説明

光学式エンコーダおよびその読取ヘッド

【課題】経済的で頑丈であるとともに設置しやすく高分解能な光学式エンコーダおよびその読取ヘッドを提供すること。
【解決手段】2つの部材間の相対位置を測定する光学式エンコーダは、スケール格子と、この格子を照らす第1波長光源を備える読取ヘッドとを備える。格子はスケール光を出力し、変位する周期的強度パターンを第1波長で形成する。読取ヘッドは複数の空間位相検出器を備え、空間位相検出器は、周期的な空間フィルタと、第1波長周期的強度パターンから生じる光を受光し、第2波長光を出力する蛍光体層と、この第2波長光を受光・感知する光検出素子とを備える。光検出素子は、第1波長周期的強度パターンの空間フィルタ処理後のパターンに対応する第2波長光を受光し、当該空間位相検出器に対する空間位相を示す信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位検出光用の光学式エンコーダおよびその読取ヘッドに関し、特に光学式エンコーダに用いられる高分解能読取ヘッドの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直線運動、回動または回転運動を検知する各種の移動エンコーダまたは位置エンコーダが利用されている。このようなエンコーダは、一般に、光学システム、磁気スケール、誘導性変換器、誘導トランスデューサまたは容量トランスデューサにより構成される。
光学式エンコーダにおいては、スケール格子を備えるスケール部材の変位を検出するための構成として、セルフイメージ構造が用いられる。
セルフイメージ構造の基本原理は、タルボットイメージとしても知られ、例えば非特許文献1に記載されている。セルフイメージを用いる例示的な光学式エンコーダとしては、特許文献1に開示されている。
【0003】
光学式エンコーダには、スケール格子を備えるスケール部材の変位を検出するために、干渉構造が用いられる。干渉構造を用いる光学式エンコーダ用に、数多くのシステムが開発されてきた。近年、従来システムのほとんどに比べて使用する部品が少ないシステムが開発されている。
このようなシステムの一例として、特許文献2がある。特許文献2に記載のシステムは、回折格子スケールと読取ヘッドを有し、この読取ヘッドは、点光源(読取ヘッド内のレーザーダイオード)と、空間フィルタとして機能するロンキー格子またはホログラフィー要素と、光検出器アレイとを備える。点光源は、スケールの格子と同等の縞ピッチを有する干渉縞を形成する。干渉縞を形成する干渉縞光は、ロンキー格子またはホログラフィー要素を介して光検出器アレイに伝達される。光検出器アレイは、伝達された干渉縞光から4つの矩形信号のチャネルを得るように構成される。
別の例として、特許文献3に干渉構造を用いる光学式エンコーダが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,906,315号
【特許文献2】米国特許第5,909,283号
【特許文献3】米国特許第7,126,696号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cowley,J.M.,and A.F.Moodie,1957,Proc.Phys.Soc.B,70,486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したような光学式エンコーダの改善にも拘わらず、経済的で頑丈であるとともに設置しやすく高分解能な光学式エンコーダは、現在も引き続き求められている。
光学式エンコーダにおいて、より高い分解能を可能にする方法の一つは、非常に微細なスケール格子ピッチを規定するスケール格子を備えたスケール部材を用いることである。しかしながら、この方法を用いる先行技術のエンコーダには様々な不都合な制限が生じる。
従って、分解能が改善され、設計や組立ての際に制約がより少ない光学式エンコーダが望まれている。
【0007】
詳細に述べると、従来の各種光学式エンコーダは、読取ヘッドを用い、スケールとともに変位する周期的な光強度パターンを検出する。読取ヘッドで検出すべき周期的な光強度パターンをスケールから生成するために、様々な技術がある。多くの技術では、光強度パターンのピッチもしくは空間的周期は、スケール上のスケール格子パターンのピッチもしくは空間的周期に左右される。
【0008】
前述の通り、高分解能光学式エンコーダを可能にする方法の一つは、比較的微細なスケール格子ピッチ(例えば、エンコーダによっては約数μm(ミクロン)以下)を有するスケール部材を用いることである。しかしながら、この方法を用いる先行技術のエンコーダには様々な不都合な制限が生じる。
例えば、セルフイメージ技術を用いて光学式エンコーダ読取ヘッドで検出される周期的な光強度パターンを生成する場合、スケール格子と読取ヘッド間の動作間隔動作間隔はセルフイメージに用いられる光の波長に左右される。
【0009】
しかし、光検出器の応答は所望の動作間隔動作間隔を規定する波長が弱く、SN比(信号対ノイズ比)が低くなるおそれがある。そして、低いSN比は達成可能な変位度あるいは位置信号補間を制限してしまう。例えば、光学式エンコーダに用いられる公知の矩形信号検出手方法は、正弦波状の位置信号を補間し、スケール格子ピッチよりはるかに小さい位置分解能を可能にする。実際のところ、低いSN比により信号補間度や得られる分解能は制限される。
したがって、動作間隔動作間隔と光源波長と光検出器の応答を実際に組み合わせる場合、セルフイメージ型エンコーダで達成される設計選択および/または分解能は制限されてしまい、好ましくなかった。さらに、間隙の変動許容度が所望のものより小さくなり、このようなエンコーダの測定における実際に達成可能な信頼性および繰り返し性を低下させてきた。
【0010】
周期的な光強度パターンを規定する干渉縞を生成する際に干渉技術が用いられる場合、所望の干渉縞領域の位置(および関連する動作間隔範囲)および/または縞周期は、スケール格子での光源波長源の回折次数の回折角に左右される。上記でセルフイメージ型エンコーダに関し述べたように考察した結果、動作間隔と光源波長と光検出器の応答を実際に組み合わせる場合、干渉型エンコーダで達成される設計選択および/または分解能も同様に制限されてきた。
【0011】
本発明の目的は、経済的で頑丈であるとともに設置しやすく高分解能な光学式エンコーダおよびその読取ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、スケール格子と読取ヘッドとの間に比較的大きな動作間隔(および比較的大きな間隙許容度)を形成するために、光学式エンコーダは、比較的短い第1波長(例えば300〜450nm(ナノメートル))を有する光を用いてスケール格子を照らす。
