説明

光学用フィルム

【課題】 本発明の目的は、経済性の面で有利な非晶性ポリオレフィン、すなわち環状オレフィンとエチレンの共重合体を用いて、位相差フィルムや光学等方性フィルムなどの光学用フィルムを提供することにある。
【解決手段】 i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が100℃から180℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が0.2≦[メソ型]/[ラセモ型] ≦4の範囲にある、非晶性ポリオレフィンからなる光学用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明な光学用フィルムに関するものであり、さらに詳しくはエチレン単位とノルボルネン単位からなる非晶性ポリオレフィンを用いた液晶表示装置用の位相差フィルムや光学等方性フィルム等の光学用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年液晶表示装置の進歩は著しく、携帯電話、パソコンモニターといった小型、中型のものだけでなく、テレビ用の大型のものまで広く用いられようとしている。
液晶表示装置には様々な高分子フィルムが用いられており、例えば液晶の色補償、視野角の拡大、コントラストの向上といった表示品位の改善のために用いられる位相差フィルム、偏光板、その保護フィルム、基板等である。その高分子素材としてはこれまでポリカーボネート、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース(以下、TAC)、ポリエーテルスルホン等がよく使われてきた。例えば位相差フィルムには、これまでポリカーボネート等がよく使われてきた。かかる位相差フィルムに関して、最近非晶性ポリオレフィンと呼ばれる樹脂が注目を浴びている。非晶性ポリオレフィンとは、脂環族構造を入れて耐熱性を高め非晶性にしたポリオレフィンであり、透明性が高くまた吸水率が低いため寸法安定性に優れるという特徴がある。さらに芳香族成分を含まないため光弾性定数が極めて低いという特徴があり、テレビ用など液晶表示装置の大型化に伴いその優れた物性が次第に注目されるようになってきているのが現状である。
【0003】
かかる非晶性ポリオレフィンは、構造上大きく2つに分類することが出来る。一つは環状オレフィンを開環重合した後、生成した主鎖の二重結合を水素添加することにより得られるもので、日本ゼオン(株)製の商品名「ZEONEX」、「ZEONOR」、JSR(株)製の商品名「ARTON」等の樹脂がすでに上市されている。もう一つは環状オレフィンをエチレンとビニル型共重合させて得られるものであり、商業化されているものとして三井化学(株)製の商品名「APEL」、TICONA社製の商品名「TOPAS」等がある。このうち前者の開環重合して水添するタイプのものについては、これまで光弾性定数は低いもののフィルムを延伸配向させると容易に複屈折が発現するという光学特性や製造方法、液晶表示装置への組み込み等、位相差フィルムとしての検討が数多くなされている(例えば特許文献1〜6参照)。
【0004】
一方、後者の環状オレフィンとエチレンの共重合体は前者のものと比べ重合1段階で製造可能であり、経済性の面で優位性があるもののこれまでフィルムの光学特性はほとんど検討されてこなかった。前述の、開環重合して水添するタイプの樹脂を用いた報告例の中では望ましい樹脂として熱可塑性ポリオレフィン、環状ポリオレフィン等の総称で後者のビニル型共重合体の樹脂も併記されていることが多いが、具体的に検討した事例はほとんど見られない。これまでエチレンとテトラシクロドデセンとの共重合体からなるシートを延伸して複屈折を与え位相差フィルムとした例が一例報告されている程度であり(特許文献7参照)、さらに詳しくどのような構造だと複屈折が生じやすいか、あるいは生じにくいか等は知られていなかった。例えば非晶性ポリオレフィンを位相差フィルムとして用いる場合は、製膜性や透明性の他に複屈折の発現性、すなわち複屈折が出やすいことが重要な特性となる。何故なら非晶性ポリオレフィンは総じて光弾性定数が極めて低く、ポリカーボネートやポリスルホンといった芳香族系ポリマーと比べて複屈折が発現しにくいという本質的な特性があるためである。従ってフィルムを延伸しても複屈折が発現しにくい樹脂の場合、所望の位相差値を有する位相差フィルムを得るには膜厚をかなり厚くしなければならなくなり、薄さ、軽さが求められている液晶表示装置の部材としては相応しくなくなってしまう。一方、偏光板の保護フィルムや基板には、位相差フィルムと異なり三次元的に光学等方性の高いフィルムが求められている。例えば現在偏光板の保護フィルムとしてTACフィルムが用いられているが、該フィルムは面内の位相差は抑えられているものの、厚み方向の位相差が高いことが知られている。これらの用途には、光弾性定数が低いことに加え出来る限り複屈折が生じにくい樹脂が求められているのが現状である。
【0005】
ところで、エチレンと環状オレフィンのビニル型共重合体を得るには、いくつかの方法が知られているがバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物との組み合わせに代表されるチーグラー・ナッタ触媒を使って重合する、あるいはチタン、ジルコニウム等の金属錯体であるメタロセンとMAO(メチルアルミノキサン)等の助触媒からなるメタロセン触媒を使って重合する方法が実用的である。このうちチーグラー・ナッタ触媒はその重合機構上組成や立体構造の制御は困難であり、従ってランダム共重合で立体規則性に乏しいアタクチックなポリマーを与えることで知られている。一方、メタロセン触媒は活性点が均一であり様々な制御が可能となる。例えばメタロセンの配位子の違いによって、得られる共重合体の立体規則性が違ってくることが確かめられている(非特許文献1参照)。またその違いが共重合体の力学特性や溶融特性に影響を与えることが報告されているが(特許文献8〜10参照)、光学的性質の違いについてはこれまで検討されていなかった。
