説明

光学的素子及び光学装置、並びに光学的素子の製造方法

【課題】密着力、耐久性に優れた光学的素子又は装置、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】光学膜6と基体5との間に配置された密着層4を有し、密着層4がNbOx(0<x<2.5)からなり、基体5と光学膜6とが密着層4によって一体化された光学的素子又は装置である。光学膜6が、異なる屈折率をもった複数の層1、2、3が積層された反射防止層であり、基体5と最下層3とが密着層4によって一体化され、最下層3がSnO2層であり、最下層3より大きな屈折率をもつ高屈折率層2が最下層3上に形成され、最下層3より小さな屈折率をもつ低屈折率層1が高屈折率層2上に形成されている。この光学的素子の製造方法は、NbOx層(0<x<2.5)を形成するように、酸化性雰囲気中で基体5上にNbOx層を密着層4として形成する工程と、この密着層4上に光学膜6を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的素子及び光学装置、並びに光学的素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子等の光学的素子、光学装置の需要が著しく伸びてきている。これらの光学的素子、光学装置において、光の透過率の向上、光の反射の防止、表示素子表面の保護等の目的で、プラスチック等の基体上に酸化ケイ素及び酸化スズ等からなる光学膜を設け、この光学膜の付いたプラスチック等の基体を表示素子上に貼り付けることが行われている。
【0003】
この光学膜は、主に外光の反射防止を目的として、光学的素子、光学装置の基体上に屈折率の異なる複数の層として設けられている。しかし、上記の光学的素子、光学装置に使用する基体、特にプラスチック基板と光学膜との間には、接着性、耐久性等の問題があった。そこで、液晶表示素子等の光学的素子、光学装置において、無機物である光学膜と有機物であるプラスチック基板との間の密着性を向上させるために、例えば、チタンやクロム等の薄膜を設けたり、一酸化珪素(SiO)や二酸化珪素(SiO2)等の酸化物の薄層を設けたりしていた。光学膜とプラスチック基板との間に設けられる薄膜は、接着層、密着層、中間層等と呼ばれている。
【0004】
「反射防止フィルム」と題する後記の特許文献1には、以下の記載がある。
【0005】
図8(A)は、特許文献1に記載の図1であり、密着層をもつ反射防止フィルムの構成例を示す図である。
【0006】
図8(A)は、特許文献1の一実施の形態の反射防止フィルムの積層構成を示すもので、基体41上に、密着性を向上させるための密着層43を介して、中屈折率層となる合金酸化物層45と、高屈折率層47と、低屈折率層49とからなる反射防止層40が形成され、その上に防汚層43が形成されている。
【0007】
上記構成において、基体41としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)等の脂環式ポリオレフィン樹脂、TAC(トリアセチルセルロース)等の可視光域で透明性の高いフィルムが用いられる。ただし基体41は有機物に限らず、無機物であってもよい。
【0008】
密着層43としては、Si、SiOx(但し、x=1〜2)、SiN、SiOxy(但し、x=1〜2、y=0.2〜0.6)、CrOx(但し、x=0.2〜1.5)およびZrOx(但し、x=1〜2)から選択された少なくとも一種の材料が用いられ、例えばACスパッタリング法によって成膜される。この層は、膜厚が約3〜5nmと光の波長に対し十分に薄く、光学特性には影響を与えない。
【0009】
基体41上に密着層43を介して形成される反射防止層40は反応性スパッタリング法により順次成膜される。最初に中屈折率層として成膜される合金酸化物層45としては、Siと、Sn、Zr、Ti、Ta、Sb、InまたはNbと、それらの酸化物を形成する酸素とからなる合金酸化物材料が用いられる。この合金酸化物層45の屈折率は、合金中の成分比により調整可能で、基体41の屈折率に応じて最適化される。
【0010】
合金酸化物層45の上に形成される高屈折率層7としては、TiO2、Nb2、SiN、Ta2、ITO、IZO、GZO、AZO等の材料が使用される。また、高屈折率層47の上に形成される低屈折率層49としては、SiO2、MgF2等の材料が使用される。
【0011】
さらに、低屈折率層49の上に形成される防汚層43としては、例えばパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物が用いられ、湿式で成膜される。
【0012】
上記構成とすることにより、中屈折率層の屈折率を基体41の屈折率に応じて容易に最適化することができ、反射防止性能に優れた3層構成のAR(Anti-Reflection)フィルムを容易に製造することができるとともに、耐久性及び防汚性に優れたARフィルムを得ることができる。
【0013】
「反射防止膜とその関連方法」と題する後記の特許文献2には、以下の記載がある。
【0014】
図8(B)は、特許文献2に記載の図1であり、密着層をもたない反射防止フィルムの構成例を示す図である。
【0015】
図8(B)は、特許文献*の実施形態にもとづく、基礎を成す53上に成膜されている。この基板53は、ガラスまたはプラスチックである。この薄膜51は、第一層55、第二層57、および第三層59を有する。第一層55は、基板53に隣接して成膜され、第二層57は、第一層55の上に成膜され、そして第三層59は、第二層57の上に成膜されている。この成膜は、スパッタ法、加熱蒸発法、またはその他の従来技術の方法で行われる。第一層55は、約1.7から約2.1までの屈折率のような、中位の屈折率を有する。第二層57は、約2.2から約2.6までの屈折率のような、高い屈折率を有する。第三層59は、約1.46から約1.52までの屈折率のような、低い屈折率を有する。
【0016】
第一層55は、窒化ケイ素、酸化亜鉛、インジウム酸化第一錫(ITO)、酸化ビスマス、酸化第二錫、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アンチモン、または酸化ガドリニウムなどの誘電体である。第二層57は、酸化チタン、酸化ニオブ、または酸化タンタルである。酸化チタンは約2.4以上の屈折率を有し酸化ニオブは、約2.28の屈折率を有し、酸化タンタルは、約2.2の屈折率を有する。第三層59は、酸化ケイ素またはフッ化マグネシウムである。
