブラッグ回折格子13のように新たにコーティングされる。
【0047】
しかして、ブラッグ回折格子5に入力信号として幅の広いスペクトルが入力されると、ほとんどの波長のものは回折格子範囲を透過し、透過出力信号が生成される。屈折率nの周期的な変化は、入力信号の要素に、いわゆるブラッグ波長λBでの強いブラッグ反射を引き起こす。このブラッグ波長λBは、有効屈折率をn、格子周期をΛとして、
λB=2nΛ
と表される。
【0048】
ブラッグ回折格子5によって反射した光波信号は、スペクトロメータ又はいわゆるファブリペローフィルタによって検出される。このとき、最高の反射率を生じさせる波長λは、格子周期Λに依存した所定の値をとる。仮に、ブラッグ回折格子5にひずみが生じると、格子周期Λが変化し、ブラッグ波長λBも変化する。この際、ブラッグ波長λBはひずみにほぼ比例する。
【0049】
そして、波長の変化量ΔλBは被測定部材に作用する力に対する尺度であるので、このような光学式ひずみゲージ1を、電気抵抗式ひずみゲージと同様、特にロードセル、トルク軸、力が作用する他の部材等の被測定部材に使用することが可能である。もちろん、このような光学式ひずみゲージ1は例えば航空宇宙工学などにおける力負荷実験にも応用することが可能であり、この場合、光学式ひずみゲージ1を、被測定部材に直接貼着し、未知の方向への力によるひずみが測定できるよう、特に本発明のようにロゼット状に配置するのが望ましい。
【0050】
一方、被測定部材の状態を把握するために光学式ひずみゲージ1を応用することも可能であり、この場合、所定の限界値の超過によって、疲労あるいは亀裂を検出することができる。
【0051】
ところで、ひずみに応じた負荷を検出するには、例えばファブリペローフィルタを備えた特別なスペクトル解析ユニットを用いる。このスペクトル解析ユニットは光導波路分岐延長部2,3,4のための受信ユニット及び送信ユニットであり、その内部では、解析ユニットによって、ブラッグ回折格子5で反射したブラッグ波長λBが検出される。
【0052】
ここで、まず、被測定部材が負荷を受けていない状態で、送信ユニットとしての赤外線源によって、1525nm〜1575nmの波長λが光導波路分岐延長部2,3,4へ送出される。そして、ブラッグ回折格子5によって、上記式
λB=2nΛ
に基づき所定の波長λB0が反射される。この波長λB0は、連結器内で、放射された光波信号から分離される。
【0053】
また、反射した光波信号は、下記の公知のファブリペローフィルタにより受信ユニット内又はその他のスペクトロメータユニット内で1pmの解像度で検出され、基準値λB0としてメモリされるか、又は表示装置に表示される。
【0054】
ここで、負荷に応じたひずみが被計測部材に生じると、このひずみによって、貼着されたベースプレート6を介して光導波路分岐延長部2,3,4の長さ変化が引き起こされ、それぞれ反射したブラッグ回折格子5の波長λB1が格子周期Λにより変化する。なお、この波長λB1もファブリペローフィルタによって検出される。
【0055】
そして、上記λB0とλB1との差(λB0−λB1)が生じると、ひずみあるいは力に比例する値が得られ、この値をひずみあるいは力として表示装置に表示することが可能である。ここで、本発明のようなそれぞれ45°の角度でロゼット状に配置された3つの光導波路分岐延長部2,3,4においては、それぞれの分岐延長部におけるひずみあるいは力が解析され、前記角度に基づき電気抵抗式ひずみゲージと同様に各方向の力成分又はその合成が算出される。
【0056】
なお、ブラッグ回折格子5の波長は周辺温度に比例して変化するため、周辺温度が一定であれば、上記のようにして測定されたひずみあるいは力は十分に正確である。一方、ブラッグ回折格子5が周辺温度に比例して変化することにより、ひずみだけではなく温度も光学式ひずみゲージ1によって測定することが可能である。したがって、ブラッグ波長λBの変化量はひずみと温度の関数であり
ΔλB=KE×ε+KT×ΔT
と表現される。ここで、KEはひずみの感度因子、εはひずみ、KTは温度の感度因子、ΔTは温度変化量である。
【0057】
ここで、この式は、温度によるブラッグ波長λBの変化量とひずみによるブラッグ波長λBの変化量を分離して示すものではなく、また、温度が常に一定であるとは限らないので、温度を補償(相殺)するために第4のブラッグ回折格子13が設けられている。この第4のブラッグ回折格子13が設けられているため、温度のみによるブラッグ波長の変化量ΔλBT(ΔλBT=KT×ΔT)が受信ユニットによって検出される。そして、解析ユニット内において、温度及びひずみによるブラッグ波長の変化量ΔλBからこの温度のみによるブラッグ波長の変化量ΔλBTが減算される。
【0058】
以上の結果、光学式ひずみゲージ1によって、温度に依存せずに非常に高い精度でひずみあるいは力を測定することが可能である。
【0059】
さらに、本発明による光学式ひずみゲージ1を、大きな面積を有するベースプレート上に更なるロゼット状の光導波路分岐延長部を設けて構成することで、例えば複雑な部材における応力変化を解析できるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ロゼット状に形成された光学式ひずみゲージの平面図である。
【図2】図1のA−A断面における光学式ひずみゲージの断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 光学式ひずみゲージ
2,3,4 光導波路枝部(分岐延長部)
5,13 ブラッグ回折格子
6 ベースプレート
7 光ファイバ(光導波路)
8 光配分要素
9 GRINレンズ
10 透過型正弦波格子
