説明

光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法、新規なオキサゾール化合物、及び新規なβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩

【課題】 光学活性なセリン誘導体を効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】 オキサゾール化合物を有機酸で開環し、β−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩とした後、無機酸による塩交換によりβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を得、更にこのβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を不斉触媒を用いて、不斉還元する光学活性な(2R,3R)-3-置換-D-セリン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体として重要な光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体は、抗エイズ薬などの種々の医薬、農薬の重要な中間体として利用されている。
【0003】
かかる光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体については、これまで多くの合成法が検討されているが、なかでもβ−ケトアミノ酸誘導体を不斉還元により合成する方法は生成率、選択性の面で優れている。かかる方法として、例えば、
[1]β−ケトアミノ酸誘導体の酸塩を、Ru−BINAP触媒を用いて水素圧30〜100atmで不斉還元し、光学活性anti−β−ヒドロキシ酸誘導体を合成する方法(例えば、非特許文献1参照。)、
[2]N−ベンゾイルアミノ−4−メチル−3−オキソ吉草酸メチルをRu−BINAP触媒用いて水素圧100atmで不斉還元した後、立体反転、脱保護によりanti−β−ヒドロキシロイシンの2種類の異性体をそれぞれ合成する方法(例えば、非特許文献2参照。)等が知られている。
【非特許文献1】Tetrahedron:Asymmetry 12, 1757(2001)
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.,43,882 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の方法では、還元反応により光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体へと誘導でき、反応の収率、選択性とも優れた方法であるが、水素圧30〜100atmと非常に高圧下で還元を行っているため、特殊な高圧設備を必要とし、工業的に実施するには不利であった。また、非特許文献1には、オキサゾール化合物を酸で加水分解することで容易に一般式(3)のβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩が得られるとの記載はあるものの、本発明者らが詳細に検討したところ、β−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩の生成率は、45%程度であり、工業的に実施するには満足のいくものではなかった。
また、非特許文献2の方法においては、不斉還元での収率、選択性は高いものの、非特許文献1の方法と同様に水素圧100atmと非常に高圧下で還元を行っており、更に得られる光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体についてはsyn体であり、この後に立体反転を行うなど、多段工程を要するものであった。
このように、いずれの方法においても工業的に実施するには不利であるため、光学活性(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を効率的に製造する方法が望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、上記の現状に鑑みて鋭意検討した結果、オキサゾール化合物を有機酸で開環し、β−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩とした後、無機酸による塩交換によりβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を得、更にこのβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を不斉触媒(A)を用いて、不斉還元することにより、高収率で、高選択的に光学活性(2R,3R)-3-置換-D-セリン誘導体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
また、本発明においては、不斉触媒(A)がルテニウム−光学活性ホスフィン錯体触媒、さらには下記一般式(7)、(11)及び(12)で示される化合物であることが本発明の好ましい実施態様である。
[化1]
[RuX2(L)](dmf)n (7)
(Xは塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を示し、nは0〜3の整数であり、Lは下記一般式(8)で示される(R)−Cm−TunePhos、(9)で示される1,1'−ビス−[(2S,3S,4S,5S)−2,5−ジメチル−3,4−O−イソプロピリデン−3,4−ジヒドロキシホスホラニル]フェロセン(以下(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhosと称する。)又は(10)で示される1,2−ビス[(2S,3S,4S,5S)−2,5−ジメチル−3,4−O−イソプロピリデン−3,4−ジヒドロキシホスホラニル]ベンゼン(以下、(R,R,R,R)−Me−Ketalphosと称する。)である光学活性ホスフィン配位子を示し、dmfはジメチルホルムアミドを示す。)
【化2】

((R)または(S)体であり、mは1〜6の整数であり、m=1のとき(ジベンゾ[d,f][1,3]ジオキセピン−1,11−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィン(以下、C1−TunePhosと称する。)を示し、m=2のとき(6,7−ジヒドロジベンゾ[e,g][1,4]ジオキセシン−1,12−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィン(以下、C2−TunePhosと称する。)を示し、m=3のとき(7,8−ジヒドロ−6H−ジベンゾ[f,h][1,5]ジオキソニン−1,13−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィン(以下、C3−TunePhosと称する。)を示し、m=4のとき(6,7,8,9−テトラヒドロジベンゾ[b,d][1,6]ジオキセシン−1,14−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィン(以下、C4−TunePhosと称する。)を示し、m=5のとき(7,8,9,10−テトラヒドロ−6H−ジベンゾ[b,f][1,6]ジオキサシクロウンデシン−1,15−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィン(以下、C5−TunePhosと称する。)を示し、m=6のとき(6,7,8,9,10,11−ヘキサヒドロジベンゾ[b,d][1,6]ジオキサシクロデカシン−1,16−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィン(以下、C6−TunePhosと称する。)を示す。)
【化3】