【0017】
薄膜の成膜のための装置については、例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5に報告されている。
【0018】
反応スパッタリングにおける金属(メタル)モード、酸化物モードについては、例えば、特許文献6に報告されている。
「薄膜密着評価方法」と題する後記の特許文献7には、以下の記載がある。
【0019】
特許文献7の発明は、プラスチック基板上に成膜された薄膜と基材との密着性を定量的に評価する薄膜密着性評価方法であって、ダイヤモンド圧子を薄膜にある荷重をかけながら押し込んで、押し込み深さ−荷重曲線特性を測定し、得られた押し込み深さ−荷重曲線特性における膜が弾性変形から塑性変形に変わる変位点を剥離点とすることを特徴とする。また、上記剥離点までの押し込み深さと荷重をかけ合わせたものを仕事量とし、剥離点までの積分値を薄膜と基板との密着強さの指標とする。
【0020】
また、特許文献7の発明に係る薄膜密着性評価方法では、具体的には、トライボインデンター装置を用いて、曲率半径の短い、先端の鋭い3角錐型のダイヤモンド圧子を薄膜に押し込むことにより、押し込み深さ−荷重曲線特性を測定する。
【0021】
さらに、特許文献7の発明に係る薄膜密着性評価方法では、プラスチック基板上に無機材料により成膜された薄膜と基材との密着性を定量的に評価する。特許文献7の発明では、垂直インデントを用いることにより、nmオーダー、例えば、膜厚が数10nm程度の極薄膜における基板と膜の密着力を定量的に再現性良く測定することができ、nmオーダーレベルの膜厚である薄膜の密着力を定量的に再現性良く評価することができる。
【0022】
【特許文献1】特開2003−94548号公報:図1、段落0014〜0015、段落0017〜0019
【特許文献2】特表2005−502077号公報(図1、段落0010〜0016)
【特許文献3】特開2003−114302号公報(図2、段落0022〜0024)
【特許文献4】特開2001−116921号公報(図2、段落0015〜0023)
【特許文献5】特開平10−48402号公報(図3〜図6、段落0031〜0048)
【特許文献6】特開平10−30177号公報(図1、段落0009〜0013)
【特許文献7】特開2006−284453号公報(図1、図2、段落0009〜0013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従来技術では、プラスチックフィルム等の基体(支持体)と反射防止層との間に密着層が設けられていた。しかし、可撓性のあるプラスチックフィルム等の基体の上に反射防止層を形成すると、反射防止層と基体との間に剥離を生じ易いという問題があった。例えば、基体としてPETフィルムを用い、この上にSi0x(1<x<2)を密着層として形成し、密着層の上に反射防止膜の最下層としてSnO2薄膜を成膜した反射防止フィルムでは、各種の試験後にクラックが発生してしまうという問題があった。
【0024】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、光学膜が密着層を介して基体に被着され、密着力、耐久性に優れた光学的素子及び光学装置、並びに光学的素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、液晶表示素子等の光学的素子、光学装置の基体上に光学膜が積層されている構造において、基体に接する層(密着層)に特定の材質からなる層を用いることによって、密着性、耐久性に優れた光学的素子、光学装置が得られることを見い出し、本発明に到達した。
【0026】
即ち、本発明は、光学膜と、基体と、前記光学膜と前記基体との間に配置された密着層とを有し、前記密着層がNbOx(但し、0<x<2.5)からなる光学的素子に係るものである。また、本発明は、前記光学的素子を有する光学装置に係るものである。
【0027】
また、本発明は、光学膜と、基体と、前記光学膜と前記基体との間に配置された密着層とを有する光学的素子の製造方法であって、前記密着層として、NbOx層(但し、0<x<2.5)を形成するように、酸化性雰囲気中で前記基体上に前記NbOx層を形成する工程と、前記密着層上に前記光学膜を形成する工程とを有する光学的素子の製造方法に係るものである。
【0028】
ここで、上記の「光学的素子置」、「光学装置」とは、光ビームの透過又は吸収、出射又は入射等が可能であり、光ビームによる情報を伝達、出力又は入力できる素子、装置を意味し、例えば、液晶表示素子、光学レンズ、光学プリズムを始めとする種々の素子、装置を包含するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の光学的素子及び光学装置によれば、前記密着層をNbOx(但し、0<x<2.5)層とするので、前記密着層により前記光学膜と前記基体との接着性が強まり、密着力、耐久性に優れた光学的素子及び光学装置を提供することができる。
【0030】
また、本発明の光学的素子の製造方法によれば、前記密着層として、NbOx層(但し、0<x<2.5)を形成するように、酸化性雰囲気中で前記基体上に前記NbOx層を形成する工程と、前記密着層上に前記光学膜を形成する工程を有するので、密着層により光学膜と基体との接着性が強まり、密着力、耐久性に優れた光学的素子を再現性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の光学的素子では、前記密着層の対向面が前記光学膜と前記基体とに接触して、前記基体と前記光学膜とが前記密着層によって一体化されている構成とするのがよい。前記密着層の一方の面が前記光学膜に、前記密着層の他方の面が前記基体にそれぞれ密着して、前記基体と前記光学膜とが前記密着層によって密着して一体化されているので、密着力、耐久性に優れた光学的素子を実現することができる。
【0032】
また、前記光学膜が、異なる屈折率をもった複数の層が積層されて構成された反射防止層であり、前記密着層の対向面が前記反射防止層の最下層と前記基体とに接触して、前記基体と前記最下層とが前記密着層によって一体化されている構成とするのがよい。異なる屈折率をもった複数の層を積層して構成された前記光学膜を反射防止層とし、前記密着層の一方の面が前記反射防止層の最下層と、前記密着層の他方の面が前記基体にそれぞれ密着して、前記基体と前記反射防止層とが前記密着層によって密着して一体化されているので、密着力、耐久性に優れた光学的素子を実現することができる。