【0006】
また光学用フィルムの製膜方法としては、溶液キャスト法、溶融押し出し法、熱プレス法、カレンダー法等いくつかあるが、近年製造コスト面、また環境面から溶融押し出し法が求められている。かかる溶融押し出し法においては、できるだけ溶融粘度の低い樹脂を用いることが、光学フィルムに求められる均質性の高いフィルムを製造するのに好ましい。非晶性ポリオレフィンはその構造上一般にポリカーボネート等の芳香族系ポリマーに比べて熱劣化、ゲル化を起こしやすく、溶融粘度が高く製膜時の押し出し温度を高くする必要がある場合には、膜厚斑、ダイ筋、ゲル化の懸念があるためである。
【0007】
【特許文献1】特開平4−245202号公報
【特許文献2】特許第3273046号公報
【特許文献3】特開平6−59121号公報
【特許文献4】特開平8−43812号公報
【特許文献5】特許第3470567号公報
【特許文献6】特開2003−306557号公報
【特許文献7】特許第3497894号公報
【特許文献8】特表平8−507800号公報
【特許文献9】特表平8−507801号公報
【特許文献10】特開平7−2953号公報
【非特許文献1】Macromol.Rapid Commun.20,279(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような状況を顧みてなされたものであり、経済性の面で有利な後者のタイプの非晶性ポリオレフィン、すなわち環状オレフィンとエチレンの共重合体を用いて、位相差フィルムや光学等方性フィルムなどの光学用フィルムを好ましくは溶融押し出し法により提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エチレン−環状オレフィン共重合体の構造とフィルム物性、特に複屈折の発現性、溶融粘度、製膜性、フィルムの力学物性などを総合的に検討した。その結果、環状オレフィンの分子構造、組成に加えて立体規則性がある範囲にあるエチレン−環状オレフィン共重合体が、光学特性と製膜性、フィルムの力学物性等とのバランスが良く、溶融製膜性に優れた光学フィルムを与えること、また該共重合体は、立体規則性が互いに異なる2種類の共重合体からなる樹脂組成物として得られることを見出し本発明に到達するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の通りのものである。
[1]エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が100℃から180℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が0.2≦[メソ型]/[ラセモ型] ≦4の範囲にある、非晶性ポリオレフィンからなる光学用フィルム。
[2]非晶性ポリオレフィンが、下記(X)および(Y)を含む樹脂組成物であり、かつ(X)/(Y)=99/1〜1/99(重量比)であることを特徴とする上記の光学用フィルム。
(X)i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が60℃から200℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が[メソ型]/[ラセモ型]>4である非晶性ポリオレフィン
(Y)i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が60℃から200℃の範囲にあって、iii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が[メソ型]/[ラセモ型]<0.2である非晶性ポリオレフィン
[3]溶融押し出し法により得られる上記の光学用フィルム。
[4]位相差フィルムとして用いられ、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)が下記式(1)
100nm<R(550)<800nm ・・・(1)
の範囲にあり、かつ厚みが30〜200μmである上記の光学用フィルム。
[5]位相差フィルムとして用いられ、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)および厚み方向の位相差K(550)が下記式(2)かつ(3)
0nm<R(550)<100nm ・・・(2)
50nm<K(550)<400nm ・・・(3)
(式中、K(550)は波長550nmにおける厚み方向の位相差値であり、下記式(4)
K={(n+n)/2−n}×d ・・・(4)
によって定義されるものであり、ここで、n、nはフィルム面内のx軸、y軸の、nはx軸およびy軸に垂直な厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。)
の範囲にあり、かつ厚さが30〜200μmである上記の光学用フィルム。
[6]i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が100℃から180℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が0.2≦[メソ型]/[ラセモ型] ≦4である、非晶性ポリオレフィンを位相差フィルムとして使用する方法。
[7]波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)、および厚み方向の位相差K(550)の絶対値がともに20nm以下であり、かつ厚みが10〜300μmである上記の光学用フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレン−環状オレフィン共重合体を用いて光学特性と製膜性、フィルムの力学物性等とのバランスが良く、溶融製膜性に優れた光学用フィルムが得られ、位相差フィルムや光学等方性フィルム等に有用に用いられる。