光学式エンコーダの読取ヘッドには、その波長応答ピークが前述した第1波長よりかなり大きな第2波長(例えば750nm)であるような、比較的経済的な光検出器が用いられるこの光検出器は、第2波長に反応があればよく、第1波長に対して無反応であってもよい。
高いSN比を可能にするために、読取ヘッドに用いられる空間位相検出器には、第1波長を受光して第2波長(前述した光検出器の波長応答ピークに近い)を出力する蛍光体層と、この蛍光体層と組み合わせられる周期的な空間フィルタとを備えたものとされる。
具体的に、本発明の光学式エンコーダおよびその読取ヘッドは、次のような構成とされる。
【0013】
本発明の光学式エンコーダは、2つの部材間の所定の測定軸方向に沿った相対変位を測定する光学式エンコーダであって、測定軸方向に沿って形成されるスケール格子を備えるスケールと、前記スケールの変位を読み取る読取ヘッドとを備える。
【0014】
本発明の読取ヘッドは、スケール格子に第1波長を有する光源光を出力する光源を備え、スケール格子はスケール光を出力し、スケールとともに変位する第1波長での周期的強度パターンを形成する。
読取ヘッドは、検出器アセンブリを備え、この検出器アセンブリは、検出器アセンブリに対する第1波長での周期的強度パターンの位置を検出可能である。
検出器アセンブリは、複数の空間位相検出器を備え、この空間位相検出器は、周期的な空間フィルタと、第1波長での周期的強度パターンから生じる光を受光するとともに、第1波長より大きな第2波長を有する第2波長光を出力するように配置される蛍光体層と、第2波長光を入力するとともに空間位相検出器に対する第1波長での周期的強度パターンの空間位相を示す信号を出力するように配置される光検出素子と、を備える。
【0015】
本発明において、空間位相検出器の光検出素子は、第1波長周期的強度パターンの空間フィルタ処理後のパターンに対応する第2波長光を受光するとともに、空間位相検出器に対する第1波長周期的強度パターンの空間位相を示す信号を出力する。
本発明において、第1波長周期的強度パターンの空間フィルタ処理後のパターンを規定する空間フィルタは、別体の空間フィルタマスク要素であってもよく、または、蛍光体層のパターンでもよく、および/または、光検出素子のパターンでもよい。
本発明において、光検出素子は、空間フィルタを形成する各部からなるパターンを備えてもよい。
本発明において、蛍光体層は、光検出素子をなす各部からなるパターンに近接する連続層でもよい。
【0016】
本発明において、蛍光体層は、空間フィルタを形成する各部からなるパターンを備えてもよい。実施形態によっては、光検出素子は、蛍光体層をなす各部からなるパターンに近接する連続的要素でもよい。
本発明において、空間フィルタは、第1波長での周期的強度パターンと蛍光体層との間に設けられる各開口部からなるパターンを有するマスク要素を備えてもよい。
本発明において、第1波長での周期的強度パターンは、(a)スケール格子のセルフイメージおよび(b)スケール格子によって回折されたスケール光の干渉回折次数に基づく干渉縞のいずれか1つを備えてもよい。
【0017】
本発明において、スケール格子は20μm未満(より好ましくは10μm未満)の格子ピッチPgを有してもよい。第2波長は光検出素子の波長応答ピークに一致する波長を有してもよい。
本発明において、第1波長は少なくとも300〜450nmの範囲であり、第2波長は500〜800nmの範囲であることが望ましい。
本発明において、蛍光体層は半導体ナノ結晶である蛍光体粒子を備えてもよい。
本発明において、蛍光体層は、蛍光体層の体積で少なくとも80%に対応する密度の蛍光体粒子を備えてもよい。
本発明において、蛍光体層は、光検出器に到達する全ての光が第2波長光となるような厚みに構成されてもよい。
【0018】
本発明において、蛍光体層は、平均粒径が第1波長での周期的強度パターンの周期の多くとも25%となるような粒度分布を有する蛍光体粒子を備えてもよい。
本発明において、光検出器はCMOS光検出器アレイを備えてもよい。
なお、蛍光体層は一般に、第1周期光の周期的強度パターンのエネルギーを、第1波長よりも光検出素子において効率的に電気信号に変換される第2波長あるいは第2波長域のエネルギーに変換するものである。一般に、光検出器のピーク波長応答は第1波長よりも大きな波長であるため、蛍光体から出力される第2波長あるいは第2波長域の大部分は第1波長よりも長い波長である。
本発明において、一種類の蛍光体が第2波長光の比較的狭い波長域を出力してもよく、または、巣種類の蛍光体の混合が第2波長光の比較的広い波長域(例えば、全体として、第1波長よりも光検出素子において効率的に電気信号に変換される波長域)を出力してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】光学式エンコーダのセルフイメージ構造に用いられる、本発明の第1実施形態に係る空間位相検出器を備える検出器アセンブリを示す。
【図2】光学式エンコーダの干渉構造に用いられる、本発明の第2実施形態に係る空間位相検出器を備える検出器アセンブリを示す。
【図3】本発明の第3実施形態に係る空間位相検出器を備える検出器アセンブリの一部分の断面を示す図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る空間位相検出器を備える検出器アセンブリの一部分の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態として、光学式エンコーダのセルフイメージ構造100に用いられる検出器アセンブリ170を示す。検出器アセンブリ170は、本発明に係る空間位相検出器SPD1〜SPD4を備える(図1にはSPD2〜SPD4の図示を省略)。
セルフイメージ構造100は、スケール格子80を備えるとともに、読取ヘッドとして検出器アセンブリ170および光源180を備える。
【0021】
検出器アセンブリ170および光源180は、実施の際、互いに固定的な関係で図示されない読取ヘッドハウジング内に搭載される。
スケール格子80と検出器アセンブリ170とは、動作間隔184によって隔てられる。動作間隔184の寸法は、後述する各式におけるセルフイメージ距離zと等しくなるように、検出器アセンブリ170がセルフイメージ面165(詳細は後述)に設けられてもよい。
【0022】