【0033】
また、前記最下層がSnO2層である構成とするのがよい。前記最下層をSnO2層とするので、前記最下層と前記密着層との密着力が優れたものとなる。
【0034】
また、前記最下層より大きな屈折率をもつ高屈折率層が前記最下層上に形成され、前記最下層より小さな屈折率をもつ低屈折率層が前記高屈折率層上に形成された構成とするのがよい。このような構成によって、優れた性能をもった反射防止層を有する反射防止フィルムを実現することができる。
【0035】
また、前記低屈折率層が、SiO2層、MgF2層、AlF3層、CaF2層からなる群から選ばれ、前記高屈折率層が、Nb25層、TiO2層、ZrO2層、ZnO層、Ta25層、CeO2層、Y23層、La23層、HfO2層、MoO2層、WO3層からなる群から選ばれた構成とするのがよい。このような構成によって、各種の用途に好適に使用することができる反射防止層を有する反射防止フィルムを実現することができる。
【0036】
本発明の光学的素子の製造方法では、ターゲットとしてNbを使用して、反応性ガスとしてCO2を流した状態で、前記密着層を反応性スパッタリングにより形成する構成とするのがよい。Nbをターゲットとし、CO2を反応性ガスとして流した状態で、前記密着層を反応性スパッタリングにより形成するので、密着力、耐久性に優れた前記密着層を形成することができる。
【0037】
また、前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域において、前記密着層を形成する構成とするのがよい。前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域において、前記密着層を形成するので、Nb25の生成が抑制された状態で、0<x<2.5の所望の組成をもったNbOxを形成することができ、密着力が強くクラックの発生を防ぐことができる前記密着層を形成することができる。
【0038】
また、前記反応性ガスをArガスとともに流し、前記反応性ガスの流量比(%)をVとする時、前記反応性ガスの流量比が0<V≦5の状態で、前記密着層を形成する構成とするのがよい。前記反応性ガスの流量比が0<V≦5の状態とするので、前記反応性ガスの流量比の制御によって、Nb25の生成が抑制された状態で、0<x<2.5の所望の組成をもったNbOxを形成することができる。
【0039】
また、前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域と、前記ターゲットが酸化物の面を有する酸化物モードの領域との間の領域であって前記ターゲット面が前記金属モードと前記酸化物モードとの間を遷移する遷移モードの領域において、前記密着層を形成する構成とするのがよい。遷移モードの領域において前記密着層を形成するので、前記反応性ガスの流量比の制御によって、Nb25の生成が抑制された状態で、0<x<2.5の所望の組成をもったNbOxを形成することができる。
【0040】
また、前記反応性ガスをArガスとともに流し、前記反応性ガスの流量比(%)をVとする時、前記反応性ガスの流量比が5<V≦30の状態で、前記密着層を形成する構成とするのがよい。前記反応性ガスの流量比が5<V≦30の状態で、前記密着層を形成するので、前記反応性ガスの流量比の制御によって、Nb25の生成が抑制された状態で、0<x<2.5の所望の組成をもったNbOxを形成することができる。
【0041】
また、前記反応性ガスの流量比が5<V≦20の状態で、前記密着層を形成する構成とするのがよい。前記反応性ガスの流量比が5<V≦20の状態で、前記密着層を形成するので、前記反応性ガスの流量比の制御によって、Nb25の生成が抑制された状態で、Nb25を生成することなく、0<x<2.5の所望の組成をもったNbOxを形成することができる。
【0042】
また、前記光学膜を形成する工程において、前記光学膜を、異なる屈折率をもった複数の層が積層されて構成された反射防止層として形成し、前記密着層の対向面を前記反射防止層の最下層と前記基体とに接触させ、前記基体と前記最下層とを前記密着層によって一体化する構成とするのがよい。前記光学膜が、異なる屈折率をもった複数の層を積層して構成された反射防止層として形成され、前記密着層の一方の面が前記反射防止層の最下層と、前記密着層の他方の面が前記基体にそれぞれ密着して一体化され、前記基体と前記反射防止層とが前記密着層によって密着して一体化されているので、密着力、耐久性に優れた光学的素子を実現することができる。
【0043】
また、前記最下層をSnO2層によって形成する構成とするのがよい。前記最下層としてSnO2層を形成するので、前記最下層と前記密着層との密着力が優れたものとなる。
【0044】
また、ターゲットとしてSnを使用して、反応性ガスとしてCO2を流した状態で、前記最下層を反応性スパッタリングにより形成する構成とするのがよい。Snをターゲットとし、CO2を反応性ガスとして流した状態で、前記最下層を反応性スパッタリングにより形成するので、前記密着層に密着したSnO2層を形成することができる。
【0045】
また、前記反応性ガスをArガスとともに流し、前記反応性ガスの流量比(%)をVとする時、前記反応性ガスの流量比が0<V≦100の状態で、前記最下層を形成する構成とするのがよい。前記反応性ガスの流量比を0<V≦100の状態とするので、前記反応性ガスを任意の流量比の状態で、SnO2層を形成することができる。好ましくは、前記反応性ガスの流量比が30≦V≦100の状態で、前記最下層を形成する構成とするのがよい。前記反応性ガスの流量比を30≦V≦100の状態とするので、成膜速度が低下するが、SnOx(0<x<2)を生成することなく確実にSnO2層を形成することができる。
【0046】
また、前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域、前記ターゲットが酸化物の面を有する酸化物モードの領域、前記金属モードの領域と前記酸化物モードとの間の領域であって前記ターゲット面が前記金属モードと前記酸化物モードとの間を遷移する遷移モードの領域の何れかのモードの領域において、前記最下層を形成するのがよい。このような構成によって、任意のモードの領域で、SnO2層を形成することができる。好ましくは、前記酸化物モードの間の領域において、前記最下層が形成される構成とするのがよい。前記最下層を前記酸化物モードの間の領域において形成するので、成膜速度が低下するが、SnOx(0<x<2)を生成することなく確実にSnO2層を形成することができる。