【0012】
かかる位相差フィルムは耐湿性が高く寸法安定性も良好であり、公知の方法にて液晶表示装置に組み込まれ、視野角改善、コントラストの改善、色補償など液晶の表示品位の改善に効果的に用いられる。また光学等方性フィルムは耐湿性が高く寸法安定性も良好であり、また光弾性定数も低く、偏光板の保護フィルム、基板等として公知の方法にて液晶表示装置に組み込まれ、有用に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
本発明で用いる非晶性ポリオレフィンとは、エチレンとノルボルネンとがビニル型重合した共重合体であり、下記式(A)および(B)で表されるエチレン繰り返し単位(A)およびノルボルネン繰り返し単位(B)から構成される。
【化1】

【0014】
さらに本発明ではかかる共重合体のガラス転移温度(Tg)が100℃から180℃の範囲である。Tgが100℃より低いと耐熱安定性に乏しく。一方でTgが180℃より高いとフィルムの靭性の低下する傾向にあり、また共重合体の溶融粘度が高くなりすぎてフィルムの溶融製膜が困難になるため好ましくない。本発明に用いる共重合体では繰り返し単位(A)、(B)の組成とガラス転移温度がほぼ相関しており、そのモル比が(A)/(B)=61/39〜40/60の範囲にあることが好ましい。より好ましいガラス転移温度の範囲は120℃から160℃の範囲であり、モル比(A)/(B)=57/43〜46/54の範囲である。かかる組成は13C−NMR測定により求めることが出来る。また本発明では上記繰り返し単位(A)、(B)以外にも本発明の目的を損なわない範囲で他の共重合可能なビニルモノマーからなる繰り返し単位を少量含有していてもよい。かかる他のビニルモノマーとして具体的には、下記構造式(C)で表される環状オレフィン、
【化2】

[式(c)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、pは0または1であり、R〜R20は同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜12の飽和あるいは不飽和脂肪族炭化水素基であり、また、R17とR18とで、あるいはR19とR20とでアルキリデン基を形成していてもよく、また、R17またはR18と、R19またはR20とが環を形成していてもよく、かつ該環が二重結合を有していてもよい。]
プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン等の炭素数3〜18のα−オレフィン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3−メチルシクロヘキセン、シクロオクテン等のシクロオレフィン等を挙げることが出来る。この中で炭素数3〜18のα−オレフィンは共重合の際の分子量調節剤として用いることが出来、中でも1−ヘキセンが好適に用いられる。かかるその他のビニルモノマーは単独であるいは2種類以上組み合わせて用いてもよく、またその繰り返し単位が全体の10モル%以下が好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
【0015】
本発明で用いるエチレン−ノルボルネン共重合体の分子量は、温度30℃、濃度1.2g/dLのシクロヘキサン溶液にて測定した還元粘度ηsp/cで、0.1〜10dL/gの範囲内であり、0.3〜3dL/gであることがより好ましい。還元粘度ηsp/cが0.1より小さいとフィルムが脆くなり好ましくなく、10より大きいと溶融粘度が高くなりすぎてフィルムの溶融製膜が困難となる。
【0016】
一般にエチレン−ノルボルネン共重合体は、重合方法、用いる触媒、組成等によるが、いずれの場合においてもノルボルネン単位の連鎖部位がある程度存在している。ビニル重合タイプのノルボルネン単位の2連鎖部位(以下、NNダイアド)における立体規則性については下記式(D)のメソ型と(E)のラセモ型の2通りの立体異性体があることが知られている。
【化3】

【0017】
本発明の共重合体ではかかる立体規則性に関して、メソ型とラセモ型の存在比率が0.2≦[メソ型]/[ラセモ型] ≦4の範囲にあることを特徴とする。メソ型の比率が多いほど複屈折が発現しやすい樹脂となり、またフィルムの靭性が高くなる反面、ラセモ型が多いほうが溶融粘度は低下し流動性の高い樹脂となる。この存在比率は用途、製法に応じて適時最適なものを選択すれば良い。位相差フィルム用途としては、より好ましくは0.8≦[メソ型]/[ラセモ型] ≦4である。なおここでいうNNダイアド立体異性体の存在比率は、エチレン−ノルボルネン共重合体の立体規則性を解析した報告(前述の非特許文献1参照)から13C−NMRで求めることが可能であり、本発明では重オルトジクロロベンゼン溶媒で測定した13C−NMRにおいて、[メソ型]/[ラセモ型]=[13C−NMRスペクトルの28.3ppmのピーク面積]/[13C−NMRスペクトルの29.7ppmのピーク面積]で計算したものを指す。
【0018】
また13C−NMRによる解析では、全ノルボルネン成分量に対するNNダイアドの存在比率(モル分率)、すなわちノルボルネン成分がどのくらい連鎖構造を形成しているかを求めることも出来、本発明ではおよそ0.1〜0.6の範囲にある。ここでいうモル分率とは、[13C−NMRスペクトルの28.3ppmのピーク面積+13C−NMRスペクトルの29.7ppmのピーク面積]/[全ノルボルネン成分の炭素原子1個分のピーク面積]で計算されるものである。
【0019】