【化4】

[化5]
[Ru2Cl4(L)2]Et3N (11)
(Lは上記の定義と同義であり、Etはエチル基を示す。)
[化6]
[RuX(arene)(L)]Y (12)
(X、及びLは上記の定義と同様であり、areneはベンゼン、またはp−シメンを示し、Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、BF4、またはBPh4を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、医農薬中間体として有用な光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を選択的に、かつ高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、下記の工程[1]〜[3]を順に行うことである。
[1]一般式(1)で表されるオキサゾール化合物を有機酸で開環し、一般式(2)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩を得る工程。
【化7】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX1は、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、蓚酸の有機酸を示す。)
[2]一般式(2)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩を無機酸により塩交換を行い、一般式(3)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を得る工程。
【化8】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX1は、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、蓚酸の有機酸を示し、HX2は、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸の無機酸を示す。)
[3]一般式(3)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を不斉触媒(A)を用いて光学活性な一般式(4)で表されるセリン誘導体を得る工程。
【化9】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX2は、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸の無機酸を示す。)
【0009】
上記工程[1]において、オキサゾール化合物としては一般式(1)で表される構造を有するものであれば特に限定されないが、下記式(15)又は(16)で表される構造であることが抗エイズ薬中間体として用いたときに優れた薬効を示す点で好ましい。
上記工程[1]においては、Tetrahedron:Asymmetry 12,1757(2001)に開示されるように、4−アルコキシカルボニル−5−置換オキサゾール誘導体の酸加水分解による方法等、公知の方法を適宜用いることができる。
【化10】

(cHexはシクロヘキシル基、Etはエチル基、Meはメチル基を表す。)
【0010】
次に、上記工程[2]において、一般式(2)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩を無機酸により塩交換を行うことで、一般式(3)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を得ることができる。
上記β−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩としては、一般式(2)で表される構造を有するものであれば特に限定されないが、下記式(17)又は(18)で表される構造であることが抗エイズ薬中間体として用いたときに優れた薬効を示す点で好ましい。
【化11】