【0047】
前記最下層より大きな屈折率をもつ高屈折率層を前記最下層上に形成する工程と、前記最下層より小さな屈折率をもつ低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する工程とを有する構成とするのがよい。このような構成によって、優れた性能をもった反射防止層を有する反射防止フィルムを製造することができる。
【0048】
また、前記低屈折率層を、SiO2、MgF2、AlF3、CaF2からなる群から選ばれた材料によって形成し、前記高屈折率層を、Nb25、TiO2、ZrO2、ZnO、Ta25、CeO2、Y23、La23、HfO2、MoO2、WO3からなる群から選ばれた材料によって形成する構成とするのがよい。このような構成によって、各種の用途に好適に使用することができる反射防止層を有する反射防止フィルムを製造することができる。
【0049】
以下、図面を参照しながら本発明による実施の形態について詳細に説明する。
【0050】
実施の形態
本発明の実施の形態に係る光学的素子、光学装置における反射防止フィルムは、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に積層されて形成された反射防止層が、密着層(中間層、下地層)を介し基体(支持体)に被着されて構成されている。この反射防止フィルムは、液晶表示装置等の光学的素子、光学装置における光の反射防止、表面の保護等に好適に使用される。
【0051】
図1は、本発明の実施の形態において、光学的素子、光学装置における反射防止フィルムの構成例を説明する断面図である。
【0052】
図1に示すように、反射防止層(光学膜)6は、低屈折率層であるSiO2層(屈折率(以下ではnで示す。)=1.46)1、高屈折率層であるNb25層(n=2.2)2、中屈折率層であるSnO2層(n=1.9)3の3層によって構成され、密着層であるNbOx層(n=2.3)4を介して大きな密着力で基体5に被着されている。
【0053】
図1に示すSiO2層1、Nb25層2、SnO2層3(以上が反射防止層6を構成する膜である。)、密着層4の各層は、反応ガスとしてO2又はCO2を使用して、反応性スパッタリングによって形成することがきる。反応ガスの流量比を制御することによって、密着層であるNbOx層4における組成xを制御することができる。
【0054】
反射防止層6の各層、NbOx層4は、図示しないスパッタ装置のスパッタ室内を、所定の圧力まで真空排気した後、Arガスと、O2又はCO2ガス等のガスを導入し、スパッタリング時のガス圧を所定の圧力として、O2又はCO2ガスを所定の値の体積%含むAr雰囲気中でスパッタリングすることにより、成膜される。スパッタ室内でターゲットを載置したカソード表面にO2又はCO2ガスの雰囲気を形成し、カソードに電圧を印加することにより、ターゲットに応じたスパッタ膜が、ターゲットに対向して配置された基体5上に順次、密着層(NbOx層)4、中屈折率層(SnO2層)3、高屈折率層(Nb25層)2、低屈折率層(SiO2層)1が成膜される。
【0055】
反射防止層6の各層、NbOx層4の厚さは、例えば、SiO2層1は80nm〜100nm、Nb25層2は35nm〜55nm、SnO2層は60nm〜80nm、NbOx層4は2nm〜10nmである。反射防止層6の各層、NbOx層4の膜厚はそれぞれ、透過率モニターによって、予め設計された透過率特性を満たしているか否かをモニターすることによって、或いは、水晶膜厚計によって膜圧をモニターすることによって、制御される。
【0056】
なお、反射防止層6の各層、NbOx層4はそれぞれ、蒸着法、イオンプレーティング法、CVD(化学的気相成長法)等によっても形成することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を具体的な実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
<スパッタリングにより密着層を形成する際の条件>
図2は、本発明の実施の形態において、反応性スパッタリングにより反射防止フィルムの密着層4を形成する際の反応性ガスに対するターゲット電圧を示す図である。
【0058】
図2は、ターゲットをNb(金属)とし、反応ガスをO2、CO2として、一定電力下でターゲット電圧(V)を反応性ガスの流量比(%)に対してプロットして得られたヒステレシス曲線である。
【0059】
反応ガスをCO2とする場合、CO2の流量比を増加していくと、ターゲット電圧は、CO2の流量比が0%から約5%までの間において略変化せず一定であり、約5%から約15%までの間において急激に増大し、流量比が約15%から30%までの間において緩やかに増大していき、流量比が30%から100%の間において線形的に緩やかに増大して変化していき、図2中の矢印A、Bで示される曲線ABを示し、CO2の流量比を100%から減少させていくと、曲線ABを逆に辿るようにこの曲線にほぼ類似してターゲット電圧が減少していく曲線、即ち、矢印B’A’で示される曲線B’A’によって示されるヒステレシス曲線を描く。CO2の流量比を増加、減少していく場合、ターゲット電圧が急激に増加、減少する点のCO2の流量比は略一致し、ヒステレシスは顕著ではない。
【0060】
CO2の流量比が0%から約5%までの領域は、ターゲットが金属面を有する状態にあり金属がスッパタされ基体に金属が堆積され基体上で酸素と反応して酸化物が形成されていく金属モードにあり、流量比が30%から100%の領域は、ターゲットが酸化物の面を有する状態にあり酸化物がスパッタされ基体に酸化物が堆積されていく酸化物モードにあり、流量比が5%から30%の領域は、金属モードの領域と酸化物モードの領域と間にある遷移モードの領域である。
【0061】
反応ガスをO2とする場合、O2の流量比を増加していくと、ターゲット電圧は、O2の流量比が0%から約20%までの間において緩やかに増大していき、約20%から約30%までの間において急激に増大し、流量比が約30%から100%の間において線形的に緩やかに減少して変化していき、図2中の矢印C、Dで示される曲線CDを示し、O2の流量比を100%から減少させていくと、100%から約20%までの間において緩やかに線形的に緩やかに増加して変化していき、約20%から約15%までの間において急激に減少し、約15%から0%までの間において緩やかに減少していき、矢印D’C’で示される曲線D’C’によって示されるヒステレシス曲線を描く。O2の流量比を増加、減少していく場合、ターゲット電圧が急激に増加、減少する点のO2の流量比は有意に異なり、ヒステレシスは顕著となる。