本発明に用いるエチレン−ノルボルネン共重合体の合成方法としては、ガラス転移温度およびNNダイアドの立体規則性が上記範囲を満足するものならば特に制限されず、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物との組み合わせに代表されるチーグラー・ナッタ触媒を使ってエチレンとノルボルネンを共重合する、あるいはチタン、ジルコニウム等の金属錯体であるメタロセンとMAO(メチルアルミノキサン)等の助触媒からなるメタロセン触媒を使って重合する方法を具体的に挙げることが出来る。中でもメタロセン触媒を用いる方法は均質性の高いポリマーを得ることが出来、またメタロセンの種類によって立体規則性を制御することが可能であり好ましい。
【0020】
メタロセン触媒により得られる本発明における共重合体として、異なるメタロセン触媒により得られる立体規則性の異なるエチレン−ノルボルネン共重合体(X)および(Y)をブレンドした樹脂組成物を用いることが、立体規則性の制御が容易でありかつ実用性が高く好ましい。
【0021】
(X)は、ガラス転移温度が60℃から200℃の範囲にあって、NNダイアドの立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が[メソ型]/[ラセモ型]>4であるエチレン−ノルボルネン共重合体である。該共重合体の重合の際に用いられるメタロセンとしては下記式(F)で表されるものが好ましい。
【化4】

【0022】
上記式(F)中、Mはチタン、ジルコニウムまたはハフニウムよりなる群より選ばれる金属であり、R24とR25は同一もしくは異なり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12の飽和あるいは不飽和炭化水素基、炭素数1〜12のアルコキシ基、または炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、R22とR23は同一もしくは異なっていて、中心金属Mと共にサンドイッチ構造を形成することのできる単環状あるいは多環状炭化水素基であり、R21はR22基とR23基を連結するブリッジであって、
【化5】

であり、このときR26〜R29は同一または異なっていて、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12の飽和あるいは不飽和炭化水素基、炭素数1〜12のアルコキシ基、または炭素数6〜12のアリールオキシ基であるか、あるいはR26とR27またはR28とR29とが環を形成していていもよい。
【0023】
配位子であるR22とR23が、同一の場合は中心金属Mに対してC対称性を有し、異なる場合にはC対称性を有するものが好ましい。R22とR23はシクロペンタジエニル基、インデニル基、そのアルキルまたはアリール置換体が好ましく、中心金属Mはジルコニウムであることが触媒活性の面で最も好ましい。R24及びR25は同一または異なっても良いが、炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子、特に塩素原子であることが好ましい。R26〜R29は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基が好ましく、R21としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの低級アルキレン基、イソプロピリデンなどのアルキリデン基、ジフェニルメチレンなどの置換アルキレン基、シリレン基またはジメチルシリレン、ジフェニルシリレンなどの置換シリレン基を好ましく例示することが出来る。
【0024】
好ましいメタロセンとして具体的には、イソプロピリデン−(シクロペンタジエニル)(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン−[(3−メチル)シクロペンタジエニル](1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン−(シクロペンタジエニル)(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシリレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド等を挙げることが出来る。これらは単独で用いても、また2種類以上組み合わせて用いても良い。またメタロセンの助触媒としては、有機アルミニウムオキシ化合物であるメチルアルミノキサン、あるいはイオン性ホウ素化合物とアルキルアルミニウム化合物の組み合わせ等、公知のものを用いることが出来る。
【0025】
一方、(Y)は、ガラス転移温度が60℃から200℃の範囲にあって、NNダイアドの立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が[メソ型]/[ラセモ型]<0.2であるエチレン−ノルボルネン共重合体である。該共重合体の重合の際に用いられるメタロセンは、前記式(F)において、配位子であるR22とR23が(X)の場合と異なり中心金属Mに対してCs対称性(ミラー対称性)を有するものが好ましい。R22とR23はシクロペンタジエニル基、フルオレニル基、そのアルキルまたはアリール置換体が好ましく、好ましいメタロセンとして具体的には、イソプロピリデン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシリレン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド等を挙げることが出来る。これらは単独で用いても、また2種類以上組み合わせて用いても良い。またメタロセンの助触媒としては、有機アルミニウムオキシ化合物であるメチルアルミノキサン、あるいはイオン性ホウ素化合物とアルキルアルミニウム化合物の組み合わせ等、公知のものを用いることが出来る。