スケール格子80は、測定軸82に沿って位置合わせされ、この測定軸82に対し垂直に延びる格子要素または線条(照射箇所153において縦線で図示される)を備える。格子要素または線条は、格子周期または格子ピッチPである格子周期81に従い、測定軸82に沿って周期的に配列される。
光源180は、線光源または線光源アレイ(例えば、アパーチャマスク要素を使用)を規定するUVレーザ(紫外線レーザ)またはUV−LED(紫外線発光ダイオード)を備える。光源180は、セルフイメージに好適なその他の公知の線光源構造で構成してもよい。
【0023】
検出器アセンブリ170は、光検出器173と蛍光体層175(詳細は後述)を備える。
図1に示す直交するX軸、Y軸およびZ軸は、スケール格子80の面を基準にして規定されている。X軸はスケール格子80の面および測定軸82に平行である。X−Y面はスケール格子80の面に平行であり、Z軸はスケール格子80の面に垂直である。
【0024】
光源180は、光源光軸151に沿って光源光150を放出する。
光源光150は、通常単色または準単色であり、その公称波長は第1波長l1である。光源光150は、スケール格子80の照射箇所153を照らし、照射箇所153はスケール光軸155に沿ってスケール光154を出力する。
本実施形態では、光源光軸151とスケール光軸155とは、それぞれZ軸に平行かつ互いに一致する。しかしながら、他の実施形態では、公知の反射型セルフイメージ構造を用いてもよく、この場合、光源光軸とスケール光軸とは平行ではないとしてもよい。
【0025】
スケール格子80の照射箇所153からのスケール光154は、動作間隔184を通過してセルフイメージ面165に至る。
セルフイメージ面165において、スケール光154は、図1に示すように、検出器アセンブリ170に一致する受光面160に、セルフイメージ166を含む周期的強度パターン156を形成する。周期的強度パターン156は、スケール格子80の移動に応じて、受光面160上を変位する。
周期的強度パターン156に現れるセルフイメージ166は、測定軸82に垂直に延びる明暗の縞からなる像である。セルフイメージ166の明暗の縞は、測定軸82に平行な方向に周期的であり、その空間周期はセルフイメージ周期83またはセルフイメージピッチPsiとして示される。詳細は後述するが、検出器アセンブリ170は、測定軸82に沿ってスケール格子80の変位を測定するために、セルフイメージ面165で周期的強度パターン156を検出する。
セルフイメージ構造100において、セルフイメージ面165はスケール格子80の面と平行である。なお、セルフイメージは、距離をおいた幾つかのセルフイメージ面セットに現れる。図1において、光源180がコリメートされた光源光150を出力した場合、利用可能なセルフイメージ面の条件は以下のようになる。
【0026】
【数1】

(式1)
【0027】
図1に示される構成の場合、この式1は次の式2のような1Xレベル(等倍レベル)の倍率を規定する。
【0028】
【数2】

(式2)
【0029】
多くの用途では、セルフイメージ距離zgができるだけ大きいことが望ましい。これは、例えば機器への搭載や、アラインメントおよび作動時により大きなクリアランスや許容範囲を可能にするためである。多くの用途では、微細な格子ピッチPを用いることが望ましい。これは、例えば高分解能測定を可能にするためである。
前述した式1の条件によれば、所定の格子ピッチPに対し、より大きなまたは同等のセルフイメージ距離zを規定するために、第1波長lを小さくすることが望ましいことが解る。このために、従来のセルフイメージ型エンコーダは、従来約780nmの第1波長lを用いてきた。こういった波長が20μmの格子ピッチPと併用される場合、動作間隔は約513μmのセルフイメージ距離zに設定されてもよい。
【0030】
同様の間隙距離を維持しつつ格子ピッチを減らす、または、同じ格子ピッチを用いてより大きな動作間隔を可能にするために、光源180はより小さな波長l1の光源光150を放出することが望ましい。例えば、図1に示される実施形態において、光源180がUVレーザまたはUV−LED等の場合、光源光150は約400nmの第1波長lを用いてもよい。同様に500μmのセルフイメージ距離zにより、約14μmの格子ピッチPが可能になる。
これに対し、本発明に基づく空間位相検出器を有する検出器アセンブリが用いられる場合、測定分解能を約30%改善することができる。または、格子ピッチPが20μmに維持され、第1波長lが約400nmの場合、動作間隔は約1mmのセルフイメージ距離zまで増加させることができる。すなわち、動作間隔を約2倍増加させることができる。
【0031】
しかしながら、本発明の空間位相検出器を有する検出器アセンブリを用いない場合、一般にピーク波長応答が700nm付近であり、応答が400nm(ピーク波長応答の約半分)である従来用いられている光検出器(例えば、CMOS光検出器)においては、約400nmの第1波長lでは生成される信号が低すぎるおそれがある。したがって、先行技術のエンコーダはこのような波長を避けてきたか、あるいは避けられない場合には、生成された弱い信号によってSN比の低下などの悪影響を受けてきた。本発明の採用により、これらの問題が解消できることになる。
【0032】
図1に示される検出器アセンブリ170は、本発明に係る空間位相検出器SPD1〜SPD4の第1実施形態を含む。
なお、空間位相検出器SPD1〜SPD4は、周期的強度パターン156に対する空間位相を除き互いに類似する。したがって、以下には空間位相検出器SPD1のみを代表として詳細に説明する。
【0033】
図1において、空間位相検出器SPD1は、蛍光体層175の一部をなす蛍光体層PL1と、光検出器173の一部をなす光検出素子D1と、光検出素子D1の各検出素子DE1からなる周期構造である周期的な空間フィルタSF1とを備える。
すなわち、本実施形態において、周期的な空間フィルタSF1は光検出素子D1と別体の要素ではない。
各検出素子DEは、検出器アレイ状に配列されるとともに、相互に連結してそれぞれの信号を合計してもよい。各検出素子DEは、測定軸82に沿ってセルフイメージピッチPsiと等しいピッチまたは空間波長で互いに離間するとともに、ピッチPsiを有する変位する周期的強度パターンが空間フィルタ処理されるようにピッチPsiより小さい(例えば半分の)幅を有する。
【0034】
本実施形態において、蛍光体層PL1(例えば蛍光体層175の一部)は、第1波長での周期的強度パターン156から生じる光を受光するとともに、第2波長光を出力するように配置される。第2波長光は、第1波長より長い第2波長(例えば光検出素子D1の波長応答ピークにおおよそ対応する第2波長)での光を含み、第1波長での周期的強度パターン156に対応した周期的強度パターンを形成する。