【0062】
2の流量比を0%から増大させていく場合、0%から約20%までの領域は金属モードにあり、流量比が約30%から100%の領域は酸化物モードにあり、流量比が約20%から約30%の領域は遷移モードにある。また、O2の流量比を100%から減少させていく場合、0%から約15%までの領域は金属モードにあり、流量比が約20%から100%の領域は酸化物モードにあり、流量比が約15%から約20%の領域は遷移モードにある。
【0063】
反応ガスとして、CO2又はO2を使用する場合、酸化物モードでは、密着層4として安定なNb25が形成されるが、密着層4と基体5との良好な密着力は得られない。
【0064】
反応ガスとして、CO2又はO2を使用する場合、金属モード又は遷移モードでは、密着層4として非晶質のNbOx(0<x<2.5)が形成され、所望の光透過性を有し、密着層4と基体5との密着力は良好となる。NbOx(0<x<2.5)中の酸素原子の割合が安定な組成(Nb2O5 )に比べて少ないために、酸素原子の欠乏したNbOxが活性化して反応性が高くなり、プラスチック等の基体に対する接着性が著しく向上するものと考えられる。x=0であるとNbOxはNbとなり、光学的特性がNbOxと異なったものとなってしまう。但し、スパッタ装置のスパッタ室内にH2O又はO2が残留ガスとして存在する場合、スパッタ室内に流すCO2又はO2の流量比をゼロとしても、x=0であるNbは生成されず、xが小さなNbOx が生成されることになる。
【0065】
密着層4としてのNbOx(0<x<2.5)を、ターゲットとしてNb(金属)を用いて、中性ガスとしてArガス、及び、反応性ガスとしてCO2又はO2を流して、金属モード又は遷移モードの領域で、反応性スパッタリングによって形成することができ、密着層4と基体5との密着性を優れたものとすることができる。
【0066】
なお、図1に示すSnO2層3、Nb25層2、SiO2層1の成膜についても、上述した密着層4としてのNbOx層の成膜と同様にして、中性ガスとしてArガス、及び、反応性ガスとしてCO2又はO2を流して、金属モード又は遷移モードの領域で、反応性スパッタリングによって形成することができる。SnO2層3、Nb25層2、SiO2層1は、酸化物モードの領域でも形成することもできるが、成膜速度が低くなる。
【0067】
<薄膜の密着力の評価>
図3は、本発明の実施の形態において、フィルム14上に形成されたITO膜(スズドープの酸化インジウム薄膜)12を例にとって、薄膜の密着力評価時における圧子の薄膜への圧入(押し込み)状態を説明する断面図である。
【0068】
図3(A)に示すように、ITO膜12とフィルム14との密着力の評価は、フィルム14上に形成されたITO膜12にダイヤモンド圧子10に圧入荷重(押し込み荷重)を、所定の最大荷重まで一定荷重ずつ増加させながら印加して、垂直に所定の一定の速度で圧入(押し込み)を行うことによって可能である。ダイヤモンド圧子10をITO膜12に圧入して行くと、ITO膜12とフィルム14との密着力が良好でない場合には、ある圧入荷重で、図3(B)に示すように、仕事量(F)11によってITO膜12に膜割れ16が生じ、更に、圧入深さを増加させていくと、図3(C)に示すように、膜剥れ18を生じる。なお、仕事量(F)11は、圧入深さと圧入荷重との積によって定義される。
【0069】
圧入荷重の増加に伴うダイヤモンド圧子10の圧入深さ(押し込み深さ)を計測することによって、薄膜の密着力評価のための、圧入深さと圧入荷重の関係を示す荷重−変位曲線を得ることができる。
【0070】
図4は、本発明の実施の形態において、薄膜の密着力評価のための、圧入深さと圧入荷重の関係を示す、荷重−変位曲線を説明する図である。この荷重−変位曲線は、次に説明するように、負荷曲線と除荷曲線によって示される。
【0071】
図4は、圧子に圧入荷重を所定の最大荷重まで一定荷重ずつ増加させながら印加して、垂直に所定の一定の速度で圧入させ圧入深さを測定して得られる、圧入荷重=0から最大荷重が印加された最大荷重点までの負荷曲線と、圧入荷重を最大荷重点で印加された最大荷重から圧入荷重=0まで圧入荷重を減少させながら得られる除荷曲線とを、A:薄膜の各層が理想的に密着して積層された理想的な高密着膜、B:薄膜の各層が理想的に密着されず積層された密着の悪い膜について、示している。
【0072】
図4に示すように、理想的な高密着膜Aで測定される負荷曲線では、密着の悪い膜Bで測定される負荷曲線に見られる、圧入荷重が略一定で圧入深さが増加していく略直線の領域(H1−E1、H2−E2)点E1見られない。この略直線の領域では、この領域の開始点で膜割れが生じるためその時点で印加されている圧入荷重のままで圧子が圧入されていき、膜の剥離が進行している膜剥離領域である。負荷曲線の点H1までは膜の剥離はなく密着領域であり、点H1は密着点である。点H1を過ぎた直後の点から点E1までの領域では、膜の剥離が進行している膜剥離領域である。点E1を過ぎた直後の点から点H2までは膜の剥離はなく密着領域であり、点H2は密着点である。点H2を過ぎた直後の点から点E2までの領域では、膜の剥離が進行している膜剥離領域である。点E2を過ぎた直後の点から最大荷重点までは膜の剥離はない密着領域である。
【0073】
ここでは、薄膜の密着力を、上述した密着領域の全てについての、圧入荷重と圧入深さの積の和によって、定義する。即ち、薄膜の密着力を、図3で説明した仕事量(F)11を用いて定義する。このような定義によれば、膜の持っている密着強さと圧子の圧入に対する粘り(抵抗)の双方を含んで、薄膜の密着力を総合的に評価することができる。
【0074】
<密着層の構成、成膜プロセスと密着力の評価>
図5は、本発明の実施の形態において、反射防止層6を構成するSnO2層3、密着層4の形成条件(スパッタリング条件)を説明する図である。
【0075】
SnO2層3の成膜プロセス条件では、ターゲットをSn(金属)として、雰囲気ガスとして、混合ガス(Ar+CO2)(条件A)、混合ガス(Ar+O2)(条件B)を用い、図5中(1)〜(9)にそれぞれ示す、ターゲット電圧、流量比(%)、膜厚、スパッタリングにおける電力密度(W/cm2)とした。
【0076】