【0026】
かかるメタロセン触媒を使用して、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒を用いた公知の重合方法により目的の共重合体を重合することが出来、得られた共重合体をアルコール等の貧溶媒に再沈して洗浄する、あるいは触媒を吸着剤に吸着させる、なんらかの添加剤を加えて凝集させ析出させる等により溶液から濾別した後、溶媒を留去することにより単離することが出来る。
【0027】
上記(X)および(Y)を構成するポリマーは、それぞれ共重合体1種類でも良いし、組成や分子量が異なる共重合体2種類以上をブレンドしたものであっても構わない。ブレンド体の場合には上記のガラス転移温度やNNダイアドの存在比率とは、ブレンド体全体でのことを示す。かかるブレンド体を用いる場合は、相溶性の観点から共重合組成が近いものを用いることが好ましい。組成があまり離れている場合はブレンドにより相分離を起こす可能性があり、製膜時または延伸配向時にフィルムが白化する恐れがある。また(X)および(Y)の分子量は、樹脂組成物としたときに前述した本発明の範囲内であればよく特に制限はないが、温度30℃、濃度1.2g/dLのシクロヘキサン溶液にて測定した還元粘度ηsp/cで、0.1〜10dL/gの範囲内であることが好ましい。
【0028】
本発明における非晶性ポリオレフィンは、かくして得られた共重合体(X)および(Y)から、(X)/(Y)=99/1〜1/99(重量比)の割合で配合された樹脂組成物を用いて形成されることが好ましい。(X)と(Y)の組成は、(X)と(Y)のガラス転移温度、分子量、NNダイアドの立体規則性により総合的に勘案して決められるが、フィルムが位相差フィルム用途の場合、より好ましくは(X)/(Y)=90/10〜40/60であり、光学用フィルムが光学等方性フィルム用途の場合は、より好ましくは(X)/(Y)=75/25〜10/90である。
【0029】
共重合体(X)および(Y)をブレンドにより配合して目的の樹脂組成物を作る方法は特に制限はなく、ルーダー内で溶融混練する、シクロヘキサン等の良溶媒に共に溶解させた後単離する等、公知の方法を用いることが出来る。本発明における(X)と(Y)はNNダイアドの立体規則性が全く異なるものの、相溶性が良好であり容易に透明な樹脂組成物を得ることが可能である。
【0030】
本発明における非晶性ポリオレフィン(以下、樹脂と呼ぶことがある)中には必要に応じて、「イルガノックス」1010、1076(チバガイギー製)等の公知の酸化防止剤、滑剤、可塑剤、界面活性化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0031】
本発明の光学用フィルムは、例えば溶液キャスト法、溶融押し出し法、熱プレス法、カレンダー法等公知の方法にて製造(製膜)することが出来る。なかでも溶融押し出し法が生産性、経済性の面、また溶媒フリーという環境面からも好ましい。溶融押し出し法では、Tダイを用いて樹脂を押し出し冷却ロールに送る方法が好ましく用いられる。押し出し時の樹脂温度としては、該樹脂の流動性、熱安定性等を勘案して決められるが、本発明に用いる非晶性ポリオレフィンでは220℃から300℃の範囲で行うことが好ましい。220℃未満では樹脂の溶融粘度が高くなりすぎ、また300℃を超えると樹脂の分解劣化、ゲル化によりフィルムの透明性、均質性が損なわれる懸念が生じる。より好ましくは220℃から290℃の範囲である。溶融押し出し時の樹脂の酸化劣化を抑制するため、酸化防止剤を添加しておくことが好ましい。
【0032】
また本発明における非晶性ポリオレフィンを溶液キャスト方法で製膜する場合は、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素系溶媒が好適に用いられる。
これらの方法による光学用フィルムの製膜においては出来るだけ厚みむらを小さくすることが好ましい。厚みむらは膜厚に対して±8%以下であることが好ましく、より好ましくは±5%以下、さらに好ましくは±2%以下である。フィルムの厚みは、10〜400μmの範囲であり、より好ましくは30〜300μmの範囲である。
【0033】
本発明の光学用フィルムは、位相差フィルムとして用いる場合には、かくして得られた未延伸のフィルムを延伸配向させることにより得ることが出来る。延伸方法は特に限定されずロール間で延伸する縦一軸延伸、テンターを用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時ニ軸延伸、逐次ニ軸延伸など公知の方法を用いることが出来る。また連続で行うことが生産性の点で好ましいが、バッチ式で行ってもよく特に制限はない。延伸温度はエチレン−ノルボルネン共重合体のガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg−20℃)〜(Tg+30℃)の範囲内であり、好ましくは(Tg−10℃)〜(Tg+20℃)の範囲内である。延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦、横それぞれ、1.05〜4倍、より好ましくは1.1〜3倍である。
【0034】
液晶表示装置は、TN型、STN型、TFT型、透過型、反射型、半透過型など様々な種類があり、またTNモード、垂直配向モード、OCBモード、IPSモード等様々なモードが開発されている。使用している液晶やモードの種類により要求される位相差フィルムの特性は様々であるが、本発明のエチレン−ノルボルネン共重合体は複屈折の発現性が良好なため、厚さの薄いフィルムで様々な特性の位相差フィルムを提供することが可能である。
【0035】