蛍光体層PL1は、周期的強度パターン156による励起に反応して散光を発する。蛍光体層PL1の発光は基本的に散光であるが、蛍光体層PL1の厚さTがPsiに対し十分に小さく、かつ、光検出素子D1に近接して設けられていれば(例えば蛍光体層PL1は光検出素子D1に当接または塗布される層として設けられる)、第2波長光は光検出素子D1にて第1波長の周期的強度パターン156に対応して変位する第2波長の周期的強度パターンを形成することになる。
【0035】
光検出素子D1は、こうして第2波長強度パターンを空間フィルタ処理する周期的空間フィルタとして機能することができ、空間位相検出器SPD1に対する周期的強度パターン156の空間位相を示す信号を生成する。さらに、第2波長が光検出素子D1へのピーク波長応答に略匹敵することから、生成された信号は高いSN比を示し、公知技術による高レベルの位置信号補間が可能となる。前述のように、高レベルの位置信号補間は高分解能位置測定を可能にしうる。
したがって、検出器アセンブリ170は、空間位相検出器を備え、この検出器は前述の原理により、おおよそ400nmの第1波長lすなわち従来の空間位相検出器(例えばCMOS光検出器)の光検出器では生成信号が低くなってしまうような波長を用いても、性能に対する悪影響とならない。
【0036】
以上、空間位相検出器SPD1について説明したが、他の空間位相検出器SPD2、SPD3およびSPD4は、空間位相検出器SPD1の位置および周期的強度パターン156に対し、それぞれ90、180および270度空間シフトした空間位相位置に配置されることを除き、空間位相検出器SPD1と同じである。このような構造により、各空間位相検出器からの信号は、公知の矩形信号処理方法により高分解能補間された矩形信号に基づいて処理され、位置信号を生成することができる。なお、矩形信号処理は、前述した特許文献1あるいは特許文献3に記載の技術によって処理すればよい。
【0037】
前述のように、セルフイメージ型エンコーダでの使用に適した従来の経済的な光検出器は、一般に、約700nmでピーク波長応答を示す。このような従来の光検出器は、約400nmの波長に対して感度がよくない場合があり、光源光150が約400nm、あるいは375nm〜450nmの範囲の波長lを用いる場合、周期的強度パターン156の検出に適さない。しかしながら、このような波長には前述のような格子ピッチと動作間隔に関して好ましい効果がある。
【0038】
したがって、図1に示される実施形態は、光源光150が約400nmの波長lを利用するとともに、このような約400nmの波長lを利用した場合でも周期的強度パターン156を適切に検出できるように、本発明に基づく手段を採用する。
すなわち、蛍光体層175は、第1波長lでの周期的強度パターン156を受光し、光検出器173の波長感度ピークに略対応する第2波長lの第2波長光を光検出器173に出力する。つまり蛍光体層175により、区間に応じた波長の切替を行うということである。
【0039】
蛍光体層175は、蛍光体粒子(例えば、従来の蛍光体または発光ナノ粒子等)を備える。
蛍光体粒子の種類は、好ましくは、蛍光体粒子が第1波長lの光によって励起されると、光検出器173のピーク感度に略対応する第2波長lで光を出力するように選択される。
したがって、本実施形態によれば、比較的大きなセルフイメージ距離zに対応する比較的大きな動作間隔(たとえ格子ピッチPが比較的微細であっても)および正確な信号補間を可能にするSN比を有する光学式エンコーダが可能となる。さらに、間隙許容度は大きな動作間隔で改善されうる。
なお、前述した検出器アセンブリ170の実施形態は例示的なものに過ぎず、本発明を限定するものではない。例えば、各種実施形態において、検出器アセンブリ170は、後述する図3および図4の構成要素および特徴事項を備えてもよい。
【0040】
[第2実施形態]
図2は、本発明の第2実施形態として、光学式エンコーダの干渉構造200に用いられる、本発明に係る空間位相検出器を備える検出器アセンブリ270を示す。
干渉型エンコーダの基本的な動作原理は公知であり、本発明に関する動作のみ本明細書で詳述される。図2に示される構成要素のいくつかは、図1に示される前述した第1実施形態の構成要素に対応するものであり、対応する構成要素の参照番号と同じかあるいは末尾が同じ(例えば、参照番号1XXと2XXの末尾XXが同じ)参照番号を付して重複する説明を省略する。このような構成要素は、別段の記載がなければ前述した第1実施形態の説明を例に理解されてもよく、以下には図1のセルフイメージ構造100に対する、図2の干渉構造200の特徴事項または動作における重要な相違点のみ説明する。
【0041】
干渉構造200は、スケール格子80’と、検出器アセンブリ270と光源280とを備える光学式エンコーダ読取ヘッド素子とを備える。検出器アセンブリ270と光源280は実施の際、互いに固定的な関係で図示されない読取ヘッドハウジング内に搭載される。スケール格子80’と検出器アセンブリ270は動作間隔284によって隔てられる。動作間隔284に関し、詳細は後述する。
【0042】
光源280は、コヒーレント光源280Sとコリメーティングレンズ280Lを備える。
コヒーレント光源280Sは、UVレーザまたはUV−LEDが利用できるが、干渉縞を作るのに適した他の公知の光源を用いてもよい。
検出器アセンブリ270は、光検出器273と蛍光体層275を備え、前述した第1実施形態の検出器アセンブリ170と類似または同じ構成とすることができ、あるいは、後述する図3および図4の構成要素および特徴事項を備えてもよい。
【0043】
本実施形態のスケール格子80’は、このスケール格子80’に照射されて反射されてゆく光のうち0次光成分を抑制する位相格子である。スケール格子80’の格子要素は、格子周期または格子ピッチPである格子周期84に従い測定軸82に沿って周期的に配列される。
本実施形態において、コヒーレント光源280Sはレンズ280Lに光源光を発し、この光源光はレンズ280Lを経て光源軸251に沿った光源光250としてスケール格子80’に向けて照射される。
【0044】
図2に示されるように、光源光250はコリメート光とされる。しかしながら、光源光250は発散角を有する光としてもよい。光源光は通常単色または準単色であり、その公称波長は第1波長lである。