密着層4の成膜プロセス条件では、ターゲットをSi(金属)、Sn(金属)、Nb(金属)として、雰囲気ガスとして、混合ガス(Ar+CO2)(条件A:図5中の(2)、(5)、(8))、混合ガス(Ar+O2)(条件B:図5中の(3)、(6)、(9))、Arガス(条件C:図5中の(1)、(4)、(7))を用い、図5に示す、ターゲット電圧、流量比(%)、膜厚、スパッタリングにおける電力密度(W/cm2)とした。
【0077】
以上の条件下で、基体(厚さ125μmのPETを使用した。)5上へNbOx層4を形成し、この上にSnO2層3を形成した。図5に明示されていない、反射防止フィルムを構成する、Nb25層2は45nm、SiO2層1は90nmである。Nb25層2、SiO2層1はそれぞれ、反応性スパッタリングにより形成した。Nb25層2の成膜プロセスの主な条件は、ターゲットはNb(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積40%含むArガス、ターゲット電圧は580V、電力密度は3.9W/cm2である。SiO2層1の成膜プロセスの主な条件は、ターゲットはSi(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積25%含むArガス、ターゲット電圧は300V、電力密度は3.9W/cm2である。
【0078】
以上のようにして、密着層4としてNbOx層4、SiOx層、SnOx層を有する反射防止フィルムを、それぞれ作製した。
【0079】
図6は、本発明の実施の形態において、密着層4の構成、成膜プロセスと密着力の評価結果を説明する図である。密着層4としてSiOx層、SnOx層、NbOx層を有する反射防止フィルムに対して、上述の方法を適用し密着力の評価を行った。図6は得られた密着力の評価結果を示す。
【0080】
図6に示す(1)〜(9)は、図5に示す(1)〜(9)に対応しており、SnO2層3の成膜プロセスにおける反応性ガス、密着層4の成膜プロセスにおけるターゲット、反応性ガスによって、密着層4と基体5との間における密着力(仕事量F(nm・μm)によって表す。)が種々変化していることを示している。なお、図6に示す(1)〜(9)の結果は、同じ最大荷重に対して得られた密着力を示す。
【0081】
図6中に示す点線は、反応ガスとしてO2を使用して、SnO2層3と密着層(SiOx層)4を形成した場合(図6中の(3)に示す。)の密着力のレベルを示し、これは密着層をSiOx層(1<x<2)とする従来技術のレベルに相当する。
【0082】
図6に示す結果から、密着層をSiOx層(1<x<2)又はNbOx層(0<x<2.5)とする場合には、反応性ガスとしてCO2を使用してSnO2層3を形成した方が、反応性ガスとしてO2を使用してSnO2層3を形成した場合よりも、密着力は大きくなっている。
【0083】
密着層をSiOx層(1<x<2)とする場合には、反応性ガスとしてO2又はCO2を使用して密着層を形成し、反応性ガスとしてCO2を使用してSnO2層3を形成した場合、より密着力は大きくなっている。
【0084】
密着層をSnOx層(1<x<2)とする場合には、反応性ガスとしてO2を使用して密着層を形成し,反応性ガスとしてCO2を使用してSnO2層3を形成した場合、より密着力は大きくなっている。
【0085】
図6中の(1)〜(3)と(4)〜(6)の比較から、密着層をSnOx層(1<x<2)とする場合の密着力と、密着層をSiOx層(1<x<2)とする場合の密着力との間に顕著な差は認められない。
【0086】
反応性ガスとしてO2を使用して密着層としてNbOx層(0<x<2.5)を形成し、反応性ガスとしてCO2を使用してSnO2層3を形成した場合、密着力は最も大きくなっている。反応性ガスとしてO2を使用して密着層としてNbOx層(0<x<2.5)を形成し、反応性ガスとしてO2を使用してSnO2層3を形成した場合、密着力は次に大きくなっている。
【0087】
なお、図6中の(1)、(4)、(7)において、反応性ガスを使用しないでArガスを用いて密着層4を形成した場合、反応性ガスとしてCO2を使用してSnO2層3を形成した方が、反応性ガスとしてO2を使用してSnO2層3を形成した場合よりも、密着力は大きくなっている。これは、スパッタ装置内の残留不純物(H2O、O2、CO2等)の影響によるものと考えられる。
【0088】
以上の結果から、密着層4と基体5との間における密着力は、NbOx層(0<x<2.5)を密着層として、これを反応性ガスとしてO2を使用して形成し、この密着層4の上に、反応性ガスとしてCO2を使用してSnO2層3を形成すれば、より大きな密着力が得られることが、明らかとなった。
【0089】
<反射防止フィルムの保存試験>
図7は、本発明の実施の形態において、反射防止フィルムの保存試験の結果を説明する図である。
【0090】
先ず、試験対象とした反射防止フィルムの層構成、及び、成膜条件について説明する。
反射防止フィルムの層構成は以下の通りである。
【0091】
SiO2層1/Nb25層2/SnO2層3/密着層4:NbOx/基体5
SiO2層1/Nb25層2/SnO2層3/密着層4:SiOx/基体5
SiO2層1/Nb25層2/SnO2層3/密着層4:なし/基体5
反射防止フィルムを構成する各層の膜厚は以下の通りである。
【0092】
基体(PET)5:125μm
NbOx:5nm
SiOx:5nm
SnO2層3:50nm、70nm、100nm、120nm、150nm
Nb25層2:45nm
SiO2層1:90nm
反射防止フィルムを構成する各層は反応性スパッタリングで成膜したが、成膜の主な条件は、以下の通りである。
【0093】
NbOx:ターゲットはNb(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積10%含むArガス、ターゲット電圧は330V、電力密度は0.39W/cm2である。
【0094】
SiOx:ターゲットはSi(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積15%含むArガス)、ターゲット電圧は315V、電力密度は0.39W/cm2ある。
【0095】
SnO2層3:ターゲットはSn(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積80%含むArガス、ターゲット電圧は450V、電力密度は3.9W/cm2である。
【0096】