本発明で得られる好ましい光学用フィルムの一つとして、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)が下記式(1)の範囲にあって、
100nm<R(550)<800nm ・・・(1)
かつ厚さが30〜200μmである位相差フィルムが挙げられる。ここで位相差Rとは下記式(5)で定義されるものであり、フィルムに垂直方向に透過する光の位相の遅れを表す特性である。
R=(n−n)×d ・・・(5)
ここで、nはフィルム面内の遅相軸(最も屈折率が高い軸)の屈折率のことであり、nはフィルム面内でnと垂直方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。
【0036】
ここでR(550)は100〜600nmがより好ましい。また厚さは30〜150μmがより好ましく、さらに好ましくは30〜120μmである。かかる位相差フィルムは一軸延伸または二軸延伸により作成することが出来、1/4λ板、1/2λ板、λ板等に好適に用いられる。
【0037】
また別の好ましい位相差フィルムとして、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)および膜厚方向の位相差K(550)が下記式(2)、(3)
0nm<R(550)<100nm ・・・(2)
50nm<K(550)<400nm ・・・(3)
の範囲にあり、かつ膜厚が30〜200μmである位相差フィルムも挙げられる。
【0038】
上記式中、K(550)は波長550nmにおける膜厚方向の位相差値であり、下記式(4)によって定義されるものである。
K={(n+n)/2−n}×d ・・・(4)
上記式中、n、nはフィルム面内のx軸、y軸の、nはx軸およびy軸に垂直な厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。
【0039】
ここで位相差Rの定義は前述のものと同様である。R(550)は10〜80nmがより好ましく、さらに好ましくは30〜80nmである。またK(550)は100〜250nmがより好ましい。また厚みとしては30〜150μmがより好ましく、さらに好ましくは30〜120μmである。かかる位相差フィルムは二軸延伸により作成することが出来、フィルムの厚み方向に複屈折を有しており、特に垂直配向(VA)モードの光学補償に好適に用いられる。
【0040】
本発明の光学用フィルムは光学等方性フィルムとして用いることも出来る。その場合、前述の製膜により得られた未延伸のフィルムをそのまま用いても良いし、光学等方性が保たれる範囲内でさらに延伸しても良い。延伸することによりフィルムの靭性を向上させることが出来る。
【0041】
かかる際の延伸方法は特に限定されずロール間で延伸する縦一軸延伸、テンターを用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時ニ軸延伸、逐次ニ軸延伸など公知の方法を用いることが出来るが、光学等方性およびフィルムの靭性向上の点からは二軸延伸がもっとも好ましい。また連続で行うことが生産性の点で好ましいが、バッチ式で行ってもよく特に制限はない。延伸温度はエチレン−ノルボルネン共重合体のガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg−10℃)〜(Tg+40℃)の範囲内であり、好ましくはTg〜(Tg+30℃)、より好ましくは(Tg+10℃)〜(Tg+30℃)の範囲内である。延伸倍率は光学特性、目的の膜厚等により決められるが、縦、横それぞれ、1.05〜4倍、より好ましくは1.1〜3倍である。
【0042】
本発明の光学等方性フィルムの位相差値としては、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)、および厚み方向の位相差K(550)の絶対値がともに20nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。ここで位相差R、厚み方向の位相差Kの定義は前述のものと同様である。また膜厚は10〜300μmが好ましく、より好ましくは30〜200μmである。
【0043】
かかる光学用フィルムは、フィルム面内だけでなく厚み方向まで含めた三次元的な光学等方性が高く、例えば液晶表示装置における偏光板の保護フィルム、基板等への使用に好適に用いられる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
実施例、比較例で用いた原料は以下の通りである。
トルエン(溶媒)、ノルボルネンはすべて蒸留精製を行い充分に乾燥したものを用いた。
メタロセンについて、エチレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリドはAldrichより購入したものをそのまま用いた。イソプロピリデン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドは文献[J.A.Ewen et al, J.Am.Chem.Soc., 110,6255−6266(1988)]に従い合成した。
イオン性ホウ素化合物は、トリチルーテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを東ソー・アクゾ(株)より購入し、そのまま使用した。
トリイソブチルアルミニウム[(Bu)Al]は関東化学(株)より濃度1Mのn−ヘキサン溶液を購入し、そのまま使用した。
【0046】
また実施例、比較例で行った物性測定は以下の方法で行った。
(1)ガラス転移温度(Tg):TAInstruments製 2920型DSCを使用し、昇温速度は20℃/分で測定した。
(2)共重合体の分子量:濃度0.5g/dLのシクロヘキサン溶液での、30℃における還元粘度ηsp/c(dL/g)を測定した。