スケール格子80’に向けて照射される光源光250は、スケール格子80’の照射箇所253を照らし、光源光250を受けたスケール格子80’はスケール光軸255に沿ったスケール光254を出力する。
【0045】
図2に示されるように、光源軸251とスケール光軸255はZ軸に平行であり一致する。しかしながら、他の実施形態では、公知の反射型干渉構造が用いられてもよく、この場合、光源光軸とスケール光軸は平行ではないものとされる。いずれの場合も、スケール光254は動作間隔284を通過し、図2において検出器アセンブリ270に一致する受光面260に干渉縞を含む周期的強度パターン256を形成する。周期的強度パターン256はスケール格子80’と共に変位する。
【0046】
スケール格子80’の表面の凹凸構造は、スケール光254の0次成分を抑制し、スケール格子80’の凹凸比(デューティサイクル)に応じて偶数次の回折次数を抑制する。±3次以上の奇数次の回折次数(+3次、+5次…、および−3次、−5次…)は一般に、無関係な干渉縞特徴を作り出し、周期的強度パターン256に基づく測定信号を正確に補間する能力を損ねる。
したがって、本実施形態では、検出器アセンブリ270は、その構成要素である空間位相検出器が±3次以上の回折次数に基づく光を回避することができるように選択された動作間隔で配置される。すなわち、本実施形態では±1次回折次数(+1次および−1次)の光のみを透過させるように設定され、これらの回折次数に基づく光と干渉縞のみ検出される。
【0047】
図2には、これらの±1次回折次数の光のみを図示してあり、抑制される0次、偶数次(+2次、+4次…、および−2次、−4次…)、および三次以上の奇数次の回折次数(+3次、+5次…、および−3次、−5次…)の光は図2には示されない。
図2に示されるように、±1次回折次数の光は、回折によりスケール光軸255A,255Bに沿ったスケール光254A,254Bとして出力される。なお、スケール光軸255A,255Bは、光源光250の中心光線の回折に対応する。したがって、図2に示されるように、光源光250がスケール格子80’の面に略垂直に入射すると、スケール光軸255A,255Bは1次回折角度θ−1,θ+1に従う。±1次回折次数のスケール光254A,254Bは、それぞれスケール光軸255A,255Bに従って照射ゾーン254A’,254B’を規定する。
【0048】
図2中の破線円は、検出器アセンブリ270と一致する受光面260における照射ゾーン254A’,254B’の略断面を示す。スケール光254A,254Bの照射ゾーン254A’,254B’は、互いに交わって干渉縞266を有する干渉ゾーン256’を規定する。干渉ゾーン256’は、検出器アセンブリ270によって検出される周期的強度パターン256を有する。
検出器アセンブリ270を構成する空間位相検出器(例えば、空間位相検出器SPD1〜SPD4)は、干渉ゾーン256’内に配置されるように構成される。
【0049】
干渉ゾーン256’の干渉縞266は、明暗の干渉縞ゾーンから構成され、各干渉縞ゾーンはZ軸およびY軸方向に沿って測定軸82と垂直に広がる。明暗の干渉縞ゾーンは干渉縞周期83’(干渉縞ピッチPif)に従って測定軸82に平行な方向に沿って周期的である。こうして、干渉縞ゾーンがスケール格子80’の面に垂直な方向に沿って延びることから、操作可能な周期的強度パターン256は干渉ゾーン256’にわたるポテンシャルギャップである動作間隔284の範囲に存在する。
したがって、前述のセルフイメージ型の構造と対照的に、動作間隔284と受光面260の対応位置は通常、測定軸82に沿った位置測定の動作または精度にあまり影響することなく、合理的な許容差範囲内で変化可能である。
【0050】
しかしながら、各種実施形態において、一定の制限を満たすことは形式上の動作間隔284にとって依然として効果的である。
特に、動作間隔284としては、±1次回折次数の干渉ゾーン256’が空間位相検出器を取り囲むのに十分な大きさを有するように検出器アセンブリ270を構成する空間位相検出器(例えば、空間位相検出器SPD1〜SPD4)の受光面260が配置され、かつ、空間位相検出器が±3次回折次数に基づく光を受光しないようなものでなくてはならない。
光源光250がコリメートされると、スケール光軸255A,255Bは、以下の回折角度関係に従って、光源光軸251(Z軸に平行)に対してX−Z平面でそれぞれ1次回折角度θ−1,θ+1で傾いた(それた)光路に沿う。
【0051】
【数3】

(式3)
【0052】
式3によれば、所定の格子ピッチPに対しては、波長が大きいほど、1次回折角度θが大きくなる。
図2から解るように、1次回折角度θが大きいほど、スケール光254A,254Bが互いに大きくそれるようになる。したがって、比較的大きな波長であると、干渉ゾーン256’が消えてしまうほど小さくなることもある。このような大きな波長のもとで干渉ゾーン256’を確保するためには、スケール光254A,254Bが互いにそれる面をスケール格子80’に比較的近く配置すること、つまり動作間隔284を小さくし、受光面260とスケール格子80’とを近づけることが必要となってしまう。このような状況は、前述のデメリットを伴うことになり、好ましくない。
【0053】
したがって、式3の条件を考慮すると、所定の格子ピッチPに対し、より大きな動作間隔284を確保するために、第1波長l1を減少させることが望ましい。
従来、干渉型エンコーダでは、約780nmの第1波長l1を用いてきた。このような従来と同様の動作間隔を維持しつつ格子ピッチを減らす、または、同じ格子ピッチを用いてより大きな動作間隔を可能にするために、光源280Sは、より小さな波長l1の光源光250を放出することが望ましい。
【0054】
本実施形態において、検出器アセンブリ270は、良好なSN比を維持しつつ、約400nmである第1波長l1を有する光源280Sを使用する。1次回折角度θが同じである場合(動作間隔が同じ場合)、従来の780nmの波長を有するものに比べ、格子ピッチPを約2分の1とすることが可能になる。したがって、本発明の空間位相検出器を備える検出器アセンブリ270を用いれば、格子ピッチを許容範囲内で減じたうえで、測定分解能を約2倍に改善しうる。または、格子ピッチPが同じでも、約400nmである第1波長l1に対し、回折角度を減少させるとともに、動作間隔を増加させることができる。例えば、15μmの格子ピッチに対し、所定の照射箇所253と検出器アセンブリ270の動作間隔は約2倍になりうる。
【0055】