Nb25層2:ターゲットはNb(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積20%含むArガス、ターゲット電圧は580V、電力密度は3.9W/cm2である。
【0097】
SiO2層1:ターゲットはSi(金属)、雰囲気ガスはCO2を体積25%含むArガス、ターゲット電圧は300V、電力密度は3.9W/cm2である。
【0098】
次に、試験方法の概要と試験の結果について説明する。
【0099】
図7(A)には、90℃に保持された恒温槽内に反射防止フィルムを100時間保存した後における、反射防止フィルムの状態を示している。図7(B)には、純水中で5分間、反射防止フィルムを煮沸した後における、反射防止フィルムの状態を示している。図7(A)、図7(B)では、試験結果を、反射防止フィルムに外観異常が認められなかった場合を丸印、反射防止フィルムの端部(周辺部)にクラックが外観的に認められた場合を△印、反射防止フィルムの端部(周辺部)に加えて中央部にもクラックが外観的に認められた場合を×印に、よって示している。
【0100】
図7(A)に示す試験結果から、SnO2層3が120nm以下である場合には、密着層が、NbOxの場合、SiOxの場合、ない場合の何れでも異常は認められない。図7(Bに示す試験結果から、SnO2層3が50nmを超える場合には、密着層が、NbOxの場合、SiOxの場合、ない場合の何れでも異常は認められ、SnO2層3が50nmの場合には、密着層がない場合に異常が認められるが、密着層が、NbOxの場合、SiOxの場合には、異常が認められない。
【0101】
以上の結果、反射防止層6の最下層であるSnO2層3が、50nm以下であれば、上記した2つの試験に対して、密着層が、NbOxの場合、SiOxの場合には、異常が認められないものと考えられる。しかし、密着層をNbOx層とする場合、CO2を反応ガスとする反応スパッタリングによってNbOx層を形成することによって、図6に示すように、密着層をSiOx層とする場合よりも大きな密着力をもたせることができるので、NbOx層はSiOx層よりも優れた性能を有する密着層として使用できることは、明らかである。
【0102】
以上説明したように、最下層としてSnO2層3を有する反射防止層を、密着層4を介してPETフィルム上に形成した反射防止フィルムにおいて、SiOx層を密着層とする従来の反射防止フィルムでは、図6(B)に示すように、SnO2層3の厚さが大きくなると、保存試験後にクラックが発生してしまうが、CO2を反応ガスとする反応スパッタリングによってNbOx層を密着層として形成することによって、密着力が強く反射防止フィルムのクラックの発生を防ぐことができる。
【0103】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、反射防止層を構成する薄膜その数、各層の材質、厚さ等は、反射防止フィルムの使用用途に合致するように、その性能を満たすように必要に応じて任意に適切に設定することができる。
【0104】
例えば、低屈折率層であるSiO2層1に代えて、MgF2(n=1.38〜1.4)、AlF3(n=1.38)、CaF2(n=1.23〜1.63)等を使用することができる。また、高屈折率層であるNb25層2に代えて、TiO2(n=2.33〜2.55)、ZrO2(n=2.05)、ZnO(n=2.1)、Ta25(n=2.16)、ITO(n=2.0)、CeO2(n=2.2)、Y23(n=1.87)、La23(n=1.95)、HfO2(n=1.95)、MoO2(n=約2.0)、WO3(n=1.85〜2.1)等を使用することができる。更に、中屈折率層であるSnO2層3に代えて、Al23(n=1.63)、Sb25(1.71)、MgO(n=1.74)、CeF3(n=1.63)、CeF3(n=1.63)、NdF3(n=1.61)等を使用することができる。
【0105】
また、基体(支持体)5として、PETに代えて、TAC(トリアセチルセルロース)、PEN(ポリエチレンテナフタレート)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリエステルフィルム、PA(ポリアミド)、PES(ポリエーテルサルフォン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポロプロピレン)、PE(ポリエチレン)等のプラスチックフィルム、シート、基板を使用することができる。
【0106】
また、反射防止層を2層以上の薄膜層によって形成することもできる。更に、反射防止フィルムを、基体上に形成された有機物層からなるハードコート層上に密着層を形成し、この密着層上に2層以上から構成される反射防止層を形成する構成とすることもできる。所定の大きさ以上の硬度をもち透明でありクラックを発生し難い材料として、反応性硬化樹脂、熱硬化型樹脂、放射線硬化型樹脂の少なくとも何れかを用い、例えば、シリコーン樹脂又はエポキシ樹脂等によって、ハードコート層を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明したように、本発明によれば、液晶表示装置等の光学的素子、光学装置における光の反射防止、表面の保護等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態において、反射防止フィルムの構成例を説明する断面図である。
【図2】同上、反応性スパッタリングにより反射防止フィルムの密着層を形成する際の反応性ガスに対するターゲット電圧を示す図である。
【図3】同上、薄膜の密着力評価時における圧子の薄膜への圧入状態を説明する断面図である。
【図4】同上、薄膜の密着力評価のための、荷重−変位曲線を説明する図である。
【図5】同上、反射防止層を構成するSnO2層、密着層の形成条件を説明する図である。
【図6】同上、密着層の構成、成膜プロセスと密着力の評価結果を説明する図である。
【図7】反射防止フィルムの保存試験の結果を説明する図である。
【図8】従来技術における、反射防止フィルムの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0109】
1…SiO2層、2…Nb25層、3…SnO2層、4…NbOx層、
5…基体(支持体)、6讃嘆反射防止層、10…ダイヤモンド圧子、11…仕事量(F)、12…ITO膜、14…フィルム、16膜割れ、18…膜剥れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学膜と、
基体と、