(HOTsはp−トルエンスルホン酸、Etはエチル基、Meはメチル基を表す。)
また、上記工程[2]により得られる上記β−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩としては、例えば、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル塩酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル塩酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル臭化水素酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル臭化水素酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル硫酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル硫酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル硝酸塩、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル硝酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
上記工程[2]における塩交換を行うに当たっては、例えば、β−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩にジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルなどのエーテル類、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素などの有機溶媒と水を加え、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基を添加した後、分液、抽出を行い、これに塩化水素、臭化水素などの無機酸を添加して析出した結晶をろ過することでβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を得ることができる。
【0012】
上記工程[3]においては、β−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を、不斉触媒を用いて不斉還元するのであるが、不斉触媒がルテニウム−光学活性ホスフィン錯体触媒、さらには上記一般式(7)、(11)及び(12)で示される化合物であることが好ましい。かかる不斉触媒(A)のうち、上記一般式(7)はOrg.Synth.,Col.Vol.IX,589(1989)やTetrahedron:Asymmetry ,555(1991)などに開示される方法により調製でき、一般式(11)はJ.Chem.Soc.,Chem.Commun.,922(1985)などに開示されている方法により調製でき、一般式(12)はJ.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1208(1989)などに開示されている方法により調製できる。
【0013】
上記の不斉触媒としては特に限定されないが、例えば、一般式(7)で示される化合物として、
[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)n、[RuCl2(C4−TunePhos)](dmf)n、[RuCl2{(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}](dmf)n、[RuCl2{(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}](dmf)n(nは0〜3の整数を示す。)
一般式(11)で示される化合物として、
[Ru2Cl4{(R)−C3−TunePhos}2]Et3N、[Ru2Cl4{(R)−C4−TunePhos}2]Et3N、[Ru2Cl4{(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}2]Et3N、Ru2Cl4{(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}2]Et3
一般式(12)で示される化合物として、
[RuCl(benzene){(R)−C3−TunePhos}]Cl、[RuBr(benzene){(R)−C3−TunePhos}]Br、[RuI(benzene){(R)−C3−TunePhos}]I、[RuCl(benzene){(R)−C3−TunePhos}]BF4、[RuCl(p−cymene){(R)−C3−TunePhos}]Cl、[RuCl(benzene){(R)−C4−TunePhos}]Cl、[RuBr(benzene){(R)−C4−TunePhos}]Br、[RuI(benzene){(R)−C4−TunePhos}]I、[RuCl(benzene){(R)−C4−TunePhos}]BF4、[RuCl(p−cymene){(R)−C4−TunePhos}]Cl、[RuCl(benzene){(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}]Cl、[RuBr(benzene){(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}]Br、[RuI(benzene){(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}]I、[RuCl(benzene){(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}]BF4、[RuCl(p−cymene){(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos}]Cl、[RuCl(benzene){(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}]Cl、[RuBr(benzene){(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}]Br、[RuI(benzene){(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}]I、[RuCl(benzene){(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}]BF4、[RuCl(p−cymene){(R,R,R,R)−Me−KetalPhos}]Cl、
等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
上記のβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を、上記のルテニウム−光学活性ホスフィン錯体を用いて不斉還元するにあたっては、オートクレーブに原料であるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩と等量〜150倍量(重量基準)、好ましくは5〜100倍量(重量基準)の溶媒(メタノール、エタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒など)を仕込み、そこに上記の不斉触媒をかかるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩1モルに対し0.000001〜0.01モル、好ましくは0.00001〜0.01モル加えて反応を開始すればよい。
上記溶媒の量が等量未満では反応が進行しにくく、150倍量を超えると収率が低下し好ましくなく、また、ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体の量がβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩1モルに対し0.000001未満では反応率及び光学収率の低下が見られ、逆に0.01モルを超えてもそれ以上の効果が見られず、不経済である。
【0015】
更に、かかる反応においては、水素圧は3MPa以下、更には0.1〜3MPa、特には0.1〜2MPaが好ましい。水素圧が0.1MPa未満では反応の進行が遅くなる傾向があり、3MPaを超えると選択性(ジアステレオマー過剰率)が低下するおそれがある。
【0016】
反応時の温度は20〜150℃であることが好ましく、さらに好ましくは20〜100℃である。温度が20℃未満では反応の進行が遅くなり、150℃を超えると触媒の失活が起こり好ましくない。
【0017】
また、反応時間は3〜150時間であることが好ましく、さらに好ましくは3〜120時間である。かかる反応時間が3時間未満では反応が完結しにくく、150時間を超えると収率の低下が起こり好ましくない。
【0018】
なお、上記において、かかるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩とルテニウム−光学活性ホスフィン錯体触媒と溶媒の仕込み方については、特に限定されないが、例えば、かかるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩と溶媒を仕込んだ後、ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体触媒または、溶媒にルテニウム−光学活性ホスフィン錯体触媒を溶かした触媒溶液を加える方法、あらかじめβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩とルテニウム−光学活性ホスフィン錯体触媒と溶媒を混合した溶液を仕込む方法などが挙げられる。
【0019】
このようにして得られた光学活性(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体は、必要に応じて濃縮、蒸留、再結晶、抽出等の常套手段で適宜精製される。
【0020】
かくして上記一般式(4)で表される目的とする光学活性(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体が得られるのである。
【0021】
また、上記工程[3]において、一般式(3)で表されるβ−ケトアミノ酸無機酸塩の代わりに、一般式(2)で表されるβ−ケトアミノ酸有機酸塩を用いて不斉還元することも可能であるが、この場合、反応の選択性が低下し、得られる(2R,3R)−3−置換セリン誘導体有機酸塩は、光学純度が低くなるため、高い光学純度の(2R,3R)−3−置換セリン誘導体を得るためには、更に再結晶等の精製に多大な労力を要し、大幅な得率の低下を伴うため好ましくない。
【0022】
また、本発明においては、必要に応じて、更に下記工程[4]を行うのであるが、これにより抗エイズ薬などの医薬品の中間体として有用な化合物へと誘導できる。