(3)共重合体の13C−NMR測定:日本電子製JNM−α400型のNMR装置を使用した。重オルトジクロロベンゼン溶媒に溶解し、温度100℃で測定した。化学シフトの基準としてテトラメチルシランを用いた。定量のため、150MHz 13C−NMRスペクトルを逆ゲーテッドデカップリングモードで測定した。
(4)フィルムの全光線透過率およびヘイズ値:日本電色工業(株)製濁度計NDH−2000型を用いて測定した。
(5)フィルムの面内位相差値Rおよび膜厚方向の位相差値K:日本分光(株)製分光エリプソメーターM150を使用し、光線波長550nmで測定した。面内位相差値Rは、入射光線がフィルム面に垂直な状態で測定したものである。厚み方向位相差値Kは、入射光線とフィルム面との角度を少しずつ変えそれぞれの角度での位相差値を測定し、公知の屈折率楕円体の式でカーブフィッティングすることにより三次元屈折率であるn、n、nを求め、K={(n+n)/2−n}×dに代入することにより求めた。なおその際、フィルムの平均屈折率が必要となるが、別にアッベ屈折計((株)アタゴ社製商品名「アッベ屈折計2−T」を用いて測定した。
(6)フィルムの膜厚:アンリツ社製の電子マイクロ膜厚計で測定した。
(7)フィルムの光弾性定数:日本分光(株)製分光エリプソメーターM150にて測定した。測定波長550nmにてフィルムに応力を与えたときの位相差値の変化から算出した。
【0047】
[参考例1:エチレン−ノルボルネン共重合体(X)の合成]
重合装置として、撹拌翼を備えエチレンライン、窒素ラインがつながった容量3Lのオートクレーブを使用し、メタロセンにエチレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリドを用い、以下のようにしてエチレンとノルボルネンとの共重合反応を行った。
【0048】
オートクレーブ内を窒素ガスで置換した後、容器内にトルエン1L、ノルボルネン200gを仕込んだ後、スカベンンジャーとしてトリイソブチルアルミニウム1.2mmolを加えた。これとは別に、150mgのエチレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリドを窒素雰囲気下トルエン20mLに溶解させたシュレンク中に、トリイソブチルアルミニウム18mmol、次いでトリチルーテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート360mgを添加して10分間室温で撹拌させた。この触媒溶液をオートクレーブに加え、続いて温度を40℃に上げた後、容器内をエチレンで置換し1.5kg/cmまで加圧して重合を開始した。1時間後エチレン圧力を1.0kg/cmまで低下させてさらに1時間重合した後、窒素雰囲気下に戻し微量のイソプロパノールを添加して反応を終了させた。該反応混合物を塩酸で酸性にした大量のメタノール中に放出して沈殿物を析出させ、濾別、アセトン、メタノールおよび水での洗浄を繰り返し、乾燥して樹脂粉末213gを得た。かくして得られたエチレン−ノルボルネン共重合体は、その分子量が還元粘度ηsp/c=0.95dL/gであった。またTgは145℃であった。13C−NMR測定では29.7ppmにあるNNダイアドのラセモ型はほとんど観察されず28.3ppmにあるメソ型のみであることが分かった。全ノルボルネン成分量に対するNNダイアドの存在比率(モル分率)は0.42であった。またエチレン成分とノルボルネン成分のモル比は(A)/(B)=49/51であった。
【0049】
[参考例2:エチレン−ノルボルネン共重合体(Y)の合成]
参考例1で用いたメタロセンをイソプロピリデン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに代えた他は実施例1と同様にして重合を行い、エチレン−ノルボルネン共重合体182gを得た。得られたエチレン−ノルボルネン共重合体は、その分子量が還元粘度ηsp/c=0.60dL/gであった。またTg=135℃であった。13C−NMR測定から [メソ型]/[ラセモ型]=0.04/0.50=0.08と求められ、全ノルボルネン成分量に対するNNダイアドの存在比率(モル分率)は0.38あった。またエチレン成分とノルボルネン成分のモル比は(A)/(B)=51/49であった。
【0050】
[実施例1]
参考例1および参考例2の合成を繰り返して溶融製膜の必要量を得た。参考例1の共重合体(X)と参考例2の共重合体(Y)を(X)/(Y)=75/25(重量比)の割合でドライブレンドして混合した後、2軸溶融押し出し機(日本製鋼所製TEX30SS−42BW−3V)を用いて、幅15cmのTダイから溶融押し出しし、冷却ローラーで連続的に巻き取ることにより製膜した。製膜条件としてシリンダー温度260℃、Tダイ温度270℃、冷却ローラー温度142℃、製膜速度2m/分で行ったが、フィルムは透明性、均質性に優れ表面性も良好であり、またダイ筋や異物もほとんど見られなかった。またロール巻取り時およびその後のハンドリングに問題はなく十分丈夫なフィルムであった。フィルム両端の幅2.5cmの部分を除いて、フィルムの厚みは平均170μmであった。Tgは141℃、全光線透過率は90.3%、ヘイズは0.6%であった。フィルムの還元粘度ηsp/c=0.80dL/gであった。またこのフィルムの光弾性定数を求めたところ−7.3×10−12Pa−1であった。フィルムの13C−NMR測定から [メソ型]/[ラセモ型]=3.2であった。またフィルムの位相差値R(550)、K(550)を求めた。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
実施例1で得られた未延伸フィルムを、フィルム端をチャックで固定するバッチ式の二軸延伸装置を用いて延伸を行った。横方向は自由として縦一軸延伸を表1の条件にて延伸を行い、延伸後のフィルム中央部分の厚み、位相差R(550)、K(550)を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