前述のように、約400nmの第1波長l1は、従来の光検出器(例えばCMOS光検出器)では低レベルの信号しか生成できない。つまり、従来の光検出器では約780nmのピーク波長応答であるのに対し、400nmとした場合のピーク波長応答は従来の約半分である。このため、従来の干渉型エンコーダでは、このような短い波長を避けてきたか、あるいは、短い波長による弱い生成信号に伴う悪影響が避けられなかった。
【0056】
これに対し、本実施形態の検出器アセンブリ270は、本発明に基づく空間位相検出器を備え、検出器アセンブリ270に形成された蛍光体層275は、光検出器273の光検出素子のピーク波長応答に略匹敵する第2波長で光を生成するように選択された蛍光体粒子を備えることから、従来の空間位相検出器の光検出素子において低レベルの信号を生成する第1波長l1を使用するにも拘わらず、高レベルの信号を生成することができ、高いSN比を示すものにできる。
こうして、本実施形態においては、高レベルの位置信号補間と高分解能の位置測定が可能になる。したがって、検出器アセンブリ270は、本発明の空間位相検出器を備えることで、前述の原理に基づく蛍光体層による波長の変換により、略400nmの第1波長l1を用いても性能への悪影響を回避することができる。言い換えれば、上記で開示される実施形態は、たとえ格子ピッチPが比較的微細であるとしても、比較的大きな動作間隔を有する光学式エンコーダを可能にし、また、正確な信号補間を実現する高いSN比も可能にする。
【0057】
[第3実施形態]
図3は、本発明の第3実施形態に係る空間位相検出器SPD1〜SPD4を備える検出器アセンブリ370の一部分300の断面を示す。
検出器アセンブリ370は、例えば、セルフイメージ構造100の検出器アセンブリ170(第1実施形態、図1参照)、または、干渉構造200の検出器アセンブリ270(第2実施形態、図2参照)の代わりに用いられる。
【0058】
図3に示される実施形態では、検出器アセンブリ370は、光検出器373と蛍光体層375とを備える。第1実施形態の検出器アセンブリ170が連続的な蛍光体層175を備えていたのに対し、本実施形態の検出器アセンブリ370では、蛍光体層375がパターン化されている。さらに、空間位相検出器SPD1〜SPD4は、別個のエリアに分けられるのではなく、同じエリアに交互に配置される。
なお、図3に示される空間位相検出器SPD1〜SPD4は、第1波長λ1での光を有する受信した周期的強度パターン(図示されず)に対するそれぞれの空間位相が異なることを除き、互いに同じである。したがって、以下には空間位相検出器SPD1のみ詳述される。
【0059】
図3に示されるように、空間位相検出器SPD1は、後述の空間フィルタSF1と、部分PL1−i(例えばPL1−1,PL1−2…)を含んでパターン化されて蛍光体層375を構成する蛍光体層PL1と、部分D1−i(例えばD1−1,D1−2…)を含んで光検出器373を構成する光検出素子D1と、を備えている。
なお、検出器アセンブリ370の全体では、図3に示される素子からなる反復パターン(例えば、その他の空間位相検出器における、空間位相検出器SPD1の追加的な素子あるいは部分PL1−i,D1−iなどに対応)を有する。
【0060】
図3に示される実施形態では、空間フィルタSF1は、パターン化された部分PL1−iからなる周期的な構造によって構成される。すなわち、本実施形態において、空間フィルタSF1は、パターン化された蛍光体層PL1と別体の要素ではなく一体化されている。
図3に示されるように、各光検出素子D1−iはアレイ状に配列され、それぞれの信号が統合するように相互に連結されてもよい。各光検出素子D1−iは、測定軸82に沿ってセルフイメージピッチPsi(または干渉縞ピッチPif)の5倍(一般的には整数N倍)に等しいピッチまたは空間波長で離間するとともに、セルフイメージピッチPsi(または干渉縞ピッチPif)を有する変位する周期的強度パターンが空間フィルタ処理されるようにセルフイメージピッチPsi(または干渉縞ピッチPif)未満の幅(例えば半分の)を有する。
【0061】
図3に示される実施形態では、蛍光体層PL1のパターン化部分(PL1−1,PL1−2等)は、第1波長での周期的強度パターンに基づく光を受光し、その周期的な空間フィルタSF1に基づき周期的強度パターンを空間フィルタ処理し、第1波長よりも大きい第2波長、例えば光検出素子D1の部分(D1−1,D1−2等)の波長応答ピークに略対応する第2波長での光を含む第2波長光を出力するように配置される。
【0062】
図1の空間位相検出器SPD1と対照的に、図3の空間位相検出器SPD1の蛍光体層は、パターン化されて空間フィルタ処理を実施することから、光検出器373で受光される第2波長光は、パターン化した蛍光体層で空間フィルタ処理された後、第1波長での周期的強度パターンに対応するものとなる。光検出素子D1(部分D1−iを備える)はその後、空間位相検出器SPD1に対する第1波長での周期的強度パターンの空間位相を示す信号を生成する。第2波長が光検出素子D1−iのピーク波長応答に略匹敵することから、生成された信号は高いSN比を示し、公知技術による高レベルの位置信号補間が可能となる。
【0063】
図3に示されるように、本実施形態において、パターン化された部分(PL1−1,PL2−1,PL3−1等)は、それぞれ蛍光体パターンテンプレートの障壁部PTBによって隔てられている。
蛍光体パターンテンプレートの障壁部PTBは、光検出器373に固定される材料層を備えてもよい。このような材料は、例えばフォトレジストまたはプラスチック層等に堆積または焼付けて形成される。この材料層は、その後フォトリソグラフィ、ナノインプリンティングまたはエッチング、または他の公知の方法によってパターン化され、各光検出素子の部分D1−i,D2−i等に対応する開口が形成される。その後、これらの開口は、蛍光体層375の材料で充填され、これにより部分PL1−i,PL2−i等が形成される。障壁部PTBを形成する材料は、第2波長光(および好ましくは第1波長光)を大幅に減衰またはブロックし、好ましくない迷光効果を防ぐように選択される。
【0064】
したがって、本実施形態の検出器アセンブリ370は、本発明の空間位相検出器を備えることで、前述の原理により、従来の空間位相検出器(例えばCMOS光検出器)の光検出器では生成信号が低くなる略400nmの第1波長l1を用いても、性能に対する悪影響を回避することができる。なお、空間位相検出器SPD2,SPD3,SPD4は、空間位相検出器SPD1の位置および第1波長での周期的強度パターンに対し、それぞれ90,180,270度空間シフトした空間位相位置に配置されることを除き、空間位相検出器SPD1と同じである。このような構造で得られる各空間位相検出器からの信号は、公知の矩形信号処理方法に従い高分解能補間された矩形信号に基づいて処理され、位置信号として規定される。