11,18 溝
12 保護フィルム
14 ベースプレートのエッジ部
15 コア
16 クラッド
17 被覆層
19 角度
20 ライン
Λ,ΛT 格子周期
λB ブラッグ波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路(7)と、
該光導波路から所定の角度をもって分岐されかつブラッグ回折格子(5)を備えた少なくとも2つの光導波路分岐延長部(2,3,4)と
から成り、
該光導波路分岐延長部(2,3,4)が互いに所定の角度間隔(19)でベースプレート(6)上に設けられ、
前記光導波路(7)から光が導入される、
複数軸方向のひずみを測定するための光学式ひずみゲージにおいて、
前記光導波路(7)及び前記光導波路分岐延長部(2,3,4)を前記ベースプレート(6)上に直線状に配置するとともに、前記光導波路(7)と前記光導波路分岐延長部(2,3,4)の間に光配分要素(8)を設けたことを特徴とする光学式ひずみゲージ。
【請求項2】
前記光導波路分岐延長部(2,3,4)を2つ又は3つ設けるとともに、これらそれぞれに互いに異なる格子周期(Λ)のブラッグ回折格子(8)を形成したことを特徴とする請求項1記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項3】
前記光導波路分岐延長部を2つ(2,4)設けてこれらのなす角度を90°に設定するか、又は前記光導波路分岐延長部を3つ(2,3,4)設けて互いに隣接するものどうしがなす角度を45°に設定したことを特徴とする請求項1又は2記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項4】
前記光導波路(7)から前記光導波路分岐延長部(2,3,4)に光を導入し、これら光導波路(7)と光導波路分岐延長部(2,3,4)の境界部に前記光配分要素(8)としてGRINレンズ(9)及び透過型正弦波格子(10)若しくは透過型正弦波格子(10)のみを配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項5】
前記光導波路(7)、前記光導波路分岐延長部(2,3,4)及び前記光配分要素(8)を前記ベースプレート(6)内に組み込んだことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項6】
前記ベースプレート(6)を金属、ガラス、セラミックス又は堅固で弾性を有する合成樹脂で構成し、
該ベースプレート(6)に、前記光導波路(7)、前記光導波路分岐延長部(2,3,4)及び前記光配分要素(8)を収容するための溝(11,18)を刻設し、
該溝(11,18)の断面形状を半円状、四角形状又はV字状に形成するとともに、この断面の寸法を前記光導波路分岐延長部(2,3,4)に適合させた
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項7】
前記光導波路分岐延長部(2,3,4)を、ガラス製の光ファイバで形成するとともに、前記溝(18)に圧着又は接着したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項8】
前記光導波路分岐延長部(2,3,4)を、光伝導性の合成樹脂又はガラスで形成するとともにその屈折率を前記ベースプレート(6)よりも大きく設定して前記溝(18)内に埋設したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項9】
前記ベースプレート(6)を保護フィルム(12)で被覆し、該保護フィルム(12)で、少なくとも、前記光導波路(7)、前記光導波路分岐延長部(2,3,4)及び前記光配分要素(8)を収容する前記溝(11,18)を被覆したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項10】
前記光導波路(7)に温度を補償するために1つのブラッグ回折格子(13)を設け、該ブラッグ回折格子(13)を、前記ベースプレート(6)のひずみの影響を受けないよう該ベースプレート(6)の領域外に設けたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学式ひずみゲージ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学式ひずみゲージ(1)の製造方法において、
前記ベースプレート(6)上に直線状の3つの溝(11,18)をエッチングによって、又は機械的に形成し、
該溝(11,18)内に前記光導波路(7)、前記光導波路分岐延長部(2,3,4)及び前記光配分要素(8)を固着し、
前記溝(11,18)のうち少なくとも1つを前記保護フィルム(12)で被覆する
ことを特徴とする光学式ひずみゲージの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−545124(P2008−545124A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518704(P2008−518704)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006213
【国際公開番号】WO2007/000323
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(301051264)ホッティンゲル・バルドヴィン・メステクニーク・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (7)
【Fターム(参考)】