TICONA社製の商品名「TOPAS」はメタロセン触媒でエチレンとノルボルネンを共重合したシクロオレフィンコポリマーである。そのグレード6013の13C−NMR測定を行ったところ、[メソ型]/[ラセモ型]=0.36/0.04=9と求められ、全ノルボルネン成分量に対するNNダイアドの存在比率(モル分率)は0.40であった。またエチレン成分とノルボルネン成分のモル比は(A)/(B)=50/50であった。Tgは139℃であった。また同様の測定により、「TOPAS」の別グレード5013は [メソ型]/[ラセモ型]=0.05/0.41=0.12、全ノルボルネン成分量に対するNNダイアドの存在比率(モル分率)は0.46、またエチレン成分とノルボルネン成分のモル比は(A)/(B)=50/50であった。Tgは138℃であった。このグレード6013とグレード5013を重量比6013/5013=50/50でペレット同士をドライブレンドで混合し、製膜速度を1m/分に代えた他は実施例1と同様の条件で溶融製膜を行い、未延伸フィルムを得た。フィルムは透明性、均質性に優れ表面性も良好であり、またダイ筋や異物もほとんど見られなかった。またロール巻取り時およびその後のハンドリングに問題はなく十分丈夫なフィルムであった。フィルム両端の幅2.5cmの部分を除いて、厚みは平均280μmであった。Tgは137℃、全光線透過率は90.7%、ヘイズは0.5%であった。フィルムの還元粘度ηsp/c=0.72dL/gであった。またこのフィルムの光弾性定数を求めたところ−8.5×10−12Pa−1であった。フィルムの13C−NMR測定から [メソ型]/[ラセモ型]=1.0であった。またフィルムの位相差値R(550)、K(550)を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
実施例3で得られた未延伸フィルムを、実施例2で使用したバッチ式の二軸延伸装置により縦1.5倍、横1.8倍の逐次二軸延伸を行った。延伸後のフィルム中央部分の厚み、R(550)、K(550)を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が100℃から180℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が0.2≦[メソ型]/[ラセモ型]≦4の範囲にある、非晶性ポリオレフィンからなる光学用フィルム。
【請求項2】
非晶性ポリオレフィンが、下記(X)および(Y)を含む樹脂組成物であり、かつ(X)/(Y)=99/1〜1/99(重量比)であることを特徴とする請求項1に記載の光学用フィルム。
(X)i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が60℃から200℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が[メソ型]/[ラセモ型]>4である非晶性ポリオレフィン
(Y)i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が60℃から200℃の範囲にあって、iii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が[メソ型]/[ラセモ型]<0.2である非晶性ポリオレフィン
【請求項3】
溶融押し出し法により得られる請求項1または2に記載の光学用フィルム。
【請求項4】
位相差フィルムとして用いられ、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)が下記式(1)
100nm<R(550)<800nm ・・・(1)
の範囲にあり、かつ厚みが30〜200μmである請求項1〜3のいずれかに記載の光学用フィルム。
【請求項5】
位相差フィルムとして用いられ、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)および厚み方向の位相差K(550)が下記式(2)かつ(3)
0nm<R(550)<100nm ・・・(2)
50nm<K(550)<400nm ・・・(3)
(式中、K(550)は波長550nmにおける厚み方向の位相差値であり、下記式(4)
K={(n+n)/2−n}×d ・・・(4)
によって定義されるものであり、ここで、n、nはフィルム面内のx軸、y軸の、nはx軸およびy軸に垂直な厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。)
の範囲にあり、かつ厚さが30〜200μmである請求項1〜3のいずれかに記載の光学用フィルム。
【請求項6】
i)エチレン単位とノルボルネン単位からなる共重合体であり、ii)ガラス転移温度が100℃から180℃の範囲にあって、かつiii)ノルボルネン単位の2連鎖部位(ダイアド)の立体規則性に関してメソ型とラセモ型の存在比率が0.2≦[メソ型]/[ラセモ型] ≦4である、非晶性ポリオレフィンを位相差フィルムとして使用する方法。
【請求項7】
波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)、および厚み方向の位相差K(550)の絶対値がともに20nm以下であり、かつ厚みが10〜300μmである請求項1〜3のいずれかに記載の光学用フィルム。

【公開番号】特開2007−9010(P2007−9010A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189737(P2005−189737)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】