[4]一般式(4)で表されるセリン誘導体を加水分解した後、t−ブトキシカルボニル化して光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を得る工程。
【化12】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX2は、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸の無機酸を示し、Bocはt−ブトキシカルボニル基を示す。)
【0023】
一般式(4)で表される光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体から一般式(6)で表される光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体へ誘導するにあたっては、一般式(4)で表される光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を塩酸等の酸又は水酸化ナトリウム等の塩基を用いて加水分解を行い、一般式(5)で表される光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリンにした後、必要に応じてイオン交換樹脂等を用いて精製した後、ジ−t−ブチルジカーボネートを塩基存在下、反応させることにより一般式(6)で表される光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を得ることができる。
【0024】
かくして本発明の製造方法においては、上記工程[1]〜[3]を行うことにより、必要に応じて、更には工程[4]を行うことにより、光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を高選択性、かつ高収率で得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。「%」は重量基準である。
尚、収率、光学純度、およびジアステレオマー過剰率は液体クロマトグラフィー分析により求めた。
【0026】
参考例1
〔[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)nの合成〕
窒素雰囲気下、シュレンク管に(R)−C3−TunePhos325.9mg(0.548mmol)と[RuCl2(benzene)]2130.5mg(0.261mmol)を取り、これにジメチルホルムアミドを9ml添加し、100℃で10分間加熱攪拌した。生成した赤褐色の溶液を50℃まで冷却し、減圧下において濃縮乾固し、赤褐色固体として[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)nを得た。得られた[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)nはnが0〜3の混合物であった。
【0027】
実施例1
〔5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステルの製造〕
3Lの反応器にTHF1.3Lとt−カリウムブトキシド99.6g(0.89mol)を仕込み、0℃まで冷却しエチルイソシアノ酢酸103.0g(0.89mol)を滴下し、続いてシクロヘキサンカルボン酸クロライド130.0g(0.89mol)を滴下した。その後、5℃で1時間撹拌し、加水、酢酸エチルで抽出を行い、有機層を洗浄後、減圧下溶媒を留去し、粗5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステル193.9gで得た。これを減圧蒸留により精製することにより、精5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステルが178.1g得られた。収率は、90%であった。
【0028】
得られた精5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステルについて、マススペクトル、1H−NMR、13C−NMRを測定したところで、以下の通りであった。
MS(m/z):223(M+)
1H−NMR(300MHz,CDCl3,δ)(図1参照);1.20−1.92(m,10H),1.41(t,3H),3.43−3.52(m,1H),7.78(s,1H)
13C−NMR(300MHz,CDCl3,δ)(図2参照);14.5,25.9,26.2,30.8,35.7,61.1,125.6,148.8,162.4,164.1
【0029】
〔工程[1]:2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩の製造〕
3Lの反応器に5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステル158.0g(0.71mol)をエタノール1.5Lに溶解させ、p−トルエンスルホン酸一水和物269.0g(1.42mol)を添加した。その後、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、0℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、洗浄することにより、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩が214.3g得られた。収率は80%であった。
【0030】
得られた2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩について、マススペクトル、1H−NMR、13C−NMRを測定したところで、以下の通りであった。
1H−NMR(300MHz,CD3OD,δ)(図3参照);1.21−1.55(m,5H),1.36(t,3H),1.73−1.81(m,5H),2.03−2.08(m,1H),2.37(s,3H),2.95−3.03(q,2H),7.23(d,2H),7.70(d,2H)
13C−NMR(300MHz,CD3OD,δ)(図4参照);14.3,21.3,26.1,26.8,28.7,30.2,49.5,61.4,64.8,127.0,129.9,141.7,143.5,164.8,202.6
【0031】
〔工程[2]:2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル塩酸塩の製造〕
3Lの反応器に2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩200.0g(0.52mol)にt−ブチルメチルエーテル500mlと水500mlを加え、0℃へ冷却後、30%水酸化ナトリウム水溶液138.0gを添加し、そのまま30分攪拌した。その後反応液を分液し、水層をt−ブチルメチルエーテルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層を0℃に冷却後、塩酸ガス40gを吹込み、1時間攪拌した。析出した結晶をろ過、洗浄することにより、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル塩酸塩が110.1g得られた。収率は85%であった。
【0032】
〔工程[3]光学活性な(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンエチルエステル塩酸塩の製造〕
1000mlオートクレーブに2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル塩酸塩25g(100mmol)を仕込み、窒素置換した後、ジクロロメタン400mlを加えた。参考例1により調製した[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)n92mgをジクロロメタン5mlに溶かした触媒溶液を加え、100℃、水素圧1MPaで48時間反応させた。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンエチルエステル塩酸塩が25.2g得られた。収率100%、光学純度99.5%ee、ジアステレオマー過剰率98%deであった。
収率、及びジアステレオマー過剰率については、HPLCにて分析して決定した。また光学純度については、得られた結晶の一部をN−ベンゾイル化した後、HPLC(ダイセル製:CHIRACEL OD−H)により分析して決定した。
【0033】
〔工程[4]光学活性な(2R,3R)−N−t−ブトキシカルボニル−3−シクロヘキシル−D−セリンの製造〕
3Lの反応器に(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンエチルエステル塩酸塩25.2g(0.10mol)、6Nの塩酸1.5Lを仕込み、100℃で24時間加熱した後、反応液を減圧下濃縮し、イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1B)を用いてフリー化し(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンを得た。これにジオキサン125ml、水125ml、及び30%水酸化ナトリウム水溶液55gを加え、0℃に冷却し、ジ−t−ブチルジカーボネート48.0g(0.22mol)をジオキサン25mlに溶かした溶液を滴下した。室温で4時間攪拌後、酢酸エチルを加え、20%クエン酸水溶液で水層をpH=3に調製し、分液、抽出を行い、有機層を洗浄し、減圧下で濃縮することにより、(2R,3R)−N−t−ブトキシカルボニル−3−シクロヘキシル−D−セリンが25.9g得られた。収率は90%であった。これをヘキサン−酢酸エチルより再結晶を行うことにより、精(2R,3R)−N−t−ブトキシカルボニル−3−シクロヘキシル−D−セリンが23.3g得られた。再結晶による得率90%で、得られた結晶の光学純度は100%ee、ジアステレオマー過剰率は100%deであった。
【0034】
実施例2
〔5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸メチルエステルの製造〕
3Lの反応器にTHF1.3Lとt−カリウムブトキシド99.6g(0.89mol)を仕込み、0℃まで冷却し、メチルイソシアノ酢酸87.9g(0.89mol)を滴下し、続いてシクロヘキサンカルボン酸クロライド130.0g(0.89mol)を滴下した。その後、5℃で1時間撹拌した後、水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機層を洗浄後、減圧下溶媒を留去し、粗5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸メチルエステル170.8gで得た。これを減圧蒸留により精製することにより、精5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸メチルエステルが163.4g得られた。収率は、88%であった。
【0035】