前記光学膜と前記基体との間に配置された密着層と
を有し、前記密着層がNbOx(但し、0<x<2.5)からなる光学的素子。
【請求項2】
前記密着層の対向面が前記光学膜と前記基体とに接触して、前記基体と前記光学膜とが前記密着層によって一体化されている、請求項1に記載の光学的素子。
【請求項3】
前記光学膜が、異なる屈折率をもった複数の層が積層されて構成された反射防止層であり、前記密着層の対向面が前記反射防止層の最下層と前記基体とに接触して、前記基体と前記最下層とが前記密着層によって一体化されている、請求項1に記載の光学的素子。
【請求項4】
前記最下層がSnO2層である、請求項3に記載の光学的素子。
【請求項5】
前記最下層より大きな屈折率をもつ高屈折率層が前記最下層上に形成され、前記最下層より小さな屈折率をもつ低屈折率層が前記高屈折率層上に形成された、請求項4に記載の光学的素子。
【請求項6】
前記低屈折率層が、SiO2層、MgF2層、AlF3層、CaF2層からなる群から選ばれ、前記高屈折率層が、Nb25層、TiO2層、ZrO2層、ZnO層、Ta25層、CeO2層、Y23層、La23層、HfO2層、MoO2層、WO3層からなる群から選ばれた、請求項5に記載の光学的素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の光学的素子を有する光学装置。
【請求項8】
光学膜と、基体と、前記光学膜と前記基体との間に配置された密着層とを有する光学的素子の製造方法であって、
前記密着層として、NbOx層(但し、0<x<2.5)を形成するように、酸化性 雰囲気中で前記基体上に前記NbOx層を形成する工程と、
前記密着層上に前記光学膜を形成する工程と
を有する光学的素子の製造方法。
【請求項9】
ターゲットとしてNbを使用して、反応性ガスとしてCO2を流した状態で、前記密着層を反応性スパッタリングにより形成する、請求項8に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項10】
前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域において、前記密着層を形成する、請求項9に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項11】
前記反応性ガスをArガスとともに流し、前記反応性ガスの流量比(%)をVとする時、前記反応性ガスの流量比が0<V≦5の状態で、前記密着層を形成する、請求項10に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項12】
前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域と、前記ターゲットが酸化物の面を有する酸化物モードの領域との間の領域であって前記ターゲット面が前記金属モードと前記酸化物モードとの間を遷移する遷移モードの領域において、前記密着層を形成する、請求項9に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項13】
前記反応性ガスをArガスとともに流し、前記反応性ガスの流量比(%)をVとする時、前記反応性ガスの流量比が5<V≦30の状態で、前記密着層を形成する、請求項12に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項14】
前記反応性ガスの流量比が5<V≦20の状態で、前記密着層を形成する、請求項12に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項15】
前記光学膜を形成する工程において、前記光学膜を、異なる屈折率をもった複数の層が積層されて構成された反射防止層として形成し、前記密着層の対向面を前記反射防止層の最下層と前記基体とに接触させて、前記基体と前記最下層とを前記密着層によって一体化する、請求項8に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項16】
前記最下層をSnO2層によって形成する、請求項15に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項17】
ターゲットとしてSnを使用して、反応性ガスとしてCO2を流した状態で、前記最下層を反応性スパッタリングにより形成する、請求項16に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項18】
前記反応性ガスをArガスとともに流し、前記反応性ガスの流量比(%)をVとする時、前記反応性ガスの流量比が0<V≦100の状態で、前記最下層を形成する、請求項17に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項19】
前記ターゲットが金属面を有する金属モードの領域、前記ターゲットが酸化物の面を有する酸化物モードの領域、前記金属モードの領域と前記酸化物モードとの間の領域であって前記ターゲット面が前記金属モードと前記酸化物モードとの間を遷移する遷移モードの領域の何れかのモードの領域において、前記最下層を形成する、請求項17に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項20】
前記最下層より大きな屈折率をもつ高屈折率層を前記最下層上に形成する工程と、前記最下層より小さな屈折率をもつ低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する工程とを有する、請求項16に記載の光学的素子の製造方法。
【請求項21】
前記低屈折率層を、SiO2、MgF2、AlF3、CaF2からなる群から選ばれた材料によって形成し、前記高屈折率層を、Nb25、TiO2、ZrO2、ZnO、Ta25、CeO2、Y23、La23、HfO2、MoO2、WO3からなる群から選ばれた材料によって形成する、請求項20に記載の光学的素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−164660(P2008−164660A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350891(P2006−350891)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】