【0065】
前述した各実施形態で利用する蛍光体層は、米国特許第6,066,861号および6,417,019号に開示されるようなYAG-Ce+系蛍光体といった1つ以上の従来の蛍光体材料を備えてもよい。
蛍光体層としては、米国特許出願第2008/0173886号に開示されるような光輝性の半導体ナノ粒子すなわちQ−粒子蛍光体(一般に量子ドットまたは半導体量子ドットと称される)、米国特許第7,235,792号に開示されるようなナノ結晶材料、または、米国特許第7,083,490号に開示されるような半導体ナノ結晶等を利用してもよい。
【0066】
一般に、検出された周期的強度パターンの比較的微細なピッチまたは空間周期を検出する際、非均一な蛍光体粒子分布および/または粒径が原因で好ましくない信号影響を加えることがないように、蛍光体粒子は比較的小さい粒子であることが望ましい。
小さい粒径は、小さい縞ピッチおよび/または検出素子幅(例えば約20μm以下の幅)内で、より均一な蛍光体密度やより均一なエネルギー変換または信号応答を実現するために好適である。言い換えれば、小さい粒子は、形成される蛍光体層が、第1波長での周期的強度パターンにより密接に対応する第2波長光を生成し、検出された格子変位情報を提供する点で好ましい。
蛍光体粒子が、蛍光体層の体積比で少なくとも80%に対応する密度を有し、または、平均粒径(例えば、形式上の直径を示す粒径または最大粒径)が第1波長での周期的強度パターンの周期またはピッチの多くとも25%になるような粒度分布を有することが望ましい。あるいは、蛍光体層が、光検出器に達する全ての光が第2波長光となるほど十分に大きい厚さTを有する(例えば厚さTが平均蛍光体粒径の少なくとも3倍である)ことが望ましい。
蛍光体粒子は、透明な結合剤に埋め込まれるか、被覆されて位置が固定されればよい。
【0067】
[第4実施形態]
図4は、本発明の第4実施形態に係る空間位相検出器を備える検出器アセンブリ470の一部分400(空間位相検出器SPD1,SPD2に相当する部分)の断面を示す。
検出器アセンブリ470は、例えば前述した各実施形態の検出器アセンブリの代わりに用いられてもよい。
【0068】
本実施形態では、検出器アセンブリ470は、光検出器473と蛍光体層475とを備える。前述した第3実施形態の検出器アセンブリ370がパターン化した蛍光体層375からなる空間フィルタを備えていたのに対し、本実施形態の検出器アセンブリ470では、空間フィルタは後述される別体の空間フィルタマスク要素SFMからなる。さらに、蛍光体層475は連続してもよく(パターン化されず)、空間位相検出器は別個のエリアに分けてグループを形成している。
なお、本実施形態において、図4に示される空間位相検出器SPD1,SPD2および図示されない他の空間位相検出器SPD3,SPD4は、第1波長λ1の光を有する周期的強度パターン(図示省略)を受光した際のそれぞれに対する空間位相が異なることを除き、互いに同一である。したがって、以下には代表として空間位相検出器SPD1のみ詳述する。
【0069】
図4に示されるように、空間位相検出器SPD1は、後述の空間フィルタSF1と、蛍光体層475の一部である蛍光体層PL1と、光検出器473の一部である光検出素子D1と、を備える。なお、検出器アセンブリ470の全体では、図4に示される素子の反復パターン(例えば空間位相検出器SPD3の蛍光体層PL3あるいは光検出素子D3のパターン、空間位相検出器SPD4における同様なパターン)を有する。
【0070】
本実施形態では、空間フィルタSF1は、空間フィルタマスク要素SFMの開口部SF1−i(例えばSF1−1,SF1−2等)によって構成される。すなわち、本実施形態において、空間フィルタSF1は、蛍光体層PL1と光検出素子D1とは別個の要素である。各空間フィルタ素子SF1−iは、測定軸82に沿ってセルフイメージピッチPsi(または干渉縞ピッチPif)に等しいピッチまたは空間波長で離間するとともに、セルフイメージピッチPsi(または干渉縞ピッチPif)を有する変位する周期的強度パターンが空間フィルタ処理されるようにセルフイメージピッチPsi(または干渉縞ピッチPif)未満の幅(例えば半分の)を有する。
【0071】
図4の実施形態では、空間フィルタ素子SF1−iは第1波長での周期的強度パターンから生じる光を受光し、空間フィルタSF1に基づきその周期的強度パターンを空間フィルタ処理し、空間フィルタ処理された第1波長光を出力するように配置される。空間フィルタ処理された第1波長光は、蛍光体層475の一部である蛍光体層PL1で受光される。
蛍光体層PL1は、第1波長より大きい第2波長で、例えば光検出素子D1の波長応答ピークに略対応する第2波長で受光された空間フィルタ処理済みの第1波長光の量に対応するエネルギーを出力する。
【0072】
図1の空間位相検出器SPD1と対照的に、空間フィルタマスク要素SFMは、パターン化されて空間フィルタ処理を実施することから、光検出器373で受光される第2波長光は、空間フィルタマスク要素SFMで空間フィルタ処理された後、第1波長での周期的強度パターンに対応する。光検出素子D1はその後、空間位相検出器SPD1に対する第1波長での周期的強度パターンの空間位相を示す信号を生成する。前述の通り、第2波長は光検出素子D1のピーク波長応答に略匹敵し、生成された信号は高いSN比を示し、公知技術による高レベルの位置信号補間が可能となる。
【0073】
なお、本実施形態においては、空間位相検出器SPD2、および図示されない空間位相検出器SPD3,SPD4は、空間位相検出器SPD1の位置および第1波長での周期的強度パターンに対し、それぞれ90度,180度,270度だけ空間シフトした空間位相位置に配置されることが異なるが、この点を除き、空間位相検出器SPD1と同じである。このような構造により、各空間位相検出器からの信号は、公知の矩形信号処理方法に従い高分解能補間された矩形信号に基づいて処理され、位置信号とされる。
【0074】
[変形例]
本発明について、前述した各実施形態で説明したが、各実施形態で図示および説明した特徴の構成や一連の動作における数多くの変形例は、本発明に基づき当業者に適宜なしうる自明なものである。
一例として、前述した各実施形態では4つの空間位相検出器SPD1〜SPD4を有する検出器アセンブリを説明した。しかしながら、本発明では、3つあるいは5以上の空間位相を用いるレイアウトで実施してもよい。