得られた精5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸メチルエステルについて、マススペクトル、1H−NMR、13C−NMRを測定したところで、以下の通りであった。
MS(m/z):209(M+)
1H−NMR(300MHz,CDCl3,δ);1.18−1.90(m,10H),3.37−3.48(m,1H),3.90(s,3H),7.82(s,1H)
13C−NMR(300MHz,CDCl3,δ);25.8,26.1,30.8,35.6,51.1,124.5,148.6,162.4,163.9
【0036】
〔工程[1]:2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチルp−トルエンスルホン酸塩の製造〕
3Lの反応器に5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸メチルエステル148.2g(0.71mol)をメタノール1.5Lに溶解させ、p−トルエンスルホン酸一水和物269.0g(1.42mol)を添加した。その後、60℃で24時間撹拌した。反応終了後、0℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、洗浄することにより、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチルp−トルエンスルホン酸塩が194.6が得られた。収率は74%であった。
【0037】
得られた2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチルp−トルエンスルホン酸塩について、1H−NMR、13C−NMRを測定したところで、以下の通りであった。
1H−NMR(300MHz,CD3OD,δ);1.20−1.53(m,5H),1.73−1.81(m,5H),2.02−2.09(m,1H),2.36(s,3H),3.71(s,3H),7.23(d,2H),7.70(d,2H)
13C−NMR(300MHz,CD3OD,δ);21.2,25.9,26.7,28.8,30.2,49.5,54.2,61.3,127.0,129.9,141.7,143.5,164.6,202.6
【0038】
〔工程[2]:2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル塩酸塩の製造〕
3Lの反応器に2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチルp−トルエンスルホン酸塩193.2g(0.52mol)にt−ブチルメチルエーテル500mlと水500mlを加え、0℃へ冷却後、30%水酸化ナトリウム水溶液138.0gを添加し、そのまま30分攪拌した。その後分液し、反応液を水層をt−ブチルメチルエーテルで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機層を0℃に冷却後、塩酸ガス40g吹込み、1時間攪拌した。析出した結晶をろ過、洗浄することにより、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル塩酸塩が99.3g得られた。収率は81%であった。
【0039】
〔工程[3]光学活性な(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンメチルエステル塩酸塩の製造〕
1000mlオートクレーブに2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸メチル塩酸塩23.6g(100mmol)を仕込み、窒素置換した後、ジクロロメタン400mlを加えた。参考例1により調製した[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)n92mgをジクロロメタン5mlに溶かした触媒溶液を加え、100℃、水素圧1MPaで48時間反応させた。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンエチルエステル塩酸塩が23.5g得られた。収率99%、光学純度98%ee、ジアステレオマー過剰率97%deであった。
【0040】
〔工程[4]光学活性な(2R,3R)−N−t−ブトキシカルボニル−3−シクロヘキシル−D−セリンの製造〕
3Lの反応器に(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンメチルエステル塩酸塩23.7g(0.10mol)、6Nの塩酸1.5Lを仕込み、100℃で24時間加熱した後、反応液を減圧下濃縮し、イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1B)を用いてフリー化し(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンを得た。これにジオキサン125ml、水125ml、及び30%水酸化ナトリウム水溶液55gを加え、0℃に冷却し、ジ−t−ブチルジカーボネート48.0g(0.22mol)をジオキサン25mlに溶かした溶液を滴下した。室温で4時間攪拌後、酢酸エチルを加え、20%クエン酸水溶液で水層をpH=3に調製し、分液、抽出を行い、有機層を洗浄し、減圧下濃縮することにより、(2R,3R)−N−t−ブトキシカルボニル−3−シクロヘキシル−D−セリンが25.9g得られた。収率は90%であった。これをヘキサン−酢酸エチルより再結晶を行うことにより、精(2R,3R)−N−t−ブトキシカルボニル−3−シクロヘキシル−D−セリンが23.3g得られた。再結晶による得率90%で、得られた結晶の光学純度は100%ee、ジアステレオマー過剰率は100%deであった。
【0041】
比較例1
〔2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル塩酸塩の製造〕
1Lのフラスコに5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステル50.0g(0.22mol)をエタノール500mlに溶解させ、濃塩酸45.0gを添加した。その後、60℃で10時間撹拌した。反応終了後、0℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、洗浄することにより、2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチル塩酸塩が14.6g得られた。収率は45%であった。
【0042】
比較例2
〔光学活性な(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンエチルエステルp−トルエンスルホン酸塩の製造〕
1000mlオートクレーブに2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩38.5g(100mmol)を仕込み、窒素置換した後、ジクロロメタン400mlを加えた。参考例1により調製した[RuCl2{(R)−C3−TunePhos}](dmf)n92mgをジクロロメタン5mlに溶かした触媒溶液を加え、100℃、水素圧1MPaで48時間反応させた。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、(2R,3R)−3−シクロヘキシル−D−セリンエチルエステルp−トルエンスルホン酸塩が得られた。これを分析したところ、収率98%、光学純度50%ee、ジアステレオマー過剰率85%deであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、光学活性な(2R,3R)-3-置換-D-セリン誘導体を光学的に高選択性でかつ高収率で得ることができる製造方法に関するものであり、医農薬中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1で得られた5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステルの1H−NMRチャートである。
【図2】実施例1で得られた5−シクロヘキシル−4−オキサゾールカルボン酸エチルエステルの13C−NMRチャートである。
【図3】実施例1で得られた2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩の1H−NMRチャートである。
【図4】実施例1で得られた2−アミノ−3−シクロヘキシル−3−オキソプロピオン酸エチルp−トルエンスルホン酸塩の13C−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程[1]〜[3]を順に行うことを特徴とする光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
[1]一般式(1)で表されるオキサゾール化合物を有機酸で開環し、一般式(2)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩を得る工程。
【化1】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX1は、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、蓚酸の有機酸を示す。)
[2]一般式(2)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩を無機酸により塩交換を行い、一般式(3)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を得る工程。
【化2】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX1は、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、蓚酸の有機酸を示し、HX2は、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸の無機酸を示す。)
[3]一般式(3)で表されるβ−ケトアミノ酸誘導体無機酸塩を不斉触媒(A)を用いて一般式(4)で表される光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を得る工程。
【化3】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX2は、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸の無機酸を示す。)
【請求項2】
工程[3]の次に、下記工程[4]を行うことを特徴とする請求項1記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
[4]一般式(4)で表されるセリン誘導体を加水分解した後、t−ブトキシカルボニル化して光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体を得る工程。
【化4】

(式中、R1は置換基を有していても良い炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していても良い炭素数2〜8のアルケニル基またはアルキニル基、置換基を有していても良い炭素数3〜15の単環、二環または三環式炭素環、置換基を有していても良い酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択される1〜5個のヘテロ原子を含む単環、二環、または三環式複素環のいずれかを示し、R2はメチル基又はエチル基を示し、HX2は、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸の無機酸を示し、Bocはt−ブトキシカルボニル基を示す。)
【請求項3】
不斉触媒(A)がルテニウム−光学活性ホスフィン錯体であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
【請求項4】
上記工程[3]を0.1〜3MPaの水素圧で行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
【請求項5】
ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体が次の一般式(7)であることを特徴とする請求項3又は4いずれか記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
[化5]
[RuX2(L)](dmf)n (7)
(Xは塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を示し、nは0〜3の整数であり、Lは下記一般式(8)で示される(R)−Cm−TunePhos、(9)で示される(S,S,S,S)−Me−f−KetalPhos(1,1'−ビス−[(2S,3S,4S,5S)−2,5−ジメチル−3,4−O−イソプロピリデン−3,4−ジヒドロキシホスホラニル]フェロセン)又は(10)で示される(R,R,R,R)−Me−Ketalphos(1,2−ビス[(2S,3S,4S,5S)−2,5−ジメチル−3,4−O−イソプロピリデン−3,4−ジヒドロキシホスホラニル]ベンゼン)である光学活性ホスフィン配位子を示し、dmfはジメチルホルムアミドを示す。)
【化6】