したがって、本発明の技術的思想および範囲を逸脱することなく、前述した様々な特定の実施形態に対し本明細書の教示事項に基づく様々な変形を加えることができる。
【符号の説明】
【0075】
100…セルフイメージ構造
150…光源光
151…光源光軸
153…照射箇所
154…スケール光
155…スケール光軸
156…周期的強度パターン
160…受光面
165…セルフイメージ面
166…セルフイメージ
170…検出器アセンブリ
173…光検出器
175…蛍光体層
180…光源
184…動作間隔
200…干渉構造
250…光源光
251…光源軸
253…照射箇所
254,254A…スケール光
255,255A…スケール光軸
256…周期的強度パターン
260…受光面
266…干渉縞
270…検出器アセンブリ
273…光検出器
275…蛍光体層
280…光源
280L…コリメーティングレンズ
280S…コヒーレント光源
284…動作間隔
370…検出器アセンブリ
373…光検出器
375…蛍光体層
470…検出器アセンブリ
473…光検出器
475…蛍光体層
80…スケール格子
81…格子周期
82…測定軸
83…セルフイメージ周期
84…格子周期
D1…光検出素子
DE…検出素子
…格子ピッチ
if…干渉縞ピッチ
PL1…蛍光体層
si…セルフイメージピッチ
PTB…障壁部
SF1…空間フィルタ
SFM…空間フィルタマスク要素
SPD1〜SPD4…空間位相検出器
…セルフイメージ距離
θ…回折角度
λ1…波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定軸方向に沿ってスケール格子が形成されたスケールを用いて2つの部材の相対変位を測定する光学式エンコーダに設置されて、前記スケールの変位を読み取る読取ヘッドであって、
前記スケール格子に第1波長の光源光を出力して前記スケールからスケール光を出力させ、前記スケール光によって前記スケールとともに変位する第1波長での周期的強度パターンを形成させる光源と、
複数の空間位相検出器を備えて前記第1波長での前記周期的強度パターンの位置を検出可能な検出器アセンブリと、を備え
前記空間位相検出器は、
周期的な空間フィルタと、
前記第1波長での前記周期的強度パターンを有する前記スケール光を受光し、前記第1波長より大きい第2波長を有する第2波長光を出力するように配置された蛍光体層と、
前記第2波長光を受光し、前記空間位相検出器に対する前記第1波長での前記周期的強度パターンの空間位相を示す信号を出力するように配置された光検出素子と、を備えることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の読取ヘッドであって、前記光検出素子は、前記第1波長の周期的強度パターンの空間フィルタ処理後のパターンに対応する第2波長光を入力することを特徴とする読取ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の読取ヘッドであって、前記光検出素子は、前記空間フィルタを形成する各部からなるパターンを備えることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の読取ヘッドであって、前記蛍光体層は、前記空間フィルタを形成する前記各部からなるパターンに近接する連続層であることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の読取ヘッドであって、前記蛍光体層は、前記空間フィルタを形成する各部からなるパターンを備えることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の読取ヘッドであって、前記光検出素子は、前記空間フィルタを形成する各部からなるパターンに近接する連続的要素であることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の読取ヘッドであって、前記空間フィルタは、前記第1波長の周期的強度パターンと前記蛍光体層との間に設けられる各開口部からなるパターンを有するマスク要素を備えることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載の読取ヘッドであって、前記第1波長での周期的強度パターンは、(a)前記スケール格子のセルフイメージおよび(b)前記スケール格子によって回折されたスケール光の干渉回折次数に起因する干渉縞のいずれか1つを備えることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れかに記載の読取ヘッドであって、前記第2波長は、前記光検出素子の波長応答ピークに一致する波長を含むことを特徴とする読取ヘッド。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れかに記載の読取ヘッドであって、前記第1波長は300〜450nmの範囲であり、前記第2波長は、500〜800nmの範囲であることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項11】
請求項1から請求項10の何れかに記載の読取ヘッドであって、前記蛍光体層は、半導体ナノ結晶である蛍光体粒子を備えることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項12】
請求項1から請求項11の何れかに記載の読取ヘッドであって、前記蛍光体層は、前記光検出素子に到達する全ての光が第2波長光となるような厚みに構成されることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項13】
請求項1から請求項12の何れかに記載の読取ヘッドであって、前記光検出素子は、CMOS光検出器アレイであることを特徴とする読取ヘッド。
【請求項14】
2つの部材間の相対変位を測定する光学式エンコーダであって、
測定軸方向に沿ってスケール格子が形成されたスケールと、
請求項1から請求項17の何れかに記載の読取ヘッドと、を備えたことを特徴とする光学式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−137489(P2012−137489A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286661(P2011−286661)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】