(mは1〜6の整数であり、m=1のとき[(11aR)−ジベンゾ[d,f][1,3]ジオキセピン−1,11−ジイル]ビス(ジフェニル)ホスフィンを示し、m=2のとき[(12aR)−6,7−ジヒドロジベンゾ[e,g][1,4]ジオキセシン−1,12−ジイル]ビス(ジフェニル)ホスフィンを示し、m=3のとき[(13aR)−7,8−ジヒドロ−6H−ジベンゾ[f,h][1,5]ジオキソニン−1,13−ジイル]ビス(ジフェニル)ホスフィンを示し、m=4のとき[(14aR)−6,7,8,9−テトラヒドロジベンゾ[b,d][1,6]ジオキセシン−1,14−ジイル)ビス(ジフェニル)ホスフィンを示し、m=5のとき[(15aR)−7,8,9,10−テトラヒドロ−6H−ジベンゾ[b,f][1,6]ジオキサシクロウンデシン−1,15−ジイル]ビス(ジフェニル)ホスフィンを示し、m=6のとき[(16aR)−6,7,8,9,10,11−ヘキサヒドロジベンゾ[b,d][1,6]ジオキサシクロデカシン−1,16−ジイル]ビス(ジフェニル)ホスフィンを示す。)
【化7】

【化8】

【請求項6】
ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体が次の一般式(11)であることを特徴とする請求項3又は4いずれか記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
[化9]
[Ru2Cl4(L)2]Et3N (11)
(Lは上記の定義と同義であり、Etはエチル基を示す。)
【請求項7】
ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体が次の一般式(12)であることを特徴とする請求項3又は4いずれか記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
[化10]
[RuX(arene)(L)]Y (12)
(X、及びLは上記の定義と同様であり、areneはベンゼン、またはp−シメンを示し、Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、BF4、またはBPh4を示す。)
【請求項8】
一般式(1)及び(2)において、R1がシクロヘキシル基であり、R2がメチル基又はエチル基であり、HX1がp−トルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の光学活性な(2R,3R)−3−置換−D−セリン誘導体の製造方法。
【請求項9】
下記式(13)で示される新規なオキサゾール化合物。

(R1はシクロヘキシル基であり、R2はメチル基又はエチル基である。)
【請求項10】
下記式(14)で示される新規なβ−ケトアミノ酸誘導体有機酸塩。

(R1がシクロヘキシル基であり、R2がメチル基又はエチル基であり、HX1がp−トルエンスルホン酸である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−182681(P2006−182681A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376579(P2004−376579)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】